説明

重合性液晶化合物、重合性組成物、高分子材料、及びフィルム

【課題】重合性液晶およびそれに類似する重合性液晶の塗布後の結晶析出抑制に効果がある、添加剤としての重合性液晶化合物の提供。
【解決手段】下記式で表される重合性液晶化合物(式中、Pは重合性官能基;Spは、スペーサーまたは単結合;Z1及びZ2は、−CO−O−;R0は炭素原子数1〜15の直鎖アルキル基;R2、R3及びR4は互いに独立して炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基又はハロゲン原子;r1、r2及びr3は、0〜4のいずれかの整数を表し、r1、r2及びr3がそれぞれ2以上であるときにR2、R3及びR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。但し、R0がメチル基のときr2は1ではない。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性フィルム、遮熱フィルム等の種々の光学部材の材料をはじめとして、様々な用途において有用な重合性液晶化合物、重合性組成物、及び高分子材料、並びにこれらを利用したフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜などの多くの工業分野に利用されている(非特許文献1)。中でも、重合性液晶化合物(II)は、そのシンプルな構造ゆえに汎用性が高く、多くの用途に用いられている(例えば特許文献1〜5)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−84032号公報
【特許文献2】特開2009−286976号公報
【特許文献3】特開2009−186785号公報
【特許文献4】特開2009−184974号公報
【特許文献5】特開2009−86260号公報
【特許文献6】特表2002−536529号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.J.Broer, G.N.Mol, J.A.M.M.Van Haaren, and J.Lub Adv. Mater., 1999,11,573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、重合性液晶(II)は結晶性が非常に高く、重合性液晶(II)単独、もしくは、重合性液晶(II)を含む組成物は、塗布工程で容易に結晶が析出してしまうことが問題となっている(例えば特許文献4参照)。そのため、重合性液晶(II)の結晶析出抑制に効果のある添加剤の開発が望まれている。
【0006】
重合性液晶(II)の性能を損なうことなく、結晶析出を抑制するためには、一般的に液晶材料を添加剤として提供することが望ましいと考えられている。例えば、特許文献2〜4には、(メタ)アクリロイル基を分子の末端に2つ有する(メタ)アクリレート化合物を重合性液晶(II)と併用した組成物を、特許文献6には、重合性液晶(II)の調製時に(メタ)アクリロイル基とアルキル基を分子の両末端に有するランダム混合物として調製した組成物を用いている。しかしながら、これらの文献に記載の組成物は、塗布後の結晶析出の抑制の観点からは満足のいくものではなかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、重合性液晶(II)およびそれに類似する重合性液晶の塗布後の結晶析出抑制に効果がある、添加剤としての重合性液晶化合物を提供することにある。
【化2】

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する化合物を用いれば従来技術の課題を解決し得ることを見出した。すなわち、課題を解決するための手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0009】
[1] 下記一般式(I)で表されることを特徴とする重合性液晶化合物。
【化3】

[式中、Pは下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性官能基を表し(式中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。);
【化4】

Spは、スペーサーまたは単結合を表し;
1およびZ2は、−CO−O−を表し;
0は、炭素原子数1〜15の直鎖アルキル基を表し;
2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
1、r2およびr3は、それぞれ独立に0〜4のいずれかの整数を表し、r1、r2およびr3がそれぞれ2以上であるときにR2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。但し、R0がメチル基のとき、r2は1ではない。]
[2] [1]に記載の重合性液晶化合物は、前記一般式(I)中、Spの表す前記スペーサーが下記一般式(Sp−1)で表される連結基であることが好ましい。
【化5】

[式中、R41は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、または置換もしくは無置換のアルキニレン基を表す。Z41は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR51−、−NR51−CO−、−CR51=N−、−N=CR51−または単結合を表す(R51は、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す)。mは1〜6のいずれかの整数を表し、mが2以上の整数であるとき、Sp内に存在する複数のR41は互いに同一であっても異なっていてもよく、Sp内に存在する複数のZ41は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[3] [1]または[2]に記載の重合性液晶化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする重合性組成物。
[4] [3]に記載の重合性組成物は、下記一般式(II)で表される重合性液晶化合物を含有することが好ましい。
【化6】

