説明

酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法、脱一酸化炭素化された酸素運搬体、その医薬組成物及び脱一酸化炭素化装置

【課題】ヘモグロビンの酸素運搬機能を長期にわたり失活させないためになされた一酸化炭素化酸素運搬体を、使用に際して解除すべく脱一酸化炭素化処理を行う酸素運搬体含有水溶液の処理方法および処理装置の提供。
【解決手段】中空糸型分離膜を介して、一酸化炭素化された酸素運搬体溶液(ヘモグロビン内包型リポソーム、ヘモグロビン溶液、ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体など)と酸素溶存溶液を配し、その配置部分に光を照射する酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法および脱一酸化炭素化処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素運搬体の処理方法に関する。更に詳しくは、ヘモグロビンの酸素運搬機能を長期に亘り失活させないためになされた酸素運搬体の一酸化炭素化を、使用に際して解除すべく脱一酸化炭素化処理を行なうという酸素運搬体含有水溶液の処理方法と処理された酸素運搬体及びその処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素運搬体は、天然の酸素運搬体と人工酸素運搬体が存在する。天然の酸素運搬体としては、ヒト由来、ウシ由来若しくはその他生物由来等を含むヘモグロビン、ヒト由来、ウシ由来若しくはその他生物由来等を含む濃厚赤血球やミオグロビン又は魚類由来、その他生物由来等を含むヘモシアニンといった酸素運搬体が挙げられる。また、人工酸素運搬体としては、修飾ヘモグロビン、ヘモグロビン内包型リポソームといった天然の酸素運搬体を利用した高機能な酸素運搬体や、ポルフィリン誘導体も含むポルフィリン金属錯体をアルブミン、アルブミン二量体、アルブミン多量体に包接させた化合物やパーフルオロカーボンといった完全合成型酸素運搬体、遺伝子組換え技術により得られる遺伝子組換えヘモグロビン、遺伝子組換え修飾ヘモグロビン、修飾型遺伝子組換えヘモグロビン、遺伝子組換えヘモグロビン内包型リポソーム等の遺伝子組換え型酸素運搬体が挙げられ、人や種々の動物の赤血球に代替しうる。
【0003】
これらの酸素運搬体は、医療分野において虚血部位や腫瘍組織への酸素供給用、大量出血患者の輸血用、臓器保存還流液用、体外循環液用さらには細胞培養用等に利用される(例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1)。
【0004】
ポルフィリン金属錯体としては、2−[8−(2−メチル−1−イミダゾリル)オクタノイルオキシメチル]−5,10,15,20−テトラキス[α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル]ポルフィナト錯体及びプロトポルフィリン誘導体が挙げられる(非特許文献2)。
ヘモグロビン内包型リポソームは、脂質2分子膜からなるリポソームの内層にヘモグロビンを内包したものであり、様々な調整法や検討が行われている(特許文献1)。
【0005】
酸素運搬体は、酸素運搬体分子中に含まれるヘム鉄を含む中心金属の原子価が2価の状態でのみ酸素運搬機能を有し、ヘム鉄が酸化され3価となったすなわちメト化されたメト化人工酸素運搬体は、酸素運搬機能を持たない。従って、メト化人工酸素運搬体の生成を防止する必要があり、その方法の一つとして人工酸素運搬体分子中のヘム鉄と一酸化炭素とを錯体形成、すなわち人工酸素運搬体を一酸化炭素化して安定化することが知られている(例えば、非特許文献3)。
【0006】
このヘム鉄と一酸化炭素とを錯体形成させ安定化した一酸化炭素化人工酸素運搬体は、酸素運搬機能を有さない。そのため赤血球代替品として使用する前に、人工酸素運搬体分子中のヘム鉄と錯体を形成している一酸化炭素を外し、すなわち脱一酸化炭素化して、人工酸素運搬体の酸素運搬機能を回復させる必要がある。
【0007】
一酸化炭素化人工酸素運搬体を脱一酸化炭素化し酸素運搬機能を回復させる方法としては、丸底フラスコにその容量に対し1/100程度の容量の人工酸素運搬体溶液を入れ、氷浴中において200Wの光を照射し、回転させながら10分間酸素を吹き込む方法が知られている(例えば、非特許文献4)。
【0008】
また、その改良法として、多孔性中空糸膜から成る中空糸すなわちホローファイバーを使用し、前記中空糸膜を介してその一方側から酸素ガス圧をかけるとともに、前記中空糸膜の反対側から一酸化炭素化人工酸素運搬体含有水溶液を流通させ、光照射下該水溶液中の人工酸素運搬体を脱一酸化炭素化する処理方法が知られている(例えば、特許文献3)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−307404号公報 段落「0008」、或いは段落「0009」、ヘモグロビン内包型リポソームの調整法について段落「0039」の「実施例」
【特許文献2】特開2004−277329号公報 段落「0002」、段落「0003」
【特許文献3】特開平06−329550号公報 段落「0008」等
【非特許文献1】小松ら、人工血液、第6巻、110−114ページ、1998 第111頁左欄第16〜19行
【非特許文献2】Bioconjugate Chem., vol.13, p397-402, 2002
【非特許文献3】Methods in ENZYMOLOGY, vol.76, HEMOGLOBINS, ACADEMIC PRESS, p9,1981
【非特許文献4】Methods in ENZYMOLOGY, vol.76, HEMOGLOBINS, ACADEMIC PRESS, p164,1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の一酸化炭素化酸素運搬体の酸素運搬機能を回復させる方法、例えば丸底フラスコによる処理では都度一酸化炭素化酸素運搬体の仕込みと回収を行う回分法であることから生産性が低い。
【0011】
また、丸底フラスコによる処理においてもホローファイバーを使用した改良法においても、酸素をガスとして供給していることから、人工酸素運搬体の溶媒飛散に伴う濃縮が生じ、蛋白等の変性が生じることとなる。同時に、ホローファイバー膜の表面では溶媒飛散に伴う乾燥が生じ、ホローファイバー膜の透過性能等の低下が生じる。
