説明

酸化触媒、排ガス処理方法及び排ガス処理装置

【課題】ハロゲン等を含む含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合や、酸性ガスの共存下で有機ガスを酸化分解する場合であっても、触媒活性を長期にわたって維持しうる酸化触媒を提供する。
【解決手段】Mg及びFeの複合酸化物よりなり、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有するマグネシウムフェライトを含むことを特徴とする。マグネシウムフェライトは、酸性ガス(塩化水素やフッ化水素等のハロゲン化合物、硫黄酸化物や窒素酸化物等)と反応しない。このため、ハロゲン、硫黄や窒素を含有する含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合であっても、分解生成物としての酸性ガスとマグネシウムフェライトとの反応によりマグネシウムフェライトが分解してマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化触媒、排ガス処理方法及び排ガス処理装置に関する。本発明は、例えば、自動車や自動二輪車等の内燃機関、ボイラー等の各種燃焼装置やごみ焼却炉などから排出される排ガス中の有害な有機ガスを酸化分解する際に好適に利用することができる。また、本発明の酸化触媒は、薬品等の化学物質の生成反応を促進させる反応促進用触媒にも好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や自動車のエンジンから排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などが含まれており、この排ガスによる環境汚染の問題は都市部を中心に深刻化している。
【0003】
近年、大気汚染防止法に基づき、炭化水素や窒素酸化物の大幅な削減を目標とした新しい基準が、告示されている。これによれば、例えば、四輪車に比べて安価で、手軽な交通手段として広く利用されている自動二輪車は、車両全体に占める排出寄与度も高く、排ガス規制が大幅に強化される予定である。具体的には、2006〜2007年以降に販売される自動二輪車は、現行値比で、炭化水素については75〜85%の低減率、窒素酸化物については50%の低減率、一酸化炭素については85%の低減率という、厳しいレベルの目標値が要求される。
【0004】
こうした状況下、四輪車用の触媒を二輪車に使用することが種々検討されているが、白金等の高価な貴金属を触媒成分として用いる四輪車用触媒を二輪車に利用することは割高感が強い。このため、より安価な二輪車用排ガス浄化触媒の開発が切望されている。
【0005】
ここに、貴金属触媒と比べて安価でかつ酸化触媒としての利用が可能なものとして、無機化合物よりなる活性酸素発現物質が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この活性酸素発現物質は、活性酸素種を内包する12CaO・7Al2 3 化合物であり、カルシウムとアルミニウムとを12:14の原子当量比で混合した原料粉末を用いて、酸素分圧104 Pa以上、好ましくは105 Pa以上、水素分圧1Pa以下に厳密に制御された乾燥酸化雰囲気で、焼成温度1200℃以上、好ましくは1300℃の高温度の条件下で固相反応させることにより製造される。
【0007】
このような活性酸素発現物質については研究例が種々報告されているが、さらに実用価値の高い新しい活性酸素発現物質の開発が強く要請されていた。
【0008】
そこで、本発明者等は、新規な活性酸素発現物質の開発を目的として鋭意研究を重ねた結果、活性酸素であるスーパーオキサイドアニオン(O2 - )を構造中に内包した、A2 2 5 (A:アルカリ又はアルカリ土類元素、B:遷移元素)の組成式を有する無機化合物が、高い活性酸素発現能力を有して酸化触媒として有用であることを見出し、さらに研究を重ねて先に発明している(特許文献2参照)。
【0009】
この活性酸素発現物質として、具体的にはCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトが挙げられており、これはCaCO3 とFe2 3 とを2:1のモル比で混合した原料粉末を酸素雰囲気で800℃以上に加熱することにより製造される。
【特許文献1】特開2002−3218号公報
【特許文献2】特開2005−296880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようなCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトは有機ガスに対し高い触媒活性を示し、酸化触媒としての利用が大きく期待できる。
【0011】
しかし、例えばフロン、ハロンやダイオキシン等の、ハロゲンを含む含ハロゲン有機ガスを酸化分解するためにカルシウムフェライトを用いた場合、以下に示すような問題のあることが本発明者により明らかとなった。
【0012】
すなわち、カルシウムフェライトは、反応開始時においては含ハロゲン有機ガスの酸化に対して高い触媒活性を示すが、反応開始から例えば1時間程度経過した後においては含ハロゲン有機ガスの酸化に対する触媒活性が大きく低下することが、本発明者により明らかとなった。
【0013】
このように、ハロゲンを含む含ハロゲン有機ガスの酸化に対して、カルシウムフェライトの触媒活性が時間の経過により低下するのは、カルシウムフェライトによる含ハロゲン有機ガスの酸化分解により、塩化水素、フッ化水素や臭化水素等の酸性ガスとしてのハロゲンガスが生成し、その分解生成物たる酸性ガスがカルシウムフェライトと容易に反応して、カルシウムフェライトを分解させてしまうためである。例えば、カルシウムフェライトにより含ハロゲン有機ガスが酸化分解されれば、分解生成物としての塩化水素が生成し、この場合は下記(1)式の反応により、カルシウムフェライトと塩化水素とが反応して、塩化カルシウム、酸化鉄及び水が生成される。
Ca2 Fe2 5 +4HCl→2CaCl2 +Fe2 3 +2H2 O …(1)
【0014】