[5] [4]に記載の重合性液晶組成物では、前記一般式(II)で表される重合性液晶化合物に対し、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物を3〜50質量%含むことが好ましい。
[6] [4]に記載の重合性液晶組成物では、前記一般式(II)で表される重合性液晶化合物に対し、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物を5〜40質量%含むことが好ましい。
[7] [3]〜[6]に記載の重合性組成物は、さらに、少なくとも1種の重合開始剤を含有することが好ましい。
[8] [3]〜[7]のいずれか一項に記載の重合性組成物は、さらに、少なくとも1種のキラル化合物を含有することが好ましい。
[9] [1]もしくは[2]に記載の重合性液晶化合物、または[3]〜[8]のいずれか一項に記載の重合性組成物を重合させる工程を含むことを特徴とする高分子材料の製造方法。
[10] [9]に記載の高分子材料の製造方法は、紫外線を照射することにより前記重合を行うことが好ましい。
[11] [1]もしくは[2]に記載の重合性液晶化合物、または[3]〜[8]のいずれか一項に記載の重合性組成物を、重合させてなることを特徴とする高分子材料。
[12] [11]に記載の高分子材料の少なくとも1種を含有することを特徴とするフィルム。
[13] [8]に記載の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定してなることを特徴とするフィルム。
[14] [12]または[13]に記載のフィルムは、光学異方性を示すことが好ましい。
[15] [12]〜[14]のいずれか一項に記載のフィルムは、選択反射特性を示すことが好ましい。
[16] [12]〜[15]のいずれか一項に記載のフィルムは、赤外線波長域に選択反射特性を示すことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重合性液晶化合物は、重合性液晶(II)およびそれに類似する重合性液晶の塗布後の結晶析出抑制に効果がある。汎用性の高い重合性液晶(II)の結晶析出抑制に効果があることから、重合性液晶(II)単独、もしくは、重合性液晶(II)を用いた重合性組成物、高分子材料およびフィルムは、様々な用途に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
1.重合性液晶化合物
本発明は、下記一般式(I)で表される重合性液晶化合物に関する。
下記一般式(I)で表される重合性液晶化合物は、R1が炭素原子数1〜15の直鎖アルキル基であり、メソゲンのZ1およびZ2が−CO−O−基であることを特徴とする。このようなメソゲンのZ1およびZ2が−CO−O−基である構造は、−CO−O−基と−O−CO−基の順でフェニレン基を連結している重合性液晶化合物(II)のメソゲンの連結鎖とは異なる。そのため、特表2002−536529号公報に記載の、重合性液晶化合物(II)を含むランダム混合物の合成の際に生成する化合物とは構造が異なり、特表2002−536529号公報に記載の方法では下記一般式(I)で表される化合物は得ることができない。また、一般式(I)で表される化合物は、溶剤への溶解性、及び他の液晶材料との相溶性も良好であり、重合で硬化可能であることから、光学部材等の種々の用途に有用である。
【0013】
【化7】

【0014】
(一般式(I)で表される重合性液晶化合物の構造)
前記一般式(I)中、Pは、下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性官能基を表す。ここでいう重合性官能基とは、重合に直接関与する基(例えばCH2=CH−)のみからなるものと、重合に直接関与する基(例えばCH2=CH−)とそれに結合している官能基(例えば−CO−、−CO−O−、−O−)から構成されるものの両方を包含する概念である。重合性官能基としては、ラジカル重合又はカチオン重合可能な重合性官能基が好ましい。
【0015】
Pは、下記式(P−1)〜(P−5)のいずれかで表される重合性官能基の中でも、(P−1)で表される重合性官能基であることが好ましい。
【0016】
【化8】

前記式(P−1)〜(P−5)中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0017】
一般式(I)中、Spはスペーサーまたは単結合を表す。ここでいうスペーサーとは、以下の一般式(Sp−1)で表される構造を有する連結基であり、一般式(Sp−1)で表される連結基であることが好ましい。
【化9】