【0012】
更には、酸素ガスとしては熱交換率が低いことから光照射による熱蓄積が生じやすくなり、熱によるホローファイバー膜の劣化や人工酸素運搬体の変性が生じることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、本発明者らは鋭意検討した結果、一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素を溶存させた溶液とを分離膜を介して配置し、その配置部分に光を照射することで、脱一酸化炭素化された酸素運搬体を得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明は、
(1) 分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置し、その配置部分に光を照射する酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法。
(2) 分離膜が中空糸型分離膜である(1)記載の酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法。
(3) 分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液が配置され、その配置部分に光を照射されて脱一酸化炭素化された酸素運搬体。
(4) 酸素運搬体がヘモグロビン内包型リポソーム、ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、ヘモグロビン溶液、分子架橋型ヘモグロビン、ヘモグロビン重合体、或いはポリエチレングリコール(以下、PEGと略記)修飾型ヘモロビン重合体の群から選ばれる1又は2種以上の組み合わせである(3)記載の酸素運搬体。
(5) 還元剤、電解質類、糖類、pH調整剤、等張化剤、膠質浸透圧を付与する高分子物質から選ばれる1又は2種以上の薬剤と、(3)記載の酸素運搬体とからなる医薬組成物。
(6)分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置する分離膜であって、その配置部分に光を照射する、酸素運搬体の脱一酸化炭素化用分離膜。
(7)(6)記載の脱一酸化炭素化用分離膜を内蔵した分離膜モジュール。
(8)分離膜が光照射部位のみに配置された(7)記載の分離膜モジュール。
(9)分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置する分離膜と、その配置部分に光を照射する光源と、各溶液を送液するポンプからなる酸素運搬体の脱一酸化炭素化装置。
に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置し、その配置部分に光を照射する酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法により、酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性が生じないようにできる。同時に、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下を無くすことができる。
【0016】
更には、各溶液間の熱交換率が高いことから光照射による熱蓄積が生じにくく、熱による分離膜の劣化や酸素運搬体の変性が生じないようにできる。
また、分離膜を用いることから、酸素運搬体の脱一酸化炭素化処理を連続的に行う装置系も設計できることから、従来の例えば丸底フラスコによる処理のような回分法に比べて生産性を高めることができる。
【0017】
更に、光照射により光が透過する表面部にのみ分離膜を配置させることにより、酸素運搬体が光照射部を通過するため、より効率よく脱一酸化炭素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置しその配置部分に光を照射する酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法、得られた脱一酸化炭素化酸素運搬体、脱一酸化炭素化するための装置に係るものである。
【0019】
本発明の方法を実施するには、例えば図1に示すような一酸化炭素化酸素運搬体溶液を循環させる装置系、すなわち酸素運搬体循環容器1、酸素溶存溶液循環容器2、中空糸型膜モジュール3、光源4、酸素運搬体循環ポンプ5、酸素溶存溶液循環ポンプ6、酸素溶存溶液供給ポンプ7及び酸素供給ライン8、流量調節バルブ9から構成されるものが挙げられる。
【0020】
図1に示すような装置系では、酸素運搬体循環容器1からポンプで送液される一酸化炭素化酸素運搬体は、中空糸型膜モジュール3で酸素溶存溶液循環容器2から送液される酸素溶存溶液と光源4からの光により脱一酸化炭素化され、その後酸素運搬体循環容器1へ戻される。
【0021】
一方、酸素溶存溶液循環容器2からポンプで送液される酸素溶存溶液は、中空糸型膜モジュール3内に酸素を供給すると共に酸素運搬体より一酸化炭素を受け、その後酸素溶存溶液循環容器2へ戻される。戻された一酸化炭素を含む溶液中の一酸化炭素は、酸素供給ライン8からの酸素ガスにより酸素の補充と共に気体排出ライン8’より排出がなされる。
【0022】
その他に本発明の方法を実施するには、例えば図4に示すような一酸化炭素化酸素運搬体溶液を循環させることなく連続的に回収する装置系、すなわち酸素運搬体貯蔵容器17、酸素溶存溶液循環容器18、中空糸型膜モジュールA19、中空糸型膜モジュールB20、中空糸型膜モジュールC21、光源A22、光源B23、光源C24、酸素運搬体供給ポンプ25、酸素溶存溶液循環ポンプ26、酸素供給ライン27及び脱一酸化炭素酸素運搬体回収容器28から構成される装置系が挙げられる。この装置系では、脱一酸化炭素化酸素運搬体が連続的に回収できることから、その生産効率を飛躍的に高めることができる。
【0023】
以上、図1、図4を例として装置系を例示したが、本発明はもちろんこれらに限定されるものではない。
【0024】
本発明に用いる酸素運搬体は、例えば天然の酸素運搬体としては、含まれるヘム鉄の原子価が2価の状態で酸素運搬機能を有するヒト由来、ウシ由来若しくはその他生物由来等を含むヘモグロビン、ヒト由来、ウシ由来若しくはその他生物由来等を含む濃厚赤血球やミオグロビン又は魚類由来、その他生物由来等を含むヘモシアニンといった酸素運搬体が挙げられる。
