説明

酸化発色化合物、試薬組成物、および試験具

【課題】酸化発色化合物、試薬組成物及び試験具の提供。
【解決手段】酸化発色化合物又はその塩。


式中、R及びRは、炭素数1〜5のアルキルであり、R、R、R、R及びRは、官能基を有していてもよい水溶性高分子基又はHであり、R、R、R、R及びRは、官能基を有していてもよい水溶性高分子基であり、残りはHである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分測定のための酸化発色化合物、試薬組成物、および試験具に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、血液や尿をはじめとする体液中の生体成分の測定法の一つとして、酵素を用いた比色分析法が広く用いられている。これらの方法は、測定キット、自動分析機、ドライケミストリー試験具等に組み込まれ、日常的な臨床検査に数多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような測定法の一種として、測定対象物に特異的な酸化酵素を作用させて発生する過酸化水素をさらにペルオキシダーゼの作用で活性酸素とし、これで発色試薬を酸化して生成する色素を比色定量する方法がある。
【0004】
ここで使用される酵素としては、例えば、グルコースの測定にはグルコースオキシダーゼ、コレステロールの測定にはコレステロールオキシダーゼ、尿酸の測定ではウリカーゼ、ピルビン酸の測定にはピルベートオキシダーゼなどが用いられる。これらの酵素は、検体中の基質のみを特異的に酸化するために、色々な成分を含む検体からそれぞれの測定対象物のみを限定して定量することができる。
【0005】
また、発色試薬としては、活性酸素で酸化されることによってその吸収波長特性や吸収強度等が変化する色素または色素の前駆体(色原体)が用いられる。すなわち、活性酸素の量に応じて変化する色を測定することによって、測定対象物の量を定量することができる。これらの色素や色原体には、1分子だけで機能するものや、異なる2分子がカップリングして機能するものがある。
【0006】
上述の1分子で機能するものの例としては、ロイコ型色素等があげられる。化合物としては、ベンチジン、o−トリジン、o−ジアニシジン、2,2’−アミノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリノン−6−スルホン酸(ABTS)、ビス−(4−ジエチルアミノ)−2−スルホフェニルメタン(BSPM)、ビス[3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル]アミン(BCMA)、10−N−メチルカルバモイル−3,7−ジメチルアミノ−10H−フェノチアジン(MCDP)、3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジン(TMBZ)、ビス[4−(N−アルキル−N−スルホプロピル)−2,6−ジメチルフェニル]メタン(Bis−MAPS)、N,N、N’、N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’’−トリアミノトリフェニルメタン(TMP)などがあげられる。
【0007】
上述の2分子で機能するものとしては、カプラーとトリンダー試薬とが挙げられ、これらを酸化的にカップリングさせて発色させる方法がある。(例えば、非特許文献1および2参照)
前記カプラーとしては、4−アミノアンチピリン(4AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミンまたはこれらの誘導体などが用いられる。
【0008】
前記トリンダー試薬としては、フェノール誘導体またはアニリン誘導体などが用いられる。前記フェノール誘導体の例としては、フェノール、4−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4−ジブロモフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、または3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨードベンゾイル酸などが挙げられる。前記アニリン誘導体の例としては、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−3−アセチルエチレンジアミン(EMAE)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N−サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メチルアニリン(CEMB)、N,N−ビス−(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン(TODB)、N−エチル−N−(2−サクシニルアミノエチル)−3−メチルアニリン(ESET)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HSDA)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAOS)、またはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)などが挙げられる。
【0009】
実際の製品においては、1分子で機能する色素より2分子で機能する色素の方が保存安定性は良い傾向にある。また、2分子で機能する色素のうち、カプラーとしては前記のうち最も安定な4−アミノアンチピリン、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾンが多く用いられ、トリンダー試薬としては安定でかつ発色強度や波長の点でより有利なアニリン誘導体が多く用いられている。
【特許文献1】特開2004−223115号公報
【非特許文献1】Trinder P.,Ann.Clin.Biochem.,6,24,1969
【非特許文献2】Barham D. and Trinder P.,Analyst(London),97,142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、発色原理を用いた製品の価値を上げるためには、測定精度や感度をさらに向上させる、または経時的劣化を低減させる必要がある。また、より微量な成分の検出には、現存のものよりもさらに感度のよい検出系が必要となる。これらの目的において、より高性能の発色試薬の開発が望まれている。
【0011】
そこで、本発明は、従来に比して、優れた性能を有する酸化発色化合物、試薬組成物、および試験具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた結果、高い性能を有する新規なカプラー化合物、該化合物を含む試薬組成物、および該組成物を用いた試験具を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(13)で示される高い性能を有する酸化発色化合物またはこれらの塩、試薬組成物、および試験具を提供する。
【0014】
(1)下記化学式(1)で表される酸化発色化合物またはその塩;
【0015】
【化1】