[式中、R41は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、または置換もしくは無置換のアルキニレン基を表す。Z41は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR51−、−NR51−CO−、−CR51=N−、−N=CR51−または単結合を表す(R51は、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す)。mは1〜6のいずれかの整数を表し、mが2以上の整数であるとき、Sp内に存在する複数のR41は互いに同一であっても異なっていてもよく、Sp内に存在する複数のZ41は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
上記一般式(Sp−1)において、R41は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、または置換もしくは無置換のアルキニレン基を表す。アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。アルキレン基の炭素原子数は1〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることがさらにより好ましい。アルケニレン基とアルキニレン基は、それぞれ直鎖状であっても分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。アルケニレン基とアルキニレン基の炭素原子数は、それぞれ2〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることがさらにより好ましい。アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が有していてもよい置換基として、例えば、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を挙げることができる。アルコキシ基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばメトキシ基、エトキシ基を挙げることができる。R41としては、置換もしくは無置換のアルキレン基が好ましく、無置換のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2〜8の無置換のアルキレン基がさらに好ましく、炭素原子数2〜6の無置換のアルキレン基がさらにより好ましい。
上記一般式(Sp−1)において、Z41は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR51−、−NR51−CO−、−CR51=N−、−N=CR51−または単結合を表す。R51は、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。R51がとりうるアルキル基は、直鎖状、分枝状のいずれであってもよく、炭素原子数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。例えば、メチル基やエチル基を採用することができる。アルキル基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、シアノ基を挙げることができる。R51としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子がさらにより好ましい。Z41としては、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−が好ましく、−O−、−S−がより好ましい。
上記一般式(Sp−1)において、mは1〜6のいずれかの整数を表し、1〜4のいずれかの整数であることが好ましく、1〜3のいずれかの整数であることがより好ましい。mが2以上の整数であるとき、Sp内に存在する複数のR41は互いに同一であっても異なっていてもよく、Sp内に存在する複数のZ41は互いに同一であっても異なっていてもよい。
好ましいSpとして、置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基を含む連結基を挙げることができる。例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシアルキレンオキシ基、アルキレンオキシアルキレンオキシアルキレンオキシ基を好ましく採用することができる。その中でも、Spはアルキレンオキシ基であることがより好ましい。
【0018】
一般式(I)中、Z1およびZ2は、−CO−O−を表す。
【0019】
一般式(I)中、R0は、炭素数1〜15の直鎖アルキル基を表す。R0の炭素原子数は1〜10であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜5であることが特に好ましい。例えば、メチル基やエチル基を採用することができる。アルキル基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、シアノ基を挙げることができる。
【0020】
前記一般式(I)中、R2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表す。ここでいうアルキル基、ならびにアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基およびアミド基のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、さらに置換基(好ましくはハロゲン原子)を有していてもよく、例えばメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。R2、R3およびR4としては、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、メチルアミド基、エチルアミド基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子を好ましい例として挙げることができる。その中でも、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、塩素原子がより好ましい。
【0021】
前記一般式(I)中、r1、r2およびr3は、それぞれ独立に0〜4のいずれかの整数を表す。r1、r2およびr3は、0〜3のいずれかの整数であることが好ましく、0〜2のいずれかの整数であることがより好ましい。r1、r2およびr3が2以上であるときに、R2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。但し、R0がメチル基のとき、r2は1ではない。さらに、r1およびr3は0であることが特に好ましい。また、r2は0または1であることが特に好ましく、0であることがより特に好ましい。
【0022】
以下に、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物の具体例を挙げるが、本発明の一般式(I)で表される重合性液晶化合物の範囲はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
【化19】

【0033】
【化20】

【0034】
【化21】

【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【化24】

【0038】
【化25】

【0039】
【化26】

【0040】
【化27】

【0041】
【化28】

【0042】
【化29】

【0043】
本発明の重合性液晶化合物は、種々の合成法を組み合わせることにより合成することができる。
例えば、一般式(I)で表される重合性液晶化合物は以下のスキーム1にしたがって収率良く合成することができる。
【化30】

