説明

金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物のコーティング方法

【課題】 任意の材質および形状をもつ基材に対して、金属、無機化合物およ
び有機金属化合物の内1種または2種以上からなる皮膜を極薄で均一にコーテ
ィングする。
【解決手段】
金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の粉末を分散媒に分散して分散
液を形成するか、或いは、金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の溶液
を形成する。該分散液又は溶液をミスト化し、該分散液のミストの接触角度が3
0°以下となる基材上に、該ミストを付着させ、極薄皮膜を形成させる。前記ミ
ストの基材表面への付着前に、基材表面を脱脂処理して、基材表面に付着した
ミストの接触角度が30°以下となるよう基材表面を処理してもよい。また、好
ましくは、分散液のミストを最大径で30μm以下とし、前記粉末を100nm以下と
して、形成する皮膜厚さを1μm以下とし、又は、溶液のミストを最大径で30μm
以下として、形成する皮膜厚さを1μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク状または粉体状の金属(合金)、セラミックス、プラスチッ
ク、繊維、木材またはこれらの複合材料等の基材に、金属、無機化合物及び/
又は有機金属化合物をコーティングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属やセラミックスあるいは樹脂材料の表面に金属や無機化合物等を被覆す
る方法には、めっき、スピンコーティング(Spin Coating)法、溶融法、真空
蒸着法、化学蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)が実用化されている。一部に
有機物の含有が許容される用途では、塗装が手軽に広く実施されている。また
、微粉末や溶液ミストの活用によるコーティング方法も提案されている。
【0003】
しかし、これらの方法はいくつかの問題点が挙げられる。めっきは、常温で
金属被膜を形成でき広く普及しているが、めっき廃液(リンス廃液を含む)の
処理が困難で多くの場合環境の汚染を防ぐことが困難である。また、基材がセ
ラミックスや有機高分子などの絶縁体の場合、無電解法に頼らざるを得ず、工
程費用が極めて高価となり特殊な小物への適用が限界である。また、酸化物皮
膜の形成は例えば特許文献1に開示されているような特殊な無機化合物皮膜で
は可能性が示されているものの、どんな化合物でも可能であるというような汎
用性がない。
【特許文献1】特許公報3353066号
【0004】
スピンコーティング法および溶融法は、基材を溶融金属に浸漬したり滴下す
るなど金属と基材との接触が不可避であることから、基材の融点、分解温度あ
るいは変形温度よりも金属の溶融温度が低い場合に限られるという問題がある
。もちろん一般的に融点の高い無機化合物の被膜は形成できない。
【0005】
真空蒸着法は、金属被膜の被覆は種類を問わず大半の金属が可能であり、1μ
m以下の薄膜の被覆が可能であるなど上述のめっきや溶融法などに比べて特徴が
多いものの、酸化物などの無機化合物の蒸着はその融点が高いことからほとん
ど不可能である。また、系全体を10-2Pa以下の高い真空に保つ必要があり、コス
ト的には極めて不利である。さらに、基材の大きさは、真空容器のサイズに限
定されるだけでなく、蒸気の到達距離によるムラの発生を抑制するために、比
較的小さな範囲でしか実用化できていない。
【0006】
CVD法やPVD法は、金属だけでなく酸化物や窒化物などの無機化合物の被覆が
容易であり蒸着法と同様に1μm以下の薄膜被覆が可能であることから、特殊な
機能物質の被覆方法として実用化されている。しかし、一般的には真空系を使
用するため真空蒸発法と同様の高いコストや基材サイズの限界の問題がある上
に、CVD法では、基材を高温まで加熱することが多いため、高温であっても分解
あるいは変形を伴わない基材を選択する必要があった。また、CVD法では、コー
ティングする金属や無機化合物の種類によっては危険なガスを使用する必要が
あり、安全面や環境面で大きな問題がある。PVD法では、蒸着原料となる粒子に
ビーム性があるので、凹凸の激しい基材への均一なコーティングは困難であり
、また大きな基材や多数の基材に対して一度でコーティングすることも不可能
に近い。
【0007】
塗装は、工程費用が安価で技術的にも長期間の経験に基づく蓄積があり設備
的にも軽装備で実施することが可能であるために広範囲に実用化されている技
術で、金属やセラミックスなどその種類を問わずほとんどの物質を被覆するこ
とが可能である。しかし、被覆に当たってはそれらの物質を保持するバインダ
ーとして有機化合物である樹脂からなるいわゆる塗料の主成分が不可欠である
。この結果、用途によっては適用が不可能な場合が多い。例えば、金属を被覆
したとしてもバインダーが絶縁物質であるために金属特有の導電性は期待でき
ないなど、特性はむしろ有機物の被覆であると言って過言ではない。また、被
覆厚さも数10μm以上の厚手が得意であり、3μm以下は現状では不可能である。
【0008】
一方、無機化合物の被覆方法として、例えば引用文献1にはいわゆるゾルゲ
ル法が提案されている。
【非特許文献1】作花済夫著、「ゾル−ゲル法の応用」、株式会社アグネ承風社、1997年10月23日、P.116以降 ゾルゲル法は有機金属化合物の加水分解ゾルをゲル化して被覆し、その後熱処理で脱水縮合して酸化物などの無機化合物を形成させる方法であることから、無機化合物の薄い皮膜を被覆するには適した方法である。しかし、目的の酸化物等の形成が可能な有機金属化合物に限定されることや、被覆に当たって薄膜化やムラの防止のために、極めて緩速の引き上げ処理が不可欠であるなど、工業的な生産には適した方法ではなかった。上述のめっきやCVD法などに比べて基材の形状や表面凹凸の影響が少ないために、他に代替方法のない小さな複雑形状の物品への処理では実用化されつつあるが、広面積や大きな材料に対しては適用がなされていなかった。
