説明

量子通信システム及び量子鍵配送システム

【課題】長距離通信の高速化が可能であり、かつ光ファイバなどの実システムに適用可能な量子通信システムおよび量子鍵配送システムを提供する。
【解決手段】2つノードと中継ノードとを備え、2つノードは光伝送路を経由して前記中継ノードへ識別不能な光子を送付し、前記中継ノードは、第1の光子検出器がk番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出するか、もしくは第1の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk番目のパルスにおいて光子を検出する第1の検出状態となったとき、または第1の光子検出器または第2の光子検出器のいずれかにおいて、k番目およびk+1番目のパルスにおいて連続して光子を検出する第2の検出状態となったときは、古典通信回線を介していずれの検出状態が起こったか前記2つのノードそれぞれに送付する量子通信システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔の2ノードに配置された量子メモリに保存された量子状態間に量子もつれ状態を生成する量子通信システムに関し、さらに詳細には、該量子通信システムを用いて長距離の量子通信を実現する量子通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、暗号通信を行うための暗号鍵を遠隔の2者間で共有する「量子鍵配送(quantum key distribution:QKD)」の研究が盛んに行われている。一般的なQKDでは、送信者は単一光子(または単一光子レベルの微弱コヒーレント光)にランダム変調を施し、光伝送路を介して受信者に送付することにより、送信者と受信者との間でランダムなビット情報を共有する。特に、光ファイバ上のQKDシステムは近年飛躍的な進展を遂げ、現在では200km以上の光ファイバ上でのQKDが報告されている。しかし、光子の単純な伝送によるQKDは、光伝送路の損失による鍵生成率の低下を避けることができない。例えば、1000kmの光ファイバ上のQKDにおいては、光ファイバ損失を0.2dB/kmとすると、個々の光子は200dBの損失を被る。よって、送信者が理想的な単一光子を10GHzの繰り返し周波数で送付し、受信者が理想的な光子検出器を有していたとしても、光子の受信レートは10-10count per second=0.003count per yearとなる。このように、光伝送媒体の飛躍的低損失化が実現できない限り、1000km級の長距離QKDを実現することは非常に困難である。
【0003】
この距離限界を打破することを目的として、「量子中継(quantum repeater)」の概念がBriegelらにより1998年に提案された(非特許文献1)。量子中継の概念図を図1に示す。まず、長さLの伝送路を、nを自然数として2nのリンクに分割する。以下、この各リンクを基本リンク、nをネスティングレベルと呼ぶことにする。図1はn=2の場合である。図1において(a)は伝送路全体の構成、(b)は基本リンクの構成、(c)はネスティングレベル1の構成、(d)はネスティングレベル2の構成をそれぞれ示している。図1(b)の各基本リンクは両端に備えたノード1Aと1B、2Aと2B、・・・が量子もつれ状態をなすことによって構成されている。両端のノード1A、1B・・・には、量子状態を保存することのできる「量子メモリ」が配置されており、両メモリに保存されている2つの量子状態は量子もつれ状態とされている。
【0004】
次に、隣接する2つの基本リンクをペアとする。そして、ペアを組む両リンクに保持されている一組の量子もつれ状態に対して「量子もつれ交換」という操作を行う(非特許文献2参照)。具体的には、ノード1Bとノード2A、及びノード3Bとノード4Aなどの他のペアとの隣接ノード中の量子状態に対し、ベル状態測定(Bell state measurement:BSM)と呼ばれる2粒子の射影測定を行い、その結果を両端のノード1Aとノード2B、及びノード3Aとノード4Bに古典通信路を介して送付する。両端のノード1Aと2B、3Aと4Bにおいて、保存している量子状態に対し、BSMの結果に基づいて適切なユニタリ変換を施すことにより、これら両端のノード間に量子もつれ状態を生成することができる。これを、ネスティングレベル1での操作と呼ぶ。
【0005】
同様の操作をネスティングレベルnまで繰り返す。その結果、最終的に長さLの伝送路の両端のノード1Aとノード4Bとの間に量子もつれ状態を生成することができる。生成された量子もつれ状態を用いて、例えば、非特許文献3において提案された量子もつれを用いたQKDプロトコルを適用することにより、暗号鍵を両端のノード間で共有することができる。
【0006】
上記の量子中継を、光子を用いたシステムに適用すると、基本リンクの両端に量子もつれを生成するための距離であるL/2n程度に1つの光子の伝送距離をとどめることができる。したがって、長距離の光子伝送に伴う鍵生成率の低下を抑えることが可能となる。
【0007】
量子中継を実現するためには、基本リンクにおける量子メモリ間に量子もつれ状態の生成を実現することが重要である。それを安定な系で実現するために図2に示す方式が提案されている(非特許文献4)。図2に示すように、基本リンクを構成する各ノード10、20には、一つの励起状態|e>と2つのエネルギーレベルが縮退した基底状態|sH>、|sV>の3準位を持つ一個の原子A1、A2が配置されている。また、各ノード10、20の間には中継ノード30が設けられている。各ノード10、20と中継ノード30との間には古典通信経路40、41が設けられている。中継ノード30には、2入力2出力の偏波無依存ビームスプリッタBSと、偏波ビームスプリッタP1、P2と検出器D1、D2、D3、D4とが設けられている。
【0008】
各ノード10、20において、励起状態|e>にある原子A1、A2は、等しい確率で、水平偏波(H偏波)の光子を放出し|sH>準位に緩和し、または垂直偏波(V偏波)の光子を放出し|sV>準位に緩和する。このとき、原子の内部状態と光子の状態の間に、次式であらわされる量子もつれ状態が生成される。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、xはノード10、20を示す添え字であり、sxYは|sY>(Y=H,V)状態の生成演算子、axYはY偏波の光子の生成演算子、|0>は真空の量子状態である。これより、全系の量子状態は次式で表される。
【0011】
【数2】

