説明

金属の回収方法

【課題】イリジウムなどの希少な金属を、不要となった発光素子から回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】室温で三重項励起状態からの可視光発光が可能な有機金属化合物を加熱して回収する、又は室温で三重項励起状態からの可視光発光が可能な有機金属化合物を含む発光素子を用い、発光素子のEL層を溶媒に溶かして溶液を形成し、前記溶液を加熱、マイクロ波照射又は酸性の水で処理して回収する方法を提供する。上記方法により、希少金属であるイリジウムや白金などの金属の資源を有効活用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子に含まれる金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)を利用した発光素子の研究開発が盛んに行われている。これら発光素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の物質を挟んだものである。この素子に電圧を印加することにより、発光性の物質からの発光を得ることができる。
【0003】
このような発光素子は自発光型であるため、液晶ディスプレイに比べ画素の視認性が高く、バックライトが不要である等の利点があり、フラットパネルディスプレイ素子として好適であると考えられている。また、このような発光素子は、薄型軽量に作製できることも大きな利点である。また、非常に応答速度が速いことも特徴の一つである。
【0004】
また、これらの発光素子は膜状に形成することが可能であるため、大面積の素子を形成することにより、面状の発光を容易に得ることができる。このことは、白熱電球やLEDに代表される点光源、あるいは蛍光灯に代表される線光源では得難い特色であるため、照明等に応用できる面光源としての利用価値も高い。
【0005】
エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子は、発光性の物質が有機化合物であるか、無機化合物であるかによって大きく分けられる。
【0006】
発光性の物質が有機化合物である場合、発光素子に電圧を印加することにより、一方の電極から電子が発光性の有機化合物を含む層に注入され、他方の電極から正孔が発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、それらキャリア(電子および正孔)が再結合することにより、発光性の有機化合物が励起状態を形成し、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。このようなメカニズムから、このような発光素子は、電流励起型の発光素子と呼ばれる。
【0007】
なお、有機化合物が形成する励起状態の種類としては、一重項励起状態(S)と三重項励起状態(T)が可能である。また、発光素子における一重項励起状態(S)と三重項励起状態(T)の統計的な生成比率は、S:T=1:3であると考えられている。
【0008】
発光性の有機化合物は通常、基底状態が一重項状態である。したがって、一重項励起状態(S)から一重項基底状態へ戻る際の発光は、同じ多重度間の電子遷移であるため蛍光と呼ばれる。一方、三重項励起状態(T)から一重項基底状態へ戻る際の発光は、異なる多重度間の電子遷移であるため燐光と呼ばれる。ここで、蛍光を発する化合物(以下、蛍光性化合物と称す)の多くは室温において、燐光は観測されず蛍光のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の理論的限界は、S:T=1:3であることを根拠に最大25%とされている。
【0009】
一方、燐光を発する化合物(以下、燐光性化合物と称す)を用いれば、理論上は、内部量子効率は75〜100%まで可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて3〜4倍の発光効率が可能となる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合物を用いた発光素子が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
燐光性化合物としては、非特許文献1のように、イリジウム(Ir)を中心金属とした錯体が多く用いられている。しかしながら、イリジウムは貴金属であり、地殻中の存在量が極めて少ない。よって、発光素子を用いた発光装置や電子機器の普及に伴い、イリジウムの資源の枯渇が問題となってくる。また、環境への負荷を軽減するためにも、イリジウムを再利用する方法が求められている。
【非特許文献1】テツオ ツツイ、外8名、ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス、vol.38、L1502−L1504(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、イリジウムなどの希少な金属を、不要となった発光素子から回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を含む発光素子のEL層を、加熱処理により灰化する段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。なお、本明細書において、EL層とは発光素子の一対の電極間に設けられた層を示す。
【0013】
また本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を含む発光素子のEL層を、800℃以上で加熱処理する段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0014】
また本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を含む発光素子のEL層を、大気下、もしくは、酸素雰囲気下で800℃以上で加熱処理し、加熱処理後に残った金属酸化物を回収する段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0015】
また本発明の一は、有機金属化合物を含む発光素子のEL層を、還元雰囲気下、もしくは、還元剤と共に800℃以上で加熱処理し、加熱処理後に残った金属を回収する段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0016】
上記構成において、加熱処理の後、残った金属もしくは金属酸化物を酸性の水で処理して、有機金属化合物を構成する金属を含む金属化合物が溶解した溶液を得る段階を有してもよい。酸性の水としては、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、亜硝酸、酢酸のいずれかを含む水を用いることができる。
【0017】
また上記構成において、金属化合物が溶解した溶液を酸化する段階を有していてもよい。
【0018】
また上記構成において、金属化合物が溶解した溶液を電気分解する段階を有していてもよい。
【0019】
上記構成において、金属化合物が溶解した溶液に含まれる金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する段階を有していてもよい。
【0020】
上記構成において、金属化合物が溶解した溶液に含まれる金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する段階と、金属錯体を溶解する溶媒で抽出する段階と、を有していてもよい。この場合、溶媒は水と均一に混合しないことが好ましい。
【0021】
また本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物をEL層が一対の電極間に形成された発光素子から一方の電極を剥離してEL層を露出させる第1の段階、EL層を溶媒に溶かした溶液にマイクロ波を照射する第2の段階、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0022】
