説明

金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法

【課題】対象素地と、この対象素地の表面に施された金属めっきの金属成分を、処理コストや設備コストを過剰にかけることなく、高能率で個別に回収して再利用でき、資源の有効利用を図ることが可能な金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法を提供する。
【解決手段】金属製、セラミック製、又はプラスチック製の素地の表面に金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法であって、廃材を塩酸で処理して金属めっき層の表面の金属化合物を除去する酸洗工程と、酸洗処理された廃材を、塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液を用いて金属めっき層を溶解させるめっき層除去工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属めっきがなされた廃材から、金属製、プラスチック製、又はセラミックス製の対象素地と、この対象素地の表面に施された金属めっきの金属成分を個別に回収して再利用する金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、最終製品の形状に成形された金属製、プラスチック製、又はセラミックス製の対象素地の表面に、金属めっきを施した部品や製品(即ち、金属めっき施工物又は金属めっきとの複合材ともいう)が、多く使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
対象素地が金属製の場合、使用後の部品や製品を溶解処理して再利用し、また、対象素地がプラスチック製やセラミックス製の場合、そのまま焼却処理や埋立て処理して廃棄していた。なお、金属めっき層の表面に、更に塗装が施されている場合には、溶剤を使用して塗装を溶解除去することもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−285452号公報
【特許文献2】特開2005−200687号公報
【特許文献3】特開2005−336614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属製の対象素地を溶解して再利用するに際しては、金属めっきも対象素地と共に溶解され、対象素地に金属めっきの成分が混入するので不純物成分となり、例えば、高純度の部品や製品の原料に使用できない恐れがあった。なお、純度を高めるため、複数の処理工程で精製処理することもできるが、この場合、処理コストがかかり経済的でなかった。
【0005】
また、プラスチック製やセラミックス製の対象素地を廃棄する場合には、金属めっきを構成する金属のみならず、資源であるプラスチックやセラミックスも廃棄することになるため、資源の有効利用が図れなかった。
なお、プラスチック製の対象素地については、金属めっきを剥がして再利用することも考えられるが、金属めっきの表面に塗装が施されている場合、これを例えば溶剤で溶解除去しようとすれば、溶剤によりプラスチックが損傷し、品質が低下する恐れがあった。また、溶剤を処理する設備も必要となり、設備コストや処理コストがかかるという問題もあった。
【0006】
そこで、本出願人は塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄溶液を用いて、プラスチック製やセラミックス製の対象素地のめっき金属を除去する技術を鋭意研究した。ところが、対象物に形成されているめっき層の一部が酸化される等して表面に金属化合物が形成されている場合には、この金属化合物を塩化第二鉄液のみの処理で、溶解することは難しく、塩化第二鉄液がめっき層の最表面層の欠陥部分を通過して金属めっき層に到達してめっき金属と接触し、めっき金属の溶解が進行することが判った。従って、この過程が全体の溶解速度を律速して、十分なめっき金属の溶解速度を得ることができなかった。また、めっき層の表層に未溶解部分が残存し、後続の洗浄工程が多大な量の洗浄液と労力を必要とする課題も残していた。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、対象素地と、この対象素地の表面に施された金属めっきの金属成分を、仮に表面に金属化合物があったとしてもこれを除去し、処理コストや設備コストを過剰にかけることなく、高能率で個別に回収して再利用でき、資源の有効利用を図ることが可能な金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、金属製、セラミック製、又はプラスチック製の素地の表面に金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法であって、
前記廃材を塩酸で処理して、前記金属めっき層の表面の金属化合物(めっき金属の酸化物及び水酸化物を含む)を除去する酸洗工程と、酸洗処理された前記廃材を、塩化第二鉄液(塩化第二鉄溶液)又は塩酸が添加された塩化第二鉄液を用いて前記金属めっき層を溶解させるめっき層除去工程とを有する。
なお、塩酸の代わりに硫酸や硝酸等も適用できるが、塩酸の場合は中和が容易であり、廃液の後処理が極めて簡単であるので、金属化合物を除去する液として使用した。また、塩酸の濃度は10質量%以上(好ましくは、10又は15質量%以上で35質量%以下)を採用するのがよい。
【0009】
また、第2の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、第1の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記素地は金属製であって、該金属製の素地は、鉄、鋼、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの合金のいずれか1又は2以上である。