【0012】
ノード10、20の原子A1、A2から出力された光子は、両ノード10、20の中間点にある中継ノード30に配置されたビームスプリッタBSに入力される。ビームスプリッタBSにより、a1Y、a2Yは次のように変換される。
【0013】
【数3】

【0014】
【数4】

【0015】
ここで、添え字A、BはBSの2出力をあらわす。上式を式(2)に代入すると、全系の式は次のように変換される。
【0016】
【数5】

【0017】
ビームスプリッタBSからの出力は2つの経路A、Bを介して偏波ビームスプリッタP1、P2に入力され、ビームスプリッタP1、P2において透過または反射されて検出器D1、D2、D3、D4のいずれかで検出される。ここで、
【0018】
【数6】

【0019】
【数7】

【0020】
である。したがって、式(5)より、検出器D1及びD2またはD3及びD4で光子が同時検出されたとき、中継ノード30から各ノード10、20に古典通信経路40、41を介して同時検出したことを送ることによって、両メモリ間の量子状態は量子もつれ状態 ψ+|0>に射影されることがわかる。同様に、検出器D1及びD3またはD2及びD4で光子が同時検出されたときは、中継ノード30から各ノード10、20に古典通信経路40、41を介して同時検出したことを送ることによって、ノード10とノード20の間に量子もつれ状態ψ-|0>が生成される。このように中継ノードに配置された光子検出器の同時計数により、量子もつれ状態が量子メモリ間に生成されたことを知ることができ、基本リンクを実現することができる。
【0021】
本方式は、非特許文献5において、各ノード10、20の原子A1、A2として単一のイットリビウム(Yb)イオンを用いた系により実験され、基本リンクの生成に成功している。また、非特許文献6では、ルビジウム(Rb)の原子集団を用いて、式(1)に示す光子-原子の内部状態のもつれ状態を近似的に生成し、同じく基本リンクの生成実験を報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】H.J.Briegel、W.Dur、J.I.Cirac、and P.Zoller、“quantum repeaters:the role of imperfect local operation in quantum communication、”Phys.Rev.Lett.81、5932−5935(1998).
【非特許文献2】J.W.Pan、D.Bouwmeester、H.Weinfurter、and A.Zeilinger、“Experimental entanglement swapping:entangling photons that never interacted、”Phys.Rev.Lett.80、3891−3894(1998).
【非特許文献3】C.H.Bennett、G.Brassard、and N.D.Mermin、“quantum cryptography without Bell’s theorem、”Phys.Rev.Lett.68、557(1992).
【非特許文献4】C.Simon and W.T.M.Irvine、“Robust long−distance entanglement and loophole−free Bell test with ions and photon、”Phys.Rev.Lett.91、110405(2003).
【非特許文献5】D.L.Moehring、P.Maunz、S.Olmschenk、K.C.Younge、D.N.Matsukevich、L.−M.Duan、and C.Monroe、“Entanglement of single−atom quantum bits at a distance、”Nature449、68−71(2007).
【非特許文献6】Z.S.Yuan、Y.A.Chen、B.Zhao、S.Chen、J.Schmiedmayer、and J.W.Pan、“Experimental demonstration of a BDCZ quantum repeater node、”Nature454、1098−1101(2008).
【非特許文献7】H.de Riedmatten、I.Marcikic、V.Scarani、W.Tittel、H.Zbinden、and N.Gisin、“Tailoring photonic entanglement in high−dimensional Hilbert spaces、”Phys.Rev.A69、050304(R)(2004).
【非特許文献8】H.de Riedmatten、M.Afzelius、M.U.Staudt、C.Simon、and N.Gisin、“A solid−state light−matter interface at the single−photon level、”Nature456、773−777(2008).
【非特許文献9】M.Afzelius、C.Simon、H.de Riedmatten、and N.Gisin、“Multimode quantum memory based on atomic frequency combs、”Phys. Rev.A79、052329(2009).
【非特許文献10】B.Miquel and H.Takesue、“Observation of 1.5 μm band entanglement using single photon detectors based on sinusoidally gated InGaAs/InP avalanche photodiodes、”New J.Phys.11、045006(2009).
【非特許文献11】W.Tittel、J.Brendel、H.Zbinden、and N.Gisin、“quantum cryptography using entangled photons in energy−time Bell states、”Phys.Rev.Lett.84、4737−4740(2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図2に示した従来の例では、識別不可能な光子を出力可能な原子A1、A2などの複数の単一量子系を用意する必要がある。非特許文献5の実験では、これを実現するために、単一Ybイオンをレーザー冷却によりドップラー限界まで冷却している。このような冷却装置は、大規模かつ高コストであるため、通信装置への適用には不適であるという課題があった。
【0024】
非特許文献6の実験では、冷却したRb原子集団を用いて、光子と原子の内部状態のもつれを確率的に生成している。そのため、必ずしも常に単一の光子が出力されるとは限らず、確率的に2光子またはそれ以上の光子が発生する。このとき、中継ノードにおいて同時計数が観測されても、2つの原子集団の間にはψ±|0>以外の状態が生成され、量子通信の誤りを引き起こす。そのため、光子-原子のもつれ状態の励起確率をpとすると、2個以上の光子が発生する確率は〜p2で与えられるので、1より十分小さいpを用い、多光子発生に起因する誤りを小さくするのが一般的であり、典型的にはp〜0.01程度が用いられる。しかし、それぞれ2つの独立した原子集団から発生した2個の単一光子が、中継ノードにおいて同時計数を引き起こす確率もまたp2に比例する。よって、原子集団を用いたこの手法では、基本リンクの生成確率(p2に比例)が小さく、量子通信の高速化が困難であるという課題があった。
【0025】
