説明

重水素化ジオキセン化合物とその製造方法、及び光学材料

【課題】プラスチック光ファイバー材料等の光学材料として有用な、化合物等を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される化合物。
一般式(1)
【化1】


(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性樹脂材料、中でも光ファイバーや光導波路等の光学材料用透明性樹脂の原料として有用な重水素化ジオキセン類の製造方法に関し、さらに該化合物を原料とした重合体および光学材料への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学部材の技術分野では、主鎖に環状構造を有するポリマー(重合体)が種々知られている。主鎖に環状構造を導入する目的の一つは耐熱性の向上、すなわち、ポリマーのガラス転移温度(Tg)を上げることである。主鎖に環状構造を有するポリマーとしては、(1)ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドまたはポリカーボネートなどのように主として芳香族基や極性基を有するポリマー;(2)環化重合系(特許文献1参照);(3)開環重合系(アモルファスポリオレフィン)(特許文献2、3参照);および(4)環状モノマーと異種オレフィンとの共重合系(特許文献4、5、6および非特許文献1参照)などが代表的である。まず(1)は、芳香族基や極性基を導入するとTgは上昇するが、その一方で、分子配向による複屈折の増大や吸湿性の増加を招いたりする場合が多い。次に(2)の環化重合系は、一般的にモノマーがジエン構造を持つ為、架橋によるポリマー不溶化の懸念があり、環化率と重合収率の両立も難しい。さらに、パ−フルオロ化された(ジエン)モノマーの合成は難しく(合成に複数段階必要)、時間がかかる(特許文献1、非特許文献1参照)。しかも一般的に原材料入手が困難で、危険な試薬を用いる必要があるため、ポリマーのコストは高価になる。そして(3)の開環重合系は、芳香族基や極性基をできるだけ減らした構造もあり、複屈折や吸湿性などが改良されている。しかし、吸湿性は確かに良くなるが、他層との密着が悪くなる場合がある。また、高機能化のための構造の自由度が少なく、官能基の導入が検討されている。(4)の環状モノマーと異種オレフィンとの重合で製造されるポリマー系は、容易に製造でき、物性調整の幅を広く制御できる可能性があり、精力的に研究されている。その中で、オクタフルオロシクロペンテンのような炭素原子とフッ素原子でのみ構成されたフッ素含有環状オレフィンと異種オレフィンとのコポリマーが開示されているが(特許文献5参照)、パ−フルオロ化されたジエンモノマーと同様にモノマー合成が特殊であるため、種々の異なる構造のフッ素含有環状オレフィンを容易に入手できない。一方、ビニレンカーボネートとフッ素原子を含有するオレフィン(具体的には、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と略することがある)やクロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」と略することがある))とのコポリマーが開示されているが(特許文献6参照)、コポリマー中のビニレンカーボネート含率をあげると極性が高くなり、吸湿などの影響が懸念される。また該コポリマーはランダムコポリマーなので、重合法やビニレンカーボネートの含率などにより、結晶性を示す可能性が高く、透明性を要求される用途には懸念がある。また、1,3−ジオキソール誘導体を有する含フッ素共重合体も開示されているが、ポリマーの湿熱時の安定性が良くない(特許文献7参照)。即ち、耐湿熱性と非晶性を保つなど総合的に満足できるポリマーが現在も求められている。
【0003】
またプラスチック光ファイバー材料においては、ポリマー中に含まれる水素原子を重水素化することにより、伝送損失を低減し長距離伝送が可能になることが知られている。例えば、安価で加工容易なポリメタクリル酸メチル(PMMA)は、C−1H 結合に由来する伝送損失のために限られた用途でしか使用することができないが、重水素化PMMAを利用する方法(特許文献8)によりこの損失を抑えることが可能であることが報告されている。ただし、重水素化PMMAもTgが低いため耐熱性の低さが問題点として残る。
すなわち、耐熱性向上のために主鎖に環構造を有し、かつ耐湿熱性や非晶性などを総合的に満足し、さらに伝送損失が低い重水素化されたポリマー、およびその製造法が求められている。
【0004】
なお、ジオキセン類、ベンゾジオキセン類の製造方法に関係する従来技術としては、ジオキサンをジクロロ化した後亜鉛還元してジオキセンを得る方法(特許文献9)や、カテコールと1,2−ジブロモエタンの縮合によりベンゾジオキサンを合成し、引き続き臭素化、還元してベンゾジオキセンを得る方法(非特許文献2)が報告されているが、いずれも重水素化物を得た報告例はない。
【0005】
【特許文献1】特許第2526641号公報
【特許文献2】特公平8−26124号公報
【特許文献3】特公平2−9619号公報
【特許文献4】特開平5−25337号公報
【特許文献5】特開2001−122928号公報
【特許文献6】特開2003−155312号公報
【特許文献7】特開平4−292608号公報
【特許文献8】特開昭58−154803号公報
【特許文献9】特開平10−67773号公報
【非特許文献1】TEFLON(登録商標)AF非晶質フルオロポリマーJohn Scheires、1997年、John Wiley & SonsLtd編のModern Fluoropolymers、397〜398頁)参照
【非特許文献2】J. Org. Chem. 1987, 52,5616
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学部品、特にプラスチック光ファイバー材料等の光学材料として有用な、化合物(重水素化ジオキセン類)を提供することを課題とする。また本発明は、該化合物(重水素化ジオキセン類)の製造方法、それを用いて製造した重合体、組成物、光学材料(特に、光学部品)等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは種々検討を重ねた結果、下記一般式(1)または(2)で表される化合物の合成に成功するとともに、それを用いた重合体、特に、光学材料への応用を検討し、本発明を解決するに至った。
【0008】
前記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
(1)下記一般式(1)で表される化合物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
(2)前記一般式(1)中のR1〜R4がいずれも水素原子(1Hまたは2H)である、(1)に記載の化合物。
(3)前記一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子(1Hまたは2H)のうち、80%以上が2Hである、(1)または(2)に記載の化合物。
(4)下記一般式(2)で表され、かつ、該一般式(2)中のAで表される水素原子(1Hまたは2H)の少なくとも1つが2Hである化合物。
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
(5)前記一般式(2)中のR5〜R8 がいずれも水素原子(1Hまたは2H)である、(4)に記載の化合物。
(6)下記一般式(2)で表される化合物を含む組成物であって、前記一般式(2)中のAに相当する部分の40%以上が2Hである、組成物。
一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
(6−2)一般式(2)で表される化合物を含む組成物であって、前記一般式(2)中のAに相当する部分の40%以上が2Hである、重合性組成物。
(7)下記一般式(A−1)で表される化合物を、重水素により還元して、下記一般式(A−2)で表される化合物を合成する工程を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の化合物の製造方法。
【化4】

