説明

量子ドット型赤外線検知器

【課題】 量子ドット型赤外線検知器に関し、光電流を低減することなく暗電流を低減する。
【解決手段】 中間層6と格子定数が異なり且つ中間層6より電子エネルギーポテンシャルが低い第1の量子ドット1と、中間層6と格子定数が異なり且つ中間層6より電子エネルギーポテンシャルが高い第2の量子ドット4とを互いに異なる部位になるように中間層6中に設けるとともに、第1の量子ドット1と中間層6の格子定数の大小関係を、第2の量子ドット4と前記中間層6の格子定数の大小関係と逆にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子ドット型赤外線検知器に関するものであり、特に、暗電流を低減するための電位障壁機構に特徴のある量子ドット型赤外線検知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、10μm帯近傍の遠中赤外線を検知する赤外線ディテクタとしては、Cd組成比が0.2近傍、例えば、Cd組成比が0.22のHgCdTe層に形成したpn接合ダイオードをフォトダイオードしたものを用い、このフォトダイオードを一次元アレイ状或いは二次元アレイ状に配列するとともに、読出回路との電気的なコンタクトを取るために赤外線フォトダイオードアレイ基板及びSi信号処理回路基板とを、双方に形成したIn等の金属のバンプで貼り合わせた赤外線検知装置が知られている。
【0003】
しかし、このようなHgCdTe赤外線ディテクタの場合には、結晶性の良好な大面積基板の入手が困難であったり、或いは、結晶成長等のプロセスが非常に困難な材料系であり、且つ、毒性も強いために、製造コストが非常に高くなるという問題がある。
【0004】
そこで、近年、この様な問題を解決するために、結晶性の良好な大面積基板の入手が容易であるGaAs系半導体を用い、且つ、量子井戸におけるサブバンド間の遷移による光吸収を利用した量子井戸型赤外線検知器が開発されている。
【0005】
特に、この様な量子井戸型赤外線検知器の中でも、光吸収層として三次元閉じ込め量子井戸である量子ドットを用いた量子ドット型赤外線検知器(QDIP;Quantum Dot Infrared Photodetector)が注目を集めている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
このQDIPは量子ドット構造のサブバンド間遷移を利用した検知器であり、近年の量子ドット自己形成法(例えば、特許文献1参照)等の成長技術の革新によりデバイスとして実現するに至ったものである。
【0007】
この量子ドット自己形成技術とは、結晶成長において基板上に基板とは格子定数の大きく異なる材料を成長させることにより、歪みによる三次元成長を誘発し、結果としてピラミッド状やキャップ状をした量子ドットを形成させるものである。
【0008】
また、量子ドットを三次元閉じ込め量子井戸構造とするためには、ドット材料のバンドギャップが量子ドットを覆う半導体層のバンドギャップより小さい必要があり、この条件を満たすために、GaAs基板上にInAsドットを形成する事例が多く、QDIPにおいてもこの組合せが良く用いられるので、ここで、図6を参照して従来のQDIPの一例を説明する。
【0009】
図6参照
図6は、従来のQDIPの概念的断面図であり、半絶縁性GaAs基板51上にn型GaAs下部コンタクト層52及びi型GaAs中間層53を順次堆積させたのち、In,As原料を例えば2分子層分供給してInAs量子ドット54を自己形成し、次いで、再び、薄いi型GaAs中間層55、InAs量子ドット54の成長を必要とする層数だけ繰り返したのち、比較的厚いi型GaAs中間層56を成長させて光吸収層57を構成し、最後にn型GaAs上部コンタクト層58を設けたものである。
【0010】
このQDIPにおいては、通常時はInAs量子ドット54内に捕獲されている電子が赤外線を吸収することにより励起され、InAs量子ドット54外へと流出することにより光電流、即ち、電気信号を発生させることになる。
【0011】
この際に、一旦、電子が放出された量子ドットへは、光吸収部を挟むように形成された一方のコンタクト層、例えば、n型GaAs上部コンタクト層58から電子が注入され、その電子が量子ドットへ再捕獲されることで電流が継続できるように働いている。
【0012】
しかし、量子ドット構造がある面内、即ち、量子ドット層において、InAs量子ドット54は点状にしか存在しないため、n型GaAs上部コンタクト層58から注入された電子の一部が光吸収部を走行する間に量子ドット層を通過する際にInAs量子ドット54の脇をすり抜けてInAs量子ドット54に捕まらずにn型GaAs下部コンタクト層52まで到達してしまう電流が発生していた。