また、上記の2つの実験は、生成する光子の波長は光ファイバ通信に適した波長帯(1.5μmまたは1.3μm帯)から外れているため、これらの実験系を実システムに適用して長距離光ファイバ上で基本リンクを生成することは困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、量子通信システムであって、光子の発生時刻に関し相関のある光子対を、パルス間隔Δtで、N(Nは3以上の整数)個の連続した2つのパルス状にN連相関光子対パルス列を発生する光子対発生器と、前記光子対発生器から出力されるN連相関光子対パルス列を構成する一方のN連パルス列の量子状態を保存する量子メモリとをそれぞれ有する2つのノードと、2個の入力ポートと2個の出力ポートを備えるビームスプリッタと、前記ビームスプリッタの出力ポートのそれぞれに接続された第1の光子検出器と第2の光子検出器と、前記2つのノードの光子対発生器から出力される光子対の他方の光子を、それぞれ前記ビームスプリッタの2個の入力ポートに入力する手段とを備える中継ノードと、前記2つのノードのそれぞれから前記中継ノードへ前記光子をそれぞれ送付するための光伝送路と、前記2つのノードのそれぞれと中継ノードとの間で古典的に情報をそれぞれ通信するための古典通信回線とを備え、前記2つノードのそれぞれは前記光伝送路を経由して前記中継ノードへ互いに識別不能な光子を含む前記N連パルス列をそれぞれ送付し、前記中継ノードは、第1の光子検出器がk(kは1以上N未満の整数)番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出するか、もしくは第1の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk番目のパルスにおいて光子を検出する第1の検出状態となったとき、または第1の光子検出器または第2の光子検出器のいずれかにおいて、k番目およびk+1番目のパルスにおいて連続して光子を検出する第2の検出状態となったときは、前記古典通信回線を介して前記第1の検出状態または前記第2の検出状態のうちのいずれの検出状態が起こったかの情報を前記2つのノードそれぞれに送付することにより、前記2つのノードに配置された前記2つの量子メモリにおいてk番目とk+1番目のパルスからなる量子状態間に、時間位置に関する量子もつれ状態を生成することにより2つのノード間にリンクを形成することを特徴とする。
【0027】
上記の課題を解決するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の量子通信システムのノードを用いて生成された量子もつれ状態により形成されたリンクを2つ隣接せさて、該2つのリンクを接続する量子通信システムであって、第1のリンクは、第1のノードと他方のリンクと隣接する第2のノードとを有し、前記第1のノードの量子メモリ中のk1(k1は任意の自然数)番目のパルスとk1+1番目のパルスとからなる量子状態と、第2のノードの量子メモリ中のk’1(k’1は任意の自然数)番目のパルスとk’1+1番目のパルスからなる量子状態との間に時間位置に関する量子もつれ状態を生成しており、第2のリンクは、前記第1のリンクと隣接する第3のノードと第4のノードとを有し、前記第3のノードが有する量子メモリ中のk2(k2は任意の自然数)番目のパルスとk2+1番目のパルスとからなる量子状態と、第4のノードが有する量子メモリ中のk’2(k’2は任意の自然数)番目のパルスとk’2+1番目のパルスとからなる量子状態との間に時間位置に関する量子もつれ状態を生成しており、前記隣接する第2のノードと第3のノードとはそれぞれ、前記量子メモリの量子状態を光子に変換して出力する光子変換手段を備え、前記隣接する第2のノードと前記第3のノードとの間に、2個の入力ポートと2個の出力ポートを備えるビームスプリッタと、前記ビームスプリッタの出力ポートに接続された第1の光子検出器と第2の光子検出器とを備え前記光子変換手段は、前記第2のノードにおけるk’1及びk’1+1番目のパルスからなる量子状態と、前記第3のノードにおけるk2及びk2+1番目のパルスからなる量子状態を、前記ビームスプリッタに同時刻tに到着し、かつパルス間隔が等しくΔtとなるよう到着時刻及びパルス間隔を制御して互いに識別不能な光子を含む前記パルス列として前記ビームスプリッタへそれぞれ送付し、前記第1の光子検出器及び第2の光子検出器は、前記第1の光子検出器が時刻tにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器が時刻t+Δtにおいて光子を検出したとき、第1の光子検出器が時刻t+Δtにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器が時刻tにおいて光子を検出したとき、または第1の光子検出器または第2の光子検出器のいずれかで時刻tと時刻t+Δtにおいて連続して光子を検出したときは、時刻tおよび時刻t+Δtにおいて光子を検出したことを第2ノードと第3ノードに送付することにより、前記第1のノードの量子メモリ中のk1番目及びk1+1番目のパルスからなる量子状態と、第4のノードの量子メモリ中のk’2番目及びk’2+1番目のパルスからなる量子状態との間に、時間位置もつれ状態を生成することにより前記2つのリンクを接続することを特徴とする。
【0028】
上記の課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、量子中継システムであって、長さLの光伝送路を、2n(nは自然数)個の区間に分割し、長さL/2nの各区間を請求項1に記載された量子通信システムで形成し、前記2n個の区間を、隣接する2個ずつでペアにして、請求項2に記載の量子通信システムにより、長さL/2n−1の各区間の両端のノード間に配置された量子メモリ間に時間位置もつれ状態を共有するリンクを2n−1個生成し、長さLの光伝送路の両端のノードに配置された量子メモリ間に時間位置もつれ状態を共有することを特徴とする。
【0029】
上記の課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、ユーザ1とユーザ2との間で量子暗号鍵を共有する量子鍵配送システムであって、請求項3に記載の量子中継システムと、前記量子中継システムの両端ノードのうちの一方のノードの出力に接続された2つの出力ポートを有する遅延時間Δtの1ビット遅延干渉計と、該2つの出力ポートに接続された2つの光子検出器と、前記両端のノード間で古典通信をするための古典通信回線とを備えたユーザ1のサイトと、前記量子中継システムの両端のノードのうちの他方のノードの出力に接続された2つの出力ポートを有する遅延時間Δtの1ビット遅延干渉計と、該2つの出力ポートに接続された2つの光子検出器と、前記両端のノード間で古典通信をするための古典通信回線とを備えたユーザ2のサイトとを備え、前記2つのサイトはそれぞれ、前記量子中継システムの前記両端のノードに配置された量子メモリ間に時間位置もつれを生成させた後、前記両端のノードの量子メモリ中の量子状態を光子に変換し、前記1ビット遅延干渉計に入力する手段と、前記1ビット遅延干渉計に入力された光子を前記光子検出器で測定を行なう測定手段とを備え、前記ユーザ1のサイトと前記ユーザ2のサイトとは、前記測定手段において各測定がどの測定基底で行われたかの情報を古典通信回線17を介して互いに送信し、互いの測定基底が一致した測定結果に0または1のビットのいずれかを割り振ることにより、ランダムなバイナリビット列を両ユーザで共有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、長距離の量子通信システムや量子鍵配送システムの高速化が可能である。また、従来の手法に比べ、より簡易な技術を用いてこれらのシステムを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】量子中継を説明するための概念図である。
【図2】従来の量子通信システムのリンクを形成する手法を示す図である。
【図3】本発明の量子通信システムの第1の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の量子通信システムの第2の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の量子中継システムにより量子鍵配送を行う手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
本発明の量子通信システムの第1の実施形態を図3に示す。本実施形態は、図1(b)の基本リンクを構成するために2つのノード(ノード1とノード2)の間で量子もつれ状態を生成する態様である。本実施形態の量子通信システムは、ノード1、2と、中継ノード5と、各ノード1およびノード2と中継ノード5とを接続する光伝送路L1、L2と、各ノード1およびノード2と中継ノード5とをそれぞれ接続する古典通信回線12、13、14とを備えて構成される。
【0034】
ノード1とノード2にはそれぞれ、連続的時間位置もつれ光子対発生装置S1、S2と量子メモリQM1、QM2とが設けられている。連続的時間位置もつれ光子対発生装置S1、S2は、時間Δtのパルス間隔で、その量子状態が近似的に次式で表されるシグナル-アイドラ光子対のパルス列を発生する(非特許文献7)。ノード1とノード2で発生されるこのパルス列は、同じスロット番号のパルスが中継ノードのビームスプリッタBSに同時に到着するように同期されている。このパルス列の同期には、例えば古典通信回線14を用いることができる。
【0035】
【数8】