(一般式(A−1)および(A−2)中、Zはアルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基または塩素原子を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。)。
【0009】
(7−2)前記一般式(A−2)で表される化合物を合成した後、さらに、下記反応式で表される工程を経由する、(7)に記載の化合物の製造方法。
【化5】

(上記反応式中、Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルカンスルホニル基またはアレ−ンスルホニル基を表す。Xは塩素原子または臭素原子を表す。)
(7−3)前記一般式(A−2)で表される化合物を合成した後、さらに、下記反応式で表される工程を経由する、(7)に記載の化合物の製造方法。
【化6】

(上記反応式中、Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルカンスルホニル基またはアレ−ンスルホニル基を表す。Xは塩素原子または臭素原子を表す。)
(8)O−H 結合を持たない溶媒および遷移金属を含む触媒を用いて還元する、(7)に記載の製造方法。
(9)前記一般式(A−1)中、Zはアルコキシ基であり、かつ、O−H 結合を持たない溶媒およびRu原子を含む触媒を用いて還元する、(7)に記載の製造方法。
(10)下記一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体。
一般式(3)
【化7】

(一般式(3)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(3)で表される繰り返し単位に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
(11)下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含む重合体。
一般式(4)
【化8】

(一般式(4)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。該重合体中に含まれる一般式(4)で表される繰り返し単位が有するAの40%以上が2Hである。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
(12)(1)〜(5)のいずれかに記載の化合物の少なくとも1種を含む組成物。
(13)(12)に記載の組成物を重合してなる重合体。
(14)(13)に記載の重合体を含む光学材料。
(15)(13)に記載の重合体を含むプラスチック製光ファイバー。
【発明の効果】
【0010】
本発明のジオキセン類の重水素化物は、環状構造の付与による優れた耐熱性と、重水素置換による高い透明性(例えば、光ファイバーとした場合の低い伝送損失)を有しており、透明性樹脂中でも光ファイバー用透明性樹脂の原料として有用である。また本発明の製造方法によれば、高い重水素化率を有するジオキセン類を、安価な重水素ガスを用いて簡便に製造する手法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値を最小値および最大値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、1Hとは通常の水素原子のことを表し、2Hとは重水素原子のことを表す。さらに2H 原子の比率に関して、{(2H原子の数)/(1H原子の数+2H原子の数)}の平均値を「重水素化率」として定義する。
加えて、本発明において、「重合体」には、単一のモノマーを重合した重合体のほか、2種類以上のモノマーを重合した共重合体も含む趣旨である。
【0012】
まず、本発明の一般式(1)で表される化合物について詳細に説明する。
本化合物は、例えば、ジオキセン(類)と呼ばれる化合物である。
一般式(1)
【化9】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(1)に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0013】
一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表し、水素原子(1Hまたは2H)であることが好ましく、R1〜R4のうち、少なくとも40%が2Hであることが好ましい。R1〜R4が置換基を表す場合、具体的な置換基としてはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基などが挙げられるが、アルキル基(直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、炭素数5以下のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基など)、またはアリール基(炭素数8以下のものが好ましく、例えばフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−トリル基など)であることが好ましい。これらの置換基は、さらに置換可能なラジカル重合性のない置換基を有していてもよい。その時の置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールアゾ基、ヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が例として挙げられる。
【0014】
本発明では、一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子の40%以上が2Hであり、好ましくは60%が2Hであり、さらに好ましくは80%以上が2Hである。
1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。この場合の環の大きさは5員環または6員環であることが好ましく、具体例としては、R1とR3が結合してテトラメチレン基 −(CH24−を形成している「シクロヘキサン環」などが挙げられる。
【0015】
以下に一般式(1)で表される化合物の例示化合物を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、例示化合物中の水素原子の40%以上が2Hであり、その位置はいずれの位置のものも含む趣旨である。また、下記例示化合物中のAは、1Hまたは2Hを表す。
【0016】
【化10】

【0017】
次に、本発明の一般式(2)で表され、かつ、該一般式(2)中のAで表される水素原子の少なくとも1つが2Hである化合物、および、一般式(2)で表される化合物を含む組成物であって、該組成物中の一般式(2)中のAに相当する部分の40%以上が2Hである組成物について詳細に説明する。一般式(2)で表される化合物は、例えば、ベンゾジオキセン(類)と呼ばれる化合物である。
一般式(2)
【化11】

(一般式(2)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0018】
一般式(2)中、R5〜R8はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表し、水素原子(1Hまたは2H)であることが好ましい。R5〜R8が置換基を表す場合、具体的な置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基などが例として挙げられ、好ましくはハロゲン原子またはアルキル基(直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、炭素数5以下のものが、例えばメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基など)であり、フッ素原子、塩素原子のいずれかであることが特に好ましい。これらの置換基は、さらに置換可能なラジカル重合性のない置換基を有していてもよい。その場合の置換基の例は、一般式(1)の説明で述べた「さらに置換可能なラジカル重合性のない置換基」と同様である。
5〜R8が水素原子を含む場合は、1Hでも2Hでもよくその比率に制限はない。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。この場合の環の大きさは5員環または6員環であることが好ましく、具体例としては、R1とR3が結合してテトラメチレン基 −(CH24−となっている「シクロヘキサン環」などが挙げられる。
【0019】
一般式(2)中、Aは水素原子を示し、本発明の化合物では、Aで表される水素原子の少なくとも1つは2Hである。さらに後述の製造方法等によって得られる一般式(2)で表される化合物を含む本発明の組成物は、組成物中のAに相当する部分の水素原子の40%以上が2Hであり、好ましくは60%が2Hであり、さらに好ましくは80%以上が2Hである。このような組成物は、重合性組成物として好ましく用いることができる。
【0020】
以下に一般式(2)で表される化合物の例示化合物を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、Aで記述されている水素原子は、本発明の化合物としては、その少なくとも一方が、本発明の組成物としては、全体の40%以上が2Hである。
【0021】
【化12】