【0013】
この電流は光励起とは無関係に流れてしまうため、所謂、暗電流として検知素子の性能を悪化させる要因となっていた。
そこで、不要な暗電流を低減させるために、光吸収部内に中間層よりもエネルギー障壁が高い障壁層を設けた量子ドット型赤外線検知器も提案されている(例えば、〔非〕特許文献2参照)ので、図7を参照して説明する。
【0014】
図7参照
図7は、従来の改良型QDIPの概念的断面図であり、InAs量子ドット54と薄いi型GaAs中間層55からなる量子ドット層の中間にAlGaAsからなる障壁層59を設けたものである。
【特許文献1】特開平09−326506号公報
【非特許文献1】Appleid Physics Letters Vol.82,p.553,2003
【非特許文献2】IEEE Journal of Quantum Electronics,Vol.38,p.1234,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上述の改良型QDIPにおいても、n型GaAs上部コンタクト層58から注入される全ての電子に対して障壁層59が電流をブロックするように働くため、光電流が発生した場合のInAs量子ドット54への電子再供給も絶たれてしまうようになり、それによって、暗電流低減と同時に光電流も減少してしまうという問題がある。
【0016】
したがって、本発明は、特殊な製造工程を用いることなく、光電流を低減することなく暗電流を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、量子ドット型赤外線検知器において、中間層2と格子定数が異なり且つ中間層2より電子エネルギーポテンシャルが低い第1の量子ドット1と、中間層2と格子定数が異なり且つ中間層2より電子エネルギーポテンシャルが高い第2の量子ドット4とを互いに異なる部位になるように中間層2中に設けるとともに、第1の量子ドット1と中間層2の格子定数の大小関係が、第2の量子ドット4と中間層2の格子定数の大小関係と逆であることを特徴とする。
【0018】
このように、相対的に電子エネルギーポテンシャルが高い第2の量子ドット4を、光吸収部となる第1の量子ドット1と異なる部位に設けることにより、第1の量子ドット1の脇をすり抜ける電子6に対する電位障壁となるが、赤外線を吸収して光電流が発生した第1の量子ドット1へコンタクト層7またはコンタクト層8から再供給される電子6に対する電位障壁とはならないので、光電流を低減することなく暗電流を低減することが可能になる。
【0019】
この様な構成は、第1の量子ドット1におけるバンド間遷移を利用した赤外線検知器にも適用することも可能であるが、第1の量子ドット1におけるサブバンド間遷移を利用することにより遠中赤外線に感度を有する赤外線検知器を実現することができる。
【0020】
また、第2の量子ドット4で電位障壁を形成するためには、第1の量子ドット1を中間層2で埋め込んで第1の量子ドット構造層3とするとともに第2の量子ドット4を中間層2で埋め込んで第2の量子ドット構造層5とし、第1の量子ドット構造層3と第2の量子ドット構造層5とを積層すれば良く、その場合に、第1の量子ドット1の20%以上が電子供給側の直上の第2の量子ドット4と成長方向に重ならないように積層することが望ましい。
【0021】
また、第1の量子ドット1及び第2の量子ドット4を、中間層2と量子ドット間の格子定数差を利用した自己形成型量子ドットとすることによって、第1の量子ドット1と第2の量子ドット4とが成長方向に重ならないように形成することができる。
【0022】
また、第1の量子ドット構造層一層に対して第2の量子ドット構造層5を二層以上設けることが望ましく、それによって電位障壁機能を高めることができる。
【0023】
また、第1の量子ドット構造層3と第2の量子ドット構造層5とを周期的に積層することによって、多重量子井戸構造的な構成を実現することができ、それによって、光吸収層を実効的に増加することができるので、光出力を大きくすることができる。
【0024】
なお、この場合の中間層2としては、GaAs、AlAs、AlGaAsのいずれかが好適であり、また、第1の量子ドット1としては中間層2よりバンドギャップが小さく且つ格子定数の大きなInAs、InAlAs、InGaAs、InAlGaAsのいずれかが好適であり、且つ、第2の量子ドット4としては中間層2よりバンドギャップが大きく且つ格子定数の小さなGaP、AlP、AlGaP、InGaP、InAlP、InGaAlPのいずれかが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光電流が発生した量子ドットへ再供給される電子に対する電位障壁を選択的に且つ自己形成的に形成することができるので、特殊な製造工程を要することなく、より暗電流の少ない量子ドット型赤外線検知器を実現することができ、ひいては、赤外線撮像装置などの性能向上に寄与するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、量子ドットを埋め込む中間層に対して光吸収部となる量子ドットのバンドギャップを小さくするとともに格子定数を大きくし、電位障壁となる量子ドットのバンドギャップを大きくするとともに格子定数を小さくし、且つ、中間層を薄く形成することによって、光吸収部となる量子ドットと電位障壁となる量子ドットとが成長方向において互いに重ならないように自己形成したものである。
