説明

酸化物超電導線材

【課題】フレキシブル性に富み安定化テープが剥がれることがなく、酸化物超電導層の安定化を好適に図ること。
【解決手段】酸化物超電導層113の表面に導電性の第1安定化層114が成膜されたテープ状酸化物超電導体110と、第1安定化層114の表面に配設される導電性の第2安定化テープ120とを、ハンダ130を介して接合する。ハンダ130は、第1安定化層114の幅方向の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導層の表面に銀または銀合金等の第1安定化層が形成されたテープ状酸化物超電導体に、ハンダを介して安定化テープが接合された酸化物超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、その臨界温度(Tc)が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等への応用が期待されており、多くの研究結果が報告されている。
【0003】
酸化物超電導体は、テープ状金属基板の上に、イットリウム系酸化物超電導体等の酸化物超電導体の薄膜をコーティングすることによって作製される。
【0004】
この酸化物超電導体は、電気的な安全性を確保するため、表面には、酸化物超電導薄膜との界面を化学的に安定する銀等の低抵抗金属による安定化層が設けられている。
【0005】
酸化物超電導体の超電導特性が向上するにつれて、安定化材として必要な銀の厚さは厚くなるため、費用がかかる。このため、銀による安定化層を数μm以下の厚さに抑え、その上に銅を積層して安定化層として十分な厚さを確保する酸化物超電導体が知られている。
【0006】
銀による安定化層に銅を積層して酸化物超電導体を安定化させる方法として、特許文献1に示すように、安定化テープであるテープ状の金属銅(銅テープ)をハンダで貼り合わせる方法が知られている。
【0007】
この方法により製造される酸化物超電導体は、酸化物超電導層の表面に形成された銀による安定化層の全面に渡って接触したハンダを介して銅テープが貼り合わさる構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−048987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のように酸化物超電導層の表面の銀からなる安定化層と、銅テープ(安定化テープ)とを、安定化層の表面全体に接触したハンダを介して接合した酸化物超電導体では、酸化物超電導体の表裏面方向への局所的な曲げ加重が掛かると、ハンダが長手方向に延在する安定化層の幅方向の両端部から剥離し、酸化物超電導層の表面の安定化層から銅テープがハンダとともに剥がれる虞がある。
【0010】
特に、MOD(Metal Organic Decomposition)法により成膜されたYBaCuOからなる薄膜の超電導層(1〜2μm)を有するテープ状酸化物超電導体(150μm以下)は非常に薄い。このため、当該超電導体の線材自体をより曲げる事ができるが、より曲げる事ができるが故に、酸化物超電導体の表裏面方向への局所的な曲げ加重が大きくなるという課題が生ずる。
【0011】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、フレキシブル性に富み安定化テープが剥がれることがなく、酸化物超電導層の安定化を好適に図ることができる酸化物超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの態様は、基板上に複数の中間層と酸化物超電導層を順に形成し、該酸化物超電導層の表面に導電性の第1安定化層が成膜された酸化物超電導体と、前記第1安定化層の表面に配設される導電性の第2安定化テープとを、ハンダを介して接合した酸化物超電導線材において、前記ハンダは、前記第1安定化層の幅方向の両端部を除く長手方向の領域に亘って配置されている構成を採る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フレキシブル性に富み安定化テープが剥がれることがなく、酸化物超電導層の安定化を好適に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の構成を示す模式図
【図2】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材におけるハンダ配置領域を示す模式図
【図3】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の構成を示す模式図である。図1に示す酸化物超電導線材100では、テープ状酸化物超電導体110において酸化物超電導層113の表面に成膜された第1安定化層114と、第2安定化テープ120とが、ハンダ130を介して接合されている。
【0017】
テープ状酸化物超電導体110は、テープ状金属基板111の上に、中間層112、酸化物超電導層(以下、「超電導層」と称する)113、第1安定化層114を順に積層されることによって形成される。
【0018】
テープ状金属基板111は、ここでは、無配向金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のHv=150以上の非磁性の合金である。これらの系の合金は、圧延率90%以上の熱間圧延加工が施され、更にその後に再結晶温度以上で熱処理されることによって、集合組織となり良好な結晶配向性を示す。
【0019】