【0009】
特許文献2には、微粉末を利用してコーティングする方法が提案されている
。有機溶剤含有液中に無機化合物の粉末を分散し、基材を浸漬した状態で振動
を照射または熱を加えて、基材上に金属をコーティングするする方法である。
【特許文献2】特開2001-192856号
【0010】
この方法は、無機化合物粉を還元した際に還元生成物である金属を基材上に
晶出させるものであり、めっきにおける還元のエネルギーとして電気や化学エ
ネルギーの代わりに振動や熱のエネルギーを利用するとした点で技術的には新
規であると考えられる。しかし、還元のエネルギーが振動や熱、それも有機溶
剤中で有れば適用可能な熱はせいぜい200℃までであるなど極めて小さいレベル
であることから、対象となる金属は実施例に示されている(Ag、Pd、Pt、Au、C
u)ような生成自由エネルギーが高く容易に還元可能な貴金属に限定され、被覆
種の自由度がない。さらに、金属のみに限定され、酸化物を被覆することは不
可能である。
【0011】
特許文献3には、液体を微粉化しコーティングする方法が開示されている。
有機溶媒と有機金属化合物とを含む原料用液に光反応性化合物を添加し、この
溶液をミスト化し、光を照射しながらミストを基盤に付着させる方法である。
【特許文献3】特開平9-914号
【0012】
この方法は、溶液から析出させた溶質のコーティングであり、析出相のミス
トへの際溶解防止のために、光反応性化合物を添加し、光を当てながら噴霧吹
き付けすることを提案しているものである。光反応性化合物を析出させつつ溶
質を堆積する方法であることから、塗装の場合のバインダーに相当する物質が
被膜中に存在することになる。また、この方法は目的の被覆物質である溶質の
析出が終了しない内に光反応性化合物が析出すると目的の被覆物質である溶質
の析出が妨害されることになる可能性が高い。すなわち、目的の溶質の析出が
終了すると同時に光反応性化合物の析出が起こるように溶液や光反応性化合物
の種類量照射光の種類や強さを定める必要があり、現実には極めて可能性の薄
い条件を求めることとなるため、実用化が困難である。また、本願の目的の一
部である、金属の被覆には適用できない。
【0013】
特許文献4〜9には、溶液を微粉化し基材上に吹き付けコーティングする方
法が開示されている。
【特許文献4】特開昭57-81856号
【特許文献5】特開平8-215616号
【特許文献6】特開平10-312931号
【特許文献7】特開平10-321465号
【特許文献8】特開2001-205151号
【特許文献9】特開2003-112950号
【0014】
しかし、これらの文献に記載された方法は噴霧する溶液と基板との組み合わ
せによっては、均一な被覆が不可能であったり(ムラになる)、極薄の皮膜の
生成が不可能となる可能性が高く、工業的生産に於いては歩留まりが低下せざ
るを得ない。
【0015】
特許文献10には、溶液を微粉化し燃焼炎中に導入して基材上に吹き付け酸
化物膜をコーティングする方法が開示されている。
【特許文献10】特開平7-207454号
【0016】
溶液の噴霧ミストを燃焼炎中に導入することで溶液中の溶質が熱分解などの
化学反応を起こし、基材上に堆積するもので、本発明の溶液あるいは分散液の
まま基材に被覆ししかる後必要に応じて反応させる方法とは異なる。一種のCVD
法であり、被覆する酸化物が燃焼炎中で目的の酸化物に反応したり熱分解しや
すい原料を選択する必要があるなど、溶質や溶媒に選択の自由がない上に、本
発明の一部である金属の被覆は不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、基材の材質や形状、サイズに限定されずかつ表面凹凸などの表面
形状の影響を受けることが少なく、制約が多くコストの高い特殊な設備手段を
必要とすることなく、また加熱温度による限界や被覆物原料の条件に拘束され
ることもなく、金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物を均一に被覆感な
くコーティングすることのできる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1の発明によれば、金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の粉
末を分散媒に分散して分散液を形成し、該分散液をミスト化し、該分散液のミ
ストの接触角度が30°以下となる基材上に、該ミストを付着させ、極薄皮膜を
形成させることを特徴とする、金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の
コーティング方法が提供される。
【0019】
請求項3の発明によれば、金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の溶
液を形成し、該溶液をミスト化し、該溶液のミストの接触角度が30°以下とな
る基材上に、該ミストを付着させ、極薄皮膜を形成させることを特徴とする、
金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物のコーティング方法が提供される

【0020】
前記請求項1又は3の発明において、基材表面に付着されたミストの接触角
度が30°を越える場合には、前記ミストの基材表面への付着前に、基材表面を
脱脂処理して、基材表面に付着したミストの接触角度が30°以下となるよう基
材表面を処理する(請求項5)。
【0021】
好ましくは、分散液のミストを最大径で30μm以下とし、前記粉末を100nm以
下として、形成する皮膜厚さを1μm以下とし(請求項2)、溶液のミストを最
