説明

金型熱量測定方法、温度制御方法、熱量測定装置および温度制御装置

【課題】
従来から、鋳造時における溶融金属の冷却状態の改善を行うために、キャビティ内へ充填された溶融金属に超音波を照射して、溶融金属が凝固する状況を測定し、金型の冷却状態を制御する技術があったが、金型全体の温度状況を検知することができないため、金型の冷却状態を精度良く制御することができず、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することは困難であった。
【解決手段】
金型1内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際に、金型表面11aから超音波を照射し、照射した超音波が金型1の表面11aから金型内部を伝播してキャビティ面11bに到達するまでの時間を計測し、計測した時間に基づいて金型1全体が保持する熱量を算出する金型熱量測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際の、金型熱量測定方法、温度制御方法、熱量測定装置および温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト等の鋳造工程においては、溶融金属が金型のキャビティ内に溶充填された後に冷却されて凝固する際に、金型のキャビティ面近傍の溶融金属が急激に冷却されて先に凝固すると、出来上がった製品内部に残留応力が生じたり、巣が生じたりして、製品の品質低下を招く等の問題が発生する場合がある。
そこで、溶融金属の充填温度の安定化や冷却状態の改善を行うべく、キャビティ内へ充填された溶融金属に超音波を照射して、溶融金属が凝固する状況を測定し、金型の冷却状態を制御する技術が考案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−329611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キャビティ内に充填された溶融金属の凝固状況や冷却状態は、熱容量が大きな金型の温度に大きく影響されるが、前述の特許文献1に記載される技術では、充填された溶融金属の凝固状況のみを測定していたので、金型全体の温度状況を検知することはできないため、金型の冷却状態を精度良く制御することができず、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することは困難であった。
そこで、本発明では、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することができる金型熱量測定方法、温度制御方法、熱量測定装置および温度制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する金型熱量測定方法、温度制御方法、熱量測定装置および温度制御装置は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際に、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射し、照射した超音波が金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を測定し、測定した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を算出する。
これにより、算出した熱量に応じて金型の冷却度合いを調節することができ、溶湯の凝固に大きな影響を与える金型の温度を適切に制御することが可能となる。
【0005】
また、請求項2記載の如く、前記金型表面とキャビティ面との間における超音波伝播経路に、超音波の一部を反射する反射部材を設置し、超音波が金型表面から反射部材へ到達するまでの時間、および金型表面からキャビティ面へ到達するまでの時間を測定して、測定した時間に基づいて、金型表面と反射部材との間の金型熱量、および反射部材とキャビティ面との間の金型熱量を算出し、算出した各金型熱量を用いて、金型全体の熱量分布を求める。
これにより、金型内における各部での必要冷却量を把握することができ、適切な温度制御をして指向性凝固を実現することが可能となる。
【0006】
また、請求項3記載の如く、金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際の金型温度制御方法であって、前記金型内に溶融金属を溶充填してから、溶充填した溶融金属が凝固するまでの間、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射するステップと、照射された超音波が金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面へ到達するまでの時間をリアルタイムに計測するステップと、計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量をリアルタイムに算出するステップと、算出された熱量に応じて、金型近傍に設けられた冷却手段により、金型の温度を制御するステップとを含む。