また、人工酸素運搬体としては、修飾ヘモグロビン、ヘモグロビン内包型リポソームといった天然の酸素運搬体を利用した高機能な酸素運搬体や、ポルフィリン誘導体も含むポルフィリン金属錯体をアルブミン、アルブミン二量体、アルブミン多量体に包接させた化合物やパーフルオロカーボンといった完全合成型酸素運搬体、分子架橋型ヘモグロビンやヘモグロビン重合体、PEG修飾型ヘモグロビン重合体などの各種修飾ヘモグロビンや、ヘム錯体をアルブミンに包接させた薬物、例えばポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、ポルフィリン金属錯体−アルブミン二量体、ポルフィリン金属錯体−アルブミン多量体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン二量体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン多量体、等が挙げられ、更には遺伝子組換え技術により得られる遺伝子組換えヘモグロビン、遺伝子組換え修飾ヘモグロビン、修飾型遺伝子組換えヘモグロビン、遺伝子組換えヘモグロビン内包型リポソーム等の遺伝子組換え型酸素運搬体が挙げられる。この中、ヘモグロビン内包型リポソームや、PEG修飾型フェニルポルフィナト鉄錯体−アルブミン複合体或いはPEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、遺伝子組換えヘモグロビン内包型リポソームが好ましい。
さらには、上記の酸素運搬体の群から選ばれる1又は2種以上の組み合わされたものであってもよい。
これらの酸素運搬体は一酸化炭素化によって安定化することから、長期保存や加工時に一酸化炭素化される。そして、酸素運搬体として利用するときには、これらの酸素運搬体は脱一酸化炭素化され活性のある状態に、さらには脱酸素化され安定な状態にされる。
【0025】
酸素運搬体の粒子直径は、5nm〜8μm程度が使用でき、赤血球代替品として利用するには5〜450nm程度が好適である。
【0026】
本発明の酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法において、使用する脱一酸化炭素化用分離膜は、形状が平面状でもよく、中空糸状でもよい。分離膜の素材としては、一般に限外ろ過膜やろ過用フィルターに用いられるもの、好ましくはポリスルホン、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン或いはポリリン脂質ポリマー製のものがよい。
【0027】
脱一酸化炭素化用分離膜の膜表面に貫通する孔径は酸素運搬体の粒子直径により選択でき、酸素運搬体よりも小さな孔径が必要である。使用する分離膜の孔径は、通常5000〜0.001nm、更には10〜0.01nmが好適である。分離膜の形態としては光の当たりやすさから平面状膜が有利であるものの、中空糸状のものも挙げられ、特にこだわらない。
【0028】
本発明における分離膜モジュールとは、分離膜の保護と分離性能を維持するための単位をいい、脱一酸化炭素化用分離膜、分離膜を固定・保護するケース(ハウジング)、流路確保のためのコネクター、流路分離・漏液防止のためのパッキン等から成る。分離膜として中空糸を用いた場合中空糸型膜モジュール、平面膜を用いた場合平面膜型モジュールと称す。中空糸型膜モジュールは、中空糸のケース内で配置することにより、分離膜モジュールを平面状とすることも、後述の様な円筒状とすることもできる。
【0029】
分離膜モジュールのケース(ハウジング)は光を透過する素材から成るのが好ましく、少なくとも平面状膜や中空糸膜が配置されるケース部分は、透明または半透明であるのがよい。
【0030】
中空糸型膜モジュールは円筒ケースに中空糸を配置したものが一般的に普及しており、本発明において例えば中空糸型膜モジュールFB−50UGA(ニプロ社製)、FB−210UGA(ニプロ社製)を用いることができる。さらに、分離膜が光照射部位のみに配置されることで、一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液との接触機会を上げ、また光の到達度を上げることで、分離膜モジュールにおける酸素運搬体の脱一酸化炭素化効率を高めることができる。
【0031】
分離膜が光照射部位のみに配置とは、光が分離膜に充分に照射されるように分離膜を配置するということであり、分離膜とケースとの間のデッドスペースを少なくする分離膜の配置や、光の届きにくい分離膜モジュールの中心部分を極力少なくする分離膜の配置などが挙げられる。
【0032】
例えば、上述の円筒状中空糸型膜モジュールにおいて、本体ケース中心部には試料溶液が通過しないように充填物を施すこと(図9)により、有効な中空糸膜をケース円筒側面部から1cm以下の層状にして円筒状ケース(ハウジング)の内表面部に配置することができる。それによって、脱一酸化炭素化を要する酸素運搬体溶液が中空糸型膜モジュール中心部を通過することなく表面部の光照射部にのみ通過するため、効率よく脱一酸化炭素化され好適である。
【0033】
この場合、中空糸型膜モジュールは中空糸膜を予め本体ケース内表面に配置させる改良型でも良いし、通常のダイアライザーの中心部をウレタンなどの水不透過性の樹脂で封止して円筒表面部のみを通過させる改良型でも良いし、また平型のケースに中空糸を1cm以下の平面層状になるように配置した改良型等でも良い。
【0034】
使用する分離膜の形状が平面状である場合の装置系は、例えば図3に示すような平面膜型モジュールを用いた装置系でもよい。すなわち、酸素運搬体循環容器1、酸素溶存溶液循環容器2、平面膜型モジュール3’、光源4、酸素運搬体循環ポンプ5、酸素溶存溶液循環ポンプ6、酸素溶存溶液供給ポンプ7、酸素供給ライン8から構成される。これによって、光源からの光を均一に当てることも可能であり効率的である。
【0035】
本発明の分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置するとは、分離膜を境として一方に一酸化炭素化酸素運搬体溶液が、他の一方に酸素溶存溶液が位置することをいう。この状態において、分離膜は溶媒やイオン、酸素溶存溶液中の溶存酸素や一酸化炭素を分離することなく自由に透過させるが、酸素運搬体の透過を阻止し分離する働きをする。したがって、分離膜を通して供給される酸素と光により脱一酸化炭素化されることとなる。
