説明

重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システム

【課題】汚染水に含まれる重金属を効率的に除去することができる重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システムを提供する。
【解決手段】重金属汚染水の処理システム1では、重金属を含有する汚染水に鉄粉を反応槽2において混合している。鉄粉は、種類を問わず重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、汚染水に鉄粉を混合することにより、多種類の重金属を鉄粉に付着させることができる。このように、汚染水に鉄粉を混合するだけで重金属を回収することができるので、重金属の種類に合わせて複数の処理が必要となる従来の処理方法に比べて、汚染水から重金属を効率的に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建設工事廃水や工場廃水に含まれる重金属を取り除き、廃水を無害化する重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の重金属汚染水の処理方法として、凝集沈殿処理法が知られている。この凝集沈殿処理法は、汚染水に凝集剤を添加して処理対象とする重金属が沈殿し易い環境を作ったり、キレート剤を添加して重金属を取り込むことにより、汚染水から重金属を沈殿槽により重力分離する方法である(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−53106号公報
【特許文献2】特開2001−121140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、凝集剤を添加する凝集沈殿処理では、例えば砒素の場合には酸性雰囲気下が沈殿に良好であり、鉛の場合にはアルカリ性雰囲気下が沈殿に良好であるため、複数の重金属が汚染水に含有されている場合には、各重金属に応じて複数の処理を行う必要あった。また、汚染水にキレート剤を添加する凝集沈殿処理においても、例えば砒素は汚染水に陰イオンとして溶解しているため陰イオン用のキレート剤を必要とし、鉛は汚染水に陽イオンとして溶解しているため陽イオン陽のキレート剤を必要とするため、複数の重金属を汚染水に含有されている場合には、各重金属に応じて複数の処理を行う必要がある。
【0005】
さらに、汚染地下水を処理する場合にあっては、汚染物質の濃度を正確に予測することが困難であり、地下水を汲み上げる場所によっては例えば濃度が10倍、100倍と変動することもある。そのため、濃度をいちいち確認しながら凝集剤などの添加量を調整する必要あり、管理が煩雑になるといった問題がある。従って、凝集剤やキレート剤を添加する重金属の処理方法では、処理が複雑化して効率的でないといった問題あった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、汚染水に含まれる重金属を効率的に除去することができる重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、重金属を含有する汚染水から重金属を除去する重金属汚染水の処理方法であって、重金属を含有する汚染水に鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、鉄含有粒子に重金属を付着させる混合工程と、混合工程において汚染水に混合された鉄含有粒子を汚染水から磁気により分離して回収する磁気分離工程と、磁気分離工程において回収された鉄含有粒子を、再度汚染水に混合するために返送する返送工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
或いは、本発明は、重金属を含有する汚染水から重金属を除去する重金属汚染水の処理システムであって、重金属を含有する汚染水に鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、鉄含有粒子に重金属を付着させる混合装置と、混合装置によって汚染水に混合された鉄含有粒子を汚染水から磁気により分離して回収する磁気分離装置と、磁気分離装置によって回収された鉄含有粒子を、再度汚染水に混合するために混合装置に返送する返送路と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システムでは、重金属を含有する汚染水に鉄を含有する鉄含有粒子を混合している。鉄を含有する鉄含有粒子は、種類を問わず重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、汚染水に鉄含有粒子を混合することにより、多種類の重金属を鉄含有粒子に付着させることができる。このように、汚染水に鉄含有粒子を混合するだけで重金属を回収することができるので、重金属の種類に合わせて複数の処理が必要となる従来の処理方法に比べて、汚染水から重金属を効率的に除去することができる。
【0010】