【0036】
ここで、Nは3以上の整数、axm,k、jはノードx(=1、2)の光子対発生装置S1、S2の、モードy(=s:signal、i:idler)、j番目のパルスにおける生成演算子である。またノード1とノード2の連続的時間位置もつれ光子対発生装置S1、S2が発生するシグナル光子同士あるいはアイドラ光子同士は識別不可能であるように調整されている。このような連続的時間位置もつれ光子対発生装置S1、S2としては、例えば非線形効果を有する物質である非線形媒質に対して、ポンプ光を入力して量子もつれ状態にあるシグナル光とアイドラ光を発生させ、これらの光をフィルタで調整して出力する構成を採用することができる。
【0037】
ノード1、2において、シグナル光子Ps1、Ps2は出力後すぐに各ノード1、2に配置された量子メモリQM1、QM2にそれぞれ保存される。ここで、量子メモリQM1、QM2は、N個のパルスからなるシグナル光子Ps1、Ps2の量子状態を、その時間波形を保持したまま保存することができる、いわゆる時間領域におけるマルチモード量子メモリであり、また保存された量子状態を任意の時刻において再度光子に変換して出力するメモリを用いることができる。このような量子メモリとしては、例えば非特許文献8において報告されている量子メモリを用いることができる。
【0038】
このとき、全系の量子状態は、近似的に次式で表される。
【0039】
【数9】

【0040】
ここで、axm,kはノードxの量子メモリのk番目のパルス位置における生成演算子であり、アイドラ光子の生成演算子の添え字iは省略した。
【0041】
ノード1、2において生成されたアイドラ光子Pi1、Pi2は、それぞれ光伝送路L1、L2を介して中継ノード5に送付される。なお、ノード1、2において生成されたシグナル光子、アイドラ光子のいずれを光伝送路L1、L2に送出してもよいが、シグナル光子、アイドラ光子のうち同じ方の光子をノード1とノード2とが送ることとなる。中継ノード5には、図3に示すように、光伝送路L1、L2からの光子を入力して、分岐して出力する2入力2出力を有するビームスプリッタBS(以下、単にビームスプリッタBSという)を備えている。さらにビームスプリッタBSの2出力ポートに分岐経路A、Bを介して接続された2台の光子検出器D1、D2が備えられている。中継ノード5に到達したアイドラ光子Pi1、Pi2は、それぞれビームスプリッタBSの異なるポートに入力され、以下に述べる方法でBSMが行われる。
【0042】
式(9)の状態は2光子のベル状態の生成演算子
【0043】
【数10】

【0044】
及び
【0045】
【数11】

【0046】
を用いて次式(10)のようにあらわされる。
【0047】
【数12】

【0048】
ここで、時間位置が1スロット以上離れた2状態の積を生成する項は省略した。時間位置が1スロット以上離れた2状態の積を生成する項は、1bit遅延干渉計(第4の実施形態参照)を用いたもつれ観測においては観測されないので、考慮しなくてよいからである。また、規格化項も簡単のため省略している。式(3)、(4)と同様に、ビームスプリッタBSによりa1,k、a2,kは次式(11)、(12)のように変換される。
【0049】
【数13】

【0050】
【数14】

【0051】
上記の変換を用いると、ベル状態φk±|0>で表される2光子は、ビームスプリッタBSを通過すると次式(13)のように変換されることがわかる。
【0052】
【数15】

【0053】
このように、2光子は常に同じポートの同一時刻に出力されるため、図3に示すビームスプリッタBSと光子検出器D1、D2によるBSM測定ではこれらの状態は弁別できない。
【0054】
一方、ベル状態ψ+k|0>の場合、ビームスプリッタBS通過後の状態は次式(14)のようになる。
【0055】
【数16】

