量子もつれ光子対発生装置
【課題】 一般的で簡便な光部品を用いて、余分な過剰損失等の発生なく高純度な量子もつれ光子対を発生できる量子もつれ光子対発生装置を提供する。
【解決手段】 偏波分離合波モジュールを両端とする偏波保持のループ光路を有し、このループ光路に2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質が介在されている。入力励起光は互いに直交する2つの分波励起光に分岐され、ループ光路に、逆方向に入力される。2次非線形光学媒質は、入力方向を問わず、分波励起光に対し、SHG変換及びSPDC変換を実行し、自然パラメトリック下方変換光を発生させる。両方向を伝播してきた2つの自然パラメトリック下方変換光は、偏波分離合波モジュールにおいて合波出力され、これ以降、シグナル光及びアイドラー光が分離抽出される。ループ光路には、上述した合波が実行されるように、少なくとも一部の光成分について偏波方向を操作する偏波面操作手段を備える。
【解決手段】 偏波分離合波モジュールを両端とする偏波保持のループ光路を有し、このループ光路に2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質が介在されている。入力励起光は互いに直交する2つの分波励起光に分岐され、ループ光路に、逆方向に入力される。2次非線形光学媒質は、入力方向を問わず、分波励起光に対し、SHG変換及びSPDC変換を実行し、自然パラメトリック下方変換光を発生させる。両方向を伝播してきた2つの自然パラメトリック下方変換光は、偏波分離合波モジュールにおいて合波出力され、これ以降、シグナル光及びアイドラー光が分離抽出される。ループ光路には、上述した合波が実行されるように、少なくとも一部の光成分について偏波方向を操作する偏波面操作手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子もつれ光子対発生装置に関し、例えば、量子暗号、量子コンピュータなど、光子の量子力学的相関を利用した量子情報通信システムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、量子暗号、量子コンピュータなど、量子力学レベルでの物理現象を利用した量子情報通信技術が注目を浴びている。中でも量子暗号は、暗号化鍵の安全性が量子力学の原理により保証された究極的に安全な暗号通信システムとして注目を浴びており、特に活発な研究開発がなされている。
【0003】
量子力学的相関を有する光子対、すなわち、量子もつれ光子対は、光子の非局所性を応用した高度な量子情報通信システムを実現するための重要な要素である。
【0004】
従来より用いられてきた量子もつれ光子対を発生する手法の一つは、2次非線形光学媒質中での自然パラメトリック下方変換を用いる方法である。
【0005】
特許文献1には、BBO(β−BaB2O4)結晶を用いた量子もつれ光子対発生装置が記載されている。ここでは、2つのBBO結晶を直列に配置し、その中心に1/2波長板を配置する。これに直線偏波で波長351.1nmの励起光(ポンプ光)を入力する。自然パラメトリック下方変換過程により、それぞれのBBO結晶から、励起光波長の2倍の波長(702.2nm)の相関光子対(シグナル光(信号光)、アイドラー光と呼ばれる)が出力される。励起光強度が十分弱く、これら相関光子対が2つのBBO結晶の両方から同時に発生する確率は低く、どちらか一方から発生するとした場合、この装置から発生する相関光子対の状態は、一方のBBO結晶から発生される相関光子対の状態と、もう一方のBBO結晶から発生される相関光子対の状態との重ねあわせで与えられる。これら2つのBBO結晶から出力される相関光子対は、2つのBBO結晶の間に1/2波長板を配置し、励起光入力端に近い前段のBBO結晶から発生した相関光子対の偏波が装置出力端で90°だけ回転する構成となっているために、偏波直交している。結果、このシステムから、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0006】
上記と類似な構成で波長700nm−800nm帯の量子もつれ光子対を発生させた例が他にも多く報告されている。
【0007】
一方、光ファイバの最小吸収損失波長帯である、波長1550nm帯の量子もつれ光子対を発生できれば、量子情報通信システムの長距離化が期待でき、非常に有用である。
【0008】
特許文献2には、同じく2次非線形光学媒質の一種である、周期的分極反転LiNbO3(Periodically Poled LiNbO3、以下、PPLNと略する)導波路を用いた、波長1550nm帯での量子もつれ光子対発生装置が記載されている。ここでは、2つのPPLN導波路と偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いたファイバーループ構造を有している。2つのPPLN導波路は光学軸が直交するように配置されている。PBSを介して波長775nmで45°偏光した励起光(フェムト秒パルス)を入力する。特許文献1の場合と同様に、2つのPPLN導波路から、自然パラメトリック下方変換によって波長1550nmのシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。さらにまた、特許文献1の場合と同様に、励起光強度が十分弱く、これら相関光子対が、両方のPPLN導波路から同時に発生せず、どちらか一方から発生すると、この装置から偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0009】
また、非特許文献1には、PBSと単一のPPLN素子を用いた波長1550nm帯量子もつれ光子対発生装置について記載されている。ここでは、PBSとPPLN素子を結ぶ偏波保持光ファイバにおいて、その一箇所で90°光軸変換箇所が設けられている(これはファイバ融着などによって容易に実現できる)。PBSを介して波長776nmで45°偏光した励起光を入力する。PPLN導波路から、自然パラメトリック下方変換によって波長1542nm及び1562nmのシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。励起光強度が十分弱い場合、これら相関光子対はループを時計回りに伝播する励起光か、ループを反時計回りに伝播する励起光のどちらか一方からしか発生しないとすると、装置から発生する相関光子対の状態は、ループを時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播し、時計回り成分とは偏波直交した相関光子対の重ね合わせ状態となる。つまりこの装置から偏波量子もつれ光子対が発生される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−228091
【特許文献2】特開2005−258232
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】”Stable source for high quality telecom−band polarization−entangled photon pairs based on a single, pulse−pumped, short PPLN waveguide” H.C.Lim, A.Yoshizawa, H.Tsuchida, and K.Kikuchi, Optics Express, vol.16, No,17, pp.12460−12468, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の技術において、2次非線形光学媒質中での自然パラメトリック下方変換(Spontaneous Parametric Down Conversion、以下、SPDCと略することもある)に基づいてシグナル光、アイドラー光の相関光子対を発生させ、また、それに基づいて量子もつれ光子対発生装置を構成しようとした場合、その装置構成上で、SPDC過程を生じさせる2次非線形光学媒質とともに、発生させるもつれ光子対の波長のおよそ半分の波長の励起光源が必須の構成要素であった。つまり、例えば、光ファイバ通信で利用されるのに適した波長帯である、波長1550nm帯の量子もつれ光子対発生装置を実現しようとした場合、波長775nm帯の励起光源がその構成要素として必須であった。
【0013】
この場合、下記のような課題がある。
【0014】
特許文献2や非特許文献1に記載の方法において、量子もつれ光子対発生装置を実現する場合、偏光ビームスプリッタ(PBS)は、波長775nm帯とその2倍波長の波長1550nm帯という、大きく異なる波長帯でともに動作する“特別に設計された”光部品である必要がある。
【0015】
さらにまた、PBSやPPLN素子、装置外部への光出力のための光ファイバなどの各種光部品の光結合のために、光学レンズなどの光結合部晶が必要となるが、これら光学レンズなどもまた、波長775nm帯及び1550nm帯の双方で光結合が得られるような焦点距離の設計など、特殊な部品設計が必要となる。また、反射防止のための無反射コートもその両波長で対応する必要が生じる。
【0016】
すなわち、従来技術においては、波長がおおよそ2倍異なる励起光、相関光子対の両方で動作する特殊な光部品を用意する必要があった。このことは、装置の作製コストが増加する一因となる。
【0017】
さらにまた、一般的に言えば、大きく波長の異なる光に対して同等な特性が得られる設計は、その一方にのみ最適化された設計ほどの良好な特性は期待できない。具体的に言えば、例えばPBSにおける偏波消光比や、レンズ系の結合効率などで、一方の波長(例えば1550nm帯)で最適な特性が得られるように用意された設計に比べれば、特性的には劣ることになる。つまりその分、PPLN素子への励起光入力や、相関光子対の出力などにおいて、過剰損失の増加などを犠牲にした装置設計となる。
【0018】
一方、量子もつれ光子対を用いた量子情報通信システムは、タイムスロット当りの平均光子(対)数が1以下の、ごく微弱光(単一光子(対)、あるいはそれ以下に近い状態)を扱うシステムであり、ゆえにこのような過剰損失等が多く見込まれるシステム構成は、システム性能を阻害し、好ましいものではない。
【0019】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、その目的とする所は、特殊な光部品を用いることなく一般的で簡便な光部品を用いて、余分な過剰損失等の発生なく、高純度な量子もつれ光子対を発生することができる、量子もつれ光子対発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の量子もつれ光子対発生装置は、(1)偏波保持のループ光路と、(2)第1のループ外光路からの入力励起光を互いに直交する偏波成分である第1の分波励起光と第2の分波励起光とに分岐し、上記第1の分波励起光を上記ループ光路へ時計回りに伝播するように入力すると共に、上記第2の分波励起光を上記ループ光路へ反時計回りに伝播するように入力する励起光分波入力手段と、(3)上記ループ光路に介在された2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質であって、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の分波励起光に対する第1の光第2高調波を発生させ、かつ、この第1の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第1の自然パラメトリック下方変換光を発生させると共に、上記ループ光路を反時計回りに伝播する上記第2の分波励起光に対する第2の光第2高調波を発生させ、かつ、この第2の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第2の自然パラメトリック下方変換光を発生させる2次非線形光学媒質と、(4)上記ループ光路を時計回りに伝播している上記第1の自然パラメトリック下方変換光と、上記ループ光路を反時計回りに伝播している上記第2の自然パラメトリック下方変換光とを合波し、合波光を第2のループ外光路へ出力する変換光合波出力手段と、(5)上記変換光合波出力手段における上記第2のループ外光路への合波出力を実行させるように、上記第1分波励起光、上記第2分波励起光、上記第1の自然パラメトリック下方変換光及び上記第2の自然パラメトリック下方変換光の少なくとも一部について、偏波方向を操作する偏波面操作手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
従って、本発明の量子もつれ光子対発生装置は、上記第1及び第2の光第2高調波と、上記
第1及び第2の自然パラメトリック下方変換光とが、上記ループ光路中に配置された上記2次非線形光学媒質において生成され、ループ光路外に生成箇所を持たない構成となっている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特殊な光部品を用いることなく一般的で簡便な光部品を用いて、余分な過剰損失等の発生なく、高純度な量子もつれ光子対を発生できる、量子もつれ光子対発生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図2】図1の偏波分離合成モジュールの第3入出力端からの励起光の偏波方向と、第1の1/2波長板の光軸方向との関係を示す説明図である。
【図3】図1の偏波分離合成モジュールからの出力光(の種類)の説明図である。
【図4】第1の実施形態を実証する確認実験結果を示す説明図(1)である。
【図5】第1の実施形態を実証する確認実験結果を示す説明図(2)である。
【図6】第1の実施形態に係る変形実施形態(1)の構成を示す構成要素の配置図である。
【図7】第1の実施形態に係る変形実施形態(2)の構成を示す構成要素の配置図である。
【図8】第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図9】図8の非相反偏波面変換部における構成要素の光学軸方向の関係を示す説明図である。
【図10】第2の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図11】第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図12】図11の第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板の光学軸方向の説明図である。
【図13】第3の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図14】第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図15】第4の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図16】第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図17】第5の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【0026】
図1において、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100は、偏波分離合成モジュール101と、偏波分離合成モジュール101の2つの入出力端とを含んで構成されるサニャック干渉計形の光ループLPと、この光ループLPの光路中に設置された第1の2次非線形光学媒質102及び第1の1/2波長板103とを少なくとも備えている、さらにまた、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100は、励起光を上記光ループLPの光路中に入力し、また、上記光ループLPから出力される所望とする量子もつれ光子対波長成分のみを選択的に抽出して出力するための光入出力用光部品として、光サーキュレータ104、光ローパスフィルタ105及びWDM(波長分割多重化;wavelength division multiplexing)フィルタ106を備えている。
【0027】
光ループLPは、好ましくは偏波保持光学系で構成されるのが望ましい。そのために、光ループLPを構成する偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、第1の1/2波長板103の光学軸の関係は、後述するような特別の配慮を持って構成されている。
【0028】
また、この光ループLPは、各光学部品を光結合レンズのみを用いて空間的に結合することで実現しても良く(すなわち、光ファイバを利用しないで実現しても良く)、また、偏波保持光ファイバが結合されて光モジュールとして提供されているものを用いて構成しても良い。また、偏波保持光ファイバではなく、通常の偏波保持性を有しない光ファイバが結合されている光モジュールを用いた場合でも、適宜偏波面コントローラなどの付加光部品を用いることで、擬似的に偏波保持光学系を構成することでも実現できる。
【0029】
ここで、入力励起光波長をλpであるとする(但し、λpは真空中での波長である)。この波長λpは、所望する量子もつれ光子対波長の近傍の波長とする。すなわち、所望する量子もつれ光子対波長帯が1550nmであるならば、λpは1550nm近傍の値である。
【0030】
第1の2次非線形光学媒質102は、PPLNなどの2次の非線形光学効果を有する非線形光学媒質であり、波長λpの入力励起光を入力すると、その半分の波長(λp/2)の光第2高調波(Second harmonic generation光、以下、SHG光と略する)を発生し、かつ、このSHG光を種光としたSPDC過程により波長λsのシグナル光及び波長λiのアイドラー光の相関光子対を同時空間的に発生するものである(但し、λs、λiはいずれも真空中での波長である)。
【0031】
入力励起光、シグナル光、アイドラー光の波長であるλp、λs、λiは、(1)式のエネルギー保存則に相当する関係を満足する。
【数1】
【0032】
偏波分離合成モジュール101は、光サーキュレータ104の第2出力端104−2と結合する第1入出力端101−1と、第1入出力端101−1に対向する側に第1の2次非線形光学媒質102の一端を結合する第2入出力端101−2と、第1の1/2波長板103の一端を結合する第3入出力端101−3と、第3入出力端101−3に対向する側に備えられた第4入出力端104−4を備えている。なお、第4入出力端101−4は、そこからの光の入出力を行うことはないので、例えば光ファイバピグテール、光コネクタなどの光信号の入出力インターフェイスのための光部品を接続する必要はない(後述する第3及び第5の実施形態も同様である)。その場合において、第4入出力端101−4は、後に詳細に述べる詳細な動作原理の説明のために専ら便宜上設けているだけのものであり、それ自体は第1の実施形態における必須構成要素ではない(なお、後述する第2及び第4の実施形態においては、第4入出力端101−4は必須構成要素である)。
【0033】
図1では、偏波分離合成モジュール101が光ループLPへの分波入力機能と、光ループLPからの光の合波出力機能とを担っているが、これら機能を別の光学部品が担いようにしても良い。
【0034】
光サーキュレータ104は、波長λpの入力励起光を入力するための第1入出力端104−1と、第1入出力端104−1からの入力光を出力すると共に偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1と結合する第2入出力端104−2と、第2入出力端104−2からの入力光を出力する第3入出力端104−3とを備えている。
【0035】
偏波分離合成モジュール101や光サーキュレータ104としては、波長λpの近傍(λs、λiを含む)でそれぞれ所望の動作を保証できるものを用いれば良い。すなわち、その半波長(λp/2)での動作は担保される必要はない。すなわち、波長λpが例えば1550nmであれば、1550nm帯用の偏波分離合成モジュール、光サーキュレータとして一般的に市販されている光部品で良く、特許文献2や非特許文献1で述べているような、λp、λp/2の両波長で動作するような“特殊な”偏波分離合成モジュール等である必要はない。
【0036】
また、以下の説明の便宜のために、偏波分離合成モジュール101へ波長λpの光が入射する場合、入射光の偏波分離合成モジュールの偏波面選択反射面に対する電場ベクトルの振動方向に対応する成分を次のように定義する。すなわち、偏波面選択反射面へ入射する入射光の入射面に平行な方向に電場ベクトルが振動する成分をp成分、入射光の入射面に垂直な方向に電場ベクトルが振動する成分をs成分と呼ぶこととする。
【0037】
そして、偏波分離合成モジュール101においては、第1入出力端101−1から入力されたp偏波成分は、第2入出力端101−2に出力され、第1入出力端101−1から入力されたs偏波成分は、第3入出力端101−3に出力される。また、第2入出力端101−2から入力されたp偏波成分は、第1入出力端101−1に出力され、第3入出力端101−3から入力されたs偏波成分は、第1入出力端101−1に出力される。
【0038】
なお、偏波分離合成モジュール101としては、例えば、市販されている偏光ビームスプリッタの中から好適なものを選んで利用することができる。あるいはまた、上記の説明で想定している薄膜を用いたタイプの偏光ビームスプリッタに限定されず、偏波分離合成モジュール101は、複屈折結晶を用いたいわゆる偏光プリズムを用いたものであっても良い。
【0039】
波長λpの入力励起光は、光サーキュレータ104の第1入出力端104−1に入力され、第2入出力端104−2から出力され、その後、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端10l−1へと入力され、p偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へと出力される。
【0040】
第1の実施形態において、上記の偏波分離された入力励起光のp偏波成分とs偏波成分は、後述する理由によって同じ光強度でなければならない。そのため、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力される励起光は、p偏波成分強度とs偏波成分強度の強度比が1:1であるように偏波調整されていなければならない。このように用意された入力励起光を、本願明細書では「45°偏波の励起光」と呼ぶ。このような励起光を用意するには、例えば、光サーキュレータ104の第1入出力端104−1の手前に偏波面コントローラを用意し、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力される励起光の偏波状態を、偏波分離合成モジュール101におけるs偏波方向から45°だけ傾いた直線偏波となるように調整すれば良い。
【0041】
第1の1/2波長板103は、波長λpの光に対してその直交光軸間での光位相差がπとなる、いわゆる1/2波長板として動作するものである。以後、特に断りのない限り、「1/n波長板」(n=2,3,4,…)と呼んだ場合の波長(λ)は励起光波長λpのことを指す。
【0042】
第1の1/2波長板103の光軸方向は、図2に示すように用意されている。すなわち、偏波分離合成モジュール101において、第3入出力端101−3から出力された入力励起光の偏波方向(s偏波)に対して、光軸方向が45°だけ回転している。すなわち、第3入出力端101−3から出力された入力励起光は、第1の1/2波長板103を通過した後、偏波方向が90°だけ回転してp偏波方向に一致するものとなる。
【0043】
なお、1/2波長板103に代わる構成として、以下のような構成を挙げることができる。すなわち、偏波分離合成モジュール101及び第1の2次非線形光学媒質102として、偏波保持光ファイバを光の入出力端として接続させた構成の部品を採用し、偏波分離合成モジュール101からの偏波保持光ファイバと、第1の2次非線形光学媒質102からの偏波保持光ファイバとを、本来第1の1/2波長板103を介して接続する箇所に、双方の偏波保持光ファイバの互いの光学軸(slow軸、fast軸)を90°だけ回転させて融着接続した構成とすることにより、1/2波長板103を使用しなくても、1/2波長板103を使用した場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
第1の実施形態(後述する第2〜第4の実施形態も同様)においては、第1の2次非線形光学媒質102に入出力する入力励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光は同一偏波方向の直線偏波光(直線偏光光)であると規定する。このようなことは、例えば、第1の2次非線形光学媒質102としてPPLNを用いた場合、PPLNの2次非線形光学定数のd33成分を、SHG発生、SPDC発生に利用し、そのためにPPLN結晶のz軸方向に偏波した励起光を入力することで実現することができる。
【0045】
光ローパスフィルタ105は、光サーキュレータ104の第3入出力端104−3からの出力光のうち、第1の2次非線形光学媒質102で発生したSHG光の波長成分(λp/2)を除去するものである。光ローパスフィルタ105の通過光の波長成分は、励起光波長成分(λp)、シグナル光波長成分(λs)、アイドラー波長成分(λi)となる。
【0046】