また本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物をEL層が一対の電極間に形成された発光素子から一方の電極を剥離してEL層を露出させる第1の段階、EL層を溶媒に溶かした溶液に有機化合物を加えてマイクロ波を照射する第2の段階、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0023】
上記方法において、マイクロ波を照射した溶液を酸性の水を含む溶媒で処理して、有機金属化合物を構成する金属を含む金属化合物が溶解した溶液、もしくは金属化合物が懸濁した懸濁液を形成する第3の段階を有していてもよい。
【0024】
また本発明の一は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を含むEL層が一対の電極間に形成された発光素子から一方の電極を剥離してEL層を露出させる第1の段階、発光素子のEL層を酸性の水を含む溶媒で処理して、有機金属化合物を構成する金属を含む金属化合物が溶解した溶液、もしくは金属化合物が懸濁した懸濁液を形成する第2の段階、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法である。
【0025】
上記構成において、酸性の水としては、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、亜硝酸、酢酸のいずれかを含む水を用いることができる。
【0026】
また上記方法において、金属化合物が溶解した溶液、もしくは金属化合物が懸濁した懸濁液を酸化する段階を有していてもよい。
【0027】
また上記構成において、金属化合物が溶解した溶液を電気分解する段階を有していてもよい。
【0028】
上記構成において、金属化合物が溶解した溶液、もしくは金属化合物が懸濁した懸濁液に含まれる金属化合物と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する段階を有していてもよい。
【0029】
上記構成において、金属化合物が溶解した溶液、もしくは金属化合物が懸濁した懸濁液に含まれる金属化合物と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する段階と、金属錯体を溶解する溶媒で抽出する段階と、を有していてもよい。この場合、溶媒は水と均一に混合しないことが好ましい。
【0030】
また、上記構成において、有機配位子は、高分子化合物に担持されており、高分子化合物に担持されている有機配位子と、金属化合物を含む水溶液、あるいは混合物とを混合し、金属錯体を形成してもよい。
【0031】
また、上記構成において、有機配位子は、アミン誘導体、エチレンジアミン誘導体、あるいはトリエチレンジアミン誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、エチレンジアミンチオカルボアルデヒド誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、フェノール誘導体、あるいはポリフェノール誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、チオール誘導体、あるいは環状チオール誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、エーテル誘導体、あるいは環状エーテル誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、ウラシル誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、アミド誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、アンモニウム塩であることが好ましい。または、有機配位子は、ピリジン誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、アミノスルフィド誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、アニリン誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、リン酸誘導体、あるいはホスホニウム塩、あるいはホスフィンオキシド誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、チオウレア誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、ベンゾチアゾール誘導体であることが好ましい。または、有機配位子は、チオカルボニル誘導体であることが好ましい。
【0032】
また、上記構成において、金属は周期表第7族乃至第11族の金属であることが好ましい。または、金属は、Ir、Pt、Ru、Reのいずれかであることが好ましい。または、金属は希土類金属であることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、希少金属であるイリジウム(Ir)や白金(Pt)などの金属の資源を有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の態様について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
本実施の形態では、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物が含まれる発光素子から、該金属原子を回収する方法を記述する。
【0036】
図1に、一般的な発光素子の構造を示す。図1に示した発光素子は、基板201上に形成されており、第1の電極202と第2の電極204との間に設けられたEL層203を有する。EL層203は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を含んでいる。具体的には、周期表第7族乃至第11族のいずれかの金属を含んでいる。または希土類金属を含んでいる。特に、発光素子に多く用いられているIr、Pt、Ru、Reであることが好ましい。これらの金属は貴金属である。貴金属は存在が希少であり、高価であるため、発光素子から回収することによるコスト低減の効果が大きい。また、特に、Ir、Pt、Ru、Reは、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物として多く使われており、発光素子から回収することにより資源を有効活用することが可能である。
【0037】
EL層に含まれる可視光発光が可能な有機金属化合物としては、例えば、以下の構造式で表される化合物が挙げられる。なお、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
上記に示した有機金属化合物は、周期表第7族乃至第11族のいずれかの金属または希土類金属を含んでいる。これらの有機金属化合物を含む発光素子から周期表第7族乃至第11族のいずれかの金属または希土類金属を回収することにより、資源を有効活用することが可能となる。
【0049】
また、上記の有機金属化合物以外に、中心金属としてIrを含む有機金属化合物は特に多く発光素子に用いられている。例えば、以下に示す部分構造を有する有機金属化合物が挙げられる。
【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
また、上記の部分構造を有し、かつ下記に示す配位子が配位している構造の有機金属化合物が多く用いられている。
【0054】
【化14】

