説明

金型

魅力的でベルベット状又はスエード状の外観を有する被覆物を製造するために、疎水性樹脂から成る金型表面3への液体塑性分散液の塗布、及び、その後の樹脂材料の凝固によってその基体層が製造され、その表面3が入射角60°で2.2未満(ドイツ工業規格DIN67530)の光沢度を有する本発明にしたがう金型に微視的に小さい井戸状くぼみを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状基体、特に、革又は、不織布、織物又は、編物等、繊維材料に接着させる被覆物を製造するための金型に関し、疎水性可撓性樹脂から成る金型の表面への塑性分散液の塗布、及び、その後の液体塑性分散液の凝固によって形成される被覆物の製造用の金型に関する。
【背景技術】
【0002】
革、特に、銀面側がバフ研磨されたしぼ付き革、そぎ革、及び織物材料の表面に、しぼ構造を有する被覆物を施すことで、その可視側が、要求された性質を備え革状の外観を保有することが知られている。この目的のために、被覆又は仕上げ材が、先ず、製造されるべき仕上げ材のしぼ構造に対応する表面構造を備えた下地上に被覆又は仕上げ材が、別途製造され、基体に接着される。この仕上げ材の製造の際に、塑性分散液が、疎水性材料から成る金型表面に塗布され、そして、それが加熱によって固化される。仕上げ材が、スェード状又はビロード状の外観を有するべきである場合、この仕上げ材の製造ために、製造されるべき仕上げ材のスェード状又はビロード状構造に一致する構造を有する表面を備えた金型を使用することがすでに提案されている。金型の表面は、例えば、既成のヌ−バック(nubuk)革の可視側を鋳造することによって、形成されても良い。このようにして製造される仕上げ材は、スェードの作用を生ずる繊維が低圧においてさえも屈曲し、再び直立の体勢にするか、或いは、他の体勢にするまで、その繊維が屈曲した状態のままであるという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、負荷がかかった後でもその外観が変化することなく、非常に魅力的なスエード状又はベルベット状の外観を有する仕上げ材又は被覆物を製造する金型を提供することである。被覆物という用語は、織物に関連して使用され、仕上げ材という用語は、革製品において関連して使用される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的を達成するために、本発明において、金型の表面は、入射角60°で2.2未満(ドイツ工業規格DIN67530)の光沢度を有し、微視的に小さい井戸状くぼみ(indentation)、すなわち、裸眼で見えないくぼみを備えている。これらの井戸状くぼみに浸透された液状塑性分散液の凝固の後、相互に影響しない鋭く個々に突出した小毛状物が、これらくぼみ内に生ずる。なお、このくぼみは、肉眼で見ることはできないが、例えば、1:25又は1:50等の高い倍率でのみ見ることができる。上述のように、上記毛状物が相互に影響しないことにより、毛状物のスペースが保たれる。従って、金型のつや消し面と組み合わさった井戸状くぼみの配置の結果、短繊維でベルベット状の被覆物の可視部分が、明るさに難のある領域が毛状物の間に存在することもないように作られ、そして、圧力が解放した後でも、小毛状物は直立姿勢に戻るので、魅力のある被覆物のスエード状の外観が、付加的な手段を用いることなく維持される。本発明にしたがう金型を用いて形成された被覆物のさらなる利点は、小毛状物の間に浸透した埃が、繊維の絡み部分に貼り付かないので、良く知られた場合と同様に、容易な方法で再び除去可能なことである。本発明において、塑性分散液又は、液体塑性分散液は、水性塑性分散液である。
【0005】
光沢度は、ドイツ工業規格DIN67530にしたがう商用の反射率計を用いて決定される。光源から放出される光線は、光沢度が決定されるべき対象である表面への特定の入射角の方向に向かうように方向づけられる。そして、この表面で反射する光の強度が測定される。この強度は、選択された入射角及び、表面の材質、特にこの表面の色合いの両方に依存する。暗表面(dark surface)の場合、表面に当たる光線の一部が、その材料に浸透し、色合いに応じてそこに部分的に吸収される。輝表面(light surface)の場合、反射はより大きくなる。更に、入射角の増大とともに、より多くの光が反射される。
【0006】