大径で30μm以下として、形成する皮膜厚さを1μm以下とする(請求項4)。
【0022】
また、好ましくは、前記分散液または溶液のミスト化を、超音波振動付与に
よって行うこととする(請求項6)。
【0023】
請求項7の発明によれば、請求項1〜6記載のコーティング方法に基づいて
、基材上に皮膜を形成させた後、該皮膜を化学反応させ別物質の皮膜を形成さ
せることを特徴とするコーティング方法が提供される。
【0024】
冬場の混んだ電車に乗り合わせると車内の水蒸気で眼鏡が曇ることは周知で
ある。一方、風呂などの湯気の立った場所でも同様に眼鏡が曇る。電車内での
眼鏡の曇りは一種の蒸着であるが、湯気は水蒸気ではなく微細な水滴であるの
で、湯気による曇りは厳密には蒸着ではない。しかし、同じような曇りが生ず
ることに本発明者は気づいたのである。
【0025】
本発明者は、この知見のアナロジーから本発明の基本的な考えを創出した。
すなわち、目的を達しうる分散液か溶液を湯気のようにミスト化し、基材に付
着せしめることで蒸着と同じ機構の被覆が可能になると考えたのである。常温
で微細な液滴を形成することができれば、酸化等の防止のための真空設備が不
要となり、蒸着と同様に薄く均一な被覆が可能と考え、本発明を成し遂げたも
のである。
【0026】
即ち、本発明では、まず、被覆しようとする目的物(被覆物原料)を溶液と
することができず従ってミストとすることができない場合(例えば、金属、セ
ラミックス等)、該被覆物原料を微細粉とし、有機溶剤やそれを含む溶液など
の適切な分散媒に懸濁させて分散液とする。一方、被覆物原料を溶液とするこ
とができる場合あるいは溶媒と反応して被覆物原料を生成しうる母物質である
場合には、該被覆物原料又は母物質を溶媒に溶解して溶液を作成する。
次いで、得られた分散液又は溶液を、公知の方法によりミスト化し、基材表
面に付着させる。ミストを基材表面に付着させる手段としては、ミストが浮遊
した環境に基材を置けばよく、またはミストを基材表面に吹き付けてもよい。
その後、基材表面に付着したミストより皮膜が形成され、コーティングが完
了する。皮膜形成としては、分散媒や溶媒の乾燥が挙げられる。必要に応じて
、公知の乾燥手段を用いても良い。また、付着した被覆物原料の自己化学反応
または基材との反応や化学結合を起こさせても良い。
【0027】
この方法の可能性について、それぞれの工程について検討した。まず、粒径1
00nm以下のアナターゼ型のTiO2粉(被覆物原料)をイソプロピルアルコールに懸
濁した。このTiO2分散液を超音波によって概ね20μmの液滴にミスト化した。そ
の浮遊ミスト内に、アルカリ脱脂したステンレス鋼板および塩ビ板(基材)を3
0秒間装入した。その後、そのステンレス鋼板および塩ビ板を大気中に取り出し
、約50℃で60秒間乾燥した。このステンレス鋼板および塩ビ板の表面は、肉眼
上処理前と違いは認められなかったが、例えばステンレス鋼板の表面を走査型
電子顕微鏡で表面を観察すると、球状のTiO2粒子がほぼ全面に分散付着している
ことが認められた。
【0028】
また、シリコンテトラエトキシドをエタノールに溶解し、水とわずかなHClを
加えて加水分解した。その溶液を超音波によって概ね20μmの液滴にミスト化し
、アルカリ脱脂したステンレス鋼板に60秒間吹き付けた。その後、そのステン
レス鋼板を大気中に取り出して室温で乾燥し、さらに150℃の大気中にて1時間
加熱した。このステンレス鋼板の表面は、肉眼上処理前と違いは認められなか
ったが、このステンレス鋼板表面の任意の2点間の抵抗を市販のテスターで測定
したところ、処理前のステンレス鋼では0Ωの導電性を示すのに対して、1MΩ以
上の絶縁性を示した。
【0029】
ところが、薄い皮膜を作成すべく、吹き付け時間を減じミストの付着量を少
なくすると、被覆面の光沢が劣化したり白濁する現象が見られ、付着量が少な
くなったにもかかわらず明らかに被覆した状況が見られた。すなわち、付着量
が少ない場合は、付着したミストは単独でかつ半球状に基材表面に付着堆積し
、平滑な平面状に広がらないのである。ところが、基材へのミストの付着量が
多量になると、基材表面に付着したミスト間で接触が起こり結果的に平面化す
ると考えられる。基材表面に付着したミスト単独でも半球状ではなく平面状に
付着堆積するならば、ミストと隣接するミストとの接触の可能性が増えること
から容易になり、少量のミストでも平面化した皮膜を生成することができ、そ
の結果薄い皮膜生成が可能になると考えた。
【0030】
ミストの付着を半球状から平面状に変えるには、ミストと基材の濡れ性を良
好にすることで達成可能と考え、基材表面に対するミストの濡れ性を、基材表
面上での接触角度を30°以下とすれば良いことを発明したものである。ミスト
の接触角度が30°以下となるような表面を有する基材であれば、基材表面にな
んら処理をする必要は無いが、30°を越える場合には、基材表面を処理して、
基材に対するミストの濡れ性を改良したものである。
【発明の効果】
【0031】
請求項1及び3の発明によれば、被覆物原料の分散液又は溶液を形成し、こ
れをミスト化して基材表面に付着させるだけで、基材表面に極薄皮膜を形成す
ることができるから、真空系のような制約の多い設備や手段を必要とすること
なく、特殊なあるいは有毒な溶液やガスを使用することなく、比較的簡便な手
段によって、各種の任意な基材上に、極薄の金属、無機化合物及び/又は有機
金属化合物の膜を均一にコーティングすることのできる方法を提供することが
できる。特にゾルゲル法に基づく皮膜の形成では、被覆厚さの低減とムラ防止
のために従来は極めて緩速の従って長時間の引き上げ処理が必要なため、工業
的には極小面積の処理にしか適用されなかったのに対して、本発明によれば、
広面積や複雑形状の基材まで工業生産への適用が可能となる。
また、被覆物原料の分散液又は溶液をミスト化して基材表面に付着させるだ
けであるから、被覆物原料が限定されることも無い。ミストを基材表面に付着
