説明

金属ペーストおよびシリコン太陽電池の製造におけるそれらの使用

(a)銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉と、(b)571〜636℃の範囲の軟化点温度を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと(c)有機ビヒクルとを含む金属ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ペーストおよびシリコン太陽電池の製造におけるそれらの使用を指向する。
【背景技術】
【0002】
p型ベースの従来型太陽電池構造は、典型的には電池の前面すなわち太陽側上に存在する負極と裏面上の正極とを有する。半導体本体のp−n接合上に降り注ぐ適切な波長の放射線が電子−正孔ペアを当該本体中に発生させるための外部エネルギー源として働くことはよく知られている。p−n接合で存在する電位差は、正孔および電子を反対方向に接合部を横切って移動させ、それによって外部回路に電力を運ぶことができる電流の流れを生じさせる。ほとんどの太陽電池は、金属化された、すなわち、導電性である金属接触を提供されたシリコンウェーハの形態にある。
【0003】
現在使用されているほとんどの電力発生太陽電池は、シリコン太陽電池である。電極は特に、金属ペーストからのスクリーン印刷などの方法を用いることによって製造されている。
【0004】
シリコン太陽電池の製造は典型的には、逆導電型のn型拡散層がリン(P)などの熱拡散によってその上に形成されているシリコンウェーハの形態でのp型シリコン基板から出発する。オキシ塩化リン(POCl3)がガス状リン拡散源として一般に使用され、他の液体源はリン酸などである。いかなる特定の修正も存在せずに、拡散層がシリコン基板の全表面一面に形成される。p型ドーパントの濃度がn型ドーパントの濃度に等しいp−n接合が形成され;太陽側の近くにp−n接合を有する従来型電池は、0.05〜0.5μmの接合深さを有する。
【0005】
この拡散層の形成後に、過度の表面ガラスが、フッ化水素酸などの酸によるエッチングによって表面の残りから除去される。
【0006】
次に、TiOx、SiOx、TiOx/SiOx、または、特に、SiNxもしくはSi34のARC層(反射防止コーティング層)が、たとえば、プラズマCVD(化学蒸着)などの方法によって0.05〜0.1μmの厚さにn型拡散層上に形成される。
【0007】
p型ベースの従来型太陽電池構造は、電池の前面すなわち太陽側上の負グリッド電極と裏面上の正極とを典型的に有する。グリッド電極は、電池の前面上のARC層上に前面銀ペースト(前面電極形成銀ペースト)をスクリーン印刷して乾燥させることによって典型的に適用される。前面グリッド電極は、(i)薄い平行なフィンガーライン(コレクターライン)と(ii)フィンガーラインと直角に交差する2つのブスバーとを含むいわゆるHパターンで典型的にはスクリーン印刷される。さらに、裏面銀または銀/アルミニウムペーストおよびアルミニウムペーストが、基板の裏面上にスクリーン印刷され(または他の塗布方法)、引き続いて乾燥される。普通は、裏面銀または銀/アルミニウムペーストは、2つの平行なブスバーとしてか、または相互接続ストリング(あらかじめはんだ付けされた銅リボン)をはんだ付けする準備ができている長方形(タブ)として先ずシリコンウェーハの裏面上へスクリーン印刷される。アルミニウムペーストが次に、裏面銀または銀/アルミニウムの上にわずかにオーバーラップして裸地に印刷される。ある場合には、銀または銀/アルミニウムペーストは、アルミニウムペーストが印刷された後に印刷される。焼成は次に、ウェーハが700〜900℃の範囲のピーク温度に達する状態で1〜5分の期間ベルト炉中で典型的には実施される。前面グリッド電極および背後電極は順次焼成する、または同時焼成することができる。
【0008】
アルミニウムペーストは、シリコンウェーハの裏面上に一般にスクリーン印刷されて乾燥される。ウェーハは、アルミニウムの融点より上の温度で焼成されてアルミニウム−シリコン溶融体を形成し、その後、冷却段階中に、アルミニウムでドープされているシリコンのエピタキシャルに成長した層が形成される。この層は裏面電界(BSF)層と一般に呼ばれる。アルミニウムペーストは、乾燥状態からアルミニウム背後電極へと焼成によって変換される。裏面銀または銀/アルミニウムペーストは同時に焼成され、銀または銀/アルミニウム背後電極になる。焼成中に、裏面アルミニウムと裏面銀または銀/アルミニウムとの境界は、合金状態をとり、同様にうまく電気的に接蝕させられる。アルミニウム電極は、一つにはp+層を形成する必要性のために、背後電極のほとんどの区域を占める。銀または銀/アルミニウム背後電極は、あらかじめはんだ付けされた銅リボンなどを用いて太陽電池を相互接続するための電極として裏面の部分一面に(多くの場合、2〜6mm幅のブスバーとして)形成される。さらに、前面グリッド電極として印刷された前面銀ペーストは、焼成中に焼結し、ARC層へ浸透し、それによってn型層と電気的に接蝕することができる。このタイプのプロセスは一般に「ファイアリングスルー」と呼ばれる。
