説明

重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体とその製造法

【課題】ポリマーにした際に、高いフレキシビリティー及び優れた有機溶媒溶解性を付与できるとともに、耐エッチング性や架橋反応性等のフォトレジスト用樹脂に有用な特性を付与できる重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の提供。
【解決手段】式(1)


(式中、R1はH又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。q、nは1以上の整数を示し、m、pは0又は1以上の整数を示し、p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、又はnが2以上の整数である。)で表される重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジスト樹脂等の高機能性材料の原料(モノマー成分等)などとして有用な重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体とその製造法、及び該重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の合成原料として有用なヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン骨格を有する不飽和カルボン酸エステルをモノマー成分として含むポリマーは、エッチング耐性、光学的特性、耐湿性、耐熱性、熱膨張率などの特性に優れるため、フォトレジスト用樹脂、光学材料、有機ガラス用透明樹脂コーティング剤、導電性ポリマー、写真感光性材料、蛍光性材料などへの利用が期待されている。
【0003】
特開昭63−33350号公報には、アダマンタン環に1〜3個のヒドロキシル基が結合したヒドロキシアダマンチルモノ(メタ)アクリレートが開示されている。この化合物はアダマンタン環に直接ヒドロキシル基が結合しているため、重合して得られるポリマーは基板への密着性に優れるという利点を有しており、フォトレジスト用樹脂として利用されている。また、特開2005−154363号公報には、アダマンタン環にヒドロキシメチル基と(メタ)アクリロイルオキシメチル基がそれぞれ1つ結合したヒドロキシメチルアダマンチルメチル(メタ)アクリレートが開示されており、この化合物はフォトレジスト用樹脂のモノマーや農医薬中間体等として有用であることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−33350号公報
【特許文献2】特開2005−154363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記アダマンタン環に1〜3個のヒドロキシル基が結合したヒドロキシアダマンチルモノ(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基が直接アダマンタン環に結合しているため、ポリマーにした時のフレキシビリティーに乏しく、また有機溶媒に対する溶解性が高いとは言えない。また、アダマンタン環に直接結合したヒドロキシル基は反応性が低いので架橋点として利用することは難しい。一方、上記アダマンタン環にヒドロキシメチル基と(メタ)アクリロイルオキシメチル基がそれぞれ1つ結合したヒドロキシメチルアダマンチルメチル(メタ)アクリレートは、そのポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いた場合に、エッチング耐性が十分でないという欠点を有する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ポリマーにした際に、高いフレキシビリティー及び優れた有機溶媒溶解性を付与できるとともに、耐エッチング性や架橋反応性等のフォトレジスト用樹脂に有用な特性をさらに付与できる重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体、及びその効率的な製造法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の合成原料として有用なヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アダマンタン環に少なくともヒドロキシアルキル基を有する特定構造のアダマンタン誘導体に、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドを反応させると、新規な重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体が得られること、及びこの化合物がフォトレジスト用樹脂のモノマー等として有用な特性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体を提供する。
【0009】
この重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体において、式(1)におけるm個のヒドロキシル基(−OH)及びp個のヒドロキシル基(−OH)のうち少なくとも1つが[−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量が5重量%以下であるのが好ましい。
【0010】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】

(式中、qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体に、下記式(3)
CH2=C(R1)−COX (3)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。XはOH又はハロゲン原子を示す)
で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドを反応させて、下記式(1)
【化3】

(式中、R1、q、p、n、mは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とする重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の製造法を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、下記式(2′)
【化4】