【0036】
一酸化炭素化酸素運搬体溶液は、循環させてもよく、また脱一酸化炭素化された酸素運搬体溶液を循環することなく回収してもよい。循環することなく回収する場合は、脱一酸化炭素化された酸素運搬体溶液を連続的に生産できることとなる。一酸化炭素化酸素運搬体溶液の送液速度は、分離膜の性能等により任意に決められるが、単位膜面積当たりの一酸化炭素化酸素運搬体溶液の送液量は1L/m/min以下が好適である。
【0037】
酸素溶存溶液は、純粋酸素ガスや空気等をバブリングしたり圧力をかけたりして酸素を溶存させた溶液であり、溶液中の酸素濃度は特に限定されず飽和状態としてもよい。酸素溶存溶液は、循環させてもよく、またそのまま使い捨てとしてもよいが、循環させた方が経済的である。供給される酸素は、分離膜から循環して戻されてきた溶液中の一酸化炭素を気体として放出除去させる役割も果たす。溶存酸素量としては、4ppm以上が好適である。
【0038】
酸素溶存溶液の循環流速は分離膜の性質により影響を受ける。該循環流速は循環する酸素運搬体溶液の分離膜に対する接線方向への圧力に対し平衡に達するように設定する必要があり、酸素運搬体溶液からの除水がなるべく生じないように調整するのがよい。
【0039】
本発明において、一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液の配置部分に光を照射するとは、一酸化炭素化酸素運搬体と分離膜を通して供給される酸素とが遭遇する部分で光があたる様にすることである。光源としては、白熱光やハロゲンランプ、発光ダイオード、ナトリウムランプ、メタルハイドライドランプ等が挙げられる。光源1個における輝度は500000(lm)以上が好適ではあるが、さらには1〜500000(lm)が好適であり、よりさらには100〜200000(lm)が好適である。また前述の輝度をもつ光源を2個以上組み合わせて使用しても良い。
【0040】
本発明の方法で得られた脱一酸化炭素化酸素運搬体は、酸素分子の付いた酸素化酸素運搬体と酸素分子の付いていない酸素運搬体から成っている。酸素化酸素運搬体の酸素分子は、酸素運搬体のヘム鉄を2価から3価とする酸化反応を促進させ、酸素運搬体そのものを不安定にする。これに対し、酸素化酸素運搬体を例えば窒素ガスでバブリングするなどの脱酸素化処理で脱酸素化することで、安定した脱酸素化酸素運搬体を得ることができる。
【0041】
本発明の方法で脱一酸化炭素化される一酸化炭素化酸素運搬体溶液は、それと還元剤とからなってもよい。さらには、本発明の方法で得られた酸素運搬体を脱酸素化処理した試料は、酸素により酸素運搬体に存在するヘム鉄が2価から3価となる酸化反応を抑制し酸素運搬体としての性能が劣化するのを防ぐため、添加物として還元剤を含む抗酸化剤を共存させてもよい。
【0042】
還元剤としては、例えば、亜ジチオン酸、亜ジチオン酸塩(亜ジチオン酸ナトリウムなど)、亜硫酸水素塩(亜硫酸水素ナトリウムなど)、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウムなど)、ピロ亜硫酸塩(ピロ亜硫酸ナトリウムなど)、メタ重亜硫酸塩(メタ重亜硫酸ナトリウムなど)、ロンガリット(CHOHSONa)、アスコルビン酸またはその塩(L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムなど)、エリソルビン酸またはその塩(エリソルビン酸ナトリウムなど)、システイン(好ましくは塩酸システイン)、チオグリセロール、アルファチオグリセリン、エデト酸塩(エデト酸ナトリウムなど)、クエン酸、クエン酸イソプロピル、ジクロルイソシアヌール酸塩(ジクロルイソシアヌール酸カリウムなど)、チオグリコール酸塩(チオグリコール酸ナトリウムなど)、チオリンゴ酸塩(チオリンゴ酸ナトリウムなど)、ピロ亜硫酸ナトリウム1、3−ブチレングリコール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、アスコルビン酸パルミテート、dl−α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE、d−δ−トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、グアヤク脂、ノルジヒドログアヤレト酸(NDGA)、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、大豆レシチン、パルミチン酸アスコルビン酸、ベンゾトリアゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]2−メルカプトベンズイミダゾール、エチレンジアミン四酢酸カルシウム2ナトリウムおよびエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムが挙げられる。
これらの内、L−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸ナトリウムが好ましい。
【0043】
また、これらの群から選ばれる1種の還元剤のみを用いてもよく、2種以上の還元剤を同時に用いてもよい。還元剤の濃度としては、条件によっては添加しなくてもよく、還元剤を存在させる場合は0.01〜150g/L、更には0.1g/L〜10g/Lが好適である。
【0044】
脱酸素化又は酸素化された酸素運搬体は、還元剤、電解質類、糖類、pH調整剤、等張化剤、膠質浸透圧を付与する高分子物質等から選ばれる1又は2種以上の薬剤と組み合わせることで、有用な医薬組成物を構成しうる。
【0045】
電解質類、糖類、pH調整剤、等張化剤、膠質浸透圧を付与する高分子物質から選ばれる1又は2種以上の薬剤と、酸素運搬体とからなる医薬組成物とは、酸素運搬体が生体内に投与できその酸素運搬機能を安全かつ有効に発現しうる医薬組成物形態のことをいい、輸液製剤、凍結乾燥製剤、キット製剤及びプレフィルドシリンジ等の剤型を有するものが挙げられる。
【0046】
本発明の医薬組成物に用いられる糖類としては、グルコース、フルクトースキシリトール、マルトース、ソルビトール、シュクロース、トレハロース、グリセリン、マンニトール、グリセリン、グリセロール、ラクトース、エリスリトール、デキストリン等が挙げられる。