【0022】
次に本発明の製造方法について説明する。
一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物は、下記反応式(A)で表されるとおり、下記一般式(A−1)で表される化合物を、2Hにより還元して、下記一般式(A−2)で表される化合物とするル−トによる製造方法で製造することが、簡便性、コスト面の観点で好ましい。
反応式(A)
【化13】

(一般式(A−1)および(A−2)中、Zはアルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基または塩素原子を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。)。
【0023】
本反応については、関連の先行技術として、シュウ酸ジメチル(一般式(A−1)中のZがメトキシ基に相当するもの)をメタノール溶媒中、水素ガスで還元してエチレングリコールを得る方法が報告されているが(Chem. Commun., 1997, 667)、重水素を用いた報告はなかった。
【0024】
一般式(A−1)中のZは、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基または塩素原子を表し、好ましくはアルコキシ基(より好ましくは、炭素原子数1〜6のアルコキシ基)であり、より好ましくはメトキシ基あるいはエトキシ基である。
Aは、60%以上が2Hであることが好ましく、80%以上が2Hであることがより好ましい。
【0025】
本反応は遷移金属触媒を用いて行うことができる。遷移金属の種類として好ましいものは、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、金、白金であり、ルテニウムであり、ルテニウムがより好ましい。ルテニウムは、ルテニウム(III)アセチルアセトナート[Ru(acac)3]または塩化ルテニウム(III)[RuCl3]として添加することが好ましい。また遷移金属に配位する配位子を併用することが好ましい。用いる配位子はとくに限定されないが、ホスフィン配位子を用いることが好ましく、具体例としては、トリtert−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの単座ホスフィン配位子、1,3−ジフェニルホスフィノエタンなどの2座ホスフィン配位子、1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン[CH3C(CH2PPh2)3]などの3座ホスフィン配位子が挙げられる。3座ホスフィン配位子の使用が特に好ましく、1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタンが最も好ましい。
【0026】
本反応は、無溶媒または O−H 結合を有さない溶媒中で行うことが好ましく、具体例としてはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。関連する先行技術として例示した非特許文献3においては、メタノールを溶媒として用いているが、重水素ガスとの反応においてはアルコール類を避けることにより、アルコール類のO−1Hに由来する1Hが重水素ガス由来の2Hと交換して化合物に入ってしまうのを防ぎ、重水素化率をより高めることができ好ましい。具体的には実施例で後述する。
【0027】
用いる水素ガスの重水素化率は40%以上が好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
水素圧、反応温度、反応時間は、用いる原料、触媒、溶媒などの種類に応じて適宜選択するが、水素圧は 0.1〜15MPaで、反応温度は25℃〜200℃で、反応時間は30分から100時間で行うことが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では、反応式(A)で得られたエチレングリコール−d6 を一般式(1)または(2)で表される化合物に変換するが、その手法は適宜選択することが可能である。その手法の具体例としては、下記反応式(B)または(C)のルートなどが好ましい。
【0029】
反応式(B)
【化14】

【0030】
反応式(B)中、Xは塩素原子または臭素原子を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。
【0031】
反応式(B)は、上記の重水素ガスを用いた還元で得られるエチレングリコール−d6 2分子を、酸触媒を用い、ジオキサン−d8 に変換し、ジハロゲン化し、還元して目的とするジオキセン−d6を得る方法である。ジオキサン−d8 合成工程で用いられる酸触媒は具体的には硫酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、実施例で述べるような方法で反応生成物を系中から取り除きながら反応させることが好ましい。ハロゲン化および還元の工程は、特開平10−67773号公報に記載の塩化スルフリルによるハロゲン化と亜鉛による還元により目的物を得ることができる。その他、ハロゲン化の工程ではN−ブロモスクシンイミド(NBS)、N−クロロスクシンイミド(NCS)、臭素(Br2)、塩素(Cl2)などを、還元工程では鉄粉やヨウ化ナトリウムなどを試薬として用いてもよい。
反応式(C)
【化15】

【0032】
反応式(C)中、Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hであり、60%以上が2Hであることが好ましく、80%以上が2Hであることがより好ましい。R1〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルカンスルホニル基(メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基など)、アレ−ンスルホニル基(ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基など)のいずれかを表し、好ましくは塩素原子または臭素原子である。Xは塩素原子または臭素原子を表す。
【0033】
反応式(C)は、重水素ガスを用いた還元で得られるエチレングリコール−d6をC−1に変換し、適当なジオール類またはカテコール類と反応させてC−2またはC−5を得て、その後は反応式(B)と同様にジハロゲン化し、還元して一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物を得る方法である。エチレングリコール−d6からC−1を得る方法としては、一般に(非重水素物の合成方法で)知られている種々の方法、例えば塩化チオニルで塩素化する方法(Y=Cl)やメタンスルホニルクロリドでメシル化する方法(Y=SO2CH3)などを用いることができる。C−1からC−2、C−5を合成する方法としては、一般に(非重水素物の合成方法で)知られている種々の方法、例えば塩基(トリエチルアミン、ピリジン、炭酸カリウムなど)の存在化加熱する方法などを用いることができる。具体的には、J. Org. Chem. 1987, 52,5616に記載の方法が挙げられる(Y=Br、R5〜R81H、炭酸カリウムを塩基として使用)。C−2からC−4、C−5からC−7を得る工程は、反応式(B)に述べた方法と同様の方法であり、J. Org. Chem. 1987, 52,5616には C−7(R5〜R81H)を得る方法が記載されている(X=Br)。
【0034】
【化16】

上記式中、Zはアルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基または塩素原子を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hであり、60%以上が2Hであることが好ましく、80%以上が2Hであることがさらに好ましい。R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Xは塩素原子または臭素原子を表す。
【0035】
次に、一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物である、重水素モノマーを用いて合成される重合体について説明する。本発明の重合体は下記一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体または一般式(4)で表される繰り返し単位を含む重合体である。
一般式(3)
【化17】

(一般式(3)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(3)で表される繰り返し単位に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
一般式(4)
【化18】