これにより、溶湯充填後の金型の冷却状況をリアルタイムに把握して、金型の温度制御を適切に行うことが可能となって、溶湯の指向性凝固を実現することができ、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することが可能となる。
【0007】
また、請求項4記載の如く、前記金型温度制御方法は、キャビティへ充填した溶湯が凝固するのに必要な金型の熱量変化を予め設定しておき、リアルタイムに算出される溶湯充填後の金型熱量の変化量が、設定した熱量変化に達すると、金型の型開きを行うステップを、さらに含む。
これにより、溶湯を充填してから凝固するまでに必要な溶湯冷却量を予め求めてけば、溶湯を充填した後の金型の熱量変化が凝固に必要な溶湯冷却量に達した時点で、金型の型開き手段制御して型開きを行うことが可能となる。
そして、溶湯の凝固が完了した直後に金型の型開きを行うことが可能になり、鋳造工程のサイクルタイムを短縮することができる。
【0008】
また、請求項5記載の如く、前記金型温度制御方法は、前記超音波の伝播時間から金型の平均温度を算出し、金型表面または金型内部の適宜箇所に設置した温度測定手段により金型表面または金型内部の適宜箇所の金型温度を測定して、算出した金型の平均温度と測定した金型表面または金型内部の適宜箇所の金型温度とから、金型全体の温度分布を予測するステップを、さらに含む。
これにより、金型の温度分布を容易にリアルタイムで計測することが可能となる。そして、計測した温度分布を監視しておくことで、金型の局所的な過熱や温度低下が発生することを事前に防止することができる。
【0009】
また、請求項6記載の如く、金型表面または金型内部の適宜箇所とキャビティ面との間における超音波伝播経路に、超音波の一部を反射する反射部材を設置し、超音波が金型表面または金型内部の適宜箇所から反射部材へ到達するまでの時間、および金型表面または金型内部の適宜箇所からキャビティ面へ到達するまでの時間を測定して、金型表面または金型内部の適宜箇所と反射部材との間の金型平均温度、および反射部材とキャビティ面との間の金型平均温度を算出し、算出した各金型平均温度と、前記温度測定手段により測定した金型表面およびキャビティ面の金型温度とを用いて、金型全体の温度分布を求める。
これにより、金型内部の複数箇所の温度の計測を行って、正確な温度分布を把握することができ、金型の局所的な過熱や温度低下の発生をより確かに防止することができる。
【0010】
また、請求項7記載の如く、前記温度測定手段が熱電対である。
これにより、温度測定を容易かつ正確に行うことができる。
【0011】
また、請求項8記載の如く、金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際に、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射する超音波照射手段と、超音波照射手段から照射された超音波が、金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を計測する時間計測手段と、計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を算出する算出手段とを備える。
これにより、算出した熱量に応じて金型の冷却度合いを調節することができ、溶湯の凝固に大きな影響を与える金型の温度を適切に制御することが可能となる。
【0012】
また、請求項9記載の如く、金型内に溶融金属を溶充填してから、溶充填した溶融金属が凝固するまでの間、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射する超音波照射手段と、超音波照射手段から照射された超音波が、金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を、リアルタイムに計測する時間計測手段と、計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を、リアルタイムに算出する算出手段と、算出された熱量に応じて、金型の温度を制御する冷却手段とを備える。
これにより、溶湯充填後の金型の冷却状況をリアルタイムに把握して、金型の温度制御を適切に行うことが可能となって、溶湯の指向性凝固を実現することができ、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、算出した熱量に応じて金型の冷却度合いを調節することができ、溶湯の凝固に大きな影響を与える金型の温度を適切に制御することが可能となる。
