説明

重金属を含有する有機物の煮汁から重金属を除去する方法

【課題】重金属を含む有機物の煮汁で代表的なのはホタテの煮汁であり、1番煮汁といわれる煮汁は貝そのものを煮ているためカドミウムが若干含まれている、ホタテエキスは、ホタテ煮汁を濃縮して使用するため低濃度にする必要がある。そこで、短時間で品質を保ったまま重金属を除去することができる、また、キレート樹脂のH型及びNa型による特性を利用し、pH調整剤を使用せずカドミウムを分離する方法を提供する。
【解決手段】煮汁からの重金属除去方法は、重金属を含む有機物の煮汁を加温しながらキレート樹脂と接触させ、煮汁中の重金属をキレート樹脂に吸着させ除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含む有機物の煮汁を品質を保ったまま重金属を除去する方法に関し、さらに重金属を除去した煮汁を食品として利用する技術に関するものである。
【0002】
重金属を除去した煮汁は食品だけでなく、農業用肥料、家畜・ペット用飼料、養殖魚用餌料としても利用可能である。
【背景技術】
【0003】
重金属を含む有機物の煮汁で代表的なのはホタテの煮汁であり、1番煮汁といわれる貝そのものを煮た汁は重金属のカドミウムが0.08mg/lから2.00mg/l程度含まれている、2番汁といわれるホタテの貝柱だけを煮た汁では0.02mg/l程度であるため、ホタテエキスは、現在まで2番汁だけが使用されてきた。しかし、ホタテエキスの需要が高まり、2番汁だけでは足りなくなってきたため、安価に1番汁の重金属を分離しホタテエキスを作る技術が必要となってきた。
【0004】
煮汁はそのままでは薄いため、食品として利用するためには濃縮する必要があるが、重金属も一緒に濃縮されるため、当初の重金属はかなり低濃度にする必要がある。重金属を含有する有機物の煮汁から重金属を除去する方法は、有機物から重金属を分離する工程の一部として特許が出されているが、有機物の煮汁の利用のための重金属分離では先行技術は少ない。有機物から重金属を分離する工程の一部として出されている特許は、弱酸で煮た煮汁からキレート樹脂で分離する方法(特許文献1)、たんぱく質分解酵素と酸で重金属をかい離させた後、エキスをキレート樹脂で分離する方法(特許文献2)、煮汁を限外ろ過により分離する方法(特許文献3)などがある。
【0005】
しかしながら、これらの方法は一度pHを3以下にして重金属をイオン化後、pHを中性域にしてからキレート樹脂で吸着しているためコストがかかる。また、限外ろ過により重金属を分離する方法は、膜の汚れにより効率が悪くなる等の点で現実的ではない。
【0006】
また、有機酸などのpH調整剤を使用しpHを低下させる方法は、煮汁中に有機酸が残留し味が変化する。また、低くなったpHを中性にするために中和剤を添加すると煮汁中には塩が生じ、煮汁を濃縮すると塩も濃縮されるため、濃縮煮汁本来の味が変化する。
【0007】
【特許文献1】特開2006−42613号公報
【特許文献2】特開平11−276120号公報
【特許文献3】特開平6−153863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、重金属を含有する有機物から鮮度と品質を保ったまま短時間で経済的に重金属を分離し食品として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の煮汁からの重金属除去方法は、重金属を含む有機物の煮汁を加温しながら、キレート樹脂と煮汁を撹拌混合または、カラムに充填したキレート樹脂に通液することにより、煮汁中の有機物と結合している重金属をキレート樹脂に吸着させ除去することを特徴としており、本方法を加温しながら行うことによりキレート樹脂の吸着効率を高め短時間で品質を保ったまま重金属を除去することができる。
【0010】
また、本発明の重金属除去方法は、キレート樹脂のH型とNa型による特性を利用し、pH調整剤を加えずpHを調整することにより、煮汁の風味や味を大きく変えずに処理を行うことができる。
【0011】