【0047】
本発明の医薬組成物に用いられるpH調整剤としては、アジピン酸、アンモニア水、塩酸、カゼインナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、希塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、グリシン、グルコノ-δ-ラクトン、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、結晶リン酸二水素ナトリウム、コハク酸、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ジイソプロパノールアミン、酒石酸、D−酒石酸、L−酒石酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、バルビタールのナトリウム塩等が挙げられる。
【0048】
本発明の医薬組成物に用いられる等張化剤としては、アミノエチルスルホン酸亜硫酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化マグネシウム、フルクトース、キシリトール、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリセリン、結晶リン酸二水素ナトリウム、臭化カルシウム、臭化ナトリウム、水酸化ナトリウム、酒石酸ナトリウム・二水和物等が挙げられる。
【0049】
本発明の医薬組成物に用いられる膠質浸透圧を付与する高分子物質としては、デキストラン(低分子デキストラン)、HES(ヒドロキシエチルデンプン、平均分子量70000、ゼラチン(修飾ゼラチン)、アルブミン(ヒト生血漿、ヒト血清アルブミン、加熱ヒト血漿蛋白、ヒト組換え体アルブミン)、アルギン酸ソーダ、グルコース、デキストロース(D−ブドウ糖一水化物)、少糖類(オリゴ糖)、多糖類分解物、アミノ酸、蛋白分解物等が挙げられる。
【0050】
本発明に用いる酸素運搬体は、例えばリン酸緩衝液や生理食塩水溶液等に懸濁されたものであり、pHを5.0〜8.0に調整したものが望ましく、さらには7.0〜7.5が好適である。ヘモグロビン溶液の濃度は1〜20g/dL範囲のものが望ましく、さらには5〜15g/dLが好適である。脂質濃度は2.5〜15g/dLのものが望ましく、さらには4.5〜8.5g/dLが好適である。
【0051】
また、ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体は遺伝子組換えアルブミン濃度(recombinant human serum albumin。以下、rHSA濃度と省略)が0.5〜25%範囲のものが望ましく、さらには4.0〜6.0%が好適である。鉄含量は0.3〜15mM範囲のものが望ましく、さらには2.0〜4.0mMが好適である。
【0052】
上記それぞれの酸素運搬体において、上記の添加剤等を用いることで、膠質浸透圧が1〜50mmHg、晶質浸透圧が50〜500mOsm、酸素親和性(酸素運搬体と酸素との結合率が50%となるときの酸素分圧P50)が5〜50Torrの物性を備えた医薬組成物が望ましい。
【0053】
脱一酸化炭素化用分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置する分離膜と、その配置部分に光を照射する光源と、各溶液を送液するポンプからなる酸素運搬体の脱一酸化炭素化装置とは、それらの構成を有し一酸化炭素化酸素運搬体を脱一酸化炭素化する一連の装置をいう。すなわち、分離膜については平面状でも中空糸状でもよく、その分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置し、光を照射しうるものであればどの様な組み合わせでもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
ポルフィリン金属錯体アルブミン包接化合物の調製:
2−[8−(2−メチル−1−イミダゾリル)オクタノイルオキシメチル]−5,10,15,20−テトラキス[α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイルアミノ)フェニル]ポルフィナト錯体(関東化学製)のエタノール溶液を一酸化炭素によりバブルし、一酸化炭素化1.07mMポルフィナト錯体溶液を調製した。この1.07mMポルフィナト錯体溶液1.6Lに、1/30mMリン酸緩衝水溶液(pH7.4)に溶解した0.27mMアルブミン溶液6.5Lを加え、攪拌混合した。
【0056】
この混合液8.1Lに1/30mMリン酸緩衝水溶液(pH7.4)を60L加えながら、限外ろ過分子量30,000の膜を設置した限外ろ過装置(ミリポア社製)を用いて定容量限外ろ過透析を行い、混合液中に含まれるエタノールを除去した。さらに、同限外ろ過装置で混合液を300mLまで濃縮し、所望のポルフィリン金属錯体−アルブミン包接化合物のrHSA濃度約5%、鉄含量は3mMである分散液(以下、rHSA−FecycP分散液と略す)を得た。
【0057】
ヘモグロビン内包型リポソームの調製:
ヘモグロビン(以下、Hbと略す)溶液([Hb]:40g/dL)にHbと3倍モル量のピリドキサール5’リン酸(以下、PLPと略す)溶液(溶媒:NaOH水溶液)及びホモシステイン(以下、Hcyと略す)を添加した後、pH7.4に調節し、4℃で終夜撹拌した後、0.22μmフィルターでろ過した(終濃度:Hb;5.9mmol/L、PLP;17.3mmol/L、Hcy;5mmol/L)。この液に脱気及び一酸化炭素(以下、COと略す)を吹き込むCOガスフローを3回繰り返すことによって、液中のHbを一酸化炭素化(以下、CO化と略す)し、CO化Hb溶液を得た。
一方、ジパルミトイルホスファチジルコリン(以下、DPPCと略す)/コレステロール/1,5−ジパルミトイル−L−グルタメート−N−コハク酸=10/10/2(モル比率)の混合物を計20g秤量してベンゼン1Lに溶解させた。
【0058】
ポリエチレングリコール(以下、PEGと略す)がジステアリルグルタリルエステルに結合した複合体(以下、PEG−DSGEと略す)1gを生理食塩水1Lに溶解させ、上記ベンゼンに溶解した混合物に全脂質量に対してPEG−DSGE濃度比率が0.3mol%となるように混合し混合液を得た。その後、混合液を凍結乾燥し、均一に分散した脂質混合粉末を得た。
