説明

金属ナトリウムの噴霧装置および方法

【課題】金属ナトリウムの融点温度以下の反応条件下にて液体金属ナトリウムを噴霧する場合において、ノズル内での固化や閉塞を防止し、より安定・良好に噴霧できるようにする。
【解決手段】液体金属ナトリウムを反応槽に収容した溶液に槽内上部に付設されたノズルから噴霧する金属ナトリウムの噴霧装置において、固体金属ナトリウムを加熱溶融する溶融部1と、溶融部1の液体金属ナトリウムを第1供給経路4を介し導入可能な貯留部2と、貯留部2の液体金属ナトリウムを第2供給経路5を介し導入可能な反応槽30と、反応槽30内に設けられていると共に第2供給経路に接続され、液体金属ナトリウムを反応槽内の溶液に向けて噴射するノズルNと、各部に不活性ガスを送るガス供給手段6とを備えていると共に、ノズルNが本体12に内嵌されたワーラー13を有し、供給される液体金属ナトリウムを旋回しながら微粒子状にし本体下側より充円錐状態に噴霧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナトリウムの噴霧装置および方法に関し、より詳しくは固体金属ナトリウムを溶融し、液体金属ナトリウムにしたものを反応槽内の溶液に槽内上部に付設されたノズルから固化・閉塞させず、微粒子状態で効率よく噴霧できるようにする技術に関する。
【0002】
金属ナトリウムは、融点が約98℃で、常温では固体であり、空気中だと極めて活性で空気中の水分に触れると酸化し、酸化ナトリウムや水酸化ナトリウムなどの酸化物や水酸化物となると同時に水素が発生したり発火しやすい。このため、通常は、窒素やヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下にてドラム缶や各種容器に固体状態として保存されたり輸送される。ドラム缶等に収納された固体金属ナトリウムは、使用者側にて加熱溶融され、液体の金属ナトリウムとして各種の反応や熱媒体等に使用される。
【0003】
以上の金属ナトリウムは、例えば、t−ブチルアルコール(以下、TBAという)等のアルコール溶液に添加して反応させる、いわゆるナトリウムアルコラートの生成に用いられる。この反応操作において、TBAは沸点が金属ナトリウムの融点より低い82.5℃であり、通常、反応温度がTBAの沸点以下に設定されるため、金属ナトリウムを溶融して液体で添加しても融点以下の温度だと固体の状態で反応する。そこで、従来は、反応効率を上げたりTBAとの接触面積を増やすため金属ナトリウム分散体(粒径が5〜10μm程度の分散体)が用いられていた。しかし、金属ナトリウム分散体は、反応性が非常に高く、金属ナトリウムを分散している溶媒は反応において不純物となるので取り扱い難い。このような事情から、現在では、例えば、特開平5−170680号公報に開示されているように、TBAに炭化水素系溶媒を添加することで固結温度を下げて取扱いを容易にするとともにTBA溶液の沸点を上昇して、固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、槽内上部に付設されたノズルから槽内の溶液に向けて微粒子状態で噴霧し反応させている。ところで、液体金属ナトリウムを微粒子状態で噴霧する技術としては、特許文献1に記載されているように、液体金属ナトリウムを回転カップに注ぎ、遠心力により粒状化しながら噴霧する構成、ノズル先端部に不活性ガスを高速で流しノズル先端部を負圧化して液体金属ナトリウムを吸引し、高速ガスによって微粒子状態で吹き飛ばす、いわゆる霧吹きの原理を利用した構成がある。
【特許文献1】特開2001−13293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、槽内上部に設けられたノズルから反応槽内の溶液に噴霧する場合に次のようなことが問題となる。
(ア)装置としては、固体金属ナトリウムを加熱溶融する溶融部、反応槽、溶融部と反応槽内に設けられるノズルとを接続する供給経路、各部の雰囲気を置換する不活性ガス供給手段などが最小限必要となる。また、例えば、ナトリウムアルコラートに用いられる金属ナトリウムは、高純度のものだと高価になる関係で通常の工業用途品ではカルシウム等の不純物を多く含んでいる。このため、稼動時には、その不純物や極微量の酸化物がノズル内やノズルの吐出口など狭い箇所に付着固化することによって、液体金属ナトリウムの微粒子化が困難となったり閉塞して故障原因になったりポンプの使用も制約され、それに伴って操作も複雑になっている。