WDMフィルタ106は、ローパスフィルタ105の通過光のうち、少なくともシグナル光波長成分(λs)、アイドラー波長成分(λi)を別々の光経路に切り分けて出力するものである。このようなWDMフィルタ106としては、少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー波長(λi)を透過波長成分として有する、いわゆるAWG(arrayed waveguide grating)型のWDMフィルタなどを用いることができる。
【0047】
WDMフィルタ106を通過したシグナル光波長成分及びアイドラー波長成分は、例えば、光ファイバ通信網などの光伝送路を経由した後、それぞれ受信者A、受信者Bに送信される。受信者A、受信者Bは同時計測などを実行することで、所望とする量子情報通信技術に基づく情報伝達などを実行する。
【0048】
(A−2)第1の実施形態の動作
以下では、第1の2次非線形光学媒質102としてPPLN結晶を適用し、その2次非線形光学定数のうちd33成分をSHG発生、SPDC発生に利用するとして、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100の動作を説明する。
【0049】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2及び第3入出力端101−3から、それぞれp偏波、s偏波で、同じ強度の励起光(波長λp)が出力される。p偏波方向と、PPLN結晶のz軸方向が一致するように、第1の2次非線形光学媒質102であるPPLN結晶を配置する。
【0050】
まず、光ループLPを時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2からp偏波光として出力される励起光成分)によって生じる過程を説明する。
【0051】
励起光を入力することで、PPLN結晶内でSHG光が発生する。すると、このSHG光を種光としてSPDC過程により、同じPPLN結晶内でシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。
【0052】
PPLN結晶から出力される励起光、SEG光、シグナル光、アイドラー光(これらは全て同じ偏波方向を有する)は、第1の1/2波長板103を通過する。この際、波長がλp近傍である励起光、シグナル光、アイドラー光は、偏波が90°だけ回転してs偏波となって偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1にs偏波として出力される。
【0053】
一方、波長がλp/2であるSHG光に対しては、第1の1/2波長板103は単に1波長分の位相差を与えるだけなので、偏波回転が生じない。従って、SHG光はp偏波のままで偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1に出力されない。ここであえて言えば、偏波分離合成モジュール101の波長依存性が無視できるならば、SHG光は偏波分離合成モジュール101の第1の実施形態では利用しない第4入出力端101−4に出力される。
【0054】
つまり、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程がともに発現することにより、s偏波のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0055】
次に、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3からs偏波光として出力される励起光成分)によって生じる過程を説明する。
【0056】
励起光はまず、第1の1/2波長板103を通過することで90°だけ偏波回転が生じ、p偏波光となる。
【0057】
その後、第1の2次非線形光学媒質102としてのPPLN結晶に入力するとき、励起光の偏波方向はPPLN結晶のz軸方向と一致する。このループLP内を反時計回りに伝播する励起光が入力されることで、ループ内時計回りに伝播する励起光で生じたのと同様に、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程が順次生じることにより、SPDC相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が発生する。
【0058】
また、第1の1/2波長板103での光損失を無視すると、このときPPLN結晶に入力する励起光強度は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光がPPLN結晶に入力するときの励起光強度と同じである。
【0059】
ここで、PPLN結晶の前後から入力される時計回りの励起光及び反時計回りの励起光の偏波方向が同じで、強度も同じであることから、PPLN結晶が中心対称な構造であれば、PPLN結晶内で発生するSHG光とSPDC相関光子の生成確率は、時計回りの励起光及び反時計回りの励起光に対して同じである。
【0060】
反時計回りの励起光に対してPPLN結晶から出力される励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光(これらは全て同じ偏波方向である)は、p偏波として偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1にp偏波として出力される。
【0061】
つまり、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程が順次発現することにより、p偏波のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0062】
非特許文献1の記載技術と同様に、励起光強度が十分弱い場合、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、シグナル光とアイドラー光の相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって発生したs偏波の相関光子対か、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって発生したp偏波の相関光子対のどちらか一方となる。すなわち、装置から発生する相関光子対の状態は、光ループLPを時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播し、時計回り成分とは偏波直交した相関光子対の重ね合わせ状態となる。つまり、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100によって、偏波量子もつれ光子対が発生されている。
【0063】
図3は、偏波分離合成モジュール101からの出力光(の種類)を説明する模式図である。図3(A)は、偏波分離合成モジュール101として、薄膜101Rを用いたタイプの偏光ビームスプリッタを用いた場合の各波長の光の入出力関係を模式的に表した図であり、図3(B)は、偏波分離合成モジュール101として、複屈折結晶を用いたいわゆる偏光プリズムを用いた場合の模式図である。
【0064】
偏光ビームスプリッタを用いた場合も偏光プリズムを用いた場合も、第1入出力端101−1からは、所望の偏波もつれ光子対成分(シグナル光、アイドラー光)と共に、光ループLPを時計回り及び反時計回りに伝播した入力励起光成分と、光ループLPを反時計回りに伝播した励起光によって発生したSHG光成分とが出力される。
【0065】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力された各成分は、光サーキュレータ104の第2入出力端104−2に入力され、第3入出力端104−3に出力される。但し、ここでは、光サーキュレータ104の波長依存性を取りあえず無視して記載した。
【0066】
光サーキュレータ104の第3入出力端104−3からの出力光は、光ローパスフィルタ105に入射され、光ローパスフィルタ105を経由することにより、波長λp/2のSHG光成分が除去される。
【0067】
その後、WDMフィルタ106に入射され、シグナル光波長成分(λs)、アイドラー光波長成分(λi)が別々の光経路に切り分けられて出力される。それぞれの光経路に入力励起光波長成分(λp)が混在しないように、WDMフィルタ106には十分な波長分離能力が必要となる。このようなWDMフィルタ106としては、少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー光波長(λi)を透過波長成分として有する、いわゆるAWG型のWDMフィルタなどを用いることができる。また、ブラッグ波長がλpである回折格子型のフィルタ、例えば、ファイバブラッググレーティングなどと組み合わせて励起光波長成分を十分抑制した構造とすることもできる。
【0068】
WDMフィルタ106を通過したシグナル光波長成分及びアイドラー波長成分はそれぞれ、光ファイバ通信網などの光伝送路を経由した後、それぞれ受信者A、受信者Bに送信される。受信者A及び受信者Bは同時計測などを実行することで、所望とする量子情報通信技術に基づく情報伝達などを実行する。
【0069】
以上のように、第1の実施形態においては、SPDC過程の種光となる波長λp/2のSHG光は、光ループLPの光路の外部から供給する必要はなく、光ループLPの光路中に配置された第1の2次非線形光学媒質102内で自生する。そして、このSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102内以外では不要な光成分である。すなわち、第1の2次非線形光学媒質102以外の光部品では、それを損失なく伝播させたり、あるいは、光部品に光学的に接続させたりする必要がない。その結果、偏波分離合成モジュール101や光サーキュレータ104などは、波長λp近傍で所望の動作を実行するもので良く、波長λp/2で動作する必要がないため、従来技術のような特殊な光部品を用いる必要がない。この点は、第1の2次非線形光学媒質102内へ励起光を入力するためのレンズ系などの結合光学系に関しても言え、すなわち、波長λp/2及び波長λpの双方で動作する結合光学系である必要はなく、波長λpでのみ動作する結合光学系で良い。その結果、装置作製コストが低下すると共に、過剰な光損失などを低減でき、より高純度な量子もつれ状態を実現することができる。
【0070】
さらに言えば、波長λp/2のSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102内以外では不要な光成分であるため、偏波分離合成モジュール101や結合光学系で多大な光損失を受けてもなんら問題はなく、むしろその場合、後段の光ローパスフィルタ105で必要とされるSHG光成分除去のためのフィルタ透過特性への負荷が小さくなり、望ましい。
【0071】
第1の2次非線形光学媒質102としては、所望の量子もつれ光子対の波長に応じて、LiNbO3結晶やPPLN結晶などのバルク結晶や、それに光導波路構造を作り込んだPPLN導波路など様々な2次非線形光学媒質を利用できる。波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置の場合、前述の特許文献2や非特許文献1で記載されているようなLiNbO3結晶は、その代表的な例である。
【0072】
一方、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100を実現するに当たっては、第1の2次非線形光学媒質102内でのSHG発生とSPDC発生を高効率に実行することが、産業応用上特に重要である。そのためにはSHG発生過程とSPDC発生過程のそれぞれにおける、入力励起光とSHG光との位相整合条件、さらには、SHG光とシグナル光との位相整合条件、SHG光とアイドラー光との位相整合条件が重要である。
【0073】
バルク結晶を用いた場合、角度整合を用いた位相整合を用いるのが一般的であるが、この場合、特許文献1などにも示されるように、シグナル光とアイドラー光との空間的分離により、量子もつれ状態の純度が劣化することがある。
【0074】
一方、強誘電体の周期的分極反転構造など、2次非線形光学係数が空間的に変調された構造を用いると、角度整合に依らず擬似的な位相整合条件を実現することができるメリットがある。
【0075】
さらにまた、光導波路構造を作り込んだ2次非線形光学媒質では、上記のような空間分離による量子もつれ状態の純度劣化を改善できると共に、強い光閉じ込めによる実効的な2次非線形光学係数の増加により、SHG発生、SPDC発生確率を増加できるメリットがある。
【0076】
上記の理由から、波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置100を構成する第1の2次非線形光学媒質102としては、PPLN導波路が最適な一例である。
【0077】
PPLN導波路におけるSHG発生過程、SPDC発生過程におけるエネルギー保存則、運動量保存則(すなわち、位相整合条件)は(2)式〜(5)式のようになる。波数及び波長は、PPLN導波路内での実効屈折率nを介して(6)式の関係がある。
【数2】
【0078】
(2)式及び(4)式はエネルギー保存則に基づく各光成分の波長の関係を表している。すなわち、SHG光は入力励起光の半分の波長であり、また、このSHG光を種光として生成するシグナル光、アイドラー光の光周波数(=c/λ、cは真空中での光速)の和は、SHG光の光周波数に等しく、同時にまた入力励起光の光周波数の半分に等しいことを意味する。
【0079】
(3)式及び(5)式が位相整合に関わる式である。励起光波長λpと、PPLN導波路形状から実効屈折率np、nSHGが決定されれば、(3)式及び(6)式に基づいて分極反転周期Λが決定される。
【0080】
シグナル光、アイドラー光の波長が異なるとした場合(λs≠λp、λi≠λp)、一般に(3)式及び(5)式は両立しない。つまり、SHG過程とSPDC過程の位相整合条件は一般には両立しない。
【0081】
よく知られた非線形光学効果を記述する結合モード方程式の解から、位相不整合の場合、発生確率は{sin2(δL/2)}/(δL/2)2に比例して低下していくと考えられる。ここで、δは(7)式で表されるSPDC過程における位相不整合量、LはPPLN導波路長である。
【数3】
【0082】
発生確率の低下が最大値(位相整合下の値)の50%までを、仮に許容不整合量と仮定すると、{sin2(δL/2)}/(δL/2)2=0.5から≒2.78となる。これがSPDC過程において生じる相関光子対の波長帯域を制限する。すなわち、相関光子対として発生するシグナル光及びアイドラー光の波長範囲を決定する。
【0083】
また、実効屈折率の波長変化が励起光波長近傍でほぼ線形である場合、すなわち励起光波長近傍での実効屈折率が(8)式で表される範囲では、(4)式、(6)式及び(8)式を用いて、(9)式が得られ、すなわち、この範囲で位相整合条件の(3)式及び(5)式は両立する。
【数4】
【0084】
以上の検討から、第1の実施形態の量子もつれ光子対発生装置100を実現するためには、まず、SHG発生の位相整合条件である(3)式を満足するようにPPLN導波路の分極反転周期Λを決定すれば良いことが分かる。その結果、(5)式で示すSPDC発生過程における位相整合を満足するか、少なくとも許容範囲のうちの位相不整合量内にある波長組み合わせ(λs、λi)の相関光子対がSPDC過程に基づいて発生し、その結果、所望する量子もつれ光子対が発生できるものと期待できる。
【0085】
第1の実施形態を実証するための、基礎的な確認実験を行った。すなわち、PPLN導波路に1.55ミクロン帯の励起光を入力したとき、SHG発生過程とSPDC発生過程が生じて、1.55ミクロン帯のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生することを確認した。
【0086】
実験に用いた素子は、MgOをドープした化学量論的組成のLiNbO3基板に、周期的分極反転構造を施し、またプロトン交換とダイシングによるリッジ形状加工により光導波路構造を形成したPPLN導波路素子である。
【0087】
素子の長さは6cm、またリッジ幅は約10ミクロンとした。また、分極反転周期(Λ)は約19.3ミクロンとした。この値は、(3)式のSHG光に対する位相整合を満足する励起光波長λp(以下、QPM波長と呼ぶ)が1551nmとなるような値として設計した。
【0088】
素子の伝播ロスは、1550nm帯の光に対しておおよそ0.1dB/cmであった。
【0089】
実験は、上記のPPLN導波路素子を、温度制御素子(ペルチェクーラー)や結合レンズ、光入出力のための光ファイバ等と共に光モジュール化したPPLNモジュールを用いて行った。モジュールの挿入損失は1550nm帯の光に対しておおよそ3.8dBであった。
【0090】
PPLNモジュールに、波長1550nm近傍の連続光を入力し、モジュール入力前後での光スペクトルの変化を観測した。
【0091】
図4(A)に結果を示す。図4(A)において、細い実線は入力時の光スペクトル、太い実線は出力時の光スペクトルを示す。この実験においては、素子温度が29.2℃に一定になるように制御した。また、入力励起光波長は、この素子温度でのQPM波長に相当する、1550.9nmとした。また、モジュールへの入力光強度は+21.3dBmとした。
【0092】
図4(A)の結果から分かるように、出力スペクトルにおいて、励起光波長(λp、今回の場合1550.9nm)周りに広がった連続的な光スペクトルが観測され、SPDC過程によるシグナル光、アイドラー光の発生が確認できた。スペクトルは励起光波長を中心に左右対称に広がっており、このことから、シグナル光、アイドラー光は同等にPPLN導波路内に閉じ込められ、また、光取り出し口である光ファイバから出力されていることが分かる。
【0093】
一方、図4(B)は、モジュールに入力する励起光の条件は変えずに、PPLN導波路素子の制御温度を35.0℃一定に変化させたときのモジュールからの出力光スペクトルである。この場合、出力光スペクトルの形状は、入力光スペクトルの形状とほぼ同じであった。
【0094】
この実験条件では、入力励起光波長は、素子のQPM波長からおおよそ0.8nm短波長側にずれており、すなわち、SHG光に関する位相整合条件の(3)式から大きく乖離した状態にあり、すなわち、SHG光がほとんど発生しない。
【0095】
すなわち、図4(B)に示す結果は、SHG発生の過程を経なくては、SPDC発生も生じないことを意味する。
【0096】
逆に、図4(A)に示す結果は、入力励起光波長がQPM波長と一致し、PPLN導波路素子内でSHGが発生すれば、それを種光としてSPDC過程が生じることを意味し、言い換えると、第1の実施形態で必要とする、2次非線形光学媒質中でSHGが発生し、かつ、それを種光としてSPDC過程によりシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する過程が確かに生じていることを意味する。
【0097】
図4(A)に示す結果から、SPDC相関光子対の発生帯域は、片側3dB幅で約32nm(4THz)、片側10dB幅で約54nm(7THz)と見積もられ、広範囲なスペクトル形状が観測された。
【0098】
また、光スペクトルを積分することにより、SPDC過程による発生光子数を見積もった。発生光子数は、シグナル光(又はアイドラー光)に相当する短波長側成分(1491nm−1549nm)で1.540×1011(/s)、アイドラー光(又はシグナル光)に相当する長波長側成分(1552.8nm−1615.8nm)で1.454×1011(/s)と見積もられた。両者の値はよく一致した。これは、導波路構造のために、生成したシグナル光、アイドラー光がともに漏れなくPPLN導波路内に閉じ込められ、また、光取り出し口である光ファイバから出力されるためと考えられる。
【0099】
図5は、図4(A)と同じPPLN導波路素子温度、励起光波長条件の元で測定した、PPLNモジュールからのカスケード自然パラメトリック下方変換特性の実験結果を示す説明図である。図5(A)は、波長775.45nmのSHG光強度の入力励起光強度依存性の実験結果を示し、図5(B)は、シグナル光(短波長成分)光子及びアイドラー光(長波長成分)光子の総光子数の入力励起光強度依存性の実験結果を示している。
【0100】
両者は共に入力励起光強度の2乗に比例した結果を示した。これは以下のように理解できる。すなわち、SHG光は、励起光(基本光)の減衰がない範囲では、その発生強度は基本光強度の2乗に比例する。また、SPDC過程の発生確率は、種光であるSHG光強度に比例し、すなわち、励起光強度の2乗に比例する。
【0101】
すなわち、図5に示す結果は、今回観測されたシグナル光、アイドラー光が、確かにSHG発生からSPDC発生への過程を経て生じたものであることを意味している。
【0102】
なお、この実験で用いたPPLNモジュールで用いられている結合レンズ、入出力用光ファイバ等は、全て長波長(1.5ミクロン帯)用の光学部品であり、短波長(0.78ミクロン帯)での用途には全く考慮したものではない。それゆえ、本実験の結果は、長波長用の光学部品で装置全体を構成できるという、本発明で目的とする効果をも実証している。
【0103】
すなわち、図4及び図5に示した基礎的な確認実験の結果から、ここで用いたようなPPLN導波路素子を用いて図1に示す量子もつれ光子対発生装置100を作製すれば、所望する波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置を実現できることが明らかとなった。
【0104】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下の効果が期待できる。すなわち、従来技術と異なり、SPDC過程の種光となる波長λp/2のSHG光を、偏波分離合成モジュールを両端とする光ループ光路の外部から供給することなく、光ループ光路中に配置されSDPC過程を生じさせる第1の2次非線形光学媒質102自身で発生させる。ここで発生させたSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102以外の光部品で不要な成分であり、すなわち、その他の装置構成部品において、それを損失なく伝播させたり、あるいは、光部品に光学的に接続させたりする必要がない。その結果、装置を構成する、偏波分離合成モジュール、結合レンズなどの光学部品において、波長λp、λp/2での両方で動作する特殊な光部品を用いる必要がない。その結果、装置作製コストが低下すると共に、過剰な光損失などを低減でき、より高純度な量子もつれ状態を生成することができる、量子もつれ光子対発生装置を提供できる。
【0105】
(A−4)第1の実施形態の変形実施形態
第1の実施形態に対し、励起光や量子もつれ光子対の入出力形態を変形した実施形態を種々上げることができる。
【0106】
図6は、光サーキュレータを用いない構成の変形実施形態を示しており、図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0107】
図6に示す量子もつれ光子対発生装置100Aにおいては、WDMフィルタ106としてAWG(以下、この変形実施形態の説明においてAWGに対して符号106を付与して説明する)を用いている。少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー波長(λi)及び励起光波長(λp)の3波長を透過波長成分として有するAWG106を用いている。
【0108】
AWG106においては、その透過波長に相当する波長の光を入力する、複数の透過光入出力ポートと、それぞれの透過光入出力ポートに入力された光を合波出力する共通入出力ポートとを有する。逆に、共通入出力ポートに入力された光は、それぞれの波長に応じて分波され、それぞれの透過波長に相当する透過光入出力ポートへと分波出力される。
【0109】
AWG106の上記のような特性を利用して下記のような構成をとる。すなわち、励起光波長を透過波長としている透過光入出力ポートへ励起光を入力し、共通入出力ポートからの出力光を偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力し、第1の実施形態の場合と同様にして、励起光を第1の2次非線形光学媒質102へ双方向に入力する。
【0110】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、光ループLPからの出力光は、AWG106の共通入出力ポートへ入力され、シグナル光、アイドラー光がそれぞれ対応する透過光入出力ポートへ入力され、この段階で励起光波長成分は除去される。さらに、SHG波長成分を除去するために、必要であればシグナル光、アイドラー光の透過光入出力ポートに光ローパスフィルタ105−s、105−iを接続して、SKG光波長成分を除去する。
【0111】
図7は、光サーキュレータを用いない構成の他の変形実施形態を示しており、図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0112】
図7に示す量子もつれ光子対発生装置100Bにおいては、波長λpの波長成分のみを選択的に透過(あるいは反射)する狭帯域な光バンドパスフィルタ108を用いる。ここで、シグナル光及びアイドラー光の波長は、光バンドパスフィルタ108の透過(又は反射)帯域に掛からないように、励起光波長λpから十分離れているものとする。
【0113】