(一般式(4)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。該重合体中に含まれる一般式(4)で表される繰り返し単位が有するAの40%以上が2Hである。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
一般式(3)、(4)中のR1〜R8は、それぞれ、一般式(1)、(2)中のこれらと同義であり、好ましい範囲も同義である。一般式(4)中のAは、重合体全体の40%以上が2Hであり、好ましくは60%が2Hであり、さらに好ましくは80%以上が2Hである。
【0036】
本発明の重合体は、一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物であるモノマーのみからなる単独重合体であってもよいが、下記一般式(5)で表される化合物であるモノマーとの共重合体であることが好ましい。すなわち、一般式(3)で表される繰り返し単位または一般式(4)で表される繰り返し単位のみからなる単独重合体であってもよいが、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を含む共重合体であることが好ましい。また、一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物からそれぞれ複数種類を選択して用いてもよく、一般式(5)で表される化合物も複数種類用いてもよい。
【0037】
一般式(5)
【化19】

(一般式(5)中、L1〜L4は各々独立に、水素原子(1Hまたは2H)、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、アシル基、アシルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はアリールスルホニルアミノ基を表す。L1〜L4の中から選ばれる2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【0038】
一般式(6)
【化20】

(一般式(6)中、L1〜L4は各々独立に、水素原子(1Hまたは2H)、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、アシル基、アシルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はアリールスルホニルアミノ基を表す。L1〜L4の中から選ばれる2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【0039】
一般式(5)および(6)中の L1〜L4のうち少なくともひとつは、電子求引性基であることが好ましい。電子求引性基とはハメットの置換基定数σpが正である置換基とし、具体的には、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子を有するアルキル基(トリフルオロメチル基、テトラフルオロプロピル基など)、ハロゲン原子を有するアリール基(ペンタフルオロフェニル基など)が好ましい例として挙げられる。また、L1〜L4 のうち少なくともひとつはフッ素原子、フッ素原子を有するアルキル基(トリフルオロメチル基など)、フッ素原子を有するアルコキシカルボニル基(トリフルオロエトキシカルボニル基など)、フッ素原子を含むアリールオキシカルボニル基(ペンタフルオロフェノキシカルボニル基など)であることが好ましい。
【0040】
一般式(5)で表されるモノマーは、e値が0以上であることが好ましく、e値が0.2以上であることがさらに好ましい。e値とは、ビニルモノマーの重合反応性を推定する尺度として、AlfreyとPriceが提唱したQ,e−Schemeの値のひとつであり、Q,e−Schemeについての説明、種々のモノマーのQ,e値については、ポリマーハンドブック(2nd edition J.Brandrup、E.H.Immergut編)を参照することができる。また実験によっても値を推参することができる。
【0041】
共重合体に含まれる繰り返し単位の比率としては、一般式(3)で表される繰り返し単位または一般式(4)で表される繰り返し単位が20〜80mol%と、一般式(6)で表される繰り返し単位が80〜20mol%含まれることが好ましい。一般式(3)で表される繰り返し単位または一般式(4)で表される繰り返し単位が30〜70mol%含まれることがより好ましく、40〜60mol%含まれることがさらに好ましい。
【0042】
以下に一般式(5)で表される化合物として好ましい化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。式中、Aは、1Hまたは2Hのいずれかを表す。また、表記されていない水素原子も1Hまたは2Hのいずれであってもよい。
【0043】
【化21】

【化22】

【0044】
以下に本発明の重合体の具体例を挙げるが、本発明の共重合体はこれらの具体例に限定されるものでない。式中、Aは、1Hまたは2Hのいずれかを表す。また、表記されていない水素原子も1Hまたは2Hのいずれであってもよい。但し、一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物に由来する水素原子のうちの40%以上は2Hであり、60%以上が2Hであることが好ましく、80%が2Hであることがさらに好ましい。
また、共重合体に全体に含まれる水素原子のうちの40%以上が2Hであることが好ましい。
【0045】
【化23】