(式中、qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。また、q=1で且つp=1の時は、mが1以上の整数である。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体によれば、ポリマーにした際に、高いフレキシビリティー及び優れた有機溶媒溶解性を付与できるとともに、耐エッチング性や架橋反応性等のフォトレジスト用樹脂に有用な特性をさらに付与することができる。また、本発明の製造法によれば、上記のような優れた化合物を効率よく製造できる。さらに、本発明のヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体によれば、これを製造原料とすることにより、上記重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体を簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体]
本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体は、前記式(1)で表される。式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0014】
1における炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。R1としては、特に、水素原子又はメチル基が好ましい。式(1)で表される化合物をフォトレジスト用樹脂のモノマーとして用いる場合には、R1は特にメチル基であるのが好ましい。
【0015】
式(1)中のqはメチレン基[−CH2−]の数であって、1以上の整数を示す。qは好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1である。pはアダマンタン環に直接結合しているヒドロキシル基の数であって、0又は1以上の整数を示す。ヒドロキシル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。ヒドロキシル基は橋頭位に結合しているのが好ましい。pは好ましくは0又は1〜3の整数である。
【0016】
式(1)中のmはアダマンタン環に結合しているヒドロキシアルキル基[−(CH2n−OH]の数であって、0又は1以上の整数を示す。前記ヒドロキシアルキル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。前記ヒドロキシルアルキル基は橋頭位に結合しているのがより好ましい。mは0又は1〜3の整数、特に0、1又は2であることが多い。nはメチレン基[−CH2−]の数であって、1以上の整数を示す。nは好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1である。p+mは1以上である。高機能性の発現という観点からは、p+mは2以上(例えば2又は3)であるのが好ましい。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
なお、式(1)においては、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。
【0018】
式(1)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素原子など)、アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル基などのC1-4アルキル基など)、置換オキシ基(メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基などのC1-4アルコキシ基、フェニルオキシ基などのアリールオキシ基、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基(不飽和カルボン酸アシルオキシ基を除く)など)、置換アミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのN,N−ジC1-4アルキルアミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、ニトロ基、オキソ基などが例示できる。式(1)で表される化合物が置換基を有するとき、その数は、例えば1〜4程度である。式(1)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有しないか、或いはメチル基等のC1-4アルキル基を1又は2個有する場合が多い。
【0019】
式(1)で表される重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の代表的な例として、例えば、(メタ)アクリル酸 (1−ヒドロキシアダマンタン−3−イル)メチル エステル、(メタ)アクリル酸 (1,3−ジヒドロキシアダマンタン−5−イル)メチル エステル、(メタ)アクリル酸 [1,3−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−5−イル]メチル エステル、(メタ)アクリル酸 (1−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルアダマンタン−5−イル)メチル エステル、(メタ)アクリル酸 (1,3−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−7−イル)メチル エステルなどが挙げられる。
【0020】
本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体は、アダマンタン環の橋頭位に(メタ)アクリロイルオキシメチル基等の不飽和カルボン酸アシルオキシアルキル基が結合しているため、重合して得られるポリマーに高いフレキシビリティーを付与できる。また、アダマンタン環にヒドロキシル基又はヒドロキシアルキル基が少なくとも1つ結合しているので、ポリマーをフォトレジスト用樹脂として用いた場合に有用な機能をさらに付与できる。例えば、アダマンタン環にヒドロキシル基が結合している場合は、高いエッチング耐性及び基板に対する高い密着性が得られる。アダマンタン環にヒドロキシアルキル基が複数個結合している場合には、該複数のヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を架橋反応(例えば、エポキシ樹脂等による架橋反応など)等に利用できるので、硬度や強度の高い硬化皮膜を形成できる。さらに、アダマンタン環にヒドロキシル基とヒドロキシアルキル基が結合している場合には、高いエッチング耐性及び基板密着性が得られるとともに、ヒドロキシアルキル基のヒドロキシル基を架橋反応等に利用できる。そのため、本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体は、高機能性樹脂、特にフォトレジスト用樹脂のモノマーとして有用である。
【0021】
なお、本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体中に不純物、特に不飽和カルボン酸アシルオキシ基を複数個有する化合物(ジアシル体等)が含まれていると、重合の際、溶剤不溶解物が生成し、フィルタリング等の除去工程が必要となる。このような溶剤不溶解物は非常に目詰まりしやすく、幾度となく濾紙を交換する必要があり、操作が極めて煩雑となる。また、前記の不飽和カルボン酸アシルオキシ基を複数個有する化合物が重合に関与すると、分子量が大きくなり、ポリマーの機能上好ましくない。
【0022】
このため、本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体においては、式(1)におけるm個のヒドロキシル基(−OH)及びp個のヒドロキシル基(−OH)のうち少なくとも1つが[−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量(総量)が5重量%以下(特に3重量%以下)であるのが好ましい。
【0023】
[重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の製造法]
本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の製造法では、前記式(2)で表されるヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体に、前記式(3)で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドを反応させて、前記式(1)で表される化合物(本発明の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体)を得る。
【0024】
各式中、R1、q、p、n、mは前記式(1)の場合と同じであり、アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基(前記と同様)を有していてもよい。
【0025】
式(2)で表される化合物の具体例として、下記式(2-1)〜(2-35)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
【化5】