【0044】
スキーム1における一般式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)におけるP、Sp、R0、R2、R3、R4、r1、r2、r3の定義は、一般式(I)におけるP、Sp、R0、R2、R3、r1、r2、r3の定義と同じである。
スキーム1では、まず一般式(A)で表されるカルボン酸と、一般式(B)で表されるフェノールを用いて一般式(C)で表されるアルデヒドにする。この反応自体は公知の反応であり、公知の条件を適宜選択して採用することができる。次に、一般式(C)で表されるアルデヒドを参加し、一般式(D)で表されるカルボン酸にする。この反応自体は公知の反応であり、公知の条件を適宜選択して採用することができる。最後に、一般式(D)で表されるカルボン酸と、一般式(E)で表されるフェノールを用いて一般式(I)で表される重合性液晶化合物にする。この反応自体は公知の反応であり、公知の条件を適宜選択して採用することができる。反応終了後は、通常の後処理と精製を行うことにより、一般式(I)で表される重合性液晶化合物を取得することができる。精製法としては、例えば再結晶やカラムクロマトグラフィーを挙げることができる。以上の反応条件は、適宜改変して最適化を図ることができる。
スキーム1で用いた化合物は、商業的に入手可能なものは商業的に入手して用いてもよいし、既知の合成法を適宜選択して合成したものを用いてもよい。
【0045】
本発明の重合性液晶化合物は、液晶性を示す。さらに、汎用性の高い重合性液晶(II)の塗布後の結晶析出抑制に効果がある、添加剤としての重合性液晶を提供できることから、重合性液晶(II)の用途をさらに広げることができる。
また、本発明の重合性液晶化合物は、化学的に安定であり、溶剤に溶解しやすく、重合しやすく、無色透明であるなど、複数の特性をも満足する。本発明の重合性液晶化合物を用いて作製される硬化膜は、十分な硬度を示し、無色透明であり、耐候性・耐熱性が良好である等、複数の特性を満足し得るであろう。従って、本発明の重合性液晶化合物を利用して形成された硬化膜は、例えば、光学素子の構成要素である位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【0046】
2.重合性組成物
本発明は、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1種を含有する重合性組成物にも関する。
本発明の重合性組成物の好ましい一態様は、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1種と、少なくとも1種のキラル化合物とを含有する重合性組成物である。本発明の重合性組成物のより好ましい一態様は、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物の少なくとも1種と、少なくとも1種のキラル化合物と、重合開始剤を含有する重合性組成物である。本態様の重合性組成物をコレステリック液晶相とした後、それを固定して形成された膜は、その螺旋ピッチに応じて、所定の波長の光に対して、選択反射特性を示し、反射膜(例えば、赤外線反射膜)として有用である。
【0047】
本発明の重合性組成物について、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物は、主成分であっても、添加剤として使用されていてもよい。前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物を組成物の全質量に対して、1質量%以上含有していれば、一般式(I)の化合物による効果を得ることができ、好ましくは2〜85質量%、より好ましくは3〜75質量%、さらに好ましくは5〜70質量%である。但し、この範囲に限定されるものではない。
以下において、本発明の重合性組成物に用いることができる材料と、本発明の重合性組成物を用いて高分子材料やフィルムを製造する方法およびそれに用いる材料と、製造したフィルムの用途について説明する。
【0048】
(2−1)キラル化合物
本発明の重合性組成物を、コレステリック液晶相を示す組成物として調製するためには、キラル化合物を添加するのが好ましい。キラル化合物は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。前記キラル化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。キラル化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物も用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。キラル化合物(キラル剤)は、重合性官能基を有していてもよい。キラル化合物が重合性官能基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性官能基を有する場合は、重合性キラル化合物と重合性棒状液晶合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル化合物が有する重合性官能基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性官能基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル化合物の重合性官能基も、不飽和重合性官能基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性官能基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性官能基であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の重合性組成物中のキラル化合物は、併用される一般式(I)で表される重合性液晶化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。キラル化合物の使用量を、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0050】
(2−2)他の液晶性化合物
本発明の重合性組成物は、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物とともに、他の1種以上の液晶性化合物を含有していてもよい。前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物は、他の液晶性化合物との相溶性も高いので、他の液晶性化合物を混合しても、不透明化等が生じず、透明性の高い膜を形成可能である。他の液晶性化合物を併用可能であることから、種々の用途に適する種々の組成の組成物を提供できる。併用可能な他の液晶性化合物の例には、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0051】
本発明に利用可能な他の液晶性化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性官能基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性官能基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性官能基の例には、不飽和重合性官能基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性官能基が好ましく、エチレン性不飽和重合性官能基が特に好ましい。重合性官能基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性官能基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
その中でも、本発明の重合性組成物は、下記一般式(II)で表される重合性液晶化合物を含有することが好ましい。
【化31】

【0052】
前記他の液晶性化合物の添加量については特に制限はない。前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物の含有割合が高くても、他の液晶性化合物の含有割合が高くても、互いに等しい含有割合であってもよく、用途に応じて好ましい範囲に調整することができる。
なお、本発明の重合性組成物は、前記一般式(I)で表される本発明の重合性液晶化合物を、前記一般式(II)で表される重合性液晶化合物に対して1/99〜60/40で含むことが好ましく、3/97〜50/50で含むことがより好ましく、5/95〜40/60で含むことが特に好ましい(いずれも質量比)。
【0053】
(2−3)重合開始剤
本発明の重合性組成物は、重合開始剤を含有していることが好ましい。例えば、紫外線照射により硬化反応を進行させて硬化膜を形成する態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0054】
前記光重合開始剤の使用量は、組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
(2−4)配向制御剤
本発明の重合性組成物中に、安定的に又は迅速に液晶相(例えば、コレステリック液晶相)となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック液晶相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
前記配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0056】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0057】
【化32】