【0009】
国際公開第92/22928号パンフレットは、前面グリッド電極が2段階で印刷される方法を開示しており;フィンガーラインのおよびブスバーの印刷が切り離されている。フィンガーラインは、ARCコーティングをファイアスルーすることができる銀ペーストから印刷されるが、ブスバーを印刷するために使用される銀ペーストについてはそうではない。ブスバーを印刷するために使用される銀ペーストは、ファイアスルー能力をまったく持たない。焼成後に、ファイアスルーされたフィンガーラインと、いわゆる非接触ブスバー(浮遊ブスバー、ARC層をファイアスルーしていないブスバー)とからなるグリッド電極が得られる。フィンガーラインのみがファイアスルーされているグリッド電極の利点は、金属/半導体界面での正孔と電子との再結合の低減である。再結合の低減は、開回路電圧の増加をもたらし、したがってこのようなタイプの前面グリッド電極を有するシリコン太陽電池の電気収率の増加をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ファイアスルー能力が不十分な、またはまったくなしでさえあり、そして向上した耐はんだ浸出性とシリコン太陽電池の前側面上のARC層への良好な接着性とを持った、シリコン基板と接触していないか、または不十分な接触しかないブスバーの生成を可能にする厚膜導電性組成物への願望がある。良好な接着性は、シリコン太陽電池の長期の耐久性または実用寿命を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(a)銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉と、(b)571〜636℃の範囲の軟化点温度(10K/分の加熱速度で示差熱分析DTAによって測定される、ガラス転移温度)を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと(c)有機ビヒクルとを含む厚膜導電性組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の厚膜導電性組成物は、印刷、特に、スクリーン印刷によって塗布することができる金属ペーストの形態を取る。以下の説明においておよび特許請求の範囲において、厚膜導電性組成物はまた「金属ペースト」とも呼ばれる。
【0013】
本発明の金属ペーストは、銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉を含む。銀粉が好ましい。金属または銀粉は、コートされていなくても、または界面活性剤で少なくとも部分的にコートされていてもよい。界面活性剤は、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、カプリン酸、ミリスチン酸およびリノール酸ならびにそれらの塩、たとえば、アンモニウム、ナトリウムまたはカリウム塩から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0014】
導電性金属粉または、特に、銀粉の平均粒度は、たとえば、0.5〜5μmの範囲にある。本発明の金属ペースト中の導電性金属粉、特に銀粉の総含有率は、たとえば、50〜92重量%、または、ある実施形態においては、65〜84重量%である。
【0015】
本説明および特許請求の範囲においては用語「平均粒度」が用いられる。それは、レーザー散乱を用いて測定される平均粒径(d50)を意味する。平均粒度との関連で本説明および特許請求の範囲において行われるすべての記述は、金属ペースト中に存在するような関連材料の平均粒度に関する。
【0016】
一般に本発明の金属ペーストは、銀、銅、およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉しか含まない。しかし、銀、銅、およびニッケルからなる群から選択される導電性金属粉を小さな割合で1つ以上の他の微粒子金属で置き換えることは可能である。このような他の微粒子金属の割合は、導電性金属ペースト中に含有される微粒子金属の合計を基準として、たとえば、0〜10重量%である。
【0017】