図7では、反射型光バンドパスフィルタ108を示している。光バンドパスフィルタ108の反射特性を利用して、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ波長λpの励起光を入力する。偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、光ループLPからの出力光のうち、励起光波長成分は反射型光バンドパスフィルタ108で反射され、その透過ポートへは出力されない。この段階で励起光波長成分は除去される。さらに、SHG波長成分を除去するために、光ローパスフィルタ105を接続して、SHG光波長分を除去する。その後、WDMフィルタ106に接続して、シグナル光、アイドラー光をそれぞれ分離出力する。
【0114】
(B)第2の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0115】
(B−1)第2の実施形態の構成
図8は、第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0116】
図8において、第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cは、第1の実施形態で用いた第1の1/2波長板103に代えて、ファラデー回転子と1/2波長板とからなる2組の非相反偏波面変換部(光学部品のペア)211、212を用いている。第1の実施形態で用いた光サーキュレータ104は、この第2の実施形態では使用されていない。
【0117】
第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cは、第1の実施形態で述べた基本的な動作を実行できることを保証しつつ、入力励起光と所望する量子もつれ光子対とを、偏波分離合成モジュール100のそれぞれ異なる入出力端を介して入出力し得るようにしたものである。
【0118】
第1の非相反偏波面変換部211は、第1のファラデー回転子207と第2の1/2波長板208とを縦続接続したものであり、第1の非相反偏波面変換部211は、光ループLP上の偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3と第1の2次非線形光学媒質102との間の位置に介挿されている。第2の非相反偏波面変換部212は、第2のファラデー回転子209と第3の1/2波長板210とを縦続接続したものであり、第2の非相反偏波面変換部212は、光ループLP上の偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第1の2次非線形光学媒質102との間の位置に介挿されている。
【0119】
各ファラデー回転子207、209はそれぞれ、波長λpの励起光に対して45°だけ偏波回転させるファラデー回転子であり、各1/2波長板208、210はそれぞれ、第1の実施形態で用いた第1の1/2波長板103と同様に、波長λpの励起光に対していわゆる1/2波長板として動作するものである。
【0120】
第1の非相反偏波面変換部211及び第2の非相反偏波面変換部212は同一構成のものである。各非相反偏波面変換部211、212における構成要素の光学軸方向の関係は、図9に示すように調整されている。なお、図9は、第1の非相反偏波面変換部211における構成要素の光学軸方向の関係を示しているが、第2の非相反偏波面変換部212においても同様である。
【0121】
第1の非相反偏波面変換部211において、第1のファラデー回転子207側あるいは第2の1/2波長板208側から、ある特定の偏波方向の直線偏波の励起光が入力する。動作の項で詳述するが、この特定偏波方向は、偏波分離合成モジュール101におけるp偏波方向若しくはs偏波方向の一方に一致する。第2の1/2波長板208の光学軸は、この特定偏波方向(図9ではp偏波方向として図示されている)と22.5°の角をなすように調整されている。
【0122】
偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、光ローパスフィルタ105及びWDMフィルタ106は、第1の実施形態のものと同様に機能するものであり、その機能説明は割愛する。
【0123】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cの動作を説明する。
【0124】
第1の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0125】
以下では、まず、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力され、光ループLPを反時計回りに巡回する励起光に対する操作を説明する。
【0126】
偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力されたs偏波の励起光は、第1の非相反偏波面変換部211を通過する。このときの第1の非相反偏波面変換部211内における偏波状態の変化を、図9(A)を参考にして説明する。
【0127】
図9(A)において、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力されたs偏波の励起光を、右向きの矢印で表している。このs偏波励起光が第1のファラデー回転子207を通過する。第1のファラデー回転子207を通過することによって、図中反時計回りに45°の偏波回転が生じる。その結果、第1のファラデー回転子207からの出力光の偏波方向は、右斜め上45°向きの矢印で表される。このような偏波方向を有する第1のファラデー回転子207からの出力光が第2の1/2波長板208を通過する。第2の1/2波長板208の偏波方向(光学軸)は、特定偏波方向(p偏波方向)と22.5°の角をなしている。第2の1/2波長板208に入力する光の偏波方向は、p偏波方向に対して45°の傾きを有するため、第2の1/2波長板208の光学軸に対しては22.5°の角を有し、その結果、第2の1/2波長板208からの出力光の偏波方向は上向き矢印の方向で表すことができる。
【0128】
このことは、第2の1/2波長板208を通過して出力された励起光の偏波方向がp偏波方向となっていることを意味する。すなわち、第1の非相反偏波面変換部211内を、第1のファラデー回転子207、第2の1/2波長板208の順番で通過した励起光は、偏波方向が反時計回りに90°だけ回転される。なお、このような偏波方向の回転は、第2の非相反偏波面変換部212でも同様である。このような回転は、1/2波長板の光学軸が、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°の角をなすように調整されているときに生じる。
【0129】
第1の非相反偏波面変換部211から出力された励起光は、第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、第1の実施形態の場合と同様に、励起光の偏波方向(p偏波)と同じ直線偏波のSHG光及びSPDC相関光子対が発生される。
【0130】
励起光、並びに、第1の2次非線形光学媒質102で発生されたSHG光及びSPDC相関光子対は、第2の非相反偏波面変換部212に入力される。このとき、励起光、並びにそれと波長が近いSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過した場合と同様に、第2の非相反偏波面変換部212を通過することで、偏波方向が反時計回りに90°だけ回転される。この場合、入力状態はp偏波であったから、第2の非相反偏波面変換部212を通過した後ではs偏波に変換されている。
【0131】
その後、光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対は、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、偏波状態がs偏波であることから、第4入出力端101−4へ出力される。すなわち、偏波分離合成モジュール101に最初に励起光が入力された入出力端(101−1)とは異なる入出力端(101−4)から、励起光及びSPDC相関光子対が出力される。
【0132】
次に、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力され、光ループLPを時計回りに巡回する励起光に対する操作を説明する。
【0133】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力されたp偏波の励起光は、第2の非相反偏波面変換部212を、第3の1/2波長板210、第2のファラデー素子209の順番に通過する。このときの偏波状態の変化を、図9(B)を参照しながら説明する。図9は、第1の非相反偏波面変換部211について示しているが、上述したように、第2の非相反偏波面変換部212についても同様であり、図9における符号「207」を符号「209」と、符号「208」を符号「210」と置き換えて見れば、図9は、第2の非相反偏波面変換部212を表している図面と見ることができる。
【0134】
図9(B)において、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力された励起光はp偏波であるから、図中上向きの矢印で表す。このp偏波励起光が第3の1/2波長板210を通過する。第3の1/2波長板210への励起光の偏波方向は、第3の1/2波長板210の光学軸と22.5°の角をなしているため、その結果、第3の1/2波長板210の出力光の偏波方向は右斜め上45°向き矢印の方向で表すことができる。次に、第2のファラデー回転子209を通過するとき、反時計回りに45°だけ回転するため、その結果、第2のファラデー回転子209の出力光の偏波方向は上向き矢印の方向で表すことができる。すなわち、第2の非相反偏波面変換部212を通過してもp偏波のままである。
【0135】
以上のように、第2の非相反偏波面変換部212内を、第3の1/2波長板210、第2のファラデー回転子209の順番で通過した励起光は、偏波方向が回転されない。このような無回転は、第1の非相反偏波面変換部211でも同様である。この無回転は、1/2波長板の光学軸が、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°の角をなすように調整されているときに生じる。
【0136】
以上から明らかなように、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力され、第2の非相反偏波面変換部212を通過した励起光は、p偏波の励起光として、第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の実施形態と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ直線偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0137】
励起光、並びに、発生されたSHG光及びSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過する。励起光、並びにそれと波長が近いSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過しても、偏波状態はそのままに(p偏波)である。
【0138】
その後、この光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対は、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、偏波状態がp偏波であることから、第4入出力端101−4へ出力される。最初に励起光が入力された入出力端(101−2)とは異なる入出力端(101−4)から、励起光及びSPDC相関光子対が出力される。
【0139】
すなわち、第1の実施形態と同様に、偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0140】
光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対が出力される偏波分離合成モジュール101の入出力端(101−4)は、上述した光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対が出力される入出力端と同一である。一方、偏波分離合成モジュール101の第4の入出力端101−4から出力された光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対の偏波方向と、偏波分離合成モジュール101の第4の入出力端101−4から出力された光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対の偏波方向とは直交している。
【0141】
次に、第1の2次非線形光学媒質102において発生し、第1の2次非線形光学媒質102から出力されたSHG光が、第1の非相反偏波面変換部211、第2の非相反偏波面変換部212を通過するときの偏波状態を説明する。第2及び第3の1/2波長板208及び210は、SHG光に対しては1波長板であるので、この1/2波長板(208、210)を通過しても偏波回転も生じない。一方、第1及び第2のファラデー回転子207、209においては、波長が励起光の半分(λp/2)であるため、このファラデー回転子(207、209)を通過することによる偏波回転角は90°となる。
【0142】
つまり、第1及び第2の非相反偏波面変換部211及び212は、SHG光が、当該非相反偏波面変換部を構成しているファラデー回転子及び1/2波長板をどの順番で通過しても90°だけ偏波回転を与える(図9(C)、(D))。
【0143】
図10は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図10に示すように、所望する量子もつれ光子対は、励起光を入力する入出力端(ここでは第1入出力端101−1)とは異なるポート(ここでは第4入出力端101−4)から、光ループLPを時計回り及び反時計回りに伝播した入力励起光成分や、光ループLPを反時計回りに伝播した励起光によって発生したSHG光成分と共に出力される。
【0144】
その後、第1の実施形態と同様に、光ローパスフィルタ105、WDMフィルタ106で余分なSHG光成分や励起光波長成分を除去された上で、シグナル光、アイドラー光成分が分岐出力される。
【0145】
第2の実施形態の構成を、図1に示す第1の実施形態や、図6、図7に示す第1の実施形態に対する変形実施形態の構成と比べれば、次のような違いがある。すなわち、励起光が、元の励起光入力端に逆行して戻っていくことはない。それ故、反射戻り光等による装置の不安定動作の懸念が小さくなる。さらには反射戻り光の懸念がある場合、その解消のための光アイソレータなどの光部品が必要となり、コスト増加や装置の光損失増加などがもたらされるが、それらを除去できる。
【0146】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、以下の効果が期待できる。すなわち、励起光が、元の励起光入力端に逆行して戻っていくことはないため、反射戻り光等による装置の不安定動作の影響を除去でき、結果、コスト増や光損失増加による装置特性劣化を回避できる。
【0147】
(C)第3の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0148】
(C−1)第3の実施形態の構成
図11は、第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0149】
図11において、第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dは、第1の実施形態と同様な構成に加え、偏波分離合成モジュール101と第1の2次非線形光学媒質102とを光学的に接続する2箇所の光路のうち、第1の1/2波長板103が挿入されない側の光路に、偏波面変換部314を設けたものである。偏波面変換部314は、第4の1/2波長板311、1/4波長板312、第5の1/2波長板313を縦続接続したものである。
【0150】
第4の1/2波長板311、1/4波長板312、第5の1/2波長板313の光学軸方向は、図12に示すように選定されている。
【0151】
偏波面変換部314には、ある特定の偏波方向の直線偏波の励起光が入力される。後述するように、この特定偏波方向とは、偏波分離合成モジュール101におけるs偏波方向か、p偏波方向の一方に一致する。第4の1/2波長板311及び第5の1/2波長板313の光学軸は、この特定偏波方向(図中ではp偏波方向として図示されている)と22.5°の角をなすように選定されている。一方、1/4波長板312の光学軸は、この特定偏波方向と45°の角をなすように調整されている。
【0152】
偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、第1の1/2波長板103、光サーキュレータ104、光ローパスフィルタ105及びWDMフィルタ106は、第1の実施形態のものと同様に機能するものであり、その機能説明は割愛する。
【0153】
(C−2)第3の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dの動作を説明する。
【0154】
第1の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0155】
第3の実施形態の後述する特徴的な効果は、偏波面変換部314における偏波回転の波長依存性によってもたらされる。以下、図12を参照しながら、このことを説明する。
【0156】
図12(A)は、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力された励起光(波長λp)が、偏波面変換部314を通過する際の偏波状態の変化を示している。
【0157】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力されたp偏波の励起光(波長λp)を、図中上向きの矢印で表している。この励起光が第4の1/2波長板311を通過する。第4の1/2波長板311の光軸方向は、p偏波方向と22.5°の角をなすように選定されている。そのため、第4の1/2波長板311から出力される励起光の偏波方向は、右斜め上45°向きの矢印で表される。
【0158】
次に、励起光は、1/4波長板312を通過する。1/4波長板312の光軸方向は、p偏波方向と45°の角をなすように配置されている。そのため、1/4波長板312へと入力される励起光の偏波方向は、1/4波長板312の一方の光学軸方向と合致しており、その結果、1/4波長板312を通過してもなんらの偏波回転も生じない。
【0159】
次に、励起光は、第5の1/2波長板313を通過する。第5の1/2波長板313の光軸方向は、p偏波方向と22.5°の角をなすように配置されている。そのため、第5の1/2波長板313から出力される励起光の偏波方向は、反時計回りに45°だけ回転し、すなわち、図中上向きの矢印方向で表される偏波方向の光となって出力される。
【0160】
すなわち、波長λpの励起光が、偏波面変換部314を通過するとき、元の偏波方向(ここではp偏波方向)を保ったまま出力される。このことは、図12(B)に示されるように、励起光が偏波面変換部314に逆側から入力されて出力される場合でも同じである。このような偏波状態の維持は、内部を構成する1/2波長板311、313や1/4波長板312の光学軸方向が、上述したように、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°並びに45°の角をなすように選定されているときに生じる。
【0161】
次に、光ループを反時計周りに進行する励起光の半分の波長(λp/2)のSHG光が、偏波面変換部314を通過するときの偏波方向の変換の様子を、図12(D)を参照しながら説明する。なお、図12(C)は、時計周りに進行する励起光の半分の波長(λp/2)のSHG光が、偏波面変換部314を通過するときの偏波方向の変換の様子を示しているが、このようなSHG光は不要な反射などで生じたものである。
【0162】
なお、1/2波長板311、313、1/4波長板312は、波長λp/2のSHG光に対してはそれぞれ、1波長板、1/2波長板として動作する。
【0163】
従って、第5の1/2波長板313に入力されたp偏波(上向き矢印)のSHG光はp偏波のまま出力される。
【0164】
次に1/4波長板312を通過するとき、1/4波長板312はSHG光に対しては1/2波長板として動作し、かつ、その光学軸方向が入力偏波方向と45°の角をなすため、その結果、出力光の偏波方向は90°だけ回転している(右向き矢印)。
【0165】
次に、第4の1/2波長板311を通過するときには、なんらの偏波方向の回転も生じない。
【0166】
すなわち、波長λp/2のSHG光が、偏波面変換部314を反時計周りで通過するとき、元の偏波方向(ここではp偏波方向)から90°だけ偏波回転する(s偏波に変換される)。このことは、図12(C)に示されるように、SHG光が逆側から入力されて出力される場合でも同じである。このことは、内部を構成する1/4波長板312の光学軸方向が、上述したように、s偏波方向あるいはp偏波方向と45°の角をなすように設定されているときに生じる。
【0167】
以上の結果をまとめると、次のようになる。すなわち、偏波面変換部314を通過するとき、波長λpの励起光とそれに近い波長のシグナル光及びアイドラー光は偏波回転されないのに対し、波長λp/2のSHG光は90°だけ偏波回転する。このような偏波方向(偏波面)の変換のために、内部を構成する二つの1/2波長板311、313とひとつの1/4波長板312の光学軸方向が、それぞれ、p偏波方向あるいはs偏波方向に対して22.5°並びに45°の角をなすように選定されている。
【0168】
以上の偏波面変換部314の変換動作を踏まえて、第3の実施形態の全体動作を説明する。
【0169】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力され、光ループLPを時計回りに伝播する励起光(p偏波)は、偏波面変換部314を通過し、偏波変換されずに(p偏波のまま)第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の2次非線形光学媒質102によって、第1の実施形態の場合と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0170】
第1の2次非線形光学媒質102から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、次に、第1の1/2波長板103に入力され、励起光、SDPC相関光子対は90°だけ偏波回転されてs偏波になるのに対し、SHG光はp偏波のままである。その後、これらは偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、偏波状態がs偏波である励起光、SPDC相関光子対は第1入出力端101−1に出力されるのに対し、偏波状態がp偏波であるSHG光は第4入出力端101−4へ出力される。
【0171】
一方、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力され、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光(s偏波)は、第1の1/2波長板103において90°だけ偏波回転してp偏波へ変換され、第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の2次非線形光学媒質102によって、第1の実施形態と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0172】
第1の2次非線形光学媒質102から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、次に、偏波面変換部314へ入力され、励起光、SDPC相関光子対は偏波回転されずにp偏波のまま出力されるのに対し、SHG光は90°だけ偏波変換されてs偏波として出力される。その後、これらは偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、偏波状態がp偏波である励起光、SPDC相関光子対は第1入出力端101−1に出力されるのに対し、偏波状態がs偏波であるSHG光は第4入出力端101−4へ出力される。
【0173】
ここで、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力されるSPDC相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって発生したものはs偏波であるのに対し、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって発生したものはp偏波であるから、第1の実施形態と同様に、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0174】
図13は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図13に示すように、光ループLPを伝播した励起光、並びに所望とする量子もつれ光子対(シグナル光、アイドラー光)は、励起光を入力する入出力端と同じ入出力端(ここでは第1入出力端101−1)から出力されるのに対し、SHG光成分は光ループLPの伝播方向に関わらず第4入出力端101−4へ出力される。