さらに、本発明では、磁気分離工程(磁気分離装置)で回収した鉄含有粒子を混合工程(混合装置)で再利用できるので、鉄含有粒子の吸着能力の限界まで繰り返し鉄含有粒子を利用できる。従って、1回の利用で鉄含有粒子を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄含有粒子の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0011】
また、混合工程において汚染水に鉄含有粒子を混合した後、汚染水を凝集剤の添加により固液分離する凝集沈殿工程を更に含むことが好ましい。磁気分離工程での処理負担を低減するためには、できるだけ含水率が低い状態で鉄含有粒子と水分との磁気分離を行うことが望ましいため、磁気分離工程の前処理として固液分離工程を行うことが考えられる。しかしながら、固液分離工程で複雑な処理工程を要したり、また過度な設備を要する処理を行うのでは、汚染水処理の効率低下を招いてしまう。上記の方法では、鉄含有粒子は比重が比較的重く、沈降分離し易いという特質を利用し、単純な設備で容易に実現できる凝集沈澱処理工程を前処理として利用するので、汚染水処理の効率向上を図ることが容易である。
【0012】
また、混合工程において汚染水に鉄含有粒子を混合する際に、汚染水の温度を上昇させることが好ましい。鉄含有粒子の吸着力は、温度が高くなるにつれて高くなる。そこで、混合工程において汚染水の温度を上昇させることにより、鉄含有粒子における重金属の吸着力の向上を図ることができ、重金属をより効果的に除去することができる。
【0013】
また、鉄含有粒子の中間粒径は、100μm以下であることが好ましい。鉄含有粒子は、中間粒径が小さい方が同重量の鉄含有粒子に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。そこで、鉄含有粒子の中間粒径を100μm以下とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収率を維持することができる。
【0014】
また、混合装置と磁気分離装置との間に、混合装置で鉄含有粒子が混合された汚染水を凝集剤の添加により固液分離する凝集沈殿槽を更に備えることが好ましい。磁気分離装置での処理負担を低減するためには、できるだけ含水率が低い状態で鉄含有粒子と水分との磁気分離を行うことが望ましいため、磁気分離装置の前処理として固液分離を行うことが考えられる。しかしながら、固液分離で複雑な処理工程を要したり、また過度な設備を要する処理を行うのでは、汚染水処理の効率低下を招いてしまう。上記のシステムでは、鉄含有粒子は比重が比較的重く、沈降分離し易いという特質を利用し、混合装置と磁気分離装置との間に凝集沈殿槽を設け、単純な設備で容易に実現できる凝集沈澱処理を前処理として利用するので、汚染水処理の効率向上を図ることが容易である。また、凝集沈殿槽における凝集沈殿速度の向上を図ることができるので、従来に比べて凝集沈殿槽を縮小することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、汚染水に含まれる重金属を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る重金属汚染水の処理システムの概要を示す図である。
【図2】凝集沈殿槽の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図3】磁気分離装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図4】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図5】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図6】鉛吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図7】砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図8】鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。
【図9】変形例に係る重金属汚染水の処理システムの反応槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る重金属汚染水の処理方法及び重金属汚染水の処理システムの好適な実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る重金属汚染水の処理システムの概要を示す図である。図1に示す重金属汚染水の処理システム1は、例えば砒素・鉛に代表される重金属に汚染された泥水や工場排水における重金属の除去処理を行うシステムである。この重金属汚染水の処理システム1は、反応槽2と、凝集沈殿槽3と、磁気分離装置4と、気液分離器5と、処理水槽6とを備えている。
【0019】