【0027】
式(2)で表される化合物の代表的な例として、3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール、5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオール、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)アダマンタン、3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール、5,7−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1,3−ジオールなどが挙げられる。
【0028】
式(2)で表される化合物は、例えば、公知の化合物から公知の反応を利用して製造することができる。例えば、ヒドロキシメチル基を有するアダマンタン誘導体は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基を有するアダマンタン誘導体に水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を作用させて、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基をヒドロキシメチル基に転化させることにより得ることができる。また、アダマンタン環の橋頭位にヒドロキシル基を有するアダマンタン誘導体は、アダマンタン環の橋頭位に水素原子が結合している化合物を、N−ヒドロキシフタルイミド等のイミド系化合物触媒(又は、イミド系化合物触媒及び金属化合物)の存在下、酸素で酸化することにより得ることができる。さらに、アダマンタン環の非橋頭位にヒドロキシル基を有するアダマンタン誘導体は、アダマンタン環の非橋頭位にオキソ基が結合している化合物(アダマンタノン化合物)を、適当な還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム等を用いて還元するか、若しくは金属触媒存在下に接触水素添加する方法等により得ることができる。
【0029】
式(3)で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドの代表的な例として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロリド、アクリル酸ブロミド、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミドなどが挙げられる。
【0030】
式(2)で表されるアダマンタン誘導体と式(3)で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドとの反応は、通常、反応に不活性な有機溶媒中で行われる。前記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0031】
式(3)で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドの使用量は、式(2)で表されるアダマンタン誘導体1モルに対して、例えば1.0〜10.0モル、好ましくは1.0〜5.0モル程度であり、特にジアシル体の副生を抑制するためには、1.0〜2.0モルの範囲が望ましい。
【0032】
式(3)で表される化合物として不飽和カルボン酸(X=OH)を反応に用いる場合には、触媒として酸を使用するのが好ましい。酸としては、例えば、塩酸、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸、ヘテロポリ酸などの無機酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類;酢酸、トリフルオロ酢酸などのカルボン酸;陽イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの中でも、硫酸などの無機強酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、強酸性陽イオン交換樹脂などの強酸が好ましい。酸の使用量は、触媒量であればよく、式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.0001〜0.3モル、好ましくは0.001〜0.2モル程度である。
【0033】
式(3)で表される化合物として不飽和カルボン酸ハライド(X=ハロゲン原子)を反応に用いる場合には、反応を塩基の存在下で行う場合が多い。塩基としては、無機塩基を用いることもできるが、水の副生しない有機塩基を用いるのが好ましい。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−5、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどの鎖状又は環状アミン;ピリジン、イミダゾールなどの塩基性含窒素芳香族性複素環化合物などが挙げられる。塩基の使用量は、不飽和カルボン酸ハライド1モルに対して、例えば0.8モル以上(0.8〜2モル程度)、好ましくは1〜1.6モル程度である。塩基を溶媒として用いることもできる。
【0034】
式(2)で表されるアダマンタン誘導体と式(3)で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドとの反応における反応温度は、反応に用いる化合物の種類により異なるが、一般に、例えば−20〜150℃、好ましくは−10〜120℃程度である。
【0035】
反応終了後、反応生成物[式(1)で表される化合物]は、慣用の精製手段、例えば、濃縮、晶析、抽出、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。
【0036】
本発明の製造法によれば、ジアシル体等の不純物含量の少ない式(1)で表される重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体を簡易に効率よく製造できる。
【0037】
[ヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体]
本発明のヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体は、前記式(2′)で表される。
【0038】
式(2′)中のqはメチレン基[−CH2−]の数であって、1以上の整数を示す。qは好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1である。pはアダマンタン環に直接結合しているヒドロキシル基の数であって、0又は1以上の整数を示す。ヒドロキシル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。ヒドロキシル基は橋頭位に結合しているのが好ましい。pは好ましくは0又は1〜3の整数である。
【0039】
式(2′)中のmはアダマンタン環に結合しているヒドロキシアルキル基[−(CH2n−OH]の数であって、0又は1以上の整数を示す。前記ヒドロキシアルキル基はアダマンタン環の橋頭位に結合していてもよく、非橋頭位に結合していてもよい。前記ヒドロキシルアルキル基は橋頭位に結合しているのがより好ましい。mは0又は1〜3の整数、特に0、1又は2であることが多い。nはメチレン基[−CH2−]の数であって、1以上の整数を示す。nは好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1である。p+mは1以上である。pは0又は1が好ましい。式(1)で表される化合物に誘導した場合の高機能性の発現という観点からは、p+mは2以上(例えば2又は3)であるのが好ましい。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0040】
なお、式(2′)においては、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。また、q=1で且つp=1の時は、mが1以上の整数(例えば、1〜3の整数、好ましくは1又は2)である。
【0041】
式(2′)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、前記式(1)において例示した基が挙げられる。式(2′)で表される化合物が置換基を有するとき、その数は、例えば1〜4程度である。式(2′)中のアダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有しないか、或いはメチル基等のC1-4アルキル基を1又は2個有する場合が多い。
【0042】
式(2′)で表される化合物の具体例としては、前記式(2-3)〜(2-35)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、式(2-3)〜(2-14)、式(2-22)〜(2-24)、式(2-26)〜(2-35)で表される化合物が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例1において、ジメタクリル体(=3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール ジメタクリレート)の含有量はガスクロマトグラフィーにより測定した。分析条件は下記の通りである。
【0044】
装置:(株)島津製作所製、ガスクロマトグラフGC−2010
カラム:HP−5 30m×0.25mmID×0.25μm
INJ:300℃
DET:FID/300℃
オーブン:100℃(0min)→20℃/min→200℃(10min)
内部標準:ジフェニルエーテル
保持時間:実施例1の目的化合物 8.9min
ジメタクリル体 10.4min
内部標準 5.8min
【0045】
実施例1
3−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−オール(75.2g、0.33mol)、トリエチルアミン(71.41g、0.70mol)、及び4−メトキシフェノール(0.38g、3mmol)をテトラヒドロフラン(2.26kg)中で混合し、−1℃〜−4℃を保ちながら、メタクリル酸クロリド(70.18g、0.67mol)を25分間を要して滴下した。−1℃〜−4℃のまま5.5時間撹拌した後、水(150g)を加え、減圧下ロータリーエバポレーターで有機層/水層=1/1程度の体積になるまで濃縮した。ここまでの操作を2バッチ行い、得られた粗濃縮液を合わせ、酢酸エチル(750g)及び水(151g)を加え分液を行った。得られた有機層を1規定塩酸で2回(各450g)、5重量%重曹水で2回(各450g)、さらに飽和食塩水(450g)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残留物中のジメタクリル体の含有量は1重量%未満であった。得られた残留物にヘプタン(1kg)を加えて撹拌し、白色固体を濾取した。白色固体中のジメタクリル体の含有量は痕跡量であった。この固体をクロロホルムに溶解させ、シリカゲルのショートカラム(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、下記式(1a)で表されるメタクリル酸 (1−ヒドロキシアダマンタン−3−イル)メチル エステル(96g、収率58%)を白色固体として得た。
[メタクリル酸 (1−ヒドロキシアダマンタン−3−イル)メチル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3):1.48−1.73(12H,m),1.96(3H,s),2.24(2H,m),3.83(2H,s),5.56(1H,s),6.12(1H,s)
【0046】
【化6】