【0010】
第3の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、第1の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記素地はプラスチック製であって、該プラスチック製の素地は、ナイロン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、MBS樹脂、及びこれらのポリマーアロイ物又はポリマーブレンド物のいずれか1又は2以上である。
【0011】
第4の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、第1〜第3の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記めっき層除去工程で回収した塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収する。
【0012】
第5の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、第4の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記金属めっき層の金属成分が溶解した前記廃液に鉄粉を添加し、該廃液中に溶存する塩化物を置換させて前記金属成分を分離回収する。
【0013】
そして、第6の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、第1〜第5の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記金属めっき層の表面には更に塗装又はフィルムが被覆されており、該塗装又はフィルムを高圧水で除去した後、前記金属めっき層を除去する。前記高圧水の水圧は50MPa以上400MPa以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
第1〜第6の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、廃材を塩酸で処理して金属めっき層の表面の金属化合物(その他の化合物も含む)を除去する酸洗工程と、酸洗処理された廃材を、塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液を用いて金属めっき層を溶解させるめっき層除去工程とを有し、金属めっき層の表面に形成された金属化合物を塩酸で除去し、金属めっき層を露出させ、その後、塩化第二鉄溶液で金属めっき層を溶解させる。
従って、全体の処理時間が短くて済み、金属めっき層の除去後の洗浄も容易となる。また、金属めっき層の表面の金属化合物も金属イオンとして、塩酸に溶け込み回収も容易となる。
【0015】
更には、素地(「対象素地」に同じ)の表面から、金属めっき層を除去するので、素地を再利用する際に、金属めっき層の金属成分が混入しない高純度の材料が得られる。このため、例えば、高純度の材料を得るために、材料を複数の処理工程で精製処理する必要がなく、処理コストの低減が図れると共に作業性も良好になる。
【0016】
特に、第4、第5の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法においては、金属めっき層を除去した素地を回収できる他、塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄溶液の廃液からめっき金属も個別に回収して再利用できるので、資源の有効利用が図れる。
【0017】
そして、第6の発明に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、金属めっき層の表面に更に塗装又はフィルムが被覆されている場合、金属めっき層を除去する前に、塗装又はフィルムを高圧水で予め除去するので、素地と金属めっき層の金属成分への不純物の混入を防止できる。これにより、高純度の対象素地と金属成分を得ることができ、各材料の後処理が不要となる。特に、プラスチック製の対象素地に塗装が施されている場合でも、塗装を溶解させるための溶剤を使用する必要がないので、対象素地の品質低下を防止して再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法の説明図である。
【図2】実施例に係る金属めっき施工物の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法は、金属めっきがなされた廃材を塩酸で処理して金属めっき層の表面の金属化合物を除去する酸洗工程と、酸洗処理された廃材を、塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液を用いて金属めっき層を溶解させるめっき層除去工程とを有する。以下、これらについて詳しく説明する。
【0020】
再利用する廃材である金属めっき施工物(以下、単にめっき施工物ともいう)は、使用済みの部品や製品であるが、例えば、部品や製品の製造過程で発生する不良品(例えば、検査不合格品等)や残材でもよい。金属めっき層を除去した素地(対象素地)は、具体的には、金属、セラミック、プラスチック又はこれらの混合物からなる。
【0021】
金属製の対象素地は、例えば、鉄、鋼、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの金属の合金(以上に示した金属を主体、即ち80質量%以上、更には90質量%以上含む合金)のいずれか1又は2以上で構成されたものである。