中間層112は、IBAD法によりテープ状金属基板111上に、GdZr(GZO)或いはイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)等を成膜した第1層と、第1層上にRF−Sputtering法によりCeOを蒸着して成膜される第2層とを有する。
【0020】
第1層は、テープ状金属基板111からの元素が上部に積層される超電導層113に拡散することにより超電導特性の劣化を引き起こすことを防止する拡散防止層として機能し、且つ、テープ状金属基板111上に二軸配向してなるセラミック層として機能する。
【0021】
第2層は、超電導層113との格子整合性を高め、第1層を構成する元素(Zrなど)拡散を抑制する。第2層は、耐酸性の薄膜である。具体的には、第2層は、CeO膜であったり、CeOにGdを所定量添加したCe−Gd−O膜であったり、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化膜であったりしてもよい。第2層は、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積法)、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法により成膜することができる。なお、CeO膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。この値を超えると、結晶系が変化し、この上に超電導層113であるYBCO超電導層を成膜した場合に、良好な配向性が得られない。
【0022】
なお、第2層は、結晶粒配向性が、その上層である超電導層113の結晶配向性と臨界電流値(Ic)に大きく影響を及ぼす。第2層は第1層上に、RTR式のRF−magnetronsputtering法により成膜される。また、RTR式のRF−magnetronsputtering法は、PLD法と同様に、ターゲットと作製した膜の組成ずれが少なく、精確な成膜が可能である一方、PLD法に比べ、メンテナンスコスト等が安価である。
【0023】
テープ状金属基板111上に成膜された中間層112上には超電導層113が成膜されている。
【0024】
超電導層113は、ReBaCu、ここでRe=Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr又はHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す。)の高温超伝導薄膜であり、イットリウム系酸化物超電導体(RE123)である。
【0025】
超電導層113は、MOD法、パルスレーザー蒸着法、スパッタ法またはCVD法のいずれかの方法で、中間層112上に成膜される。ここでは、超電導層113は、MOD法で成膜され、MOD法で用いる原料溶液は、Re、Ba、Cuを所定のモル比で含んだ有機酸塩または有機金属化合物と有機溶媒の混合溶液である。この原料溶液中のRe、Ba及びCuのモル比はRe:Ba:Cu=1:X:3としたときにX<2の範囲内のBaモル比とする。この場合、高いJc及びIc値を得るために、原料溶液中のBaモル比は1.0≦X≦1.8の範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは、原料溶液中のBaモル比は1.3≦X≦1.7の範囲である。このMOD原料としては、有機溶媒とトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチルサン酸塩、ネオデカン酸塩、イソノナン酸塩または三酢酸塩のいずれか1種以上を含む混合溶液からなるものを用いることが好ましい。この場合、有機溶媒とフッ素を含むY−TFA塩(トリフルオロ酢酸塩)、Ba−TFA塩及びCuのナフテン酸塩の混合溶液からなる原料溶液を用いることができる。ここでは、超電導層113は、中間層112上に成膜されたYBCO(YBaCu)膜としている。
【0026】
超電導層113上には、第1安定化層114が成膜されている。
【0027】
第1安定化層114は、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である。第1安定化層114は、超電導層113の直上に設けられている。
【0028】
第1安定化層114の直上の超電導層113は、他の金属と反応しやすい活性な材料により構成されるため、金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的に接触させると反応して性能低下を引き起こす。このため、第1安定化層114は、超電導層113の直上に形成することにより超電導層113の性能低下を防止する。また、第1安定化層114は、超電導層113に電流が流れているときに、常電導転移した場合のバイパス回路となる。これら機能を効果的に達成させるために、第1安定化層114は、極力厚く形成することが望ましいが、他方で、金または銀は高価な材料であるため、極力薄く形成したいとの要請がある。
【0029】
この要請に応えるため、第1安定化層114の上に、第2安定化テープ120を積層して、第1安定化層114を薄く形成しても、超電導層113が性能劣化しない構造となっている。
【0030】
第2安定化テープ120は、導電性を有するテープ状材であって、ここでは、銅等の抵抗の低い低抵抗金属テープである。なお、第2安定化テープ120は、真鍮、Ni、Ni−Cu合金、ステンレス鋼等の高抵抗の金属テープであってもよい。第2安定化テープ120がCuやNi或いはその合金であれば、ハンダ材料に溶け込みにくいため、酸化物超電導線材100としての性能劣化を防止できる。