【0058】
式中、R101、R102及びR103は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2及びX3は単結合又は二価の連結基を表す。R101〜R103で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2及びX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、−NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0059】
【化33】

【0060】
式中、Rは置換基を表し、m1は0〜5の整数を表す。m1が2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R101、R102、及びR103で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。m1は、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0061】
【化34】

【0062】
式中、R104、R105、R106、R107、R108及びR109は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R104、R105、R106、R107、R108及びR109でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(X1)におけるR101、R102及びR103で表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0063】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明の重合性組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、前記一般式(I)の化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0065】
(2−5)その他の添加剤
本発明の重合性組成物は、1種又は2種類以上の、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、染料、顔料等の色材、等の他の添加剤を含有していてもよい。
【0066】
3.高分子材料およびフィルム
(3−1)高分子材料およびフィルム
本発明は、本発明の重合性液晶化合物または本発明の重合性組成物を用いて製造した高分子材料とフィルムにも関する。高分子材料は本発明の重合性組成物を重合することにより製造されるものであり、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。本発明の重合性組成物を用いて製造されるフィルムは、液晶性を示すものであることが好ましく、液晶性フィルムは位相膜、反射膜等の種々の光学フィルムとして有用である。本発明の重合性組成物は、位相差フィルム、反射フィルム等の種々の光学フィルムの材料として有用である。
【0067】
(3−2)重合性組成物を用いた高分子材料およびフィルムの作製方法
本発明の高分子材料の製造方法は、本発明の重合性液晶化合物、または本発明の重合性組成物を重合させる工程を含むことを特徴とする。本発明の高分子材料の製造方法は、紫外線を照射することにより前記重合を行うことが好ましい。
【0068】
本発明の高分子材料の製造方法および前記フィルムの製造方法の一例は、
(i)基板等の表面に、本発明の重合性組成物を塗布して、液晶相(コレステリック液晶相等)の状態にすること、
(ii)前記重合性組成物の硬化反応を進行させ、液晶相を固定して硬化膜を形成すること、
を少なくとも含む製造方法である。
(i)及び(ii)の工程を、複数回繰り返して、複数の上記硬化膜が積層されたフィルムを作製することもできる。
【0069】
前記(i)工程では、まず、基板又はその上に形成された配向膜の表面に、本発明の重合性組成物を塗布する。前記組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。該有機溶媒としては、アミド(例えばN,N−ジメチルホルムアミド);スルホキシド(例えばジメチルスルホキシド);ヘテロ環化合物(例えばピリジン);炭化水素(例えばベンゼン、ヘキサン);アルキルハライド(例えばクロロホルム、ジクロロメタン);エステル(例えば酢酸メチル、酢酸ブチル);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン);エーテル(例えばテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン);1,4−ブタンジオールジアセテートなどが含まれる。これらの中でも、アルキルハライド及びケトンが特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0070】
前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
【0071】
次に、表面に塗布され、塗膜となった組成物を、コレステリック液晶相等の液晶相の状態にする。前記組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、液晶相の状態にすることができる場合がある。また、液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的に液晶相の状態にすることができる。前記組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。
【0072】
次に、(ii)の工程では、液晶相の状態となった塗膜を硬化させる。硬化は、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等、いずれの重合法に従って進行させてもよい。一般式(I)の化合物に応じて、適する重合法が選択されるであろう。この重合により、本発明の一般式(I)の化合物から誘導される単位を構成単位中に有する重合体が得られる。
一例では、紫外線を照射して、硬化反応を進行させる。紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、前記組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
本発明の一般式(I)で表される重合性液晶化合物は紫外線に対して劣化しにくいため、紫外線照射後も優れた液晶性や耐久性を維持することができる。
【0073】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、液晶相が乱れないように、液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。
【0074】
上記工程では、液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、液晶相となっている化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、液晶相の配向状態を固定する。
なお、本発明においては、液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に硬化膜中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0075】
上記硬化膜の厚みについては特に制限はない。用途に応じて、又は所望とされる光学特性に応じて、好ましい膜厚が決定されるであろう。一般的には、厚さは0.05〜50μmが好ましく、1〜35μmがより好ましい。
【0076】
(3−3)基板
本発明のフィルムは、基板を有していてもよい。当該基板は自己支持性があり、上記硬化膜を支持するものであれば、材料及び光学的特性についてなんら限定はない。ガラス板、石英板、及びポリマーフィルム等から選択することができる。用途によっては、紫外光に対する高い透明性が要求されるであろう。可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが好ましい。
【0077】
(3−4)配向層
本発明のフィルムは、基板と前記硬化膜との間に、配向層を有していてもよい。配向層は、液晶化合物の配向方向をより精密に規定する機能を有する。配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成等の手段で設けることができる。さらには、電場の付与、磁場の付与、或いは光照射により配向機能が生じる配向層も知られている。配向層は、ポリマーの膜の表面に、ラビング処理により形成するのが好ましい。
【0078】
配向層に用いられる材料としては、有機化合物のポリマーが好ましく、それ自体が架橋可能なポリマーか、或いは架橋剤により架橋されるポリマーがよく用いられる。当然、双方の機能を有するポリマーも用いられる。ポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレ−ト、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコ−ル及び変性ポリビニルアルコ−ル、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネート等のポリマー及びシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーであり、さらにゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが好ましく、特にポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0079】
(3−5)本発明のフィルムの用途
本発明のフィルムの一態様は、本発明の重合性組成物の、液晶相の配向(例えば、水平配向、垂直配向、ハイブリッド配向等)を固定したフィルムであって、光学異方性を示すフィルムである。当該フィルムは、液晶表示装置等の光学補償フィルム等として利用される。
本発明のフィルムの一態様は、本発明の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定したフィルムであって、所定の波長域の光に対して選択反射特性を示すフィルムである。本発明のフィルムは、赤外線波長域に選択反射特性を示すことが好ましく、赤外線波長域(波長800〜1300nm)に選択反射特性を示す当該フィルムは、例えば建物又は車両の窓ガラスに貼付され、もしくは合わせガラスに組み込まれて、遮熱部材として利用される。
また、本発明のフィルムは、光学素子の構成要素である、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0081】
<本発明の重合性液晶化合物の合成>
[実施例1]
以下のスキームに従って、化合物(I−1)を合成した。
【化35】