(イ)上述した遠心力を用いて噴霧させるノズル構成では、前記した酸化物でノズルが閉塞される虞に加え、噴霧パターンが空円錐状態(断面が円環状で、ホローコーンと称されている態様)となり、槽内の溶液との接触効率が低く供給効率も悪い。また、上述した霧吹きの原理にて噴霧させるノズル構成では、ノズルの最小孔径に見合った粒子径の微粒子となるため、例えば、ノズル先端部を細くする程、ノズル先端部が前記した酸化物で閉塞されやすくなる。
(ウ)また、反応槽内の温度つまり溶液の温度が金属ナトリウムの溶融温度以下であると、ノズルの表面温度も同様に溶融温度以下となり、液体金属ナトリウムから見れば、反応槽内において常に冷却・固化されていることになる。そのため、ノズル内で液体金属ナトリウムを滞らせたり供給流速を抑えるといった構造のノズルでは固化してしまう虞がある。
【0005】
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたものである。その目的は、金属ナトリウムを融点以下の条件下にて噴霧する場合において、ノズル内での固化や閉塞を防止し、より安定かつ良好に噴霧できるようにした金属ナトリウムの噴霧装置および方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、反応槽に収容した溶液に槽内上部に付設されたノズルから噴霧する金属ナトリウムの噴霧装置において、固体金属ナトリウムを加熱溶融する溶融部と、前記溶融部で溶融した液体金属ナトリウムを第1供給経路を介して導入可能な貯留部と、前記貯留部から所定量の液体金属ナトリウムを第2供給経路を介して導入可能な反応槽と、前記反応槽内に設けられているとともに前記第2供給経路に接続されて、前記液体金属ナトリウムを前記反応槽内の前記溶液に向けて噴射するノズルと、前記各部に不活性ガスを送る不活性ガス供給手段とを備えているとともに、前記ノズルが本体に内嵌されたワーラーを有し、本体吸入口より供給される前記液体金属ナトリウムを前記ワーラー等を介して旋回させながら微粒子状にし、本体吐出口より充円錐状態に噴霧することを特徴としている。
また、請求項4の発明は、噴霧方法から捉えたものであり、固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、反応槽に収容した溶液に槽内上部に付設されたノズルから噴霧する金属ナトリウムの噴霧方法において、請求項1から3の何れかに記載の噴霧装置を用いて、前記金属ナトリウムが存在する雰囲気下を不活性ガスに置換する雰囲気置換工程と、前記溶融部で固体金属ナトリウムを溶融し、液体金属ナトリウムとして前記第1供給経路から前記貯留部に供給する溶融供給工程と、前記貯留部の液体金属ナトリウムを前記第2供給経路から前記ノズルに供給し、該ノズルにより液体金属ナトリウムを旋回させながら微粒子状にし、下側吐出口より充円錐状態で噴霧する噴霧工程とを経ることを特徴としている。
【0007】
(発明の背景および工夫点)上記の各発明は次のような背景から工夫されたものである。すなわち、上記したナトリウムアルコラートの生成では、取扱いにくいナトリウム分散体を使用しない代わりに、TBAにn−ヘキサン等の炭化水素系溶媒を添加してTBA溶液の沸点を上昇するよう処理して、液体金属ナトリウムを噴霧するようにしていた。この従来方法では、添加物である炭化水素系溶媒を後処理で除去しなくてはならず、工程が増えたり煩雑化してコスト高となる。そこで、本発明者らは、TBA溶液に炭化水素系溶媒を添加することなく、しかも液体金属ナトリウムを用いてナトリウムアルコラートを安定かつ効率よく生成可能にする構成を検討してきた結果、本発明を完成するに至った。発明工夫点は、特に、装置として溶融部と反応槽との間に貯留部を介在し、該貯留部にて溶融部から導入される液体金属ナトリウムについて温度および溶液状態を厳格に維持管理したり反応槽へ送る供給量等を制御しやすくしたことと、液体金属ナトリウムを反応槽の溶液(TBA溶液等)に噴霧する場合、使用ノズルが本体に内嵌されたワーラーを有し液体金属ナトリウムを充円錐状態で噴霧することにより、溶液に対する金属ナトリウムの均一かつ良好な接触を得られるようにして反応時間を大幅に短縮可能にしたことにある。