【0059】
この脂質混合粉末をCO化Hb溶液に少量ずつ添加し、温度4℃で水和し、強制攪拌機を用いて終夜撹拌した。その後、エクストルーダー(LIPEX BIOMEMBRANES,INC製)で0.22μm粒径調整し、ヘモグロビン溶液の濃度は約10g/dL、脂質濃度は6g/dLのヘモグロビン内包型リポソーム(以下、HbVと略す)分散液、すなわち人工酸素運搬体を得た。
【0060】
一酸化炭素率(以下、CO化率と省略)による評価方法:
経時的に回収した人工酸素運搬体を1mMリン酸緩衝液(pH7.4)で適度に希釈し紫外線セル(以下、UVセルと省略)に5mL封入後、純度75%以上の亜ジチオン酸10〜30mgを添加し、混合後1分以内に紫外可視吸光度測定法により波長300〜700nmにおける吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、波長427nmにCO体由来の極大吸収、波長443nmに脱酸素化された人工酸素運搬体すなわちデオキシ体(Deoxy体)由来の極大吸収、波長435nmに等吸収点が認められることから、CO化率を下記式で求めた。CO化率が低い値ほど、酸素運搬体の脱CO化が進んでいることとなる。
【0061】
(式1)
CO化率(%)=(Q−Q)/(Q100−Q)×100
(式2)
QS=ES427/ES435
(式中の記号説明)
100 :CO化率100%試料の波長427nmと波長435nmの吸光度比。
:測定試料の波長427nmと波長435nmの吸光度比。
:CO化率0%試料の波長427nmと波長435nmの吸光度比。
ES427:測定試料の波長427nmの吸光度。
ES435:測定試料の波長435nmの吸光度。
【0062】
透過回数について:
酸素運搬体貯蔵容器(図5の場合、酸素運搬体貯蔵容器29)から脱一酸化炭素化酸素運搬体回収容器(図5の場合、脱一酸化炭素酸素運搬体回収容器36)へと、全ての一酸化炭素化酸素運搬体試料が中空糸膜型モジュール(図5の場合、ウレタン封止中空糸型膜モジュール31)を透過し、処理がなされ回収されたことを1回とし、その一連の操作の回数のことをいう。すなわち、本操作における透過回数とは、処理終了後の人工酸素運搬体溶液を人工酸素運搬体貯蔵容器から人工酸素運搬体貯蔵容器へと移送し、本溶液を再び中空糸型膜モジュールへと繰り返し透過させ、その繰り返す回数のことである。
【0063】
(実施例1)
概略として図1に示した様な装置系で、rHSA−FecycP分散液を脱一酸化炭素化した。図1の装置系は、酸素運搬体循環容器1、酸素溶存溶液循環容器2、中空糸型膜モジュール3、光源4、酸素運搬体循環ポンプ5、酸素溶存溶液循環ポンプ6、酸素溶存溶液供給ポンプ7及び酸素供給ライン8から構成される。
【0064】
本実施例においては、室温にて中空糸型膜モジュール3として親水性の中空糸型膜モジュールFB−50UGA(ニプロ社製)を用い、酸素運搬体循環容器1内にrHSA−FecycP分散液の10倍希釈液200mLを仕込んで、酸素運搬体循環ポンプ5で循環流量200mL/minにて人工酸素運搬体を循環させた。
【0065】
一方、酸素溶存溶液循環容器2に1/30mMリン酸緩衝水溶液(pH7.4)を2L仕込んで、酸素溶存溶液循環ポンプ6で循環流量500mL/minにて酸素溶存溶液を循環させた。この時、酸素溶存溶液循環容器2に酸素供給ライン8から酸素を約2L/minにてバブリング供給した。
【0066】
光源4としては50Wのハロゲンランプを用い、約5cm直上の距離から中空糸型膜モジュール3に全光束約1100(lm)の白色光を照射した。
人工酸素運搬体の状態や中空糸型膜モジュール3の状態を目視観察した。また、システムを評価するために、酸素運搬体循環容器1より経時的に人工酸素運搬体を回収し、その脱一酸化炭素状態をCO化率で評価した。
【0067】
その結果、CO化率は図6に示すごとく、30分で69%、60分で60%、120分で39%と低減し、人工酸素運搬体の脱一酸化炭素は速やかになされた。また、酸素運搬体循環容器1や中空糸型膜モジュール3において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性は認められなかった。
【0068】
(実施例2)
光源4として500Wのハロゲンランプを用い全光束約6500(lm)以上の白色光を照射した以外、実施例1と同様の装置、同様の試料、同様の方法でrHSA−FecycP分散液を脱一酸化炭素化した。
【0069】
その結果、CO化率は図6に示すごとく、30分で27%、60分で13%、120分で1.5%と低減し、人工酸素運搬体の脱一酸化炭素は速やかになされた。また、酸素運搬体循環容器1や中空糸型膜モジュール3において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性は認められなかった。
【0070】
(比較例1)
従来の1方法の酸素ガスを供給する図2に示した装置系で、rHSA−FecycP分散液を脱一酸化炭素化した。すなわち、酸素溶存溶液の代わりに酸素ガスを供給する点で実施例1と相違する。
【0071】
図2の装置系は、酸素運搬体循環容器11、酸素ガス供給ライン12、中空糸型膜モジュール13、光源14、酸素運搬体循環ポンプ15、酸素ガス供給ポンプ16から構成される。
【0072】
酸素運搬体循環容器11からポンプで送液される人工酸素運搬体は、中空糸型膜モジュール13で酸素ガス供給ライン12の酸素ガスと光源14からの光により脱一酸化炭素化され、その後酸素運搬体循環容器11へ戻される。
【0073】
酸素ガスは、酸素ガス供給ポンプ16で酸素ガス供給ライン12から中空糸型膜モジュール13内に直接供給されると共に、酸素ガスの補充と共に一酸化炭素の排出がなされる。
【0074】
本比較例においては実施例1と同様に、中空糸型膜モジュール13として親水性の中空糸型膜モジュールFB−50UGA(ニプロ社製)を用い、酸素運搬体循環容器11内にrHSA−FecycP分散液の10倍希釈液200mLを仕込んで、酸素運搬体循環ポンプ15で循環流量200mL/minにて人工酸素運搬体を循環させた。一方、酸素ガスを酸素ガス供給ポンプ16で中空糸型膜モジュール13内に直接2000mL/minで吹送した。光源14としては50Wのハロゲンランプを用い、約5cm直上の距離から中空糸型膜モジュール13に全光束約1100(lm)程度の白色光を照射した。