重金属汚染水の処理システム1では、処理対象となる重金属汚染水(以下、汚染水ともいう)と鉄粉(鉄含有粒子)とを反応槽2において混合し、鉄粉に重金属を付着させる。そして、重金属を付着した鉄粉を含む汚染水を凝集沈殿槽3において凝集沈殿処理し、固液分離された後の被処理水が磁気分離装置4に搬送されて、磁気分離装置4において鉄粉が回収される。その後、磁気分離装置4において回収された鉄粉は、気液分離器4に搬送されて気液分離され、再度反応槽2に戻される。重金属汚染水の処理システム1では、このような処理工程により重金属汚染水から重金属を除去している。以下、各構成要素について説明する。
【0020】
反応槽2は、汚染水(原水)に鉄粉を混入し、汚染水と鉄粉とを混合して汚染水に含まれる重金属を鉄粉に付着させるための槽である。この反応槽2は、鉄粉投入器10と、攪拌器11と、水中ミキサー12と、汲み上げポンプ13とを備えている。反応槽2には、図示しない原水タンクに接続された搬送ラインL1が延設されており、その原水タンクから汚染水が搬送される。
【0021】
鉄粉投入器10は、反応槽2に鉄粉を投入するものである。この鉄粉投入器10は、反応槽2内の汚染水に対して所定量の鉄粉を投入する。より具体的には、鉄粉投入器10は、例えば鉄粉の粒径が10μm〜100μmの場合、汚染水に対して約1%程度の鉄粉を投入する。なお、鉄粉投入器10によって投入される鉄粉の詳細については、後述する。
【0022】
攪拌器11は、反応槽2内の汚染水と鉄粉とを攪拌するものである。攪拌器11は、モータ11aに回転軸11bが連結されており、回転軸11bの先端には、回転羽11cが設けられている。従って、攪拌器11は、モータ11aに連動する回転羽11cによって、反応槽2内の汚染水と鉄粉投入器10によって投入された鉄粉とを攪拌して混合する。
【0023】
水中ミキサー12は、攪拌槽3内の汚染水を流動させるためのものである。水中ミキサー12は、反応槽2に底部に設けられており、吸入した汚染水を噴射して水圧により汚染水を流動させる。つまり、反応槽2では、攪拌器11と水中ミキサー12との協働により、汚染水と鉄粉とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に付着させる。なお、反応槽2における汚染水と鉄粉との混合時間は、例えば鉄粉の粒径が10〜100μmの場合には、約1分程度である。
【0024】
汲み上げポンプ13は、反応槽2内の重金属汚染水を汲み上げるポンプである。汲み上げポンプ13には、凝集沈殿槽3に鉄粉を含有する重金属汚染水を搬送する搬送ラインL2が接続されている。汲み上げポンプ13は、反応槽2内から汲み上げた汚染水を搬送ラインL2を介して凝集沈殿槽3に送出する。なお、汲み上げポンプ13は、毎分0.3〜0.5m程度の汚染水を搬送ラインL2を介して凝集沈殿槽3に送出する。
【0025】
凝集沈殿槽3は、重金属汚染水を凝集剤の添加により固液分離する槽である。具体的には、図2を参照しながら説明する。図2は、凝集沈殿槽の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、凝集沈殿槽3は、流入口14と、沈殿部15と、流出口16と、排出口17とを備えている。
【0026】
流入口14は、凝集沈殿槽3に汚染水を流入する。流入口14は、凝集沈殿槽3の上部に設けられている。この流入口14には、搬送ラインL2に接続されており、反応槽2において鉄粉が混合された汚染水を沈殿部15内に流入させる。
【0027】
沈殿部15は、汚染水の凝集沈殿処理が行われる部分である。沈殿部15に流入した汚染水には、例えばpH調整剤、有機・無機凝集剤が添加される。この凝集剤の添加により、汚染水の粒子等を沈殿させて固液分離する。具体的には、沈殿部15では、処理水と鉄粉及びフロックを含む被処理水とに分離する。この沈殿部15においては、流入口15から流入した汚染水のうち例えば80〜90%程度が処理水として処理されるので、被処理水の含水率を低下させることができる。なお、pH調整剤としては、例えば苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、炭酸ナトリウム、硫酸等を用いることができる。また、凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、有機高分子凝集剤等を用いることができる。また、凝集助剤としては、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト、粉末活性炭、活性珪酸等を用いることができる。
【0028】
流出口16は、凝集沈殿処理によって発生した上澄み水(処理水)を流出する。流出口16は、凝集沈殿槽3に上部において流入口14の反対側に設けられている。流出口16から流出された処理水は、例えば砂ろ過等といった所定の処理を行った後、搬送ラインL3を介して下水や公共水域に放流される。なお、この処理水は、重金属が所定濃度以下、すなわち水質汚濁防止法に定める水質汚濁に係わる基準値以下となっている。
【0029】