本発明にしたがう光沢度の決定において、光線も井戸状くぼみに浸透するように、60°の入射角が選択される。従って、これらが光沢度の決定において考慮される。
【0007】
既述のように、金型の種々の色合いは、種々の光沢度の値に通じる。本発明によれば、輝表面を有する金型、例えば、光グレーシリコンゴム又は、ポリプロピレンを含む表面を有する金型が、2.2未満、好ましくは、1.8未満の光沢度を有するべきであり、暗表面を有する金型、例えば、えんじシリコンゴム又は、ねずみ色のポリプロピレンを含む表面を有する金型が、1.2未満、好ましくは、0.7未満の光沢度を有するべきである。
【0008】
金型表面の色の測定は、標準光源D65の下で45/0及び10°の対象の測定形状を備えたスペクトロメーターを用いるCIELABシステムで、ISO7724にしたがい決定される。輝表面を有する金型は、ΔL軸上で50を越える数値を有し、暗表面を有する金型は、ΔL軸上で50未満の数値を有する。
【0009】
都合の良いことに、金型は、少なくとも2つの層から成り、その最上層が、軟質樹脂から生じている井戸状くぼみを有する。疎水性可撓性樹脂は、第1にそれが水性分散液中で使用され、膜を形成するように選択される。第2に疎水性可撓性樹脂は、形成された上記膜が、破壊されることなく本発明にしたがう金型から(好ましくは、離型剤を使用することなく)分離されるように選択される必要がある。従って、疎水性可撓性樹脂の好ましい例は、ポリプロピレン、シリコン樹脂、シリコンゴム又は、フルオロポリマーから成り、それらは、フッ素を含むモノマーの重合体、特に、ポリテトラフルオロエチレンであると理解されるべきである。最後に言及した材料は、塑性分散液からの被覆物の製造用に特に好適であり、凝固した被覆物が、井戸状くぼみを備えた金型表面から容易に分離するという利点がある。織布、編物又は、不織布等の繊維材料又は、紙から成る基体層は、好ましくは、最上層の下方に配置される。しかしながら、金属からなり、さらに、被覆物の製造における熱貯蔵物として機能するとともに、被覆物又は仕上げ材の形成のための液体塑性分散液の凝固を促進する層が、最上層の下方に配置されても良い。この金属から成る層は、繊維材料又は紙から成る基体層に代わって、或いは、その基体層に加えて設けられる。
【0010】
しかしながら、井戸状くぼみは、表面を形成し、井戸状くぼみの内面を覆い、疎水性樹脂材料から成る層に被覆されている基体層内に配置されても良い。
【0011】
金型の全厚さは、0.6mmから4.8mmであるが、特に、金属から成る層が配置される場合には、その厚さがより大きい値でも良い。
【0012】
金型の表面における井戸状くぼみは、好ましくは、コンピュータ制御されたこの表面のレーザー処理による簡素な方法で形成されても良い。しかしながら、これら井戸状くぼみは、対応するメス型から成形されることによって、金型の製造中に形成されても良い。ここでは、小毛状物を有する基体表面を成形することにより中間成形体を形成し、この中間成形体の表面を成形することによりメス型を製造する手順が採用される。この手順から井戸状くぼみを備えた金型表面が形成される。
【0013】
井戸状くぼみは、任意の所望の断面を有する。すなわち、例えば、それは、多角形でも良い。好ましくは、これらの井戸状くぼみは、円形、例えば、球形又は長円形の断面を有する。これにより、金型上に形成された被覆物の除去も、促進される。井戸状くぼみが、その先に向かって漸次細くなる断面を有している場合も同じ目的が果たされる。更に、先端に向かって漸次細くなる小毛状物は、被覆物の可視側にある最後に言及した形状の井戸状くぼみに生ずる。そして、その小毛状物は、当該小毛状物間に存在する不純物の除去を促進する。
【0014】
隣接する井戸状くぼみの中心間距離(a)が、50μmから150μm、好ましくは、60μmから90μmで、その深さ(f)が50μmから150μm、好ましくは、60μmから90μmである場合が好適である。
【0015】
井戸状くぼみの底は、好適には、円形、好ましくは、凹形又は凸形であり、その結果として、触覚的特性及び、これら井戸状くぼみに形成された被覆物の小毛状物におけるスエード状の外観が、改善される。
【0016】
知られているように、金型は、シート状又はウェブ状でも良く、後者の場合、金型が、連続したウェブの形態をとることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を、図面を用いて実施例に準じて説明する。図1は、本発明にしたがう金型の断面図を、ほぼ実寸大で示している。図2は、井戸状くぼみを備えた図1の部分IIを非常に拡大した尺度で示している。そして、図3は、図2における矢印IIIの方向における平面図である。