【0047】
実施例2
3,5−ジヒドロキシアダマンタン−1−カルボン酸を、エタノール中で塩化チオニルを作用させることによって対応するエチルエステルとした後、テトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムリチウムを用いて還元を行うことにより、5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールを得た。
[5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.15(2H,s),1.21(4H,m),1.42(6H,m),2.13(1H,s),3.03(2H,d,J=4.3Hz),4.37(1H,brs),4.40(2H,brs)
【0048】
5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1,3−ジオール(2.02g、10.2mmol)、及びトリエチルアミン(3.27g、32.3mmol)をテトラヒドロフラン(60g)中で混合し、0℃に冷却しながら、メタクリル酸クロリド(3.26g、31.2mmol)を添加し、8.5時間撹拌した。メタノール(2.0g)を加え、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物を酢酸エチル(20g)で希釈し、5規定塩酸(5.87g)、及び5重量%重曹水(5.0g)で洗浄した。4−メトキシフェノール(微量)を加えて減圧下溶媒を留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/0〜9/1)で精製することにより、下記式(1b)で表されるメタクリル酸 (1,3−ジヒドロキシアダマンタン−5−イル)メチル エステル(1.35g、収率27.5%)を白色固体として得た。
[メタクリル酸 (1,3−ジヒドロキシアダマンタン−5−イル)メチル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.30(6H,m),1.45(6H,m),1.90(3H,s),2.18(1H,m),3.80(2H,s),4.53(2H,s),5.69(1H,m),6.04(1H,s)
【0049】
【化7】