【0055】
上記の部分構造を有する有機金属化合物としては、例えば、以下の構造式で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【化15】

【0057】
【化16】

【0058】
【化17】

【0059】
また、以下の構造式で表される化合物が発光素子に多く用いられている。
【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
【化20】

【0063】
また、第1の電極202および第2の電極204は、様々な金属、合金、導電性化合物、およびこれらの混合物などから構成されている。例えば、光を取り出す電極として酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)等の透明導電膜を用いることができる。またその他にも、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)等の種々の導電性材料を用いることができる。また、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカリ金属、およびマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(MgAg、AlLi等)、ユウロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属およびこれらを含む合金等が挙げられる。
【0064】
このような構成を有する発光素子から、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際可視光を発光する材料を取り出す。まず、第1の電極202または第2の電極204を発光素子から剥離する。剥離する電極は、一対の電極のうち少なくとも一方であればよいが、EL層形成後に形成された電極であれば、より容易に剥離することが可能である。一般的に無機化合物で形成される電極と有機化合物との密着性は低いため、比較的容易に電極を剥離することができる。例えば電極上に粘着性テープを貼り付け、その後テープを剥がすことで、電極を剥離することができる。特に、EL層よりも小さな領域に電極を形成することで、容易に剥離することができる。
【0065】
また、粘着性のテープだけでなく、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを塗布し、これを剥離することで電極を剥離することも可能である。樹脂としては、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂、フェノール樹脂など、汎用の樹脂を用いることができる。
【0066】
また、アルミニウム(Al)のように、酸やアルカリと反応しやすい材料で構成された電極の場合、酸処理やアルカリ処理により、電極を除去しても良い。
【0067】
この後、EL層を取り出す。取り出す方法としては種々の方法を用いることができるが、例えば、EL層に含まれる有機化合物を溶解し得る溶媒に溶解させ、溶液の形として取り出してもよい。EL層に含まれる有機化合物が溶解する溶媒としては、例えば、トルエンやキシレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素、ジクロロベンゼン、クロロベンゼンなどのハロゲンを有する芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素系の溶媒などが挙げられる。あるいは、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系の溶媒でも構わない。この際、EL層が完全に該溶媒に溶解する必要は無く、一部が溶解した混合物の状態で取り出しても構わない。
【0068】
次に、EL層を構成する種々の化合物が含まれている溶液もしくは混合物から、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物を構成する金属原子を回収する。
【0069】
第1の方法としては、EL層を構成する種々の化合物が含まれている溶液もしくは混合物に加熱処理を施し、灰化させる。加熱処理は、大気下や酸素雰囲気下で行っても、還元雰囲気下で行ってもよい。また、還元剤とともに加熱処理を行ってもよい。大気下や酸素雰囲気下で加熱処理を行った場合には、金属の酸化物が得られる。また、Hガス雰囲気下などの還元雰囲気下で加熱処理を行った場合には、金属が得られる。また、例えばパラジウムカーボン(PdC)やアルミニウム(Al)などの還元剤と共に加熱処理を行った場合は、金属を得ることができる。EL層に種々の金属が含まれる場合には、金属酸化物より金属の方が、融点の差などを利用して分離することができ、分離が容易であるため、還元雰囲気下で加熱処理を行うことが好ましい。また、有機物の残存を防止するため、加熱処理の温度は、800℃以上であることが好ましい。さらに好ましくは1000℃以上であることが好ましい。
【0070】
次に、上記の方法で得られた金属もしくは金属酸化物を分離する。例えば、金属の融点の差を利用することにより分離することができる。融点の差を利用することにより、目的とする金属原子を回収することができる。つまり、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物から、該金属原子を回収することができる。
【0071】
また、融点の差を利用する以外に、下記の方法を用いることにより、目的とする金属原子を回収することが可能である。
【0072】
まず、上記の方法で得られた金属もしくは金属酸化物を酸性の水で処理する。つまり、酸性の水と混合し、攪拌する。具体的には、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、酢酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、ヨウ化水素などを含む水と、上述した加熱処理によって得られた金属もしくは金属酸化物とを反応させる。必要に応じて加熱や酸化処理を行っても良い。酸化処理としては、例えば、空気を導入して酸素によって酸化すればよい。あるいは、過酸化水素水と混合して酸化しても良い。あるいは、ヨウ素や塩素、臭素などのハロゲンを用いて酸化しても構わない。
【0073】
これにより、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属の金属化合物を得ることができる。具体的には、塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、あるいは酸化物が溶解した溶液を得ることができる。塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩は溶解性が高いため、好ましい。
【0074】
このようにして得られた金属化合物が溶解した溶液を、アルカリ処理しても良い。これにより、該金属の水酸化物、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩を生成することができ、これらが溶解した溶液を得ることができる。アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩は溶解性が高いため、好ましい。
【0075】
第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物が溶解した溶液を形成した後、該溶液から金属化合物を単離する。具体的には、電気分解する方法と、有機配位子を含む溶液と処理する方法とが挙げられる。
【0076】
電気分解とは、第7族乃至第11族の遷移金属、希土類金属を中心金属とする金属化合物の溶液に直流電源を接続することで、電極上または電極近傍に、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を析出させる方法である。金属によってイオン化傾向が異なるため、もし溶液中に他の金属が含まれている場合でも、電気分解を用いることにより、目的とする金属だけを容易に分離することが可能である。電気分解に用いる溶媒としては、種々のものを用いることができ、例えば、水やアセトニトリル、溶融塩などを用いることができる。
【0077】
また、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物を含む溶液を、有機配位子を含む溶液と処理する方法としては、該溶液に有機配位子を含む溶液を加えることで、該金属化合物と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成し、該金属錯体を溶解する溶媒で抽出する方法が挙げられる。この場合、金属錯体を溶解する溶媒は、水と均一に混合しないことが好ましい。
【0078】
ここで言う有機配位子とは、該金属と複数の配位結合を形成しうる分子であり、キレート配位子とも呼ばれる。具体的には、アミン誘導体、エチレンジアミン誘導体、トリエチレンジアミン誘導体、エチレンジアミンチオカルボアルデヒド誘導体、フェノール誘導体、ポリフェノール誘導体、チオール誘導体、環状チオール誘導体、エーテル誘導体、環状エーテル誘導体、ウラシル誘導体、アミド誘導体、アンモニウム塩、ピリジン誘導体、アミノスルフィド誘導体、アニリン誘導体、リン酸誘導体、ホスホニウム塩、ホスフィンオキシド誘導体、チオウレア誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、チオカルボニル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は、高分子化合物に担持されていても良い。この場合、高分子化合物としては、ポリスチレンやポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステルなどを主鎖骨格として有する高分子化合物を用いることができる。あるいはこれらの高分子化合物の架橋体の側鎖に、これら有機配位子を組み込めばよい。
【0079】
例えば、アミン誘導体、エチレンジアミン誘導体、トリエチレンジアミン誘導体としては、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化21】