【0175】
すなわち、所望する量子もつれ光子対とSHG光とは、偏波分離合成モジュール101の異なる入出力端に出力され、同一の入出力端に出力されることはない。それ故、第1及び第2実施形態と異なり、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105を原理的には必要としない構成となる。但し、所望する量子もつれ光子対及びSHG光の入出力端に漏れたSHG光除去のための光ローパスフィルタ105を残すようにしても良い。
【0176】
また、図示は省略するが、励起光や量子もつれ光子対の入出力形態に関しては、第3の実施形態に対しても、第1の実施形態の変形実施形態(図6、図7参照)として挙げたと同様な変形実施形態を上げることができる。すなわち、WDMフィルタ106として用いるAWGフィルタの双方向入出力特性を利用した構成(図6)や、光バンドパスフィルタ107を利用した構成(図7)を変形実施形態としてあげることができ、このような変形実施形態も、第3の実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0177】
(C−3)第3の実施形態の効果
第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態の効果に加えて、以下の効果が期待できる。すなわち、原理的にはSHG光除去用の光ローパスフィルタ105が不要となる。また現実には、偏波分離合成モジュール101でのSHG光に対する偏波消光比が不十分であっても(本件では、偏波分離合成モジュール101は長波長の励起光及びSPDC相関光子対に最適化した回路を想定しているため、短波長のSHG光に対しての偏波消光比は必ずしも保障しない)、少なくとも残留SHG光成分は第1、第2の実施形態に比べて低下することが期待できるため、少なくとも光ローパスフィルタ105のSHG光成分除去の負荷が低減する効果が期待できる。その結果、装置コストの低下が期待できる。
【0178】
(D)第4の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第4の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0179】
(D−1)第4の実施形態の構成
図14、第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、既述した図1、図8、図11との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0180】
第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Eは、第2の実施形態の特徴構成と、第3の実施形態の特徴構成とを共に導入し、第2の実施形態における作用効果と、第3の実施形態における作用効果を共に得ることができるようにしたものである。すなわち、入力励起光と所望する量子もつれ光子対とを偏波分離合成モジュールのそれぞれ異なる入出力端を介して入出力する構成を有し、かつ、SHG光を除去するための光ローパスフィルタが原理的には不要となるものである。
【0181】
図14に示す第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Eは、図8に示した第2の実施形態の構成に加えて、第3の実施形態で説明した偏波面変換部314を、第1の2次非線形光学媒質102と第2のファラデー回転子209との間に挿入している。
【0182】
(D−2)第4の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dの動作を説明する。
【0183】
第3の実施形態の動作の項で説明したように、偏波面変換部314の挿入によっても、励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波回転は生じない。
【0184】
次に、このことを前提とし、光ループLPを時計回りに伝播する光成分に対する偏波状態の操作を説明する。偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力されたp偏波の励起光は、第2の非相反偏波面変換部212並びに偏波面変換部314を通過しても偏波面が回転されないため、p偏波のまま第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、第1の2次非線形光学媒質102において、p偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。そして、励起光及びSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211でも偏波面が回転されないため、p偏波のまま偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から出力され、一方、SHG光は、第1の非相反偏波面変換部211を通過することによりs偏波に変換されて偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ出力される。
【0185】
次に、偏波面変換部314の挿入によっても、励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波回転は生じないことを前提とし、光ループLPを反時計回りに伝播する光成分に対する偏波状態の操作を説明する。偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力されたs偏波の励起光は、第1の非相反偏波面変換部211内を、第1のファラデー回転子207、第2の1/2波長板208の順に通過してp偏波に変換される。そして、第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、逆方向の伝播の場合と同様に、p偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。次に、偏波面変換部314を通過するが、第3の実施形態で説明したように、励起光及びSPDC相関光子対は、p偏波のまま偏波面変換部314から出力されるのに対し、SHG光は、偏波回転によりs偏波に変換され偏波面変換部314から出力される。次に、第2の非相反偏波面変換部212を通過する。この際、励起光、SPDC相関光子対、SHG光は全て90°だけ偏波方向が回転されるため、それぞれ、s偏波、s偏波、p偏波として第2の非相反偏波面変換部212から出力される。その結果、励起光及びSPDC相関光子対は、s偏波の状態で偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から出力され、一方、SHG光は、p偏波の状態で偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0186】
図15は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図15に示すように、励起光及び所望する量子もつれ光子対はループLPの伝播方向に関係なく全て偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ出力され、SHG光成分は光ループLPの伝播方向に関係なく全て第1入出力端101−1へ出力される。
【0187】
以上のように、第4の実施形態においては、第2の実施形態の作用効果と、第3の実施形態の作用効果の両方を奏することができる。
【0188】
(D−3)第4の実施形態の効果
第4の実施形態によれば、第2及び第3の実施形態の効果を共に得ることができる。すなわち、励起光の逆行による装置の不安定動作の影響を除去でき、かつ、SHG光除去用の光ローパスフィルタを不要、あるいはその通過特性への負荷を低減できるため、より低損失で高品質な装置の提供が可能となる。
【0189】
(E)第5の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第5の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0190】
(E−1)第5の実施形態の構成
図16、第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0191】
第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Fは、2次非線形光学媒質として、第1〜第4の実施形態で用いた第1の非線形光学媒質102とは下記の点で異なる、第2の非線形光学媒質501を用いている。また、第1の実施形態における第1の1/2波長板103及び光ローパスフィルタ105は設けられていない。第5の実施形態の場合、光ローパスフィルタ105は原理的に不要なものである。第5の実施形態では、光ループLPの全て又は一部を構成している偏波保持光ファイバ502の途中において、偏波面が90°だけ異なるように融着された箇所(適宜、90°融着箇所と呼ぶ)503が設けられている。
【0192】
第2の2次非線形光学媒質501に入出力する入力励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光の偏波方向は、以下の関係にある。すなわち、入力励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波方向は、同一方向の直線偏波である。一方、SHG光はこれらと直交した偏波の直線偏波である。
【0193】
このようなことは、例えば、第2の2次非線形光学媒質501としてPPLNを用いた場合には、PPLNの2次非線形光学定数のd31成分を、SHG発生、SPDC発生に利用し、そのためにPPLN結晶のX軸方向に偏波した励起光を入力することで実現される。
【0194】
90°融着箇所503は、例えば、以下のように実現される。第2の2次非線形光学媒質501と偏波分離合成モジュール101の二つの入出力端(101−2、101−3)とを光学的に結合させ、光ループLPを形成するための2つの光経路のうち、少なくとも一方を偏波保持光ファイバ502によって作製し、かつ、偏波保持光ファイバ502中の光経路の任意の一箇所を、その光学軸方向(slow軸、fast軸)を入れ替えて融着接合し、90°融着箇所503を形成させる。この90°融着箇所503を含む偏波保持光ファイバ502が、上記の光ループLPを形成する2つの光経路のどちらに挿入されるかは設計的事項である(図中では、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第2の2次非線形光学媒質501を結ぶ光経路に挿入されている)。すなわち、挿入箇所は、後述するように、第2の2次非線形光学媒質501の光学軸方向と、励起光の偏波方向に基づいて、適宜決定される。
【0195】
(E−2)第5の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Fの動作を説明する。
【0196】
第1〜第4の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0197】
上述したように、第2の2次非線形光学媒質501としてPPLNを用い、かつ、PPLNの2次非線形光学定数のd31成分をSHG発生、SPDC発生に利用する場合、PPLN結晶のx軸方向に偏波した励起光を入力することで、z軸方向に偏波したSHG光を発生させ、そしてそれを種光にしたSPDC過程により、x軸方向に偏波したシグナル光及びアイドラー光の相関光子対を発生させることになる。
【0198】
ここで、s偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように、第2の2次非線形光学媒質501を配置する。
【0199】
第2の2次非線形光学媒質501が以上のように配置されているとき、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力された光ループLPを反時計回りに伝播する励起光は、s偏波なので、それをそのまま(偏波方向を保ったまま)第2の2次非線形光学媒質501へ入力すると、p偏波のSHG光と、s偏波のシグナル光及びアイドラー光のSPDC相関光子対が発生する。
【0200】
第2の2次非線形光学媒質501から出力された、励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、偏波保持光ファイバ502に入力され、90°融着箇所503を経て偏波方向が90°だけ回転される。すなわち、励起光、SPDC相関光子対はp偏波、SHG光はs偏波に変換される。
【0201】
その後、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ到達すると、励起光、SPDC相関光子対はp偏波のため第1入出力端101−1へ出力され、SHG光はs偏波のため第4入出力端101−4へ出力される。
【0202】
一方、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力された、光ループLPを時計回りに伝播するp偏波の励起光は、偏波保持光ファイバ502に入力され、90°融着箇所503を経て偏波方向が90°だけ回転され、s偏波に変換される。
【0203】
s偏波なので、その励起光をそのまま(偏波方向を保ったまま)第2の2次非線形光学媒質501へ入力すると、p偏波のSHG光と、s偏波のシグナル光及びアイドラー光のSPDC相関光子対が発生する。
【0204】
その後、第2の2次非線形光学媒質501から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対が偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ到達すると、励起光、SPDC相関光子対はs偏波のため第1入出力端101−1へ出力され、SHG光はp偏波のため第4入出力端101−4へ出力される。
【0205】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ出力されるSPDC相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光に対して発生したものはs偏波、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光に対して発生したものはp偏波であるため、励起光強度を適宜調整することで、偏波量子もつれ光子対になっている。
【0206】
図17は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図17に示すように、励起光及び所望する量子もつれ光子対は、ループLPの伝播方向に関係なく偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ全て出力され、SHG光は、ループLPの伝播方向に関係なく偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ全て出力される。SHG光が、偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ全て出力されるので、第3や第4の実施形態と同様に、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105が原理的には不要となる。
【0207】
すなわち、第5の実施形態においては、第3、第4の実施形態に示すような、1/2波長板や1/4波長板などの複数の光学部品を用いる代りに、途中で90°光軸変換された偏波保持光ファイバという比較的安価な光部品をただ1つ用いるだけで、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105が原理的には不要となる装置を実現することができる。そのため、より安価で簡便な装置の提供が可能となる。
【0208】
なお、上述した装置構成においては、s偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように、第2の2次非線形光学媒質501を配置したが、これと直交した配置、すなわち、p偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように第2の2次非線形光学媒質501を配置した場合においても、偏波保持光ファイバ502の挿入箇所を、第2の2次非線形光学媒質501と偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3を結ぶ光経路側へと入れ替えることにより、第5の実施形態の作用効果を奏することができる。
【0209】
(E−3)第5の実施形態の効果
第5の実施形態によれば、SHG光除去用の光ローパスフィルタが不要な偏波量子もつれ光子対発生装置を、より安価かつ簡便に提供することができる。
【0210】
(F)他の実施形態
上記各実施形態では、2次非線形光学媒質としてPPLN結晶を用いた場合を説明したが、本文中にも記載したように、上記各実施形態の効果はPPLN結晶以外の2次非線形光学媒質を用いた場合でも生じることができる。また、2次非線形光学媒質としては、バルク結晶、又は光導波路構造を作りこんだPPLN導波路のような導波路型デバイスだけでなく、その他様々な形態の2次非線形光学媒質を用いることができる。
【0211】
また、第1及び第3の実施形態で用いる第1の1/2波長板103が、光ループLPの光路中で2次非線形光学媒質102に対してどのような位置に配置されるかは設計的事項である。すなわち、例えば、2次非線形光学媒質のd11成分を利用して上記各実施形態の効果を得る場合には、第1の1/2波長板103を偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第1の2次非線形光学媒質102を接続する光路に配置することもあり得る。すなわち、配置箇所は、2次非線形光学媒質の光学軸方向と、それに入力される励起光の偏波方向に基づいて、適宜柔軟に設定することができる。同様に、第1〜第4の実施形態における偏波面変換部314や、第1及び第2の非相反偏波面変換部211及び212に関しても、2次非線形光学媒質の光学軸方向と、それに入力される励起光の偏波方向に基づいて、適宜柔軟に設定することができる。
【符号の説明】
【0212】
100、100A〜100F…量子もつれ光子対発生装置、101…偏波分離合成モジュール、102…第1の2次非線形光学媒質、103、208、210、311、313…1/2波長板、104…光サーキュレータ、105、105−s、105−i…光ローパスフィルタ、106…WDMフィルタ、108…光バンドパスフィルタ、207、209…ファラデー回転子、211、212…非相反偏波面変換部、312…1/4波長板、314…偏波面変換部、501…第2の2次非線形光学媒質、502…偏波保持光ファイバ、503…90°融着箇所、LP…光ループ。
【技術分野】
【0001】
本発明は量子もつれ光子対発生装置に関し、例えば、量子暗号、量子コンピュータなど、光子の量子力学的相関を利用した量子情報通信システムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、量子暗号、量子コンピュータなど、量子力学レベルでの物理現象を利用した量子情報通信技術が注目を浴びている。中でも量子暗号は、暗号化鍵の安全性が量子力学の原理により保証された究極的に安全な暗号通信システムとして注目を浴びており、特に活発な研究開発がなされている。
【0003】
量子力学的相関を有する光子対、すなわち、量子もつれ光子対は、光子の非局所性を応用した高度な量子情報通信システムを実現するための重要な要素である。
【0004】
従来より用いられてきた量子もつれ光子対を発生する手法の一つは、2次非線形光学媒質中での自然パラメトリック下方変換を用いる方法である。
【0005】
特許文献1には、BBO(β−BaB2O4)結晶を用いた量子もつれ光子対発生装置が記載されている。ここでは、2つのBBO結晶を直列に配置し、その中心に1/2波長板を配置する。これに直線偏波で波長351.1nmの励起光(ポンプ光)を入力する。自然パラメトリック下方変換過程により、それぞれのBBO結晶から、励起光波長の2倍の波長(702.2nm)の相関光子対(シグナル光(信号光)、アイドラー光と呼ばれる)が出力される。励起光強度が十分弱く、これら相関光子対が2つのBBO結晶の両方から同時に発生する確率は低く、どちらか一方から発生するとした場合、この装置から発生する相関光子対の状態は、一方のBBO結晶から発生される相関光子対の状態と、もう一方のBBO結晶から発生される相関光子対の状態との重ねあわせで与えられる。これら2つのBBO結晶から出力される相関光子対は、2つのBBO結晶の間に1/2波長板を配置し、励起光入力端に近い前段のBBO結晶から発生した相関光子対の偏波が装置出力端で90°だけ回転する構成となっているために、偏波直交している。結果、このシステムから、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0006】
上記と類似な構成で波長700nm−800nm帯の量子もつれ光子対を発生させた例が他にも多く報告されている。
【0007】
一方、光ファイバの最小吸収損失波長帯である、波長1550nm帯の量子もつれ光子対を発生できれば、量子情報通信システムの長距離化が期待でき、非常に有用である。
【0008】
特許文献2には、同じく2次非線形光学媒質の一種である、周期的分極反転LiNbO3(Periodically Poled LiNbO3、以下、PPLNと略する)導波路を用いた、波長1550nm帯での量子もつれ光子対発生装置が記載されている。ここでは、2つのPPLN導波路と偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いたファイバーループ構造を有している。2つのPPLN導波路は光学軸が直交するように配置されている。PBSを介して波長775nmで45°偏光した励起光(フェムト秒パルス)を入力する。特許文献1の場合と同様に、2つのPPLN導波路から、自然パラメトリック下方変換によって波長1550nmのシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。さらにまた、特許文献1の場合と同様に、励起光強度が十分弱く、これら相関光子対が、両方のPPLN導波路から同時に発生せず、どちらか一方から発生すると、この装置から偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0009】
また、非特許文献1には、PBSと単一のPPLN素子を用いた波長1550nm帯量子もつれ光子対発生装置について記載されている。ここでは、PBSとPPLN素子を結ぶ偏波保持光ファイバにおいて、その一箇所で90°光軸変換箇所が設けられている(これはファイバ融着などによって容易に実現できる)。PBSを介して波長776nmで45°偏光した励起光を入力する。PPLN導波路から、自然パラメトリック下方変換によって波長1542nm及び1562nmのシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。励起光強度が十分弱い場合、これら相関光子対はループを時計回りに伝播する励起光か、ループを反時計回りに伝播する励起光のどちらか一方からしか発生しないとすると、装置から発生する相関光子対の状態は、ループを時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播し、時計回り成分とは偏波直交した相関光子対の重ね合わせ状態となる。つまりこの装置から偏波量子もつれ光子対が発生される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−228091
【特許文献2】特開2005−258232
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】”Stable source for high quality telecom−band polarization−entangled photon pairs based on a single, pulse−pumped, short PPLN waveguide” H.C.Lim, A.Yoshizawa, H.Tsuchida, and K.Kikuchi, Optics Express, vol.16, No,17, pp.12460−12468, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の技術において、2次非線形光学媒質中での自然パラメトリック下方変換(Spontaneous Parametric Down Conversion、以下、SPDCと略することもある)に基づいてシグナル光、アイドラー光の相関光子対を発生させ、また、それに基づいて量子もつれ光子対発生装置を構成しようとした場合、その装置構成上で、SPDC過程を生じさせる2次非線形光学媒質とともに、発生させるもつれ光子対の波長のおよそ半分の波長の励起光源が必須の構成要素であった。つまり、例えば、光ファイバ通信で利用されるのに適した波長帯である、波長1550nm帯の量子もつれ光子対発生装置を実現しようとした場合、波長775nm帯の励起光源がその構成要素として必須であった。