【実施例1】
【0027】
ここで、図2及び図3を参照して、本発明の実施例1のQDIPの製造工程を説明する。
図2参照
まず、主面が(100)面の半絶縁性GaAs基板11上に、分子線エピタキシャル(MBE)法を用いて、厚さが、例えば、20nmのi型GaAsバッファ層12、厚さが、例えば、500nmでn型不純物濃度が1×1018cm-3のn型GaAs下部コンタクト層13、及び、厚さが、例えば、50nmのi型GaAs中間層14を順次堆積させる。
【0028】
次いで、2分子層分のIn原料及びAs原料を供給してInAs量子ドット15を形成する。
この場合、GaAsとInAsの格子定数が異なっているので、成長初期では層状の二次元成長であった状態が次第に格子定数の違いを緩和させるように島状に三次元成長することによってInAs量子ドット15が自己形成される。
【0029】
次いで、厚さが、例えば、5nmのi型GaAs中間層16を成長させてInAs量子ドット15を埋め込んだのち、3分子層分のGa原料及びP原料を供給することによってGaAsよりバンドギャップが大きく且つ格子定数の小さなGaPからなるGaP障壁ドット17を自己形成する。
【0030】
この場合、i型GaAs中間層16の膜厚が薄いため、InAs量子ドット15の直上周辺のi型GaAs中間層16が格子定数の大きなInAs量子ドット15の存在により引張応力が作用して通常のGaAsよりも格子定数がやや歪んで大きくなっている。
【0031】
この状態でのi型GaAs中間層16上に、GaAsより格子定数の小さいGaPを用いてGaP障壁ドット17の形成を行うと、GaP障壁ドット17は格子定数差の緩和を進めるように、歪んだi型GaAs中間層16上よりもInAs量子ドット15が直下に存在しない歪んでいないi型GaAs中間層16上に優先的にGaP障壁ドット17が形成されるようになるため、GaP障壁ドット17とInAs量子ドット15とが投影的に重なることがない。
【0032】
図3参照
次いで、i型GaAs中間層18、厚さが、例えば、5nmでn型不純物濃度が1×1017cm-3のn型GaAs層19、及び、i型GaAs中間層20を、全体の厚さが、例えば、50nmになるように堆積させる。
なお、このn型GaAs層19は多層周期構造を形成する場合の直列抵抗の増大を軽減するために挿入する。
【0033】
次いで、再び、2分子層分のIn原料及びAs原料を供給してInAs量子ドット21を形成する。
この場合、下地となるi型GaAs中間層20乃至i型GaAs中間層18の全体の厚さが50nmと厚いため、GaP障壁ドット17による歪みの影響はi型GaAs中間層20の表面にほとんど表れないため、InAs量子ドット21はGaP障壁ドット17の位置とは無関係に形成される。
【0034】
この積層構造を必要とする周期分成長工程を繰り返したのち、最後に厚さが、例えば、50nmのi型GaAs中間層30及び厚さが、例えば、300nmで、n型不純物濃度が1×1018cm-3のn型GaAs上部コンタクト層31を順次堆積させる。
なお、ここでは、便宜上、3周期構造を示している。
【0035】
次いで、素子分離溝をエッチングにより形成してアレイ化したのち、全面にSiONからなる保護膜を形成し、次いで、電極形成用の開口部を形成し、開口部を介してn型GaAs下部コンタクト層13及びn型GaAsコンタクト層31に対してAuGe/Auからなる電極(いずれも図示を省略)を形成することによって、量子ドット型赤外線検知器が完成する。
【0036】
図4参照
図4は、本発明の実施例1におけるQDIPの動作原理の説明図であり、左図はQDIPの概念的断面図であり、右図はInAs量子ドットを含む層及びGaP障壁ドットを含む層のバンドダイヤグラムである。
なお、バンドダイヤグラムにおいては、InAs量子ドット21を含む層及びGaP障壁ドット23を含む層を代表させて図示している。
【0037】
右図に示すように、InAs量子ドット15,21,27を含む層においては、赤外線32が入射した場合、InAs量子ドット15,21,27に形成された伝導帯側の量子井戸に形成された量子準位33に電子34が存在する場合、赤外線32を吸収することによって電子34は励起され、InAs量子ドット15,21,27外へと流出することにより光電流となる。