排出口17は、凝集沈殿処理によって発生したフロックを含む被処理水を排出する。排出口17は、凝集沈殿槽3の下部に設けられており、搬送ラインL4が接続されている。排出口17は、搬送ラインL4を介して鉄粉及びフロックを含む被処理水を磁気分離装置4に送出する。
【0030】
磁気分離装置4は、被処理水から鉄粉を回収する。磁気分離装置4には、上述の搬送ラインL4上に設けられたバルブV1が調整されることによって、毎分0.3〜0.5m程度の被処理水が凝集沈殿槽3から搬送される。磁気分離装置4では、被処理水に含まれる鉄粉を99%以上回収する。これは、発明者等の試験・実験等により明らかとなっている。なお、磁気分離装置4は、20m/h以上の処理能力を有している。
【0031】
磁気分離装置4について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、磁気分離装置4の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、磁気分離装置4は、磁界発生部20と、本体部21とを備えている。
【0032】
磁界発生部20は、磁界(磁場)を発生させる部分である。磁界発生部20は、本体部21に当接して配置されており、超伝導電磁石を有して構成されている。磁界発生部20から発生される磁界は、本体部21の下側では強く、上側になるにつれて弱くなるように設定されている。磁界の強さは、制御装置22(図1参照)によって適宜変更可能となっている。
【0033】
本体部20は、筺体23と、モータ24とから構成されている。筺体23は、流入口25と、流出口26と、排出口27と、ベルト28と、ウォータージェット29a,29bと、鉄粉回収口30とを備えている。
【0034】
流入口25は、被処理水の流入方向が斜め下方となるように、水平方向に対して傾斜して筺体23に設けられている。流入口25は、搬送ラインL4に接続され、被処理水を筺体23内に流入させる。
【0035】
流出口26は、流入口25の反対側に設けられており、泥水等を排出する。流出口26は、流入口25よりも上方に設けられている。これにより、筺体23内部では、流出口26よりも上側には水が浸水しないようになっている。この流出口26には、処理水を処理水槽6に搬送する搬送ラインL5(図1参照)が接続されている。
【0036】
排出口27は、ベルト28よりも下方(筺体23の底部)に設けられており、被処理水に含まれているフロックや土粒子等を筺体23内に堆積させないように排出する。この排出口27は、搬送ラインL6を介して貯留槽31(図1参照)に接続されており、この搬送ラインL6には、バルブV2(図1参照)が設けられている。これにより、排出口27からの排出量がそのバルブV2によって調整が可能となっている。貯留槽31は、フロックや土粒子等と共に排出される処理水を一時的に貯留する部分であり、ポンプ31によって処理水槽6に処理水を搬送ラインL7を介して搬送する。なお、排出口27の排出量は、流出口26の排出量よりも少なくなくなるように設定されている。
【0037】
ベルト28は、筺体23の上部に設けられたローラー状の駆動回転体33と、筺体23の下部に設けられたローラー状の従動回転体34とに掛け渡されている。駆動回転体33と従動回転体34とは、鉛直方向に沿った同一直線状に水平方向に延在して配置固定されている。駆動回転体33は、モータ24に連結され、モータ24の回転に応じて回転する。回転方向は、図3において時計回りである。従動回転体34は、回動自在に設けられている。ベルト28は、駆動回転体33の回転に伴って回転する。
【0038】
また、ベルト28は、駆動回転体33と従動回転体34との間の略中央部分、且つ流入口25に対向する面F側に配置固定されたローラー状の回転体34に接触している。回転体35は、駆動回転体33及び従動回転体34よりも流入口25側に設けられている。これにより、ベルト28は、流入口25に対向する面Fが、従動回転体34から回転体35までの部分において、鉛直方向に対して流入口25から遠ざかる方向に例えば15°程度傾斜している。また、回転体35から駆動回転体33までの部分において、鉛直方向に対して流入口25に近づく方向に例えば20°程度傾斜している。したがって、ベルト28は、回転体35を略中心として流入口25側の面F,GがV字状となっている。なお、ベルト28の上記配置により、ベルト28の流入口25に対向する面Fは、流入口25から流入される汚染水の流入方向と略直交する角度となっている。
【0039】
ウォータージェット29a,29bは、ベルト28に対して水(流体)を噴射する。ウォータージェット29a,29bには、ポンプ(図示しない)から水が供給されており、ウォータージェット29a,29bから噴射される水の圧力は、0.3Mpa程度である。ウォータージェット29a,29bは、ベルト28の流出口26の配置位置の直上部分において、流入口25と対向する面Gと、その面Gの裏面とに水が噴射されるように、ベルト28を挟むように配置されている。ウォータージェット29a,29bは、水平方向に沿って一定の間隔で配置された複数のノズルN1、N2を有しており、そのノズルN1,N2からベルト28の噴射位置Pに向けて水を噴射する。なお、ウォータージェット29a,29bは、ウォータージェット29aが噴射位置P、ウォータージェット29bが噴射位置Pよりも上方に噴射するといったように、噴射位置を違えて水を噴射してもよい。