換言すると、噴霧形状としては、通常、噴霧の断面形状から直進型、扇型、空円錐型(円環型)、充円錐型に分けられる。本発明の充円錐型は、溶融した金属ナトリウムを旋回させながら微粒子化し、水平断面が略円形で均等な流量分布を形成しつつ噴霧するため、他の噴霧形状よりも閉塞しにくく、TBA溶液(従来のごとく炭化水素系溶媒を添加していないTBA溶液)に対する液体金属ナトリウムの接触機会を増大し、それにより反応を促進してナトリウムアルコラートを効率よく生成できるようにする。
【0008】
ここで、以上の噴霧装置において、前記ノズルの本体は吸入口、ワーラー室、旋流室、吐出口を順に形成しており、前記ワーラーは1対の羽根板を略X形状に交差させ、かつ該X形状を構成している4つの三角形の開口のうち、1つの開口を閉鎖した形状で、該閉鎖した三角形の底辺を前記本体の吸入口を二分割する仕切壁となるよう前記ワーラー室に配設されていること(請求項2)、前記反応槽は略中心上下方向に配置された回転軸および該回転軸に付設された攪拌翼を有した攪拌手段ととともに、前記ノズルとして前記回転軸と略同心円上に設けられた2以上のノズルを有していること(請求項3)が好ましい。また、以上の噴霧方法においては、前記溶液の反応温度が前記噴霧する金属ナトリウムの溶融温度以下であること(請求項4)が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
・請求項1、4の発明では、溶融部と反応槽との間に介在された貯留部により液体金属ナトリウムを管理して反応槽内のノズルへ供給することで液体金属ナトリウムの温度、供給態様、供給量等を厳格に制御できるようにし、同時に、ノズルが本体内にワーラーを有し液体金属ナトリウムを旋回させながら微粒子化し、それに伴って閉塞の虞を一掃し、噴霧後は反応槽内の溶液に対する均等な流量分布で、かつ接触面積を増大して反応効率を上げることができる。
・請求項2の発明では、ワーラーがX形状だと液体金属ナトリウムを最も安定かつ良好に微粒子化し、充円錐状態に噴霧できるようにする。
・請求項3の発明では、例えば、複数のノズルのうち、第1ノズル以外のものを予備用ノズルとして具備することで、万が一使用しているノズルが閉塞した場合でも、他の予備用ノズルに切り換えることにより、反応を停止したり中止せずに継続できるようにする。
・請求項5の発明では、例えば、ナトリウムアルコラートの製造において、アルコール中に金属ナトリウムを添加する場合、アルコールの反応温度(槽内の溶液温度)が金属ナトリウムの溶融温度以下でも、請求項1〜3の装置を用いることによって、液体金属ナトリウムを反応槽内のアルコールに噴霧して、アルコールとの反応を促進して効率よくナトリウムアルコラートを生成できるようにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好適な実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明装置の全体構成を示す模式図、図2はノズルを示す模式構成図である。以下の説明では、本発明装置を説明した後、実施例を挙げて本発明方法に言及する。
【0011】
図1において、金属ナトリウムの噴霧装置は、固体の金属ナトリウムを加熱溶融する溶融部1と、溶融部1から溶融した液体の金属ナトリウムを導入する貯留部2と、溶液を予め収容する反応槽30および反応槽内に付設したノズルNを有し、貯留部2内の液体金属ナトリウムをノズルNから反応槽内の溶液に向けて噴霧する反応処理部3と、溶融部1と貯留部2とを接続している第1供給経路としての経路配管4と、貯留部2と反応槽30内のノズルNとを接続している第2供給経路としての経路配管5と、ガス供給手段6および吸引手段7とを備えている。
【0012】