【0046】
【化24】

【0047】
【化25】

【0048】
【化26】

【0049】
【化27】

【0050】
上記重合体を製造する方法としては公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、塊状重合、溶液重合、水中またはエマルション中での乳化重合、懸濁重合方法などである。用いる光学部材の要求性能によって重合方法が適宜選択される。例えば、プラスチック光ファイバーのコア材に代表される光導波路であれば塊状重合法が好ましく、該ファイバーのクラッド材なら塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合法のいずれかが好ましい。
【0051】
溶液重合に一般に用いられる溶媒としては、酢酸アルキル(例えば、酢酸エチル、酢酸メチルまたは酢酸ブチルなど)を挙げることができる。
【0052】
重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができるが、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパ−オキシド(PBD)、tert−ブチルパ−オキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル4,4,ビス(tert−ブチルパ−オキシ)バラレート(PHV)などのパ−オキサイド系化合物、または2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は2種類以上を併用してもよい。
水性媒体中で行うプロセスの場合には、さらに無機のフリ−ラジカル発生剤、例えば過硫酸塩または「レドックス」化合物を用いることができる。
【0053】
また、分子量調節のために、適宜連鎖移動剤を用いてもよい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。前記連鎖移動剤については、重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0054】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いるのが好ましく、中でも、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
一般に、重合温度は選択した開始剤系の分解速度に依存し、好ましくは0〜200℃、より好ましくは40〜120℃である。一般式(5)で表される化合物が室温でガス状のモノマーである場合はオートクレ−ブなどの耐圧容器で重合することが好ましく、その時にかかる圧力は、例えば、大気圧から50bar、好ましくは2〜20barである。
【0056】
上記のようにして得られる本発明の重合体は、透明(紫外〜近赤外領域)で、非晶質なコポリマーで、一般的な溶媒(特に、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル)に可溶である。一般式(1)で表される化合物または一般式(2)で表される化合物由来の一般式(3)で表される繰り返し単位または一般式(4)で表される繰り返し単位の含有率は、好ましくは20〜80mol%、より好ましくは30〜70mol%、さらに好ましくは40〜60mol%である。本発明の重合体の分子量は、数平均分子量で、好ましくは1,000〜1,000,000(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定したスチレン換算での数平均分子量)であり、より好ましくは2,000〜900,000、さらに好ましくは3,000〜800,000である。また該重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60〜180℃、より好ましくは70〜180℃、さらに好ましくは80〜180℃である。本発明の重合体はガラス転移温度(Tg)が好ましくは60〜180℃、より好ましくは80〜140℃である。
【0057】
本発明の重合体は、光学部材の材料として有用である。本発明の重合体を含む光学部材として、例えば光ファイバー(車載用も含む)、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用、太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類などが挙げられる。そして、高耐熱性、低吸湿性、モノマーを選択することにより複屈折の非常に小さいポリマーも得ることが可能であることから散乱板、光ディスクなどの基板、および光スイッチに用いることも可能である。中でも、光導性素子類、レンズ類、鏡類に用いられるのが好ましく、光ファイバー、光導波路、レンズ類に用いられるのがより好ましい。本明細書では、特に好ましい態様である光ファイバーについて詳述するが、その他の光学部材についても本発明のポリマーを好ましく適用し得る。
【0058】
以下において、本発明の重合体を利用した光学部材の製造方法の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の重合体を、コア部とクラッド部とを有するプラスチック光学部材の形成に適用したものである。該重合体の溶液または固体を用いて、例えば、以下のような方法により(1)は特開平11−109144号公報の段落番号0053に記載がある)、プラスチック光ファイバープリフォームを製造することができる。但し、これらに限定されない。
(1)熱可塑性樹脂を溶融し、その中心部に本発明の重合体の溶融液を、さらにその中心部に屈折率調整剤、または屈折率調整剤を含む該重合体を注入し、屈折率調整剤を熱拡散させてプリフォームを製造する方法。
(2)回転するガラス管などを利用して中空状の熱可塑性樹脂からなる管を最外層に形成し、次にこの中空部に、本発明の重合体の溶液と屈折率調整剤とを注入し、回転させながら、減圧または加熱により、有機溶剤を揮発させて層を形成させつつ、屈折率調整剤の添加量を漸進的に増加させて、プリフォームを製造する方法。
(3)(1)および(2)に記載の製造方法において、屈折率調整剤を含まないでプリフォームを製造する方法。
(4)回転するガラス管などを利用して中空状の熱可塑性樹脂からなる管を最外層に形成し、次にこの中空部に本発明の重合体(該熱可塑性樹脂とは屈折率の異なる重合体であって、屈折率が該熱可塑性樹脂より高いことが好ましい。その屈折率差は好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01)を製造可能な重合性組成物(モノマー、重合開始剤、必要なら連鎖移動剤、および必要なら屈折率調整剤)を注入し、熱あるいは光により重合させ中空のプリフォーム(PF)を製造する方法。
(5)(4)において、該重合性組成物を段階的に重合させ、同心円状からなる複数層の回転重合体の中空PFを作製する際、複数種類の屈折率の異なるモノマーを用いて、中心に向かってその屈折率を漸進的に増加させながらプリフォームを製造する方法。この場合、最外層の熱可塑性樹脂は必須ではない。
【0059】
前記方法に用いられる熱可塑性樹脂としては、プラスチック光ファイバーの使用温度下で充分高い機械的強度を与える熱可塑性樹脂であれば何でもよいが、室温での引っ張り弾性率が2000MPa以上であることが好ましい。これらの中でも、特に代表的なものとしては、ポリメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、線状ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体系樹脂(AS系樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体系樹脂(ABS系樹脂)、ポリアセタール系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、テトラフルオロエチレン共重合体系樹脂、クロロトリフルオロエチレン共重合体系樹脂などが挙げられる。
【0060】
屈折率調整剤はドーパントとも称し、併用するポリマー又は重合性モノマーの屈折率と異なる化合物である。その屈折率差は、0.005以上であるのが好ましい。ドーパントは、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許登録第3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメ−タとの差が7(cal/cm31/2以内であるとともに、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
【0061】
また、ドーパントは重合性化合物であってもよく、重合性化合物のドーパントを用いた場合は、これを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いることが好ましい。本発明では、屈折率の異なる複数種のモノマーを選択し、その組成比を漸進的に変化させることにより屈折率分布型コア部を形成してもよい。また、上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。ドーパントを用いて屈折率分布型コア部を形成することにより、得られる光学部材は広い伝送帯域を有する屈折率分布型プラスチック光学部材となる。
【0062】
前記ドーパントとしては、特許登録第3332922号公報や特開平11−142657号公報に記載されている様な、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジルn−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ビフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、ジフェニルスルフィド、ビス(トリメチルフェニル)スルフィド、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体、1,2−ジブロモテトラフルオロベンゼン、1,3−ジブロモテトラフルオロベンゼン、1,4−ジブロモテトラフルオロベンゼン、2−ブロモテトラフルオロベンゾトリフルオライド、クロロペンタフルオロベンゼン、ブロモペンタフルオロベンゼン、ヨ−ドペンタフルオロベンゼン、デカフルオロベンゾフェノン、パ−フルオロアセトフェノン、パ−フルオロビフェニル、クロロヘプタフルオロナフタレン、ブロモヘプタフルオロナフタレンなどが挙げられる。硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体については、下記に具体的に示す化合物の中から適宜選ばれる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることができる。また、重合性化合物として、例えば、トリブロモフェニルメタクリレート等が挙げられる。屈折率調整成分として重合性化合物を用いる場合は、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性屈折率調整成分とを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。
【0063】
【化28】