【0016】
前記化学式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、官能基を有していてもよい水溶性高分子基または水素原子であり、この際、R、R、R、RおよびRの少なくとも一は、官能基を有していてもよい水溶性高分子基であり、残りは水素原子である。
【0017】
(2)前記官能基を有していてもよい水溶性高分子基は、下記化学式(2)〜(8)で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項1に記載の酸化発色化合物またはその塩;
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
前記化学式(2)〜(8)中、Xはそれぞれ独立してスペーサー基であり、Yはそれぞれ独立して水溶性高分子である。
【0026】
(3)前記化学式(1)中のRおよびRがメチル基である、上記(1)または(2)に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【0027】
(4)前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種の高分子である、上記(2)または(3)に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【0028】
(5)前記水溶性高分子の重量平均分子量が500〜100,000である、上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはその塩。
【0029】
(6)前記水溶性高分子が、重量平均分子量2,000〜20,000のポリエチレングリコールである、上記(5)に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【0030】
(7)前記スペーサー基が、炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である、上記(2)〜(6)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはその塩。
【0031】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の酸化発色化合物またはその塩と、
トリンダー試薬と、
測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、
ペルオキシダーゼと、
を含む試薬組成物。
【0032】
(9)前記トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンおよびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンのいずれか一方または両方である、上記(8)に記載の試薬組成物。
【0033】
(10)前記測定対象物がグルコースであり、
前記オキシダーゼがグルコースオキシダーゼである、上記(8)または(9)に記載の試薬組成物。
【0034】
(11)上記(8)〜(10)のいずれか1つに記載の試薬組成物が担体に保持されてなる試験具。
【0035】
(12)前記担体が高分子膜である、上記(11)に記載の試験具。
【0036】
(13)前記高分子膜がポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンからなる、上記(12)に記載の試験具。
【発明の効果】
【0037】
本発明の酸化発色化合物またはその塩(以下、単に「酸化発色化合物/塩」とも称する)は、その性能において、下記(ア)〜(ウ)の点で従来の試薬より優れている。特に担体に保持した試験具として使用する場合、その効果が最も顕著である。
【0038】
(ア)溶解性が高い
本発明の酸化発色化合物/塩は水溶性が高いので、特に担体に保持して使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる。本発明の酸化発色化合物/塩は溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬液が調製可能である。担体に担持して使用する場合、塗布液の濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。
【0039】
(イ)感度が高い
呈色反応によって生成した色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなる。それによって感度が高く安定した測定が可能となる。
【0040】
(ウ)経時安定性に優れる
本発明の酸化発色化合物/塩は、親水性が向上し分子量が高くなっている為、4−アミノアンチピリンにおいて観察される保管中の昇華による試薬の損失を押さえることができる。また、本化合物は試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ない為に、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定に十分な量が存在する限り測定値への影響が少ない。さらに、本発明の酸化発色化合物/塩中の親水性官能基は担体への吸着性を高め、担体内での化合物の安定性を向上させる。以上の点から、経時劣化を低減させ有効期間を延ばすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
<第1実施形態>
本発明の第1は、下記化学式(1)で表される酸化発色化合物またはその塩である。
【0043】
【化9】

【0044】
前記化学式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水溶性高分子基または水素原子であり、この際、R、R、R、RおよびRの少なくとも一は、官能基を有していてもよい水溶性高分子基であり、残りは水素原子である。
【0045】
前記化学式(1)中、RおよびRで用いられるアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の炭化水素基であって、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。この際、RおよびRは、同一であってもまたは異なるものであってもよいが、好ましくは同一である。炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、またはネオペンチル基が挙げられる。これらのうち、溶解性を考慮すると、メチル基、エチル基、プロピル基がより好ましく、特にRおよびRが双方ともメチル基であることが最も好ましい。
【0046】
前記化学式(1)において、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、官能基を有していてもよい水溶性高分子基または水素原子である。この際、R〜Rのうち少なくとも一は、官能基を有していてもよい水溶性高分子基であり、かつ残りのR〜Rは水素原子である。なお、R〜Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。例えば、R〜Rのうち二以上が官能基を有していてもよい水溶性高分子基である場合には、前記二以上の官能基を有していてもよい水溶性高分子基は、同一であっても異なるものであってもよい。
【0047】
前記官能基を有していてもよい水溶性高分子基は、下記化学式(2)〜(8)で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
【化14】

【0053】
【化15】

【0054】
【化16】

【0055】
前記化学式(2)〜(8)中、Xはそれぞれ独立してスペーサー基であり、Yはそれぞれ独立して水溶性高分子である。
【0056】
前記化学式(2)〜(8)中のXで表されるスペーサー基は、水溶性高分子鎖と酸化発色に寄与する化学骨格との間に存在する基である。前記スペーサー基は、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である。なお、前記スペーサー基は、その中に、アミド結合、イミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、およびスルホンアミド結合からなる群より選択される少なくとも1種の結合を含んでいてもよい。このスペーサー基中のアミド結合、イミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、およびスルホンアミド結合からなる群より選択される少なくとも1種の結合は、本発明の酸化発色化合物/塩を合成する過程で、酸化発色に寄与する化学骨格と後述の水溶性高分子鎖との結合部位となる場合もある。
【0057】
前記炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、またはドデシレン基などが好ましく挙げられる。より好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、またはペンチレン基である。
【0058】
前記化学式(2)〜(8)中のYで表される水溶性高分子は、水溶性を示す高分子であれば、特に制限されず、例えば、ヒドロキシル基、エーテル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エステル基、スルホン基、シアノ基、スルフィド基、またはジスルフィド基などの官能基を含む高分子である。前記化学式(1)中のR〜Rのうち、二以上が官能基を有していてもよい水溶性高分子基である場合には、前記二以上の官能基を有していてもよい水溶性高分子基に含まれる水溶性高分子は、同一であっても異なるものであってもよい。
【0059】
前記水溶性高分子の具体的な例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース(CEC)、酸化セルロース、アガロース、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、デンプン、グリコーゲン、アルギネート、ペクチン、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、またはコラーゲンが好ましく挙げられる。原料となる単量体からなる群より選択される少なくとも2種を共重合して得られる高分子も好ましく挙げられる。これらのうち、より好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種の高分子であり、さらに好ましくはポリエチレングリコールである。
【0060】
前記水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、発色性能の観点から、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜20,000、さらに好ましくは2,000〜5,000である。なお、本発明において、前記重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としてGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)法によって測定した値を採用するものとする。
【0061】
なお、本明細書において、例えば、「PEG2000−n−プロピルアミン」という表記は、高分子末端にn−プロピルアミノ基を有し、かつ重量平均分子量が2,000であるポリエチレングリコールであることを表す。
【0062】
すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩としては、下記化合物が好ましい。
・4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG5000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG12000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG20000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
また、本発明の酸化発色化合物としては、下記化合物がより好ましい。
・4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG5000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
・4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン
なお、本発明の酸化発色化合物/塩がカルボキシル基、スルホン酸基、またはアミノ基などのイオン性官能基を含む場合、これらの官能基は遊離の状態であっても、または塩を形成していてもよい。すなわち、R、R、R、RおよびRは、カルボキシル基、スルホン酸基、またはアミノ基の塩であってもよい。この際、塩を形成する相手(対イオン)は、無機化合物(無機イオン)でもまたは有機化合物(有機イオン)でもよい。対イオンの具体例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの無機塩基;フッ素、塩素、臭素などの無機酸;アンモニア、アルキルアミン類などの有機塩基;およびアミノ酸類等の両性化合物などが好ましく挙げられる。
【0063】
本発明の酸化発色化合物/塩の製造方法は、特に制限されないが、(I)4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物とを反応させて結合させる方法か、または(II)4−アミノアンチピリンのベンゼン環に重合性の置換基を導入した化合物と他の重合性単量体とを重合させる方法が好ましい。
【0064】
前記反応性置換基の例としては、アミノ基、イミド基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基などが好ましく挙げられる。
【0065】
本発明の酸化発色化合物/塩の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0066】
(I)4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物とを反応させて結合させる方法
[4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物の製造]
4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物の製造方法は、特に制限されないが、下記化学式(9);
【0067】
【化17】