【0081】
一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0082】
【化22】

【0083】
一般式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0084】
【化23】

【0085】
一般式(3)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0086】
例えば、エチレンジアミンチオカルボアルデヒド誘導体としては、一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0087】
【化24】

【0088】
一般式(4)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0089】
例えば、フェノール誘導体、ポリフェノール誘導体としては、一般式(5)で表される化合物、構造式(6)で表される化合物、構造式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0090】
【化25】

【0091】
一般式(5)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0092】
【化26】

【0093】
【化27】

【0094】
例えば、チオール誘導体、環状チオール誘導体としては、一般式(8)で表される化合物、構造式(9)で表される化合物が挙げられる。
【0095】
【化28】

【0096】
一般式(8)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0097】
【化29】

【0098】
例えば、エーテル誘導体、環状エーテル誘導体としては、構造式(10)で表される化合物、構造式(11)で表される化合物、構造式(12)で表される化合物が挙げられる。
【0099】
【化30】

【0100】
【化31】

【0101】
【化32】

【0102】
例えば、ウラシル誘導体としては、一般式(13)で表される化合物、一般式(14)で表される化合物が挙げられる。
【0103】
【化33】

【0104】
一般式(13)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0105】
【化34】

【0106】
一般式(14)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0107】
例えば、アミド誘導体としては、一般式(15)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、一般式(17)で表される化合物が挙げられる。
【0108】
【化35】

【0109】
一般式(15)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0110】
【化36】

【0111】
一般式(16)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0112】
【化37】

【0113】
一般式(17)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0114】
例えば、アンモニウム塩としては、一般式(18)で表される化合物が挙げられる。
【0115】
【化38】

【0116】
一般式(18)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Bは、塩化物イオン、硫酸イオン、過塩素酸イオン、酢酸イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、亜硫酸イオンのいずれかを表す。
【0117】
例えば、ピリジン誘導体としては、一般式(19)で表される化合物、一般式(20)で表される化合物が挙げられる。
【0118】
【化39】

【0119】
一般式(19)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0120】
【化40】

【0121】
一般式(20)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0122】
例えば、アミノスルフィド誘導体としては、一般式(21)で表される化合物が挙げられる。
【0123】
【化41】