また、溶湯充填後の金型の冷却状況をリアルタイムに把握して、金型の温度制御を適切に行うことが可能となって、溶湯の指向性凝固を実現することができ、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することが可能となる。
さらに、金型の局所的な過熱や温度低下が発生することを事前に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
図1示す金型1は、内型11と外型12とで構成されており、内型11にはキャビティ13が形成されている。キャビティ13の流入口13aには、射出機2が接続されており、該射出機2のプランジャ2aの移動によりキャビティ13内へ溶湯8を充填するように構成している。
また、外型12における内型11との境界部近傍には、超音波照射手段である超音波センサ5、および冷却管6が埋設されている。
【0015】
超音波センサ5は、内型11の表面11a(即ち超音波センサ5の設置面)からキャビティ13側へ向けて超音波を照射するとともに、内型11内を伝播してキャビティ面11bで反射して戻ってきた超音波を受信するものであり、金型熱量計測装置3と接続されている。
なお、本例における内型11の表面11aとは、外型12と接する内型11の外側面であり、キャビティ面11bとは、キャビティ13を構成する内型11の内側面である。
冷却管6内には冷却水が循環しており、冷却管6内を流れる冷却水量を、冷却水量制御装置4により調節することで、溶湯8をキャビティ13内に充填しての鋳造時における、金型1の冷却温度を制御している。該冷却管6および冷却水量制御装置4にて、金型1の冷却温度を制御する冷却手段を構成している。
【0016】
金型熱量計測装置3は、時間計測手段として、超音波センサ5が超音波を照射した時刻と、キャビティ面11bで反射して戻ってきた超音波を受信した時刻とから、超音波が内型11の表面11aから内型11内部を伝播してキャビティ面11bへ到達するまでの時間を計測するとともに、金型1の熱量算出手段として、この計測した時間に基づいて金型1全体が保持する熱量を算出することが可能である。
この熱量の算出は、金型1内を伝播する超音波の速度が、金型1の温度に依存することを利用したものであり、予め求められた超音波の伝播時間と金型1全体の熱量との関係が金型熱量計測装置3の記憶装置に記憶されている。
【0017】
以上のように構成される、金型熱量計測装置3、冷却水量制御装置4、超音波センサ5、および冷却管6等により、金型1の温度制御装置が構成されている。また、温度制御装置のうち、超音波センサ5、および金型熱量計測装置3は、金型熱量測定装置の機能をも備えている。
この金型1の温度制御装置による金型の温度制御方法を、図2に示すフローに従って、以下に説明する。
【0018】
まず、鋳造を開始する前の事前準備として、前述のように、金型熱量計測装置3により超音波の金型1内の伝播時間と金型1全体の熱量との関係を求め、その関係式を導出して金型熱量計測装置3に記憶しておく(S01)。
また、鋳造時における各時点での最適な金型1の温度を示す、最適冷却曲線を金型熱量計測装置3により導出する(S02)。
【0019】
鋳造作業の開始後は、溶湯8をキャビティ13へ充填する前に、超音波が内型11の表面11aから内型11内部を伝播してキャビティ面11bへ到達するまでの時間を、金型熱量計測装置3により計測し(S03)、計測した時間に基づいて、溶湯充填前の金型1全体が保持する熱量を算出する(S04)。
この金型1の熱量は、ステップS03にて計測した超音波の到達時間を、ステップS01にて導出した「超音波の伝播時間と金型1全体の熱量との関係式」に当て嵌めて算出する。
【0020】
次に、キャビティ13内に溶湯8を充填し、溶湯充填後に超音波センサ5から超音波を照射して、超音波が内型11の表面11aからキャビティ面11bへ到達するまでの時間を、金型熱量計測装置3により計測する(S05)。
そして、計測した到達時間を前述の「超音波の伝播時間と金型1全体の熱量との関係式」に当て嵌めて、溶湯充填後の金型1の全体熱量を算出する(S06)。
【0021】
さらに、金型熱量計測装置3により、ステップS06にて算出した溶湯充填後の金型1の全体熱量と、ステップS04で算出した溶湯充填前の金型1の全体熱量とを比較し、溶湯充填前後での熱量変化を算出する。この金型1の熱量変化を、充填された溶湯8から奪われた熱量である溶湯冷却量とする(ステップS07)。
算出された溶湯冷却量とステップS02にて導出された最適冷却曲線とを比較して、該溶湯冷却量と最適冷却曲線から判る最適冷却量との差を金型熱量計測装置3にて算出する(S08)。
