説明

酸性水中油型乳化食品およびその製造方法、抗酸化材、ならびに呈味改善材

【課題】酸性水中油型乳化食品およびその製造方法、抗酸化材、ならびに呈味改善材を提供すること。
【解決手段】酸性水中油型乳化食品は卵白加水分解物を含む。酸性水中油型乳化食品の製造方法は、卵白加水分解物の存在下で、水相成分および油相成分を乳化する工程を含む。抗酸化材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。呈味改善材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水中油型乳化食品およびその製造方法、抗酸化材、ならびに呈味改善材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性水中油型乳化食品は、水相成分および油相成分が水中油型に乳化された食品である。代表的な酸性水中油型乳化食品としては、例えば、マヨネーズやドレッシングが挙げられる。
【0003】
酸性水中油型乳化食品は、含有成分が保存中に酸化される結果、風味の変化が生じたり、変質や変色が生じたりすることがある。そこで、酸化を防止するために、例えばEDTACa・2Naなどの化学物質からなる食品添加物が添加されることがある(非特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、近年、食品添加物として使用される化学物質が生体内に及ぼす影響が問題となっている。また、近年、消費者は人工的な食品添加物の使用を避ける傾向にある。このため、食品への化学物質の使用をできる限り避けることが求められている。
【非特許文献1】シャーロット ヤコブセン他,「魚油を豊富に含むマヨネーズにおける脂質の酸化:エチレンジアミンテトラ酢酸・カルシウム・2ナトリウム塩は酸化的分解を強く阻害するが、没食子酸は酸化的分解を強く阻害しない」,ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー,米国化学会,2001年,第49巻,p.1009−1019(Charlotte Jacobsen et al, “Lipid Oxidation in Fish Oil Enriched Mayonnaise: Calcium Disodium Ethylenediaminetetraacetate, but Not Gallic Acid, Strongly Inhibited Oxidative Deterioration”, Journal of Agricultural and Food Chemistry, American Chemical Society, 49, 1009-1019, 2001)
【非特許文献2】シャーロット ヤコブセン他,「牛乳およびマヨネーズにおける脂質の酸化に及ぼす金属キレート剤の影響」,第95回米国油化学会年会および展示会予稿集,p.83−84,米国油化学会,2004年(Charlotte Jacobsen et al, “The Effect of Metal Chelators on Lipid Oxidation in Milk and Mayonnaise”, 95th AOCS Annual Meeting & Expo, American Oil Chemists’ Society, 83-84, 2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸性水中油型乳化食品およびその製造方法、抗酸化材、ならびに呈味改善材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、酸性水中油型乳化食品が卵白加水分解物を含むことにより、酸化の進行および風味の変化を抑制できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の酸性水中油型乳化食品は、卵白加水分解物を含む。
【0008】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、卵黄をさらに含むことができる。
【0009】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、前記卵黄固形分に対する前記卵白加水分解物の質量が、0.01以上であることができる。本発明において、「卵黄固形分」とは、卵黄に含まれる固形分の質量をいう。卵黄の固形分は通常、約50質量%である。これに基づいて、本発明において、「卵黄固形分」とは、卵黄において固形分の割合が50質量%であるとして換算された質量をいうものとする。
【0010】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、前記卵白加水分解物は、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得ることができる。ここで、前記卵白加水分解物は、さらにパパインで処理して得ることができる。
【0011】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、前記卵白加水分解物が下記の特性を有することができる:
pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、1000μg/mlの卵白加水分解物水溶液の抗酸化活性が、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、25nmol/mlのエチレンジアミン四酢酸・カルシウム・2ナトリウム水溶液の抗酸化活性と同等以上である。
【0012】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、前記卵白加水分解物は、0〜50質量%の水不溶性画分を含むことができる。
【0013】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、前記卵白加水分解物を0.05質量%以上含むことができる。
【0014】
本発明の酸性水中油型乳化食品の製造方法は、卵白加水分解物の存在下で、水相成分および油相成分を乳化する工程を含む。本発明において、「水相成分」とは、乳化前の状態において、水相を構成しうる成分および/または水相に溶解しうる成分をいう。また、本発明において、「油相成分」とは、乳化前の状態において、油相を構成しうる成分および/または油相に溶解しうる成分をいう。
【0015】
本発明の酸性水中油型乳化食品の製造方法において、前記卵白加水分解物を卵黄に予め添加してから、前記乳化工程を行なうことができる。
【0016】
本発明の抗酸化材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。
【0017】
本発明の呈味改善材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。
【発明の効果】
【0018】
酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、含有成分の酸化の進行を抑制することができる。その結果、風味劣化および乳化安定性低下を抑制することができる。
【0019】
酸性水中油型乳化食品の製造方法によれば、卵白加水分解物の存在下で、水相成分および油相成分を乳化することにより、風味劣化および乳化安定性低下が抑制された酸性水中油型乳化食品を簡便に得ることができる。
【0020】
本発明の抗酸化材によれば、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。本発明の抗酸化材を、例えば食品、飼料、医薬品、および化粧品等に使用することにより、含有成分の酸化の進行を抑制することができる。
【0021】