【0124】
一般式(21)において、Rは、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0125】
例えば、アニリン誘導体としては、一般式(22)で表される化合物が挙げられる。
【0126】
【化42】

【0127】
一般式(22)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0128】
例えば、リン酸誘導体、ホスホニウム塩、ホスフィンオキシド誘導体としては、一般式(23)で表される化合物、一般式(24)で表される化合物、一般式(25)で表される化合物が挙げられる。
【0129】
【化43】

【0130】
一般式(23)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0131】
【化44】

【0132】
一般式(24)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0133】
【化45】

【0134】
一般式(25)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Bは、塩化物イオン、硫酸イオン、過塩素酸イオン、酢酸イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、亜硫酸イオンのいずれかを表す。
【0135】
例えば、チオウレア誘導体としては、一般式(26)で表される化合物が挙げられる。
【0136】
【化46】

【0137】
一般式(26)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0138】
例えば、ベンゾチアゾール誘導体としては、一般式(27)で表される化合物が挙げられる。
【0139】
【化47】

【0140】
一般式(27)において、Rは、水素、アリール基またはアルコキシ基を表す。
【0141】
例えば、チオカルボニル誘導体としては、一般式(28)で表される化合物、一般式(29)で表される化合物、一般式(30)で表される化合物、一般式(31)で表される化合物が挙げられる。
【0142】
【化48】