【0050】
実施例3
アダマンタン−1,3,5−トリカルボン酸を、テトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムリチウムを用いて還元することにより、1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)アダマンタンを得た。
[1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)アダマンタンのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.05(3H,d,J=11.6Hz),1.13(3H,d,J=11.6Hz),1.30(6H,m),2.05(1H,m),3.02(6H,d,J=5.5Hz),4.29(3H,t,J=5.5Hz)
【0051】
1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)アダマンタン(20.0g、88.4mmol)、トリエチルアミン(13.8g、136.4mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(101g)、及びテトラヒドロフラン(110g)を混合し、氷冷下、メタクリル酸クロリド(10.2g、97.6mmol)をテトラヒドロフラン(98.1g)で希釈した溶液を80分間を要して滴下した。75分間撹拌した後、メタノール(3.15g)を加え、析出物を濾別した。濾液を減圧下濃縮し、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/0〜10/1)で精製することにより、下記式(1c)で表されるメタクリル酸 [1,3−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−5−イル]メチル エステル(13.5g、収率52%)を白色の固体として得た。
[メタクリル酸 [1,3−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−5−イル]メチル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.11−1.39(12H,m),1.89(3H,s),2.08(1H,m),3.03(4H,m),3.76(2H,s),4.37(2H,m),5.68(1H,s),6.03(1H,s)
【0052】
【化8】