【0040】
鉄粉回収口30は、ベルト28から鉄粉を吸引することにより回収する。鉄粉回収口30には、吸引口の上側部分に沿ってベルト28に接触する接触片30aが設けられている。鉄粉回収口30は、気液分離器5に搬送ラインL8を介して接続されており、ブロア5aの吸引により鉄粉を接触片30aによってベルト28から剥離しながら吸引して回収する。鉄粉回収口30における吸引力は、20kpa程度である。
【0041】
図1に戻って、気液分離器5は、磁気分離装置4によって回収された鉄粉と共に吸引される空気を分離し、鉄粉を回収する装置である。気液分離器5には、ブロア5aが接続されており、搬送ラインL8を介して鉄粉が搬送される。気液分離器5によって回収された鉄粉は、再度反応槽2(鉄粉投入器10)に返送され、浄化材として再利用される。
【0042】
処理水槽6は、磁気分離装置4によって鉄粉が回収された後の処理水を貯留する部分である。処理水槽6には、磁気分離装置4から送出された処理水及び貯留槽31から送出された処理水が、それぞれ搬送ラインL5,L7を介して搬送される。この処理水槽6に貯留される処理水は、重金属が所定濃度以下、すなわち水質汚濁防止法に定める水質汚濁に係わる基準値以下となっている。そして、処理水槽6には、ポンプ36が設けてあり、ポンプ36により汲み上げられた処理水は、フィルタープレス等により処理水中の固形分(例えば、フロック等)と水とをさらに分離するための処理が必要に応じて実施される。なお、分離された水は、例えば凝集沈殿槽3に返送されたり、所定の処理(砂ろ過等)が実施された後、下水や公共水域に放流される。
【0043】
続いて、本実施形態における重金属汚染土壌の処理システムに用いた鉄粉の実験結果について説明する。
【0044】
(吸着速度評価実験)
(鉛吸着速度評価実験)
まず、浄化処理に使用する鉄粉を選別するにあたり、鉄粉による重金属の吸着速度に関する実験を行った。実験方法は、鉛を1mg/L含有する重金属汚染水100gに炭酸水素ナトリウムを混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に鉄粉を1,3,10%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,5,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。混入した鉄粉は、中間粒径が100μmよりも大きいもの(以下、100μm超)、中間粒径が50μm、及び中間粒径が10μm未満のものである。なお、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、混合時間を1分のみとした。
【0045】
図4及び図5に実験結果を示す。図4及び図5は、鉄粉の中間粒径が100μm超及び50μmの実験結果を示すグラフである。図4及び図5において、(a)はいずれも横軸が混合時間(min)、縦軸が鉛濃度(mg/L)であり、(b)はいずれも横軸が鉄粉混合量(%)、縦軸が鉛濃度(mg/L)である。なお、実験結果は、累乗型でフィッティングして示している。
【0046】
図4(a)及び(b)に示すように、中間粒径が100μm超の鉄粉では、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下(鉄粉への吸着が進行)している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0047】
また、図5(a)及び(b)に示すように、中間粒径が50μmの鉄粉では、中間粒径が100μm超と同様に、値に多少ばらつきはあるものの、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0048】
図6は、鉛吸着速度評価の結果を示す表である。図6において、(a)は重金属汚染水に対して鉄粉を1%添加した場合、(b)は鉄粉を3%添加した場合、(c)は鉄粉を10%添加した場合を示している。図6に示すように、初期濃度1mg/Lの鉛濃度は、鉄粉の添加量(混入量)にかかわらず、1分の混合により1/10程度低下する傾向にある。そして、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、添加量が少なくても短時間で処理することができる。
【0049】
(砒素吸着速度評価実験)
次に、重金属汚染水として砒素を用いて実験を行った。実験方法は、砒素を1mg/L含有する重金属汚染水100gに塩酸を混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に中間粒径が100μm超及び50μmの鉄粉を1%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、0.03%とした。
【0050】