【0022】
そして、算出された冷却量の差を冷却水量制御装置4にフィードバックして、該冷却水量制御装置4により、その差分を埋めるように、すなわちステップS07で算出される溶湯冷却量が最適冷却量となるように、冷却管6を流れる冷却水量を制御して、金型1の温度の制御を行う(S09)。
以降、充填した溶湯8が凝固するまでの間、ステップS05からS09までのフローを繰り返し、溶湯8が凝固した後は型開きして製品を取り出す。
【0023】
このように、溶湯8をキャビティ13へ充填する前および充填した後に、それぞれ金型1の内型11の表面11aから超音波を照射し、照射した超音波が表面11aから内型11内部を伝播してキャビティ13の内面となるキャビティ面11bに到達するまでの時間を計測し、計測した時間に基づいて金型1全体が保持する熱量を算出している。
これにより、算出した熱量に応じて冷却管6を流れる冷却水量を制御して金型1の冷却度合いを調節することができ、溶湯8の凝固に大きな影響を与える金型1の温度を適切に制御することが可能となる。
【0024】
さらに、溶湯8をキャビティ13へ充填した後、前述のS05からS09までのステップを繰り返し実行し、溶湯8を充填してから凝固するまでの間、内型11の表面11aから超音波を照射して、超音波が表面11aからキャビティ面11bへ到達するまでの時間をリアルタイムに計測するとともに、計測した時間に基づいて金型1全体が保持する熱量をリアルタイムに算出し、算出した熱量に応じて金型1の温度の制御を行うようにしている。
これにより、溶湯充填後の金型1の冷却状況をリアルタイムに把握して、金型1の温度制御を適切に行うことが可能となって、溶湯8の指向性凝固を実現することができ、鋳造欠陥のない製品を安定的に鋳造することが可能となる。
【0025】
また、溶湯8をキャビティ13へ充填してから、前述のS05からS09までのステップを繰り返し実行することで、溶湯充填後の金型1の熱量変化をリアルタイムで算出することができるため、溶湯8を充填してから凝固するまでに必要な溶湯冷却量を予め求めておき金型熱量計測装置3に記憶させておけば、溶湯8を充填した後の金型1の熱量変化が凝固に必要な溶湯冷却量に達した時点で、金型1の型開き手段制御して型開きを行うことが可能となる。
これにより、溶湯8の凝固が完了した直後に金型1の型開きを行うことが可能になり、鋳造工程のサイクルタイムを短縮することができる。
なお、本例では、超音波センサ5は内型11の表面11a部分に配置されているが、内型11の表面11aからキャビティ面11b側へ向って形成した凹部内に設置する等、内型11内部の適宜箇所に埋設することもできる。
【0026】
次に、金型1の温度制御装置の第二実施形態について説明する。
図3に示す金型1においては、図1の場合と同様に、キャビティ13の流入口13aに射出機2が接続されるとともに、外型12における内型11との境界部近傍に超音波センサ5および冷却管6が埋設されている。さらに、外型12における内型11との境界部近傍には、温度測定手段である熱電対9が埋設されている。該熱電対9および前記超音波センサ5は、金型温度分布計測装置7に接続されている。
【0027】
また、内型11においては、超音波センサ5から照射される超音波の伝播経路途中に、超音波の反射部材51が設けられている。反射部材51は、超音波センサ5から照射された超音波の一部を超音波側に反射するものであり、本例の場合、反射部材51は、内型11の表面11a側に配置される第一反射部材51aとキャビティ面11b側へ配置される第二反射部材51bとの2箇所に設けられている。
【0028】
そして、超音波センサ5、および冷却管6、熱電対9、反射部材51、および金型温度分布計測装置7等により、金型1の温度制御装置が構成されている。
この金型1の温度制御装置による金型温度制御の方法を、図4に示すフローに従って、以下に説明する。
【0029】
まず、超音波センサ5からキャビティ13側へ向けて超音波を照射し、超音波の金型1中における伝播時間を金型温度分布計測装置7にて計測する(S11)。
この場合、超音波センサ5には、第一反射部材51aで反射された超音波、第二反射部材51bで反射された超音波、およびキャビティ面11bで反射された超音波が戻ってくるので、金型温度分布計測装置7では、内型11の表面11aから第一反射部材51aまでの伝播時間、第一反射部材51aから第二反射部材51bまでの伝播時間、および第二反射部材51bからキャビティ面11bまでの伝播時間が計測される。
【0030】
ここで、前述のように金型1内を伝播する超音波の速度は金型1の温度に依存するため、計測した各超音波の伝播時間から、金型1における、内型11の表面11aから第一反射部材51aまでの範囲の平均温度、第一反射部材51aから第二反射部材51bまでの範囲の平均温度、および第二反射部材51bからキャビティ面11bまでの範囲の平均温度を、金型温度分布計測装置7により演算して算出する(S12)。