【0068】
で表される化合物(以下、「化合物(9)」とも称する)と、下記化学式(10);
【0069】
【化18】

【0070】
で表される化合物(以下、「化合物(10)」とも称する)とを反応させる工程〔工程(A)〕を有することが好ましい。なお、前記化学式(9)において、Rは前記化学式(1)の定義と同様であるので、ここでは説明を省略する。また、前記化学式(10)中、R13〜R17は、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基であり、この際、R13、R14、R15、R16およびR17の少なくとも一は、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基であり、残りは水素原子である。
【0071】
前記化合物(9)と前記化合物(10)とを反応させる前記工程(A)において、化合物(9)および化合物(10)の混合比は、特に制限されない。好ましくは、化合物(9)および(10)をそれぞれ等モル混合するか、または化合物(9)を化合物(10)に対してやや多めに混合することが好ましい。後者の場合、化合物(9)は、化合物(10)1モルに対して、好ましくは0.8〜2モル、より好ましくは1〜1.2モル程度の割合で、混合することが好ましい。また、化合物(9)と化合物(10)との反応条件は、これらの反応が進行する条件であれば特に制限されないが、例えば、反応温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは80〜150℃の温度であり、反応時間は、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜1.5時間である。また、化合物(9)と化合物(10)との反応は、無溶媒下で行なってもよく、または溶媒中で行なってもよい。後者の場合に使用できる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒が挙げられる。これらのうち、THFが好ましい。化合物(9)と化合物(10)との反応後は、反応混合物を適当な溶媒中に加えることによって生成物を固化させることによって、原料化合物と分離回収することができる。なお、前記工程(A)で得られた反応生成物は、下記化学式(11)中のRが水素原子(H)である構造を有する。
【0072】
次に、前記工程(A)で得られた反応生成物を、アルキル化する[工程(B)]ことによって、下記化学式(11):
【0073】
【化19】