本発明の呈味改善材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。本発明の呈味改善材を、例えば食品、飼料、および医薬品等に使用することにより、これらの呈味を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
1.酸性水中油型乳化食品
本発明の酸性水中油型乳化食品は卵白加水分解物を含む。より具体的には、本発明の酸性水中油型乳化食品は、乳化剤の存在下で水相成分および油相成分を乳化して得ることができる。本発明の酸性水中油型乳化食品としては、特に限定されないが、例えばマヨネーズ類、ドレッシング類が挙げられる。以下、本発明の酸性水中油型乳化食品を構成する各成分について説明する。
【0023】
1.1.1 水相成分、油相成分、および乳化剤
本発明の酸性水中油型乳化食品の水相成分は、特に限定されないが、水のほかに、例えば、食酢(醸造酢)、食塩、調味料、糖類、香辛料、着色料および着香料が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明の酸性水中油型乳化食品の油相成分は、特に限定されないが、例えば、食用植物油脂(例えば、菜種油、大豆油、紅花油、ひまわり油、コーン油、オリーブ油、グレープシード油、ごま油、綿実油、シソの実油、アマニ油)、魚油、肝油、さらにはエステル交換した油脂やジグリセライドを主に含む油脂が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品に用いられる乳化剤は、その用途に応じて適宜選択され、例えば、卵黄、卵黄レシチン、乳タンパク、大豆タンパク、モノグリセリド、モノグリセリド誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、植物レシチンが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。例えば、本発明の酸性水中油型乳化食品がマヨネーズである場合、乳化安定性、風味、および色調の観点から、乳化剤として卵黄を使用することが好ましい。また、例えば、本発明の酸性水中油型乳化食品がドレッシングである場合、乳化安定性、風味、および色調の観点から、乳化剤として卵黄および/または上記の各種脂肪酸エステルを使用することが好ましい。
【0026】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、水相成分と油相成分との配合割合は、特に限定されないが、油相成分/水相成分(質量比)が0.01〜9であることが好ましく、0.1〜5であることがより好ましい。ここで、油相成分/水相成分(質量比)が9を超えたり、あるいは0.01未満であったりすると、安定した酸性水中油型乳化食品が得られがたい。
【0027】
1.1.2 卵白加水分解物
本発明において、卵白加水分解物は、プロテアーゼを用いて卵白を加水分解することにより得ることができる。この卵白加水分解物は、抗酸化材として、食品、飼料、医薬品、化粧品またはその他の用途に使用することができる。また、この卵白加水分解物は、呈味改善材として、食品、飼料、医薬品、またはその他の用途に使用することができる。
【0028】
また、卵白加水分解物は、乾燥させてから、本発明の酸性水中油型乳化食品、抗酸化材、および呈味改善材の原材料として用いてもよいし、あるいは、水懸濁液の形態で、本発明の酸性水中油型乳化食品、抗酸化材、および呈味改善材の原材料として用いてもよい。卵白加水分解物を乾燥させる方法としては、例えば、スプレードライ、凍結乾燥などが挙げられる。
【0029】
本発明において、卵白加水分解物を製造する際に使用される卵白としては、例えば、生卵白、冷凍卵白、乾燥卵白を水戻ししたもの、特定の卵白タンパク質(例えばリゾチームなど)を除去した卵白等が挙げられる。ここで、生卵白とは、鶏卵等を割卵し、卵黄を分離して得られるものをいう。また、卵白は例えば、酵母、細菌や酵素により脱糖処理を施されたものであってもよい。
【0030】
本発明において、卵白加水分解物を製造する際に使用されるプロテアーゼとしては、例えば、動物由来(例えば、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチン)、植物由来(例えば、パパイン、ブロメライン、フィシン)、微生物由来(例えば、乳酸菌、枯草菌、放線菌、カビ、酵母)のエンドプロテアーゼおよびエキソプロテアーゼ、ならびにこれらの粗精製物および菌体破砕物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、非常に優れた抗酸化活性および呈味改善作用を有する卵白加水分解物を得るためには、プロテアーゼとして、アスペルギルス(Aspergillus)属菌起源の中性プロテアーゼを使用して卵白を加水分解処理するのが好ましい。
【0031】
アスペルギルス(Aspergillus)属菌起源の中性プロテアーゼとしては、市販のものを使用することができ、例えば、商品名:プロテアーゼP「アマノ」3G(起源:Aspergillus melleus,天野エンザイム(株))、商品名:スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae,新日本化学工業(株))、商品名:デナチームAP(起源:Aspergillus oryzae,ナガセケムテックス(株))が挙げられる。
【0032】
例えば、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを使用して卵白を加水分解処理する場合、卵白のpHを6.5〜9.5(好ましくはpH7)に調整し、この卵白にアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを添加し、ゆっくりと攪拌しながら、液を35〜60℃(好ましくは45〜55℃)にて2〜24時間保持する。次に、この液を加熱殺菌処理し、次いで冷却した後、スプレードライにより、粉末状の卵白加水分解物を得ることができる。なお、pH、温度条件、および加熱時間は、使用するプロテアーゼの種類および組み合わせに応じて適宜調整するのが好ましい。
【0033】
pHの調整に使用する酸性化合物としては、特に限定されないが、有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸などを挙げることができる。また、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などを挙げることができる。これらは1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0034】
本発明において、卵白加水分解物は、さらにパパインを用いて卵白を加水分解することにより得ることができる。パパインは、パパイヤ(Carica Papaya L)の乳汁から抽出されるプロテアーゼである。パパインを用いて卵白を加水分解することにより、加水分解を促進させることができる。
【0035】
本発明において、卵白加水分解物は、上述のアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを用いて卵白を加水分解して得られたものであることがより好ましい。なお、パパインのみを用いて卵白を加水分解すると、得られる卵白加水分解物の苦味が強くなり、この卵白加水分解物を本発明の酸性水中油型乳化食品に添加すると、本発明の酸性水中油型乳化食品の風味が低下することがある。
【0036】
ここで、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを卵白に添加する順序は特に限定されず、パパインを先に添加してもよく、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを先に添加してもよく、または、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを同時に添加してもよい。あるいは、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインを別々に用いて加水分解を行なってもよい。