【0038】
また、空になった量子準位33を満たすように、一方のコンタクト層、ここでは、バイアスの状態によりn型GaAs上部コンタクト層31から電子35が供給されて、光電流を発生させたInAs量子ドット15,21,27の量子準位33を占有する。
【0039】
この時、n型GaAs上部コンタクト層31から供給される電子35が、InAs量子ドット15,21,27の間を通過しようとすると、GaP障壁ドットを含む層において電位障壁の高いGaP障壁ドット17,23,29によって電子走行が妨げられ、GaP障壁ドット17,23,29がないエネルギーの低いi型GaAsからなる中間層部へと電流経路が逸らされるようになる。
【0040】
このためGaP障壁ドット17,23,29のない中間層部の直下に存在するInAs量子ドット15,21,27へと電流が集中することになり、「障壁」が存在するにも関らず有効にInAs量子ドット15,21,27への電子供給が行われることになる。
したがって、従来の改良型QDIPとは異なり光電流の減少を抑制しながら暗電流を削減することが可能となる。
【実施例2】
【0041】
次に、図5を参照して、本発明の実施例2のQDIPを説明するが、GaP障壁ドットを2重構造にしただけで、基本的な製造工程は上記の実施例1と同様であるので、最終的な素子構造のみを示す。
図5参照
図5は、本発明の実施例2のQDIPの概念的断面図であり、一層の光吸収層に対して二層の障壁ドット層を設けたものである。
【0042】
即ち、InAs量子ドット15を形成したのち、厚さが、例えば、5nmの薄いi型GaAs中間層16を成長させてInAs量子ドット15を埋め込み、次いで、3分子層分のGa原料及びP原料を供給することによって上述のようにGaP障壁ドット17を形成する。
【0043】
次いで、厚さが、例えば、5nmの薄いi型GaAs中間層36を成長させてGaP障壁ドット17を埋め込んだのち、再び、3分子層分のGa原料及びP原料を供給することによってGaP障壁ドット37を形成する。
【0044】
この場合もi型GaAs中間層36の膜厚が薄いため、GaP障壁ドット17の直上周辺のi型GaAs中間層36が格子定数の小さなGaP障壁ドット17の存在により圧縮応力が作用して通常のGaAsよりも格子定数がやや歪んで小さくなっている。
【0045】
この状態でのi型GaAs中間層36上に、GaAsより格子定数の小さいGaPを用いてGaP障壁ドット37の形成を行うと、GaP障壁ドット37は格子定数差の緩和を進めるように、再び歪んだi型GaAs中間層36上に優先的にGaP障壁ドット37が形成されるようになるため、GaP障壁ドット17と投影的に重なるように自己形成される。
【0046】
次いで、i型GaAs中間層18、厚さが、例えば、5nmでn型不純物濃度が1×1017cm-3のn型GaAs層19、及び、i型GaAs中間層20を、全体の厚さが、例えば、50nmになるように堆積させ、この工程を必要とする周期だけ繰り返せば良い。
【0047】
この様に、本発明の実施例2においては、障壁ドット層を2重構造にしているので、InAs量子ドット間をすり抜けようとする電子をより効果的にブロックすることができ、それによって、暗電流を低減することができる。
【0048】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載した条件・構成に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、各実施例に記載した周期数は3周期であるが、使用目的に応じて1以上の任意の周期にすれば良い。
【0049】
また、上記の各実施例においては、中間層をGaAsで構成するとともに、量子ドットをInAsで且つ障壁ドットをGaPで構成しているが、これらの組合せに限られるものではなく、量子ドットは中間層と格子定数が異なり且つ中間層より電子エネルギーポテンシャルが低い半導体材料で構成し、且つ、障壁ドットは中間層と格子定数が異なり且つ中間層より電子エネルギーポテンシャルが高い半導体材料で構成すれば良く、その場合、量子ドットと中間層の格子定数の大小関係が、障壁ドットと中間層の格子定数の大小関係と逆になるようにする必要がある。
なお、通常は、バンドギャップが大きいほど格子定数が小さいので、一般的構成としては、量子ドットは中間層より格子定数が大きく、障壁ドットは中間層より格子定数が小さくなる。
【0050】
例えば、中間層としては、GaAsの代わりに、AlGaAs或いはAlAsを用いても良く、或いは、GaAs、AlGaAs、及び、AlAsを組み合わせて用いても良いものである。