【0074】
で表される化合物(以下、「化合物(11)」とも称する)が得られる。
【0075】
前記化学式(11)において、RはおよびRは前記化学式(1)の定義と同様であり、R13〜R17は前記化学式(10)の定義と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0076】
前記工程(B)において、アルキル化は、ヨウ化メチル、ヨウ化エチルなどのハロゲン化アルキルをはじめとするアルキル化剤を用いて行なうことができる。ここで、アルキル化剤としては、上記ハロゲン化アルキルに限定されず、他の公知のアルキル化剤も同様にして使用できる。この反応は、適当な溶媒や塩基を用いてもよく、室温または加熱下で行なわれる。より具体的には、使用できる溶媒としては、前記工程(A)で列挙したのと同様の溶媒が使用でき、これらのうち、メタノール、THFが好ましい。また、塩基としては、トリエチルアミン(TEA)、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどが使用でき、これらのうち、TEAが好ましい。
【0077】
前記工程(B)において、アルキル化剤の使用量は、前記工程(A)で得られた反応生成物を十分アルキル化できる量であれば特に制限されないが、前記工程(A)で得られた反応生成物1モルに対して、好ましくは0.5〜5モル、より好ましくは1〜2モルである。反応条件もまた特に制限されないが、前記工程(A)で得られた反応生成物のアルキル化反応を、好ましくは40〜200℃、より好ましくは100〜140℃の温度で、好ましくは1〜24時間、より好ましくは10〜20時間、行なう。
【0078】
次に、前記工程(B)で得られた化合物(11)を出発物質として、ニトロソ化反応、当該ニトロソ化反応に引き続いて還元反応を行なう[工程(C)]。
【0079】
前記工程(C)において、ニトロソ化反応は、無溶媒下で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。より具体的には、ニトロソ化反応は、水、有機酸、または両者の混合物を溶媒として用い、塩酸、硝酸(好ましくは塩酸)などで、好ましくはpH1〜5、より好ましくはpH1〜2の酸性にまで調整した後、亜硝酸ナトリウムを加えることによって行なわれる。ここで、有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などが挙げられ、好ましくは酢酸である。また、亜硝酸ナトリウムの量は、特に制限されないが、通常、出発物質と等モルまたは過剰量で用いられ、好ましくは出発物の1.0〜4.0当量、より好ましくは1.1〜1.5当量で用いられる。
【0080】
前記工程(C)において、ニトロソ化反応の反応条件は、ニトロソ化反応が十分進行できる条件であれば特に制限されない。具体的には、反応温度は、好ましくは−20℃〜40℃、より好ましくは0〜25℃であり、反応時間は、好ましくは5秒〜40分、より好ましくは10秒〜15分である。このニトロソ化反応により得られた生成物は析出するため、容易に反応系から分離回収することができる。
【0081】
次に、前記工程(C)では、ニトロソ化反応に引き続いて還元反応を行なう。ここで、還元反応は、無溶媒下で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。還元反応で使用できる溶媒としては、ニトロソ化反応で得られたニトロソ化反応生成物が溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、クエン酸等の有機酸などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、還元剤としては、特に制限されないが、亜鉛等の金属や、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元性無機塩が用いられ、反応溶液は中性もしくは水酸化ナトリウムや塩酸の添加で塩基性または酸性に調整して用いられる。反応溶液のpHは、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜5に調節される。
【0082】
前記還元反応後、生成物は、適当な溶媒を加えて析出させて濾過、または適当な有機溶媒で抽出することによって回収される。ニトロソ化反応と還元反応は、ニトロソ化反応の生成物を取り出す事なく、ワンポットで連続して行なってもよい。回収された生成物は、再結晶やカラムクロマトグラフィー精製により、より純度の高いものが得られる場合がある。
【0083】
[水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物の製造]
水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物は、市販のものを用いてもよく、または合成したものを用いてもよい。合成する場合の合成方法は特に制限されないが、(i)水溶性高分子に対して、反応性置換基を有する化合物(以下、変性剤とも称する)を反応させ変性する方法、または(ii)反応性置換基を有する重合開始剤を用いて単量体を重合する方法が好ましい。
【0084】
水溶性高分子に導入される反応性置換基の例としては、例えば、アミノ基、イミド基、カルボキシル基、ハロゲンカルボニル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基、またはトシル基などが挙げられる。
【0085】
[4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と、水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物との反応]
上述の4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と上述の水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物との反応は、無溶媒下で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。使用できる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;THF、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒が挙げられる。こなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0086】
例えば、4−アミノアンチピリンにハロゲン基を導入した化合物と水溶性高分子にアミノ基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、水素化ホウ素ナトリウムなどの適当な還元剤を用いて、アミン結合を形成することができ、すなわち、前記化学式(2)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(2)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−ブチルアミノ))フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、PEG2000−n−プロピルアルデヒドとを、メタノール中で加熱還流した後、水素化ホウ素ナトリウムで処理することによって得られる。
【0087】
例えば、4−アミノアンチピリンにアミノ基を導入した化合物と水溶性高分子にカルボキシル基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、トリエチルアミンなどの適当な脱水縮合剤を用いて、アミド結合を形成することができる。すなわち、前記化学式(3)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(3)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、PEG2000−メチルカルボン酸−NHSとを、トリエチルアミン存在下、ジメチルホルムアミド中で反応させることによって得られる。
【0088】
例えば、4−アミノアンチピリンにチオール基を導入した化合物と水溶性高分子にイミド基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、適当な脱水縮合剤を用いて、スルフィド結合を形成することができる。すなわち、前記化学式(4)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(4)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−(PEG2000−マレイミド)チオフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−メルカプトフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、PEG2000−マレイミドとを、メタノール中で反応させることによって得られる。
【0089】
例えば、4−アミノアンチピリンにカルボキシル基を導入した化合物と水溶性高分子にヒドロキシル基を導入した高分子化合物との組合せ、または4−アミノアンチピリンにハロゲンカルボニル基を導入した化合物と水溶性高分子にヒドロキシル基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、適当な脱水縮合剤または脱ハロゲン化水素剤を用いて、エステル結合を形成することができ、すなわち、前記化学式(5)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(5)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−オキシカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、PEG2000とを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下で、メタノール中、室温にて反応させることによって得られる。
【0090】
例えば、4−アミノアンチピリンにカルボキシル基を導入した化合物と水溶性高分子にアミノ基を導入した高分子化合物との組合せ、または4−アミノアンチピリンにハロゲンカルボニル基を導入した化合物と水溶性高分子にアミノ基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドなどの適当な脱水縮合剤または脱ハロゲン化水素剤を用いて、アミド結合を形成することができ、すなわち、前記化学式(6)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(6)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンとPEG2000−n−プロピルアミンとを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、メタノール中、室温にて反応させることによって得られる。
【0091】
例えば、4−アミノアンチピリンにトシル基を導入した化合物と水溶性高分子にアミノ基を導入した高分子化合物との組合せの場合は、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドなどの適当な脱水縮合剤を用いて、スルホン酸アミド結合を形成することができ、すなわち、前記化学式(7)で表される結合を形成することができる。さらに具体的には、例えば、前記化学式(7)で表される基を有する化合物の一例である4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノスルホ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンは、4−アミノ−1−(4−スルホニルフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンと、PEG2000−n−プロピルアミンとを、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド存在下、メタノール中、室温にて反応させ、その反応生成物を酸によって脱保護することによって得られる。
【0092】
(II)4−アミノアンチピリンのベンゼン環に重合性の置換基を導入した化合物と他の重合性単量体とを重合させる方法
また、上記の製造方法とは別に、本発明の酸化発色化合物/塩は、4−アミノアンチピリンのベンゼン環に重合性の置換基を導入した化合物と他の重合性単量体とを重合させることによっても、製造することができる。前記重合性の置換基の例としては、例えば、ビニルカルボニルオキシ基、ビニルカルボンアミド基などが挙げられる。他の重合性単量体の例としては、例えば、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0093】
この際、4−アミノアンチピリンのベンゼン環に重合性の置換基を導入した化合物と他の重合性単量体とを重合させる方法は、特に制限されない。例えば、懸濁重合、乳化重合、または溶液重合などの従来公知の方法が適宜採用されうる。重合反応の条件も、重合反応が十分に進行する条件であれば特に制限されない。具体的には、重合温度は、好ましくは0〜120℃、より好ましくは20〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは1〜8時間である。例えば、4−アミノアンチピリンのベンゼン環にビニルカルボニルオキシ基を導入した化合物とアクリルアミドとを重合させることにより、前記化学式(8)で表される結合を有する本発明の酸化発色化合物/塩を合成することができる。
【0094】
本発明の酸化発色化合物/塩の製造方法においては、必要に応じて、4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物とを反応させる工程の前に適当な保護基を導入する工程と、4−アミノアンチピリンに反応性置換基を導入した化合物と水溶性高分子に反応性置換基を導入した高分子化合物とを反応させる工程の後に前記保護基を脱離する工程とをさらに含んでもよい。前記保護基の例としては、例えば、ヒドロキシル基に対しては、アセタール基、ケタール基、アシル基、またはエーテル基などが挙げられる。例えば、アミノ基に対しては、カーバメート基、アミド基などが挙げられる。例えば、カルボキシル基に対しては、メチルエステル基、エチルエステル基などが挙げられる。
【0095】
本発明の酸化発色化合物/塩を、上記反応工程によって生じた反応混合物から分離し精製する工程においては、抽出、沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフ、ゲル濾過など、従来公知の方法を用いることができる。
【0096】
本発明の酸化発色化合物/塩は水溶性が高いので、特に担体に保持して使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる。また、本発明の酸化発色化合物/塩が、呈色反応(比色分析法)に供された場合、それによって生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなる。これにより、感度が高く安定した測定が可能となる。さらに、本発明の酸化発色化合物/塩は溶解性が高いので、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。よって、本発明の酸化発色化合物/塩を含む試薬組成物を担体に担持して試験具として使用する場合、塗布液の濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。加えて、本発明の酸化発色化合物/塩は、親水性が向上し分子量が高くなっているため、保管中の昇華による試薬組成物の損失を抑えることができる。また、本発明の酸化発色化合物/塩は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ないため、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明の酸化発色化合物/塩中の親水性官能基は、担体への吸着性を高め、担体内での化合物の安定性を向上させる。よって、本発明の酸化発色化合物/塩を用いることにより、経時劣化を低減させ有効期間が延びた試薬組成物および試験具を得ることが可能となる。
【0097】
<第2実施形態>
本実施形態では、本発明の酸化発色化合物/塩の特に好ましい用途・使用に関する実施形態を説明する。すなわち、本発明の第2は、本発明の酸化発色化合物/塩と、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、を含む試薬組成物である。
【0098】
前記トリンダー試薬としては、特に制限はなく、従来公知の化合物をいずれも好ましく用いることができる。中でも、発色強度や波長の観点からN−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−3−アセチルエチレンジアミン、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N−サクシニルエチレンジアミン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン、N−(2−カルボキシエチル))−N−エチル−3−メチルアニリン、N,N−ビス(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(2−サクシニルアミノエチル)−3−メチルアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン、およびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。さらに、これらの中でも、発色強度や波長の観点から、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンおよびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンのいずれか一方または両方であることがさらに好ましい。