させるだけなので、基材の材質、形状、サイズが限定されることもない。
更に、請求項1及び3の発明によれば、前記ミストの接触角度が30°以下と
なる基材上に、ミストを付着させることとしたので、ミストが基材表面に半球
状に付着せず、平面的に付着することとなり、極薄の皮膜をコーティングする
ことが可能となる。また、極薄の皮膜を形成することができるので、皮膜を薄
くする工程や、皮膜の基材表面への付着力を強化する必要が無い。
更に、請求項1の発明によれば、被覆物原料を分散媒に分散して分散液を形
成することとしたので、溶液とすることができない金属や無機化合物等であっ
ても、基材表面に皮膜を形成することができることとなる。被覆物原料を溶媒
に溶解させることができるものであれば、請求項3の発明により、皮膜をコー
ティングすることが可能である。
【0032】
また、請求項1及び3の発明によれば、コーティングしようとする部分にミ
ストが浮遊していれば良いから、ミストの浮遊範囲を限定することで、被覆剤
の無駄が省け原材料コストの削減が可能である。さらに、局所的な皮膜形成が
可能なことから、皮膜形成の部分処理や局所処理が可能となる。
更に、請求項1及び3の発明によれば、コーティングしようとする部分にミ
ストを付着させればよく、基材の種類や形状を問わないことから、金属やセラ
ミックス、プラスチックはもちろん複雑形状の粉体や複合材料に対しても皮膜
を被覆できる。
以上の特性から、金属やセラミックス、プラスチックの工業材料分野に関わ
らず、電子材料分野、医療機器分野など幅広い分野で本発明の利用が期待でき
る。
【0033】
請求項2の発明によれば、ミストの最大径を30μm以下とし、被覆物原料の
粉末を100nm以下としたので、厚さが1μm以下の非常に薄い皮膜をコーティン
グすることが可能となる。
請求項4の発明によれば、ミストの最大径を30μm以下としたので、厚さが
1μm以下の非常に薄い皮膜をコーティングすることが可能となる。
【0034】
請求項5の発明によれば、表面の濡れ性の悪い基材であっても、基材表面に
付着したミストの接触角度が30°以下となり、ミストが基材表面に半球状に付
着せず、平面的に付着することとなり、極薄の皮膜をコーティングすることが
可能となる。
【0035】
請求項6の発明によれば、ミストのサイズの制御、ミストの生成速度の制御
が容易であり、従って、極薄皮膜を容易にコーティングすることが可能となる

【0036】
請求項7の発明によれば、一層強固な皮膜を形成することができ、また、目
的物質に到る中間物質の皮膜を被覆した後に、該皮膜を処理して目的物質の皮
膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、先ず、被覆物原料の粉末を分散媒に分散した分散液を形成するか
、または被覆物原料を溶媒に溶かして溶液を形成する。次に、該分散液又は溶
媒をミスト化し、該ミストの接触角度が30°以下となる基材上に付着させ、基
材表面に極薄皮膜を形成させるものである。
【0038】
本発明において基材にコーティングすることができる物質(被覆物原料)と
しては、金属、無機化合物又は有機金属化合物のいずれか、又はこれらの2種
以上が挙げられ、例えば、Ni、Cu、Cr、Al、Agなどの金属、ステンレス鋼やハ
ステロイなどの合金、塩素化物、硫酸塩、硝酸塩、蓚酸塩、酸化物、窒化物な
どの無機化合物やセラミクス、FeAlやTiAl3などの金属間化合物、グラファイト
やカーボンナノチューブなどの単体、トルマリンなどの鉱物、シリコンテトラ
エトキシド、チタンテトライソプロポキシドあるいは各種シランなどの有機金
属化合物等が挙げられる。
本発明では、このような物質の溶液を用いるか、又はこのような物質の粉末
の分散液を用いることとする。
【0039】
上記物質(特に、金属、無機化合物)の粉末の分散液を用いる場合、該粉末
のサイズは、限定はされないものの、形成後の被膜厚さや表面形態との関係や
分散の可能性、ミストの安定性の関係から、最大径で20μm以下のサイズが好
ましい。
【0040】
分散液を形成する分散媒は、水だけでなく有機溶剤、溶質を溶解した溶液あ
るいはそれらの混合溶液などが適用可能である。例えば、エタノールやプロパ
ノールなどのアルコール類やジエチルアミン、ブチルアミン等のアミン類など
がある。また、粉末の分散を安定化するために、また、基材表面上のミストの
接触角度が30°以下となるように、界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤
としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系など公知のものを使用するこ
とができ、その種類は限定されない。
分散濃度は、被覆物原料(分散質)の種類によって変わるものであるが、濃
度が薄すぎると皮膜を形成することができず、濃度が濃すぎると、分散が不安
定となり、また皮膜が厚くなってしまうことより、これらを考慮して分散濃度
を決定する。
【0041】
被覆物原料を溶液とする場合、その種類や濃度は限定されない。例えば、塩
素化物、硫酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの無機化合物の、シリコンテトラエトキ
シド、チタンテトライソプロポキシドあるいは各種シランなどの有機金属化合
物の溶液が挙げられる。また、溶液形成が溶質の溶解だけでなく、液中での反
応によって生成した物質であっても何ら問題はない。例えば、シリコンテトラ
エトキシドと水を加えて生成した加水分解生成物なども本発明の範囲に含まれ
る。
【0042】
溶液を形成する溶媒も、水だけでなく酸、有機溶剤あるいはそれらの混合溶
液などが適用可能である。また、溶液中での溶質の安定化のために、安定化剤
(化学修飾剤)を添加することも可能である。安定化剤としては、例えば、ア
ルコキシドのアルコール溶液で加水分解抑制に使用されるトリエタノールアミ