【0056】
このように、2光子はビームスプリッタBSの同じポートの異なる時間モードに出力される。よって、連続するパルス中に入っている2光子を両方測定可能な光子検出器D1、D2を用いればこの状態は弁別可能である。式(14)に示す状態のときには、光子検出器D1または光子検出器D2のいずれか一方でk番目とk+1番目の連続したパルスにおいて光子検出がされることとなる(図示せず)。
【0057】
上記式(14)で示す光子検出をしたときに、光子検出器D1または光子検出器D2のいずれか一方でk番目とk+1番目の連続したパルスにおいて光子検出がされたとの情報を検出結果としてノード1およびノード2に送る。このとき、ノード1の量子メモリとノード2の量子メモリとの間には、k番目とk+1番目のパルスにおいて次式(15)で示す時間位置もつれ状態が生成される。
【0058】
【数17】

【0059】
また、ψ-k|0>がビームスプリッタBSに入力されると、出力状態は次式(16)のようになる。
【0060】
【数18】

【0061】
すなわち、この状態は、検出器D1とD2との間で連続したパルスにおける光子検出をもたらすため、簡単に弁別可能である。式(16)に示す状態のときには、光子検出器D1と光子検出器D2でk番目とk+1番目の連続したパルス列で光子検出を行うこととなる。具体的には、光子検出器D1がk番目のパルスにおいて光子検出し、かつ光子検出器D2がk+1番目のパルスにおいて光子検出を行うこととなるか、または光子検出器D1がk+1番目のパルスにおいて光子検出し、かつ光子検出器D2がk番目のパルスにおいて光子検出を行うこととなる。なお、図3には、k番目のパルスにおいて検出器D1で光子検出し、かつk+1番目のパルスにおいて検出器D2で光子検出している様子が示されている。
【0062】
上記式(16)で示す光子検出をしたときに、光子検出器D1と光子検出器D2でk番目とk+1番目の連続したパルスにおいて光子検出したとの情報を検出結果としてノード1およびノード2に送る。このとき、ノード1の量子メモリとノード2の量子メモリとの間には、k番目とk+1番目のパルスにおいて次式(17)で示す時間位置もつれ状態が生成されている。
【0063】
【数19】

【0064】
以上より、中継ノード5に到達しビームスプリッタBSに入力された2光子は、両光子検出器D1、D2の検出確率を共にηとすると、η2/2の確率でψ±k|0>に射影される。k番目とk+1番目の連続したパルスにおいて光子を検出したという検出結果を古典通信路によりノード1とノード2に送付することにより、ノード1とノード2のそれぞれに配置された量子メモリ間に式(15)または式(17)であらわされる時間位置もつれ状態を生成することができ、量子中継の基本リンクを実現することが可能となる。
【0065】
本手法による基本リンクは、非特許文献6に記載された実験におけるように、確率的に光子対を発生する光子対発生装置を用いているため、多光子発生による誤りが発生する。これを抑圧するため、1パルスあたりの光子対の平均数μを十分小さく(典型的には0.01程度)に抑える必要がある。そのため、基本リンクの生成確率はμ2に比例し、1パルスあたりに換算した確率は非特許文献6と同様、小さくなる。しかし、本手法ではN個のパルスからなる連続的時間位置もつれ光子対を用いており、そのうち一組のk、k+1番目のパルスにおける光子検出を観測すればよい。
【0066】
ノード1と中継ノード5との間、ノード2と中継ノード5との間の光伝送路L1、L2の透過率を共にα、中継ノード5の光子検出器D1、D2の検出効率を共にηとする。このとき、ノード1及びノード2からの光子が中継ノード5に届き、もつれを生成するパルスあたりの確率は近似的に次式で与えられる。
【0067】
【数20】

【0068】
μ=0.01、ノード1、2と中継ノード間にそれぞれ50kmの光ファイバ伝送路(1kmあたり損失0.2dBを仮定)を備えており、η=1と仮定すると、p=10-6となる。時間領域で単一モードの量子メモリを使用している非特許文献6の方式におけるもつれ生成確率も同等である。一方、本発明のように、N連の連続的時間位置もつれ状態を用いている場合、N<106であれば、もつれ生成確率pseq
【0069】
【数21】

【0070】
となり、N倍の基本リンク生成確率増大を実現できる。非特許文献9においては、N=100程度の量子メモリが実現可能であることが報告されている。よって、本手法により高速な量子中継システムを構築可能である。
【0071】
また、本実施形態は、非特許文献5や非特許文献6において報告された従来の手法と比較して、より簡易な技術を用いて実現可能であるという利点も有する。連続的時間位置もつれ光子対の発生は、自然放出パラメトリック下方変換(非特許文献7)や自然放出四光波合(非特許文献10参照)を用いて既に実現されている。また、非特許文献8において報告された量子メモリは固体素子に基づくものであり、原子を用いた非特許文献5や非特許文献6の方式に比べ、将来的なシステムへの適用が容易であることが予想される。
【0072】
さらに、本実施形態によれば、連続的時間位置もつれ光子対の発生は、自然放出パラメトリック下方変換(非特許文献7)や自然放出四光波合(非特許文献10参照)を用いて実現するので、波長の調整が比較的容易であり、光子の波長を光ファイバ通信に適した波長帯(1.5μmまたは1.3μm帯)に調整することが可能である。
【0073】
(第2の実施形態)
本発明の量子通信システムの第2の実施形態を図4に示す。本実施形態は、図1(b)の基本リンクを接続して図1(c)、(d)に示すようなネスティングを構成する形態である。
【0074】
図4において、リンクaはノード1およびノード2により構成されたリンクであり、リンクbはノード3およびノード4により構成されたリンクである。これらのノード1、2、3、4は第1の実施形態と同様にそれぞれ量子メモリを有し、各々のリンクa、bの両端のノード1、2間およびノード3、4間でそれぞれ量子もつれ状態を共有している。本実施形態の各リンクa、bでは、第1の実施形態の量子通信システムにより、リンクaのk及びk+1番目のパルス、及びリンクbのk’及びk’+1番目のパルスにおいて式(17)で表される量子もつれ状態が生成されている。
【0075】
ノード2とノード3は同一の場所であるサイト6にある。サイト6には隣接するノード2とノード3の間に、2入力2出力の偏波無依存ビームスプリッタBSと、その2出力に接続された光子検出器とを配置している。また、ノード2、ノード3のそれぞれからビームスプリッタBSまでの距離は十分小さい。
【0076】
ノード2及びノード3に配置された量子メモリに保存されている量子状態は共に光子に再変換され、ビームスプリッタBSの異なるポートへそれぞれ入力される。ここで、光子への再変換の際、ノード2からの光子のk番目のパルスとノード3からの光子のk’番目のパルスが、ビームスプリッタBSにおいて同一時刻に入力されるように光子の出力時刻を調整する。この調整のために、古典通信回線15、16を用いることができる。
【0077】
ここでは、これらのパルスが同一時刻tに到着するとし、パルス間隔は共にΔtであるとする。このとき、全系の量子状態は次のようになる。
【0078】
【数22】