【0075】
その結果、CO化率は図6に示すごとく、30分で89%、60分で74%、120分で55%の程度の低減であった。また、酸素運搬体循環容器11や中空糸型膜モジュール13において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性が認められた。
【0076】
(比較例2)
光源4として500Wのハロゲンランプを用い、全光束約6500(lm)以上の白色光を照射した以外、比較例1と同様の装置、同様の試料、同様の方法でrHSA−FecycP分散液を脱一酸化炭素化した。
【0077】
その結果、中空糸型膜モジュール13及び酸素運搬体循環容器11中の人工酸素運搬体溶液が20分間で65℃以上となる異常な温度上昇を示した。中空糸型膜モジュール13の外装は500Wのハロゲンランプからの照射光により生じる熱により融解し、中空糸膜は目詰まりが生じ、人工酸素運搬体溶液は、変性が認められた。
【0078】
(試験例)
実施例2及び比較例2における酸素運搬体循環容器内の人工酸素輸液溶液温度とその経時変化を調べた。その結果、図8に示すごとく実施例2の様な本発明の方法では人工酸素輸液溶液温度上昇は認められなかったが、比較例2のような酸素ガスを供給する方法では20分程度で60度をはるかに超えることとなった。60度をはるかに超える温度は蛋白変性をもたらす温度であることから、本発明の酸素溶存溶液を供給する方法及び装置が温度上昇をもたらさない点からも優れたものである。
【0079】
(実施例3)
rHSA−FecycP分散液の代わりにヘモグロビン内包型リポソーム分散液を用いた以外、実施例1と同様の装置、同様の試料、同様の方法でヘモグロビン内包型リポソーム分散液を脱一酸化炭素化した。
【0080】
その結果、CO化率は図7に示すごとく、30分で50%、60分で27%、120分で8%、210分でほぼ0%と低減し、人工一酸化炭素化酸素運搬体の脱一酸化炭素化は速やかになされた。また、酸素運搬体循環容器1や中空糸型膜モジュール3において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性は認められなかった。
【0081】
(実施例4)
人工一酸化炭素化酸素運搬体を酸素運搬体循環容器1へ循環させることなく、3個の中空糸型膜モジュールを直列に連結し、中空糸型膜モジュールを透過した試料を連続的に回収するシステム以外、実施例1と同様の装置、同様の試料、同様の方法により、すなわち図4に示した装置系でrHSA−FecycP分散液を脱一酸化炭素化した。
【0082】
すなわち、図4の装置系は、酸素運搬体貯蔵容器17、酸素溶存溶液循環容器18、中空糸型膜モジュールA19、中空糸型膜モジュールB20、中空糸型膜モジュールC21、光源A22、光源B23、光源C24、酸素運搬体供給ポンプ25、酸素溶存溶液循環ポンプ26、酸素供給ライン27及び脱一酸化炭素酸素運搬体回収容器28から構成される。
【0083】
その結果、脱一酸化炭素化した人工酸素運搬体を200mL/minで連続的に回収でき、そのCO化率は中空糸型膜モジュールA透過後で89%、中空糸型膜モジュールB透過後で77%、中空糸型膜モジュールC透過後で67%であった。このことから、更に中空糸型膜モジュール数を増加させることで連続的にCO化率0%程度の医薬組成物を得ることができると考えられる。
【0084】
また、酸素運搬体貯蔵容器17や中空糸型膜モジュール19〜20において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性は認められなかった。
【0085】
(実施例5)
中空糸型モジュールの内部ポート入口における中空糸束の断面の中心部に、イソシアネート系樹脂を円状に塗布し、本モジュールの受光しやすい外周部のみ処理液が流れる様にしたモジュールを作成した。
すなわち、中空糸型膜モジュールFB−210UGA(ニプロ社製)のポート内の中空糸束断面の直径は3.6〜3.8cmである。そこで、その中空糸束断面に対して中心を同じとする直径3.0〜3.2cmの円状にイソシアネート系の樹脂を塗布した。これにより、外周部2〜4mm程度の円柱状部分を処理液が透過できるウレタン封止中空糸型膜モジュールを得た。
【0086】
人工一酸化炭素化酸素運搬体を酸素運搬体循環容器1へ循環させることなく、ウレタン封止中空糸型膜モジュールを連結し、ウレタン封止中空糸型膜モジュールを透過した試料ヘモグロビン内包型リポソーム分散液を連続的に回収するシステム以外、実施例1と同様の装置、同様の試料、同様の方法によりヘモグロビン内包型リポソームを脱一酸化炭素化した。その装置系を図5に示す。前述までの中空糸型膜モジュールとは異なり、使用するモジュールは、図9及び図10に示すような改良型のウレタン封止中空糸型膜モジュール31、1個を使用した。
その結果、脱一酸化炭素化率は図11に示すごとく、1回の透過で91%、2回の透過で78%、10回の透過で3%、まで低減し、人工一酸化炭素化酸素運搬体の脱一酸化炭素化は速やかになされた。また、酸素運搬体循環容器1や中空糸型膜モジュール3において、人工酸素運搬体の濃縮による蛋白等の変性、分離膜の乾燥に伴う膜性能の低下、熱による分離膜の劣化や人工酸素運搬体の変性は認められなかった。
一方、図5に示した装置系で、ウレタン封止中空糸型膜モジュール31を封止していない市販モジュールに置き換えて設置したところ、1回の透過で96%、2回の透過で84%と本モジュールに比べ低効率であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明により得られた人工酸素運搬体は、医療分野において虚血部位や腫瘍組織への酸素供給用、大量出血患者の輸血用、臓器保存還流液用、体外循環液用さらには細胞培養用等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の酸素溶存溶液による中空糸膜を用いた場合の脱一酸化炭素化装置系の説明図。中空糸型膜モジュール3の縦線は、中空糸が縦に配置されていることを表す。
【図2】従来の酸素ガスによる中空糸膜を用いた場合の脱一酸化炭素化装置系の説明図。
【図3】本発明の酸素溶存溶液による平面膜を用いた場合の脱一酸化炭素化装置系の説明図。平面膜型モジュール3’は、側面から見た形態を表し実際には奥行きのある平面形状を取る。平面膜型モジュール3’の縦線は平面状の膜の端部を表す。