ンなどが挙げられる。また、基材表面上のミストの接触角度が30°以下となる
ように、界面活性剤を添加しても良い。
【0043】
分散液または溶液のミスト化手段には、コンプレッサーを用いてノズルから
噴射させるいわゆるスプレーその他の公知手段が適用可能であるが、特に超音
波振動を付与することによってミスト化することが好ましい。超音波によるミ
スト生成では、超音波の波長によってミストのサイズを狭い範囲に制御できる
こと、ミストの多量発生は困難であるが超音波の振幅(音の強さ)によってミ
ストの生成速度を制御できること、発生ミストに初速がほとんど付いていない
ことなど微細ミストを霧状に浮遊保持しやすい利点がある。
【0044】
本発明において、ミストの大きさは特に限定されるものではない。
しかしながら、ミストのサイズは、基材表面に形成される皮膜の厚さに影響
を与える(尚、後述のように該皮膜の厚さを支配する要因には、後述のように
多くがある。)。皮膜の厚さを1μm以下とする場合には、ミストの直径が30
μm以下である必要がある。これは、被覆物原料を溶液とする場合にも分散液
とする場合にも適用される。
【0045】
尚、被覆物原料を分散液とする場合であって、ミストの直径を30μm以下とす
る場合、分散質たる被覆物原料の直径が100nmを超えると、分散質を含んだミス
トが生成できなくなる。分散媒だけがミスト化し分散質は取り残されてしまう
からである。
【0046】
次に、このようにして生成されたミストを、基材表面に付着させる。ミスト
を基材表面に付着させる手段としては、公知のものを使用することが可能であ
り、ミストの雰囲気中に基材を裁置することが可能であり、また、ミストを基
材表面に吹き付けることも可能である。
【0047】
ミストが付着される基材は、固体か固形状物質であればその種類を問わない
。例えば金属(合金)、セラミックス、ガラス、有機物樹脂、繊維、木材または
これらの複合材料が挙げられる。SiO2などのゲル状物質でも可能である。基材
の形状も、板状、フィルム状、棒線状、繊維状などのバルク形状でも、粉体状
でも特に限定されない。また基材表面の形状も粗さの大小や凹凸の有無に影響
を受けない。但し、多孔質材料などの場合には、浮遊するミストを孔内へ送り
込むことが必要であり、例えば、ミストを基材表面に吹き付けることが必要と
なる。
【0048】
上述のように、基材の種類、形状、表面形状の粗さは、特に限定されないが
、基材の表面は、ミストが付着したときに、ミストの接触角度が30°以下とな
ることが必須である。これは、ミストと基材表面との濡れが問題となるためで
ある。
ミストが基材表面に濡れにくい場合、ミストは基材上で半球状に付着するこ
とになってしまい、上述のように薄い皮膜を生成することができなくなる。こ
の状態でも厚手に被覆し後工程で化学反応や化学結合の改善により付着力を強
化できる場合は大きな問題はないが、この段階で付着力を強化することは、被
膜の薄手化やその後の処理を容易にする利点が生ずる。
【0049】
ミストの基材への接触角度が30°より大きい場合、付着量が少なく皮膜厚さ
が薄いと、付着ミストが半球状となってしまう。もちろん付着量が多量になる
とミスト同士が相互に接触してミスト全体が平面状となるが、皮膜厚さは厚く
ならざるを得ない。また、付着速度が小さい(例えば、ミストの雰囲気に基材
を保持(保定)した場合)と、隣接するミストと接触する前に乾燥する場合が
あって、この場合も平滑な皮膜にならず肉眼的には光沢が劣化することとなる
。しかし、接触角度が30°以下になると、たとえ付着量が少なくとも、ミスト
は半球状とならず平面状に広がり容易に平滑な皮膜状態になる。
この理由は、ミストを形成する分散液あるいは溶液と基材の濡れ性が良好な
場合、付着したミストが微小であっても平面状に広がるが、濡れ性が不良の場
合、球状あるいは半球状に付着するためと考えられる。一般的には接触角度が3
0°以下でなくともそれをわずかに超えるレベル例えば40°であっても濡れ性は
良好と判断されるが、ミストのように微細な液滴の場合は液滴高さ減少による
平面化に及ぼす重量の寄与分がないために、30°以下にならないと平面状に広
がらないものと考えられる。
【0050】
ミストの接触角度が30°以下となるような表面を基材が有していれば、濡れ
性を改良する必要は無い。しかしながら、そのような表面を有していない場合
には、該濡れ性を改良する必要がある。
上述のように、分散液または溶液との濡れ性を改善する方法としては、ミス
トを形成する分散液又は溶液に界面活性剤を入れる等公知の手段で、分散液又
は溶液の濡れ性を改善することが考えられ、また、基材表面を公知方法で処理
して、濡れ性を改善することもできる。
このうち、基材表面を処理して濡れ性を改善する方法としては、脱脂が容易
である。脱脂方法にも有機溶剤によるものやアルカリ脱脂、電解脱脂などがあ
るが、本発明ではこれらに限定されない。基材が樹脂やガラスなどの場合、脱
脂を行っても濡れ性の改善が不充分な場合がある。その場合には、例えばシラ
ンカップリング剤の塗布や結合等公知のよる濡れ性の改善などが実施可能であ
る。
【0051】
実際、市販のシランカップリング剤でステンレス鋼表面を処理し、ミスト化
する分散液または溶液との濡れ性を改善した実験を行ってみた。この濡れ性を
改善したステンレス鋼に、シリコンテトラエトキシドの加水分解エタノール溶
液をミスト化し15秒間吹き付けた。未処理のステンレス鋼では表面の白濁が見
られたが、濡れ性改善材では60秒間吹き付けの場合と同様に被覆感のない表面
を呈していた。このステンレス鋼を同じ工程で処理し表面の組成をオージェ電
子分光により分析したところ、SiとOが主体(コンタミネーションと思われるC
も検出した)で、ステンレス鋼の主成分のFeやCr、Niの検出はわずかであった
。この結果、ステンレス鋼表面にはSiとOからなる化合物、おそらくSiO2を主体
とする無機化合物の皮膜が形成されていることが確認された。さらにスパッタ