ここで、溶融部1は、固体の金属ナトリウムを収容しているドラム缶10を位置決め配置し、外部ヒーター11によりドラム缶10を加熱することにより、缶内の固体金属ナトリウムを加熱溶融する箇所である。ドラム缶10は、例えば、搬送用の缶体であり、上面に設けられた複数の接続部を有している。そのうち、第1接続部には、ガス供給手段6および吸引手段7が共通の配管16および開閉弁8aを介して切換可能に接続される。第2接続部には、缶内に下設される導出管15の上端が保持され、かつ該導出管15の上端に対し前記経路配管4の一端が開閉弁8bおよび不図示のフレキシブ管等を介して連結される。第3接続部は、例えば、ドラム缶10内がガス供給手段6から圧送される不活性ガスによって過剰に加圧されたときに当該ガスを適宜に排気可能にする。なお、外部ヒーター11としては、バンドヒーターやリボンヒーターなどであり、缶内の金属ナトリウムが溶融する融点98℃以上、好ましくは110℃以上に加熱して溶融できる手段であればよい。
【0013】
貯留部2は、ドラム缶10内の液体金属ナトリウムを導出管15および経路配管4等を介して導入する貯留槽20を有している。貯留槽20は、外部ヒーター21により加熱されるとともに、ロードセル22を介して重量(槽内に導入される液体金属ナトリウムの総量や、槽内から反応槽3側へ送った液体金属ナトリウムの供給量等)が計測可能となっている。また、貯留槽20は上面に設けられた複数の接続部を有している。そのうち、第1接続部には、ガス供給手段6および吸引手段7が共通の配管17および開閉弁8cを介して切換可能に接続されているとともに、開閉弁8cより下流側の一部分がフレキシブル管17aにより構成されている。第2接続部には、槽内に下設されている導出管25の上端と連通されるとともに、前記経路配管5の一端が連結される。経路配管5は、貯留槽20側の配管部に開閉弁8dを介在しているとともに、開閉弁8dより下流側の一部分がフレキシブル管5aにより構成されている。第3接続部には、前記した経路配管4の他端がフレキシブル管4aを介して接続されている。第4接続部は、例えば、貯留槽20内がガス供給手段6から圧送される不活性ガスによって過剰に加圧されたときに当該ガスを適宜に排気可能にする。なお、ロードセル22は、貯留槽20が各フレキシブル管17a、5a、4aを介して対応する配管と接続されることで、該貯留槽の重量変化等を正確に計測できるようになっている。また、外部ヒーター21は、貯留槽20内の液体金属ナトリウムを所定温度に保つことができる手段であればよい。
【0014】
以上の貯留部2では、例えば、ドラム缶10内をガス供給手段6の稼動により加圧して、開閉弁8bを開状態にすると、ドラム缶10内の液体金属ナトリウムが経路配管4を介して貯留槽20内に導入される。また、貯留槽20内をガス供給手段6により不活性ガスで加圧し、開閉弁8dを開状態にすると、貯留槽20内の液体金属ナトリウムが経路配管5などを介して反応槽30のノズルNへ供給される。なお、液体金属ナトリウムをポンプで移送しない理由は、機構部の凹凸部に金属ナトリウムの酸化物等が溜まって故障しやすいためである。また、経路配管4,5は、図示を省略しているが、実際には液体金属ナトリウムが固化しないようにリボンヒーター等の加温手段や保温処理が施されている。このような経路配管4,5は、通路を極力平滑に形成したり配管に勾配を設定して金属ナトリウムの溜まりを生じないように処理される。
【0015】
反応処理部3は、例えば、反応槽30にアルコール等の溶液を予め収容しておき、該溶液に貯留槽20内の液体金属ナトリウムを導出管25および経路配管5並びにノズルNを介して噴霧して反応させる箇所である。反応槽30は、ヒーター又は熱媒ジャケット31により加熱されるとともに、複数のノズルNと、攪拌手段35と、槽上面および槽下面に設けられた複数の接続部とを有している。複数の接続部のうち、槽上面側において、第1接続部には、ガス供給手段6および吸引手段7が共通の配管18および開閉弁8eを介して切換可能に接続される。第2接続部は、例えば、反応槽30内がガス供給手段6から圧送される不活性ガスによって過剰に加圧されたときに当該ガスを適宜に排気可能にしたり、液体金属ナトリウムとTBAとの反応排ガス中の水素ガスを検出可能にする。図示を省略した第3接続部には、反応槽30内にアルコール溶液や洗浄液を注入する供給配管等が接続される。槽下面側において、第4接続部には排出管19が接続され、排出管19に付設された開閉弁8hを介して反応槽内の溶液(反応生成物であるナトリウムアルコラート等)を取り出すことができる。