さらに、金型1に埋設される熱電対9により、内型11における表面11aの温度、およびキャビティ面11bの温度をそれぞれ計測し、その計測結果が金型温度分布計測装置7に入力される(S13)。
なお、内型11の表面11aから第一反射部材51aまでの範囲、第一反射部材51aから第二反射部材51bまでの範囲、および第二反射部材51bからキャビティ面11bまでの範囲の寸法は、各範囲内における温度勾配が線形近似できる程度となるような寸法に設定しておくことが望ましい。
【0031】
次に、金型温度分布計測装置7では、前述のごとく算出および計測された、表面11aの温度、表面11aから第一反射部材51aまでの範囲R1の平均温度、第一反射部材51aから第二反射部材51bまでの範囲R2の平均温度、第二反射部材51bからキャビティ面11bまでの範囲R3の平均温度、およびキャビティ面11bの温度、といった超音波センサ5から照射される超音波の伝播経路上の各箇所における温度を用いて、金型1の温度分布を演算して求める(S14)。
【0032】
なお、本例では、反射部材51を2箇所に設けて、表面11a、範囲R1、範囲R2、範囲R3、およびキャビティ面11bの温度を用いて温度分布を求めているが、反射部材51を3箇所以上に設けて、さらに多くの計測点の温度を用いて温度分布を求めることも可能である。逆に、反射部材51を設けずに、内型11の表面11aからキャビティ面11bまでの範囲の平均温度、表面11aの温度、およびキャビティ面11bの温度を用いて温度分布を求めることもできる。
また、本例では、熱電対9は内型11の表面11a部分に配置されているが、内型11内部の適宜箇所に埋設してもよい。
【0033】
このように、超音波の伝播時間を計測するステップS11から温度分布を演算するステップS15までのステップを、溶湯8を充填してから凝固するまでの間繰り返し実行することで、金型1の温度分布を容易にリアルタイムで計測することが可能となる。
そして、計測した温度分布を監視しておくことで、金型1の局所的な過熱や温度低下が発生することを事前に防止することができる。
特に、金型1内に反射部材51を設けて、金型1内部の複数箇所の温度を計測することで、正確な温度分布を把握することができ、金型1の局所的な過熱や温度低下の発生をより確かに防止することができる。
また、内型11の表面11aおよびキャビティ面11bの温度測定手段として熱電対9を用いているので、温度測定を容易かつ正確に行うことができる。
【0034】
なお、ステップS11にて算出した、内型11の表面11aから第一反射部材51aまでの伝播時間、第一反射部材51aから第二反射部材51bまでの伝播時間、および第二反射部材51bからキャビティ面11bまでの伝播時間に基づいて、それぞれの範囲内での金型熱量を算出し、金型1全体での熱量分布を求めることもできる。
このように、金型1内での熱量分布を求めることで、金型1内における各部での必要冷却量を把握することができ、適切な温度制御をして指向性凝固を実現することが可能となる。
また、第一実施形態のように、反射部材51を設けない場合でも、熱電対9を内型11の表面11a等に設置して、その熱電対9で測定した温度と、超音波センサ5から照射した超音波の伝播時間を用いて求めた金型1の平均温度とから、金型1内の温度分布を線形近似して求めることで、キャビティ面11bの温度を予測することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる金型熱量測定装置および金型温度制御装置を示す模式図である。
【図2】金型の温度制御方法のフローを示す図である。
【図3】金型温度制御装置の第二の実施形態を示す模式図である。
【図4】第二の実施形態にかかる金型の温度制御方法のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 金型
3 金型熱量計測装置
4 冷却水量制御装置
5 超音波センサ
6 冷却管
8 溶湯
11 内型
11a 表面
11b キャビティ面
12 外型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際に、
金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射し、
照射した超音波が金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を測定し、
測定した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を算出する、
ことを特徴とする金型熱量測定方法。
【請求項2】