ここに、カルシウムフェライトにより酸化分解されることで酸性ガスを分解生成物として生成するような有機ガスにおいても、上述した含ハロゲン有機ガスと同様の問題が発生すると考えられる。すなわち、ハロゲンの代わりに硫黄や窒素を含む有機ガスがカルシウムフェライトにより酸化分解されれば、SOxやNOxの酸性ガスが分解生成物として生成されるが、その分解生成物たるSOxやNOxの酸性ガスがカルシウムフェライトと容易に反応して、カルシウムフェライトを分解させてしまう。このため、硫黄や窒素を含む有機ガスをカルシウムフェライトで酸化分解する場合も、含ハロゲン有機ガスをカルシウムフェライトで酸化分解する場合と同様に、カルシウムフェライトの触媒活性低下の問題が発生すると考えられる。
【0015】
また、ハロゲン、硫黄や窒素を含まない、炭化水素等の有機ガスを酸化分解する場合であっても、SOxやNOx等の酸性ガスが共存する下で炭化水素等の有機ガスをカルシウムフェライトで酸化分解すれば、酸性ガスによるカルシウムフェライトの触媒活性低下の問題が同様に発生すると考えられる。
【0016】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン等を含む含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合や、酸性ガスの共存下で有機ガスを酸化分解する場合であっても、触媒活性を長期にわたって維持しうる酸化触媒を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の酸化触媒は、Mg及びFeの複合酸化物よりなり、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有するマグネシウムフェライトを含むことを特徴とするものである。
【0018】
この酸化触媒では、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトが、カルシウムフェライトと同等の高い触媒活性(酸化分解活性)を示す。
【0019】
また、カルシウムフェライトは、触媒活性の発現する温度域において、酸性ガス(塩化水素やフッ化水素等のハロゲン化合物、硫黄酸化物や窒素酸化物等)と容易に反応して、分解してしまう。その点、マグネシウムフェライトは、触媒活性の発現する温度域においても、酸性ガス(塩化水素やフッ化水素等のハロゲン化合物、硫黄酸化物や窒素酸化物等)と反応しない。これは、カルシウムフェライトの構成元素たるカルシウムが酸性ガスと容易に反応するのに対し、マグネシウムフェライトの構成元素たるマグネシウムが酸性ガスと反応しないからである。
【0020】
このため、本発明の酸化触媒により、ハロゲン、硫黄や窒素を含有する含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合であっても、分解生成物としての酸性ガスとマグネシウムフェライトとの反応によりマグネシウムフェライトが分解してマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことはない。したがって、マグネシウムフェライトの触媒活性を長期にわたって維持することができ、含ハロゲン等有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【0021】
また同様に、SOxやNOxの酸性ガスの共存下で、含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解する場合であっても、共存する酸性ガスによりマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことがない。したがって、酸性ガスの共存下においても、マグネシウムフェライトの触媒活性を長期にわたって維持することができ、有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【0022】
本発明の排ガス処理方法は、ハロゲン、硫黄及び窒素の少なくとも一種を含有する含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス中又は該含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガス及び酸性ガスを含む排ガス中にて、請求項1記載の酸化触媒により、該含ハロゲン等有機ガス又は該有機ガスを酸化分解する触媒工程を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
ここに、前記含ハロゲン等有機ガスとは、ハロゲン、硫黄及び窒素の少なくとも一種を含有する有機ガス(ガス状有機化合物)のことをいう。この含ハロゲン等有機ガスには、例えば、ハロン、フロン、PCBやダイオキシン等の、いわゆる含ハロゲン有機ガスの他に、硫黄を含有するメチルメルカプタンや窒素を含有するピリジン、アニリンやアゾ染料等が含まれる。
【0024】
また、前記酸性ガスには、例えば、塩化水素や臭化水素等のハロゲン化合物、硫黄酸化物や窒素酸化物が含まれる。
【0025】
この排ガス処理方法では、触媒工程で、含ハロゲン等有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解するか、あるいは酸性ガスの共存下で含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解する。このため、含ハロゲン等有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたり、酸性ガスの共存下で有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたりすることが可能となる。
【0026】
本発明の排ガス処理装置は、ハロゲン、硫黄及び窒素の少なくとも一種を含有する含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス又は該含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガス及び酸性ガスを含む排ガスが導入され、請求項1記載の酸化触媒が設置された酸化処理部と、前記酸化処理部よりも排ガス下流側に配設されて該酸化処理部からの排ガスが導入され、該排ガス中に含まれる酸性ガスを除去する酸性ガス除去部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0027】