また、セラミックス製の対象素地は、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ムライト、及びジルコニアのいずれか1又は2以上で構成されたものである。
そして、プラスチック製の対象素地は、(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチック、(2)ポリオレフィン樹脂(類)、(3)これらのプラスチックのポリマーアロイ物又はポリマーブレンド物、等である。なお、これら(1)〜(3)のいずれか1又は2以上で構成されたものでもよい。
【0022】
上記した(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックには、(a)ナイロン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、(b)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、(c)ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、等がある。
また、(2)ポリオレフィン樹脂(類)には、(a)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、(b)アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、(c)アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、等がある。
【0023】
上記したプラスチックのうち特に好ましいのは、ゴム含有のスチレン系樹脂、例えば上記したポリスチレンを用いたゴム強化ポリスチレン(HI樹脂)、ABS樹脂、MBS樹脂、等であり、とりわけ、ABS樹脂が有利である。この理由は、金属めっきが容易であり、成形加工性がよく、適度な物性を有した安価な汎用樹脂として多岐にわたって使用(例えば、パチンコやスロットルマシーン等の趣味娯楽関係の製品)され、まとめて収集され易いためである。
なお、プラスチックへの金属めっき処理の目的は、プラスチックが元来有していない金属の硬度、光沢、熱伝導性、高級感等を得ることにあり、自動車への利用では、例えば、ヘッドライトハウジング、ドアハンドル、グリル、ホイルキャップ、エンブレム等がある。
【0024】
これら対象素地の表面には、単一金属、二種以上の金属、又は合金の金属成分で構成される金属めっきが施されている。
ここで、単一又は二種以上の金属には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、ルテニウム、アルミニウム、又はインジウムがある。なお、二種以上の金属とは、例えば、銅の無電解めっきを行った上に、更にニッケルを電気めっきする場合のように、二種以上の金属を複数層に積層してめっきした場合の金属が含まれる。
また、合金には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、又はルテニウムを主体とした(例えば、80質量%以上、更には90質量%以上含む)合金がある。
これら金属めっきは、従来公知の電気めっきと無電解めっきのいずれの方法を用いて形成されたものでもよく、まためっき浴を使用しないCVD(化学蒸着)やPVD(物理蒸着)等を用いて形成されたものでもよい。
【0025】
以上に示した対象素地の表面から金属めっき層(即ち、めっき金属)を除去する方法について、図1を参照しながら説明する。
まず、図1に示すように、金属めっきが施された金属めっき施工物(廃材)を、水で洗浄処理して、金属めっき層の表面に付着したごみや汚れを除去する。
なお、金属めっきが施された金属めっき施工物は、そのままの状態で洗浄処理してもよいが、籠の中に入れて行うのがよい。この場合、対象素地がプラスチック製の場合は、例えば、従来公知の破砕機を使用して、例えば、一辺が10cm程度の大きさとなるように、予め破砕処理(粗破砕)しておくのがよい。
【0026】
また、金属めっき層の表面に塗装が施されている(又はフィルムが貼付されている)場合には、この塗装(フィルム)を高圧水で除去した後、洗浄処理する。この高圧水の水圧とは、ポンプ等での昇圧後の圧力を指し、例えば、50MPa以上400MPa以下(好ましくは、下限を100MPa、上限を300MPa、更には220MPa)にするとよい。以下、水圧を100〜180MPaに調整して、塗装の除去試験を行った結果について説明する。
【0027】
塗装が、黒色や白色のように単色の場合は、水圧を100MPaとすることで、塗装を容易に剥離できた。特に、白色の場合は、100MPa以下でも剥離が可能であった。
一方、メタリック(銀、桃、黄土)の場合は、水圧を120MPa以上とすることで、塗装を剥離できた。
なお、高圧水を噴出する洗浄用ノズルの形状は、従来公知の扇形、偏心回転、中心回転、等のいずれでもよい。この各種ノズルを使用し、高圧水の水圧、金属めっき施工物との距離、及び高圧水の吹付け時間を、それぞれ設定することで、金属めっきの表面の塗装を全て剥離できることを確認できた(以上、水洗浄工程、ステップS1)。
【0028】
この後、水洗した金属めっき施工物を塩酸液に浸漬する。塩酸液は10〜35質量%(更に好ましくは、15〜35質量%)の塩酸を含む液を使用するのがよいが、更に濃度が高い場合であっても本発明は適用できる。
これによって、金属めっき層の表面に形成される金属化合物を溶かして除去することができる。ここで、塩酸の代わりに硫酸や硝酸を使用することもできるが、塩酸の方が後処理が容易である。この場合の塩酸による酸洗時間は、常温で4〜10分程度が好ましいが、濃度によって異なる(以上、酸洗工程、ステップS2)。
【0029】