【0143】
一般式(28)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0144】
【化49】

【0145】
一般式(29)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0146】
【化50】

【0147】
一般式(30)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0148】
【化51】

【0149】
一般式(31)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表す。具体的には、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0150】
上述した方法により、発光素子に含まれている、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際に可視光を発光する材料を構成する中心金属、具体的には周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属を分離することができる。本実施の形態で示す方法を用いることにより、希少金属であるイリジウム(Ir)や白金(Pt)などの周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属の資源を有効活用することができる。
【0151】
なお、複数のEL層を電荷発生層を挟んで積層した発光素子においても、同様に、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際に可視光を発光する材料を構成する中心金属を回収することが可能である。
【0152】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【0153】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に示した方法とは異なる方法により、金属原子を回収する方法を説明する。
【0154】
実施の形態1に示した方法と同様に、EL層を取り出し、EL層を構成する種々の化合物が含まれている溶液もしくは混合物を形成する。
【0155】
次に、EL層が溶媒に溶解した溶液、もしくは溶媒に一部が溶解した状態の混合物にマイクロ波を照射する。マイクロ波の照射条件は、EL層に含まれる室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物が分解できるように適宜設定すればよい。また、マイクロ波を照射する際に光を照射してもよい。光を照射することにより、励起状態になり、分解をさらに促進することができる。また、マイクロ波を照射する際に、有機化合物を加えてもよい。有機化合物としては、アセチルアセトン、ピコリン酸、ピリジンなどが挙げられる。有機化合物を加えることにより、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物の分解を促進することができる。また、マイクロ波を照射する際の溶媒は、極性が高い溶媒であることが好ましい。極性が高い溶媒を用いることにより、マイクロ波を照射した場合の発熱量が大きいため、効率良く、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物の分解をすることができる。極性が高い溶媒としては、グリセロール、2−エトキシエタノール、エチレングリコール、ジクロロメタンなどが挙げられる。また、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートなどのイオン液体を用いてもよい。また、これらの溶媒にさらに水を加えても良い。
【0156】
マイクロ波を照射した後、分解物が含まれる溶液もしくは混合物から、必要に応じて、目的の金属を分離する操作を行う。目的の金属を分離する方法としては、酸性の水で処理した後に電解する方法、酸で処理した後に有機配位子を加え抽出する方法、または、分解物が含まれる溶液もしくは混合物に、有機配位子を加え、直接抽出する方法が挙げられる。
【0157】
まず、上記の方法で得られた分解物が含まれる溶液もしくは混合物を酸性の水で処理する。つまり、酸性の水と混合し、攪拌する。具体的には、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、酢酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、ヨウ化水素などを含む水と、分解物が含まれる溶液もしくは混合物とを反応させる。必要に応じて加熱や酸化処理を行っても良い。酸化処理としては、例えば、空気を導入して酸素によって酸化すればよい。あるいは、過酸化水素水と混合して酸化しても良い。あるいは、ヨウ素や塩素、臭素などのハロゲンを用いて酸化しても構わない。
【0158】
これにより、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物、具体的には塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、あるいは酸化物を得ることができる。
【0159】
このようにして得られた金属化合物が溶解した溶液、あるいは金属化合物が懸濁した懸濁液を、アルカリ処理しても良い。これにより、該金属の水酸化物、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩を生成することができ、これらが溶解した溶液、あるいはこれらが懸濁した懸濁液を得ることができる。
【0160】
第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物を含む溶液、もしくは懸濁液を形成した後、該溶液や該懸濁液から金属化合物を単離する。具体的には、電気分解する方法と、有機配位子を含む溶液と処理する方法とが挙げられる。なお、電気分解する方法は、溶液の場合に好適に用いることができる。有機配位子を含む溶液と処理する方法は、溶液、懸濁液のいずれにも好適に用いることができる。
【0161】
電気分解とは、第7族乃至第11族の遷移金属、希土類金属を中心金属とする金属化合物の溶液に直流電源を接続することで、電極上または電極近傍に、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を析出させる方法である。金属によってイオン化傾向が異なるため、もし溶液中に他の金属が含まれている場合でも、電気分解を用いることにより、目的とする金属だけを容易に分離することが可能である。電気分解に用いる溶媒としては、種々のものを用いることができ、例えば、水やアセトニトリル、溶融塩などを用いることができる。
【0162】
また、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物を含む溶液、もしくは懸濁液を、有機配位子を含む溶液と処理する方法としては、該溶液あるいは該懸濁液に有機配位子を含む溶液を加えることで、該金属化合物と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成し、該金属錯体を溶解する溶媒で抽出する方法が挙げられる。この場合、金属錯体を溶解する溶媒は、水と均一に混合しないことが好ましい。また、有機配位子としては、実施の形態1で示した有機配位子を用いることができる。
【0163】
また、分解物が含まれる溶液もしくは混合物に、有機配位子を加え、直接抽出することにより、目的とする金属を分離することができる。直接抽出する場合においても、分解物が含まれる溶液もしくは混合物に有機配位子を含む溶液を加えることで、分解物に含まれる金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成し、該金属錯体を溶解する溶媒で抽出することができる。この場合、有機配位子としては、実施の形態1で示した有機配位子を用いることができる。
【0164】
上述した方法により、発光素子に含まれている、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際に可視光を発光する材料を構成する中心金属、具体的には周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属を分離することができる。
【0165】
本実施の形態で示す方法を用いることにより、希少金属であるイリジウム(Ir)や白金(Pt)などの周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属の資源を有効活用することができる。