【0013】
この場合、下記のような課題がある。
【0014】
特許文献2や非特許文献1に記載の方法において、量子もつれ光子対発生装置を実現する場合、偏光ビームスプリッタ(PBS)は、波長775nm帯とその2倍波長の波長1550nm帯という、大きく異なる波長帯でともに動作する“特別に設計された”光部品である必要がある。
【0015】
さらにまた、PBSやPPLN素子、装置外部への光出力のための光ファイバなどの各種光部品の光結合のために、光学レンズなどの光結合部晶が必要となるが、これら光学レンズなどもまた、波長775nm帯及び1550nm帯の双方で光結合が得られるような焦点距離の設計など、特殊な部品設計が必要となる。また、反射防止のための無反射コートもその両波長で対応する必要が生じる。
【0016】
すなわち、従来技術においては、波長がおおよそ2倍異なる励起光、相関光子対の両方で動作する特殊な光部品を用意する必要があった。このことは、装置の作製コストが増加する一因となる。
【0017】
さらにまた、一般的に言えば、大きく波長の異なる光に対して同等な特性が得られる設計は、その一方にのみ最適化された設計ほどの良好な特性は期待できない。具体的に言えば、例えばPBSにおける偏波消光比や、レンズ系の結合効率などで、一方の波長(例えば1550nm帯)で最適な特性が得られるように用意された設計に比べれば、特性的には劣ることになる。つまりその分、PPLN素子への励起光入力や、相関光子対の出力などにおいて、過剰損失の増加などを犠牲にした装置設計となる。
【0018】
一方、量子もつれ光子対を用いた量子情報通信システムは、タイムスロット当りの平均光子(対)数が1以下の、ごく微弱光(単一光子(対)、あるいはそれ以下に近い状態)を扱うシステムであり、ゆえにこのような過剰損失等が多く見込まれるシステム構成は、システム性能を阻害し、好ましいものではない。
【0019】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、その目的とする所は、特殊な光部品を用いることなく一般的で簡便な光部品を用いて、余分な過剰損失等の発生なく、高純度な量子もつれ光子対を発生することができる、量子もつれ光子対発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の量子もつれ光子対発生装置は、(1)偏波保持のループ光路と、(2)第1のループ外光路からの入力励起光を互いに直交する偏波成分である第1の分波励起光と第2の分波励起光とに分岐し、上記第1の分波励起光を上記ループ光路へ時計回りに伝播するように入力すると共に、上記第2の分波励起光を上記ループ光路へ反時計回りに伝播するように入力する励起光分波入力手段と、(3)上記ループ光路に介在された2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質であって、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の分波励起光に対する第1の光第2高調波を発生させ、かつ、この第1の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第1の自然パラメトリック下方変換光を発生させると共に、上記ループ光路を反時計回りに伝播する上記第2の分波励起光に対する第2の光第2高調波を発生させ、かつ、この第2の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第2の自然パラメトリック下方変換光を発生させる2次非線形光学媒質と、(4)上記ループ光路を時計回りに伝播している上記第1の自然パラメトリック下方変換光と、上記ループ光路を反時計回りに伝播している上記第2の自然パラメトリック下方変換光とを合波し、合波光を第2のループ外光路へ出力する変換光合波出力手段と、(5)上記変換光合波出力手段における上記第2のループ外光路への合波出力を実行させるように、上記第1分波励起光、上記第2分波励起光、上記第1の自然パラメトリック下方変換光及び上記第2の自然パラメトリック下方変換光の少なくとも一部について、偏波方向を操作する偏波面操作手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
従って、本発明の量子もつれ光子対発生装置は、上記第1及び第2の光第2高調波と、上記
第1及び第2の自然パラメトリック下方変換光とが、上記ループ光路中に配置された上記2次非線形光学媒質において生成され、ループ光路外に生成箇所を持たない構成となっている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特殊な光部品を用いることなく一般的で簡便な光部品を用いて、余分な過剰損失等の発生なく、高純度な量子もつれ光子対を発生できる、量子もつれ光子対発生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図2】図1の偏波分離合成モジュールの第3入出力端からの励起光の偏波方向と、第1の1/2波長板の光軸方向との関係を示す説明図である。
【図3】図1の偏波分離合成モジュールからの出力光(の種類)の説明図である。
【図4】第1の実施形態を実証する確認実験結果を示す説明図(1)である。
【図5】第1の実施形態を実証する確認実験結果を示す説明図(2)である。
【図6】第1の実施形態に係る変形実施形態(1)の構成を示す構成要素の配置図である。
【図7】第1の実施形態に係る変形実施形態(2)の構成を示す構成要素の配置図である。
【図8】第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図9】図8の非相反偏波面変換部における構成要素の光学軸方向の関係を示す説明図である。
【図10】第2の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図11】第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図12】図11の第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板の光学軸方向の説明図である。
【図13】第3の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図14】第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図15】第4の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【図16】第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【図17】第5の実施形態における、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュールの入出力端を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図である。
【0026】
図1において、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100は、偏波分離合成モジュール101と、偏波分離合成モジュール101の2つの入出力端とを含んで構成されるサニャック干渉計形の光ループLPと、この光ループLPの光路中に設置された第1の2次非線形光学媒質102及び第1の1/2波長板103とを少なくとも備えている、さらにまた、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100は、励起光を上記光ループLPの光路中に入力し、また、上記光ループLPから出力される所望とする量子もつれ光子対波長成分のみを選択的に抽出して出力するための光入出力用光部品として、光サーキュレータ104、光ローパスフィルタ105及びWDM(波長分割多重化;wavelength division multiplexing)フィルタ106を備えている。
【0027】
光ループLPは、好ましくは偏波保持光学系で構成されるのが望ましい。そのために、光ループLPを構成する偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、第1の1/2波長板103の光学軸の関係は、後述するような特別の配慮を持って構成されている。
【0028】
また、この光ループLPは、各光学部品を光結合レンズのみを用いて空間的に結合することで実現しても良く(すなわち、光ファイバを利用しないで実現しても良く)、また、偏波保持光ファイバが結合されて光モジュールとして提供されているものを用いて構成しても良い。また、偏波保持光ファイバではなく、通常の偏波保持性を有しない光ファイバが結合されている光モジュールを用いた場合でも、適宜偏波面コントローラなどの付加光部品を用いることで、擬似的に偏波保持光学系を構成することでも実現できる。
【0029】
ここで、入力励起光波長をλpであるとする(但し、λpは真空中での波長である)。この波長λpは、所望する量子もつれ光子対波長の近傍の波長とする。すなわち、所望する量子もつれ光子対波長帯が1550nmであるならば、λpは1550nm近傍の値である。
【0030】
第1の2次非線形光学媒質102は、PPLNなどの2次の非線形光学効果を有する非線形光学媒質であり、波長λpの入力励起光を入力すると、その半分の波長(λp/2)の光第2高調波(Second harmonic generation光、以下、SHG光と略する)を発生し、かつ、このSHG光を種光としたSPDC過程により波長λsのシグナル光及び波長λiのアイドラー光の相関光子対を同時空間的に発生するものである(但し、λs、λiはいずれも真空中での波長である)。
【0031】
入力励起光、シグナル光、アイドラー光の波長であるλp、λs、λiは、(1)式のエネルギー保存則に相当する関係を満足する。
【数1】
【0032】
偏波分離合成モジュール101は、光サーキュレータ104の第2出力端104−2と結合する第1入出力端101−1と、第1入出力端101−1に対向する側に第1の2次非線形光学媒質102の一端を結合する第2入出力端101−2と、第1の1/2波長板103の一端を結合する第3入出力端101−3と、第3入出力端101−3に対向する側に備えられた第4入出力端104−4を備えている。なお、第4入出力端101−4は、そこからの光の入出力を行うことはないので、例えば光ファイバピグテール、光コネクタなどの光信号の入出力インターフェイスのための光部品を接続する必要はない(後述する第3及び第5の実施形態も同様である)。その場合において、第4入出力端101−4は、後に詳細に述べる詳細な動作原理の説明のために専ら便宜上設けているだけのものであり、それ自体は第1の実施形態における必須構成要素ではない(なお、後述する第2及び第4の実施形態においては、第4入出力端101−4は必須構成要素である)。
【0033】
図1では、偏波分離合成モジュール101が光ループLPへの分波入力機能と、光ループLPからの光の合波出力機能とを担っているが、これら機能を別の光学部品が担いようにしても良い。
【0034】
光サーキュレータ104は、波長λpの入力励起光を入力するための第1入出力端104−1と、第1入出力端104−1からの入力光を出力すると共に偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1と結合する第2入出力端104−2と、第2入出力端104−2からの入力光を出力する第3入出力端104−3とを備えている。
【0035】
偏波分離合成モジュール101や光サーキュレータ104としては、波長λpの近傍(λs、λiを含む)でそれぞれ所望の動作を保証できるものを用いれば良い。すなわち、その半波長(λp/2)での動作は担保される必要はない。すなわち、波長λpが例えば1550nmであれば、1550nm帯用の偏波分離合成モジュール、光サーキュレータとして一般的に市販されている光部品で良く、特許文献2や非特許文献1で述べているような、λp、λp/2の両波長で動作するような“特殊な”偏波分離合成モジュール等である必要はない。
【0036】
また、以下の説明の便宜のために、偏波分離合成モジュール101へ波長λpの光が入射する場合、入射光の偏波分離合成モジュールの偏波面選択反射面に対する電場ベクトルの振動方向に対応する成分を次のように定義する。すなわち、偏波面選択反射面へ入射する入射光の入射面に平行な方向に電場ベクトルが振動する成分をp成分、入射光の入射面に垂直な方向に電場ベクトルが振動する成分をs成分と呼ぶこととする。
【0037】
そして、偏波分離合成モジュール101においては、第1入出力端101−1から入力されたp偏波成分は、第2入出力端101−2に出力され、第1入出力端101−1から入力されたs偏波成分は、第3入出力端101−3に出力される。また、第2入出力端101−2から入力されたp偏波成分は、第1入出力端101−1に出力され、第3入出力端101−3から入力されたs偏波成分は、第1入出力端101−1に出力される。
【0038】
なお、偏波分離合成モジュール101としては、例えば、市販されている偏光ビームスプリッタの中から好適なものを選んで利用することができる。あるいはまた、上記の説明で想定している薄膜を用いたタイプの偏光ビームスプリッタに限定されず、偏波分離合成モジュール101は、複屈折結晶を用いたいわゆる偏光プリズムを用いたものであっても良い。
【0039】
波長λpの入力励起光は、光サーキュレータ104の第1入出力端104−1に入力され、第2入出力端104−2から出力され、その後、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端10l−1へと入力され、p偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へと出力される。
【0040】
第1の実施形態において、上記の偏波分離された入力励起光のp偏波成分とs偏波成分は、後述する理由によって同じ光強度でなければならない。そのため、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力される励起光は、p偏波成分強度とs偏波成分強度の強度比が1:1であるように偏波調整されていなければならない。このように用意された入力励起光を、本願明細書では「45°偏波の励起光」と呼ぶ。このような励起光を用意するには、例えば、光サーキュレータ104の第1入出力端104−1の手前に偏波面コントローラを用意し、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力される励起光の偏波状態を、偏波分離合成モジュール101におけるs偏波方向から45°だけ傾いた直線偏波となるように調整すれば良い。
【0041】
第1の1/2波長板103は、波長λpの光に対してその直交光軸間での光位相差がπとなる、いわゆる1/2波長板として動作するものである。以後、特に断りのない限り、「1/n波長板」(n=2,3,4,…)と呼んだ場合の波長(λ)は励起光波長λpのことを指す。
【0042】
第1の1/2波長板103の光軸方向は、図2に示すように用意されている。すなわち、偏波分離合成モジュール101において、第3入出力端101−3から出力された入力励起光の偏波方向(s偏波)に対して、光軸方向が45°だけ回転している。すなわち、第3入出力端101−3から出力された入力励起光は、第1の1/2波長板103を通過した後、偏波方向が90°だけ回転してp偏波方向に一致するものとなる。
【0043】
なお、1/2波長板103に代わる構成として、以下のような構成を挙げることができる。すなわち、偏波分離合成モジュール101及び第1の2次非線形光学媒質102として、偏波保持光ファイバを光の入出力端として接続させた構成の部品を採用し、偏波分離合成モジュール101からの偏波保持光ファイバと、第1の2次非線形光学媒質102からの偏波保持光ファイバとを、本来第1の1/2波長板103を介して接続する箇所に、双方の偏波保持光ファイバの互いの光学軸(slow軸、fast軸)を90°だけ回転させて融着接続した構成とすることにより、1/2波長板103を使用しなくても、1/2波長板103を使用した場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
第1の実施形態(後述する第2〜第4の実施形態も同様)においては、第1の2次非線形光学媒質102に入出力する入力励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光は同一偏波方向の直線偏波光(直線偏光光)であると規定する。このようなことは、例えば、第1の2次非線形光学媒質102としてPPLNを用いた場合、PPLNの2次非線形光学定数のd33成分を、SHG発生、SPDC発生に利用し、そのためにPPLN結晶のz軸方向に偏波した励起光を入力することで実現することができる。
【0045】
光ローパスフィルタ105は、光サーキュレータ104の第3入出力端104−3からの出力光のうち、第1の2次非線形光学媒質102で発生したSHG光の波長成分(λp/2)を除去するものである。光ローパスフィルタ105の通過光の波長成分は、励起光波長成分(λp)、シグナル光波長成分(λs)、アイドラー波長成分(λi)となる。
【0046】
WDMフィルタ106は、ローパスフィルタ105の通過光のうち、少なくともシグナル光波長成分(λs)、アイドラー波長成分(λi)を別々の光経路に切り分けて出力するものである。このようなWDMフィルタ106としては、少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー波長(λi)を透過波長成分として有する、いわゆるAWG(arrayed waveguide grating)型のWDMフィルタなどを用いることができる。
【0047】
WDMフィルタ106を通過したシグナル光波長成分及びアイドラー波長成分は、例えば、光ファイバ通信網などの光伝送路を経由した後、それぞれ受信者A、受信者Bに送信される。受信者A、受信者Bは同時計測などを実行することで、所望とする量子情報通信技術に基づく情報伝達などを実行する。
【0048】
(A−2)第1の実施形態の動作
以下では、第1の2次非線形光学媒質102としてPPLN結晶を適用し、その2次非線形光学定数のうちd33成分をSHG発生、SPDC発生に利用するとして、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100の動作を説明する。
【0049】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2及び第3入出力端101−3から、それぞれp偏波、s偏波で、同じ強度の励起光(波長λp)が出力される。p偏波方向と、PPLN結晶のz軸方向が一致するように、第1の2次非線形光学媒質102であるPPLN結晶を配置する。
【0050】
まず、光ループLPを時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2からp偏波光として出力される励起光成分)によって生じる過程を説明する。
【0051】
励起光を入力することで、PPLN結晶内でSHG光が発生する。すると、このSHG光を種光としてSPDC過程により、同じPPLN結晶内でシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する。
【0052】
PPLN結晶から出力される励起光、SEG光、シグナル光、アイドラー光(これらは全て同じ偏波方向を有する)は、第1の1/2波長板103を通過する。この際、波長がλp近傍である励起光、シグナル光、アイドラー光は、偏波が90°だけ回転してs偏波となって偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1にs偏波として出力される。
【0053】
一方、波長がλp/2であるSHG光に対しては、第1の1/2波長板103は単に1波長分の位相差を与えるだけなので、偏波回転が生じない。従って、SHG光はp偏波のままで偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1に出力されない。ここであえて言えば、偏波分離合成モジュール101の波長依存性が無視できるならば、SHG光は偏波分離合成モジュール101の第1の実施形態では利用しない第4入出力端101−4に出力される。
【0054】
つまり、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程がともに発現することにより、s偏波のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0055】
次に、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3からs偏波光として出力される励起光成分)によって生じる過程を説明する。
【0056】
励起光はまず、第1の1/2波長板103を通過することで90°だけ偏波回転が生じ、p偏波光となる。
【0057】
その後、第1の2次非線形光学媒質102としてのPPLN結晶に入力するとき、励起光の偏波方向はPPLN結晶のz軸方向と一致する。このループLP内を反時計回りに伝播する励起光が入力されることで、ループ内時計回りに伝播する励起光で生じたのと同様に、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程が順次生じることにより、SPDC相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が発生する。
【0058】
また、第1の1/2波長板103での光損失を無視すると、このときPPLN結晶に入力する励起光強度は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光がPPLN結晶に入力するときの励起光強度と同じである。
【0059】
ここで、PPLN結晶の前後から入力される時計回りの励起光及び反時計回りの励起光の偏波方向が同じで、強度も同じであることから、PPLN結晶が中心対称な構造であれば、PPLN結晶内で発生するSHG光とSPDC相関光子の生成確率は、時計回りの励起光及び反時計回りの励起光に対して同じである。
【0060】
反時計回りの励起光に対してPPLN結晶から出力される励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光(これらは全て同じ偏波方向である)は、p偏波として偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、その結果、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1にp偏波として出力される。
【0061】
つまり、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって、PPLN結晶内でSHG過程とSPDC過程が順次発現することにより、p偏波のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0062】
非特許文献1の記載技術と同様に、励起光強度が十分弱い場合、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、シグナル光とアイドラー光の相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって発生したs偏波の相関光子対か、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって発生したp偏波の相関光子対のどちらか一方となる。すなわち、装置から発生する相関光子対の状態は、光ループLPを時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播し、時計回り成分とは偏波直交した相関光子対の重ね合わせ状態となる。つまり、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100によって、偏波量子もつれ光子対が発生されている。
【0063】
図3は、偏波分離合成モジュール101からの出力光(の種類)を説明する模式図である。図3(A)は、偏波分離合成モジュール101として、薄膜101Rを用いたタイプの偏光ビームスプリッタを用いた場合の各波長の光の入出力関係を模式的に表した図であり、図3(B)は、偏波分離合成モジュール101として、複屈折結晶を用いたいわゆる偏光プリズムを用いた場合の模式図である。
【0064】
偏光ビームスプリッタを用いた場合も偏光プリズムを用いた場合も、第1入出力端101−1からは、所望の偏波もつれ光子対成分(シグナル光、アイドラー光)と共に、光ループLPを時計回り及び反時計回りに伝播した入力励起光成分と、光ループLPを反時計回りに伝播した励起光によって発生したSHG光成分とが出力される。
【0065】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力された各成分は、光サーキュレータ104の第2入出力端104−2に入力され、第3入出力端104−3に出力される。但し、ここでは、光サーキュレータ104の波長依存性を取りあえず無視して記載した。
【0066】
光サーキュレータ104の第3入出力端104−3からの出力光は、光ローパスフィルタ105に入射され、光ローパスフィルタ105を経由することにより、波長λp/2のSHG光成分が除去される。