【0018】
図1に断面で示される金型は、疎水性樹脂材料及び、基体層2から成る層1を有する。層1は、好ましくは、ポリプロピレン、シリコン樹脂、シリコンゴム又は、フルオロポリマー特にポリテトラフルオロエチレンから成り、図2において大きく拡大された尺度で示される微視的に小さい井戸状くぼみ4を備えたつや消し表面3に設けられる。表面3が、例えば、軽量のグレイン(grain)シリコンゴム等の光材料(light material)から成る場合、それは、入射角60°で2.2(ドイツ工業規格DIN67530)未満の光沢度を有する。表面3が、例えば、ダークレッドシリコンゴム等の暗材料(dark material)からなる場合、1・2(ドイツ工業規格DIN67530)未満の光沢度を有する。
【0019】
基体層2は、繊維材料(特に、織布、編物、不織布)又は紙から成る。しかしながら、金属から成る図示していない層を、基体層2の代わりに設けても良い。また、基体層2に加えてその層を基体層2の下側に設けても良い。更に、基体層2は、井戸状くぼみ4を有していても良い。この場合、層1は、基体層2を、疎水性樹脂材料を用いて薄く覆うことにより形成される。この疎水性樹脂材料を用いて井戸状くぼみ4の表面も覆われる。どの場合でも、金型の表面3と井戸状くぼみ4の壁部は、つや消しされる。
【0020】
井戸状くぼみ4が断面で非常に大きな尺度で示されている図2からわかるように、井戸状くぼみ4は、底5に向かって漸次細くなる断面形状を有している。井戸状くぼみ4の深さは、様々であるが、好ましくは、60μmから90μmである。更に、図2は、井戸状くぼみ4の底5の形態の種々の可能性を示している。この底は、5aで凸状であり、5bで凹状であり、5cにおける段部と、5dにおける平坦部を備えている。
【0021】
井戸状くぼみ4の壁部には、縦溝又は、ねじれた溝を設けても良い。
【0022】
図3からわかるように、井戸状くぼみ4は、示された実施例において、径が25μm以下の環状断面を有している。しかしながら、井戸状くぼみ4は、他のどのような所望の断面、特に、長円形又は、多角形の断面を有していても良い。隣接する井戸状くぼみ4の中心間距離は、原則として様々であり、好ましくは、50μmから150μmである。示される実施例において、井戸状くぼみ4は、表面3上に不規則に配置されるが、規則正しい模様を形成するように設けられても良い。
【0023】
金型それ自体は、シート状又は、好ましくは、連続したウェブ状で良い。
【0024】
後に革や繊維材料等のシート状基体に接着される被覆物又は仕上げ材の本発明にしたがう金型上での製造において、先ず、液体樹脂材料を、井戸状くぼみ4を備えた表面3に塗布して液体樹脂材料を凝固させ、その後すぐに形成された被覆物を金型から除去するという手順が採用される。井戸状くぼみ4の配置の結果、鋭く個々に突出した毛状物が、被覆物又は仕上げ材上に生ずる。この毛状物は、距離を隔てて位置しており、ヌーバック状又はベルベット状の外観を被覆物に与える。
【0025】
従って、本発明は、さらに、本発明に従う金型を使用する繊維材料の被覆物の製造方法に関する。
【0026】
従って、本発明は、さらに、本発明に従う上述の特徴を有する方法によって製造された、被覆された繊維材料及び仕上げられた革製品に関する。本発明にしたがう被覆された繊維材料及び仕上げられた革製品は、魅力的なスエード状、ヌーバック状又は、ベルベット状の外観を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にしたがう金型のほぼ実寸大の断面図である。
【図2】図1の部分IIの拡大図である。
【図3】図2における矢印IIIの方向から視た平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 層
2 基体層
3 表面
4 井戸状くぼみ
5 底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基体に接着可能で、疎水性可撓性樹脂から成る金型表面への液体塑性分散液の塗布、及び、その後の該塑性分散液の凝固により形成される被覆物の製造用の金型において、
前記表面(3)が、入射角60°で2.2(ドイツ工業規格DIN67530)未満の光沢度を有し、