【0053】
実施例4
5−ヒドロキシアダマンタン−1,3−ジカルボン酸を、常法に従い、水素化アルミニウムリチウム(ヒドリド試薬)で還元して、3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールを得た。
[3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.06(2H,s),1.25(8H,m),1.45(2H,s),2.13(1H,m),3.04(4H,d),4.29(1H,s),4.34(2H,t)
【0054】
3,5−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1−オール(4.98g、23.5mmol)、及びトリエチルアミン(3.58g、35.4mmol)をテトラヒドロフラン(300g)中で混合し、60℃に加熱して溶解させ溶液とした。これを29〜32℃に保ちながら、メタクリル酸クロリド(2.46g、23.5mmol)をテトラヒドロフラン(25g)で希釈した溶液を15分間を要して滴下した。24〜29℃を保ちながら撹拌を継続し、1時間経過後にトリエチルアミン(1.79g、17.7mmol)及びメタクリル酸クロリド(1.24g、11.9mmol)をテトラヒドロフラン(12.5g)で希釈した溶液を添加した。さらに1時間経過後にも、トリエチルアミン(1.79g、17.7mmol)及びメタクリル酸クロリド(1.24g、11.9mmol)をテトラヒドロフラン(12.5g)で希釈した溶液を添加した。反応液を室温下濾過し、メタノール(30g)を加え、析出物を再び濾別した。4−メトキシフェノール(0.11g)を添加してから、減圧下溶媒を留去した。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=30/0〜30/1)で精製し、下記式(1d)で表されるメタクリル酸 (3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル)メチル エステル(1.19g、収率18%)を得た。
[メタクリル酸 (3−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−1−イル)メチル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.16(2H,s),1.34(8H,m),1.49(2H,m),1.89(3H,s),2.16(1H,m),3.05(2H,d,J=5.5Hz),3.78(2H,s),4.40(2H,m),5.68(1H,m),6.03(1H,s)
【0055】
【化9】

【0056】
実施例5
5,7−ジヒドロキシアダマンタン−1,3−ジカルボン酸をエタノール中で塩化チオニルを作用させることによりジエチルエステルとした後、テトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムリチウムにより還元することにより、5,7−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1,3−ジオールを得た。
[5,7−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1,3−ジオールのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):0.95(2H,s),1.17(8H,m),1.40(2H,s),3.04(4H,s)
【0057】
5,7−ビス(ヒドロキシメチル)アダマンタン−1,3−ジオールから、実施例4と同様の方法により、下記式(1e)で表されるメタクリル酸 (1,3−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−7−イル)メチル エステルを得た(収率11%)。
[メタクリル酸 (1,3−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルアダマンタン−7−イル)メチル エステルのNMRスペクトルデータ]
1H−NMR(DMSO−d6):1.07(2H,s),1.26(8H,m),1.45(2H,s),1.89(3H,s),2.54(1H,s),3.08(2H,s),3.83(2H,s),4.53(2H,s),5.64(1H,s),6.03(1H,s)
【0058】
【化10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体。
【請求項2】
式(1)におけるm個のヒドロキシル基(−OH)及びp個のヒドロキシル基(−OH)のうち少なくとも1つが[−O(CO)−C(R1)=CH2]で置き換えられた不純物化合物の含有量が5重量%以下である請求項1記載の重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】

(式中、qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体に、下記式(3)
CH2=C(R1)−COX (3)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。XはOH又はハロゲン原子を示す)
で表される不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸ハライドを反応させて、下記式(1)
【化3】

(式中、R1、q、p、n、mは前記に同じ。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とする重合性不飽和基を有するアダマンタン誘導体の製造法。
【請求項4】
下記式(2′)
【化4】

(式中、qは1以上の整数を示し、pは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示し、mは0又は1以上の整数を示す。p+mは1以上である。mが2以上の場合、m個のnはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。但し、q=1で且つp=0の時は、mが2以上の整数であるか、nが2以上の整数であるか、又は式中のm個の−(CH2n−OHのうち少なくとも1つがアダマンタン環の非橋頭位に結合している。また、q=1で且つp=1の時は、mが1以上の整数である。アダマンタン環は式中に示される置換基以外の置換基を有していてもよい)
で表されるヒドロキシアルキル基を有するアダマンタン誘導体。

【公開番号】特開2009−256306(P2009−256306A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227840(P2008−227840)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】