【0037】
パパインとしては、市販のものを使用することができ、例えば、商品名:食品用精製パパイン(ナガセケムテックス(株)),商品名:パパインW−40(天野エンザイム(株)),商品名:パパインF((株)樋口商会),商品名:Papain(Solvay社)が挙げられる。
【0038】
また、本発明において、卵白加水分解物は、0〜50質量%の水不溶性画分を含むことができる。すなわち、卵白加水分解物は、100〜50質量%の水可溶性画分を含むことができる。ここで、水不溶性画分が50質量%を超える場合、タンパク質の分解が不十分であるため、この卵白加水分解物を酸性水中油型乳化食品に用いた場合、卵白加水分解物が抗酸化効果および呈味改善効果を充分に発揮できないことがある。
【0039】
これに対して、本発明においては、卵白加水分解物が0〜50質量%の水不溶性画分を含むことにより、上記効果を発揮することができる。その理由の詳細は定かではないが、水不溶性画分は水可溶性画分とは異なる作用機序にて上記効果の発現に寄与していると推察される。具体的には、酸性水中油型乳化食品において、水不溶性画分は水可溶性画分の担体として機能すると推察される。すなわち、酸性水中油型乳化食品中に水不溶性画分が存在することにより、水可溶性画分が酸性水中油型乳化食品中で凝集するのを防止し、酸性水中油型乳化食品中において、卵白加水分解物が抗酸化効果および呈味改善効果を均一に発揮することができると推察される。
【0040】
卵白加水分解物の水可溶性画分および水不溶性画分は、所定量の卵白加水分解液(上述の酵素を用いて加水分解処理された液)を遠心分離することにより、分離することができる。あるいは、一旦乾燥物として得られた所定量の卵白加水分解物を水に添加して、懸濁した後、遠心分離することにより、各画分を分離することができる。さらに、各画分の液をそれぞれ凍結乾燥して、その質量を測定することにより、卵白加水分解物における各画分の質量比率を求めることができる。
【0041】
卵白加水分解物の水可溶性画分は、平均分子量が約800のポリペプチドを含むことができる。一方、卵白加水分解物の水不溶性画分は、分子量数百〜3万のタンパク質を含むことができる。卵白加水分解物の水可溶性画分および水不溶性画分に含まれるポリペプチド(タンパク質)の分子量は、例えばSDS−PAGE、またはホルミル滴定からの算出などの当業者に良く知られている方法を用いて決定することができる。
【0042】
卵白加水分解物の水不溶性画分の粒子径は1〜100μmである。また、卵白加水分解物の水可溶性画分および水不溶性画分のアミノ酸組成は主に、卵白タンパク質のアミノ酸配列に由来する。
【0043】
本発明の酸性水中油型乳化食品において、卵白加水分解物は0.05質量%以上含まれているのが好ましく、0.1質量%以上含まれているのがより好ましい。ここで、本発明の酸性水中油型乳化食品における卵白加水分解物の含有量が0.05質量%未満であると、酸化抑制効果が認められず、風味の劣化を抑制できない場合がある。
【0044】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品が乳化剤として卵黄を含む場合、卵黄固形分に対する卵白加水分解物の質量は、0.01以上であるのが好ましく、0.02〜1であるのがより好ましく、0.04〜1であるのがさらに好ましい。ここで、卵黄固形分に対する卵白加水分解物の質量が0.01未満であると、酸化抑制効果が認められず、風味の劣化を抑制できない場合があり、一方、卵黄固形分に対する卵白加水分解物の質量が1を超えると、卵白加水分解物特有の風味を感ずる場合がある。
【0045】
また、卵白加水分解物は下記の特性を有することが好ましい。
【0046】
pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、1000μg/mlの卵白加水分解物水溶液の抗酸化活性が、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、25nmol/mlのエチレンジアミン四酢酸・カルシウム・2ナトリウム水溶液の抗酸化活性と同等以上である。
【0047】
ここで、上記の各水溶液の調製方法を以下に説明する。まず、卵黄(固形分換算)の配合量が10mg/mlでありかつ卵白加水分解物の濃度が1000μg/mlとなるように、卵黄および卵白加水分解物を水と混合させて、卵白加水分解物水溶液を調製し、この水溶液をpH4に調整する。
【0048】
すなわち、上述の卵白加水分解物水溶液およびEDTA・Ca・2Na水溶液における卵黄の配合量およびpHがそれぞれ同じであって、かつ、卵白加水分解物水溶液における卵白加水分解物の濃度が10mg/mlであり、EDTA・Ca・2Na水溶液におけるEDTA・Ca・2Naの濃度が25nmol/mlである場合、前記卵白加水分解物水溶液の抗酸化活性は、前記EDTA・Ca・2Na水溶液の抗酸化活性と同等以上であるのが好ましい。
【0049】
また、卵黄の配合量(固形分換算)が10mg/mlでありかつEDTA・Ca・2Naの濃度が25nmol/mlとなるように、卵黄およびEDTA・Ca・2Naを水と混合させて、EDTA・Ca・2Na水溶液を調製し、この水溶液をpH4に調整する。
【0050】
ここで、抗酸化活性は、抗酸化活性の評価方法として一般的に用いられている方法により評価することができる。具体的には、後述する本発明の酸性水中油型乳化食品の抗酸化活性の評価方法として例示された方法により、抗酸化活性を評価することができる。
【0051】
1.1.3 抗酸化活性の評価方法
本発明の酸性水中油型乳化食品の抗酸化作用および本発明の卵白加水分解物の抗酸化活性は、公知の評価方法により測定することができ、より具体的には、油脂の酸化の評価方法として一般的に知られている方法を用いることができる。油脂の酸化の指標となる値としては、例えば、O吸収量、POV(過酸化物価)、共役ジエン含量、AnV(アニシジン価)、COV(カルボニル価)、AV(酸価)、アミノカルボニル反応生成物量、TBARS(チオバルビツール酸反応性物質)が挙げられる(図1参照)。このうち、例えばCOVおよびAnVなどはアルデヒドの含量を示す値である。後述する「5.本発明の作用効果」の欄においても説明するように、アルデヒドの発生は、風味劣化を引き起こす原因の一つである。したがって、COVおよびAnVなどのアルデヒドの含量を示す値は、風味劣化を示す指標であるといえる。また、アミノカルボニル反応生成物量も同様に、風味劣化を示す指標となる。
【0052】
1.1.4 呈味改善度の評価方法
本発明の酸性水中油型乳化食品の呈味改善度は、官能評価により測定することができる。また、上述した抗酸化活性の評価結果と、呈味改善度の評価結果とはほぼ相関関係を有する。すなわち、本発明の酸性水中油型乳化食品の呈味改善度において、抗酸化活性が低いほど、呈味改善度が低くなる傾向がある。よって、抗酸化活性の評価結果からも、呈味改善度を推定することができる。
【0053】
2.酸性水中油型乳化食品の製造方法
本発明の酸性水中油型乳化食品は、公知の方法により製造することができる。例えば、水以外の水相材料を水等に分散および/または溶解させ、これに油相材料を添加して、一般的な攪拌装置を用いて予備乳化を行なう。次に、乳化装置(例えば、コロイドミル)によって乳化を行なうことにより、酸性水中油型乳化食品を製造することができる。
【0054】
なお、本発明の酸性水中油型乳化食品を製造するにあたり、乳化剤として卵黄を使用する場合、乳化安定性に優れた酸性水中油型乳化食品を得るためには、水相成分および卵黄を混合して混合液を得た後、この混合液に油相成分を徐々に添加してから上記乳化工程を行なうのが好ましい。この場合、卵白加水分解物を卵黄に予め添加してから、卵白加水分解物が混合された卵黄と水相成分とを混合させた後、上記乳化工程を行なうのが好ましい。これにより、乳化安定性により優れた酸性水中油型乳化食品を得ることができる。
【0055】