【0016】
攪拌手段35は、槽上面の略中央部に設置されたモータ等の駆動部に対し軸上端を支持した状態で槽内の中心上下方向に配置された回転軸36と、該回転軸36に付設された攪拌翼37とを有している。複数のノズルNは、回転軸36と略同心円上に配置され、かつ、経路配管5の他端側に対し例えば枝管5bおよび開閉弁8f,8g等を介して切換可能に接続される。つまり、この例では、使用しているノズルNが閉塞したときに、開閉弁の操作により他のノズルNに切り換えられるようにして、反応を停止したり中止せずに継続できるようにしている。また、各ノズルNは、液体金属ナトリウムを噴霧したときに、槽内周面や回転軸36に極力触れないよう設置される。なお、ナトリウムアルコラートの製造では、槽内温度が金属ナトリウムの溶融温度(約98℃)以下になっていることからノズル自体を加熱することが好ましいが、槽内ではそのようにノズルを加熱することが困難なため当該ノズルを反応槽内に極力突き出さないようにしたり、槽内雰囲気に接触し難くしてノズル先端側での温度低下を抑えるよう処理される。
【0017】
図2は実施例の試料番号4と5で使用したノズルNを示し、同(a)は上面図、同(b)は側面図、同(c)は(a)のA−A線に沿った断面図である。各ノズルNは、例えば、充円錐ノズルと称されているもののうち、特に本体12が内嵌された略X形状のワーラー13を有し、液体金属ナトリウムをワーラー13等を介して旋回させながら微粒子状にし、本体下側より充円錐状態に噴霧可能な構成である。本体12は、上から下に向かって、雌ねじを形成している連結部12aと、吸入口(実際には連結部12aとワーラー室12cとの間の隙間)12bと、ワーラー13を嵌入するワーラー室12cと、旋流室12dと、縮流室12eと、吐出口12fとを順に形成しており、経路配管5や枝管5bの端部に連結部12aの螺合を介して取り付けられる。ワーラー13は、一対の平板(略半楕円形状の平板)からなる羽根板13a,13bを互いの直線状周面をX形状に公差させるとともに、X形状を構成している4つの三角形の開口のうち、1つの開口を閉鎖した形状で、該閉鎖した三角形の底辺を本体12の吸入口12b側を二分割する仕切壁となるようワーラー室12cに嵌合されている。符号13c,13dは、各羽根板13a,13bの直線状周面に凹設されて、直線状周面から曲線状周面に向かって切り込まれた溝である。以上のノズルNは、例えば、特開平4−326956号公報等に記載されているノズル構造と実質的に同じであり、細部は同公報を参照されたい。
【0018】
以上の噴霧装置は、例えば、固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、反応槽30に収容したアルコールに槽内上部に付設されたノズルNから噴霧してナトリウムアルコラートを生成する場合に好適なものである。そして、操作的には、金属ナトリウムが存在する雰囲気下を不活性ガスに置換する雰囲気置換工程と、溶融部1においてドラム缶10内で固体金属ナトリウムを溶融し、液体金属ナトリウムとして第1供給経路4から貯留部2の貯留槽20内へ供給する溶融供給工程と、貯留槽20の液体金属ナトリウムを第2供給経路5から所定のノズルNに供給し、該ノズルNにより液体金属ナトリウムを旋回させながら微粒子状にし、下側吐出口12fより充円錐状態で噴霧する噴霧工程と、攪拌手段35により槽内のアルコール溶液と噴霧された液体金属ナトリウムとを攪拌して反応を完結させる攪拌工程とを経る。以下、実施例を挙げて本発明の有用性を明らかにする。
【実施例】
【0019】
この実施例は、上記噴霧装置と同じものを用い、使用ノズルの種類を下記の(a)〜(e)に変える以外は極力同じ条件でナトリウムアルコラートを生成したときの一例であり、液体金属ナトリウムの所定量(125kg)を各ノズルより極力噴霧状態となるよう圧力(表1の圧力、MPa)を設定し反応槽内のTBA(6630kg)に滴下し、また、同じ条件で攪拌反応を施した。そして、図3に示した液体金属ナトリウムの供給量−滴下時間、表1にまとめたノズル閉塞の有無、ナトリウムアルコラートの生成時間を調べることで評価した。なお、攪拌反応とは、液体金属ナトリウムをTBAに添加し、攪拌することで反応促進してナトリウムアルコラートに生成することを言う。