この排ガス処理装置では、酸化処理部で、含ハロゲン等有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解するか、あるいは酸性ガスの共存下で含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解する。このため、この酸化処理部では、含ハロゲン等有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたり、酸性ガスの共存下で有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたりすることが可能となる。また、この酸化処理部よりも排ガス下流側に配設された酸性ガス除去部では、酸化処理部で発生した酸性ガスや、排ガス中に元々含まれていた酸性ガスを除去することができる。
【0028】
したがって、本発明の排ガス処理装置によれば、排ガス中の含ハロゲン等有機ガスやそれ以外の有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることができるとともに、排ガス中の酸性ガスを有効に除去することができる。
【発明の効果】
【0029】
こうして本発明の酸化触媒並びに排ガス処理方法及び排ガス処理装置によれば、ハロゲン、硫黄や窒素を含有する含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合や、あるいは酸性ガスの共存した有機ガスを酸化分解する場合であっても、分解生成物等としての酸性ガスによりマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことがないので、含ハロゲン等有機ガスや酸性ガス共存下における有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の酸化触媒は、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトを含む。
【0031】
前記複合酸化物は、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有するものであれば、Mg、Fe及びOを構成元素とする複合酸化物(Mg及びFeの複合酸化物)であっても、Mg、Fe及びOとこれら以外の元素を構成元素とする複合酸化物(Mg及びFeの複合酸化物において、Mg及びFeの少なくとも一方の一部を他の元素で置換した複合酸化物)であっても、何れでもよい。すなわち、前記複合酸化物は、MgFe2 4 相の結晶相のみからなるものであってもよく、また、MgFe2 4 相の結晶相以外に、例えば、Mg、Fe及びOの組成比が異なるMg及びFeの複合酸化物の結晶相を有するものや、Mg、Fe及びOの少なくとも一種の一部が他の元素で置換された複合酸化物の結晶相を有するものであってもよい。さらに、前記複合酸化物は、MgFe2 4 相の結晶相以外に、非晶相を有するものであってもよい。
【0032】
また、本発明の酸化触媒は、前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトのみからなるものであっても、前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトとそれ以外のもの(例えば、触媒担体や他の種類の酸化触媒)とからなるものであっても、何れでもよい。
【0033】
本発明の酸化触媒の使用形態としては特に限定されない。例えば、粉末からなる酸化触媒、粉末を所定形状に成形した成形体からなる酸化触媒、あるいは担体とこの担体上に担持された触媒粉末とからなる酸化触媒として、本発明の酸化触媒を使用することができる。そして、本発明の酸化触媒は、使用形態における構成要素の少なくとも一部に、前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトを含む。すなわち、本発明の酸化触媒は、酸化触媒として使用に供される際の使用形態において、構成要素の少なくとも一部に、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトを含む。
【0034】
例えば、粉末からなる酸化触媒として使用に供される場合は、該粉末が単独の粉末よりなるときはその単独の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなり、また、該粉末が複数種の混合粉末よりなるときはその混合粉末を構成する一種の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなる態様とすることができる。
【0035】
なお、本願明細書でいう混合粉末とは、単一の結晶相よりなる粉末と、他の単一の結晶相よりなる他の粉末とが混合しているもの以外に、単一の結晶相よりなる粉末と他の単一の結晶相よりなる他の粉末とが付着することにより、見かけ上は1個の粉末となっているようなものも含む意味である。
【0036】
粉末を所定形状に成形した成形体からなる酸化触媒として使用に供される場合も同様に、該粉末が単独の粉末よりなるときはその単独の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなり、また、該粉末が複数種の混合粉末よりなるときはその混合粉末を構成する一種の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなる態様とすることができる。
【0037】
担体とこの担体上に担持された触媒粉末とからなる酸化触媒として使用に供される場合は、該触媒粉末が単独の粉末よりなるときはその単独の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなり、また、該触媒粉末が複数種の混合粉末よりなるときはその混合粉末を構成する一種の粉末が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトからなる態様としたり、あるいは該担体が前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトを含む態様としたりすることができる。
【0038】