本発明の金属ペーストは、無機バインダーとして1つ以上の鉛含有ガラスフリットを含む。少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットは、571〜636℃の範囲の軟化点温度を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する。PbO、SiO2、Al23およびB23の重量百分率は合計して100重量%であってもなくてもよい。それらが合計して100重量%にならない場合、不足の重量%は、1つ以上の他の酸化物、たとえば、Na2Oのようなアルカリ金属酸化物、MgOのようなアルカリ土類金属酸化物ならびにTiO2およびZnOのような金属酸化物によって特に提供されてもよい。
【0018】
ある実施形態においては、本発明の金属ペーストは、少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットに加えて1つ以上の鉛を含まないガラスフリットを含む。当該実施形態においては、本発明の金属ペーストは、(a)銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉と、(b)571〜636℃の範囲の軟化点温度を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと、(c)550〜611℃の範囲の軟化点温度を有し、11〜33重量%のSiO2、0超〜7重量%、特に5〜6重量%のAl23および2〜10重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットと(d)有機ビヒクルとを含む。鉛を含まないガラスフリットの場合には、SiO2、Al23およびB23の重量百分率は合計して100重量%にならず、不足の重量%は、1つ以上の他の酸化物、たとえば、Na2Oのようなアルカリ金属酸化物、MgOのようなアルカリ土類金属酸化物ならびにBi23、TiO2およびZnOのような金属酸化物によって特に提供される。
【0019】
ある実施形態においては、少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットは、40〜73重量%、特に48〜73重量%のBi23を含有する。当該実施形態においては、本発明の金属ペーストは、(a)銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉と、(b)571〜636℃の範囲の軟化点温度を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと、(c)550〜611℃の範囲の軟化点温度を有し、40〜73重量%のBi23、11〜33重量%のSiO2、0超〜7重量%、特に5〜6重量%のAl23および2〜10重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットと(d)有機ビヒクルとを含む。Bi23を含有する鉛を含まないガラスフリットの場合には、Bi23、SiO2、Al23およびB23の重量百分率は、合計して100重量%になってもならなくてもよい。それらが合計して100重量%にならない場合、不足の重量%は、1つ以上の他の酸化物、たとえば、Na2Oのようなアルカリ金属酸化物、MgOのようなアルカリ土類金属酸化物ならびにTiO2およびZnOのような金属酸化物によって特に提供されてもよい。
【0020】
本発明の金属ペーストが少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットのみならず少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットを含む場合、両ガラスフリット種類間の比は、いくらであっても、言い換えれば、0超〜無限大の範囲にある。
【0021】
ガラスフリットの平均粒度は、たとえば、0.5〜4μmの範囲にある。本発明の金属ペースト中の総ガラスフリット含有率(少なくとも1つの鉛含有ガラスフリット・プラス場合により存在する少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリット)は、たとえば、0.25〜8重量%、または、ある実施形態においては、0.8〜3.5重量%である。
【0022】
ガラスフリットの製造はよく知られており、たとえば、成分の酸化物の形態でのガラスの成分を一緒に融解し、このような融解組成物を水に注ぎ込んでフリットを形成することにある。当該技術分野でよく知られているように、加熱は、ピーク温度にそして溶融体が完全に液体におよび均一になるような時間の間行われてもよい。
【0023】
ガラスは、フリットの粒度を下げ、そして実質的に一様なサイズのフリットを得るために水、または不活性の低粘度、低沸点の有機液体を使ってボールミルで粉砕されてもよい。それは次に、微粒子を分離するために水中または上記有機液体中で沈降させられてもよく、微粒子を含有する上澄液は除去されてもよい。その他の分類方法が同様にうまく用いられてもよい。