(a)試験番号1のノズルは、直進型の比較例1として、スプレーイングシステムス・ジャパン株式会社製のビージェット#8010(最小孔径が2.0mm)である。
(b)試験番号2のノズルは、直進型の比較例2として、スプレーイングシステムス・ジャパン株式会社製のビージェット#8030(最小孔径が3.6mm)である。
(c)試験番号3のノズルは、直進型の比較例3として、試験用に作製したノズルで、外径が9.5mm、長さが46mmで、略円筒状ノズル(最小孔径が5.7mm)である。
(d)試験番号4のノズルは、充円錐型の実施例1として、株式会社いけうち製のJJXP20(異物通過径が1.5mm)である。
(e)試験番号5のノズルは、充円錐型の実施例2として、株式会社いけうち製のJJXP70(異物通過径が2.6mm)である。
【0020】
ナトリウムアルコラートの生成操作は、まず、固体金属ナトリウム入りのドラム缶10をバンドヒーター11にて120〜130℃まで加熱し、固体金属ナトリウムを完全に溶融した。また、貯留槽20は、ガス供給手段6により槽内雰囲気を不活性ガス(窒素ガス)に置換した後、上述したようにドラム缶10内を不活性ガスにより加圧することによってドラム缶10の液体金属ナトリウムの所定量を導入した。
【0021】
一方、反応槽30は、予めTBAを計量して6630kgだけ収容し、攪拌手段35にて攪拌しながら80℃に加熱・維持するとともに、ガス供給手段6により槽内雰囲気を不活性ガス(窒素ガス)に置換した。その状態から、貯留槽20の液体金属ナトリウム(125kg)を反応槽30の上部に設けられたノズル(試験番号1〜5のノズル)に供給し、該ノズルより滴下した。具体的には、図1において、開閉弁8cを開状態にして、貯留槽20内をガス供給手段6により不活性ガスで所定圧まで加圧し、該加圧力を維持しながら、開閉弁8dを開状態にし、貯留槽20内の液体金属ナトリウムを経路配管5および開閉弁8gを介して反応槽30のノズル(試験番号1〜5のノズル)へ供給し、該ノズルから槽内のTBAに向けて滴下した。この操作は、攪拌手段35の駆動や温度等の条件が試料番号1〜5の各ノズルで極力同じになるようにした。以上のようにして、液体金属ナトリウムがTBAに滴下されると、反応熱により槽内溶液が82.5℃まで上昇した。操作では、反応排ガス中の水素ガスが検出しなくなるまでガス供給手段6から窒素ガスを反応槽30に供給して還流した。
【0022】
(評価)図3は金属ナトリウム供給量−滴下時間を示している。液体金属ナトリウムの供給量(滴下量)は貯留槽20に設けられているロードセル22にて計量し、各ノズルからの滴下時間に対する液体金属ナトリウムの供給量をプロットした。図3より、試験番号1と2(比較例1と2)は共にノズルが閉塞し、液体金属ナトリウムを最後まで供給できなかった。これは、ノズルに供給され吐出口から噴射されるまでの間、液体金属ナトリウムがノズル内に滞り、温度低下による固化、不純物の蓄積、或いは酸化反応による酸化物が形成されたものと考えられる。試験番号3(比較例3)は、最小孔径が大きく、ノズル内に液体金属ナトリウムが滞ることはないので閉塞しなかったが、液体金属ナトリウムが直進棒状に噴射され、TBAとの接触面積を確保できず、その結果、表1に示されるように滴下後の還流下反応に時間がかかり、ナトリウムアルコラート生成時間(滴下時間0.1+攪拌反応時間21)として約21時間も要した。これに比べ、試験番号4(実施例1)は、ノズルが閉塞せず、125kg全量供給でき、表1に示されるようにナトリウムアルコラート生成時間(滴下時間0.7+攪拌反応時間13)として約14時間で完結した。また、試験番号5(実施例2)は、125kg全量供給でき、ナトリウムアルコラート生成時間(滴下時間0.3+攪拌反応時間15)として約15時間で完結した。以上のようにして、液体金属ナトリウムをTBAに添加してナトリウムアルコラートを生成する場合は、TBAに対する液体金属ナトリウムの滴下状態が生成或いは反応効率に大きく影響し、試験番号4と5(実施例1と2)のノズルを用いると、試験番号3(比較例3)に比べて約6〜7時間短縮できることが判明した。