成形体の形状は、使用目的に併せて任意に決定され、顆粒、平板、柱状、円筒管、中空糸、モノリスやハニカムなどが例示される。また、成形時には形状とともに成形体の緻密さ、あるいは多孔質化が求められ、これらはその使用目的等に応じて、任意に設計することができる。成形方法としては、セラミックス成形体の製造において使用される通常の方法を用いることができ、例えば、鋳込み成形、加圧成形、乾式CIP成形、射出成形、シート成形などを使用することができる。
【0039】
本発明の酸化触媒は、前記複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトの他に、例えば、Ca2 Fe2 5 の組成式やCaFe2 4 の組成式等を有するカルシウムフェライト、Fe2 3 及びCaO等の他の酸化触媒成分の少なくとも一種をさらに含んでいてもよい。また、場合によっては、白金やパラジウム等の貴金属粉末と同時に使用に供されてもよい。
【0040】
このように、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトを含む本発明の酸化触媒は、MgFe2 4 相のマグネシウムフェライトが示す高い触媒活性により、大きな酸化触媒機能を発揮する。このMgFe2 4 相のマグネシウムフェライトが高い触媒活性を示すメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。
【0041】
すなわち、MgFe2 4 相は、結晶構造やFeの酸化還元に起因して生成する活性酸素を構造中に内包する。そして、このようにMgFe2 4 相中に内包された活性酸素が外部に放出されると、高い触媒活性を示して大きな酸化触媒機能を発揮する。活性酸素を放出したMgFe2 4 相には外部からの酸素が構造中に取り込まれる。そして再びMgFe2 4 相の構造中の酸素が不安定になり、活性酸素として外部に放出される。このようにMgFe2 4 相は、構造中で不安定となって生成した活性酸素を外部に放出し、外部から酸素を構造中に取り込み、そして再び活性酸素として外部に放出することを繰り返して、大きな酸化触媒機能を発揮すると考えられる。
【0042】
また、本発明の酸化触媒に含まれうるCa2 Fe2 5 の組成式やCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトも、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトと同様のメカニズムによって、極めて高い触媒活性を示し、極めて大きな酸化触媒機能を発揮する。
【0043】
そして、本発明の酸化触媒では、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有する複合酸化物よりなるマグネシウムフェライトが、塩化水素やフッ化水素等のハロゲン化合物、硫黄酸化物や窒素酸化物といった酸性ガスと反応しない。
【0044】
このため、本発明の酸化触媒により、ハロゲン、硫黄や窒素を含有する含ハロゲン等有機ガスを酸化分解する場合であっても、分解生成物としての酸性ガスとマグネシウムフェライトとの反応によりマグネシウムフェライトが分解してマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことはない。したがって、マグネシウムフェライトの触媒活性を長期にわたって維持することができ、含ハロゲン等有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【0045】
また同様に、SOxやNOxの酸性ガスの共存下で、本発明の酸化触媒により含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスを酸化分解する場合であっても、共存する酸性ガスによりマグネシウムフェライトの触媒活性が失活するようなことがない。したがって、マグネシウムフェライトの触媒活性を長期にわたって維持することができ、酸性ガスの共存下において有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【0046】
本発明の酸化触媒は、好適には、マグネシウム化合物とフェライト源とを所定の混合モル比Mg/Feで含む混合原料を酸素含有雰囲気で所定温度に加熱する焼成処理によって、製造することができる。すなわち、本発明の酸化触媒は、好適には、マグネシウム化合物とフェライト源とを所定の混合モル比Mg/Feで含む混合原料を得る混合原料準備工程と、該混合原料を酸素含有雰囲気で所定温度に加熱して焼成する焼成工程と、を備えた製造方法により製造することができる。
【0047】
前記マグネシウム化合物としては特に限定されず、酸化マグネシウム、マグネシウムの水酸化物、マグネシウムの炭酸化物、マグネシウムの硝酸塩及び水和物、マグネシウムの酢酸塩及び水和物等から適宜選択して1種又は複数種を用いることができる。また、フェライト源も特に限定されず、酸化鉄、鉄の水酸化物、鉄の炭酸化物、鉄の硝酸塩及び水和物、鉄の酢酸塩及び水和物等から適宜選択して1種又は複数種を用いることができる。
【0048】
また、これらマグネシウム化合物及びフェライト源の原料は、低負荷環境材料でありため、環境に優しく、かつ、貴金属と比べて安価であり、さらに廃棄物からの供給も可能であるためより安価である。
【0049】
そして、前記混合原料準備工程における前記混合モル比Mg/Feと、前記焼成工程における焼成温度とを適切に設定することで、所望の組成比を有するMg及びFeの複合酸化物を得ることができる。
【0050】
前記混合モル比Mg/Feは、0.1〜0.9程度の範囲内で適宜設定可能であるが、0.3≦Mg/Fe≦0.7であることが好ましく、0.4≦Mg/Fe≦0.6であることがより好ましい。例えば、前記混合モル比Mg/Feが0.5未満になると、焼成温度にもよるが、焼成後においても原料としてのフェライト源が未反応のまま残る。一方、前記混合モル比Mg/Feが0.5を超えると、焼成温度にもよるが、焼成後においても原料としてのマグネシウム化合物が未反応のまま残る。
【0051】
具体的には、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)粉末と、フェライト源として酸化鉄(Fe2 3 )粉末とを、MgとFeとの混合モル比が例えばMg/Fe=0.5となるように混合した混合粉末を800〜900℃程度の焼成温度で焼成すれば、MgFe2 4 相を有するMg及びFeの複合酸化物よりなるマグネシウムフェライト粉末と、Fe2 3 粉末とを得ることができる。なお、このFe2 3 粉末は、原料としての酸化鉄粉末が未反応のまま残ったものである。