【0067】
その後、WDMフィルタ106に入射され、シグナル光波長成分(λs)、アイドラー光波長成分(λi)が別々の光経路に切り分けられて出力される。それぞれの光経路に入力励起光波長成分(λp)が混在しないように、WDMフィルタ106には十分な波長分離能力が必要となる。このようなWDMフィルタ106としては、少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー光波長(λi)を透過波長成分として有する、いわゆるAWG型のWDMフィルタなどを用いることができる。また、ブラッグ波長がλpである回折格子型のフィルタ、例えば、ファイバブラッググレーティングなどと組み合わせて励起光波長成分を十分抑制した構造とすることもできる。
【0068】
WDMフィルタ106を通過したシグナル光波長成分及びアイドラー波長成分はそれぞれ、光ファイバ通信網などの光伝送路を経由した後、それぞれ受信者A、受信者Bに送信される。受信者A及び受信者Bは同時計測などを実行することで、所望とする量子情報通信技術に基づく情報伝達などを実行する。
【0069】
以上のように、第1の実施形態においては、SPDC過程の種光となる波長λp/2のSHG光は、光ループLPの光路の外部から供給する必要はなく、光ループLPの光路中に配置された第1の2次非線形光学媒質102内で自生する。そして、このSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102内以外では不要な光成分である。すなわち、第1の2次非線形光学媒質102以外の光部品では、それを損失なく伝播させたり、あるいは、光部品に光学的に接続させたりする必要がない。その結果、偏波分離合成モジュール101や光サーキュレータ104などは、波長λp近傍で所望の動作を実行するもので良く、波長λp/2で動作する必要がないため、従来技術のような特殊な光部品を用いる必要がない。この点は、第1の2次非線形光学媒質102内へ励起光を入力するためのレンズ系などの結合光学系に関しても言え、すなわち、波長λp/2及び波長λpの双方で動作する結合光学系である必要はなく、波長λpでのみ動作する結合光学系で良い。その結果、装置作製コストが低下すると共に、過剰な光損失などを低減でき、より高純度な量子もつれ状態を実現することができる。
【0070】
さらに言えば、波長λp/2のSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102内以外では不要な光成分であるため、偏波分離合成モジュール101や結合光学系で多大な光損失を受けてもなんら問題はなく、むしろその場合、後段の光ローパスフィルタ105で必要とされるSHG光成分除去のためのフィルタ透過特性への負荷が小さくなり、望ましい。
【0071】
第1の2次非線形光学媒質102としては、所望の量子もつれ光子対の波長に応じて、LiNbO3結晶やPPLN結晶などのバルク結晶や、それに光導波路構造を作り込んだPPLN導波路など様々な2次非線形光学媒質を利用できる。波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置の場合、前述の特許文献2や非特許文献1で記載されているようなLiNbO3結晶は、その代表的な例である。
【0072】
一方、第1の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100を実現するに当たっては、第1の2次非線形光学媒質102内でのSHG発生とSPDC発生を高効率に実行することが、産業応用上特に重要である。そのためにはSHG発生過程とSPDC発生過程のそれぞれにおける、入力励起光とSHG光との位相整合条件、さらには、SHG光とシグナル光との位相整合条件、SHG光とアイドラー光との位相整合条件が重要である。
【0073】
バルク結晶を用いた場合、角度整合を用いた位相整合を用いるのが一般的であるが、この場合、特許文献1などにも示されるように、シグナル光とアイドラー光との空間的分離により、量子もつれ状態の純度が劣化することがある。
【0074】
一方、強誘電体の周期的分極反転構造など、2次非線形光学係数が空間的に変調された構造を用いると、角度整合に依らず擬似的な位相整合条件を実現することができるメリットがある。
【0075】
さらにまた、光導波路構造を作り込んだ2次非線形光学媒質では、上記のような空間分離による量子もつれ状態の純度劣化を改善できると共に、強い光閉じ込めによる実効的な2次非線形光学係数の増加により、SHG発生、SPDC発生確率を増加できるメリットがある。
【0076】
上記の理由から、波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置100を構成する第1の2次非線形光学媒質102としては、PPLN導波路が最適な一例である。
【0077】
PPLN導波路におけるSHG発生過程、SPDC発生過程におけるエネルギー保存則、運動量保存則(すなわち、位相整合条件)は(2)式〜(5)式のようになる。波数及び波長は、PPLN導波路内での実効屈折率nを介して(6)式の関係がある。
【数2】
【0078】
(2)式及び(4)式はエネルギー保存則に基づく各光成分の波長の関係を表している。すなわち、SHG光は入力励起光の半分の波長であり、また、このSHG光を種光として生成するシグナル光、アイドラー光の光周波数(=c/λ、cは真空中での光速)の和は、SHG光の光周波数に等しく、同時にまた入力励起光の光周波数の半分に等しいことを意味する。
【0079】
(3)式及び(5)式が位相整合に関わる式である。励起光波長λpと、PPLN導波路形状から実効屈折率np、nSHGが決定されれば、(3)式及び(6)式に基づいて分極反転周期Λが決定される。
【0080】
シグナル光、アイドラー光の波長が異なるとした場合(λs≠λp、λi≠λp)、一般に(3)式及び(5)式は両立しない。つまり、SHG過程とSPDC過程の位相整合条件は一般には両立しない。
【0081】
よく知られた非線形光学効果を記述する結合モード方程式の解から、位相不整合の場合、発生確率は{sin2(δL/2)}/(δL/2)2に比例して低下していくと考えられる。ここで、δは(7)式で表されるSPDC過程における位相不整合量、LはPPLN導波路長である。
【数3】
【0082】
発生確率の低下が最大値(位相整合下の値)の50%までを、仮に許容不整合量と仮定すると、{sin2(δL/2)}/(δL/2)2=0.5から≒2.78となる。これがSPDC過程において生じる相関光子対の波長帯域を制限する。すなわち、相関光子対として発生するシグナル光及びアイドラー光の波長範囲を決定する。
【0083】
また、実効屈折率の波長変化が励起光波長近傍でほぼ線形である場合、すなわち励起光波長近傍での実効屈折率が(8)式で表される範囲では、(4)式、(6)式及び(8)式を用いて、(9)式が得られ、すなわち、この範囲で位相整合条件の(3)式及び(5)式は両立する。
【数4】
【0084】
以上の検討から、第1の実施形態の量子もつれ光子対発生装置100を実現するためには、まず、SHG発生の位相整合条件である(3)式を満足するようにPPLN導波路の分極反転周期Λを決定すれば良いことが分かる。その結果、(5)式で示すSPDC発生過程における位相整合を満足するか、少なくとも許容範囲のうちの位相不整合量内にある波長組み合わせ(λs、λi)の相関光子対がSPDC過程に基づいて発生し、その結果、所望する量子もつれ光子対が発生できるものと期待できる。
【0085】
第1の実施形態を実証するための、基礎的な確認実験を行った。すなわち、PPLN導波路に1.55ミクロン帯の励起光を入力したとき、SHG発生過程とSPDC発生過程が生じて、1.55ミクロン帯のシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生することを確認した。
【0086】
実験に用いた素子は、MgOをドープした化学量論的組成のLiNbO3基板に、周期的分極反転構造を施し、またプロトン交換とダイシングによるリッジ形状加工により光導波路構造を形成したPPLN導波路素子である。
【0087】
素子の長さは6cm、またリッジ幅は約10ミクロンとした。また、分極反転周期(Λ)は約19.3ミクロンとした。この値は、(3)式のSHG光に対する位相整合を満足する励起光波長λp(以下、QPM波長と呼ぶ)が1551nmとなるような値として設計した。
【0088】
素子の伝播ロスは、1550nm帯の光に対しておおよそ0.1dB/cmであった。
【0089】
実験は、上記のPPLN導波路素子を、温度制御素子(ペルチェクーラー)や結合レンズ、光入出力のための光ファイバ等と共に光モジュール化したPPLNモジュールを用いて行った。モジュールの挿入損失は1550nm帯の光に対しておおよそ3.8dBであった。
【0090】
PPLNモジュールに、波長1550nm近傍の連続光を入力し、モジュール入力前後での光スペクトルの変化を観測した。
【0091】
図4(A)に結果を示す。図4(A)において、細い実線は入力時の光スペクトル、太い実線は出力時の光スペクトルを示す。この実験においては、素子温度が29.2℃に一定になるように制御した。また、入力励起光波長は、この素子温度でのQPM波長に相当する、1550.9nmとした。また、モジュールへの入力光強度は+21.3dBmとした。
【0092】
図4(A)の結果から分かるように、出力スペクトルにおいて、励起光波長(λp、今回の場合1550.9nm)周りに広がった連続的な光スペクトルが観測され、SPDC過程によるシグナル光、アイドラー光の発生が確認できた。スペクトルは励起光波長を中心に左右対称に広がっており、このことから、シグナル光、アイドラー光は同等にPPLN導波路内に閉じ込められ、また、光取り出し口である光ファイバから出力されていることが分かる。
【0093】
一方、図4(B)は、モジュールに入力する励起光の条件は変えずに、PPLN導波路素子の制御温度を35.0℃一定に変化させたときのモジュールからの出力光スペクトルである。この場合、出力光スペクトルの形状は、入力光スペクトルの形状とほぼ同じであった。
【0094】
この実験条件では、入力励起光波長は、素子のQPM波長からおおよそ0.8nm短波長側にずれており、すなわち、SHG光に関する位相整合条件の(3)式から大きく乖離した状態にあり、すなわち、SHG光がほとんど発生しない。
【0095】
すなわち、図4(B)に示す結果は、SHG発生の過程を経なくては、SPDC発生も生じないことを意味する。
【0096】
逆に、図4(A)に示す結果は、入力励起光波長がQPM波長と一致し、PPLN導波路素子内でSHGが発生すれば、それを種光としてSPDC過程が生じることを意味し、言い換えると、第1の実施形態で必要とする、2次非線形光学媒質中でSHGが発生し、かつ、それを種光としてSPDC過程によりシグナル光、アイドラー光の相関光子対が発生する過程が確かに生じていることを意味する。
【0097】
図4(A)に示す結果から、SPDC相関光子対の発生帯域は、片側3dB幅で約32nm(4THz)、片側10dB幅で約54nm(7THz)と見積もられ、広範囲なスペクトル形状が観測された。
【0098】
また、光スペクトルを積分することにより、SPDC過程による発生光子数を見積もった。発生光子数は、シグナル光(又はアイドラー光)に相当する短波長側成分(1491nm−1549nm)で1.540×1011(/s)、アイドラー光(又はシグナル光)に相当する長波長側成分(1552.8nm−1615.8nm)で1.454×1011(/s)と見積もられた。両者の値はよく一致した。これは、導波路構造のために、生成したシグナル光、アイドラー光がともに漏れなくPPLN導波路内に閉じ込められ、また、光取り出し口である光ファイバから出力されるためと考えられる。
【0099】
図5は、図4(A)と同じPPLN導波路素子温度、励起光波長条件の元で測定した、PPLNモジュールからのカスケード自然パラメトリック下方変換特性の実験結果を示す説明図である。図5(A)は、波長775.45nmのSHG光強度の入力励起光強度依存性の実験結果を示し、図5(B)は、シグナル光(短波長成分)光子及びアイドラー光(長波長成分)光子の総光子数の入力励起光強度依存性の実験結果を示している。
【0100】
両者は共に入力励起光強度の2乗に比例した結果を示した。これは以下のように理解できる。すなわち、SHG光は、励起光(基本光)の減衰がない範囲では、その発生強度は基本光強度の2乗に比例する。また、SPDC過程の発生確率は、種光であるSHG光強度に比例し、すなわち、励起光強度の2乗に比例する。
【0101】
すなわち、図5に示す結果は、今回観測されたシグナル光、アイドラー光が、確かにSHG発生からSPDC発生への過程を経て生じたものであることを意味している。
【0102】
なお、この実験で用いたPPLNモジュールで用いられている結合レンズ、入出力用光ファイバ等は、全て長波長(1.5ミクロン帯)用の光学部品であり、短波長(0.78ミクロン帯)での用途には全く考慮したものではない。それゆえ、本実験の結果は、長波長用の光学部品で装置全体を構成できるという、本発明で目的とする効果をも実証している。
【0103】
すなわち、図4及び図5に示した基礎的な確認実験の結果から、ここで用いたようなPPLN導波路素子を用いて図1に示す量子もつれ光子対発生装置100を作製すれば、所望する波長1.5ミクロン帯の量子もつれ光子対発生装置を実現できることが明らかとなった。
【0104】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下の効果が期待できる。すなわち、従来技術と異なり、SPDC過程の種光となる波長λp/2のSHG光を、偏波分離合成モジュールを両端とする光ループ光路の外部から供給することなく、光ループ光路中に配置されSDPC過程を生じさせる第1の2次非線形光学媒質102自身で発生させる。ここで発生させたSHG光は、第1の2次非線形光学媒質102以外の光部品で不要な成分であり、すなわち、その他の装置構成部品において、それを損失なく伝播させたり、あるいは、光部品に光学的に接続させたりする必要がない。その結果、装置を構成する、偏波分離合成モジュール、結合レンズなどの光学部品において、波長λp、λp/2での両方で動作する特殊な光部品を用いる必要がない。その結果、装置作製コストが低下すると共に、過剰な光損失などを低減でき、より高純度な量子もつれ状態を生成することができる、量子もつれ光子対発生装置を提供できる。
【0105】
(A−4)第1の実施形態の変形実施形態
第1の実施形態に対し、励起光や量子もつれ光子対の入出力形態を変形した実施形態を種々上げることができる。
【0106】
図6は、光サーキュレータを用いない構成の変形実施形態を示しており、図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0107】
図6に示す量子もつれ光子対発生装置100Aにおいては、WDMフィルタ106としてAWG(以下、この変形実施形態の説明においてAWGに対して符号106を付与して説明する)を用いている。少なくともシグナル光波長(λs)、アイドラー波長(λi)及び励起光波長(λp)の3波長を透過波長成分として有するAWG106を用いている。
【0108】
AWG106においては、その透過波長に相当する波長の光を入力する、複数の透過光入出力ポートと、それぞれの透過光入出力ポートに入力された光を合波出力する共通入出力ポートとを有する。逆に、共通入出力ポートに入力された光は、それぞれの波長に応じて分波され、それぞれの透過波長に相当する透過光入出力ポートへと分波出力される。
【0109】
AWG106の上記のような特性を利用して下記のような構成をとる。すなわち、励起光波長を透過波長としている透過光入出力ポートへ励起光を入力し、共通入出力ポートからの出力光を偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力し、第1の実施形態の場合と同様にして、励起光を第1の2次非線形光学媒質102へ双方向に入力する。
【0110】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、光ループLPからの出力光は、AWG106の共通入出力ポートへ入力され、シグナル光、アイドラー光がそれぞれ対応する透過光入出力ポートへ入力され、この段階で励起光波長成分は除去される。さらに、SHG波長成分を除去するために、必要であればシグナル光、アイドラー光の透過光入出力ポートに光ローパスフィルタ105−s、105−iを接続して、SKG光波長成分を除去する。
【0111】
図7は、光サーキュレータを用いない構成の他の変形実施形態を示しており、図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0112】
図7に示す量子もつれ光子対発生装置100Bにおいては、波長λpの波長成分のみを選択的に透過(あるいは反射)する狭帯域な光バンドパスフィルタ108を用いる。ここで、シグナル光及びアイドラー光の波長は、光バンドパスフィルタ108の透過(又は反射)帯域に掛からないように、励起光波長λpから十分離れているものとする。
【0113】
図7では、反射型光バンドパスフィルタ108を示している。光バンドパスフィルタ108の反射特性を利用して、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ波長λpの励起光を入力する。偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される、光ループLPからの出力光のうち、励起光波長成分は反射型光バンドパスフィルタ108で反射され、その透過ポートへは出力されない。この段階で励起光波長成分は除去される。さらに、SHG波長成分を除去するために、光ローパスフィルタ105を接続して、SHG光波長分を除去する。その後、WDMフィルタ106に接続して、シグナル光、アイドラー光をそれぞれ分離出力する。
【0114】
(B)第2の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0115】
(B−1)第2の実施形態の構成
図8は、第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0116】
図8において、第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cは、第1の実施形態で用いた第1の1/2波長板103に代えて、ファラデー回転子と1/2波長板とからなる2組の非相反偏波面変換部(光学部品のペア)211、212を用いている。第1の実施形態で用いた光サーキュレータ104は、この第2の実施形態では使用されていない。
【0117】
第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cは、第1の実施形態で述べた基本的な動作を実行できることを保証しつつ、入力励起光と所望する量子もつれ光子対とを、偏波分離合成モジュール100のそれぞれ異なる入出力端を介して入出力し得るようにしたものである。
【0118】
第1の非相反偏波面変換部211は、第1のファラデー回転子207と第2の1/2波長板208とを縦続接続したものであり、第1の非相反偏波面変換部211は、光ループLP上の偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3と第1の2次非線形光学媒質102との間の位置に介挿されている。第2の非相反偏波面変換部212は、第2のファラデー回転子209と第3の1/2波長板210とを縦続接続したものであり、第2の非相反偏波面変換部212は、光ループLP上の偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第1の2次非線形光学媒質102との間の位置に介挿されている。
【0119】
各ファラデー回転子207、209はそれぞれ、波長λpの励起光に対して45°だけ偏波回転させるファラデー回転子であり、各1/2波長板208、210はそれぞれ、第1の実施形態で用いた第1の1/2波長板103と同様に、波長λpの励起光に対していわゆる1/2波長板として動作するものである。
【0120】
第1の非相反偏波面変換部211及び第2の非相反偏波面変換部212は同一構成のものである。各非相反偏波面変換部211、212における構成要素の光学軸方向の関係は、図9に示すように調整されている。なお、図9は、第1の非相反偏波面変換部211における構成要素の光学軸方向の関係を示しているが、第2の非相反偏波面変換部212においても同様である。
【0121】
第1の非相反偏波面変換部211において、第1のファラデー回転子207側あるいは第2の1/2波長板208側から、ある特定の偏波方向の直線偏波の励起光が入力する。動作の項で詳述するが、この特定偏波方向は、偏波分離合成モジュール101におけるp偏波方向若しくはs偏波方向の一方に一致する。第2の1/2波長板208の光学軸は、この特定偏波方向(図9ではp偏波方向として図示されている)と22.5°の角をなすように調整されている。
【0122】
偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、光ローパスフィルタ105及びWDMフィルタ106は、第1の実施形態のものと同様に機能するものであり、その機能説明は割愛する。
【0123】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第2の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Cの動作を説明する。
【0124】
第1の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0125】
以下では、まず、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力され、光ループLPを反時計回りに巡回する励起光に対する操作を説明する。
【0126】
偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力されたs偏波の励起光は、第1の非相反偏波面変換部211を通過する。このときの第1の非相反偏波面変換部211内における偏波状態の変化を、図9(A)を参考にして説明する。
【0127】
図9(A)において、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ出力されたs偏波の励起光を、右向きの矢印で表している。このs偏波励起光が第1のファラデー回転子207を通過する。第1のファラデー回転子207を通過することによって、図中反時計回りに45°の偏波回転が生じる。その結果、第1のファラデー回転子207からの出力光の偏波方向は、右斜め上45°向きの矢印で表される。このような偏波方向を有する第1のファラデー回転子207からの出力光が第2の1/2波長板208を通過する。第2の1/2波長板208の偏波方向(光学軸)は、特定偏波方向(p偏波方向)と22.5°の角をなしている。第2の1/2波長板208に入力する光の偏波方向は、p偏波方向に対して45°の傾きを有するため、第2の1/2波長板208の光学軸に対しては22.5°の角を有し、その結果、第2の1/2波長板208からの出力光の偏波方向は上向き矢印の方向で表すことができる。
【0128】
このことは、第2の1/2波長板208を通過して出力された励起光の偏波方向がp偏波方向となっていることを意味する。すなわち、第1の非相反偏波面変換部211内を、第1のファラデー回転子207、第2の1/2波長板208の順番で通過した励起光は、偏波方向が反時計回りに90°だけ回転される。なお、このような偏波方向の回転は、第2の非相反偏波面変換部212でも同様である。このような回転は、1/2波長板の光学軸が、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°の角をなすように調整されているときに生じる。
【0129】
第1の非相反偏波面変換部211から出力された励起光は、第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、第1の実施形態の場合と同様に、励起光の偏波方向(p偏波)と同じ直線偏波のSHG光及びSPDC相関光子対が発生される。
【0130】
励起光、並びに、第1の2次非線形光学媒質102で発生されたSHG光及びSPDC相関光子対は、第2の非相反偏波面変換部212に入力される。このとき、励起光、並びにそれと波長が近いSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過した場合と同様に、第2の非相反偏波面変換部212を通過することで、偏波方向が反時計回りに90°だけ回転される。この場合、入力状態はp偏波であったから、第2の非相反偏波面変換部212を通過した後ではs偏波に変換されている。
【0131】
その後、光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対は、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、偏波状態がs偏波であることから、第4入出力端101−4へ出力される。すなわち、偏波分離合成モジュール101に最初に励起光が入力された入出力端(101−1)とは異なる入出力端(101−4)から、励起光及びSPDC相関光子対が出力される。
【0132】