【0079】
ここで、ax(t)は時刻tにおいてパルス状の時間波形を有する光子を生成する演算子であり、添え字xは各ノード番号を表す。この状態は、ビームスプリッタBSに入力された2光子が形成するベル状態の生成演算子
【0080】
【数23】

【0081】
及び
【0082】
【数24】

【0083】
を用いて次式(21)のようにあらわされる。
【0084】
【数25】

【0085】
式(3)、(4)と同様に、BSによりa2(t)、a3(t)は次式(22)、(23)のように変換される。
【0086】
【数26】

【0087】
【数27】

【0088】
上式によると、第1の実施形態と同様の計算により、状態ψ±23|0>がビームスプリッタBSに入力したときは弁別できないことがわかる。
【0089】
また、状態ψ+23|0>が入力された場合、BS通過後の状態は、
【0090】
【数28】

【0091】
となる。この状態は、光子検出器D1または光子検出器D2のいずれかにおいて、連続する2つのパルスにおける光子検出をもたらすから、この状態は弁別可能である。式(24)で表される状態のとき、光子検出器D1または光子検出器D2のいずれかにおいて、時刻tおよび時刻t+Δtにおいて光子検出することとなる。
【0092】
上記式(24)で示す光子検出をしたときに、光子検出器D1または光子検出器D2のいずれかにおいて、時刻tおよび時刻t+Δtにおいて光子検出したとの情報を検出結果としてノード2とノード3に送る。このとき、ノード1とノード4の量子メモリ間には次式の時間位置もつれ状態が生成される。
【0093】
【数29】

【0094】
一方ψ-23|0>がBSに入力されると、出力状態は次のようになる。
【0095】
【数30】

【0096】
すなわち、この状態は、光子検出器D1とD2の間で、Δt離れた時刻における光子検出をもたらすため、簡単に弁別可能である。式(26)で表される状態のとき、光子検出器D1と光子検出器D2で時刻tと時刻t+Δtの連続した時刻で光子検出を行うこととなる。具体的には、光子検出器D1が時刻tにおいて光子検出し、かつ光子検出器D2が時刻t+Δtにおいて光子検出を行うこととなるか、または光子検出器D1が時刻t+Δtにおいて光子検出し、かつ光子検出器D2が時刻tにおいて光子検出を行うこととなる。なお、図4には、時刻tのパルスにおいて光子検出器D1で光子検出し、かつ時刻t+Δtのパルスにおいて光子検出器D2で光子検出している様子が示されている。
【0097】
上記式(26)で示す光子検出をしたときに、光子検出器D1と光子検出器D2で時刻tと時刻t+Δtの連続した時刻において光子検出したとの情報を検出結果としてノード1およびノード4に送る。このとき、ノード1とノード4の量子メモリ間には次の時間位置もつれ状態が生成される。
【0098】
【数31】

【0099】
以上より、BSに入力された2光子は、両光子検出器D1、D2の検出確率を共にηとすると、η2/2の確率でψ±23|0>に射影される。その結果を古典通信路によりノード1と4に送付することにより、両ノード1、4の量子メモリ間に式(25)または(27)であらわされる時間位置もつれ状態を生成することができる。これにより、リンクaとリンクbを接続し、量子もつれを共有しているリンクを長距離化することができる。
【0100】
本実施形態では、リンクa、bにおいて、共に式(17)のもつれ状態が生成されていると仮定したが、両リンクのもつれ状態が、式(15)、(17)のいかなる組み合わせとなっていても上に述べたのと同様の手続きでリンクを接続することが可能である。
【0101】
また、本実施形態では、リンクa、bのもつれ状態の生成には、第1の実施形態のシステムを用いることを仮定したが、本実施形態により接続した、式(25)または(27)のもつれ状態が生成されているリンクを、さらに本実施形態の手法を用いて接続し、さらなるリンクの長距離化を行うことも可能である。
【0102】
(第3の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態および第2の実施形態で述べた量子通信システムを組み合わせて、図1において説明した量子中継システムを実現する態様である。
【0103】
長さLの伝送路を2nのリンクに分割し、各リンクの両端に量子メモリを含むノードを配置する。まず、第1の実施形態の量子通信システムを用いて、各リンクの両端のノード間に時間位置もつれを分配する。
【0104】
次に、隣接する基本リンクを2個づつペアとし、リンクのペア毎に第2の実施形態の量子通信システムを用いて、リンクを接続する。これをn回繰り返すことにより、最終的には長さLの伝送路の両端のノードに配置された量子メモリ間に時間位置もつれ状態を生成することにより長さLの量子通信システムができる。
【0105】
(第4の実施形態)
本実施形態は、第3の実施形態の量子中継システムにより生成した、長さLの伝送路の両端のノードに配置された量子メモリ間の時間位置もつれ状態を用いて、量子鍵配送を行う態様である。本実施形態を説明する図を図5に示す。本実施形態ではノード1からノードZによって量子中継システムが構成されている。
【0106】
サイト7は、ノード1に加えて1ビット遅延干渉計とその出力ポートに接続された光子検出器D1xおよびD1yとをさらに有している。サイト8は、サイト7と同様に、ノードZに加えて1ビット遅延干渉計と光子検出器DZxおよびDZyとをさらに有している。
【0107】
ノード1に配置されている量子メモリ中にはk番目及びk+1番目のパルスからなる量子状態が、ノードZに配置されている量子メモリ中にはk’番目及びk’+1番目のパルスからなる量子状態が保存されており、それらの間に時間位置もつれ状態が生成されている。両ノードのメモリに保存された量子状態は、光子に変換され、それぞれ1ビット遅延干渉計に入力される。
【0108】
1ビット遅延干渉計の2出力ポートは、それぞれ光子検出器に接続されている。1ビット遅延干渉計の2出力ポートをx、yと区別すると、本干渉計により、生成演算子ak(k番目のパルスにおける生成演算子)は次のように変換される。
【0109】
【数32】