【0024】
本発明の金属ペーストは有機ビヒクルを含む。多種多様な不活性の粘稠な材料を有機ビヒクルとして使用することができる。有機ビヒクルは、微粒子成分(導電性金属粉、ガラスフリット)が、十分な程度の安定性でその中に分散可能であるものであってもよい。有機ビヒクルの特性、特に、レオロジー特性は、それらが、不溶性固形分の安定な分散、塗布のために、特に、スクリーン印刷のために適切な粘度およびチクソ性、シリコンウェーハの前面上のARC層のおよびペースト固形分の適切な湿潤能力、良好な乾燥速度、ならびに良好な焼成特性を含む、良好な塗布特性を金属ペーストに与えるようなものであってもよい。本発明の金属ペーストに使用される有機ビヒクルは、非水性の不活性液体であってもよい。有機ビヒクルは、有機溶媒または有機溶媒混合物であってもよく;ある実施形態においては、有機ビヒクルは、有機溶媒中の有機ポリマーの溶液であってもよい。増粘剤、安定剤および/または他の一般的な添加剤を含有してもしなくてもよい、様々な有機ビヒクルのいずれかが使用可能である。ある実施形態においては、有機ビヒクルの成分として使用されるポリマーはエチルセルロースであってもよい。単独で、または組み合わせて使用されてもよいポリマーの他の例としては、エチルヒドロキシエチルセルロース、ウッドロジン、フェノール樹脂および低級アルコールのポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。好適な有機溶媒の例は、エステルアルコールおよびアルファ−もしくはベータ−テルピネオールなどのテルペン、またはそれらと灯油、ジブチルフタレート、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ヘキシレングリコールおよび高沸点アルコールなどのその他の溶媒との混合物を含む。さらに、金属ペーストの塗布後の迅速な硬化を促進するための揮発性有機溶媒は、有機ビヒクルに含めることができる。これらとその他の溶媒との様々な組み合わせが、望まれる粘度および揮発度要件を得るために調合されてもよい。
【0025】
本発明の金属ペースト中の有機ビヒクル対無機成分(導電性金属粉・プラスガラスフリット・プラス場合により存在する他の無機添加剤)の比は、金属ペーストの塗布方法および使用される有機ビヒクルの種類に依存し、それは変動することができる。通常、本発明の金属ペーストは、58〜95重量%の無機成分および5〜42重量%の有機ビヒクルを含有するであろう。
【0026】
本発明の金属ペーストは、導電性金属粉およびガラスフリットを有機ビヒクルと機械的に混合することによって製造されてもよい、粘稠な組成物である。ある実施形態においては、パワー混合の製造方法、すなわち伝統的なロールミリングに等しい分散技術が用いられてもよく;ロールミリングまたは他の混合技術もまた使用することができる。
【0027】
本発明の金属ペーストは、そのままで使用することができ、または、たとえば、追加の有機溶媒の添加によって希釈されてもよく;したがって、金属ペーストの他の成分すべての重量百分率は低下してもよい。
【0028】
本発明の金属ペーストは、シリコン太陽電池の前面グリッド電極の製造に、またはシリコン太陽電池の製造にそれぞれ使用されてもよい。それ故本発明はまた、このような製造方法に、ならびに上記製造方法によって製造される前面グリッド電極およびシリコン太陽電池に関する。
【0029】
前面グリッド電極の製造方法は、(1)前面にARC層を有するシリコンウェーハを提供する工程と、(2)本発明の金属ペーストをシリコンウェーハの前面上のARC層上に印刷し、特に、スクリーン印刷して乾燥させて、2つ以上の平行なブスバー(busbars:母線)を形成する工程と、(3)ファイアスルー能力を持った金属ペーストをARC層上に印刷し、特に、スクリーン印刷して乾燥させて、ブスバーと直角に交差する薄い平行なフィンガーラインを形成する工程と、(4)印刷されて乾燥された金属ペーストを焼成する工程とによって行われてもよい。本方法の結果として、ファイアスルーされたフィンガーラインと非接触ブスバーとからなる前面グリッド電極が得られる。
【0030】
しかし、このような前面グリッド電極の製造方法はまた、逆の順番に、すなわち(1)前面にARC層を有するシリコンウェーハを提供する工程と、(2)ファイアスルー能力を持った金属ペーストをシリコンウェーハの前面上のARC層上に印刷し、特に、スクリーン印刷して乾燥させて、薄い平行なフィンガーラインを形成する工程と、(3)本発明の金属ペーストをARC層上に印刷し、特に、スクリーン印刷して乾燥させて、フィンガーラインと直角に交差する2つ以上の平行なブスバーを形成する工程と、(4)印刷されて乾燥された金属ペーストを焼成する工程とによって行われてもよい。本方法の結果として、ファイアスルーされたフィンガーラインと非接触ブスバーとからなる前面グリッド電極が得られる。