次に、洗浄(酸洗)処理した金属めっき施工物を、塩化第二鉄液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄液に浸漬し、この塩化第二鉄液に金属めっきを溶解させる。なお、金属めっきを塩化第二鉄液に溶解させるに際しては、塩化第二鉄液中に洗浄処理した金属めっき施工物を浸漬(例えば、8〜30分程度)させることが好ましいが、例えば、金属めっき施工物の表面の金属めっき層に、塩化第二鉄液を連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させてもよい。
【0030】
ここで、使用する塩化第二鉄液中の塩化第二鉄(FeCl3)の濃度は、概ね10質量%以上(望ましくは30質量%以上)でよいが、経済性を考慮すれば、60質量%以下(好ましくは55質量%以下)である。
また、塩化第二鉄液中に、更に塩酸(HCl)を添加することも可能であるが、この場合、塩酸の濃度を、5質量%以上20質量%以下とするのがよい。なお、塩化第二鉄溶液に塩酸を追加すると、処理液の全体の価格が増し、後処理を行う液の量が増すので、塩化第二鉄溶液のみで容易に除去可能なめっき金属の場合は省略するのが好ましい。
【0031】
上記した塩化第二鉄液と、塩酸が添加された塩化第二鉄液には、新たに製造した新液(再生液を含む)と、新液を使用した後の廃液(例えば、塩化銅や塩化ニッケルが溶存している液、更には塩化第一鉄が存在している液)のいずれも使用できる。
これにより、金属めっき中の各種金属は塩化物を形成し、塩化第二鉄液に溶解する。
【0032】
具体的には、銅は塩化銅(CuCl2)、ニッケルは塩化ニッケル(NiCl2)、クロムは塩化クロム(CrCl3)、錫は塩化錫(SnCl2)、鉛は塩化鉛(PbCl2)、ルテニウムは塩化ルテニウム(RuCl3)、アルミニウムは塩化アルミニウム(AlCl3)、インジウムは塩化インジウム(InCl3)となる。このように、金属めっきを塩化第二鉄液に溶解させることで、金属めっきの付着がない対象素地が得られる(以上、めっき層除去工程、ステップS3)。
金属めっき層が除去された対象素地がプラスチックの場合は、その後、弱酸にて洗浄を行い、かつ水洗も行って付着した塩化第二鉄液を除去する(ステップS4)。そして、必要な場合、対象素地を脱水して(ステップS5)破砕処理を行う。
【0033】
ここで、対象素地が金属製の場合は、例えば、塩化第二鉄液の除去処理をした後、溶解処理し原料として再利用できる(ステップS8)。なお、金属の種類(例えば、鉄系金属)によっては、金属めっきを除去した後、そのまま液切り処理を行った後、溶解処理を行ってもよい。
また、セラミックス製の場合は、水洗処理後の脱水処理の後、例えば、破損部分をセラミックス材料で補修したり、また粉砕処理し他の原料に混ぜて使用したりできる(ステップS9)。
そして、プラスチック製の場合は、例えば、1〜10mmの適当な大きさに粉砕して分別し、そのまま原料として使用したり、またバージン材料(未使用材料)に適量混ぜて使用したり、更に加熱して溶融してペレットとすることができる(ステップS7)。
【0034】
一方、塩化第二鉄液に溶解させた金属めっきの金属成分は、この塩化第二鉄液(廃液)から析出させて回収する。この方法としては、従来公知の方法を使用でき、例えば、金属めっきの金属成分が、銅とニッケルを含んでいる場合には、例えば、特開平6−127946号公報に記載の方法を使用できる。また、錫や銀、インジウム等も、同様の方法を使用できる。なお、クロムとアルミニウムは、水酸化物として回収される。
この具体的な方法は、公報に記載されているため、以下簡単に説明する。
【0035】
上記した金属成分を含有する塩化第二鉄液中に鉄粉を添加し、塩化第二鉄液中に溶存する塩化銅(塩化物)を置換させ、銅を析出させて分離回収する。なお、塩化第二鉄液中に塩化第二鉄が残存している場合は、鉄粉を添加して先に塩化第一鉄に還元しておく方が、銅の回収効率が向上し、望ましい。
次に、銅が除去された脱銅液中に鉄粉を添加し、かつ鉄イオン濃度を制御してニッケルを析出させ分離回収する。
これにより、塩化第二鉄液中から銅とニッケルを回収できる。
以上の方法により、対象素地と金属めっきの金属成分を回収することで、これらを再利用できるので、資源の有効利用が図れる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、プラスチック製の金属めっき施工物10a(具体的には自動車用フロントグリル、廃材の一例)として、図2に示すように、ABS樹脂製の対象素地10の表面に、銅とニッケルのめっき(又は、銅めっき)11が形成されている。その上にニッケル下地めっき12が、更にその上にクロムめっき13がなされている。なお、銅とニッケルのめっきは、それぞれ無電解めっきと電気めっきにより、対象素地10の表面に形成されている。そして、クロムめっき13の表面には金属化合物14が形成されている。
【0037】
以上のようにして金属めっき層が形成された200kgの金属めっき施工物10aを籠に入れて、濃度が10質量%以上(この実施例では30〜35質量%を使用)塩酸に3〜10分程度(この実施例では5分)浸漬した。これによって、クロムめっきの表面に形成されている金属化合物が塩酸に溶けて除去できた。なお、この処理は常温で行ったが加熱してもよい。
【0038】
次に、酸洗処理された金属めっき施工物10aをそのまま、温度が常温から60℃(この実施例では55℃)の塩化第二鉄液中に浸漬させ、金属めっきを塩化第二鉄液に溶解させた。この試験は合計8回行った。なお、使用した塩化第二鉄液の塩化第二鉄の濃度は40〜50質量%(8回平均では、45質量%)、塩化第二鉄液への浸漬時間は8〜15分(平均10分)とした。
【0039】