【0099】
本発明の試薬組成物に含まれる「測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼ」は、例えば、測定対象物がグルコースである場合、該オキシダーゼはグルコースオキシダーゼであり、測定対象物がコレステロールである場合、該オキシダーゼはコレステロールオキシダーゼであり、測定対象物が、測定対象物が尿酸である場合、該オキシダーゼはウリカーゼであり、測定対象物がピルビン酸である場合、該オキシダーゼはピルベートオキシダーゼである。これらは、測定対象物の基質のみを特異的に酸化するために、色々な成分を含む検体からそれぞれの測定対象物のみを限定して定量することができる。
【0100】
本発明の試薬組成物中の酸化発色化合物/塩とトリンダー試薬とのモル比は、1:1〜2:1であることが好ましく、1.3:1がより好ましい。酸化発色化合物/塩とトリンダー試薬とのモル比が1:1未満である場合、または酸化発色化合物/塩とトリンダー試薬とのモル比が2:1を超える場合、発色不良が生じることがある。
【0101】
本発明の試薬組成物中の、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量は、カプラー(すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩)7.5mmolに対して433〜2600kUであることが好ましく、866〜2600kUであることがより好ましい。測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量が、カプラー(すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩)7.5mmolに対して433kU未満である場合、発色不良が生じる場合がある。なお、本発明において、前記測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼの含有量は、4AA−TOOS法により測定した酵素のユニット数を採用するものとする。
【0102】
本発明の試薬組成物中のペルオキシダーゼの含有量は、カプラー(すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩)7.5mmolに対して166.5〜1665kUであることが好ましく、333〜999kUであることがより好ましい。ペルオキシダーゼの含有量が、カプラー(すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩)7.5mmolに対して166.5kU未満である場合、発色不良が生じる場合がある。なお、本発明において、前記ペルオキシダーゼの含有量は、ピロガロール法により測定した酵素のユニット数を採用するものとする。
【0103】
本発明の試薬組成物は、その性能を低下させない範囲で、他の成分を含むことができる。前記他の成分の具体的な例としては、例えば、pH緩衝剤、浸透圧調整剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、保護剤などが挙げられる。
【0104】
前記他の成分の含有量は、試薬組成物としての性能を低下させなければ、特に制限されないが、酸化発色化合物/塩、トリンダー試薬、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼ、およびペルオキシダーゼの総質量に対して好ましくは10〜30質量%、より好ましくは13〜20質量%である。
【0105】
本発明の試薬組成物の製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、前記の酸化発色化合物/塩、トリンダー試薬、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼ、およびペルオキシダーゼを順次に混合する方法、または前記の酸化発色化合物/塩、トリンダー試薬、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼ、およびペルオキシダーゼを一度に混合する方法などが挙げられる。
【0106】
本発明の酸化発色化合物/塩は、血液や尿をはじめとする体液中の生体成分の測定法の一種である、酵素を用いた比色分析法に使用されるカプラーとして好適に用いられる。すなわち、本発明の酸化発色化合物/塩は、前記トリンダー試薬と共に用いられ、測定対象物の酵素的酸化で生じる過酸化酸素を、さらにペルオキシダーゼ(POD)酸化して生成した活性酸素によって、本発明の酸化発色化合物/塩とトリンダー試薬とが酸化縮合し呈色する。そのため、本発明の酸化発色化合物/塩は、上記の通り、その化合物自体に特徴を有するものであるが、カプラーとして使用することが特に好ましい。
【0107】
上述の通り、本発明の酸化発色化合物/塩は水溶性が高いため、それを含む本発明の試薬組成物や、該試薬組成物を担体に保持して試験具として使用する場合には、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる点において、非常に優れたものである。また、本発明の試薬組成物を用いた呈色反応(比色分析法)において生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなり、感度が高く安定した測定が可能となる。さらには、本発明の酸化発色化合物/塩は、溶解性が高いため、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。よって、本発明の試薬組成物を担体に担持して試験具として使用する場合、塗布液の濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。加えて、本発明の酸化発色化合物/塩は親水性が向上し分子量が高くなっているため、保管中の昇華による試薬組成物の損失を抑えることができる。また、本発明の酸化発色化合物/塩は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ないために、化合物が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明の試薬組成物に含まれる本発明の酸化発色化合物/塩の親水性官能基は、担体への吸着性を高め、試験具として使用した場合でも、担体内での化合物の安定性を向上させる。よって、本発明の試薬組成物を用いることにより、経時劣化を低減させ有効期間が延びた試験具を得ることが可能となる。
【0108】
<第3実施形態>
前記の第2実施形態の通り、本発明の酸化発色化合物/塩は、トリンダー試薬と、測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、を組み合わせて、本発明の試薬組成物となる。
【0109】
本発明の試薬組成物は、液体、粉末または錠剤に保持した状態で分析用組成物として用いることができる。これら分析用組成物には、上記に加えて、pH緩衝剤、浸透圧調整剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、または保護剤などの成分を含んでいてもよい。なお、これらの成分の許容される含有量に関しては、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0110】
また、本発明の試薬組成物を液体に保持して用いる場合には、本発明の試薬組成物を含む液体と測定対象物とを混合して反応させた後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で透過吸光度を測定してもよい。また、本発明の試薬組成物は、担体に保持した状態で試験具として用いてもよい。
【0111】
このように、本発明の試薬組成物は、種々の物に保持して用いることができるが、本発明の試薬組成物は、担体に保持した状態で試験具として用いることが好ましい。
【0112】
すなわち、本発明の第3は、本発明の試薬組成物が、担体に保持されてなる試験具である。
【0113】
かようなドライケミストリーで用いられる試験用具のように、担体に保持した状態で用いる場合には、これらの試薬組成物を含む層の他、この機能を低下させない範囲において、計量層、展開層、濾過層、または保持層などを含んでいてもよい。担体に保持して用いる場合には、測定対象物を付与した後、色の変化を目視で判定する他、分光光度計で反射吸光度を測定してもよい。前記反射吸光度は、予め作製した検量線を用いて測定対象物の量に換算することができる。
【0114】
担体の素材としては、紙、布帛、または高分子膜などの多孔質物質を用いることができるが、特に発色性能の観点から、高分子膜が好ましい。
【0115】
高分子膜とは、高分子からなる水に不溶性の多孔質体である。前記高分子膜の材料となる高分子の例としては、例えば、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、セルロース、セルロースアセテート、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、またはポリビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、発色性能の観点から、ポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンがより好ましい。これら高分子は、相分離法、抽出法、化学処理法、延伸法、照射エッチング法、融着法、発泡法、または複合法など、従来公知の製膜方法を用いて製膜することができる。
【0116】
本発明の試薬組成物を担体に保持する方法は、特に制限されず、担体に適当な溶剤に溶解させて得られる試薬組成物溶液を担体にコーティングする方法、試薬組成物を含むマトリックス前駆体を成型して試験層を形成させる方法など、従来公知の方法が用いられる。
【0117】
コーティングは、工業的に使用される一般的なコーティング法を用いることができる。
【0118】
試薬組成物を担体に保持させた試験具では、一般的には、検体付与後検体の液体成分によってまず試薬組成物が溶解し、混合して反応が起こり、色素化合物が生成し、試験具の検体付与面の反対側にある読み取り面に移動し、その色調変化を測定する、というステップを経て定量が行なわれる。このため、試薬組成物の溶解性が高いことは、検体による均一な溶解、均一化、および迅速な反応に有利であるだけではなく、生成する色素も溶解性に優れるために読み取り面への移動がスムースであり、かつ均一性が高いというメリットもある。これらの特徴は、測定時間の短縮化、測定精度の向上、および測定値ばらつきの低減に寄与する。本発明の酸化発色化合物/塩は高い溶解性を有するため、それを含む試薬組成物を担体に保持されてなる試験具において、測定時間の短縮化、測定精度の向上、および測定値ばらつきの低減に寄与することが期待される。
【0119】
従来公知のカプラーである4−アミノアンチピリンを含む試薬を担体に保持させた試験具を使用した場合、試薬が経時的に劣化減少し測定値が上昇するという問題が生じうる。試薬の減少による測定値上昇の原因としては、酵素反応や呈色反応の阻害ではなく、化合物の濃度が高いほど他の試薬類の溶解や移動、または生成色素の流動性に何らかの障害を与えるのではないかと考えられる。
【0120】
本発明の酸化発色化合物/塩は、4−アミノアンチピリンと比較して量が増減しても測定値への影響が少なく、4−アミノアンチピリンでみられた問題を改善できる。4−アミノアンチピリンなどの従来のカプラーを含む試薬が、ある担体に保持されてなる試験具を使用した場合、濃度変化が測定値に影響するという問題がある。バルク担体にコートする際、むらが生じた場合には、それを切り抜いて用いる各試験具間に感度差が生じる、または保存中に劣化分解して量が変化した場合測定値に影響が出るということを示唆している。その原因は、酵素反応や呈色反応の阻害ではなく、化合物の濃度が高いほど他の試薬類の溶解や移動、または生成色素の流動性に何らかの障害を与えるのではないかと考えられる。
【0121】
これに対して、本発明の酸化発色化合物/塩は、4−アミノアンチピリンと比較して濃度の測定値への影響が少なく、これらの問題を改善できる。
【0122】
本発明の酸化発色化合物/塩とトリンダー試薬とを組み合わせて酸化発色させた場合には、4−アミノアンチピリンなどの従来のカプラーを用いた場合と比較して、吸光度が大きくなり、測定感度が向上されうる。例えば、本発明の4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン、4−アミノ−1−{4−(PEG5000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン、または4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンなどは、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)やN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)と組み合わせて発色させた場合、その検量線の傾きは改善され、測定感度が向上されうる。
【0123】
上述の通り、本発明の酸化発色化合物/塩は水溶性が高いため、それを含む試薬組成物を担体に保持してなる本発明の試験具を使用する場合、本発明の試薬組成物は、血液などの検体にすばやく溶解して均一化し、迅速に呈色反応が起こる点において、非常に優れたものである。また、本発明の酸化発色化合物/塩を用いた呈色反応(比色分析法)において生じた色素化合物についても、検体への溶解性や親和性が高く、担体内での展開性が良くなるので、担体表面での発色が鮮やかで均一性の高いものとなり、感度が高く安定した測定が可能となる。さらには、本発明の酸化発色化合物/塩は、溶解性が高いため、従来の試薬より高濃度の試薬組成物液(試薬液)が調製可能である。よって、該試薬組成物を担体に担持して試験具として使用する場合、塗布液の濃度を高くしてより多くの試薬を担体に保持させることが可能となる。加えて、本発明の酸化発色化合物/塩は親水性が向上し分子量が高くなっているため、保管中の昇華による試薬組成物の損失を抑えることができる。また、本発明の酸化発色化合物/塩は、試薬濃度の変化における呈色強度への影響が少ないため、本発明の酸化発色化合物/塩が経時的に劣化減少した場合でも測定値への影響が少ない。さらに、本発明の試薬組成物に含まれる本発明の酸化発色化合物/塩中の親水性官能基は担体への吸着性を高め、これを含む本発明の試験具は、担体内での化合物の安定性を向上させることができる。このように、本発明の試験具は、従来に比べ、経時劣化を低減させ有効期間を有意に延ばすことができる。
【実施例】
【0124】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称:CPH1)の合成
(a)1−(4−カルボキシフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロンの合成
フェニルヒドラジン−4−カルボン酸(関東化学株式会社製、41179−1A) 5.0gと、3−オキソブタン酸エチル(東京化成工業株式会社製、A0649) 5.9gとの混合物を120℃で1時間加熱攪拌した。放冷後析出した固体を濾集し、エタノールで洗浄後、乾燥して8.3gの目的物を得た。
【0126】
(b)1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステルの合成
前記(a)で合成した1−(4−カルボキシフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロン 3.0g、ヨウ化メチル(関東化学株式会社製、I0060)3.9g、およびメタノール100mlを高圧反応容器に入れ、120℃で18時間加熱攪拌した。反応混合物を蒸発乾固した後、クロロホルムに溶解し、水洗後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を蒸発乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9 体積比)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物2.2gを得た。
【0127】
(c)4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステルの合成
前記(b)で合成した1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステル 2.0gを0.4N塩酸25mlに溶解し、氷冷下で亜硝酸ナトリウム(関東化学株式会社製、37402−00)の40質量%水溶液1.2mlを2分間かけて加えた。引き続いて、室温で10分間攪拌し、析出した固体を濾集、洗浄、乾燥した。固体を10mlのメタノールに溶解し、2mlの4N塩酸、および亜鉛末(関東化学株式会社製、48005−00)1.1gを加え、45℃で10分間攪拌した。反応混合物をろ過後、濾液を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9 体積比)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物1.0gを得た。
【0128】
(d)4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンの合成
前記(c)で合成した4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンメチルエステル 0.37gをメタノール5mlに溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液0.25mlを加え、室温で30分間反応を行なった。反応混合物を強酸性陽イオン交換樹脂で処理後、濃縮乾固し、目的物0.25gを得た。得られた化合物のH−NMRは下記表1の通りであった。
【0129】
【表1】