次に、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力され、光ループLPを時計回りに巡回する励起光に対する操作を説明する。
【0133】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力されたp偏波の励起光は、第2の非相反偏波面変換部212を、第3の1/2波長板210、第2のファラデー素子209の順番に通過する。このときの偏波状態の変化を、図9(B)を参照しながら説明する。図9は、第1の非相反偏波面変換部211について示しているが、上述したように、第2の非相反偏波面変換部212についても同様であり、図9における符号「207」を符号「209」と、符号「208」を符号「210」と置き換えて見れば、図9は、第2の非相反偏波面変換部212を表している図面と見ることができる。
【0134】
図9(B)において、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力された励起光はp偏波であるから、図中上向きの矢印で表す。このp偏波励起光が第3の1/2波長板210を通過する。第3の1/2波長板210への励起光の偏波方向は、第3の1/2波長板210の光学軸と22.5°の角をなしているため、その結果、第3の1/2波長板210の出力光の偏波方向は右斜め上45°向き矢印の方向で表すことができる。次に、第2のファラデー回転子209を通過するとき、反時計回りに45°だけ回転するため、その結果、第2のファラデー回転子209の出力光の偏波方向は上向き矢印の方向で表すことができる。すなわち、第2の非相反偏波面変換部212を通過してもp偏波のままである。
【0135】
以上のように、第2の非相反偏波面変換部212内を、第3の1/2波長板210、第2のファラデー回転子209の順番で通過した励起光は、偏波方向が回転されない。このような無回転は、第1の非相反偏波面変換部211でも同様である。この無回転は、1/2波長板の光学軸が、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°の角をなすように調整されているときに生じる。
【0136】
以上から明らかなように、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力され、第2の非相反偏波面変換部212を通過した励起光は、p偏波の励起光として、第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の実施形態と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ直線偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0137】
励起光、並びに、発生されたSHG光及びSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過する。励起光、並びにそれと波長が近いSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211を通過しても、偏波状態はそのままに(p偏波)である。
【0138】
その後、この光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対は、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、偏波状態がp偏波であることから、第4入出力端101−4へ出力される。最初に励起光が入力された入出力端(101−2)とは異なる入出力端(101−4)から、励起光及びSPDC相関光子対が出力される。
【0139】
すなわち、第1の実施形態と同様に、偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0140】
光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対が出力される偏波分離合成モジュール101の入出力端(101−4)は、上述した光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対が出力される入出力端と同一である。一方、偏波分離合成モジュール101の第4の入出力端101−4から出力された光ループLPを時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対の偏波方向と、偏波分離合成モジュール101の第4の入出力端101−4から出力された光ループLPを反時計回りに伝播してきた励起光及びSPDC相関光子対の偏波方向とは直交している。
【0141】
次に、第1の2次非線形光学媒質102において発生し、第1の2次非線形光学媒質102から出力されたSHG光が、第1の非相反偏波面変換部211、第2の非相反偏波面変換部212を通過するときの偏波状態を説明する。第2及び第3の1/2波長板208及び210は、SHG光に対しては1波長板であるので、この1/2波長板(208、210)を通過しても偏波回転も生じない。一方、第1及び第2のファラデー回転子207、209においては、波長が励起光の半分(λp/2)であるため、このファラデー回転子(207、209)を通過することによる偏波回転角は90°となる。
【0142】
つまり、第1及び第2の非相反偏波面変換部211及び212は、SHG光が、当該非相反偏波面変換部を構成しているファラデー回転子及び1/2波長板をどの順番で通過しても90°だけ偏波回転を与える(図9(C)、(D))。
【0143】
図10は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図10に示すように、所望する量子もつれ光子対は、励起光を入力する入出力端(ここでは第1入出力端101−1)とは異なるポート(ここでは第4入出力端101−4)から、光ループLPを時計回り及び反時計回りに伝播した入力励起光成分や、光ループLPを反時計回りに伝播した励起光によって発生したSHG光成分と共に出力される。
【0144】
その後、第1の実施形態と同様に、光ローパスフィルタ105、WDMフィルタ106で余分なSHG光成分や励起光波長成分を除去された上で、シグナル光、アイドラー光成分が分岐出力される。
【0145】
第2の実施形態の構成を、図1に示す第1の実施形態や、図6、図7に示す第1の実施形態に対する変形実施形態の構成と比べれば、次のような違いがある。すなわち、励起光が、元の励起光入力端に逆行して戻っていくことはない。それ故、反射戻り光等による装置の不安定動作の懸念が小さくなる。さらには反射戻り光の懸念がある場合、その解消のための光アイソレータなどの光部品が必要となり、コスト増加や装置の光損失増加などがもたらされるが、それらを除去できる。
【0146】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、以下の効果が期待できる。すなわち、励起光が、元の励起光入力端に逆行して戻っていくことはないため、反射戻り光等による装置の不安定動作の影響を除去でき、結果、コスト増や光損失増加による装置特性劣化を回避できる。
【0147】
(C)第3の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0148】
(C−1)第3の実施形態の構成
図11は、第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0149】
図11において、第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dは、第1の実施形態と同様な構成に加え、偏波分離合成モジュール101と第1の2次非線形光学媒質102とを光学的に接続する2箇所の光路のうち、第1の1/2波長板103が挿入されない側の光路に、偏波面変換部314を設けたものである。偏波面変換部314は、第4の1/2波長板311、1/4波長板312、第5の1/2波長板313を縦続接続したものである。
【0150】
第4の1/2波長板311、1/4波長板312、第5の1/2波長板313の光学軸方向は、図12に示すように選定されている。
【0151】
偏波面変換部314には、ある特定の偏波方向の直線偏波の励起光が入力される。後述するように、この特定偏波方向とは、偏波分離合成モジュール101におけるs偏波方向か、p偏波方向の一方に一致する。第4の1/2波長板311及び第5の1/2波長板313の光学軸は、この特定偏波方向(図中ではp偏波方向として図示されている)と22.5°の角をなすように選定されている。一方、1/4波長板312の光学軸は、この特定偏波方向と45°の角をなすように調整されている。
【0152】
偏波分離合成モジュール101、第1の2次非線形光学媒質102、第1の1/2波長板103、光サーキュレータ104、光ローパスフィルタ105及びWDMフィルタ106は、第1の実施形態のものと同様に機能するものであり、その機能説明は割愛する。
【0153】
(C−2)第3の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第3の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dの動作を説明する。
【0154】
第1の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0155】
第3の実施形態の後述する特徴的な効果は、偏波面変換部314における偏波回転の波長依存性によってもたらされる。以下、図12を参照しながら、このことを説明する。
【0156】
図12(A)は、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力された励起光(波長λp)が、偏波面変換部314を通過する際の偏波状態の変化を示している。
【0157】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ出力されたp偏波の励起光(波長λp)を、図中上向きの矢印で表している。この励起光が第4の1/2波長板311を通過する。第4の1/2波長板311の光軸方向は、p偏波方向と22.5°の角をなすように選定されている。そのため、第4の1/2波長板311から出力される励起光の偏波方向は、右斜め上45°向きの矢印で表される。
【0158】
次に、励起光は、1/4波長板312を通過する。1/4波長板312の光軸方向は、p偏波方向と45°の角をなすように配置されている。そのため、1/4波長板312へと入力される励起光の偏波方向は、1/4波長板312の一方の光学軸方向と合致しており、その結果、1/4波長板312を通過してもなんらの偏波回転も生じない。
【0159】
次に、励起光は、第5の1/2波長板313を通過する。第5の1/2波長板313の光軸方向は、p偏波方向と22.5°の角をなすように配置されている。そのため、第5の1/2波長板313から出力される励起光の偏波方向は、反時計回りに45°だけ回転し、すなわち、図中上向きの矢印方向で表される偏波方向の光となって出力される。
【0160】
すなわち、波長λpの励起光が、偏波面変換部314を通過するとき、元の偏波方向(ここではp偏波方向)を保ったまま出力される。このことは、図12(B)に示されるように、励起光が偏波面変換部314に逆側から入力されて出力される場合でも同じである。このような偏波状態の維持は、内部を構成する1/2波長板311、313や1/4波長板312の光学軸方向が、上述したように、p偏波方向あるいはs偏波方向と22.5°並びに45°の角をなすように選定されているときに生じる。
【0161】
次に、光ループを反時計周りに進行する励起光の半分の波長(λp/2)のSHG光が、偏波面変換部314を通過するときの偏波方向の変換の様子を、図12(D)を参照しながら説明する。なお、図12(C)は、時計周りに進行する励起光の半分の波長(λp/2)のSHG光が、偏波面変換部314を通過するときの偏波方向の変換の様子を示しているが、このようなSHG光は不要な反射などで生じたものである。
【0162】
なお、1/2波長板311、313、1/4波長板312は、波長λp/2のSHG光に対してはそれぞれ、1波長板、1/2波長板として動作する。
【0163】
従って、第5の1/2波長板313に入力されたp偏波(上向き矢印)のSHG光はp偏波のまま出力される。
【0164】
次に1/4波長板312を通過するとき、1/4波長板312はSHG光に対しては1/2波長板として動作し、かつ、その光学軸方向が入力偏波方向と45°の角をなすため、その結果、出力光の偏波方向は90°だけ回転している(右向き矢印)。
【0165】
次に、第4の1/2波長板311を通過するときには、なんらの偏波方向の回転も生じない。
【0166】
すなわち、波長λp/2のSHG光が、偏波面変換部314を反時計周りで通過するとき、元の偏波方向(ここではp偏波方向)から90°だけ偏波回転する(s偏波に変換される)。このことは、図12(C)に示されるように、SHG光が逆側から入力されて出力される場合でも同じである。このことは、内部を構成する1/4波長板312の光学軸方向が、上述したように、s偏波方向あるいはp偏波方向と45°の角をなすように設定されているときに生じる。
【0167】
以上の結果をまとめると、次のようになる。すなわち、偏波面変換部314を通過するとき、波長λpの励起光とそれに近い波長のシグナル光及びアイドラー光は偏波回転されないのに対し、波長λp/2のSHG光は90°だけ偏波回転する。このような偏波方向(偏波面)の変換のために、内部を構成する二つの1/2波長板311、313とひとつの1/4波長板312の光学軸方向が、それぞれ、p偏波方向あるいはs偏波方向に対して22.5°並びに45°の角をなすように選定されている。
【0168】
以上の偏波面変換部314の変換動作を踏まえて、第3の実施形態の全体動作を説明する。
【0169】
偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力され、光ループLPを時計回りに伝播する励起光(p偏波)は、偏波面変換部314を通過し、偏波変換されずに(p偏波のまま)第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の2次非線形光学媒質102によって、第1の実施形態の場合と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0170】
第1の2次非線形光学媒質102から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、次に、第1の1/2波長板103に入力され、励起光、SDPC相関光子対は90°だけ偏波回転されてs偏波になるのに対し、SHG光はp偏波のままである。その後、これらは偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3に入力され、偏波状態がs偏波である励起光、SPDC相関光子対は第1入出力端101−1に出力されるのに対し、偏波状態がp偏波であるSHG光は第4入出力端101−4へ出力される。
【0171】
一方、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力され、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光(s偏波)は、第1の1/2波長板103において90°だけ偏波回転してp偏波へ変換され、第1の2次非線形光学媒質102に入力される。その結果、第1の2次非線形光学媒質102によって、第1の実施形態と同様に、励起光の偏波(p偏波)と同じ偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。
【0172】
第1の2次非線形光学媒質102から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、次に、偏波面変換部314へ入力され、励起光、SDPC相関光子対は偏波回転されずにp偏波のまま出力されるのに対し、SHG光は90°だけ偏波変換されてs偏波として出力される。その後、これらは偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2に入力され、偏波状態がp偏波である励起光、SPDC相関光子対は第1入出力端101−1に出力されるのに対し、偏波状態がs偏波であるSHG光は第4入出力端101−4へ出力される。
【0173】
ここで、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力されるSPDC相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光によって発生したものはs偏波であるのに対し、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光によって発生したものはp偏波であるから、第1の実施形態と同様に、偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から、偏波量子もつれ光子対が発生される。
【0174】
図13は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図13に示すように、光ループLPを伝播した励起光、並びに所望とする量子もつれ光子対(シグナル光、アイドラー光)は、励起光を入力する入出力端と同じ入出力端(ここでは第1入出力端101−1)から出力されるのに対し、SHG光成分は光ループLPの伝播方向に関わらず第4入出力端101−4へ出力される。
【0175】
すなわち、所望する量子もつれ光子対とSHG光とは、偏波分離合成モジュール101の異なる入出力端に出力され、同一の入出力端に出力されることはない。それ故、第1及び第2実施形態と異なり、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105を原理的には必要としない構成となる。但し、所望する量子もつれ光子対及びSHG光の入出力端に漏れたSHG光除去のための光ローパスフィルタ105を残すようにしても良い。
【0176】
また、図示は省略するが、励起光や量子もつれ光子対の入出力形態に関しては、第3の実施形態に対しても、第1の実施形態の変形実施形態(図6、図7参照)として挙げたと同様な変形実施形態を上げることができる。すなわち、WDMフィルタ106として用いるAWGフィルタの双方向入出力特性を利用した構成(図6)や、光バンドパスフィルタ107を利用した構成(図7)を変形実施形態としてあげることができ、このような変形実施形態も、第3の実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0177】
(C−3)第3の実施形態の効果
第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態の効果に加えて、以下の効果が期待できる。すなわち、原理的にはSHG光除去用の光ローパスフィルタ105が不要となる。また現実には、偏波分離合成モジュール101でのSHG光に対する偏波消光比が不十分であっても(本件では、偏波分離合成モジュール101は長波長の励起光及びSPDC相関光子対に最適化した回路を想定しているため、短波長のSHG光に対しての偏波消光比は必ずしも保障しない)、少なくとも残留SHG光成分は第1、第2の実施形態に比べて低下することが期待できるため、少なくとも光ローパスフィルタ105のSHG光成分除去の負荷が低減する効果が期待できる。その結果、装置コストの低下が期待できる。
【0178】
(D)第4の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第4の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0179】
(D−1)第4の実施形態の構成
図14、第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、既述した図1、図8、図11との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0180】
第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Eは、第2の実施形態の特徴構成と、第3の実施形態の特徴構成とを共に導入し、第2の実施形態における作用効果と、第3の実施形態における作用効果を共に得ることができるようにしたものである。すなわち、入力励起光と所望する量子もつれ光子対とを偏波分離合成モジュールのそれぞれ異なる入出力端を介して入出力する構成を有し、かつ、SHG光を除去するための光ローパスフィルタが原理的には不要となるものである。
【0181】
図14に示す第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Eは、図8に示した第2の実施形態の構成に加えて、第3の実施形態で説明した偏波面変換部314を、第1の2次非線形光学媒質102と第2のファラデー回転子209との間に挿入している。
【0182】
(D−2)第4の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第4の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Dの動作を説明する。
【0183】
第3の実施形態の動作の項で説明したように、偏波面変換部314の挿入によっても、励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波回転は生じない。
【0184】
次に、このことを前提とし、光ループLPを時計回りに伝播する光成分に対する偏波状態の操作を説明する。偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力されたp偏波の励起光は、第2の非相反偏波面変換部212並びに偏波面変換部314を通過しても偏波面が回転されないため、p偏波のまま第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、第1の2次非線形光学媒質102において、p偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。そして、励起光及びSPDC相関光子対は、第1の非相反偏波面変換部211でも偏波面が回転されないため、p偏波のまま偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から出力され、一方、SHG光は、第1の非相反偏波面変換部211を通過することによりs偏波に変換されて偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ出力される。
【0185】
次に、偏波面変換部314の挿入によっても、励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波回転は生じないことを前提とし、光ループLPを反時計回りに伝播する光成分に対する偏波状態の操作を説明する。偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力されたs偏波の励起光は、第1の非相反偏波面変換部211内を、第1のファラデー回転子207、第2の1/2波長板208の順に通過してp偏波に変換される。そして、第1の2次非線形光学媒質102に入力され、その結果、逆方向の伝播の場合と同様に、p偏波のSHG光、SPDC相関光子対が発生される。次に、偏波面変換部314を通過するが、第3の実施形態で説明したように、励起光及びSPDC相関光子対は、p偏波のまま偏波面変換部314から出力されるのに対し、SHG光は、偏波回転によりs偏波に変換され偏波面変換部314から出力される。次に、第2の非相反偏波面変換部212を通過する。この際、励起光、SPDC相関光子対、SHG光は全て90°だけ偏波方向が回転されるため、それぞれ、s偏波、s偏波、p偏波として第2の非相反偏波面変換部212から出力される。その結果、励起光及びSPDC相関光子対は、s偏波の状態で偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4から出力され、一方、SHG光は、p偏波の状態で偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1から出力される。
【0186】
図15は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図15に示すように、励起光及び所望する量子もつれ光子対はループLPの伝播方向に関係なく全て偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ出力され、SHG光成分は光ループLPの伝播方向に関係なく全て第1入出力端101−1へ出力される。
【0187】
以上のように、第4の実施形態においては、第2の実施形態の作用効果と、第3の実施形態の作用効果の両方を奏することができる。
【0188】
(D−3)第4の実施形態の効果
第4の実施形態によれば、第2及び第3の実施形態の効果を共に得ることができる。すなわち、励起光の逆行による装置の不安定動作の影響を除去でき、かつ、SHG光除去用の光ローパスフィルタを不要、あるいはその通過特性への負荷を低減できるため、より低損失で高品質な装置の提供が可能となる。
【0189】
(E)第5の実施形態