【0064】
本発明の重合体をコア部に用いる場合は、低伝送損失化の観点から、C−H結合が少ないほうが好ましく、C−H結合がC−D結合に置換されているものがより好ましい。
【0065】
前記ドーパントと本発明の重合体とを用いて、Graded−Index(GI)型の屈折率分布を有するコア部を作製する方法としては、以下の(I)及び(II)の方法が好ましい。但し、これらの方法に限定されるものではない。
(I)溶融押出し成形により、含フッ素共重合体からなる円筒状の成形体aと、ドーパントを含む本発明の重合体からなる円柱状の成形体bとを作製する。成形体aに成形体bを挿入し、加熱することにより、成形体b中のドーパントを溶融拡散させ、GI型の屈折率分布を形成する。この方法は上記(1)の方法の一態様である。
(II) 円筒状の成形体の中に、含フッ素共重合体の溶液を注入し、回転させながら減圧して、溶剤を除去し、その内面に含フッ素共重合体からなる層を形成する。次いで、ドーパントを含む重合体の溶液を注入し、回転させながら減圧して、脱溶剤を行い、含フッ素共重合体の層の内面にドーパントを含むコポリマーの層を形成する。ドーパントの添加量を増やしながら、同様の操作を繰り返して複数の層を形成し、GI型の屈折率分布を付与させる。この方法は上記(2)の方法の一態様である。
(III) ガラス管などの円筒形状の容器内に、前記一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種と前記一般式(5)で表される化合物の少なくとも1種と、ドーパントとを含有する重合性組成物を注入し、回転しつつ溶媒を除去して層を形成する。ドーパントの濃度が異なる重合性組成物を用いてこの操作を繰り返し、最外層から中心に向けて、順次ドーパントの濃度を高くして複数層を形成し、中空のプリフォーム(PF)を製造する。または前記一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物から選択される化合物の複数種を用いて、前記一般式(5)で表される化合物と回転しつつ重合して層を形成する(一般式(1)で表される化合物を2種以上、一般式(2)で表される化合物を2種以上、一般式(1)で表される化合物を1種以上および一般式(2)で表される化合物を1種以上のいずれであってもよい。)。モノマーの組成比が異なる重合性組成物を用いてこの操作を繰り返し、最外層から中心に向けて、順次屈折率の高いモノマーの共重合比を高くして複数層を形成し、中空のプリフォーム(PF)を製造する。
【0066】
その他にも、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバー増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料モノマーに添加した後、重合することによって、含有させることができる。
【0067】
プラスチック光ファイバーはプリフォームを溶融延伸することにより作製することができる。延伸は、例えば、プリフォームを加熱炉(例えば円筒状の加熱炉)等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、引き続き連続して延伸紡糸するのが好ましい。加熱温度は、プリフォームの材質等に応じて適宜決定することができるが、一般的には、180〜250℃が好ましい。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望のプラスチック光ファイバーの径および用いた材料等を考慮して、適宜決定することができる。特に、屈折率分布型光ファイバーにおいては、その断面の中心方向から円周に向け屈折率が変化する構造を有するため、この分布を破壊しないように、均一に加熱且つ延伸紡糸する必要がある。従って、プリフォームの加熱には、プリフォームを断面方向において均一に加熱可能である円筒形状の加熱炉等を用いことが好ましい。また、加熱炉は延伸軸方向に温度分布を持つことが好ましい。溶融部分が狭いほど屈折率分布の形状が歪みにくく収率があがるため好ましい。具体的には溶融部分の領域が狭くなるように溶融領域の前後では、予熱と徐冷を行うことが好ましい。さらに、溶融領域に用いる熱源としてはレ−ザ−のような狭い領域に対しても高出力のエネルギ−を供給できるものがより好ましい。
【0068】
なお、上記した様に、プリフォームの製造方法によって、中空形状のプリフォームが得られる場合がある。かかる形状のプリフォームを延伸する場合は、減圧下で延伸を行うのが好ましい。
【0069】
延伸は線形とその真円度を維持させるため、中心位置を一定に保つ調芯機構を有する延伸紡糸装置を用いて行うのが好ましい。延伸条件を選択することによりファイバーの重合体の配向を制御することができ、線引きで得られるファイバーの曲げ性能等の機械特性や熱収縮などを制御することもできる。また、線引時の張力は、特開平7−234322号公報に記載されているように、溶融したプラスチックを配向させるために10g以上とすることができ、または特開平7−234324号公報に記載されているように、溶融延伸後に歪みを残さないようにするために100g以下とすることが好ましい。さらに、特開平8−106015号公報に記載されているように、延伸の際に予備加熱工程を実施する方法などを採用することもできる。以上の方法によって得られるファイバーについては、得られる素線の破断伸びや硬度について特開平7−244220号公報に記載の様に規定することでファイバーの曲げや側圧特性を改善することができる。また、特開平8−54521号公報のように低屈折率の層を外周に設けて反射層として機能させてさらに伝送性能を向上させることもできる。
【0070】
前述した方法で製造されたプラスチック光ファイバーは、そのままの形態で種々の用途に供することができる。また、保護や補強を目的として、その外側に被覆層を有する形態、繊維層を有する形態、および/または複数のファイバーを束ねた状態で、種々の用途に供することができる。被覆工程は、例えばファイバー素線の通る穴を有する対向したダイスにファイバー素線を通し、対向したダイス間に溶融した被覆用の樹脂を満たし、ファイバー素線をダイス間に移動することで被覆されたファイバーを得ることができる。被覆層は可撓時に内部のファイバーへの応力から保護するため、ファイバー素線と融着していないことが望ましい。さらにこのとき、溶融した樹脂と接することでファイバー素線に熱的ダメージが加わるので、極力ダメージを押さえるような移動速度や低温で溶融できる樹脂を選ぶことも望ましい。このとき、被覆層の厚みは被覆材の溶融温度や素線の引き抜き速度、被覆層の冷却温度による。その他にも、光部材に塗布したモノマーを重合させる方法やシートを巻き付ける方法、押し出し成形した中空管に光部材を通す方法などが知られている。
【0071】
素線を被覆することにより、プラスチック光ファイバーケーブル製造が可能となる。その際にその被覆の形態として、被覆材とプラスチック光ファイバー素線の界面が全周にわたって接して被覆されている密着型の被覆と、被覆材とプラスチック光ファイバー素線の界面に空隙を有するルース型被覆がある。ルース型被覆では、たとえばコネクタとの接続部などにおいて被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。しかし、ルース型の被覆の場合、被覆と素線が密着していないので、ケーブルにかかる応力や熱とはじめとするダメージの多くを被覆材層で緩和させることができ、素線にかかるダメージを軽減させることができるため、使用目的によっては好ましく用いることができる。水分の伝播については、空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することで、端面からの水分伝播を防止でき、かつ、これらの半固体や粉粒体に耐熱や機械的機能の向上などの水分伝播防止と異なる機能をあわせ持つようにすることでより高い性能の被覆を形成できる。ルース型の被覆を製造するには、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置を加減することで空隙層を作ることができる。空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層を加圧/減圧することで調整が可能である。
【0072】
さらに、必要に応じて被覆層(1次被覆層)の外周にさらに被覆層(2次被覆層)を設けても良い。2次被覆層に難燃剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、昇光剤、滑剤などを導入してもよく、耐透湿性能を満足する限りにおいては、1次被覆層にも導入は可能である。なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤やリン含有のものがあるが、毒性ガス低減などの安全性の観点で難燃剤として金属水酸化物を加えることが主流となりつつある。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程での付着水が完全に除去できないため、金属水酸化物による難燃性被覆は本発明の対透湿性被覆(1次被覆層)の外層被覆(2次被覆層)として設けることが望ましい。また、複数の機能を付与させるために、様々な機能を有する被覆を積層させてもよい。例えば、本発明のような難燃化以外に、素線の吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テ−プや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、また可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層等の緩衝材、剛性を挙げるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線等の線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としてはステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を組み込むことができる。
【0073】
また、ケーブルの形状は使用形態によって、素線を同心円上にまとめた集合ケーブルや、一列に並べたテ−プ心線と言われる態様、さらにそれらを押え巻やラップシ−スなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。
【0074】
また、本発明の光ファイバーを用いたケーブルは、軸ずれに対して従来の光ファイバーに比べて許容度が高いため突き合せによる接合でも用いることができるが、端部に接続用光コネクタを用いて接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型、SMA型、SMI型、F05型、MU型、FC型、SC型などの市販の各種コネクタを利用することも可能である。
【0075】
本発明の光ファイバー、および光ファイバーケーブルを用いて光信号を伝送するシステムには、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等で構成される。また、必要に応じて他の光ファイバーなどと組合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバーの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュ−タや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0076】
さらに、IEICE TRANS.ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号公報等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号公報等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号公報等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を挙げて説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手段等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0078】
[実施例1] 例示化合物(1−1)(重水素化率99.8%)の合成
例示化合物(1−1)を下記反応式(D)に示す方法で製造した。安価な重水素源のひとつである22を用いて高い重水素化率を有する化合物を合成することが可能であり、本発明の製造方法の有用性を示すものである。
例示化合物(1−1)の重水素率は、重水素化率99.8%の水素ガスを用いて還元反応を行い、その後水素原子交換しうる反応を行っていないため、(1−1) の重水素化率も 99.8%と認められた。
【0079】
反応式(D)
【化29】