実験結果を図7に示す。図7は、砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。同図に示すように、全ての鉄粉において、砒素は鉛よりも鉄粉に吸着しにくい(濃度が下がりにくい)結果となった。そして、最も性能(混合時間に対する砒素濃度の低下量等)が良いのは、中間粒径が10μm未満、すなわち中間粒径が最も小さい鉄粉であった。また、中間粒径が50μmの鉄粉においても、10分の処理時間で濃度が1/100程度に低下している。
【0051】
以上より、鉄粉と重金属汚染水との混合時間(接触時間)が長いほど重金属濃度(鉛濃度、砒素濃度)が低下すること、及び、重金属汚染水に対して鉄粉の混合量が多いほど短時間で鉛濃度が低下することが吸着速度評価実験より得られた。
【0052】
(鉄粉回収・再利用評価実験)
続いて、鉄粉の回収・再利用に関する評価実験を行った。実験方法は、重金属汚染水に鉄粉を混入し、重金属汚染水と鉄粉とを5分間接触させた。そして、鉄粉を磁石で回収した後に、その回収した鉄粉に再度重金属汚染水に混合して重金属を付着させた。なお、鉄粉の混入量は、中間粒径が50μm及び100μm超においては、重金属汚染水に対して1%とした。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉においては、0.15%とした。実験結果を図8に示す。
【0053】
図8は、鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。同図に示すように、どの中間粒径の鉄粉においても、2回以上の回収・再利用が可能であることが分かった。しかし、中間粒径が100μm超(最も中間粒径が大きい)の鉄粉は、初期性能(1回目の使用)及び長期性能(複数回使用)共に他の鉄粉に比べて性能が劣ることが分かった。これに対して、中間粒径が10μm未満(最も中間粒径が小さい)の鉄粉は、初期性能及び長期性能ともに処理能力が高いことが分かった。なお、中間粒径が50μmの鉄粉における総吸着量は、1500mg/kgであり、処理能力として十分な結果が得られた。
【0054】
以上の実験結果により、反応槽3における鉄粉と汚染水との混合時間は、中間粒径が10μm〜100μm鉄粉では1分以上とすることが好適であることが分かった。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、混合時間を1分以内にすることが好適であることが分かった。さらに、汚染水に対する鉄粉の混合量は、中間粒径が10μm〜100μmのものでは1%以上とすることが好適であり、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、汚染水に対して0.03%以上が好適であることが分かった。本実施形態では、重金属汚染水の処理システム1において使用する鉄粉は、中間粒径が100μm以下のものとした。
【0055】
以上説明したように、重金属汚染水の処理システム1では、重金属を含有する汚染水に鉄粉を反応槽2において混合している。鉄粉は、種類を問わず重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、汚染水に鉄粉を混合することにより、多種類の重金属を鉄粉に付着させることができる。このように、汚染水に鉄粉を混合するだけで重金属を回収することができるので、重金属の種類に合わせて複数の処理が必要となる従来の処理方法に比べて、汚染水から重金属を効率的に除去することができる。
【0056】
ここで、汚染水中の重金属の除去時間は、鉄粉の添加量に依存し、例えば、大量に添加すると短時間での除去が可能になり、少量で有れば長時間を要する。本実施形態では、磁気分離装置4で回収した鉄粉を反応槽2で再利用できるので、鉄粉の吸着能力の限界まで(吸着破過するまで)繰り返し鉄粉を利用できる。従って、1回の利用で鉄粉を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄粉の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0057】
また、本実施形態では、鉄粉の中間粒径を100μm以下とした。鉄粉は、中間粒径が小さい方が同重量の鉄含有粒子に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。そこで、鉄粉の中間粒径を100μm以下とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収率を維持することができる。
【0058】
また、反応槽2において汚染水に鉄粉を混合した後、凝集沈殿槽3において汚染水を凝集剤の添加により固液分離している。磁気分離装置4での処理負担を低減するためには、できるだけ含水率が低い状態で鉄粉と水分との磁気分離を行うことが望ましいため、磁気分離装置4の前処理として固液分離を行うことが考えられる。しかしながら、固液分離工程で複雑な処理工程を要したり、また過度な設備を要する処理を行うのでは、汚染水処理の効率低下を招いてしまう。本発明の重金属汚染水の処理システム1では、鉄粉は比重が比較的重く、沈降分離し易いという特質を利用し、単純な設備で容易に実現できる凝集沈澱処理槽3における凝集沈殿処理を磁気分離装置4における処理の前処理として利用するので、汚染水処理の効率向上を図ることが容易である。更に、凝集沈殿槽3における凝集沈殿速度の向上を図ることができるので、従来に比べて凝集沈殿槽3を縮小、或いは単位時間あたりの処理量を増やすことができる。