次に、本発明による量子もつれ光子対発生装置の第5の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0190】
(E−1)第5の実施形態の構成
図16、第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置の構成を示す構成要素の配置図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。
【0191】
第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Fは、2次非線形光学媒質として、第1〜第4の実施形態で用いた第1の非線形光学媒質102とは下記の点で異なる、第2の非線形光学媒質501を用いている。また、第1の実施形態における第1の1/2波長板103及び光ローパスフィルタ105は設けられていない。第5の実施形態の場合、光ローパスフィルタ105は原理的に不要なものである。第5の実施形態では、光ループLPの全て又は一部を構成している偏波保持光ファイバ502の途中において、偏波面が90°だけ異なるように融着された箇所(適宜、90°融着箇所と呼ぶ)503が設けられている。
【0192】
第2の2次非線形光学媒質501に入出力する入力励起光、SHG光、シグナル光、アイドラー光の偏波方向は、以下の関係にある。すなわち、入力励起光、シグナル光、アイドラー光の偏波方向は、同一方向の直線偏波である。一方、SHG光はこれらと直交した偏波の直線偏波である。
【0193】
このようなことは、例えば、第2の2次非線形光学媒質501としてPPLNを用いた場合には、PPLNの2次非線形光学定数のd31成分を、SHG発生、SPDC発生に利用し、そのためにPPLN結晶のX軸方向に偏波した励起光を入力することで実現される。
【0194】
90°融着箇所503は、例えば、以下のように実現される。第2の2次非線形光学媒質501と偏波分離合成モジュール101の二つの入出力端(101−2、101−3)とを光学的に結合させ、光ループLPを形成するための2つの光経路のうち、少なくとも一方を偏波保持光ファイバ502によって作製し、かつ、偏波保持光ファイバ502中の光経路の任意の一箇所を、その光学軸方向(slow軸、fast軸)を入れ替えて融着接合し、90°融着箇所503を形成させる。この90°融着箇所503を含む偏波保持光ファイバ502が、上記の光ループLPを形成する2つの光経路のどちらに挿入されるかは設計的事項である(図中では、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第2の2次非線形光学媒質501を結ぶ光経路に挿入されている)。すなわち、挿入箇所は、後述するように、第2の2次非線形光学媒質501の光学軸方向と、励起光の偏波方向に基づいて、適宜決定される。
【0195】
(E−2)第5の実施形態の動作
次に、以上の構成を有する第5の実施形態の偏波量子もつれ光子対発生装置100Fの動作を説明する。
【0196】
第1〜第4の実施形態の場合と同様に、p偏波方向に対して偏波方向が45°だけ傾いている直線偏波の波長λpの励起光が偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ入力されると、同じ強度のp偏波成分、s偏波成分に分離され、それぞれ偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2、第3入出力端101−3へ出力される。
【0197】
上述したように、第2の2次非線形光学媒質501としてPPLNを用い、かつ、PPLNの2次非線形光学定数のd31成分をSHG発生、SPDC発生に利用する場合、PPLN結晶のx軸方向に偏波した励起光を入力することで、z軸方向に偏波したSHG光を発生させ、そしてそれを種光にしたSPDC過程により、x軸方向に偏波したシグナル光及びアイドラー光の相関光子対を発生させることになる。
【0198】
ここで、s偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように、第2の2次非線形光学媒質501を配置する。
【0199】
第2の2次非線形光学媒質501が以上のように配置されているとき、偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3から出力された光ループLPを反時計回りに伝播する励起光は、s偏波なので、それをそのまま(偏波方向を保ったまま)第2の2次非線形光学媒質501へ入力すると、p偏波のSHG光と、s偏波のシグナル光及びアイドラー光のSPDC相関光子対が発生する。
【0200】
第2の2次非線形光学媒質501から出力された、励起光、SHG光、SPDC相関光子対は、偏波保持光ファイバ502に入力され、90°融着箇所503を経て偏波方向が90°だけ回転される。すなわち、励起光、SPDC相関光子対はp偏波、SHG光はs偏波に変換される。
【0201】
その後、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2へ到達すると、励起光、SPDC相関光子対はp偏波のため第1入出力端101−1へ出力され、SHG光はs偏波のため第4入出力端101−4へ出力される。
【0202】
一方、偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2から出力された、光ループLPを時計回りに伝播するp偏波の励起光は、偏波保持光ファイバ502に入力され、90°融着箇所503を経て偏波方向が90°だけ回転され、s偏波に変換される。
【0203】
s偏波なので、その励起光をそのまま(偏波方向を保ったまま)第2の2次非線形光学媒質501へ入力すると、p偏波のSHG光と、s偏波のシグナル光及びアイドラー光のSPDC相関光子対が発生する。
【0204】
その後、第2の2次非線形光学媒質501から出力された励起光、SHG光、SPDC相関光子対が偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3へ到達すると、励起光、SPDC相関光子対はs偏波のため第1入出力端101−1へ出力され、SHG光はp偏波のため第4入出力端101−4へ出力される。
【0205】
偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ出力されるSPDC相関光子対は、光ループLPを時計回りに伝播する励起光に対して発生したものはs偏波、光ループLPを反時計回りに伝播する励起光に対して発生したものはp偏波であるため、励起光強度を適宜調整することで、偏波量子もつれ光子対になっている。
【0206】
図17は、励起光、SHG光、相関光子対(シグナル光、アイドラー光)が入出力する偏波分離合成モジュール101の入出力端を示す説明図である。図17に示すように、励起光及び所望する量子もつれ光子対は、ループLPの伝播方向に関係なく偏波分離合成モジュール101の第1入出力端101−1へ全て出力され、SHG光は、ループLPの伝播方向に関係なく偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ全て出力される。SHG光が、偏波分離合成モジュール101の第4入出力端101−4へ全て出力されるので、第3や第4の実施形態と同様に、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105が原理的には不要となる。
【0207】
すなわち、第5の実施形態においては、第3、第4の実施形態に示すような、1/2波長板や1/4波長板などの複数の光学部品を用いる代りに、途中で90°光軸変換された偏波保持光ファイバという比較的安価な光部品をただ1つ用いるだけで、SHG光除去のための光ローパスフィルタ105が原理的には不要となる装置を実現することができる。そのため、より安価で簡便な装置の提供が可能となる。
【0208】
なお、上述した装置構成においては、s偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように、第2の2次非線形光学媒質501を配置したが、これと直交した配置、すなわち、p偏波方向がPPLN結晶のx軸方向に合致するように第2の2次非線形光学媒質501を配置した場合においても、偏波保持光ファイバ502の挿入箇所を、第2の2次非線形光学媒質501と偏波分離合成モジュール101の第3入出力端101−3を結ぶ光経路側へと入れ替えることにより、第5の実施形態の作用効果を奏することができる。
【0209】
(E−3)第5の実施形態の効果
第5の実施形態によれば、SHG光除去用の光ローパスフィルタが不要な偏波量子もつれ光子対発生装置を、より安価かつ簡便に提供することができる。
【0210】
(F)他の実施形態
上記各実施形態では、2次非線形光学媒質としてPPLN結晶を用いた場合を説明したが、本文中にも記載したように、上記各実施形態の効果はPPLN結晶以外の2次非線形光学媒質を用いた場合でも生じることができる。また、2次非線形光学媒質としては、バルク結晶、又は光導波路構造を作りこんだPPLN導波路のような導波路型デバイスだけでなく、その他様々な形態の2次非線形光学媒質を用いることができる。
【0211】
また、第1及び第3の実施形態で用いる第1の1/2波長板103が、光ループLPの光路中で2次非線形光学媒質102に対してどのような位置に配置されるかは設計的事項である。すなわち、例えば、2次非線形光学媒質のd11成分を利用して上記各実施形態の効果を得る場合には、第1の1/2波長板103を偏波分離合成モジュール101の第2入出力端101−2と第1の2次非線形光学媒質102を接続する光路に配置することもあり得る。すなわち、配置箇所は、2次非線形光学媒質の光学軸方向と、それに入力される励起光の偏波方向に基づいて、適宜柔軟に設定することができる。同様に、第1〜第4の実施形態における偏波面変換部314や、第1及び第2の非相反偏波面変換部211及び212に関しても、2次非線形光学媒質の光学軸方向と、それに入力される励起光の偏波方向に基づいて、適宜柔軟に設定することができる。
【符号の説明】
【0212】
100、100A〜100F…量子もつれ光子対発生装置、101…偏波分離合成モジュール、102…第1の2次非線形光学媒質、103、208、210、311、313…1/2波長板、104…光サーキュレータ、105、105−s、105−i…光ローパスフィルタ、106…WDMフィルタ、108…光バンドパスフィルタ、207、209…ファラデー回転子、211、212…非相反偏波面変換部、312…1/4波長板、314…偏波面変換部、501…第2の2次非線形光学媒質、502…偏波保持光ファイバ、503…90°融着箇所、LP…光ループ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波保持のループ光路と、
第1のループ外光路からの入力励起光を互いに直交する偏波成分である第1の分波励起光と第2の分波励起光とに分岐し、上記第1の分波励起光を上記ループ光路へ時計回りに伝播するように入力すると共に、上記第2の分波励起光を上記ループ光路へ反時計回りに伝播するように入力する励起光分波入力手段と、
上記ループ光路に介在された2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質であって、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の分波励起光に対する第1の光第2高調波を発生させ、かつ、この第1の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第1の自然パラメトリック下方変換光を発生させると共に、上記ループ光路を反時計回りに伝播する上記第2の分波励起光に対する第2の光第2高調波を発生させ、かつ、この第2の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第2の自然パラメトリック下方変換光を発生させる2次非線形光学媒質と、
上記ループ光路を時計回りに伝播している上記第1の自然パラメトリック下方変換光と、上記ループ光路を反時計回りに伝播している上記第2の自然パラメトリック下方変換光とを合波し、合波光を第2のループ外光路へ出力する変換光合波出力手段と、
上記変換光合波出力手段における上記第2のループ外光路への合波出力を実行させるように、上記第1分波励起光、上記第2分波励起光、上記第1の自然パラメトリック下方変換光及び上記第2の自然パラメトリック下方変換光の少なくとも一部について、偏波方向を操作する偏波面操作手段と
を備えることを特徴とする量子もつれ光子対発生装置。
【請求項2】
複数の入出力端を有する偏波分離合成モジュールが上記励起光分波入力手段及び上記変換光合波出力手段として適用されていることを特徴とする請求項1に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項3】
上記偏波面操作手段は第1の1/2波長板でなり、上記第1の1/2波長板は、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の自然パラメトリック下方変換光の偏波面を90°だけ回転させて出力することを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項4】
上記偏波面操作手段は、第1及び第2の非相反偏波面変換部でなり、
上記ループ光路中に、上記第1の非相反偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記第2の非相反偏波面変換部とが、反時計回りにこの順番で配置され、
上記第1の非相反偏波面変換部は、第1の45°ファラデー回転子と第2の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記第2の非相反偏波面変換部は、第2の45°ファラデー回転子と第3の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項5】
上記偏波面操作手段は、第1の1/2波長板と偏波面変換部とでなり、
上記ループ光路中に、上記偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記第1の1/2波長板とが、時計回りにこの順番で配置され、
上記偏波面変換部は、第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板を時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項6】
上記偏波面操作手段は、第1及び第2の非相反偏波面変換部と、偏波面変換部とでなり、
上記ループ光路中に、上記第1の非相反偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記偏波面変換部と、上記第2の非相反偏波面変換部とが、反時計回りにこの順番で配置され、
上記第1の非相反偏波面変換部は、第1の45°ファラデー回転子と第2の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記第2の非相反偏波面変換部は、第2の45°ファラデー回転子と第3の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記偏波面変換部は、第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板を時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項7】
上記偏波面操作手段は、融着偏波面変換部でなり、
上記ループ光路中に、上記融着偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質とがこの順番で配置され、
上記融着偏波面変換部は、上記ループ光路を構成する2つの偏波保持光ファイバ同士の光軸を90°だけ回転させて相互に融着接続して構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項8】
合波出力された上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が通過する第2のループ外光路に、上記入力励起光の波長成分を除去し、かつ、上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が有するシグナル光波長成分、アイドラー光波長成分をそれぞれ異なる光出力端に出力する第1の波長選択型フィルタを有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項9】
上記第1の波長選択型フィルタがAWGフィルタであることを特徴とする請求項8に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項10】
合波出力された上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が通過する第2のループ外光路に、上記第1及び第2の光第2高調波成分の少なくとも一方を除去する光ローパスフィルタを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項11】
上記第1のループ外光路及び上記第2のループ外光路が共通部分を有し、この共通部分の端部に光サーキュレータが設けられていることを特徴とする請求項3、5、7〜10のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項12】
上記第1のループ外光路及び上記第2のループ外光路が共通部分を有し、この共通部分の端部に、上記第2のループ外光路を伝播してきた上記入力励起光波長成分を透過又は反射し、上記自然パラメトリック下方変換光のシグナル光波長成分及びアイドラー光波長成分を反射又は透過する第2の波長選択型フィルタが設けられていることを特徴とする請求項3、5、7〜10のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項1】
偏波保持のループ光路と、
第1のループ外光路からの入力励起光を互いに直交する偏波成分である第1の分波励起光と第2の分波励起光とに分岐し、上記第1の分波励起光を上記ループ光路へ時計回りに伝播するように入力すると共に、上記第2の分波励起光を上記ループ光路へ反時計回りに伝播するように入力する励起光分波入力手段と、
上記ループ光路に介在された2次非線形光学効果を有する2次非線形光学媒質であって、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の分波励起光に対する第1の光第2高調波を発生させ、かつ、この第1の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第1の自然パラメトリック下方変換光を発生させると共に、上記ループ光路を反時計回りに伝播する上記第2の分波励起光に対する第2の光第2高調波を発生させ、かつ、この第2の光第2高調波に対する自然パラメトリック下方変換によって第2の自然パラメトリック下方変換光を発生させる2次非線形光学媒質と、
上記ループ光路を時計回りに伝播している上記第1の自然パラメトリック下方変換光と、上記ループ光路を反時計回りに伝播している上記第2の自然パラメトリック下方変換光とを合波し、合波光を第2のループ外光路へ出力する変換光合波出力手段と、
上記変換光合波出力手段における上記第2のループ外光路への合波出力を実行させるように、上記第1分波励起光、上記第2分波励起光、上記第1の自然パラメトリック下方変換光及び上記第2の自然パラメトリック下方変換光の少なくとも一部について、偏波方向を操作する偏波面操作手段と
を備えることを特徴とする量子もつれ光子対発生装置。
【請求項2】
複数の入出力端を有する偏波分離合成モジュールが上記励起光分波入力手段及び上記変換光合波出力手段として適用されていることを特徴とする請求項1に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項3】
上記偏波面操作手段は第1の1/2波長板でなり、上記第1の1/2波長板は、上記ループ光路を時計回りに伝播する上記第1の自然パラメトリック下方変換光の偏波面を90°だけ回転させて出力することを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項4】
上記偏波面操作手段は、第1及び第2の非相反偏波面変換部でなり、
上記ループ光路中に、上記第1の非相反偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記第2の非相反偏波面変換部とが、反時計回りにこの順番で配置され、
上記第1の非相反偏波面変換部は、第1の45°ファラデー回転子と第2の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記第2の非相反偏波面変換部は、第2の45°ファラデー回転子と第3の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項5】
上記偏波面操作手段は、第1の1/2波長板と偏波面変換部とでなり、
上記ループ光路中に、上記偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記第1の1/2波長板とが、時計回りにこの順番で配置され、
上記偏波面変換部は、第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板を時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項6】
上記偏波面操作手段は、第1及び第2の非相反偏波面変換部と、偏波面変換部とでなり、
上記ループ光路中に、上記第1の非相反偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質と、上記偏波面変換部と、上記第2の非相反偏波面変換部とが、反時計回りにこの順番で配置され、
上記第1の非相反偏波面変換部は、第1の45°ファラデー回転子と第2の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記第2の非相反偏波面変換部は、第2の45°ファラデー回転子と第3の1/2波長板とが反時計回りにこの順番で配置されて構成され、
上記偏波面変換部は、第4の1/2波長板、1/4波長板、第5の1/2波長板を時計回りにこの順番で配置されて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項7】
上記偏波面操作手段は、融着偏波面変換部でなり、
上記ループ光路中に、上記融着偏波面変換部と、上記2次非線形光学媒質とがこの順番で配置され、
上記融着偏波面変換部は、上記ループ光路を構成する2つの偏波保持光ファイバ同士の光軸を90°だけ回転させて相互に融着接続して構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項8】
合波出力された上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が通過する第2のループ外光路に、上記入力励起光の波長成分を除去し、かつ、上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が有するシグナル光波長成分、アイドラー光波長成分をそれぞれ異なる光出力端に出力する第1の波長選択型フィルタを有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項9】
上記第1の波長選択型フィルタがAWGフィルタであることを特徴とする請求項8に記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項10】
合波出力された上記第1自然パラメトリック下方変換光及び上記第2自然パラメトリック下方変換光が通過する第2のループ外光路に、上記第1及び第2の光第2高調波成分の少なくとも一方を除去する光ローパスフィルタを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項11】
上記第1のループ外光路及び上記第2のループ外光路が共通部分を有し、この共通部分の端部に光サーキュレータが設けられていることを特徴とする請求項3、5、7〜10のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【請求項12】
上記第1のループ外光路及び上記第2のループ外光路が共通部分を有し、この共通部分の端部に、上記第2のループ外光路を伝播してきた上記入力励起光波長成分を透過又は反射し、上記自然パラメトリック下方変換光のシグナル光波長成分及びアイドラー光波長成分を反射又は透過する第2の波長選択型フィルタが設けられていることを特徴とする請求項3、5、7〜10のいずれかに記載の量子もつれ光子対発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−48093(P2011−48093A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195800(P2009−195800)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】
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