【0082】
メタンスルホニルクロリド(33.0mmol,2.6mL)のTHF溶液(17mL)にヒドロキノンモノメチルエーテル(37mg)を加え、内温を−5℃まで冷却した。そこに、A−1(31.5mmol,8.33g)とジイソプロピルエチルアミン(33.0mmol,5.75mL)のTHF溶液(16mL)を内温が0℃以上に上昇しないように滴下した。−5℃で30分撹拌した後、ジイソプロピルエチルアミン(33.0mmol,5.75mL)、B−1のTHF溶液(20mL)、DMAP(スパチュラ一杯)を加えた。その後、室温で4時間撹拌した。メタノール(5mL)を加えて反応を停止した後に、水と酢酸エチルを加えた。酢酸エチルで抽出した有機層を、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去しC−1の粗生成物を得た。
アルデヒドC−1のアセトニトリル溶液(67mL)に対し、亜塩素酸ナトリウム(42.0mmol,3.80g)の水溶液(2mL)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(6.0mmol,0.94g)の水溶液(8.2mL)、過酸化水素水(4.0mL)を加え、室温で12時間撹拌した。1N 塩酸水溶液を100mL加えた後に、ろ過した。残渣をメタノールで少量のアセトニトリルで洗浄することにより、カルボン酸D−1を定量的に得た。
メタンスルホニルクロリド(6.0mmol,0.46mL)のTHF溶液(3mL)にヒドロキノンモノメチルエーテル(7mg)を加え、内温を−5℃まで冷却した。そこに、カルボン酸D−1(5.5 mmol,2.1g)とジイソプロピルエチルアミン(6.0mmol,1.1mL)のTHF溶液(6mL)を内温が0℃以上に上昇しないように滴下した。−5℃で30分撹拌した後、ジイソプロピルエチルアミン(6.0mmol,1.1mL)、4−ペンチルフェノールであるE−1(5.0mmol,0.82g)のTHF溶液(4mL)、DMAP(スパチュラ一杯)を加えた。その後、室温で2時間撹拌した。メタノール(5mL)を加えて反応を停止した後に、水と酢酸エチルを加えた。酢酸エチルで抽出した有機層を、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去しI−1の粗生成物を得た。酢酸エチルとメタノールで再結晶を行い、I−1を78%の収率で得た。
1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.9(t,3H), 1.2−1.4(m,4H), 1.5−1.7(m,2H), 1.8−2.0(m,4H), 2.6(t,2H), 4.1−4.3(m,4H), 5.8(d,1H), 6.1(dd,1H), 6.4(d,1H), 6.9−7.0(m,2H), 7.1−7.2(m,2H), 7.2−7.3(m,2H), 7.3−7.4(m,2H), 8.1−8.2(m,2H), 8.2−8.3(m,2H)
得られた例示化合物(I−1)の相転移温度を偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって求めたところ、74℃で結晶相からスメクチックA液晶相に変わり、124℃でスメクチックA液晶相からネマチック液晶相に変わり、166℃を超えると等方性液体相に変わった。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同じ合成法により、化合物(I−2)を得た。化合物(I−2)も、化合物(I−1)と同様に相転移した。
【化36】