リング法にて、その厚さを測定したところ、約30nmであることがわかった。
【0052】
基材表面にミストを吹き付けた後、乾燥させ、分散媒又は溶媒を除去する。
乾燥方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、大気中で
の放置、加熱等が挙げられる。
【0053】
被覆皮膜の厚さは用途や使い方によって適正値が異なる。皮膜が薄くなると
、基材そのものの質感をそのまま活かしたデザイン等が可能となる。また、加
工を施しても皮膜の亀裂発生や剥離が減少し、例えばバルクでは延性のない酸
化物のような皮膜であっても簡単な曲げ程度は可能となる。また、被覆材がも
たらす機能が重要な場合、例え亀裂が入ったとしても剥離さえなければその機
能は発揮され、品質上の問題はかなり軽減される。しかし、厚手の皮膜の場合
、加工がバルク材同様にほとんど不可能で、亀裂が生ずると機能上の問題はな
くとも商品価値は大きく減ずることとなる。
【0054】
このような薄膜特有の利点が発揮される皮膜の厚さの限界は、皮膜種によっ
ても異なるが、従来の経験から概ね1μm以下である。すなわち、1μm以下にな
ると被覆感がなくなり、被膜を有する基材の、曲げその他の加工も容易となる

【0055】
皮膜の厚さを支配する因子は必ずしも明確ではないが、分散液または溶液の
種類や付着量、分散質や溶質の種類や量、濃度に大きな影響を受け、それぞれ
その限界は一定ではない。しかし、本発明においては、分散液または溶液のミ
ストのサイズを小さくすることで、被覆皮膜の厚さを薄くできること、そして
被覆感がなく軽度の加工が可能となる1μm以下の皮膜厚さを達成するためには
、上述のように、少なくともミストの直径を30μm以下にする必要があることを
見出した。すなわち、ミストの直径が30μmを超えると、他の条件をいくら変え
たとしても皮膜厚さは1μm以下にならない。
【0056】
本発明で形成された皮膜は、強固に基材表面に被覆されており、該皮膜を形
成した基材を、必要に応じて洗浄や乾燥を行うことは問題ない。洗浄は、水洗
、アルコールなどの有機溶剤による洗浄、洗剤による洗浄など実用化されてい
るほとんど全ての洗浄が可能である。ただし皮膜であることから、研磨機能を
取り込んだ表面を研削する洗浄は好ましくない。
【0057】
本発明では、分散液または溶液のミストを基材表面に付着させて被膜を被覆
する。更に、この方法で被膜を生成した後、適切な処理を行うことで一層強固
な被膜にすることが可能である。また、最終の目的とする物質を直接被覆する
のではなく、まず目的物質に至る中間物質を被覆し被膜とした後に適切な処理
を加えて目的物質の被膜とする工程にも活用できる。
すなわち、上述のコーティング方法に基づいて、基材上に皮膜を形成させた
後、該皮膜を化学反応させ別物質の皮膜を形成させることを特徴とするコーテ
ィング方法が提供される。
【0058】
本発明において、この皮膜の化学反応には、分解、脱水、重合などの自己化
学反応、基材および/あるいは雰囲気との間で脱水や重合を起こす化学反応、
基材と新たな化学結合の形成を生ずる反応が挙げられる。例えば、シリコンア
ルコキシドの加水分解生成物を被覆ししかる後縮合脱水処理を行うことで、シ
リコン酸化物の被膜を形成することが可能である。また、アルミニウム微粉末
を被覆した後適切な条件で酸化することで、アルミニウムと金属基材の表面に
必ず存在する酸化物が反応して一部がスピネル構造を示す複合酸化物皮膜を形
成することができる。
【0059】
皮膜の化学反応を起こすための処理であることから、処理手段は特に限定さ
れることはないが、加熱や冷却などの熱処理、真空や加圧などの圧力処理、真
空や特殊ガス封入などの雰囲気処理、水や有機溶剤中への液相浸漬処理、紫外
線や赤外線などの電磁波照射など、さらにはこれらの複合処理が挙げられる。
しかし、皮膜に対する処理であることから、機械的変形を伴う加工処理は一般
的には適切ではない。
【0060】
前述したシリコンアルコキシドの加水分解生成物の縮合脱水処理には、加熱
が行われる。アルミニウム微粉末皮膜と基盤の酸化物の複合化には、アルミニ
ウムの急激な酸化を抑制するために、低酸素分圧の真空ないし還元性雰囲気で
の雰囲気処理をした加熱が実施される。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を示す。
【0062】
(実施例1)
基材として市販のSUS304ステンレス鋼の光輝焼鈍板を用いた。また、無機酸
化物の粉末として10nm以下のアナターゼ型のTiO2を、分散媒としてイソプロパノ
ールを用い、分散濃度を0.7重量%とした。
基材は、水洗−アセトン洗浄−市販のアルカリ脱脂剤(晃栄工業株式会社製P
S-250C)による脱脂−蒸留水洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。該ス
テンレス鋼表面に付着したミストの接触角度を、顕微鏡式接触角度計で測定し
たところ、20〜25°であった。ミスト生成はスプレー法により噴霧した。
ミストのサイズは、水のミストをガラスに付着させ直ちに凍結して光学顕微鏡
で観察し、ガラス上の形状を半球、浮遊時の形状を球と仮定することで推算し
た結果、約210〜350μmφであった。被覆直後の基材は明らかに濡れていると感
知できるレベルまで被覆されたが、常温の大気雰囲気中に30分放置することで
乾燥した。
【0063】
このステンレス鋼板は、肉眼的には素材と何ら変わらない表面を呈しており
、被覆感は感じられなかった。しかし、その表面をオージェ電子分光法で分析
したところ、Fe、Cr、Niのステンレス鋼に由来するピークおよびコンタミネー
ションのCやOの他に、Tiのピークが検出された。さらに、水濡れ性を測定した
ところ、素材のステンレス鋼では弱い撥水性を示すのに対して、本試験材は超
親水性を示すことが認められた。
この結果から、ステンレス鋼表面に分散質であるアナターゼ型のTiO2の皮膜が
生成していることが確認できた。