前記金型表面とキャビティ面との間における超音波伝播経路に、超音波の一部を反射する反射部材を設置し、
超音波が金型表面から反射部材へ到達するまでの時間、および金型表面からキャビティ面へ到達するまでの時間を測定して、
測定した時間に基づいて、金型表面と反射部材との間の金型熱量、および反射部材とキャビティ面との間の金型熱量を算出し、
算出した各金型熱量を用いて、金型全体の熱量分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の金型熱量測定方法。
【請求項3】
金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際の金型温度制御方法であって、
前記金型内に溶融金属を溶充填してから、溶充填した溶融金属が凝固するまでの間、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射するステップと、
照射された超音波が金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面へ到達するまでの時間をリアルタイムに計測するステップと、
計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量をリアルタイムに算出するステップと、
算出された熱量に応じて、金型近傍に設けられた冷却手段により、金型の温度を制御するステップと、
を含むことを特徴とする金型温度制御方法。
【請求項4】
前記金型温度制御方法は、
キャビティへ充填した溶湯が凝固するのに必要な金型の熱量変化を予め設定しておき、
リアルタイムに算出される溶湯充填後の金型熱量の変化量が、設定した熱量変化に達すると、金型の型開きを行うステップを、
さらに含むことを特徴とする請求項3に記載の金型温度制御方法。
【請求項5】
前記金型温度制御方法は、
前記超音波の伝播時間から金型の平均温度を算出し、金型表面または金型内部の適宜箇所に設置した温度測定手段により金型表面または金型内部の適宜箇所の金型温度を測定して、算出した金型の平均温度と測定した金型表面または金型内部の適宜箇所の金型温度とから、金型全体の温度分布を予測するステップを、
さらに含むことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の金型温度制御方法。
【請求項6】
金型表面または金型内部の適宜箇所とキャビティ面との間における超音波伝播経路に、超音波の一部を反射する反射部材を設置し、
超音波が金型表面または金型内部の適宜箇所から反射部材へ到達するまでの時間、および金型表面または金型内部の適宜箇所からキャビティ面へ到達するまでの時間を測定して、
金型表面または金型内部の適宜箇所と反射部材との間の金型平均温度、および反射部材とキャビティ面との間の金型平均温度を算出し、
算出した各金型平均温度と、前記温度測定手段により測定した金型表面およびキャビティ面の金型温度とを用いて、金型全体の温度分布を求める、
ことを特徴とする請求項5に記載の金型温度制御方法。
【請求項7】
前記温度測定手段が熱電対であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の金型温度制御方法。
【請求項8】
金型内に溶充填された溶融金属を凝固させて成形品を鋳造する際に、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射する超音波照射手段と、
超音波照射手段から照射された超音波が、金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を計測する時間計測手段と、
計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする金型熱量測定装置。
【請求項9】
金型内に溶融金属を溶充填してから、溶充填した溶融金属が凝固するまでの間、金型表面または金型内部の適宜箇所から超音波を照射する超音波照射手段と、
超音波照射手段から照射された超音波が、金型の表面または金型内部の適宜箇所から金型内部を伝播してキャビティ面に到達するまでの時間を、リアルタイムに計測する時間計測手段と、
計測した時間に基づいて金型全体が保持する熱量を、リアルタイムに算出する算出手段と、
算出された熱量に応じて、金型の温度を制御する冷却手段と、
を備えることを特徴とする金型温度制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−26717(P2006−26717A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212077(P2004−212077)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】