【0052】
また、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)粉末と、フェライト源として酸化鉄(Fe2 3 )粉末とを、MgとFeとの混合モル比が例えばMg/Fe=0.5となるように混合した混合粉末を1000〜1100℃程度の焼成温度で焼成すれば、MgFe2 4 相を有するMg及びFeの複合酸化物を得ることができる。
【0053】
さらに、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)粉末と、フェライト源として酸化鉄(Fe2 3 )粉末とを、MgとFeとの混合モル比が例えばMg/Fe=0.25となるように混合した混合粉末を1000〜1100℃程度の焼成温度で焼成すれば、MgFe2 4 相を有するMg及びFeの複合酸化物よりなるマグネシウムフェライト粉末と、Fe2 3 粉末とを得ることができる。なお、このFe2 3 粉末は、原料としての酸化鉄粉末が未反応のまま残ったものである。
【0054】
また、マグネシウム化合物として酸化マグネシウム(MgO)粉末と、フェライト源として酸化鉄(Fe2 3 )粉末とを、MgとFeとの混合モル比が例えばMg/Fe=0.5〜2.00となるように混合した混合粉末を1000〜1100℃程度の焼成温度で焼成すれば、MgFe2 4 相を有するMg及びFeの複合酸化物を得ることができる。
【0055】
このような本発明の酸化触媒は、自動車や自動二輪車等の内燃機関、ボイラー等の各種燃焼装置やごみ焼却炉などから排出される排ガス中に含まれる含ハロゲン等有機ガスやそれ以外の有機ガスを酸化分解するための酸化触媒として、あるいは薬品等の化学物質の生成反応を促進させる反応促進用の酸化触媒として好適に利用することができる。
【0056】
すなわち、本発明の排ガス処理方法は、含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス中にて本発明の酸化触媒により該含ハロゲン等有機ガスを酸化分解したり、あるいは含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスと酸性ガスとを含む排ガス中にて本発明の酸化触媒により該有機ガスを酸化分解したりする触媒工程を備えている。
【0057】
この触媒工程では、含ハロゲン等有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解するか、あるいは酸性ガスの共存下で含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解する。このため、含ハロゲン等有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたり、酸性ガスの共存下で有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させたりすることが可能となる。
【0058】
なお、この触媒工程には、酸性ガスの共存下で含ハロゲン等有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解する場合も含まれる。
【0059】
したがって、自動車や自動二輪車等の内燃機関、ボイラー等の各種燃焼装置やごみ焼却炉などから排出される排ガス中に含まれる含ハロゲン等有機ガスやそれ以外の有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解することができる。
【0060】
前記触媒工程における反応温度(排ガス温度等)や反応時間は、酸化触媒やその対象となる有機ガスの種類に応じて、本発明の酸化触媒による触媒活性が高く維持されるように適宜設定することができる。
【0061】
また、本発明の排ガス処理装置は、含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス又は該含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガス及び酸性ガスを含む排ガスが導入され、本発明の酸化触媒が設置された酸化処理部と、前記酸化処理部よりも排ガス下流側に配設されて該酸化処理部からの排ガスが導入され、該排ガス中に含まれる酸性ガスを除去する酸性ガス除去部と、を備えている。
【0062】
酸化処理部には本発明の酸化触媒が設置される。酸化処理部における本発明の酸化触媒の態様は特に限定されず、種々の態様を採用することができる。この酸化処理部に、含ハロゲン等有機ガスを含む排ガスが導入されれば、本発明の酸化触媒により含ハロゲン等有機ガスが酸化分解される。この含ハロゲン等有機ガスの酸化分解により、分解生成物としての酸性ガスが生成するが、本発明の酸化触媒は酸性ガスによって触媒活性が失活するようなことがない。また、この酸化処理部に、含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガスと酸性ガスとを含む排ガスが導入されれば、酸性ガスの共存下で本発明の酸化触媒により有機ガスが酸化分解される。
【0063】
なお、本発明の排ガス処理装置においては、含ハロゲン等有機ガス及び酸性ガスを含む排ガスが酸化処理部に導入される場合も含まれる。
【0064】
本発明の排ガス処理装置では、この酸化処理部よりも排ガス下流側に酸性ガス除去部が配設されている。このため、酸化処理部で発生した酸性ガスや排ガス中に元々含まれていた酸性ガスを、酸性ガス除去部で確実に除去することができる。したがって、酸性ガスが大気中に放出されたりする等の不都合を回避できる。
【0065】
酸性ガス除去部の具体的態様としては特に限定されず、酸性ガスの種類や量等に応じて適宜設定可能である。
【0066】
したがって、本発明の排ガス処理装置によれば、排ガス中の含ハロゲン等有機ガスやそれ以外の有機ガスを長期にわたって有効に酸化分解させることができるとともに、排ガス中の酸性ガスを有効に除去することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
以下に示すように、マグネシウム化合物とフェライト源とを所定の混合モル比Mg/Feで混合して混合原料を得る混合原料準備工程と、この混合原料を酸素含有雰囲気で所定温度に加熱して焼成する焼成工程とを実施することにより、実施例1の酸化触媒を製造した。