また、本発明の重金属除去方法は、40℃ 〜 70℃の温度条件下で行うことが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の重金属除去方法により得られる有機物は、カドミウムが95.0 %以上除去され、食品として利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、重金属を含む有機物の煮汁から短時間で重金属を除去でき、カドミウム等の重金属を含む有機物の煮汁から品質を損なわず経済的に重金属を分離することができ、食品としての利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における「重金属」とは、カドミウム、鉛、砒素、水銀等をいい、少なくともカドミウムを含み、かつイオン状に存在するものを意味する。
【0015】
本発明においては、重金属を含む有機物の煮汁を対象とする。本発明のおける「有機物の煮汁」とは、魚介類等の水産物、畜肉や鶏卵等の畜産物の煮汁、および野菜や豆類、穀物等の農産物の煮汁をいい、天然物のみならず、遺伝子組換産物や加工品などの煮汁も含む。
【0016】
本発明におけるキレート樹脂のH型とは、キレート樹脂を再生する時に硫酸あるいは塩酸で樹脂を再生させる時、官能基に水素イオンが吸着している状態のままで樹脂として利用する場合を言う。
【0017】
本発明におけるキレート樹脂のNa型とは、キレート樹脂を再生する時に硫酸あるいは塩酸で重金属を樹脂から解離させた後、官能基に吸着している水素イオンをNaイオンで置き換えた樹脂を言う。
【0018】
また、本発明におけるキレート樹脂のNa型はCa型と同じ性能であり、Ca型キレート樹脂も利用できる、この場合のCa型キレート樹脂とは、官能基に吸着している水素イオンをNaでなくCaイオンで置き換えた樹脂である。
【0019】
本発明における「吸着」とは、重金属がキレート樹脂に吸い付くこと、若しくは重金属がキレート樹脂に捕捉されることをいい、正吸着のみならず負吸着をも含む。また、「吸着除去」とは、重金属が吸着したキレート樹脂を除去すること、及び重金属が吸着したキレート樹脂から重金属のみを除去することをいう。
【0020】
重金属を含む有機物の煮汁中には低分子の細かいたんぱく質があり、重金属はそのたんぱく質と結合している、酸処理により重金属イオンを解離させるにはpHを低くするか、酵素によりたんぱく質を分解する必要があるため、有機酸や無機酸を加えpHを1から4程度にするか、たんぱく質分解酵素等でたんぱく質を分解する必要があった。本発明の方法によれば、重金属を含む煮汁とキレート樹脂を接触させることにより、有機酸やたんぱく質分解酵素を加えることなく有機物から重金属を分離することができ、重金属分離後はpH調整剤を使用せずpH6にすることが出来る
【0021】
本発明において、キレート樹脂の吸着効率を高め12時間以内で煮汁中から重金属を吸着除去するためには、煮汁の温度を40℃から70℃とする。温度が高いほど吸着効率が高かいが、あまり温度を高くするとキレート樹脂に影響が出るため、最高温度を70℃とした。
【0022】
本発明の重金属除去方法は、煮汁中の有機物量が低いため、煮汁の量に対して5%程度のキレート樹脂を使用して行うことにより、短時間で0.01mg/l程度まで重金属の濃度を低下させることが可能となる。
【0023】
また、本発明の重金属除去方法において、H型とNa型の比率も重要であり、ホタテ煮汁ではH型を2に対して、Na型は3で行うことが好ましく、キレート樹脂に通液前の煮汁のpHを6.5とすれば、通液後のpHは4.5から5.0程度になるのが好ましい。H型のキレート樹脂だけでは通液後のpHは2近くにもなりキレート樹脂の吸着効率が低下する。また、Na型だけでも重金属の吸着効率が悪いため、組み合わせて使うことが重要である。樹脂の混合比率は重量比でも容積比でもかまわない。
【0024】