また、皮膜の厚さは、オージェによるスパッタリングで測定したところ、4
0nmであった。
尚、該実施例1は、請求項1の発明には含まれるものの、請求項2の発明に
は含まれない。
【0064】
(実施例2)
基材として市販のSUS304ステンレス鋼の光輝焼鈍板を用いた。また、金属の
粉末として10〜20nmのAgを、分散媒としてエタノールを用い、分散濃度を0.5重
量%とした。
基材は、水洗−アセトン洗浄−市販のアルカリ脱脂剤(晃栄工業株式会社製P
S-250C)による脱脂−蒸留水洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。該ス
テンレス鋼表面に付着したミストの接触角度を、実施例1と同じ方法で測定し
たところ、20〜25°であった。ミスト生成はスプレー法により噴霧した。
ミストのサイズは、水のミストをガラスに付着させ直ちに凍結して光学顕微鏡
で観察し、ガラス上の形状を半球、浮遊時の形状を球と仮定することで推算し
た結果、約210〜350μmφであった。被覆直後の基材は明らかに濡れていると感
知できるレベルまで被覆されたが、常温の大気雰囲気中に30分放置することで
乾燥した。
【0065】
このステンレス鋼板は、肉眼的には素材と何ら変わらない表面を呈しており
、被覆感は感じられなかった。しかし、その表面をオージェ電子分光法で分析
したところ、Fe、Cr、Niのステンレス鋼に由来するピークおよびコンタミネー
ションのCやOの他に、Agのピークが検出された。
この結果から、ステンレス鋼表面にAgの皮膜が生成していることが確認でき
た。
また、皮膜の厚さは、実施例1と同じ方法で測定したところ、35nmであ
った。
尚、該実施例2は、請求項1の発明には含まれるものの、請求項2の発明に
は含まれない。
【0066】
(実施例3)
基材として市販のSUS304ステンレス鋼の光輝焼鈍板を用いた。また、金属の
粉末として10〜20nmのTiを、分散媒としてイソプロパノールを用い、分散濃度
を1.0重量%とした。
基材は、水洗−アセトン洗浄−市販のアルカリ脱脂剤(晃栄工業株式会社製P
S-250C)による脱脂−蒸留水洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。該ス
テンレス鋼表面に付着したミストの接触角度を、実施例1と同じ方法で測定し
たところ、20〜25°であった。ミスト生成は120KHzの超音波振動の付与で
行い、被覆は浮遊ミスト中に基材を保定することで行った。ミストのサイズは
、水のミストをガラスに付着させ直ちに凍結して光学顕微鏡で観察し、ガラス
上の形状を半球、浮遊時の形状を球と仮定することで推算した結果、約18〜25
μmφであった。被覆した基材は、被覆直後でも濡れているとは思えないレベル
の被覆であったが、常温の大気雰囲気中に濡れていると感知された試料と同じ3
0分間放置して乾燥した。
【0067】
このステンレス鋼板は、肉眼的には素材と何ら変わらない表面を呈しており
、被覆感は感じられなかった。しかし、その表面をオージェ電子分光法で分析
したところ、Fe、Cr、Niのステンレス鋼に由来するピークおよびコンタミネー
ションのCやOの他に、Tiのピークが検出された。
この結果から、ステンレス鋼表面に分散質であるTiの皮膜が生成しているこ
とが確認できた。
また、皮膜の厚さは、実施例1と同じ方法で測定したところ、150nmであっ
た。
【0068】
次いで、このステンレス鋼を10-5Paの真空中で450℃で1時間の雰囲気熱処理を
行った。
このステンレス鋼板は、肉眼的には素材や熱処理前の被覆材と何ら変わらな
い表面を呈しており、やはり被覆感は感じられなかった。しかし、その表面を
オージェ電子分光法で分析したところ、Fe、Cr、Niのステンレス鋼に由来する
ピークおよびコンタミネーションのCやOの他に、Tiのピークが検出された。さ
らに、水濡れ性を測定したところ、素材のステンレス鋼や熱処理前の被覆材で
は弱い撥水性を示すのに対して、本試験材は超親水性を示すことが認められた

この結果から、ステンレス鋼表面にTiO2の皮膜が生成していることが確認でき
た。
【0069】
(実施例4)
基材として市販のSUS304ステンレス鋼の光輝焼鈍板を用いた。被覆剤は、40
重量%のシリコンテトラエトキシドのエタノール溶液にシリコンテトラエトキ
シドの1/2の重量の水と1/200の重量のHClを加えて攪拌し生成した加水分解生成
物の溶液を用いた。
基材は、水洗−アセトン洗浄−市販のアルカリ脱脂剤(晃栄工業株式会社製P
S-250C)による脱脂−蒸留水洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。該ス
テンレス鋼表面に付着したミストの接触角度を、実施例1と同じ方法で測定し
たところ、20〜25°であった。ミスト生成は120KHzの超音波振動の付与で
行い、被覆は浮遊ミスト中に基材を15秒間保定することで行った。ミストの
サイズは、水のミストをガラスに付着させ直ちに凍結して光学顕微鏡で観察し
、ガラス上の形状を半球、浮遊時の形状を球と仮定することで推算した結果、
約18〜25μmφであった。15秒間保定することで被覆した基材は、被覆直後で
も濡れているとは思えない平滑なレベルの被覆であった。これらの試料は、常
温大気中で30分間放置して乾燥した後、150℃で1時間の大気中熱処理を実施し
た。
【0070】
このステンレス鋼板は、肉眼的には素材や熱処理前の被覆材と何ら変わらな
い表面を呈しており、やはり被覆感は感じられなかった。しかし、その表面を
オージェ電子分光法で分析したところ、Fe、Cr、Niのステンレス鋼に由来する
ピークおよびコンタミネーションのCやOの他に、Siのピークが検出された。さ
らに、大気中で350℃−10分の加熱処理を行ったところ、素材のステンレス鋼で
は青色から黄褐色の着色が見られたが、本試験材はほとんど着色しなかった。
この結果から、ステンレス鋼表面にSiO2の皮膜が生成していることが確認でき