【0130】
(e)4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CPH1)の合成
前記(d)で合成した4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン 200mgとPEG2000−n−プロピルアミン(日本油脂株式会社製、Sunbright(登録商標) MEPA−20H) 800mgをメタノール10mlに溶解し、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(国産化学株式会社製、DMT−MM)660mgを加え、室温で12時間反応を行なった。反応混合物を濃縮乾固し、メタノールを溶出液とするSephadex G−25ゲル濾過カラム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に供した。目的物を含む画分を濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物640mgを得た。
【0131】
(実施例2)
4−アミノ−1−{4−(PEG5000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称:CPH2)の合成
実施例1の(d)で合成した4−アミノ−1−(4−カルボキシフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン200mgとPEG5000−n−プロピルアミン(日本油脂株式会社製、Sunbright(登録商標) MEPA−50H)2.0gをメタノール10mlに溶解し、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(国産化学株式会社製、DMT−MM)660mgを加え、室温で12時間反応を行なった。反応混合物を濃縮乾固し、メタノールを溶出液とするSephadex G−25ゲル濾過カラム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に供した。目的物を含む画分を濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物1.45gを得た。
【0132】
(実施例3)
4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(略称:CPH3)の合成
(a)1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロンの合成
4−ニトロフェニルヒドラジン(東京化成工業株式会社製、N0230) 5.0gと、3−オキソブタン酸エチル(東京化成工業株式会社製、A0649) 4.7gとをエタノール50mlに溶解させ、1.5時間加熱還流した。反応混合物を蒸発乾固し、残渣をエーテルに懸濁し、固体を濾集、乾燥し6.0gの目的物を得た。
【0133】
(b)1−(4−ニトロフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンの合成
前記(a)で合成した1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−5−ピラゾロン 5.0g、ヨウ化メチル(関東化学株式会社製、I0060) 8.4g、およびメタノール100mlを高圧反応容器に入れ、120℃で15時間加熱攪拌した。反応混合物を蒸発乾固した後、メタノール/クロロホルム(1:9 体積比)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフによって精製し、目的物2.7gを得た。
【0134】
(c)4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロンの合成
前記(b)で合成した1−(4−ニトロフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン 1.7gを0.1N塩酸250mlに溶解し、氷冷下で亜硝酸ナトリウム(関東化学株式会社製、37402−00)の40質量%水溶液1.5mlを2分間かけて加えた。引き続いて、室温で1.5時間攪拌し、析出した固体を濾集、洗浄、乾燥した。固体を140mlのメタノールに溶解し、5mlの4N塩酸および亜鉛末(関東化学株式会社製、48005−00)1.0gを加え、室温で15分間攪拌した。反応混合物をろ過後、濾液を濃縮乾固し、メタノール/クロロホルム(1:9 体積比)を溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフに供した。主画分を濃縮乾固し、目的物1.1gを得た。得られた化合物のH−NMRは下記表2の通りであった。
【0135】
【表2】