3.抗酸化材
本発明の抗酸化材は上述の卵白加水分解物を含む。すなわち、本発明の抗酸化材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。ここで、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼの具体例としては、「1.酸性水中油型乳化食品」の欄で例示したものを用いることができる。本発明の抗酸化材の抗酸化活性は、上述の本発明の酸性水中油型乳化食品の抗酸化作用の評価方法と同様の方法にて測定することができる。
【0056】
本発明の抗酸化材を食品に配合することにより、食品の抗酸化作用を高めることができる。特に、油脂は一般に酸化されやすい。そこで、本発明の抗酸化材を、油脂を含む食品に配合することにより、食品中の油脂の酸化の進行を抑制することができる。特に酸化されやすい成分を含む油脂(例えば、魚油、肝油、アマニ油、シソの実油)を含む食品に本発明の抗酸化材を使用することにより、酸化を効果的に防止することができる。例えば、魚油は、DHAやEPAなどの酸化されやすい成分を多く含む。肝油は、アラキドン酸などの酸化されやすい成分を多く含む。アマニ油およびシソの実油は、α−リノレン酸を多く含む。
【0057】
本発明の抗酸化材の配合量は、使用する食品等に応じて適宜調製するのが好ましいが、例えば、食品等中に0.05〜5質量%の割合で配合されるのが好ましい。
【0058】
また、本発明の抗酸化材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインで処理して得られる卵白加水分解物を含んでいてもよい。卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインで処理して得られる卵白加水分解物は抗酸化作用がより優れている。卵白加水分解物の製造方法は上述した通りである。
【0059】
4.呈味改善材
本発明の呈味改善材は上述の卵白加水分解物を含む。すなわち、本発明の呈味改善材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む。ここで、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼの具体例としては、「1.酸性水中油型乳化食品」の欄で例示したものを用いることができる。
【0060】
本発明の呈味改善材の呈味改善度は、上述の本発明の酸性水中油型乳化食品の呈味改善度の評価方法と同様の方法にて測定することができる。
【0061】
本発明の呈味改善材を食品に配合することにより、食品の呈味を改善することができる。例えば、食酢やクエン酸等の酸性化合物を含む食品の酸味が苦手である消費者が相当数存在する。そこで、本発明の旨味改善材をそのような食品に配合することにより、酸味を緩和することができ、かつ、まろやかな風味を引き出すことができる。
【0062】
また、本発明の呈味改善材はそれ自体苦味がなく、臭いがほとんどない。このため、本発明の呈味改善材を食品に配合した場合にその食品自体の風味や臭いを害することがない。
【0063】
本発明の呈味改善材の配合量は、使用する食品等に応じて適宜調製するのが好ましいが、例えば、食品等中に0.01〜5質量%の割合で配合されるのが好ましい。
【0064】
また、本発明の呈味改善材は、卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインで処理して得られる卵白加水分解物を含んでいてもよい。卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼおよびパパインで処理して得られる卵白加水分解物は風味がより良好であるため、呈味改善効果がより優れている。卵白加水分解物の製造方法は上述した通りである。
【0065】
5.本発明の作用効果
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0066】
まず、本発明の作用効果を理解するのに必要となる事項について説明する。
【0067】
5.1.酸化による風味劣化および乳化安定性低下のメカニズム
以下、酸性水中油型乳化食品における、酸化による風味劣化および乳化安定性低下のメカニズムについて、図1を参照して説明する。
【0068】
酸性水中油型乳化食品は一般に、酸化により乳化安定性が低下する。酸化の原因物質の一つとして、油脂が挙げられる。油脂は、酸性水中油型乳化食品の油相成分を構成する。
【0069】
油脂は、飽和結合のみを有する飽和脂肪酸と、不飽和結合(炭素−炭素二重結合)を有する不飽和脂肪酸とに大別される。不飽和脂肪酸の場合、不飽和結合の水素引抜反応より脂質ラジカルが生じて自動酸化反応が開始され、過酸化物(ハイドロパーオキサイド;1次酸化生成物)が生成する。過酸化物自体は一般に、特徴ある風味や臭気は有さない。しかしながら、過酸化物と、銅、鉄、マンガン、クロム、ニッケルなどの金属のイオンとが共存すると、(i)過酸化物がレドックス分解によりさらにラジカルを生じ、(ii)このラジカルが他の不飽和脂肪酸の不飽和結合を攻撃し、(iii)自動酸化反応が開始してさらに過酸化物が生成する、という(i)〜(iii)の反応の連鎖が生じる。この場合、過酸化物が重合したり、反応部位において炭素鎖が切れてカルボニル化合物等の2次酸化生成物を生じたりする。また、この自動酸化反応は、同じ分子内の脂肪酸だけでなく、別の分子内の脂肪酸にも及ぶ。
【0070】
また、2次酸化生成物であるカルボニル化合物には、風味劣化の原因となるアルデヒド類が含まれる。このアルデヒド類が周囲のタンパク質等のアミノ基と反応することにより(アミノカルボニル反応)、3次酸化生成物(アミノカルボニル反応生成物)が生じる。この3次酸化生成物もまた、風味変化および物性変化の原因物質の一つである。
【0071】
特に、酸性水中油型乳化食品が卵黄を含む場合、上述の自動酸化反応は卵黄リン脂質の構成脂肪酸にも及ぶ。卵黄リン脂質は、主にタンパク質と結合したリポタンパク質の形で乳化剤として油滴の周囲を取り囲んでいると考えられている。しかしながら、上記のメカニズムにより、卵黄リン脂質の脂肪酸が酸化を受けて、化学修飾や炭素鎖の切断等が生じることにより、脂肪酸の形態および親油性と親水性とのバランスに変化が生じると、その規則性が著しく乱され、リポタンパク質の性質に変化が生じる。その結果、乳化粒子の安定性が低下することがある。また、酸化を受けて過酸化脂質となった卵黄リン脂質は親水性を増し、油滴界面から水相部分に引き抜かれるような挙動を示し、水相に存在する鉄イオン等の影響をさらに受けやすくなり、3次酸化生成物の産生が助長されると考えられる。
【0072】
さらに、上記メカニズムにより不安定になった乳化粒子は、高粘度の系ではかろうじて乳化状態を保持することができる。しかしながら、例えば、酸性水中油型乳化食品の保存容器に物理的衝撃が加わることによって、乳化粒子が乳化状態を維持できなくなり、その結果、油脂粒子の会合が生じて、酸性水中油型乳化食品中に分離が生じることがある。
【0073】
特に、酸性水中油型乳化食品の保存容器が可撓性容器(例えば、ポリエチレンなどのプラスチック製容器)である場合、酸性水中油型乳化食品を前記容器から取り出すためには、該容器を変形させる必要がある。その際に加わる物理的衝撃によって、該容器の内表面と酸性水中油型乳化食品との界面で分離が起こりやすい。
【0074】
さらに、半固形状の物性を有する酸性水中油型乳化食品(例えばマヨネーズ)は、内容物の溶存酸素の挙動が制限されるため、容器内の部位により酸化の程度が異なることが知られている。例えば、開封後に直接空気に触れる口部や、ボトル内表面は特に酸化されやすい。ボトルと内容物とが接する界面においては、ボトル内表面に吸着した空気、内容物の充填時にボトルと内容物との隙間にトラップされる空気、およびボトルを透過して侵入する空気によって酸化が生じる。
【0075】
5.2.酸化の防止方法