【0166】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【0167】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1および実施の形態2に示した方法とは異なる方法により、金属原子を回収する方法を説明する。
【0168】
実施の形態1に示した方法と同様に、EL層を取り出し、EL層を構成する種々の化合物が含まれている溶液もしくは混合物を形成する。
【0169】
次に、EL層が溶媒に溶解した溶液、もしくは溶媒に一部が溶解した状態の混合物を、酸性の水で処理する。つまり、酸性の水と混合し、攪拌する。具体的には、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、酢酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、ヨウ化水素などを含む水とEL層を形成する有機化合物とを反応させる。必要に応じて加熱や酸化処理を行っても良い。酸化処理としては、例えば、空気を導入して酸素によって酸化すればよい。あるいは、過酸化水素水と混合して酸化しても良い。あるいは、ヨウ素や塩素、臭素などのハロゲンを用いて酸化しても構わない。また、加熱処理としてマイクロ波を照射してもよい。
【0170】
これにより、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物、具体的には塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、あるいは酸化物を得ることができる。
【0171】
このようにして得られた金属化合物が溶解した溶液、あるいは金属化合物が懸濁した懸濁液を、アルカリ処理しても良い。これにより、該金属の水酸化物、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩を生成することができ、これらが溶解した溶液、あるいはこれらが懸濁した懸濁液を得ることができる。
【0172】
第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物を含む溶液、もしくは懸濁液を形成した後、必要に応じて、該溶液や該懸濁液から金属化合物を単離する操作を行う。具体的には、電気分解する方法と、有機配位子を含む溶液と処理する方法とが挙げられる。なお、電気分解する方法は、溶液の場合に好適に用いることができる。有機配位子を含む溶液と処理する方法は、溶液、懸濁液のいずれにも好適に用いることができる。
【0173】
電気分解は、実施の形態1および実施の形態2に示したように、第7族乃至第11族の遷移金属、希土類金属を中心金属とする金属化合物の溶液に直流電源を接続することで、電極上または電極近傍に、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を析出させることができる。金属によってイオン化傾向が異なるため、もし溶液中に他の金属が含まれている場合でも、電気分解を用いることにより、目的とする金属だけを容易に分離することが可能である。電気分解に用いる溶媒としては、種々のものを用いることができ、例えば、水やアセトニトリル、溶融塩などを用いることができる。
【0174】
また、第7族乃至第11族の遷移金属や希土類金属を中心金属とする金属化合物を含む溶液、もしくは懸濁液に、有機配位子を含む溶液を加えることで、該金属化合物と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成し、該金属錯体を溶解する溶媒で抽出することができる。この場合、金属錯体を溶解する溶媒は、水と均一に混合しないことが好ましい。また、有機配位子としては、実施の形態1で示した有機配位子を用いることができる。
【0175】
上述した方法により、発光素子に含まれている、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際に可視光を発光する材料を構成する中心金属、具体的には周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属を分離することができる。
【0176】
本実施の形態で示す方法を用いることにより、希少金属であるイリジウム(Ir)や白金(Pt)などの周期表第7族乃至第11族の金属や希土類金属の資源を有効活用することができる。
【0177】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0178】
以下に、本発明の方法により、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能な有機金属化合物から金属を回収した例を具体的に例示する。具体的には、イリジウムを含む有機金属化合物からイリジウムを回収した例を具体的に例示する。
【0179】
イリジウム錯体は、室温で三重項励起状態から一重項基底状態へ戻る際の可視光発光が可能であり、高発光効率を達成できるため、発光素子に多く用いられている。発光素子から、イリジウム錯体に含まれている貴金属であるイリジウムを回収する際には、まず発光素子の電極をテープ等で剥がした後、EL層を有機溶媒で溶解すればよい。しかし、その溶解した溶液には、イリジウム錯体以外に数種類の有機化合物が混在しうる。通常、発光素子には発光材料以外の物質(例えば正孔輸送材料、電子輸送材料、ドーパントを分散させるためのホスト材料等)も用いられるためである。
【0180】
そこで本実施例では、そのような状態を想定し、まずイリジウム錯体と、正孔輸送材料やホスト材料として用いることができる物質と、電子輸送材料やホスト材料として使用できる物質の三種類が溶解した混合溶液から、イリジウムを含む化合物を分離できることを実証した。
【0181】
<ステップ1; 混合溶液の作成>
イリジウム錯体である(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(略称:[Ir(Fdpq)(acac)])、正孔輸送材料である4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)、電子輸送材料であるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(略称:Alq)をそれぞれ20mg計量し、トルエン3mLに溶解させた溶液を作製した。
【0182】
<ステップ2; イリジウムを含む化合物の分離・回収>
次に、上記ステップ1で作成した混合溶液に、5M塩酸溶液を3mL添加し、マイクロ波(2.45GHz 0〜250W 0〜250psi)を30分間照射し、反応させた。反応後、黒色の粉末が析出しており、反応溶液は薄い茶色のトルエン層と淡い黄色の塩酸溶液層に分離していた。上層であるトルエン層の薄層クロマトグラフィーより、イリジウム錯体の配位子である2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンとNPBがトルエン層に溶解していることを確認した。また、下層である塩酸溶液層は淡い黄色を呈しており、Alqの配位子である8−キノリノールが溶解していると考えられる。ゆえに、イリジウムを含む化合物を選択的に析出させることにより、分離することができたと考えられる。析出してきたイリジウムを含む化合物は、ろ過し、トルエン次いでジクロロメタンにて洗浄して回収した。なお、マイクロ波の照射はマイクロ波合成装置(CEM社製 Discover)を用いた。
【0183】
上記ステップ2で得られた黒色粉末について、走査電顕−X線分析(EPMA)による分析を行った。分析の結果、検出された元素は、検出量の多い順に、炭素(C)、イリジウム(Ir)、フッ素(F)、窒素(N)、塩素(Cl)、酸素(O)であった。このことから、[Ir(Fdpq)(acac)]、NPBおよびAlqを含む混合溶液からイリジウムを回収することができたことがわかった。また、上記の方法により、金属元素として、Alqに由来するアルミニウムおよび[Ir(Fdpq)(acac)]に由来するイリジウムを含む溶液から、イリジウムを分離することができたことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】発光素子を説明する図。
【符号の説明】
【0185】
201 基板
202 第1の電極
203 EL層
204 第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重項励起状態からの可視光発光可能な有機金属化合物を加熱する第1の段階を有し、