【0136】
(d)4−アミノ−1−{4−(PEG2000−メチルカルボニルアミノ)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CPH3)の合成
前記(c)で合成した4−アミノ−1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン 200mgと、PEG2000−メチルカルボン酸−NHS(日本油脂株式会社製、Sunbright(登録商標) ME−020AS)800mgをジメチルホルムアミド5mlに溶解し、トリエチルアミン0.06mlを加え、5℃で30分間反応を行い、さらに室温で2時間反応を行なった。反応混合物を、メタノールを溶出液とするSephadex G−25ゲル濾過カラム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)に供した。目的物を含む画分を濃縮乾固し、デシケーターで乾燥を行い、目的物710mgを得た。
【0137】
(実施例4)
下記表3に記載の組成である塗工液を用い、キスコート法によりポリエーテルスルフォン膜(テルモ株式会社製、膜厚130μm)に塗工し、37℃で18時間乾燥を行なった。膜を1cm角に切り取り、試験片を得た。なお、塗工液は、粘度が40mPa・sとなるようにカプラーの添加量を調節した。
【0138】
【表3】

【0139】
血液を用いた評価は、試験片を反射分光光度計に固定した後、1μlの検体を試験膜上部より滴下し、連続的にまたは所定時間における反射吸光度を測定した。検体としては、ヘマトクリット値および血糖値を所定値に調整したヒト血液を用いた。
【0140】
図1は、カプラーとして4−アミノアンチピリン(4AA)、4−アミノ−1−{4−(PEG2000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CPH1)、および4−アミノ−1−{4−(PEG5000−n−プロピルアミノカルボニル)フェニル}−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(CPH2)を使用して上記の方法で作成した試験片に、ヘマトクリット値40、血糖値400mg/dlの血液を検体として付与した時の反射吸光度値の時間変化を示すグラフである。
【0141】
吸光度値に関して、比較対照である4AAが最高値に達するまで15秒以上かかるのに対し、CPH1およびCPH2は5秒で安定しており、本発明の化合物を用いることによって測定時間が短くなることが分かった。
【0142】
(実施例5)
実施例4で作製した試験片を用いて、ヘマトクリット値40、および種々のグルコース濃度を有する血液で測定した値から検量線を作成し、この検量線から得られた定量感度を図2のグラフに示した。反射吸光度値はそれぞれの試験片に対して最高となる時間の値を用いた。図2中、x軸に反射吸収度、y軸に血糖値をとっているため、傾きがなだらかなほど感度が高いことを意味する。
【0143】
図2から分かるように、本発明の酸化発色化合物であるCPH1およびCPH2は、トリンダー試薬としてMAOSと組み合わせて発色させた場合、その検量線の傾きは4AAを用いた時よりも改善され、本発明の酸化発色化合物を用いた場合に測定感度が有意に向上されうることが分かった。
【0144】
(実施例6)
実施例4で作製した試験片を、所定期間25℃で遮光密封保存した後、ヘマトクリット値40、血糖値100mg/dlである血液を検体として用いて反射吸光度値を測定し、保存期間と感度との関係をグラフにした。反射吸光度値はそれぞれの試験片に対して最高となる時間の値を用いた。
【0145】
比較対照である4AAが保存と共に感度が上昇するのに比べ、CPH1およびCPH2は経時的な感度の変動が小さく、本発明の酸化発色化合物は経時安定性に優れることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】カプラーとして4AA、実施例1の酸化発色化合物、および実施例2の酸化発色化合物を用いたときの反射吸光度値の時間変化を示すグラフである
【図2】カプラーとして4AA、実施例1の酸化発色化合物、および実施例2の酸化発色化合物を用いたときの定量感度を示すグラフである。
【図3】カプラーとして4AA、実施例1の酸化発色化合物、および実施例2の酸化発色化合物を用いたときの保存期間と感度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される酸化発色化合物またはその塩;
【化1】