前記表面(3)には、表面(3)のレーザー処理により形成される微視的に小さい井戸状くぼみ(4)が設けられ、
隣接する井戸状くぼみ(4)の中心間距離(a)が、50μmから150μmであり、
前記井戸状くぼみ(4)の深さが50μmから150μmであることを特徴とする金型。
【請求項2】
シート状基体が、革及び繊維材料から選択されることを特徴とする請求項1に記載の金型。
【請求項3】
繊維材料が、不織布、織布及び、編物から選択されることを特徴とする請求項2に記載の金型。
【請求項4】
輝表面(3)が、2.2未満の光沢度を有し、
暗表面(3)が、1.2未満の光沢度を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の金型。
【請求項5】
少なくとも2つの層(1、2)を有し、
井戸状くぼみ(4)を有する最上層(1)が、軟質樹脂製であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の金型。
【請求項6】
繊維材料又は紙から成る基体層(2)が、前記最上層(1)の下方に配置されることを特徴とする請求項1〜3及び5の何れか1項に記載の金型。
【請求項7】
前記最上層(1)の下方に、金属から成る層が配置されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の金型。
【請求項8】
前記井戸状くぼみ(4)が、前記表面(3)を形成し、前記井戸状くぼみ(4)の表面を覆い、疎水性樹脂から成る層によって被覆される基体層に配置されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の金型。
【請求項9】
前記表面(3)が、ポリプロピレン、シリコン樹脂、シリコンゴム又は、フルオロポリマーから成ることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の金型。
【請求項10】
前記表面(3)の前記レーザー処理が、コンピュータ制御されることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の金型。
【請求項11】
前記井戸状くぼみ(4)が、メス型から鋳造されることによって、前記金型の製造中に形成されることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の金型。
【請求項12】
前記井戸状くぼみ(4)が、環状又は長円形等の円形状断面を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の金型。
【請求項13】
前記井戸状くぼみ(4)が、その底(5)に向かって漸次細くなる断面を有することを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の金型。
【請求項14】
隣接する井戸状くぼみ(4)の中心間距離(a)が、60μmから90μmであることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の金型。
【請求項15】
前記井戸状くぼみ(4)の深さ(f)が、60μmから90μmであることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載の金型。
【請求項16】
前記井戸状くぼみ(3)の前記底が、円形、好ましくは、凹形又は凸形であることを特徴とする請求項1〜15の何れか1項に記載の金型。
【請求項17】
シート状又は、ウェブ状であることを特徴とする請求項1〜16の何れか1項に記載の金型。
【請求項18】
請求項1〜17にしたがう金型を用いる繊維材料の被覆物の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18にしたがう金型を用いる革の膜状仕上げ材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−531345(P2008−531345A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557519(P2007−557519)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060441
【国際公開番号】WO2006/092440
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】