【0069】
<混合原料準備工程>
マグネシウム化合物としてのMgO粉末と、フェライト源としてのFe2 3 粉末とを準備し、混合モル比がMg/Fe=0.5となるように混合し、混合原料を得た。なお、MgO粉末及びFe2 3 粉末は、微粉砕器で予め平均10ミクロンに粒度を揃えておいた。
【0070】
<焼成工程>
次に、上記混合原料を電気炉に入れ、空気雰囲気下で室温から1000℃まで約1時間で昇温し、1000℃で6時間保持して、焼成した。その後、自然放冷して実施例1に係る触媒試料、MgFe2 4 を得た。
【0071】
(比較例1)
以下に示すように、カルシア源とフェライト源とを所定の混合モル比Ca/Feで混合して混合原料を得る混合原料準備工程と、この混合原料を酸素含有雰囲気で所定温度に加熱して焼成する焼成工程とを実施することにより、比較例1の酸化触媒を製造した。
【0072】
<混合原料準備工程>
カルシア源としてのCaO粉末と、フェライト源としてのFe2 3 粉末とを準備し、混合モル比がCa/Fe=1.0となるように混合し、混合原料を得た。なお、CaO粉末及びFe2 3 粉末は、微粉砕器で予め平均10ミクロンに粒度を揃えておいた。
【0073】
<焼成工程>
次に、上記混合原料を電気炉に入れ、空気雰囲気下で室温から1000℃まで約1時間で昇温し、1000℃で6時間保持して、焼成した。その後、自然放冷して比較例1に係る触媒試料、Ca2 Fe2 5 を得た。
【0074】
(比較例2)
以下に示すように、混合原料準備工程で混合モル比Ca/Feを変更すること以外は、前記比較例1と同様にして、比較例2の酸化触媒を製造した。
【0075】
<混合原料準備工程>
カルシア源としてのCaO粉末と、フェライト源としてのFe2 3 粉末とを準備し、混合モル比がCa/Fe=0.5となるように混合し、混合原料を得た。なお、CaO粉末及びFe2 3 粉末は、微粉砕器で予め平均10ミクロンに粒度を揃えておいた。
【0076】
<焼成工程>
次に、上記混合原料を電気炉に入れ、空気雰囲気下で室温から1000℃まで約1時間で昇温し、1000℃で6時間保持して、焼成した。その後、自然放冷して比較例2に係る触媒試料、CaFe2 4 を得た。
【0077】
(触媒活性評価)
前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )及び前記比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )について、小型固定床流通式反応装置を用いて、以下のようにしてベンゼン酸化に対する触媒活性と、クロロベンゼン酸化に対する触媒活性とを調べた。
【0078】
まず、乳棒及び乳鉢を用いて触媒試料を微細化して、粒径が100μm未満の触媒粉末とし、触媒層の充填高さが10mmとなるように内径4mmの反応管に触媒粉末を充填した。そして、サンプルガスとしてのベンゼン(C6 6 :1000ppm)を、空間速度が触媒層体積基準で約9500/hとなるように、乾燥空気(O2 :10vol%)と共に20ミリリットル/minの流量で反応管に流通させた。このときの反応温度を電気炉で300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃に調整し、各温度で1時間サンプルガスを流通させてから、反応管の出口ガスに含まれるベンゼン濃度をFTIR(製品名「IR prestage21」。島津製作所製)により測定した。そして、次式によりベンゼンの酸化による分解率を求めた。
(分解率)[%]={1−(ベンゼンの触媒層出口濃度)/(ベンゼンの触媒層入口濃度)}×100
【0079】
また、サンプルガスとしてのクロロベンゼン(C6 5 Cl)についても、ベンゼンと同様にして、次式によりクロロベンゼンの酸化による分解率を求めた。
(分解率)[%]={1−(クロロベンゼンの触媒層出口濃度)/(クロロベンゼンの触媒層入口濃度)}×100
【0080】
これらの結果を図1に示す。また、比較のため、触媒試料を入れなかった場合のデータも併せて図1に示す。なお、図1において、■及び実線で示すデータがMgFe2 4 触媒のベンゼンの酸化による分解率と温度との関係を示すものであり、▲及び実線で示すデータがMgFe2 4 触媒のクロロベンゼンの酸化による分解率と温度との関係を示すものあり、●及び点線で示すデータがCa2 Fe2 5 触媒のベンゼンの酸化による分解率と温度との関係を示すものであり、◆及び点線で示すデータがCa2 Fe2 5 触媒のクロロベンゼンの酸化による分解率と温度との関係を示すものである。また、図1において、○及び点線で示すデータが触媒試料を入れていない場合のベンゼン分解率を示すものであり、◇及び点線で示すデータが触媒試料を入れていない場合のクロロベンゼン分解率を示すものである。
【0081】
図1に示されるように、塩素を含まないベンゼンの酸化分解に対しては、500℃においてはMgFe2 4 の触媒活性よりもCa2 Fe2 5 の触媒活性の方が高く、また、400℃以下及び600℃以上においては両者の触媒活性がほぼ同じであった。一方、塩素を含むクロロベンゼンの酸化分解に対しては、600℃以下においては両者の触媒活性がほぼ同じであるが、700℃以上においてはCa2 Fe2 5 の触媒活性よりもMgFe2 4 の触媒活性の方が高く優れていた。これは、CaOと塩素との反応は容易に起こるのに対し、MgOと塩素との反応は平衡論的に高温ほど起こり難いためと考えられる。
【0082】
(HClガスとの反応実験)
そこで、触媒の結晶構造に及ぼす塩素分の影響を確認するために、HClガスに暴露した触媒のXRD測定を行った。
【0083】
すなわち、前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )、前記比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )及び前記比較例2の触媒試料(CaFe2 4 )について、以下の実験条件でHClガス処理し、HClガス処理後の結晶組成をX線回折分析により評価した。
試料量 :1.0g
反応温度 :700℃
HCl濃度:3400ppm
ガス流量 :50ml/min
反応時間 :6時間
【0084】
なお、X線回折分析は、粉末X線回折装置(製品名「RINT−2600TTR」、理学電機社製)を用いて、以下に示す手順により行った。