【0023】
(表1)


【0024】
なお、本発明は、以上の形態や実施例に何ら制約されるものではなく、請求項で特定した要件を充足すればよく、細部は以上の具体例を参照して種々変形したり展開可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明装置の全体を示す模式図である。
【図2】図1のノズルを示す模式図である。
【図3】液体金属ナトリウムの供給量(kg)−滴下時間(分)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1…溶融部(10はドラム缶、11はヒーター)
2…貯留部(20は貯留槽、21はヒーター)
3…反応処理部(30は反応槽、31は熱媒ジャケット)
4…経路配管(第1供給経路)
5…経路配管(第2供給経路)
6…不活性ガス供給手段
7…吸引手段
8a〜8h…開閉弁
35…攪拌手段(36は回転軸、37は攪拌翼)
N…ノズル(12は本体、13はワーラー)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、反応槽に収容した溶液に槽内上部に付設されたノズルから噴霧する金属ナトリウムの噴霧装置において、
固体金属ナトリウムを加熱溶融する溶融部と、前記溶融部で溶融した液体金属ナトリウムを第1供給経路を介して導入可能な貯留部と、前記貯留部から所定量の液体金属ナトリウムを第2供給経路を介して導入可能な反応槽と、前記反応槽内に設けられているとともに前記第2供給経路に接続されて、前記液体金属ナトリウムを前記反応槽内の前記溶液に向けて噴射するノズルと、前記各部に不活性ガスを送る不活性ガス供給手段とを備えているとともに、
前記ノズルが本体に内嵌されたワーラーを有し、本体吸入口より供給される前記液体金属ナトリウムを前記ワーラー等を介して旋回させながら微粒子状にし、本体吐出口より充円錐状態に噴霧することを特徴とする金属ナトリウムの噴霧装置。
【請求項2】
前記ノズルの本体は吸入口、ワーラー室、旋流室、吐出口を順に形成しており、前記ワーラーは1対の羽根板を略X形状に交差させ、かつ該X形状を構成している4つの三角形の開口のうち、1つの開口を閉鎖した形状で、該閉鎖した三角形の底辺を前記本体の吸入口を二分割する仕切壁となるよう前記ワーラー室に配設されている請求項1に記載の金属ナトリウムの噴霧装置。
【請求項3】
前記反応槽は、略中心上下方向に配置された回転軸および該回転軸に付設された攪拌翼を有した攪拌手段ととともに、前記ノズルとして前記回転軸と略同心円上に設けられた2以上のノズルを有している請求項1または2に記載の金属ナトリウムの噴霧装置。
【請求項4】
固体金属ナトリウムを溶融した液体金属ナトリウムを、反応槽に収容した溶液に槽内上部に付設されたノズルから噴霧する金属ナトリウムの噴霧方法において、
請求項1から3の何れかに記載の噴霧装置を用いて、
前記金属ナトリウムが存在する雰囲気下を不活性ガスに置換する雰囲気置換工程と、
前記溶融部で固体金属ナトリウムを溶融し、液体金属ナトリウムとして前記第1供給経路から前記貯留部に供給する溶融供給工程と、
前記貯留部の液体金属ナトリウムを前記第2供給経路から前記ノズルに供給し、該ノズルにより液体金属ナトリウムを旋回させながら微粒子状にし、下側吐出口より充円錐状態で噴霧する噴霧工程
とを経ることを特徴とする金属ナトリウムの噴霧方法。
【請求項5】
前記溶液の反応温度が前記噴霧する金属ナトリウムの溶融温度以下であることを特徴とする請求項4に記載の金属ナトリウムの噴霧方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−122864(P2006−122864A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317716(P2004−317716)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【出願人】(593075544)株式会社共和テクノス (2)
【出願人】(000227087)日曹エンジニアリング株式会社 (33)
【Fターム(参考)】