【0031】
2つの先行段落に開示された方法の工程(1)において、前面にARC層を有するシリコンウェーハが提供される。このシリコンウェーハは、シリコン太陽電池の製造のために通常使用されるような、従来型の単結晶または多結晶シリコンウェーハである、すなわち、それは典型的にはp型領域、n型領域およびp−n接合を有する。シリコンウェーハは、その前面上に、たとえば、TiOx、SiOx、TiOx/SiOx、または、特に、SiNxもしくはSi34のARC層を有する。このようなシリコンウェーハは当業者によく知られているが;簡潔にするためにセクション「背景技術」を参照されたい。シリコンウェーハは、従来の裏面金属化を、すなわち、セクション「背景技術」において上に記載されたように裏面アルミニウムペーストおよび裏面銀または裏面銀/アルミニウムペーストをすでに提供されていてもよい。裏面金属ペーストの塗布は、前面グリッド電極が完成される前に、または完成された後に実施されてもよい。裏面ペーストは、個々に焼成されても同時焼成されてもよく、または、工程(2)および(3)においてARC層上に印刷された前面金属ペーストとの同時焼成でさえよい。
【0032】
本説明および特許請求の範囲において用語「ファイアスルー能力を持った金属ペースト」が用いられる。それは、ARC層をファイアスルーしてシリコン基板の表面と電気的に接蝕する従来型金属ペーストを意味し、そうではない本発明の金属ペーストとは対照的である。このような金属ペーストは、ファイアスルー能力を持った銀ペーストを特に含み;それらは当業者に公知であり、それらは、その例が米国特許出願公開第2006/0231801 A1号明細書である、様々な特許文献に記載されてきた。
【0033】
工程(2)および(3)における金属ペーストの塗布後に、それらは、たとえば、シリコンウェーハが100〜300℃の範囲のピーク温度に達する状態で1〜100分の期間乾燥される。乾燥は、たとえば、ベルト、回転もしくは固定乾燥機、特に、IR(赤外)ベルト乾燥機を用いて実施することができる。
【0034】
工程(2)および(3)の後の焼成工程(4)は、同時焼成工程である。しかし、好ましくはないが、工程(2)と(3)との間に追加の焼成工程を行うこともまた可能である。とにかく、工程(1)〜(4)を含む製造方法の結果として、ファイアスルーされたフィンガーラインと非接触ブスバーとからなるグリッド電極がシリコンウェーハの前面上のARC層上に生成する。ファイアスルーされた平行なフィンガーラインは、たとえば、2〜5mmの相互間距離、たとえば、3〜30μmの層厚さ、および、たとえば、50〜150μmの幅を有する。焼成されたが非接触のブスバーは、たとえば、20〜50μmの層厚さおよび、たとえば、1〜3mmの幅を有する。
【0035】
工程(4)の焼成は、シリコンウェーハが700〜900℃の範囲のピーク温度に達する状態で、たとえば、1〜5分の期間行われてもよい。焼成は、たとえば、単一ゾーンもしくはマルチゾーンベルト炉、特に、マルチゾーンIRベルト炉を用いて実施することができる。焼成は、不活性ガス雰囲気中でか、または酸素の存在下に、たとえば、空気の存在下に起こってもよい。焼成中に、非揮発性有機材料および乾燥中に蒸発しなかった有機部分を含む有機物質が除去されてもよく、すなわち燃焼させられおよび/または炭化させられ、特に、燃焼させられてもよく、ガラスフリットは、導電性金属粉と焼結する。平行な薄いフィンガーラインを印刷するために使用される金属ペーストはARC層をエッチングし、ファイアスルーしてシリコン基板と電気的に接蝕するフィンガーラインをもたらすが、これは、ブスバーを印刷するために使用される本発明の金属ペーストには当てはまらない。ブスバーは、焼成後に「非接触」ブスバーのままである、すなわち、ARC層は、ブスバーとシリコン基板との間に少なくとも本質的に残る。
【0036】
本発明の金属ペーストを使用して本方法によって製造されるグリッド電極またはシリコン太陽電池は、ファイアスルーされたブスバーとは違い、非接触ブスバーまたはシリコン基板と不十分な接触しか持たないブスバーと関連する有利な電気的特性を示す。本発明の方法によって製造されたブスバーは、良好なはんだ浸出抵抗性およびシリコン太陽電池の前面または、より正確には、シリコン太陽電池の前面上のARC層への良好な接着性で区別される。
【実施例】
【0037】
本明細書において引用される実施例は、前面n型発光体上にp型シリコンベースおよび窒化ケイ素ARC層を有する従来型太陽電池上へ焼成される金属ペーストに関する。