【0031】
なお、第2安定化テープ120がNi−Cu合金等の高抵抗の金属テープである場合、酸化物超電導線材100自体を補強して強度を向上させることができるとともに、酸化物超電導線材100が交流に使用された際の損失を減少させることができる。このように第2安定化テープ120は、第1安定化層114とともに、超電導層113、つまり、酸化物超電導線材100としての機械的、化学的、電磁気的および熱的な安定性を確保する。
【0032】
第2安定化テープ120の厚さについて、酸化物超電導体が常電導転移した場合のバイパス回路となるような厚さであれば特に限定されないが、厚さは50μmから200μm程度が好ましい。本実施の形態では、第2安定化テープ120の片面に塗布されたハンダ(スズに微量のCu、銀等を添加したもの、融点230℃)ペースト(ハンダ130)を介して第1安定化層114に、第1安定化層114において長手方向に亘る中心領域で接合されている。
【0033】
ハンダ130は、第1安定化層114に、第1安定化層114の幅方向の両端から離間した位置に配置されている。具体的には、ハンダ130は、第1安定化層114の幅方向の両端部を除く領域(ここでは中心領域)に、長手方向に亘って配置されている。
【0034】
言い換えれば、ハンダ130は、テープ状酸化物超電導体110と第2安定化テープ120とを、双方の長手方向に延在する領域(中心領域)であり、且つ、テープ状酸化物超電導体110と第2安定化テープ120の両端部を除いた領域で接合している。ここでは、ハンダ130長手方向に延在する幅方向の中心は、第1安定化層114において長手方向に延在する幅方向の中心と一致或いは略一致している。ハンダ130は、超電導層113を流れる電流を、第1安定化層114を介して第2安定化テープ120に分流可能な横幅を有し、且つ、所定の曲げに耐える接合強度を有する。
【0035】
ハンダ130は、所定の曲げによってテープ状酸化物超電導体110、第2安定化テープ120の双方から剥離しない接触面積を有する。
【0036】
図2を用いてハンダ130の配置領域を説明する。図2に示すように、第1安定化層114の横幅(テープ状酸化物超電導体110或いは酸化物超電導線材100の横幅に相当)をW、ハンダ130の幅をAとすると、ハンダ130は、W/5≦A<Wを満たすように、第1安定化層114及び第2安定化テープ120の幅方向の両端部を除く長手方向の領域に亘って延在することが好ましい。この場合、第1安定化層114においてハンダ130が配置されていない領域Nを視点とすると、0<N≦W/5である。
【0037】
ハンダ130は、更に好ましくは、W×4/5≦A<Wを満たす幅Aにする。この場合、第1安定化層114においてハンダ130が配置されていない領域Nを視点とすると、0<N≦W/10である。
【0038】
例えば、第1安定化層114の横幅(テープ状酸化物超電導体110或いは酸化物超電導線材100の横幅)Wを10mmとした場合、ハンダ130が配置されていない領域Nは、上記条件を満たす領域として、第1安定化層114の端部(長手方向に延在する端)からハンダ130の端部(長手方向に延在する端)まで1mm以下(0<N≦1mm)にすることが好ましい。また、第1安定化層114の横幅Wを1mmとした場合、ハンダ130が配置されていない領域Nは、上記条件を満たす領域として、第1安定化層114の端部(長手方向に延在する端)からハンダ130の端部(長手方向に延在する端)まで1mm未満となる。
【0039】
また、所定の曲げ強度は、酸化物超電導線材100を所定の曲面(例えば、直径30mmφの棒状体の外周面)に巻き付けた際の曲げ負荷が掛かる状態で、第2安定化テープ140が第1安定化層114から剥離しない強度とする。ハンダ130は、厚さ約2μmの状態で第2安定化テープ120を第1安定化層114に接合している。尚、ハンダ130の厚さは特に限定されないが、ハンダ130の抵抗値は厚さに比例して高くなることから、20μm以下であることが好ましい。
【0040】
ここでは、ハンダ130は、予め第2安定化テープ120の片面にペーストで塗布され、第1安定化層114と第2安定化テープ120とが重なる状態で加熱・加圧されることによって両者を接合する。このように、ハンダ130は、予め第2安定化テープ120の片面に塗布すれば、ハンダ130を、超電導層113を有するテープ状酸化物超電導体110に設ける必要がない。つまり、ハンダ130を溶かすために、超電導層113を有するテープ状酸化物超電導体110を加熱する工程は、テープ状酸化物超電導体110に第2安定化テープ120を接合するときにのみで酸化物超電導線材100を製造できる。加えて、ハンダに対する濡れ性がさほど良くない金属表面であっても、フラックスを使わずに薄くハンダを伸ばすことができ、ハンダが厚すぎることによる機械的特性の悪化を防ぐことができる。
【0041】
テープ状酸化物超電導体110にハンダ130を介して第2安定化テープ120を接合して、テープ状の酸化物超電導線材100を製造する方法の一例を説明する。
【0042】
酸化物超電導線材100は、第2安定化テープ120のハンダメッキ面とテープ状酸化物超電導体110の銀コーティング層である第1安定化層114の表面とを向かい合わせにした状態で、予熱炉内に搬送する。この予熱炉内で、テープ状酸化物超電導体110と第2安定化テープ120は、ハンダ溶融温度以上(250℃以上)に加熱する。次いで、テープ状酸化物超電導体110と第2安定化テープ120を、周面で互いに摺接する図示しない一対の加熱・加圧ロールを通過させて加圧し、且つ、ハンダ溶融温度以下(ロール表面で160−220℃)以下に冷却して加圧下でハンダを凝固させる。なお、加圧下におけるハンダ凝固を効果的に実施するために、ハンダが凝固温度に下がるタイミングで、重なるテープ状酸化物超電導体110と第2安定化テープ120とが加熱・加圧ロール付近に来るように温度勾配と接合対象の速度とを調整している。