多くの重金属分離方法では、有機物中の重金属と液相の水素イオンの置換により重金属を解離させている。また、一度液層に重金属を解離させてさせてから液相の重金属を分離する方法が取られていた。本発明の重金属除去方法では、液相の重金属濃度を常に低濃度に保ち、加温による煮汁中の重金属と有機物の分子運動の増加により、キレート樹脂に吸着する効率が高まり0.01mg/lという低濃度にまで煮汁中の重金属を除去することができる。
【0025】
H型及びNa型のキレート樹脂の組み合わせと煮汁の加温により、12時間以内でカドミウムを0.01mg/lまで低下させることができるため、品質低下の原因となるタンパク質や脂質等の変性、雑菌の繁殖等を抑制でき、処理後の煮汁を濃縮しエキスとして利用することが可能となる。
【0026】
また、従来の技術では重金属を除去した有機物を食品として利用するためには、中和剤を用いて中性に調整する必要があったが、本発明ではキレート樹脂のNa型を使用し、煮汁中の水素イオンをキレート樹脂のNaと置換することにより、煮汁中の水素イオンを減少させpHを6.0にすることが出来る。
【0027】
本発明によれば、煮汁中の重金属を0.01mg/l以下となるまで除去できる。また、pH調整剤を使用せず短時間で重金属を除去できるので、作業安全性が高く工程が簡素であるため処理コストも低い。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
この実施例ではホタテ貝の1番煮汁を使用した。
【0030】
処理対象有機物としてカドミウムを含むオホーツク沿岸の水産加工業者よりホタテ貝の1番煮汁を冷蔵で送って貰い使用した。
【0031】
ホタテ貝の1番煮汁をビーカーに採取し、遠心分離機(日立製作所CT4D)により、3000rpmで10分間遠心分離し侠雑物を取り除き、200ccを採取した。
【0032】
次に、キレート樹脂(ユニチカ製 ユニセレックUR40H)をH型とNa型にしたものを容積比で2対3の割合で混合し、ホタテ煮汁の容積に対して5%の容積のキレート樹脂を添加する、次に攪拌機(東京理化機器 ハイスターラーHI−15)に撹拌翼を取り付けて煮汁とキレート樹脂を12時間混合撹拌した。
【0033】
攪拌速度はキレート樹脂が全体に拡散する程度とし、処理温度はインキュベータ(EYELA製 LTI601SD)中で55℃を保って行った。
【0034】
その結果、初期濃度が0.8mg/lであったホタテ貝の煮汁のカドミウムが12時間後には0.01mg/lに低下しpHは4.6となった。その後、煮汁中から不織布によりカドミウムを吸着したキレート樹脂を取り出した後、煮汁中にNa型のキレート樹脂を煮汁に対して容積比で10%を添加、30分間撹拌しpHが6になった時点で樹脂を取り出し終了とした。
【0035】
図1は、温度の違いによるキレート樹脂へのカドミウムの吸着量の変化である。20℃では24時間後でも0.2mg/lであるのに対して、50℃では6時間で0.03mg/lにまで低下している。40℃では、24時間後に0.05mg/l程度まで低下した。よって、24時間以内で、カドミウムが95%以上分離できる温度は、40℃以上になる。
【0036】
図2は、H型のキレート樹脂単独、H型のキレート樹脂1に対してNa型を4にした場合、H型2に対してNa型を3にした樹脂の3例(いずれも容積比)について、時間に対してpHの低下の状況を示す。H型では、pHが下がりすぎ、1:4では2:3より若干pHが高い。
【0037】
表1は、H型の樹脂とNa型の樹脂の混合比率によるカドミウムの吸着時間を記したものである。H型の樹脂とNa型の樹脂の混合比率が容積比で2:3である場合の吸着が優れている事が分かる。
【0038】
【表1】

【0039】
図2と表1により、容積比で混合比率が2:3であれば吸着時間が早くなるが、その効果の主な要因はpHの違いであり、混合比率が2:3のpHが4.5近辺であることから、pH4.5前後であればカドミウムの吸着効率が高いことが分かる。
【実施例2】
【0040】
煮汁試料は、実施例1と同じホタテ貝の1番煮汁を使用した。
【0041】
ホタテ貝の1番煮汁をビーカーに採取し、遠心分離機(日立製作所CT4D)により、3000rpmで10分間遠心分離し侠雑物を取り除き、400ccを採取した。
【0042】