1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.2(t,3H)、1.8−2.0(m,4H), 2.6(d,2H), 4.1−4.3(m,4H), 5.8(d,1H), 6.1(dd,1H), 6.4(d,1H), 6.9−7.0(m,2H), 7.1−7.2(m,2H), 7.2−7.3(m,2H), 7.3−7.4(m,2H), 8.1−8.2(m,2H), 8.2−8.3(m,2H)
【0084】
[実施例3]
実施例1と同じ合成法により、化合物(I−3)を得た。化合物(I−3)も、化合物(I−1)と同様に相転移した。
【化37】

1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.9(t,3H), 1.5−1.6(m,2H), 1.8−2.0(m,4H), 2.6(d,2H), 4.1−4.3(m,4H), 5.8(d,1H), 6.1(dd,1H), 6.4(d,1H), 6.9−7.0(m,2H), 7.1−7.2(m,2H), 7.2−7.3(m,2H), 7.3−7.4(m,2H), 8.1−8.2(m,2H), 8.2−8.3(m,2H)
【0085】
[実施例4]
実施例1と同じ合成法により、化合物(I−4)を得た。化合物(I−4)も、化合物(I−1)と同様に相転移した。
【化38】

1H−NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.8−2.0(m,4H), 2.3(s,3H), 4.1−4.3(m,4H), 5.8(d,1H), 6.1(dd,1H), 6.4(d,1H), 6.9−7.0(m,2H), 7.1−7.2(m,2H), 7.2−7.3(m,2H), 7.3−7.4(m,2H), 8.1−8.2(m,2H), 8.2−8.3(m,2H)
【0086】
[実施例11]
<重合性組成物の調製>
実施例1で合成した本発明の重合性液晶化合物(I−1)を用いて、下記の方法にしたがって液晶性組成物を調製した。
まず、下記の組成の液晶性組成物塗布液(1)を調製した。
上記化合物(I−1) 20質量部
下記重合性液晶化合物(II) 80質量部
MEK 233質量部
【化39】

【0087】
<フィルムの製造>
次に、得られた液晶性組成物を用いて実施例11のフィルムを製造した。
洗浄したガラス基板上に日産化学社製ポリイミド配向膜SE−130をスピンコート法により塗布し、乾燥後に250℃で1時間焼成した。これをラビング処理して配向膜付き基板を作製した。この基板の配向膜のラビング処理面上に、液晶性組成物塗布液(1)をスピンコート法により室温で塗布し、室温で30分静置した。
【0088】
(結晶析出抑制の評価)
偏光顕微鏡を用いて、得られた実施例11のフィルムの液晶膜表面の任意の領域について、結晶析出率を目視で測定したところ、10%であった。
【0089】
[実施例12〜14および比較例1〜6]
実施例11の化合物(I−1)の代わりに下記表1に記載される化合物を用いた点を変更して、実施例11と同じ方法により液晶性組成物塗布液を調製し、結晶析出率を測定した。結果は、下記表1に示すとおりであった。
【0090】
【表1】