た。
また、この表面のSiのピークの板厚方向の分布から、SiO2被膜の厚さは概ね90
nmであった。
【0071】
(実施例5)
基材として市販のアクリル板を用いた。被覆剤は、40重量%のシリコンテト
ラエトキシドのエタノール溶液にシリコンテトラエトキシドの1/3の重量の水と
1/200の重量のHClを加え、さらに10重量%のチタンテトライソプロポキシドの
エタノール溶液をシリコンテトラエトキシドとチタンテトライソプロポキシド
のモル比で1:3の割合で添加混合し、常温大気中で攪拌し、大気中の湿分と反応
して生成した加水分解生成物の溶液を用いた。
基材は、水洗−アセトン洗浄−市販のアルカリ脱脂剤(晃栄工業株式会社製P
S-250C)による脱脂−蒸留水洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。この
段階で上述の加水分解生成物溶液に対する濡れ性は、顕微鏡式接触角度計で測
定したところ、常温の接触角度で45〜100°とばらつきがあった。そこで、常温
のγ−メタアクリルオキシプロピルトリメトキシシランの0.5%メタノール溶液
に10秒浸漬し、その後水洗乾燥させた。この処理により、上述の加水分解生成
物溶液に対する濡れ性は、常温の接触角度で約20°となった。試験は、このシ
ランカップリング処理を行った濡れ性の高い基材を用い、未処理の基材を比較
材として進めた。
【0072】
ミスト生成は120KHzの超音波振動の付与で行い、被覆は浮遊ミスト中に基材
を保定することで行った。ミストのサイズは、水のミストをガラスに付着させ
直ちに凍結して光学顕微鏡で観察し、ガラス上の形状を半球、浮遊時の形状を
球と仮定することで推算した結果、約18〜25μmφであった。
ミスト中の保定は、1〜5分とした。シランカップリング処理を行った濡れ性
の高い基材では、ミスト中保定時間に関わらず被覆処理直後でも被覆されてい
るとは思えない平滑なレベルの被覆であった。しかし、比較の基材では、2分ま
での短時間保定の場合わずかに被覆面が白濁した状態であった。それでも、3分
以上となると白濁が消滅し、シランカップリング処理を行った濡れ性の高い基
材の場合と同様に平滑になった。これらの試料は、常温大気中で30分間放置し
て乾燥した後、90℃で1時間の大気中熱処理および沸騰純水中で1時間の雰囲
気熱処理を実施した。
【0073】
このアクリル板は、被覆直後に白濁を呈した比較材は、最終処理後でも表面
の光沢がわずかに劣化していたものの、肉眼的には素材や熱処理前の被覆材と
何ら変わらない表面を呈しており、やはり被覆感は感じられなかった。しかし
、これらの試料の水濡れ性を測定したところ、素材のアクリル板では強い撥水
性を示すのに対して、本試験材では超親水性を示すことが認められた。
この結果から、アクリル板表面には少なくとも光触媒機能を有するTiO2の皮膜
が生成していることが確認できた。確認はしなかったが、おそらくSiO2も同時に
成膜されていると推定される。また、この表面には被覆感がなくかつ干渉色も
認められないことから、被膜の厚さは200nm以下であった。
【0074】
(比較例1)
基材及び被覆剤は、実施例4と同じものを用いた。
基材は、純水中で超音波洗浄を行い、空気吹き付けにより乾燥した。該ステ
ンレス鋼表面に付着したミストの接触角度を、実施例1と同じ方法で測定した
ところ、40〜45°であった。
ミスト生成は、実施例4と同じ方法により行った。被覆を、浮遊ミスト中に
基材を15秒間保定することで行ったところ、皮膜とはならず、基材表面がく
もってしまった。また、浮遊ミスト中に基材を1分間保定したところ、基材表
面に皮膜は形成されたものの、不均一であってムラがあった。
比較例1より、基材表面上のミストの接触角度が30度を超えた場合には、
優れたコーティングができないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の粉末を分散媒に分散して分散
液を形成し、
該分散液をミスト化し、
該分散液のミストの接触角度が30°以下となる基材上に、該ミストを付着さ
せ、極薄皮膜を形成させることを特徴とする、金属、無機化合物及び/又は有
機金属化合物のコーティング方法。
【請求項2】
分散液のミストを最大径で30μm以下とし、前記粉末を100nm以下として、形
成する皮膜厚さを1μm以下とする、請求項1記載のコーティング方法。
【請求項3】
金属、無機化合物及び/又は有機金属化合物の溶液を形成し、
該溶液をミスト化し、
該溶液のミストの接触角度が30°以下となる基材上に、該ミストを付着させ
、極薄皮膜を形成させることを特徴とする、金属、無機化合物及び/又は有機
金属化合物のコーティング方法。
【請求項4】
溶液のミストを最大径で30μm以下として、形成する皮膜厚さを1μm以下とす
る、請求項1記載のコーティング方法。
【請求項5】
前記ミストの基材表面への付着前に、基材表面を脱脂処理して、基材表面に
付着したミストの接触角度が30°以下となるよう基材表面を処理する、請求項
1〜4のいずれか1項に記載のコーティング方法。
【請求項6】
前記分散液または溶液のミスト化を、超音波振動付与によって行う、請求項
1〜5のいずれか1項記載のコーティング方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載のコーティング方法に基づいて、基材上に皮膜を形成させ
た後、該皮膜を化学反応させ別物質の皮膜を形成させることを特徴とするコー
ティング方法。

【公開番号】特開2006−289294(P2006−289294A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115436(P2005−115436)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(591186718)高砂鐵工株式会社 (12)
【Fターム(参考)】