【0085】
まず、乳鉢を用いて触媒試料を十分に微細化した。そして、触媒試料を測定用サンプル皿(ガラス製、深さ0.2mm)に適量とり、ガラス板を押し付けてセル上の粉体表面を平らにした。このサンプル皿をX線回折装置にセットし、触媒試料表面にCuKα線(管電圧50kV、管電流100mA)を照射してX線回折パターンを測定した。なお、ゴニオメーターの走査範囲は2θ=10.0〜60.0°、スキャンスピードは1.0°/minとした。また、結晶相の同定はJCPDSカードを用いて行った。
【0086】
その結果を表1並びに図2及び図3に示す。なお、図2は、前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )についてのHCl処理前後のX線回折パターンを示し、図3は、前記比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )についてのHCl処理前後のX線回折パターンを示す。
【0087】
【表1】

【0088】
これらの結果から、CaフェライトはHClガスと容易に反応してCaCl2 とFe2 3 に分解するのに対し、MgフェライトはHClガスに対して安定であることがわかる。
【0089】
なお、塩素化したCa成分を含む結晶相(CaCl2 )については、潮解により、図3において回折線が確認できなかった。
【0090】
(クロロベンゼン酸化反応による触媒活性劣化試験)
前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )及び前記比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )について、以下の実験条件で、クロロベンゼン(C6 5 Cl)酸化反応における触媒活性の劣化を評価した。
クロロベンゼン濃度:61ppm
反応温度 :700℃
空間速度 :9500/h
その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
表2より、クロロベンゼンの酸化分解生成物であるHClに対して、Mgフェライトは反応せずに安定した触媒活性を維持することができた。一方、Caフェライトは、HClとの反応により触媒活性が失活した。
【0093】
(プロピレン酸化反応による触媒活性評価試験)
前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )及び前記比較例2の触媒試料(CaFe2 4 )について、以下の実験条件で、プロピレン(C3 6 )酸化反応における触媒活性を評価した。
プロピレン濃度:1000ppm
反応温度 :400、500、600℃
空間速度 :9500/h
【0094】
また、前記実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )及び前記比較例2の触媒試料(CaFe2 4 )について、以下の実験条件でHClガス処理した後に、上記と同様の実験条件で、プロピレン(C3 6 )酸化反応における触媒活性を評価した。
試料量 :1.0g
反応温度 :700℃
HCl濃度:3400ppm
ガス流量 :50ml/min
反応時間 :6時間
これらの結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3より、Mgフェライト(MgFe2 4 )は、HClガス処理の前後において触媒活性が変化せず、HClによって活性劣化しなかった。一方、Caフェライト(CaFe2 4 )は、HClガス処理により、著しく活性が劣化した。
【0097】
(Mg/Fe混合比とXDRパターンとの関係)
前記実施例1において、混合原料準備工程で混合モル比Mg/Feを0.25、0.50、1.00、2.00と種々変更して触媒試料を製造し、各触媒試料について前記と同様にして、結晶組成をX線回折分析により評価した。
【0098】
その結果を図4に示すように、混合モル比が、0.25≦Mg/Feであれば、MgFe2 4 結晶相が得られ、また、0.5≦Mg/Feであれば、MgFe2 4 結晶相のみが得られた。なお、Mg/F=0.25であるときは、余分のFe2 3 が未反応まま残っていた。
【0099】
(焼成温度とXDRパターンとの関係)
前記実施例1において、焼成工程で焼成温度を800℃、900℃、1000℃、1100℃と種々変更して触媒試料を製造し、各触媒試料について前記と同様にして、結晶組成をX線回折分析により評価した。
【0100】
その結果を図5に示すように、焼成温度が800℃以上であれば、MgFe2 4 結晶相が得られ、また、焼成温度が1000℃以上であれば、MgFe2 4 結晶相のみが得られた。なお、焼成温度が800〜900℃であるときは、未反応のFe2 3 が残っていた。
【0101】
(実施例2)
以下に示す実施例は、本発明の酸化触媒、排ガス処理方法及び排ガス処理装置を廃棄物の焼却処理に適用したもので、焼却炉で発生した排ガス中の含ハロゲン等有機ガスを本発明の酸化触媒により酸化分解するとともに、該排ガス中の酸性ガスを除去する排ガス処理方法及び排ガス処理装置に関するものである。
【0102】
この実施例に係る排ガス処理装置は、図6に模式的に示されるように、焼却炉1と、酸化処理部2と、冷却部3と、酸性ガス除去部4と、吸着部5と、触媒部6とを備えている。
【0103】
焼却炉1は、焼却用バーナ(図示せず)を備えている。この焼却炉1では、例えば、塩素等のハロゲン、硫黄や窒素を含有する廃棄物や都市ゴミが焼却用バーナで焼却される。焼却炉1から排出される排ガス中には、例えば、塩素やフッ素等のハロゲン、硫黄や窒素を含有する含ハロゲン等有機ガス、炭化水素ガス(HC)、塩化水素ガス(HCl)や亜硫酸ガス(SO2 )等の酸性ガスが含まれうる。
【0104】
酸化処理部2には、前記実施例1で得られた酸化触媒たるMgFe2 4 粉末が所定の管内に充填されて設置されている。酸化処理部2には、焼却炉1で発生した排ガスが導入される。
【0105】