前記化学式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、官能基を有していてもよい水溶性高分子基または水素原子であり、この際、R、R、R、RおよびRの少なくとも一は、官能基を有していてもよい水溶性高分子基であり、残りは水素原子である。
【請求項2】
前記官能基を有していてもよい水溶性高分子基は、下記化学式(2)〜(8)で表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項1に記載の酸化発色化合物またはその塩;
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

前記化学式(2)〜(8)中、Xはそれぞれ独立してスペーサー基であり、Yはそれぞれ独立して水溶性高分子である。
【請求項3】
前記化学式(1)中のRおよびRがメチル基である、請求項1または2に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリアクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種の高分子である、請求項2または3に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【請求項5】
前記水溶性高分子の重量平均分子量が500〜100,000である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、重量平均分子量2,000〜20,000のポリエチレングリコールである、請求項5に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【請求項7】
前記スペーサー基が、アミド結合、イミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエーテル結合、およびスルホンアミド結合からなる群より選択される少なくとも1種の結合を含んでいてもよい炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはその塩。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化発色化合物またはその塩と、
トリンダー試薬と、
測定対象物に対して選択的に作用するオキシダーゼと、
ペルオキシダーゼと、
を含む試薬組成物。
【請求項9】
前記トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンおよびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリンのいずれか一方または両方である、請求項8に記載の試薬組成物。
【請求項10】
前記測定対象物がグルコースであり、
前記オキシダーゼがグルコースオキシダーゼである、請求項8または9に記載の試薬組成物。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の試薬組成物が担体に保持されてなる試験具。
【請求項12】
前記担体が高分子膜である、請求項11に記載の試験具。
【請求項13】
前記高分子膜がポリスルフォンまたはポリエーテルスルフォンからなる、請求項12に記載の試験具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84375(P2009−84375A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254487(P2007−254487)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】