【0080】
エチレングリコール−d6(1−1B )の合成
オートクレ−ブに、シュウ酸ジメチル(1−1A)63g(0.53mol)、ルテニウム(III)アセチルアセナート(Aldrich製)2.55g(1.2mol%)、1,1,1−トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(Aldrich製、TRIPHIOS)4.59g(1.4eq)、粉末亜鉛90mg(0.26mol%)、脱水THF 120ml を入れ、重水素(重水素化率 99.8%)を充填して8.0MPaとした。140℃で2時間攪拌した後、160℃に上げてさらに5時間攪拌した。オートクレ−ブ内を窒素に置換した後、反応液をセライト濾過し、溶媒のTHFを減圧(50mmHg)にて留去した。この粗成生物を蒸留により精製し(6mmHg、75℃)、無色透明液体(1−1B)を 26.7g(79%)得た。
【0081】
1,4−ジオキサン−d8(1−1C)の合成
3つ口フラスコに、1−1B 25g(0.37mol)と濃硫酸0.6mlを入れてディーンシュタ−クを取り付け、150℃で4時間攪拌した(原料のエチレングリコールより沸点の低いジオキサンが、徐々にディーンシュタ−クの受器に溜まった)。ディーンシュタ−クの受器に得られた液体をジエチルエ−テルに溶解し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ろ過し、ジエチルエ−テルを常圧にて留去した後蒸留にて精製(100mmHg、52℃)し、無色透明液体1−1Cを11.3g(69%)を得た。
【0082】
2,3−ジクロロ−1,4−ジオキサン−d6(1−1D)の合成
1−1C 31.7g(0.33mol)および塩化スルフリル89.1g(0.66mol)を3つ口フラスコ内で90℃、4時間攪拌しながら加熱した。発生するガスは、水酸化ナトリウム水溶液のトラップを通して吸収させた。蒸留精製(4mmHg、59℃)にて無色透明液体1−1Dを44.1g(82%)得た。
【0083】
1,4−ジオキセン−d6(1−1)の合成
亜鉛粉末31.6g(0.48mol)とヘキサメチルホスホアミド(HMPA)180mlの混合物を90℃に加熱し、1−1D 2.0g(0.012mol)を10分かけて滴下し、反応液を110℃で1時間攪拌した。そこに 1−D 60.8g(0.37mol)を、内温が105〜120℃を保つように注意しながら2時間かけて滴下した。反応液からそのまま減圧蒸留(110mmHg、40〜45℃)、無色透明の液体である例示化合物(1−1)を20.4g(62%)を得た。
【0084】
[実施例2] 1−1B合成時に溶媒としてメタノールを使用した場合
脱水THF 120mlの代わりに、脱水メタノール120mlを使用し、その他の操作はすべて実施例1に記載の方法と同様に行った。粗成生物を蒸留により精製し(6mmHg、75℃)、無色透明液体(1−1B)を 28.1g(83%)得た。得られた1−Bの重水素化率は、下記反応式(E)により1−Bをトリエチルアミンの存在化、塩化アセチルと反応させてジアセチル体1−B−2に誘導して1H−NMRの積分比より求めた。
反応式(E)
【化30】

式中、HE はエチレングリコール由来の重水素化率測定の対象となる水素原子であり、1Hは塩化アセチル由来の通常の水素原子(天然存在比分の極微量の重水素のみを含む)である。
【0085】
1−B−2の1H−NMR 測定から得られた、(エチレングリコール由来の1H):(塩化アセチル由来の1H)の積分面積比は1:3.25すなわち1.85:6であった。仮にエチレングリコール由来の水素がすべて1Hであればこの比は化合物中の水素原子数比と同じ 4:6となるため、エチレングリコール由来の水素原子の1Hの割合は1.85÷4 = 0.46(46%)、すなわち、エチレングリコール中の水素原子の重水素化率は54%であることを示す。
一方、同様の実験を実施例1に記載のTHFを用いて合成した1−Bについても行ったが、1H−NMRではアセチル基のピ−クしか観測されなかった。本実験は、水素添加工程において、溶媒としてメタノールを用いると得られるエチレングリコールの重水素化率が低下すること、およびTHFを用いることで解決されることを示すものである。
【0086】
[実施例3] ベンゾジオキシン(2−1)の合成例
例示化合物(2−1)を下記反応式(F)に示す方法で製造した。(2−1)の重水素率は、直接は測定していないが、原料のカテコールは非重水素体を、エチレングリコールは重水素化率99.8%のものを用いていてその後交換しうる反応を行っていないため、ベンゼン環に結合する4つの水素はすべて1H(厳密には天然比の2Hを含む)であり、その他の2つの水素は、99.8%が2Hと考えてよい。
反応式(F)
【0087】
【化31】