次に、塩化第二鉄液中から、対象素地を取り出し、水洗い、塩酸洗浄、水洗いの順序で、対象素地の表面に付着した塩化第二鉄液を除去した。なお、塩酸洗浄は、塩酸濃度が10質量%の洗浄液を使用し、1回あたり6分行った。また、水洗いは、対象素地の表面に満遍なく水を流す程度に行った。
これにより、金属めっきの付着がない対象素地が得られた。なお、この対象素地の表面精度と物性(引っ張り強度、引っ張り伸び、アイゾット衝撃強度)は、未使用のABS樹脂と同等であることを確認できた。
【0040】
[比較例]
次に、金属めっき施工物10aを最初に塩酸で洗浄するという工程を省略して、塩化第二鉄液のみで、金属めっき層を除去する実験も行った。
塩化第二鉄の溶液(45質量%)は、実施例と同一のものを使用したが、浸漬時間は10分程度では、金属めっき層の除去が困難であったので、27分とした。これによって、金属めっき層は大凡除去できたが、塩化第二鉄液に多量の未溶解残渣が残った。この未溶融残渣の主体は、金属酸化物と推定される。
【0041】
以上のことから、本発明の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法を使用することで、処理コストや設備コストを過剰にかけることなく、金属めっき施工物から対象素地と金属めっきの金属成分を個別に回収して再利用でき、資源の有効利用が図れることを確認できた。即ち、塩酸は酸化物や水酸化物に対して溶解度が高いが、めっき金属については溶解力は小さい。また、塩化第二鉄液は酸化物や水酸化物に対して溶解度が小さい(即ち、浸食しにくい)が、めっき金属については溶解力は大きいことを見い出し、これを金属めっきがなされた廃材に適用し、それぞれの分離を行った。
【0042】
なお、ここでは、塩化第二鉄液を使用した場合について示したが、塩酸が添加された塩化第二鉄液を使用した場合についても、良好な結果が得られることを確認できた。しかし、塩酸と塩化第二鉄を分離した方が、それぞれの液は独立して繰り返し使用でき、効率的である。
また、対象素地がプラスチックの製品を再生させた場合について説明したが、金属又はセラミックスで構成された製品についても、良好な結果が得られることを確認できた。
【0043】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10:対象素地(ABS樹脂)、10a:金属めっき施工物、11:銅とニッケルのめっき、12:ニッケル下地めっき、13:クロムめっき、14:金属化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製、セラミック製、又はプラスチック製の素地の表面に金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法であって、
前記廃材を塩酸で処理して、前記金属めっき層の表面の金属化合物を除去する酸洗工程と、
酸洗処理された前記廃材を、塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液を用いて前記金属めっき層を溶解させるめっき層除去工程とを有することを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記素地は金属製であって、該金属製の素地は、鉄、鋼、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、及びこれらの合金のいずれか1又は2以上であることを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。
【請求項3】
請求項1記載の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記素地はプラスチック製であって、該プラスチック製の素地は、ナイロン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、MBS樹脂、及びこれらのポリマーアロイ物又はポリマーブレンド物のいずれか1又は2以上であることを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1記載の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記めっき層除去工程で回収した塩化第二鉄液又は塩酸が添加された塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収することを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。
【請求項5】
請求項4記載の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記金属めっき層の金属成分が溶解した前記廃液に鉄粉を添加し、該廃液中に溶存する塩化物を置換させて前記金属成分を分離回収することを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1記載の金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法において、前記金属めっき層の表面には更に塗装又はフィルムが被覆されており、該塗装又はフィルムを高圧水で除去した後、前記金属めっき層を除去することを特徴とする金属めっき層が形成された廃材の再資源化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−221088(P2010−221088A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68597(P2009−68597)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000233734)株式会社アステック入江 (25)
【Fターム(参考)】