この酸化処理部2に、焼却炉1で発生した、塩素や硫黄等を含有する含ハロゲン等有機ガスを含む排ガスが導入されると、排ガス中の含ハロゲン等有機ガスが酸化触媒たるMgFe2 4 粉末により酸化分解され、分解生成物としての酸性ガスが生成される。例えば、塩素を含有する含塩素有機ガスが排ガス中に含まれている場合は、この含塩素有機ガスがMgFe2 4 粉末により酸化分解されて、分解生成物としての塩化水素ガスが生成される。また、硫黄を含有する含硫黄有機ガスが排ガス中に含まれている場合は、この含硫黄有機ガスがMgFe2 4 粉末により酸化分解されて、分解生成物としてのSOxが生成される。また、窒素を含有する含窒素有機ガスが排ガス中に含まれている場合は、この含窒素有機ガスがMgFe2 4 粉末により酸化分解されて、分解生成物としてのNOxが生成される。
【0106】
また、酸化処理部2に、焼却炉1で発生した、炭化水素ガスと、塩化水素ガス(HCl)や亜硫酸ガス(SO2 )等の酸性ガスとを含む排ガスが導入されると、排ガス中の炭化水素ガスが酸性ガスの共存下で酸化触媒たるMgFe2 4 粉末により酸化分解される。
【0107】
冷却炉3は、ダイオキシンの生成を抑えるべく、排ガスを急冷するためのものである。
【0108】
酸性ガス除去部4は、酸化処理部2で発生した酸性ガスや排ガス中に元々含まれていた酸性ガスを除去するためのものである。この酸性ガス除去部における酸性ガスの除去手段としては、例えば消石灰を噴霧したり、アルカリ性水溶液を噴射したりして塩化水素ガスを吸収、除去する等の手段を採用することができる。
【0109】
吸着部5は、排ガス中に含まれるダイオキシンを吸着、除去するためのものである。ダイオキシンの吸着、除去手段としては、例えば活性炭を採用することができる。
【0110】
触媒部6は、排ガス中に含まれているかもしれないダイオキシンを酸化除去するためのものである。この触媒部6には、例えば酸化バナジウム触媒を設置することができる。
【0111】
ここに、この排ガス処理装置における排ガス温度としては、例えば、焼却炉1で発生する排ガス温度が600〜700℃程度、酸化処理部2での排ガス温度が500〜600℃程度、冷却部3で急冷された後の排ガス温度が300〜500℃程度、酸性ガス除去部4での排ガス温度が150〜200℃程度、吸着部5での排ガス温度が50〜100℃程度、触媒部6での排ガス温度が200〜300℃程度である場合を想定することができる。
【0112】
かかる構成の排ガス処理装置によれば、酸化処理部2において、焼却炉1で発生し含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス中にてMgFe2 4 粉末により該含ハロゲン等有機ガスを酸化分解したり、焼却炉1で発生し炭化水素ガスと酸性ガスとを含む排ガス中にてMgFe2 4 粉末により炭化水素ガスを酸化分解したり、あるいは焼却炉1で発生し含ハロゲン等有機ガスと酸性ガスとを含む排ガス中にてMgFe2 4 粉末により該含ハロゲン等有機ガスを酸化分解したりすることができる。そして、MgFe2 4 粉末によれば、酸性ガスによって触媒活性が失活することがない。このため、排ガス中の含ハロゲン等有機ガスや炭化水素を長期にわたって有効に酸化分解させることが可能となる。
【0113】
したがって、酸化処理部2においてMgFe2 4 粉末を長期にわたって有効に使用することができるので、酸化触媒の使用量を削減することが可能となり、低コスト化等に寄与しうる。
【0114】
また、この排ガス処理装置によれば、酸化処理部2よりも排ガス下流側に配設された酸性ガス除去部4において、酸化処理部2で発生した酸性ガスや、焼却炉1で発生した排ガス中に元々含まれていた酸性ガスを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )及び比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )について、ベンゼン及びクロロベンゼンの酸化による分解率と温度との関係を示す図である。
【図2】実施例1の触媒試料(MgFe2 4 )について、HCl処理前後のX線回折パターンの測定結果を示す図である。
【図3】比較例1の触媒試料(Ca2 Fe2 5 )について、HCl処理前後のX線回折パターンの測定結果を示す図である。
【図4】実施例1において、混合原料準備工程で混合モル比Mg/Feを0.25、0.50、1.00、2.00と種々変更して得た各触媒試料について、結晶組成をX線回折分析により評価した結果を示す図である。
【図5】実施例1において、焼成工程で焼成温度を800℃、900℃、1000℃、1100℃と種々変更して得た各触媒試料について、結晶組成をX線回折分析により評価した結果を示す図である。
【図6】実施例2に係る排ガス処理装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0116】
1…焼却炉 2…酸化処理部
3…冷却部 4…酸性ガス除去部
5…吸着部 6…触媒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg及びFeの複合酸化物よりなり、MgFe2 4 相を少なくとも一部に有するマグネシウムフェライトを含むことを特徴とする酸化触媒。
【請求項2】
ハロゲン、硫黄及び窒素の少なくとも一種を含む含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス、又は該含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガス及び酸性ガスを含む排ガス中にて、請求項1記載の酸化触媒により、該含ハロゲン等有機ガス又は該有機ガスを酸化分解する触媒工程を含むことを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項3】
ハロゲン、硫黄及び窒素の少なくとも一種を含む含ハロゲン等有機ガスを含む排ガス、又は該含ハロゲン等有機ガス以外の有機ガス及び酸性ガスを含む排ガスが導入され、請求項1記載の酸化触媒が設置された酸化処理部と、
前記酸化処理部よりも排ガス下流側に配設され、排ガス中に含まれる酸性ガスを該排ガス中から除去する酸性ガス除去部とを有することを特徴とする排ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−229546(P2007−229546A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50820(P2006−50820)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】