【0051】
また、量子ドットとしては、InAsの代わりにInAlAs、InGaAs、或いは、InAlGaAsで構成しても良いが、量子井戸を形成するためには中間層を構成する半導体よりバンドギャップの小さな材料を用いる必要がある。
【0052】
また、障壁トッドとしては、GaPの代わりにAlP、AlGaP、InGaP、InAlP、或いは、InGaAlPを用いても良いが、障壁として機能させるためには中間層を構成する半導体よりバンドギャップの大きな材料を用いる必要がある。
【0053】
また、上記の各実施例においては、サブバンド間遷移により光吸収を行うQDIPとして説明しているが、かならずしも、サブバンド間遷移により光吸収を行うQDIPに限られるものではなく、本発明の障壁ドット構造は、量子ドットのバンド間遷移により光吸収を行うQDIPにも適用されるものである。
【0054】
また、上記の各実施例においては、GaP障壁ドットを覆う中間層にn型層を挿入しているが、繰り返し周期数が少ない場合には、このn型層は必ずしも必要はないものである。
【0055】
また、上記の各実施例においては、MBE法を用いて結晶成長を行っているが、結晶成長法はMBE法に限られるものではなく、上述の特許文献1に開示されているようにMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いても良いものである。
【0056】
また、上記の各実施例においては特に言及していないが、上下のInAs量子ドットの投影的重なりはあまり問題にはならないが、InAs量子ドットと電子供給側の直上のGaP障壁ドットとの重なりは、各層においてInAs量子ドットの20%以上が直上のGaP障壁ドットと重ならないようにすれば良く、このような重なり率は特段の考慮をしなくとも、GaP障壁ドットの形成位置がInAs量子ドットによる歪みによりInAs量子ドットと異なった位置から優先的形成されため通常の構成として得られる。
【0057】
また、上記の各実施例においては障壁ドット層に挟まれる量子ドットを一層にしているが、多層構造にしても良く、この場合には、実施例2における障壁ドットの形成工程と同様に、上下の量子ドットが投影的に重なるように自己形成される。
【0058】
また、上記の実施例2においては障壁ドット層を2重構造にしているが、3重構造等の多重構造にしても良く、この場合も、実施例2における障壁ドットの形成工程と同様に、中間に設ける中間層を歪みの影響が表面に表れるように十分薄くすることによって上下の量子ドットを投影的に重なるように自己形成することができる。
【0059】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 中間層2と格子定数が異なり且つ中間層2より電子エネルギーポテンシャルが低い第1の量子ドット1と、前記中間層2と格子定数が異なり且つ中間層2より電子エネルギーポテンシャルが高い第2の量子ドット4とを互いに異なる部位になるように中間層2中に設けるとともに、前記第1の量子ドット1と前記中間層2の格子定数の大小関係が、前記第2の量子ドット4と前記中間層2の格子定数の大小関係と逆であることを特徴とする量子ドット型赤外線検知器。
(付記2) 上記第1の量子ドット1におけるサブバンド間遷移により赤外線を検知することを特徴とする付記1記載の量子ドット型赤外線検知器。
(付記3) 上記第1の量子ドット1を上記中間層2で埋め込んで第1の量子ドット構造層3とするとともに上記第2の量子ドット4を前記中間層2で埋め込んで第1の量子ドット構造層5とし、前記第1の量子ドット構造層3と第1の量子ドット構造層5とを前記第1の量子ドット1の20%以上が電子供給側の直上の前記第2の量子ドット4と成長方向に重ならないように積層したことを特徴とする付記1または2に記載の量子ドット型赤外線検知器。
(付記4) 上記第1の量子ドット1及び第2の量子ドット4が、中間層2と量子ドット間の格子定数差を利用した自己形成型量子ドットであることを特徴とする付記3記載の量子ドット型赤外線検知器。
(付記5) 上記第1の量子ドット構造層一層に対して、上記第1の量子ドット構造層5を二層以上設けたことを特徴とする付記3または4に記載の量子ドット型赤外線検知器。
(付記6) 上記第1の量子ドット構造層3と上記第1の量子ドット構造層5とを周期的に積層したことを特徴とする付記3乃至5のいずれか1に記載の量子ドット型赤外線検知器。