【0110】
ここで、as,tの添え字sは出力ポート、tはパルス番号を示す。量子メモリから出力された2光子が次式で表される時間位置もつれ状態にあるとする。ただし、添え字1はノード1から、ZはノードZから出力された光子であることを示す。
【0111】
【数33】

【0112】
kとk+1番目(またはk’とk’+1番目)の2パルスからなる量子状態を持つ光子が1ビット遅延干渉計を通過すると、出力ではk番目、k+1番目、k+2番目の3個の時間スロットにおいて光子を検出する可能性がある。ここでは非特許文献11の量子鍵配送実験での呼び方にならい、k番目またはk+2番目のスロットでの光子検出を時間基底における測定、k+1番目のスロットでの光子検出をエネルギー基底における測定と呼ぶことにする。以下に説明するように、時間位置もつれ光子対の測定においては、両方の光子が同一の基底で測定された場合、その測定結果には相関がある。式(29)の量子状態を式(28)を用いて変換すると、
【0113】
【数34】

【0114】
ここで、両光子の測定基底が異なる項は省略した。また、規格化項は簡単のため省略している。右辺第1項、第2項がエネルギー基底における同時計数、残りの項が時間基底における同時計数である。各項の振幅より、時間基底における同時計数と、エネルギー基底における同時計数は同じ確率で生じることがわかる。
【0115】
式(30)によると、エネルギー基底で2光子が同時計数された場合、光子が検出されるポートには常に負の相関がある(すなわち、常に互いに逆のポートで光子が検出される)ことがわかる。また、時間基底における同時計数においては、一方の光子がk(またはk’)において検出されれば、他方は常にk+2(またはk’+2)において観測されている。すなわち、検出される時間位置に常に負相関がある。
【0116】
以上の性質を用いて、以下の手順で量子中継システムの両端のユーザ間でランダムな0/1のビット列からなる暗号鍵を共有することができる。
【0117】
1.第3の実施形態の量子中継システムの両端に、図5に示すように、ノード1の出力に接続された1ビット遅延干渉計と、この干渉計に接続された光子検出器とを備えたユーザ1が管理するサイト7と、同様に、ノードZの出力に接続された1ビット遅延干渉計と、この干渉計に接続された光子検出器とを備えたユーザ2が管理するサイト8を用意する。また、サイト7とサイト8との間には古典通信回線がある。
【0118】
2.第3の実施形態の量子中継システムを用いて時間位置もつれをノード1及びノードZに配置された量子メモリ間に生成する。ノード1及びノードZでは、量子メモリ中の量子状態を光子に変換し、上に述べた手法で測定する。これを多数回繰り返し、各測定における測定結果(どの時間位置で、かつどのポートにおいて光子が検出されたか)を記録する。
【0119】
3.サイト7及びサイト8は、古典通信回線17を介して、各測定がどの測定基底で行われたかの情報を互いに開示する。このとき、光子検出の時間位置及びポートは開示しない。
【0120】
4.サイト7及びサイト8は、互いの測定基底が(偶然に)一致した測定結果を残し、不一致の測定結果は破棄する。上に述べた時間位置もつれの特性により、残った測定結果には相関がある。この測定結果に0/1のビットを割り振る。
【0121】
以上の手順により、ランダムなバイナリビット列をユーザ1とユーザ2との間で共有することができる。
【符号の説明】
【0122】
1、2、3、4、10、20 ノード
5、30 中継ノード
BS、P1、P2 ビームスプリッタ
12、13、14、15、16、17、40、41 古典通信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子の発生時刻に関し相関のある光子対を、パルス間隔Δtで、N(Nは3以上の整数)個の連続した2つのパルス状にN連相関光子対パルス列を発生する光子対発生器と、前記光子対発生器から出力されるN連相関光子対パルス列を構成する一方のN連パルス列の量子状態を保存する量子メモリとをそれぞれ有する2つのノードと、
2個の入力ポートと2個の出力ポートを備えるビームスプリッタと、前記ビームスプリッタの出力ポートのそれぞれに接続された第1の光子検出器と第2の光子検出器と、前記2つのノードの光子対発生器から出力される光子対の他方の光子を、それぞれ前記ビームスプリッタの2個の入力ポートに入力する手段とを備える中継ノードと、
前記2つのノードのそれぞれから前記中継ノードへ前記光子をそれぞれ送付するための光伝送路と、
前記2つのノードのそれぞれと中継ノードとの間で古典的に情報をそれぞれ通信するための古典通信回線とを備え、
前記2つノードのそれぞれは前記光伝送路を経由して前記中継ノードへ互いに識別不能な光子を含む前記N連パルス列をそれぞれ送付し、
前記中継ノードは、
第1の光子検出器がk(kは1以上N未満の整数)番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出するか、もしくは第1の光子検出器がk+1番目のパルスにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器がk番目のパルスにおいて光子を検出する第1の検出状態となったとき、または