ところで、食品中での鉄イオンや銅イオン等の金属イオンによる酸化を防止する方法としては、例えば、(i)原料中から金属イオンを可能な限り除去する方法と、(ii)食品中に存在する金属イオンを不活性化する方法との2つが考えられる。
【0076】
(i)によれば、優れた酸化防止効果が得られる。しかしながら、(i)の方法の場合、栄養面において重要なミネラル分である金属イオンが食品中から除去されてしまうため、食品としての価値が低下する。一方、(ii)によれば、栄養面において重要なミネラル分である金属イオンを除去することなく酸化防止効果が得られるため、保存性を向上させることができ、かつ風味劣化および乳化安定性低下を防止することができる。この点で、(ii)の方法は優れた方法であるといえる。
【0077】
特に、(ii)の鉄イオン等を不活性化させる方法として、EDTAに代表される合成キレート剤(食品添加物)を添加する方法が広く知られている。この方法によれば、特に低pH領域においても強力なキレート効果を有する。このため、欧米では、酸性水中油型乳化食品(例えばマヨネーズ)の酸化防止のために、一般的に、EDTAのような合成キレート剤が使用されている。
【0078】
しかしながら、合成キレート剤は一般に作用が強力であるため、生体内においても有用ミネラル類(カルシウム、マグネシウムなど)との間で結合状態を維持する。すなわち、合成キレート剤がこれらの有用ミネラル類が栄養成分として生体内に吸収されるのを阻害するため、これらの有用ミネラル類が生体内で利用されるのを阻害する。このため、安全性の面から、各国の法規制において合成キレート剤の使用用途や添加量の上限が定められている場合が多い。さらに、近年の消費者は、合成キレート剤のような化学物質が使用された食品を避ける傾向がある。
【0079】
5.3.本発明の作用効果
本発明の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、酸化の進行を抑制することができる。その作用機序について詳細は不明であるが、以下のメカニズムによって酸化の進行が抑制されると推察される。
【0080】
卵白加水分解物は、本発明の酸性水中油型乳化食品中において、鉄イオン等の金属イオンとキレートを形成していると考えられる。すなわち、本発明の酸性水中油型乳化食品中では卵白加水分解物によって金属イオンが捕捉されているため、金属イオンによる触媒作用が制限される。これにより、上述の酸化メカニズムにおいて2次酸化生成物の産生が中断され、上述の連鎖反応による油脂の劣化の拡大が抑えられる。その結果、酸化の進行を抑制することができる。さらに、卵白加水分解物は、本発明の酸性水中油型乳化食品中において、油脂の酸化により生じるラジカルおよび過酸化物、ならびに前記ラジカルや前記過酸化物より生じる活性酸素の消去に関与していると考えられる。すなわち、本発明の酸性水中油型乳化食品中では卵白加水分解物によって、前記ラジカル、前記過酸化物、および活性酸素が消去されることにより、上述の連鎖反応を中断させることができる。したがって、この機構によっても、油脂の劣化を防止することができる。
【0081】
さらに、酸化の進行が抑制されることにより、乳化破壊を防止することができるため、分離を防止することができる。さらに、この卵白加水分解物は、天然食品成分である卵白由来であるため、生体内で容易に消化吸収される。このため、金属イオンの生体内での利用を阻害することがない。
【0082】
以上により、本発明の酸性水中油型乳化食品によれば、優れた抗酸化作用を有するうえに、天然食品成分である卵白由来であるため、安全性に優れている。本発明の酸性水中油型乳化食品によれば、生体内に影響を及ぼす可能性がある合成キレート剤のような化学物質を添加せずに酸化の進行を抑制することができる点からも、安全性に優れているといえる。
【0083】
また、例えば、本発明の酸性水中油型乳化食品が可撓性容器に保存されている場合や、半固形状の物性を有する場合においても、酸化の進行を効果的に抑制することができるため、容器の内表面と内容物との間の界面で分離が発生するのを防止することができる。
【0084】
特に、本発明の酸性水中油型乳化食品のpHが酸性であり、かつ卵黄を含む場合(すなわち、本発明の酸性水中油型乳化食品が例えばマヨネーズまたはドレッシングである場合)、優れた酸化進行抑制効果を発揮することができる。その理由を以下に説明する。
【0085】
卵黄中には通常、鉄イオンが約60ppmと高濃度に含まれている。しかしながら、卵黄では通常、上述した鉄イオンを介した酸化反応は進行しにくい。なぜなら、卵黄のpHは通常pH6〜7であり、このpH範囲においては、卵黄中に含まれるリンタンパク質(ホスビチン)が鉄イオンと強力にキレートを形成しているため、鉄イオンによる酸化反応が進行しにくいと考えられるからである。
【0086】
しかしながら、本発明の酸性水中油型乳化食品が例えば食酢などの酸性成分を含む場合、pHが3〜4となる。このpH範囲では、ホスビチンの3次構造が変化する結果、卵黄中でホスビチンにキレートされている鉄イオンの一部が遊離し、この遊離の鉄イオンにより酸化が促進されると考えられる。よって、風味劣化が進行し、乳化安定性が低下する。
【0087】
これに対して、本発明の酸性水中油型乳化食品によれば、上述のように、卵白加水分解物が鉄イオンを捕捉するため、本発明の酸性水中油型乳化食品のpHが酸性であり、かつ卵黄を含む場合であっても、優れた酸化進行抑制効果を発揮することができる。
【0088】
また、本発明の酸性水中油型乳化食品が卵白加水分解物を含むことにより、風味劣化および乳化安定性低下を防止することができる。特に、本発明の酸性水中油型乳化食品のpHが3〜4である場合(例えば、マヨネーズ類やドレッシング類等)、酸化により不快な酸化臭および風味劣化が生じることがある。これに対して、本発明の酸性水中油型乳化食品によれば、酸化進行抑制作用により、酸化臭および風味劣化の発生を防止することができる。
【0089】
さらに、本発明によれば、酸性水中油型乳化食品が酸化されやすい油脂(例えば、魚油、肝油、アマニ油、シソの実油)を含む場合であっても、酸化の進行を効果的に抑制することができる。
【0090】
6.実施例
次に、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%は、特記しない限りそれぞれ質量%であることを示している。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0091】
6.1. 実施例1(卵白加水分解物の製造方法)
6.1.1. 調製例1
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、この液卵白にAspergillus oryzae起源の中性プロテアーゼ(商品名「スミチームFP」、新日本化学工業(株)製)200gを添加し、液温を45℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら8時間酵素処理を行った。次いで、得られた酵素処理液をニーダーにて液温97℃で10分間処理した後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、15.7kgの卵白加水分解物を白色粉末として得た。得られた卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は9.9であった。
【0092】
6.1.2. 調製例2
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、イースト(オリエンタル酵母(株)製)300gを添加し、液温を35℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら4時間脱糖処理を行った。次いで、得られた脱糖処理液にAspergillus melleus起源の中性プロテアーゼ(商品名「プロテアーゼP(アマノ)」、天野エンザイム(株)製)300gを添加し、液温を50℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら12時間酵素処理を行った。さらに、得られた酵素処理液をニーダーにて97℃で10分間処理した後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、16.3kgの卵白加水分解物を白色粉末として得た。得られた卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は10.9であった。