【0091】
【化40】

【0092】
実施例11〜14および比較例1〜6の結果から、実施例1〜4で合成した本発明の一般式(I)の化合物の添加は、従来の重合性液晶化合物と比較して、重合性液晶化合物(II)の結晶析出の大幅な抑制を達成できることが示された。
【0093】
〔実施例15〕
化合物(I−1)を用いて、下記の方法にしたがって、液晶組成物(15)を調製した。
例示化合物(I−1) 20質量部
重合性液晶化合物(II) 80質量部
キラル剤Paliocolor LC756 (BASF社製) 3質量部
空気界面配向剤(X1−1) 0.04質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒 クロロホルム 300質量部
【0094】
【化41】

【0095】
実施例11と同様にして製作した配向膜付き基板の配向膜表面に液晶性組成物塗布液(15)をスピンコート法により室温で塗布し、120℃で3分間配向熟成を行った後に、室温でUVの短波長成分を除去した高圧水銀ランプを用いて10秒間光照射して配向を固定し選択反射膜を得た。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜に結晶の析出は見られなかった。
得られた選択反射膜を偏光顕微鏡で観察したところ配向欠陥が無く均一に配向していることを確認した。さらにこの膜を島津社製の分光光度計UV−3100PCで透過スペクトルを測定したところ赤外領域に選択反射ピークがあった。
【0096】
例示化合物(I−1)の代わりに化合物(I−2)〜化合物(I−4)を用いた以外は、実施例15と同様にして、液晶性組成物塗布液をそれぞれ調製した。これらの塗布液をそれぞれ用いて、実施例15と同様にして選択反射膜をそれぞれ形成した。これらの選択反射膜はいずれも良好な配向性を示した。また、分光光度計UV−3100PCで透過スペクトルを測定したところ赤外領域に選択反射ピークがあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されることを特徴とする重合性液晶化合物。
【化1】

[式中、Pは下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性官能基を表し(式中、R11〜R13はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。);
【化2】

Spは、スペーサーまたは単結合を表し;
1およびZ2は、−CO−O−を表し;
0は、炭素原子数1〜15の直鎖アルキル基を表し;
2、R3およびR4は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
1、r2およびr3は、それぞれ独立に0〜4のいずれかの整数を表し、r1、r2およびr3がそれぞれ2以上であるときにR2、R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。但し、R0がメチル基のとき、r2は1ではない。]
【請求項2】
前記一般式(I)中、Spの表す前記スペーサーが下記一般式(Sp−1)で表される連結基であることを特徴とする請求項1に記載の重合性液晶化合物。
【化3】

[式中、R41は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、または置換もしくは無置換のアルキニレン基を表す。Z41は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR51−、−NR51−CO−、−CR51=N−、−N=CR51−または単結合を表す(R51は、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す)。mは1〜6のいずれかの整数を表し、mが2以上の整数であるとき、Sp内に存在する複数のR41は互いに同一であっても異なっていてもよく、Sp内に存在する複数のZ41は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項3】
請求項1または2に記載の重合性液晶化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項4】
下記一般式(II)で表される重合性液晶化合物を含有することを特徴とする請求項3に記載の重合性組成物。
【化4】

【請求項5】
前記一般式(II)で表される重合性液晶化合物に対し、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物を3〜50質量%含むことを特徴とする請求項4に記載の重合性液晶組成物。
【請求項6】
前記一般式(II)で表される重合性液晶化合物に対し、前記一般式(I)で表される重合性液晶化合物を5〜40質量%含むことを特徴とする請求項4に記載の重合性液晶組成物。
【請求項7】
さらに、少なくとも1種の重合開始剤を含有することを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項8】
さらに、少なくとも1種のキラル化合物を含有することを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項9】
請求項1もしくは2に記載の重合性液晶化合物、または請求項3〜8のいずれか一項に記載の重合性組成物を重合させる工程を含むことを特徴とする高分子材料の製造方法。
【請求項10】
紫外線を照射することにより前記重合を行うことを特徴とする請求項9に記載の高分子材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1もしくは2に記載の重合性液晶化合物、または請求項3〜8のいずれか一項に記載の重合性組成物を、重合させてなることを特徴とする高分子材料。
【請求項12】
請求項11に記載の高分子材料の少なくとも1種を含有することを特徴とするフィルム。
【請求項13】
請求項8に記載の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定してなることを特徴とするフィルム。
【請求項14】
光学異方性を示すことを特徴とする請求項12または13に記載のフィルム。
【請求項15】
選択反射特性を示すことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項16】
赤外線波長域に選択反射特性を示すことを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のフィルム。

【公開番号】特開2013−67603(P2013−67603A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28885(P2012−28885)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】