第1の光子検出器または第2の光子検出器のいずれかにおいて、k番目およびk+1番目のパルスにおいて連続して光子を検出する第2の検出状態となったときは、前記古典通信回線を介して前記第1の検出状態または前記第2の検出状態のうちのいずれの検出状態が起こったかの情報を前記2つのノードそれぞれに送付することにより、前記2つのノードに配置された前記2つの量子メモリにおいてk番目とk+1番目のパルスからなる量子状態間に、時間位置に関する量子もつれ状態を生成することを特徴とする量子通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の量子通信システムのノードを用いて生成された量子もつれ状態により形成されたリンクを2つ隣接させて、該2つのリンクを接続する量子通信システムであって、
第1のリンクは、第1のノードと他方のリンクと隣接する第2のノードとを有し、前記第1のノードの量子メモリ中のk1(k1は任意の自然数)番目のパルスとk1+1番目のパルスとからなる量子状態と、第2のノードの量子メモリ中のk’1(k’1は任意の自然数)番目のパルスとk’1+1番目のパルスからなる量子状態との間に時間位置に関する量子もつれ状態を生成しており、
第2のリンクは、前記第1のリンクと隣接する第3のノードと第4のノードとを有し、前記第3のノードが有する量子メモリ中のk2(k2は任意の自然数)番目のパルスとk2+1番目のパルスとからなる量子状態と、第4のノードが有する量子メモリ中のk’2(k’2は任意の自然数)番目のパルスとk’2+1番目のパルスとからなる量子状態との間に時間位置に関する量子もつれ状態を生成しており、
前記隣接する第2のノードと第3のノードとはそれぞれ、前記量子メモリの量子状態を光子に変換して出力する光子変換手段を備え、
前記隣接する第2のノードと前記第3のノードとの間に、2個の入力ポートと2個の出力ポートを備えるビームスプリッタと、前記ビームスプリッタの出力ポートに接続された第1の光子検出器と第2の光子検出器とを備え
前記光子変換手段は、前記第2のノードにおけるk’1及びk’1+1番目のパルスからなる量子状態と、前記第3のノードにおけるk2及びk2+1番目のパルスからなる量子状態を、前記ビームスプリッタに同時刻tに到着し、かつパルス間隔が等しくΔtとなるよう到着時刻及びパルス間隔を制御して互いに識別不能な光子を含む前記パルス列として前記ビームスプリッタへそれぞれ送付し、
前記第1の光子検出器及び第2の光子検出器は、
前記第1の光子検出器が時刻tにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器が時刻t+Δtにおいて光子を検出したとき、
第1の光子検出器が時刻t+Δtにおいて光子を検出し、かつ第2の光子検出器が時刻tにおいて光子を検出したとき、または
第1の光子検出器または第2の光子検出器のいずれかで時刻tと時刻t+Δtにおいて連続して光子を検出したときは、時刻tおよび時刻t+Δtにおいて光子を検出したことを第2ノードと第3ノードに送付することにより、前記第1のノードの量子メモリ中のk1番目及びk1+1番目のパルスからなる量子状態と、第4のノードの量子メモリ中のk’2番目及びk’2+1番目のパルスからなる量子状態との間に、時間位置もつれ状態を生成することにより前記2つのリンクを接続することを特徴とする量子通信システム。
【請求項3】
長さLの光伝送路を、2n(nは自然数)個の区間に分割し、長さL/2nの各区間を請求項1に記載された量子通信システムで形成し、前記2n個の区間を、隣接する2個ずつでペアにして、請求項2に記載の量子通信システムにより、長さL/2n−1の各区間の両端のノード間に配置された量子メモリ間に時間位置もつれ状態を共有するリンクを2n−1個生成し、長さLの光伝送路の両端のノードに配置された量子メモリ間に時間位置もつれ状態を共有することを特徴とする量子中継システム。
【請求項4】
ユーザ1とユーザ2との間で量子暗号鍵を共有する量子鍵配送システムであって、
請求項3に記載の量子中継システムと、
前記量子中継システムの両端ノードのうちの一方のノードの出力に接続された2つの出力ポートを有する遅延時間Δtの1ビット遅延干渉計と、該2つの出力ポートに接続された2つの光子検出器と、前記両端のノード間で古典通信をするための古典通信回線とを備えたユーザ1のサイトと、
前記量子中継システムの両端のノードのうちの他方のノードの出力に接続された2つの出力ポートを有する遅延時間Δtの1ビット遅延干渉計と、該2つの出力ポートに接続された2つの光子検出器と、前記両端のノード間で古典通信をするための古典通信回線とを備えたユーザ2のサイトとを備え、
前記2つのサイトはそれぞれ、
前記量子中継システムの前記両端のノードに配置された量子メモリ間に時間位置もつれを生成させた後、前記両端のノードの量子メモリ中の量子状態を光子に変換し、前記1ビット遅延干渉計に入力する手段と、
前記1ビット遅延干渉計に入力された光子を前記光子検出器で測定を行なう測定手段とを有し、
前記ユーザ1のサイトと前記ユーザ2のサイトとは、前記測定手段において各測定がどの測定基底で行われたかの情報を古典通信回線17を介して互いに送信し、互いの測定基底が一致した測定結果に0または1のビットのいずれかを割り振ることにより、ランダムなバイナリビット列を両ユーザで共有することを特徴とする量子鍵配送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−4955(P2012−4955A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139591(P2010−139591)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人科学技術振興機構「時間位置もつれ光子対を用いた量子通信実験」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】