【0093】
6.1.3. 調製例3
液卵白(キユーピー(株)製)180kgをタンクに投入し、クエン酸を用いてpH7に調整した。次に、イースト(オリエンタル酵母(株)製)300gを添加し、液温を35℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら4時間脱糖処理を行った。その後、液温を65℃まで昇温した後、65℃にて30分間攪拌した。次いで、得られた脱糖処理液にAspergillus oryzae起源の中性プロテアーゼ(商品名「デナチームAP」、ナガセケムテックス(株)製)150gおよびパパイン(商品名「食品用精製パパイン」、ナガセケムテックス(株)製)150gを添加し、液温を55℃に保持して、ゆっくり撹拌しながら6時間酵素処理を行った。さらに、得られた酵素処理液をニーダーにて97℃で10分間処理した後、10℃以下に冷却し、スプレードライを行った。これにより、13.7kgの卵白加水分解物を白色粉末として得た。得られた卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は11.3であった。
【0094】
6.1.4. 調製例4
酵素処理時間を6時間から12時間に変更した以外は、上記調製例3と同様の操作を行なって、酵素処理液を得た。この酵素処理液を10℃以下に冷却し、連続遠心分離機で固液分離処理を行なった。ここで得られた液部を珪藻土で濾過を行ない、得られた澄明な濾液をスプレードライして、9.9kgの白色粉末を得た。得られた卵白加水分解物のホルモル滴定による分解度は13.2であった。
【0095】
6.1.5. 水可溶性画分および水不溶性画分の測定
上記調製例1〜4において、卵白加水分解物を含む液(スプレードライを行なう前の酵素処理液)を所定量分取し、遠心分離(3000g×10分間)を行なうことにより、水可溶性画分および水不溶性画分に分離した。次に、各調製例について、各画分を凍結乾燥し、その重量を測定し、質量比率(水可溶性画分および水不溶性画分の総質量に対する各画分の質量)を求めた。
【0096】
以上の方法により求められた、調製例1〜4で得られた卵白加水分解物における水可溶性画分および水不溶性画分の質量比率を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
また、上記方法により得られた調製例3の卵白加水分解物中の水可溶性画分および水不溶性画分について、前述の方法で分析を行なったところ、水可溶性画分に含まれているポリペプチドの平均分子量は約800であったのに対して、水不溶性画分に含まれているタンパク質は、分子量が数百から3万であり、幅広い分子量分布を示していた。また、乾燥させた不溶性画分の粒子径は1〜100μmであった。
【0099】
6.2. 実施例2(卵白加水分解物の抗酸化活性の評価)
6.2.1. 試験方法
本実施例においては、卵白加水分解物として調製例2で得られた卵白加水分解物を使用した。また、試験に際しては、調製例2で得られた卵白加水分解物をイオン交換水にて希釈して、卵白加水分解物の濃度が0.005g/mlである卵白加水分解物水溶液を調製し、これを使用した。
【0100】
殻付き鶏卵から卵白および卵殻を分離して得られた卵黄の配合比率が0.03g/mlになるようにイオン交換水にて希釈し、その後、液温が60℃に達するまで加熱殺菌した後、10℃以下に冷却することにより、pH6.9の卵黄希釈液を調製した。また、この卵黄希釈液の一部を分取し、氷酢酸(食品添加物)を用いてpH4.0の卵黄希釈液を調製した。
【0101】
次いで、表2に示される配合にしたがって、各成分の合計が10mlである各試験液をネジ口試験管に加えた。撹拌後、ネジ口をわずかに開けた状態(大気の供給有り)で液温を55℃に保持して、相対蛍光強度(3次酸化生成物)を指標として、経時的な酸化進行を評価した。その評価結果を表3に示す。また、表3に示される評価結果に基づいて、卵白加水分解物の配合量と相対蛍光強度との関係を示したのが図2である。
【0102】
比較例3で使用したEDTA・Ca・2Na(EDTA−NaCa・2水和物)は、丸善薬品工業(株)より市販されている食品添加物(酸化防止剤;商品名「ディゾルビンE−CA−10」)である。
【0103】
本実施例において、各試験液の卵黄の配合量(固形分換算)は100mgであり、この卵黄に含まれる鉄イオンは250nmolであった。また、比較例3において用いたEDTA・Ca・2Na水溶液に含まれるEDTA・Ca・2Naは250nmolであることから、各試験液における卵黄の鉄イオンとEDTA・2Ca・Naとはほぼ等モル数であった。
【0104】
6.2.2. 評価方法
容積10mlのネジ口試験管に溶液200μlを経時的に採取し、ジエチルエーテル:エタノール(1:3)の混合液を加えて振とう抽出した。3,000rpmで5分間遠心分離した後、その上清を試料溶液とした。
【0105】
相対蛍光強度:石英セルにいれ、蛍光分光光度計(型名「U−3210」、(株)日立製作所製)にてEx360nm,Em440nmの蛍光強度を測定した。ただし、各蛍光強度は、標準溶液(標準溶液は、1μgの硫酸キニーネを0.05mol/l硫酸水溶液1mlに溶解させて得られた)の同条件での蛍光強度を1,000とした場合の相対蛍光強度で示した。また、蛍光強度は、試料溶液を調製後、55℃にて1日間、2日間、および6日間静置した後にそれぞれ測定された。
【0106】
6.2.3. 評価結果
表3および図2に示されるように、55℃で6日間試料溶液を保持した後において、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、1000μg/mlの卵白加水分解物水溶液の相対蛍光強度は、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、25nmol/mlのエチレンジアミン四酢酸・カルシウム・2ナトリウム水溶液の相対蛍光強度より低いことが明らかになった。
【0107】
相対蛍光強度が低いほど、3次酸化生成物の生成量が少ないことを示す。また、試料溶液において、3次酸化生成物の生成量が少ないほど、抗酸化活性が高いといえる。これにより、55℃で6日間試料溶液を保持した後において、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、1000μg/mlの卵白加水分解物水溶液の抗酸化活性は、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、25nmol/mlのエチレンジアミン四酢酸・カルシウム・2ナトリウム水溶液の抗酸化活性と同等以上であることが明らかになった。
【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
6.3. 実施例3(酸性水中油型乳化食品の抗酸化作用の評価)
6.3.1. 試験方法
本実施例では、実験例5〜8および比較例4,5において、酸性水中油型乳化食品として卵黄型マヨネーズを調製した。各実験例および各比較例における酸性水中油型乳化食品の原料の配合を表4に示す。作製された酸性水中油型乳化食品について、抗酸化作用の評価を行なった。
【0111】
卵白加水分解物は、実施例1の調製例2で調製した卵白加水分解物を使用した。また、比較例5で使用したEDTA・Ca・2Na(EDTA−NaCa・2水和物)は、丸善薬品工業(株)より市販されている食品添加物(酸化防止剤;商品名「ディゾルビンE−CA−10」)であった。