【0038】
以下の議論は、太陽電池が本発明の組成物を利用して形成される方法およびそれがその加工性について試験される方法を記載する。
【0039】
(1)太陽電池の製造
太陽電池を次の通り形成した:
(i)その裏面上に30μm厚さのアルミニウム電極(E.I.Du Pont de Nemours and Companyから商業的に入手可能なPV381 Al組成物からスクリーン印刷された)および2つの5mm幅ブスバー(E.I.Du Pont de Nemours and Companyから商業的に入手可能なPV505 Ag組成物からスクリーン印刷された、そして電気的導通を確実にするために両端で1mmにわたってアルミニウムフィルムと重なり合っている)を有するSi基板(200μm厚さの面積243cm2のp型(ホウ素)バルクシリコンの多結晶シリコンウェーハに、n型拡散POCl3発光体を備え、酸で表面テクスチャー加工し、CVDによってウェーハの発光体上にSiNxのARC層を適用したもの)の前面上に、前面銀ペースト(E.I.Du Pont de Nemours and Companyから商業的に入手可能なPV142)を、相互間に2.2mmの距離を有する100μm幅および20μmの薄い平行なフィンガーラインとしてスクリーン印刷して乾燥させた。次に、前面ブスバー銀ペーストを、フィンガーラインと直角に交差する2つの2mm幅および25μm厚さの平行なブスバーとしてスクリーン印刷した。すべての金属ペーストを、同時焼成する前に乾燥させた。
実施例の前面ブスバー銀ペーストは、81重量%銀粉(平均粒度2μm)、19重量%有機ビヒクル(有機ポリマー樹脂および有機溶媒)プラス・ガラスフリット(平均粒度0.8μm)を含んだ。表1は、使用されたガラスフリット種類の組成データを提供する。
【0040】
(ii)印刷されたウェーハを次に、ゾーン1=500℃、ゾーン2=525℃、ゾーン3=550℃、ゾーン4=600℃、ゾーン5=925℃および890℃に設定された最終ゾーンと規定される、こうしてウェーハが800℃のピーク温度に達するゾーン温度で、3000mm/分のベルト速度でDespatch炉において焼成した。焼成後に、金属化ウェーハは機能的な光起電装置になった。
電気性能および前面ブスバーとSiNxのARC層との間の焼成接着性の測定に取り組んだ。さらに、ファイアスルー能力を測定した。
【0041】
(2)試験手順
効率
上記の方法に従って形成された太陽電池を、光変換効率を測定する目的のために市販のI−V試験機(h.a.l.m.elektronik GmbHによって供給される)に入れた。I−V試験機中のランプは既知の強度(約1000W/m2)の日光をシミュレートし、電池の発光体に光を当てた。電池上の金属被覆をその後電気プローブと接触させた。太陽電池によって発生した光電流(Voc、開回路電圧;Isc、短絡電流)を様々な抵抗にわたって測定してI−V応答曲線を計算した。
【0042】
ファイアスルー(Fire−through)能力
前面ブスバー銀ペーストをスクリーン印刷し、フィンガーラインおよびブスバー(フィンガーライン印刷のためのPV142前面銀ペーストの使用なし)を含む上述のHパターンで焼成した。次に、電池の効率を測定した。ファイアスルー能力なしか、または不十分なファイアスルー能力しか持たない前面ブスバーペーストの場合には、太陽電池の電気効率は、0〜4%(ファイアスルーなし、またはほんの限定的なファイアスルー)の範囲にある。
【0043】
接着試験
接着試験のために、リボンおよび前面ブスバーの両方を液体フラックスで湿らせ、一定速度でウェーハの完全長さに沿って移動する手動はんだごてを用いてはんだ付けした。はんだごて先端を325℃の規定温度に調節した。はんだ付け前のフラックスの事前乾燥または事前加熱はまったくなかった。
【0044】
この試験に使用されたフラックスおよびはんだリボンは、それぞれ、Kester(登録商標)952Sおよび62Sn−36Pb−2Ag(62重量%スズ、36重量%鉛および2重量%銀からなる金属合金)であった。
【0045】
接着力は、100mm/秒の速度および90°の引張角度でブスバーに沿って多数のポイントではんだリボンを引っ張ることによってMecmesin接着試験装置を用いて測定した。ブスバーを除去するための力をグラム単位で測定した。
【0046】