【0088】
ジブロモエタン−d4(2−1A)の合成
48%HBr水溶液250gと濃硫酸75gの混合液に、1−1B 37.2g(0.54mol)を加え、さらに120gの濃硫酸を1時間かけて滴下し、100℃にて11時間加熱した。室温に冷ましたのち、反応液を氷水に注ぎ、ジエチルエ−テルにて抽出し、有機層を飽和食塩水、炭酸水素ナトリウム水溶液、再度飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ろ過した。ジエチルエ−テルの大部分を常圧にて留去した後、減圧蒸留にて精製(100mmHg、78℃)し、無色透明の液体2−1Aを74.6g0.39mol、72%)得た。
【0089】
ベンゾジオキサン−d4(2−1B)の合成
カテコール54g(0.49mol)、2−1A 122g (0.65mol)、炭酸カリウム 144g(1.0mol)、ジオキサン500mlの混合液を窒素雰囲気下、120℃で5時間加熱した。室温に冷ました後ジクロロメタンにて抽出し、有機層を重曹水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ろ過した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(酢酸エチル/ヘキサン=1/5)、無色透明の液体2−1Bを31g(0.22mol、45%)得た。
【0090】
ベンゾジオキシン(2−1)の合成
2−1Bから2−1への反応は、中間体2−1Cを単離せずに2ステップ一貫で行った。 2−1B 25.0g(0.178mol)、N−ブロモスクシンイミド70g(2.2eq)、四塩化炭素500mlの混合液に、アゾビスイソブチロニトリル1.45gを加えて80℃にて加熱還流した。水を加えて分液し水層を除去、有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧にて留去し、2−1Cを粗生成物として得た。この2−1Cをアセトン600mlに溶解し、ヨウ化ナトリウム150g(1.0mol)を加えて3時間加熱還流した。室温に冷ました後、反応液を10%亜硫酸ナトリウムに注ぎ室温にて1時間攪拌し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ろ過し、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(ジクロロメタン/ヘキサン=1/10)、2−1を 11.1g(45%)得た。
【0091】
[実施例4] コポリマーP−11 の合成例
容量10mLの試験管に、ジオキセン−d6(1−1)0.644g (7.0mmol)、2−トリフルオロメチルアクリル酸トリフルオロエチル(東ソ−製) 1.55g (7.0mmol)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬製)3.9mg(16.9μmol)を仕込み、空隙部分をアルゴンで置換し、無攪拌のまま90℃で20時間重合を行った。得られたロッド状のポリマーをTHFに溶解させ、ヘキサン中に注ぎ、再沈殿精製を2回行い、Tg=158℃、重量平均分子量(Mw)=280,000の共重合体(P−11)が1.3g得られた。ポリマーは酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)などに溶解した。該ポリマー(P−11)をTHFに溶解し、スライドガラス状にコートし、溶媒(THF)を大気中、続いて減圧下で留去した。得られたフィルムは完全に透明であった。
【0092】
[実施例5] コポリマーP−10を用いたステップインデックス型光ファイバーの作製例
溶融押し出し成型によって作製されたポリフッ化ビニリデン(屈折率1.42)の中空パイプ(底もポリフッ化ビニリデン)中に、重水素化率99.8%のジオキセン−d6(1−1)40g(0.43mol)、2−トリフルオロメチルアクリル酸メチル(CM−2)(東ソ−製の2−トリフルオロメチルアクリル酸とメタノールより合成)66g(0.43mol)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬製)3.9mg(16.9μmol)を仕込み、空隙部分をアルゴンで置換し、無攪拌のまま90℃で20時間重合、さらに120℃で24時間重合を行った。得られたプリフォームをそのまま240℃で溶融しながら延伸することにより、ステップインデックス型光ファイバー素線を得た。850nmでの損失は720dB/kmであった。
【0093】
[比較例1]
99.8%のジオキセン−d6(1−1)の代わりに、すべての水素原子が1Hである通常のジオキセン(東京化成製)37.0g(0.43mol)を用い、その他の操作はすべて実施例5と同様にしてステップインデックス型光ファイバー素線を得た。850nmでの損失は1700dB/kmであった。
【0094】
[実施例6]
CM−2の代わりに、2−トリフルオロメチルアクリル酸メチル−d3(CM−2−d3)(東ソ−製の2−トリフルオロメチルアクリル酸と重メタノールより合成)を67.5g(0.43mol)用い、その他の操作はすべて実施例5と同様にしてステップインデックス型光ファイバー素線を得た。850nmでの損失は 240dB/kmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のR1〜R4がいずれも水素原子(1Hまたは2H)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物に含まれる水素原子(1Hまたは2H)のうち、80%以上が2Hである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)で表され、かつ、該一般式(2)中のAで表される水素原子(1Hまたは2H)の少なくとも1つが2Hである化合物。
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項5】
前記一般式(2)中のR5〜R8 がいずれも水素原子(1Hまたは2H)である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
下記一般式(2)で表される化合物を含む組成物であって、前記一般式(2)中のAに相当する部分の40%以上が2Hである、組成物。
一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項7】
下記一般式(A−1)で表される化合物を、重水素により還元して、下記一般式(A−2)で表される化合物を合成する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【化4】

(一般式(A−1)および(A−2)中、Zはアルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基または塩素原子を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表し、Aで表される水素原子の40%以上が2Hである。)。
【請求項8】
O−H 結合を持たない溶媒および遷移金属を含む触媒を用いて還元する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(A−1)中、Zはアルコキシ基であり、かつ、O−H 結合を持たない溶媒およびRu原子を含む触媒を用いて還元する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
下記一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体。
一般式(3)
【化5】

(一般式(3)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。ただし、一般式(3)で表される繰り返し単位に含まれる水素原子の40%以上が2Hである。R1〜R4は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項11】
下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含む重合体。
一般式(4)
【化6】

(一般式(4)中、R5〜R8 はそれぞれ独立に水素原子(1Hまたは2H)または置換基を表す。Aは水素原子(1Hまたは2H)を表す。該重合体中に含まれる一般式(4)で表される繰り返し単位が有するAの40%以上が2Hである。R5〜R8は互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物の少なくとも1種を含む組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物を重合してなる重合体。
【請求項14】
請求項13に記載の重合体を含む光学材料。
【請求項15】
請求項13に記載の重合体を含むプラスチック製光ファイバー。

【公開番号】特開2006−327997(P2006−327997A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154818(P2005−154818)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】