【0112】
実験例5、実験例6、実験例7、および実験例8においてはそれぞれ、卵黄固形分の質量の2%、10%、20%、30%に相当する質量の卵白加水分解物を配合した。また、比較例4においては、原料の合計質量の4.5%に相当する質量の卵黄(固形分換算)を配合した。比較例5においては、原料の合計質量の0.01%(卵黄固形分の0.22%に相当)に相当する質量のEDTA・Ca・2Naを配合した。
【0113】
表4において、10%加塩卵黄は、卵黄と食塩との質量比が9:1の割合にて食塩が添加された卵黄である。また、食酢は、酸度が4%のものを用いた。
【0114】
【表4】

【0115】
表4に示される配合のうち、まず、卵白加水分解物および10%加塩卵黄(比較例4の場合10%加塩卵黄のみ、比較例5の場合卵白加水分解物のかわりにEDTA・Ca・2Na)を混合した。次に、この混合液に食塩、食酢、およびグルタミン酸ナトリウムを混合した。次いで、これに食用植物油脂および辛子粉を添加し、ホバートミキサーで予備乳化した。さらに、コロイドミルを用いて精乳化を行なうことにより、酸性水中油型乳化食品(卵黄型マヨネーズ)を調製した。
【0116】
得られた酸性水中油型乳化食品をそれぞれ、容量200gのナイロンポリエチレン袋に充填シールした後、55℃に保持して遮光下で7日間の保存を行った。
【0117】
6.3.2. 評価方法
実験例5〜8および比較例4,5で調製された7日間保存後の酸性水中油型乳化食品について、以下に説明する手順にて抗酸化作用および官能評価を行なった。
【0118】
i)自動酸化指標
一般的なブライダイヤー法(Bligh & Dyer method)を用いて、7日間保存後の酸性水
中油型乳化食品から脂質成分を抽出し、この脂質成分を試料溶液とした。
【0119】
i−1)過酸化物価(POV)
過酸化物価は上述したように、1次酸化生成物の生成の指標となる(図1参照)。本実施例においては、試料溶液について、電位差−電量法により、飯島電子工業(株)製POV計IP200を使用して過酸化物価(POV)を測定した。
【0120】
i−2)アニシジン価
アニシジン価は上述したように、図1に示される2次酸化生成物の生成の指標となる(図1参照)。本実施例においては、基準油脂試験法2.3.5−1996にしたがってアニシジン価を測定した。
【0121】
ii)官能評価
7日間保存後のマヨネーズを15名の風味パネルにより評価した。
【0122】
コントロールとして、遮光下にて5℃で7日間保存したものの風味を7点とした場合の各試料の風味を評価した。すなわち、本官能評価においては、点数が高いほど、風味劣化の度合いが少ないといえる。
【0123】
6.3.3. 評価結果
測定されたPOVおよびアニシジン価を表5に、官能評価の結果を表6にそれぞれ示す。
【0124】
【表5】

【0125】
表5によれば、実験例5〜8の酸性水中油型乳化食品は卵白加水分解物を含むことにより、保存中のPOV(1次酸化生成物)およびアニシジン価(2次酸化生成物)上昇が抑制されたことが確認された。これらの抗酸化作用は、卵白加水分解物の濃度依存的であった。
【0126】
また、実験例6,7の酸性水中油型乳化食品には、卵黄固形分の10%、20%に相当する質量の卵白加水分解物が配合されている。実験例6,7の酸性水中油型乳化食品における抗酸化作用は、比較例7の酸性水中油型乳化食品における抗酸化作用と同様であった。比較例7の酸性水中油型乳化食品には、卵黄固形分の0.22%に相当する質量のEDTAが配合されており、このEDTAの濃度は、市販マヨネーズに一般的に配合されている濃度と近い濃度である(市販マヨネーズでは一般に、マヨネーズ1kgに対して約75mgのEDTAが配合されている)。
【0127】
【表6】

【0128】
表6によれば、実験例5〜8の酸性水中油型乳化食品が卵白加水分解物を含むことにより、風味劣化を抑制し、かつ呈味を改善できることが確認された。
【0129】
特に、実験例6の酸性水中油型乳化食品において、最も高い風味評価が得られた。すなわち、実験例6の酸性水中油型乳化食品によれば、比較例7の酸性水中油型乳化食品よりも高い風味評価が得られた。これにより、本発明の酸性水中油型乳化食品において、卵白加水分解物の配合量が卵黄固形分の10%である場合、風味劣化を防止するだけでなく、コク味を増加させる効果や酸味を抑制する効果(酢のツンツン感を緩和してマイルドにする効果)も得ることができることが確認された。
【0130】
さらに、実験例5の酸性水中油型乳化食品において、卵黄固形分に対する卵白加水分解物の質量が1となるように卵白加水分解物を配合して、酸性水中油型乳化食品を調製し、本実施例と同様の評価を行った。その結果、抗酸化性については同様の結果が得られ、卵白特有の風味がごくわずか感じられたが、美味しい酸性水中油型乳化食品が得られた。
【0131】
6.4. 実施例4(酸性水中油型乳化食品の製造方法)
実施例3の実験例6のうち、食用植物油脂7,500gを菜種油6,500gおよび精製魚油1,000gに置き換えたうえで、実験例5〜8の酸性水中油型乳化食品の調製と同様の方法にて、実施例4の魚油入り酸性水中油型乳化食品を調製した。本実施例で用いられた精製魚油は、DHA25%およびEPA12%を含み、かつ、オメガ3(n−3)油脂として約40%含有油脂(例えば、マヨネーズ15g当たりオメガ3油脂を約600mg含む。)である。
【0132】
得られた酸性水中油型乳化食品をアルミ小袋に1食分(15g)ずつ充填して、室温で3ヵ月保存した後、開封して風味を確認した。その結果、酸化劣化による魚臭さなどが気にならず、良好な風味であった。
【0133】
以上の結果から、実施例4の酸性水中油型乳化食品によれば、より酸化されやすい成分(EPA,DHA)が配合されている場合であっても、含有成分である卵白加水分解物による抗酸化作用が認められた。
【0134】
さらに、本実施例の酸性水中油型乳化食品において、卵黄固形分に対する卵白加水分解物の質量が1となるように卵白加水分解物を配合して、酸性水中油型乳化食品を調製し、本実施例と同様の評価を行った。その結果、抗酸化性については同様の結果が得られ、卵白特有の風味がごくわずか感じられたが、美味しい酸性水中油型乳化食品が得られた。
【0135】
6.5. 実施例5(酸性水中油型乳化食品の調製方法)
6.5.1. 試験方法
本実施例においては、実験例9,10および比較例8,9において、酸性水中油型乳化食品として乳化液状ドレッシング(卵黄配合)を調製した。各実験例および各比較例における酸性水中油型乳化食品の原料の配合を表7に示す。調製された乳化液状ドレッシングについて、抗酸化作用の評価を行なった。
【0136】
卵白加水分解物は、実施例1の調製例2で調製された卵白加水分解物を使用した。また、比較例9で使用したEDTA・Ca・2Na(EDTA−NaCa・2水和物)は、丸善薬品工業(株)より市販されている食品添加物(酸化防止剤;商品名「ディゾルビンE−CA−10」)であった。
【0137】
実験例9,10および比較例8,9においては、固形分換算で、原料の合計質量の0.45%に相当する質量の卵黄を配合した。また、実験例9,10においてはそれぞれ、卵黄固形分の11%、44%に相当する質量の卵白加水分解物を配合した。さらに、比較例9においては、原料の合計質量の0.01%(卵黄固形分の22%に相当)に相当する質量のEDTA・Ca・2Naを配合した。
【0138】
表6において、10%加塩卵黄、辛子粉および食酢は、実施例3で使用したものと同じものを用いた。また、キサンタンガムは、商品名「エコーガム」(大日本製薬(株)製)を用いた。
【0139】
また、各実験例および各比較例における、原料の総質量および卵黄固形分にそれぞれ対する卵白加水分解物の質量と、原料の総質量および卵黄固形分にそれぞれ対するEDTAの質量比とを表8に示す。
【0140】
【表7】

【0141】
【表8】

【0142】