次に、キレート樹脂(ユニチカ製 ユニセレックUR40H )をH型とNa型にしたものを容積比で2対3の割合で混合し、ホタテ煮汁に対して5%の容積のキレート樹脂をガラスのカラムに充填し、200ccの煮汁を通水ポンプ(Iwaki Metering pump EDH-BIOVC-10JP1)によりカラムに通水させた。
【0043】
通水速度は100−200ml/hで行い、400ml通水後、再度全量をキレート樹脂に通水させる事を4回繰り返した。処理温度はインキュベータ(EYELA製 LTI601SD)中で60℃を保って行った。
【0044】
その結果、初期濃度が0.82mg/lであったホタテ貝の煮汁のカドミウムが12時間後には0.01mg/lに低下しpHは5.05となった。その後、煮汁中にNa型のキレート樹脂を煮汁の容積の5%を添加しpHが6になった時点で樹脂を取り出し終了とした。
【実施例3】
【0045】
煮汁試料は実施例1,2と同じホタテ貝の1番煮汁を使用した。
【0046】
ホタテ貝の1番煮汁をビーカーに採取し、遠心分離機(日立製作所CT4D)により、3000rpmで10分間遠心分離し侠雑物を取り除き、200ccを採取した。
【0047】
2種類のキレート樹脂 (オルガノ製 アンバーライトIRC748)、(三菱化学製 ダイヤイオンCR11)について、それぞれH型とNa型にしたものを容積で2対3の割合で混合し、ホタテ煮汁の容積に対して5%のキレート樹脂を添加後、攪拌機(東京理化機器 ハイスターラーHI−15)に撹拌翼を取り付けて煮汁とキレート樹脂を24時間混合撹拌した。
【0048】
攪拌速度はキレート樹脂が全体に拡散する程度とし、処理温度はインキュベータ(EYELA製 LTI601SD)中で60℃を保って行った。
【0049】
その結果、初期濃度が0.8mg/lであったホタテ貝の煮汁のカドミウムは、2種類とも24時間後には0.01mg/lに低下した。その後、煮汁中から不織布によりカドミウムを吸着したキレート樹脂をそれぞれ取り出した後、煮汁中にNa型のキレート樹脂を煮汁に対して10%を添加撹拌しそれぞれpHが6になった時点で樹脂を取り出し終了とした。これにより、他のキレート樹脂でも煮汁からカドミウムが分離できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、カドミウムを含むホタテ貝煮汁とキレート樹脂とを混合攪拌した場合の、煮汁の温度の違いによる、煮汁中のカドミウム濃度の推移を示すグラフである。図1の横軸は時間(h)を示し、縦軸はカドミウム濃度(mg/l)を示す。
【図2】図2は、カドミウムを含む煮汁に、H型のキレート樹脂単独、H型のキレート樹脂1に対してNa型を4にした場合、H型2に対してNa型を3にした樹脂について、pHの変化の推移示すグラフである。図2の横軸は時間(h)を示し、縦軸はpHを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含む有機物の煮汁を加温しながら、キレート樹脂に接触させる事により煮汁から重金属を吸着除去することを特徴とする、重金属除去方法。
【請求項2】
重金属を吸着するキレート樹脂をH型とNa型を組み合わせることにより、pH調整剤を使用せずpHを調整する、請求項1に記載の重金属除去方法。
【請求項3】
40℃ 〜 70℃の温度条件下で行うことを特徴とする、請求項1又は2いずれか1項に記載の重金属除去方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項に記載の方法により得られる、カドミウムが95.0 %以上除去された煮汁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−4(P2009−4A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160938(P2007−160938)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(300065604)環境創研株式会社 (4)
【Fターム(参考)】