【0059】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態に加えて、反応槽2において汚染水を加熱する構成としてもよい。具体的には、図9を参照しながら説明する。
【0060】
図9は、変形例に係る重金属汚染土壌の処理システムの反応槽の概略図である。なお、図9においては、説明の便宜上、鉄粉投入器10、攪拌器11、汲み上げポンプ15等を省略して示している。図9に示すように、反応槽2Aには、電熱線40が設けられている。この伝熱線40は、電源41に接続されており、反応槽2A内の汚染水を加熱する。加熱温度は、例えば45℃である。そして、反応槽2Aでは、電熱線40による加熱を行いつつ、水中ミキサー12で汚染水を流動させることで、汚染水全体を加熱する。
【0061】
このように、伝熱線40により汚染水を加熱することにより、以下のような作用効果を得ることができる。鉄粉による重金属の吸着力は、温度の上昇と共に増大する。これは、実験結果等から明らかとなっている。従って、伝熱線40により汚染水の温度を上昇させることにより、鉄粉による重金属の吸着力が増大し、汚染水内の重金属をより効果的に鉄粉に付着させることができる。
【0062】
ここで、下水放流における温度の規制値は、45℃となっている。そこで、電熱線40による加熱温度を45℃に設定することより、過熱後の冷却装置等を必要としない。そのため、システム全体の大型化の招来を防止することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…重金属汚染水の処理システム、2…反応槽(混合装置)、3…凝集沈殿槽、4…磁気分離装置、11…攪拌器(混合装置)、12…水中ミキサー(混合装置)、L8…搬送ライン(返送路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含有する汚染水から前記重金属を除去する重金属汚染水の処理方法であって、
前記重金属を含有する汚染水に鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記鉄含有粒子に前記重金属を付着させる混合工程と、
前記混合工程において前記汚染水に混合された前記鉄含有粒子を前記汚染水から磁気により分離して回収する磁気分離工程と、
前記磁気分離工程において回収された前記鉄含有粒子を、再度汚染水に混合するために返送する返送工程と、
を含むことを特徴とする重金属汚染水の処理方法。
【請求項2】
前記混合工程において前記汚染水に前記鉄含有粒子を混合した後、前記汚染水を凝集剤の添加により固液分離する凝集沈殿工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の重金属汚染水の処理方法。
【請求項3】
前記混合工程において前記汚染水に前記鉄含有粒子を混合する際に、前記汚染水の温度を上昇させることを特徴とする請求項1又は2記載の重金属汚染水の処理方法。
【請求項4】
前記鉄含有粒子の中間粒径は、100μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の重金属汚染水の処理方法。
【請求項5】
重金属を含有する汚染水から前記重金属を除去する重金属汚染水の処理システムであって、
前記重金属を含有する汚染水に鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記鉄含有粒子に前記重金属を付着させる混合装置と、
前記混合装置によって前記汚染水に混合された前記鉄含有粒子を前記汚染水から磁気により分離して回収する磁気分離装置と、
前記磁気分離装置によって回収された前記鉄含有粒子を、再度汚染水に混合するために前記混合装置に返送する返送路と、
を備えることを特徴とする重金属汚染水の処理システム。
【請求項6】
前記混合装置と前記磁気分離装置との間に、前記混合装置で前記鉄含有粒子が混合された前記汚染水を凝集剤の添加により固液分離する凝集沈殿槽を更に備えることを特徴とする請求項5記載の金属汚染水の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−56483(P2011−56483A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212339(P2009−212339)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(508237801)株式会社MSエンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】