表7に示される配合のうち、まず、卵白加水分解物、ショ糖脂肪酸エステル、MSGおよび10%加塩卵黄(比較例8の場合10%加塩卵黄のみ、比較例9の場合卵白加水分解物のかわりにEDTA・Ca・2Na)を混合した。次に、この混合液に残りの原料を添加して、簡易ミキサーを用いて乳化を行なうことにより、酸性水中油型乳化食品(乳化液状ドレッシング)を調製した。
【0143】
得られた酸性水中油型乳化食品をそれぞれ、容量200gのガラスビンに充填シールした後、25℃に保持して遮光下で4ヶ月間の保存を行った。
【0144】
6.5.2. 評価方法
実験例9,10および比較例8,9で調製された4ヶ月間保存後の酸性水中油型乳化食品について、以下に説明する手順にて抗酸化作用の評価および官能評価を行なった。
【0145】
i)自動酸化指標(過酸化物価(POV))
本実験例においては、実施例3で用いた方法と同様の方法により、4ヶ月間保存後の酸性水中油型乳化食品から脂質成分を抽出し、この脂質成分を試料溶液とした。この試料溶液について過酸化物価(POV)を測定した。
【0146】
ii)官能評価
4ヶ月間保存後のマヨネーズを8名の風味パネルにより評価した。
【0147】
コントロールとして、遮光下にて5℃で7日間保存したものの風味を7点とした場合の各試料の風味を評価した。すなわち、官能評価において、点数が高いほど、風味劣化の度合いが少ないといえる。
【0148】
6.5.3. 評価結果
測定されたPOVを表9に、官能評価の結果を表10にそれぞれ示す。
【0149】
【表9】

【0150】
【表10】

【0151】
以上の結果から、実験例9,10の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、比較例8,9の酸性水中油型乳化食品と比較して、低いPOVが得られた。また、実験例9,10の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、比較例8の酸性水中油型乳化食品と比較して、良好な官能評価結果が得られた。これにより、実験例9,10の酸性水中油型乳化食品に含まれる卵白加水分解物の抗酸化作用および風味劣化抑制効果(呈味改善効果)が認められた。
【0152】
特に、表8〜表10に示される結果から、実験例9,10の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を0.05質量%以上(より好ましくは0.2質量%以上)含むことにより、優れた抗酸化作用および風味劣化抑制効果(呈味改善効果)を有することが理解できる。
【0153】
6.6. 実施例6(酸性水中油型乳化食品の調製方法)
6.6.1. 試験方法および評価方法
本実施例においては、実験例11,12および比較例10,11において、酸性水中油型乳化食品として、卵黄が配合されていない乳化液状ドレッシングを調製した。より具体的には、実施例5において、配合中の10%加塩卵黄100gをショ糖脂肪酸エステル(商品名「S−1670{HLB=16}」、三菱化学フーズ(株)製)40gに置き換えた以外は、実施例5で用いられた方法と同様の条件で試験を行った。すなわち、10%加塩卵黄100gがショ糖脂肪酸エステル40gに置き換えられた点を除いて、本実施例の実験例11は実施例5の実験例9の配合と同じであり、本実施例の実験例12は実施例5の実験例10の配合と同じであり、本実施例の比較例10は実施例5の比較例8の配合と同じであり、かつ、本実施例の比較例11は実施例5の比較例9の配合と同じである。
【0154】
調製された乳化液状ドレッシングについて、実施例5で用いられた方法と同様に抗酸化作用の評価を行なった。
【0155】
6.6.2. 評価結果
測定されたPOVを表11に、官能評価の結果を表12にそれぞれ示す。
【0156】
【表11】

【0157】
【表12】

【0158】
以上の結果から、実験例11,12の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、比較例10の酸性水中油型乳化食品よりも低いPOVが得られ、かつ、比較例11の酸性水中油型乳化食品と同等のPOVが得られた。また、実験例11,12の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を含むことにより、比較例10の酸性水中油型乳化食品と比較して、良好な官能評価結果が得られた。これにより、実験例11,12の酸性水中油型乳化食品に含まれる卵白加水分解物の抗酸化作用および風味劣化抑制効果(呈味改善効果)が認められた。
【0159】
特に、表11および表12に示される結果から、実験例11,12の酸性水中油型乳化食品によれば、卵白加水分解物を0.05質量%以上(より好ましくは0.2質量%以上)含むことにより、優れた抗酸化作用および風味劣化抑制効果(呈味改善効果)を発揮することが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】油脂の酸化機構および酸化評価方法を説明する図である。
【図2】実施例2において、卵白加水分解物の配合量と相対蛍光強度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白加水分解物を含む、酸性水中油型乳化食品。
【請求項2】
請求項1において、
卵黄をさらに含む、酸性水中油型乳化食品。
【請求項3】
請求項2において、
前記卵黄固形分に対する前記卵白加水分解物の質量が、0.01以上である、酸性水中油型乳化食品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記卵白加水分解物は、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる、酸性水中油型乳化食品。
【請求項5】
請求項4において、
前記卵白加水分解物は、さらにパパインで処理して得られる、酸性水中油型乳化食品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記卵白加水分解物が下記の特性を有する、酸性水中油型乳化食品:
pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、1000μg/mlの卵白加水分解物水溶液の抗酸化活性が、pH4に調整され、かつ10mg/ml(固形分換算)の卵黄を含む、25nmol/mlのエチレンジアミン四酢酸・カルシウム・2ナトリウム水溶液の抗酸化活性と同等以上である。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記卵白加水分解物は、0〜50質量%の水不溶性画分を含む、酸性水中油型乳化食品。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記卵白加水分解物を0.05質量%以上含む、酸性水中油型乳化食品。
【請求項9】
卵白加水分解物の存在下で、水相成分および油相成分を乳化する工程を含む、酸性水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記卵白加水分解物を卵黄に予め添加してから、前記乳化工程を行なう、酸性水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項11】
卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む、抗酸化材。
【請求項12】
卵白をアスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼで処理して得られる卵白加水分解物を含む、呈味改善材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−187277(P2006−187277A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333058(P2005−333058)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】