【図4】本発明の酸素溶存溶液による中空糸膜を用いた場合の連続的脱一酸化炭素化装置系の説明図。中空糸型膜モジュール19、20、21の縦線は、中空糸が縦に配置されていることを表す。
【図5】本発明の酸素溶存溶液によるウレタン封止中空糸型膜モジュール31を用いた場合の連続的脱一酸化炭素化装置系の説明図。中空糸型膜モジュール31は断面として表現されており、その縦線は、中空糸が縦に配置されており、中空糸型膜モジュールの中心部中空糸の流路が塞がれ機能していないことを表す。
【図6】実施例1、2及び比較例1における一酸化炭素率(CO化率)の経時変化を表すグラフ。□は実施例1、○は実施例2、△は比較例1のCO化率を表す。
【図7】実施例3における一酸化炭素率(CO化率)の経時変化を表すグラフ。
【図8】実施例2及び比較例2における酸素運搬体循環容器の人工酸素輸液温度の経時変化を表すグラフ。○は実施例2、▲は比較例2の温度の経時測定結果を表す。
【図9】本発明のウレタン封止中空糸型膜モジュール31を用いた高効率型モジュールの説明図。一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液は中空糸膜を介して互いに対向方向で流れる。それをそれぞれ波線の矢印と実線の矢印で表現する。中空糸膜は、水玉模様で表現している外から2番目の円筒位置に酸素運搬体の流路として中空糸膜の束で存在するが、円筒の両側の縦線でのみ表現しており、前面や背面などは略記している。斜線部で表現している中心部円筒位置には中空糸膜の束が存在するが、上下ともウレタンにて封止され、酸素運搬体の流路として機能しない部分である。
【図10】本発明のウレタン封止中空糸型膜モジュールを使用した高効率型モジュールの説明図。人工酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液は中空糸膜を介してそれぞれ対向方向で流れる。それをそれぞれ波線の矢印と実線の矢印で表現する。中空糸膜は、中空糸膜の1本又は中空糸の束で存在するが、それを縦線で表現している。
【図11】実施例5における一酸化炭素化率(CO化率)と通過回数の関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0089】
1 酸素運搬体循環容器
2 酸素溶存溶液循環容器
3 中空糸型膜モジュール
3’ 平面膜型モジュール
4 光源
5 酸素運搬体循環ポンプ
5’ 酸素運搬体供給ライン
5” 酸素運搬体回収ライン
6 酸素溶存溶液循環ポンプ
6’ 酸素溶存溶液送液ライン
6” 酸素溶存溶液回収ライン
7 酸素溶存溶液供給ポンプ
8 酸素供給ライン
8’ 気体排出ライン
9 流量調節バルブ
10 攪拌棒及びその羽根
11 酸素運搬体循環容器
12 酸素ガス供給ライン
12’ 気体排出ライン
13 中空糸型膜モジュール
14 光源
15 酸素運搬体循環ポンプ
16 酸素ガス供給ポンプ
17 酸素運搬体貯蔵容器
18 酸素溶存溶液循環容器
19 中空糸型膜モジュールA
20 中空糸型膜モジュールB
21 中空糸型膜モジュールC
22 光源A
23 光源B
24 光源C
25 酸素運搬体供給ポンプ
25’ 酸素運搬体供給ライン
25” 酸素運搬体回収ライン
26 酸素溶存溶液循環ポンプ
26’ 酸素溶存溶液送液ライン
26” 酸素溶存溶液回収ライン
27 酸素供給ライン
27’ 気体排出ライン
28 脱一酸化炭素酸素運搬体回収容器
29 酸素運搬体貯蔵容器
30 酸素溶存溶液循環容器
31 ウレタン封止中空糸型膜モジュール
32 光源A
33 酸素運搬体供給ポンプ
33’ 酸素運搬体供給ライン
33” 酸素運搬体回収ライン
34 酸素溶存溶液循環ポンプ
34’ 酸素溶存溶液送液ライン
34” 酸素溶存溶液回収ライン
35 酸素供給ライン
35’ 気体排出ライン
36 脱一酸化炭素酸素運搬体回収容器
37 中空糸膜内の酸素溶存溶液の流路方向
38 中空糸膜外の酸素運搬体溶液の流路方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置し、その配置部分に光を照射する、酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法。
【請求項2】
分離膜が中空糸型分離膜である請求項1記載の酸素運搬体の脱一酸化炭素化方法。
【請求項3】
分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液が配置され、その配置部分に光を照射されて脱一酸化炭素化された酸素運搬体。
【請求項4】
酸素運搬体がヘモグロビン内包型リポソーム、ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、PEG修飾型ポルフィリン金属錯体−アルブミン複合体、ヘモグロビン溶液、分子架橋型ヘモグロビン、ヘモグロビン重合体、或いはPEG修飾型ヘモロビン重合体の群から選ばれる1又は2種以上の組み合わせである請求項3記載の酸素運搬体。
【請求項5】
還元剤、電解質類、糖類、pH調整剤、等張化剤、膠質浸透圧を付与する高分子物質から選ばれる1又は2種以上の薬剤と、請求項3記載の酸素運搬体とからなる医薬組成物。
【請求項6】
分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置する分離膜であって、その配置部分に光を照射する、酸素運搬体の脱一酸化炭素化用分離膜。
【請求項7】
請求項6記載の脱一酸化炭素化用分離膜を内蔵した分離膜モジュール。
【請求項8】
分離膜が光照射部位のみに配置された請求項7記載の分離膜モジュール。
【請求項9】
分離膜を介して一酸化炭素化酸素運搬体溶液と酸素溶存溶液を配置する分離膜と、その配置部分に光を照射する光源と、各溶液を送液するポンプからなる酸素運搬体の脱一酸化炭素化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−316042(P2006−316042A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38716(P2006−38716)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】