【0043】
加熱・加圧ロールは、互いに平行な軸を中心に回転し外周面同士が押圧し合う状態で摺動する互いの外周面間に積層体を引き込むことによって積層体に対して加熱・加圧する。ここでは加圧ロールが他方の加熱ロールを押圧するとともに、一方のロールを回転させることで他方のロールも回転する。
【0044】
加熱・加圧ロールは、予熱炉の出口近傍に配置されており、第2安定化テープ120及びテープ状酸化物超電導体110の積層体は予熱炉で加熱されて直ぐに加熱・加圧ロールよって加熱及び加圧される。なお、加熱・加圧ロールの材質としては、シリコーンゴム等の軟質材が望ましい。加熱・加圧ロールを金属等の硬い素材で形成してもよいが、製造される酸化物超電導線材100の超電導特性劣化を防ぐためには、積層鯛上での押しつけ圧(ロール圧)を100MPa以下とすることが望ましい。
【0045】
これにより、第2安定化テープ120と、テープ状酸化物超電導体110の第1安定化層114とが、ハンダ130によって、第1安定化層114の幅方向の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って接合され、酸化物超電導線材100が製造される。
【0046】
このとき、第2安定化テープ120を銅テープなどの低抵抗・高熱伝導性のテープとした場合には、第2安定化テープ120の熱伝導性が良いために、比較的広い温度条件下において貼り合わせが可能である。これに対して、第2安定化テープ120が、銅よりも高抵抗・低熱伝導性の金属、例えばステンレス鋼、Ni−Cr合金等からなる高抵抗・低熱伝導性のテープである場合、テープ状酸化物超電導体110との貼り合わせでは、第2安定化テープ120自体の熱伝導性が悪いために、予熱炉の温度を、銅テープの場合よりも高くする(例えば、260℃以上、好ましくは280℃〜300℃)必要がある。
【0047】
<変形例>
図3は、本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の一例を示す図である。図3に示す酸化物超電導線材100Aは、酸化物超電導線材100と同様に形成されており、YBCO(YBaCu)である超電導層113の表面に銀(Ag)である第1安定化層114が成膜されている。
【0048】
第1安定化層114には、第2安定化テープ120が、第1安定化層114の長手方向中心領域のみ配置されたハンダ130によって接合されている。
【0049】
図3に示すように、超電導層113上にAgである第1安定化層114を積層させる構成では、第1安定化層114では、幅方向で離間する両端部114aが丸みを帯びることによって、その厚みT1が中央部分の厚みT2よりも小さくなる場合がある。この場合、従来の構成のように第1安定化層114の表面全面にハンダを接触させて第2安定化テープ120を接合すると、酸化物超電導線材の表裏面方向へ掛かる曲げ加重によって、ハンダが第1安定化層の両端部から剥離する虞がある。これにより、第1安定化層114から第2安定化テープ120がハンダ130とともに剥がれる。
【0050】
これに対して、本実施の形態では、第2安定化テープ120と、第1安定化層114とを接合するハンダ130は、第1安定化層114の幅方向の両端部を除く中心領域に、長手方向に亘って配置されている。つまり、第2安定化テープ120は、第1安定化層114に対して、第1安定化層114において長手方向に延在するフラットな中央部分にのみ配設されたハンダ130を介して接合されている。これにより、酸化物超電導線材100Aに、当該酸化物超電導線材100Aの表裏面方向に曲げ加重が掛かっても、ハンダ130が第1安定化層114の両端部から剥離することがなく曲がる。よって、本実施の形態の酸化物超電導線材100Aは、フレキシブル性に富み、第2安定化テープ120が剥がれることがなく、酸化物超電導層の安定化を好適に図ることができる。
【0051】
このように本実施の形態によれば、酸化物超電導線材の第1安定化層と第2安定化テープとの間において、第1安定化層の幅方向の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダの配置領域を、酸化物超電導体の横幅(第1安定化層の横幅に相当)の1/5〜4/5倍の横幅としている。これにより、曲げ荷重がかかっても第2安定化テープ120が第1安定化層から剥がれないフレキシブル性を有し、酸化物超電導層の安定化を好適に図る。
【0052】
以下の表1では、横幅5mmからなる酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、銀(Ag)からなる第1安定化層114と、銅(Cu)からなる第2安定化テープ120との間に配置されるハンダの配置領域が異なる酸化物超電導線材の比較を示した。尚、剥離状態を確認するために、直径30mmφの棒状体の外周面に巻き付けた際の曲げ負荷が掛かる状態で、第2安定化テープ120と第1安定化層114との状態を確認した。
【表1】

【0053】