(付記7) 上記中間層2をGaAs、AlAs、AlGaAsのいずれかで構成するとともに、上記第1の量子ドット1をInAs、InAlAs、InGaAs、InAlGaAsのいずれかで構成し且つ上記第2の量子ドット4をGaP、AlP、AlGaP、InGaP、InAlP、InGaAlPのいずれかで構成することを特徴とする付記1乃至6のいずれか1に記載の量子ドット型赤外線検知器。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の活用例としては、QDIP素子を二次元アレイ状に配列させた遠中赤外線撮像装置が典型的なものであるが、一次元アレイ状に配列したQDIP素子と回転ミラーとを組み合わせて遠中赤外線撮像装置としても良く、或いは、単体のQDIP素子として遠中赤外線センサとして用いても良いものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1のQDIPの途中までの製造工程の説明図である。
【図3】本発明の実施例1のQDIPの図2以降の製造工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1のQDIPの動作原理の説明図である。
【図5】本発明の実施例2のQDIPの概念的断面図である。
【図6】従来のQDIPの概念的断面図である。
【図7】従来の改良型QDIPの概念的断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 第1の量子ドット
2 中間層
3 第1の量子ドット構造層
4 第2の量子ドット
5 第2の量子ドット構造層
6 電子
7 コンタクト層
8 コンタクト層
11 半絶縁性GaAs基板
12 i型GaAsバッファ層
13 n型GaAs下部コンタクト層
14 i型GaAs中間層
15 InAs量子ドット
16 i型GaAs中間層
17 GaP障壁ドット
18 i型GaAs中間層
19 n型GaAs層
20 i型GaAs中間層
21 InAs量子ドット
22 i型GaAs中間層
23 GaP障壁ドット
24 i型GaAs中間層
25 n型GaAs層
26 i型GaAs中間層
27 InAs量子ドット
28 i型GaAs中間層
29 GaP障壁ドット
30 i型GaAs中間層
31 n型GaAs上部コンタクト層
32 赤外線
33 量子準位
34 電子
35 電子
36 i型GaAs中間層
37 GaP障壁ドット
38 i型GaAs中間層
39 GaP障壁ドット
40 i型GaAs中間層
41 GaP障壁ドット
51 半絶縁性GaAs基板
52 n型GaAs下部コンタクト層
53 i型GaAs中間層
54 InAs量子ドット
55 i型GaAs中間層
56 i型GaAs中間層
57 光吸収層
58 n型GaAs上部コンタクト層
59 障壁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層と格子定数が異なり且つ中間層より電子エネルギーポテンシャルが低い第1の量子ドットと、前記中間層と格子定数が異なり且つ中間層より電子エネルギーポテンシャルが高い第2の量子ドットとを互いに異なる部位になるように中間層中に設けるとともに、前記第1の量子ドットと前記中間層の格子定数の大小関係が、前記第2の量子ドットと前記中間層の格子定数の大小関係と逆であることを特徴とする量子ドット型赤外線検知器。
【請求項2】
上記第1の量子ドットを上記中間層で埋め込んで第1の量子ドット構造層とするとともに上記第2の量子ドットを前記中間層で埋め込んで第2の量子ドット構造層とし、前記第1の量子ドット構造層と第2の量子ドット構造層とを前記第1の量子ドットの20%以上が電子供給側の直上の前記第2の量子ドットと成長方向に重ならないように積層したことを特徴とする請求項1記載の量子ドット型赤外線検知器。
【請求項3】
上記第1の量子ドット構造層一層に対して、上記第2の量子ドット構造層を二層以上設けたことを特徴とする請求項2記載の量子ドット型赤外線検知器。
【請求項4】
上記第1の量子ドット構造層と上記第2の量子ドット構造層とを周期的に積層したことを特徴とする請求項2または3に記載の量子ドット型赤外線検知器。
【請求項5】
上記中間層をGaAs、AlAs、AlGaAsのいずれかで構成するとともに、上記第1の量子ドットをInAs、InAlAs、InGaAs、InAlGaAsのいずれかで構成し且つ上記第2の量子ドットをGaP、AlP、AlGaP、InGaP、InAlP、InGaAlPのいずれかで構成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の量子ドット型赤外線検知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−186183(P2006−186183A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379709(P2004−379709)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】