加熱処理後に残った金属酸化物又は金属を回収する第2の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記有機金属化合物は、大気下、酸素雰囲気下、還元雰囲気下、もしくは、還元剤と共に800℃以上で加熱されることを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項3】
発光素子から一対の電極のうち少なくとも一方の電極を剥離してEL層を露出させる第1の段階を有し、
前記第1の段階において、前記ELは三重項励起状態からの可視光発光可能な有機金属化合物を含んでおり、前記発光素子は前記一対の電極及び前記一対の電極の間に形成された前記EL層を有するものであり、
前記EL層を溶媒に溶かして溶液又は混合物にする第2の段階を有し、
前記溶液又は混合物を大気下又は酸素雰囲気下、800℃以上で加熱する第3の段階を有し、
加熱処理後に残った金属酸化物を回収する第4の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項4】
請求項3において、前記金属酸化物を酸性の水で処理して、前記金属酸化物が溶解した第2の溶液を形成する第5の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項5】
請求項3において、前記金属酸化物を酸性の水で処理して、前記金属酸化物が溶解した第2の溶液を形成する第5の段階と、
前記第2の溶液を電気分解する第6の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項6】
請求項3において、前記金属酸化物を酸性の水で処理して、前記金属酸化物が溶解した溶液を得る第5の段階と、
前記溶液に含まれる金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第6の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項7】
請求項3において、前記金属酸化物を酸性の水で処理して、前記金属酸化物が溶解した溶液を得る第5の段階と、
前記溶液に含まれる金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第6の段階と、
前記金属錯体を溶解する溶媒を用いて前記金属錯体を抽出する第7の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項8】
発光素子から一対の電極のうち少なくとも一方を剥離してEL層を露出させる第1の段階を有し、
前記第1の段階において、前記ELは三重項励起状態からの可視光発光可能な有機金属化合物を含んでおり、前記発光素子は前記一対の電極及び前記一対の電極の間に形成された前記EL層を有するものであり、
前記EL層を溶媒に溶かして溶液又は混合物にする第2の段階を有し、
前記溶液又は混合物を還元雰囲気下、もしくは、還元剤と共に800℃以上で加熱する第3の段階を有し、
加熱処理後に残った金属を回収する第4の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項9】
請求項8において、前記金属を酸性の水で処理して、前記金属が溶解した溶液を得る第5の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項10】
請求項8において、前記金属を酸性の水で処理して、前記金属が溶解した第2の溶液を得る第5の段階と、
前記第2の溶液を電気分解する第6の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項11】
請求項8において、前記金属を酸性の水で処理して、前記金属が溶解した第2の溶液を得る第5の段階と、
前記第2の溶液に含まれる前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第6の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項12】
請求項8において、前記金属を酸性の水で処理して、前記金属が溶解した第2の溶液を得る第5の段階と、
前記第2の溶液に含まれる前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第6の段階と、
前記金属錯体を溶解する溶媒を用いて、前記金属錯体を抽出する第7の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項13】
発光素子から一対の電極のうち少なくとも一方を剥離してEL層を露出させる第1の段階を有し、
前記第1の段階において、前記ELは三重項励起状態からの可視光発光可能な有機金属化合物を含んでおり、前記発光素子は前記一対の電極及び前記一対の電極の間に形成された前記EL層を有するものであり、
前記EL層を溶媒に溶かして溶液又は混合物にする第2の段階を有し、
前記溶液又は混合物にマイクロ波を照射する第3の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項14】
請求項13において、前記溶液又は混合物を酸性の水で処理して、前記金属を含む第2の溶液、もしくは前記金属を含む懸濁液を形成する第4の段階、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項15】
請求項13において、前記溶液又は混合物を酸性の水で処理して、前記金属を含む第2の溶液、もしくは前記金属を含む懸濁液を形成する第4の段階と、
前記第2の溶液又は前記懸濁液を電気分解する第5の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項16】
請求項13において、前記溶液又は混合物を酸性の水で処理して、前記金属を含む第2の溶液、もしくは前記金属を含む懸濁液を形成する第4の段階と、
前記第2の溶液又は前記懸濁液に含まれる前記前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第5の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項17】
請求項11において、前記溶液又は混合物を酸性の水で処理して、前記金属を含む第2の溶液、もしくは前記金属を含む懸濁液を形成する第4の段階と、
前記第2の溶液又は前記懸濁液に含まれる前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第5の段階と、
前記金属錯体を、前記金属錯体を溶解する溶媒を用いて抽出する第6の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項18】
発光素子から一対の電極のうち少なくとも一方を剥離してEL層を露出させる第1の段階を有し、
前記第1の段階において、前記ELは三重項励起状態からの可視光発光可能な有機金属化合物を含んでおり、前記発光素子は前記一対の電極及び前記一対の電極の間に形成された前記EL層を有するものであり、
前記EL層を溶媒に溶かして第1の溶液又は混合物にする第2の段階を有し、
前記第1の溶液又は混合物を酸性の水で処理して、金属を含む第2の溶液又は前記金属を含む懸濁液を形成する第3の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項19】
請求項18において、前記第2の溶液又は前記懸濁液を電気分解する第4の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項20】
請求項18において、前記第2の溶液又は前記懸濁液に含まれる前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第4の段階を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。
【請求項21】
請求項18において、前記第2の溶液又は前記懸濁液に含まれる前記金属と有機配位子とを反応させて金属錯体を形成する第4の段階と、
前記金属錯体を、前記金属錯体を溶解する溶媒を用いて抽出する第5の段階と、を有することを特徴とする有機金属化合物からの金属の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−144269(P2008−144269A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292757(P2007−292757)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】