表2に引用される実施例A〜Dは、前面ブスバー銀ペーストの電気的特性を、それらが含有するガラスフリットの割合および組成の関数として例示する。表2のデータは、実施例A〜Dによる前面ブスバー銀ペーストを使用して製造された太陽電池の電気性能が、比較例Eによる前面ブスバー銀ペーストで製造された太陽電池と比較したときに著しく向上することを裏付けている。開回路電圧Vocは増加し、接着力はより高く、固有抵抗はより低い。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1つの導電性金属粉と、(b)571〜636℃の範囲の軟化点温度を有し、53〜57重量%のPbO、25〜29重量%のSiO2、2〜6重量%のAl23および6〜9重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと(c)有機ビヒクルとを含む金属ペースト。
【請求項2】
550〜611℃の範囲の軟化点温度を有し、11〜33重量%のSiO2、0超〜7重量%のAl23および2〜10重量%のB23を含有する少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットを含む、請求項1に記載の金属ペースト。
【請求項3】
前記鉛を含まないガラスフリットが40〜73重量%のBi23を含有する、請求項2に記載の金属ペースト。
【請求項4】
前記導電性金属粉の総含有率が50〜92重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項5】
前記少なくとも1つの導電性金属粉が銀粉である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項6】
総ガラスフリット含有率が0.25〜8重量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項7】
前記少なくとも1つの鉛含有ガラスフリットと前記少なくとも1つの鉛を含まないガラスフリットとの比が0超〜無限大の範囲にある、請求項2〜6のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項8】
58〜95重量%の無機成分および5〜42重量%の有機ビヒクルを含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属ペースト。
【請求項9】
前面グリッド電極の製造方法であって、
(1)前面にARC層を有するシリコンウェーハを提供する工程と、
(2)請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属ペーストを、前記シリコンウェーハの前面の前記ARC層上に印刷して乾燥させて、2つ以上の平行なブスバーを形成する工程と、
(3)ファイアスルー能力を持った金属ペーストを前記ARC層上に印刷して乾燥させて、前記ブスバーと直角に交差する薄い平行なフィンガーラインを形成する工程と、
(4)前記印刷されて乾燥された金属ペーストを焼成する工程と
を含む方法。
【請求項10】
前面グリッド電極の製造方法であって、
(1)前面にARC層を有するシリコンウェーハを提供する工程と、
(2)ファイアスルー能力を持った金属ペーストを前記シリコンウェーハの前面の前記ARC層上に印刷して乾燥させて、薄い平行なフィンガーラインを形成する工程と、
(3)請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属ペーストを前記ARC層上に印刷して乾燥させて、前記フィンガーラインと直角に交差する2つ以上の平行なブスバーを形成する工程と、
(4)前記印刷されて乾燥された金属ペーストを焼成する工程と
を含む方法。
【請求項11】
前記ARC層が、TiOx、SiOx、TiOx/SiOx、SiNxまたはSi34 ARC層からなる群から選択される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
追加の焼成工程が工程(2)と(3)との間に行われる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(2)および(3)における前記印刷がスクリーン印刷である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法によって製造される、前面グリッド電極。
【請求項15】
前面にARC層を有するシリコンウェーハおよび請求項14に記載の前面グリッド電極を含む、シリコン太陽電池。

【公表番号】特表2012−522355(P2012−522355A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503601(P2012−503601)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/029181
【国際公開番号】WO2010/117773
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】