上記表1における比較例1は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、第1安定化層114の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅(酸化物超電導体110の横幅に相当)の1/10とした酸化物超電導線材である。この比較例1の構造では、曲げ荷重によって第1安定化層114からの第2安定化テープ120の剥離が見つかった。
【0054】
実施例1は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、第1安定化層114の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅の1/5とした酸化物超電導線材である。また、実施例2は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、ハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅の1/3とした酸化物超電導線材である。また、実施例3は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、第1安定化層114の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅の3/5とした酸化物超電導線材である。さらに、実施例4は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、第1安定化層114の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅の4/5とした酸化物超電導線材である。
【0055】
これら実施例1〜4の構造では、曲げ荷重によっても第1安定化層からの第2安定化テープの剥離は見られなかった。
【0056】
比較例2は、酸化物超電導線材100、100Aと同様の層構造において、第1安定化層114の両端部を除く中心領域に長手方向に亘って配置されるハンダ130の横幅を、第1安定化層114の横幅の5/5とした酸化物超電導線材である。すなわち、比較例2の酸化物超電導線材では、ハンダ130は第1安定化層114の全面に配置されている。
【0057】
この比較例2の構造では、曲げ荷重によって第1安定化層からの第2安定化テープの剥離が見つかった。
【0058】
なお、本発明に係る酸化物超電導線材は、テープ状の酸化物超電導体における第1安定化層に、ハンダを介して第2安定化層を形成する第2安定化テープ120を接合するものであれば、テープ状酸化物超電導体の構成はどのような構成であってもよい。
【0059】
例えばテープ状金属基板111を、2軸配向性を有する基板とし、この基板上に、AZrである第1層を含む中間層、超電導層を順次設けてテープ状酸化物超電導体としてもよい。
【0060】
なお、本発明に係る上記実施の形態の各構成要素については、本発明の精神を逸脱しない限り、種々の改変をなすことができ、この改変させたものに本発明が及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る酸化物超電導線材は、フレキシブル性に富み、安定化テープが剥がれることがなく酸化物超電導層の安定化を好適に図ることができる効果を有し、テープ状の酸化物超電導体に安定化テープを備える酸化物超電導線材として有用である。
【符号の説明】
【0062】
100 酸化物超電導線材
110 テープ状酸化物超電導体
111 テープ状金属基板
112 中間層
113 酸化物超電導層
114 第1安定化層
120 第2安定化テープ
130 ハンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の中間層と酸化物超電導層を順に形成し、該酸化物超電導層の表面に導電性の第1安定化層が成膜された酸化物超電導体と、前記第1安定化層の表面に配設される導電性の第2安定化テープとを、ハンダを介して接合した酸化物超電導線材において、
前記ハンダは、前記第1安定化層の幅方向の両端部を除く長手方向の領域に亘って配置されている、
酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記ハンダの配置領域の幅は、前記酸化物超電導層の幅の1/5〜4/5倍である、
請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記第1安定化層はAg又はAg合金により形成されている、
請求項1又は2記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記第2安定化テープは、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金又はNi合金により形成されている、
請求項1から3のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記酸化物超電導層は、MOD法により成膜されたReBaCuO(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、又はHoから選択された1種以上を示す。)からなる、
請求項1から4のいずれかに記載の酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−165625(P2011−165625A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30475(P2010−30475)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】