説明

金属化フィルムコンデンサ

【課題】金属化フィルムコンデンサの静電容量変化を抑制することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明は、一対の金属化フィルムの金属蒸着電極のうち少なくとも一方が、Alを主成分とし、Al:Siの原子濃度比率が95:5〜85:15であって、CuはSiの原子濃度比率の半分以下であり、かつSiの次にCuの原子濃度比率が高いものとした。これにより本発明は、AC用途に用いた場合でも、静電容量変化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器、電気機器、産業機器、ハイブリッド自動車、電車、太陽光発電用等に使用される金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は従来の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図、図5(a)、(b)は同金属化フィルムコンデンサに使用される一対の金属化フィルムを示した平面図である。図4と図5に示すように、金属蒸着電極101aと金属蒸着電極101bはポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルム102a、102bの片面上に一端の絶縁マージン103a、103bを除いて形成されている。この金属蒸着電極101aと101bは、誘電体フィルム102a、102bの絶縁マージン103a、103bの反対側の端部に形成されたメタリコン電極104a、104bと接続され、外部に電極を引き出している。
【0003】
上記のような金属化フィルムコンデンサには、直流(DC)用と交流(AC)用に用いられるものがある。従来、AC用金属化フィルムコンデンサの金属蒸着電極101a、101bには亜鉛を用い、DC用金属化フィルムコンデンサの金属蒸着電極101a、101bにはアルミニウムを用いることが多かった。
【0004】
すなわち、交流電圧印加時にはコロナ放電が起こりやすいため、放出された電子によって金属蒸着電極が腐食(コロージョン)することがある。したがって、コロナ放電時に腐食しにくい材料が求められる。亜鉛は腐食しにくいことが経験的に分かっており、結果としてAC用途には亜鉛が好ましいとされてきた。
【0005】
一方、直流電圧用途の高電圧印加領域のタイプには、セルフヒーリング性の良い材料が求められる。アルミニウムは亜鉛よりも抵抗が低く、膜厚を薄くできるため、セルフヒーリング性が良い。したがってDC用途にはアルミニウムが好ましいとされてきた。
【0006】
しかしながら近年、AC用途でも使用電圧領域が高まり、高耐圧化が求められている。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−114016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特にAC用途の金属化フィルムコンデンサにおいて、アルミニウムをベースとしたセルフヒーリング性のよい金属蒸着電極を実現しようとすると、静電容量が減少することがある。
【0010】
その理由は、アルミニウムがコロージョンを起こしやすいからである。すなわち特にAC用途の金属化フィルムコンデンサにおいては、コロナ放電時に素子内のボイドから放出した電子によってアルミニウムが腐食する(コロージョンを起こす)のである。金属蒸着電極が腐食すると電極の有効面積が減り、静電容量が減少するのである。
【0011】
そこで本発明は、アルミニウムをベースとした金属蒸着電極をAC用途に用いた場合でも、静電容量変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため本発明は、一対の金属化フィルムの金属蒸着電極のうち少なくとも一方は、Alを主成分とし、Al:Siの原子濃度比率が95:5〜85:15であって、CuはSiの原子濃度比率の半分以下であり、かつSiの次にCuの原子濃度比率が高いものである。
【発明の効果】
【0013】
これにより本発明は、アルミニウムをベースとした金属蒸着電極をAC用途に用いた場合でも、静電容量変化を抑制できる。
【0014】
その理由は、金属蒸着電極にSiを含有させることにより、コロージョンを起こしにくくなるからと考えられる。すなわちSiの方がAlよりも仕事関数が大きく、酸化しにくいと考えられる。
【0015】
またSiの含有量をAl−Si合金の共晶点近傍となる濃度にすることにより融点が下がり、金属蒸着電極を薄くしても誘電体フィルムに熱ダメージを与えることなく低い温度条件でメタリコン電極との接着強度を強めることができる。したがって、より一層セルフヒーリング性を良くすることができる。
【0016】
さらにCuを含有させることにより、Al−Si合金の侵食や空隙(エロージョン)を抑制でき、コロナ放電の発生を抑制できる。すなわちSiのAlへの溶解度は小さいため、Siが析出し、粒界に空孔が発生することが懸念されるが、Cuを含有させることによりAlの粒界にCu濃度の高い層が形成され、空孔の発生を抑制できる。よって金属蒸着電極の欠陥を低減し、欠陥近傍に発生するコロナ放電も抑制できる。
【0017】
以上より本発明は、アルミニウムをベースとした金属蒸着電極をAC用途に用いた場合にも、静電容量変化を抑制し、さらにはメタリコン電極との接着強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図
【図2】(a)、(b)本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサに使用される金属化フィルムの構成を示した平面図
【図3】Al−Si合金の融点を示す図
【図4】従来の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図
【図5】(a)、(b)従来の金属化フィルムコンデンサに使用される金属化フィルムの構成を示した平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図2を用いて、本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構成について説明する。
【0020】
図1は本実施例の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図であり、図2(a)、図2(b)は本発明の金属化フィルムコンデンサに用いられる一対の金属化フィルムの平面図である。
【0021】
図1において、第1の金属化フィルム1はP極用、第2の金属化フィルム2はN極用の金属化フィルムである。そして、これら第1の金属化フィルム1および第2の金属化フィルム2を一対として重ね合わせ、これを複数ターン巻回したものを素子として金属化フィルムコンデンサを形成している。
【0022】
図1に示すように、第1の金属化フィルム1は誘電体となるポリプロピレンからなる誘電体フィルム3aの片面上に金属蒸着電極4aが形成されている。端部には第2の金属化フィルム2と絶縁するために絶縁マージン5aが設けられている。
【0023】
この金属蒸着電極4aはメタリコン電極6aと接続されて電極を引き出す。メタリコン電極6aは、例えば亜鉛溶射により形成でき、金属蒸着電極4aの端面に形成される。
【0024】
金属蒸着電極4aは、図2(a)に示すように、容量を形成する有効電極部の幅W方向における略中央から絶縁マージン5aに向かう側に、縦マージン7aおよび横マージン8aを形成されている。縦マージン7aと横マージン8aは、オイル転写により形成され、金属蒸着電極4aが蒸着されていない。これにより金属蒸着電極4aは、メタリコン電極6a側が大電極部9aとなり、絶縁マージン5a側が縦マージン7aおよび横マージン8aにより複数に区分けされた分割小電極部10aとなる。
【0025】
この分割小電極部10aは図2(a)に示されるように、大電極部9aとヒューズ11aにて電気的に並列に接続されており、また隣接する分割小電極部10aどうしもヒューズ12aにて電気的に並列に接続されている。
【0026】
ここで、大電極部9aは図2(a)に示されるように、誘電体フィルム3aの片面に有効電極部の幅Wの略中央部からメタリコン電極6aにかけて形成されている。各分割小電極部10aの幅は有効電極部の幅Wの約1/4で、誘電体フィルム3aの片面に有効電極部の幅Wの略中央部から絶縁マージン5aにかけて形成されている。なお、この分割小電極部10aは有効電極部(幅W)略中央部から絶縁マージン5aにかけて2つ設けた構成としたが、これに限らず3つ以上設けた構成としてもよい。
【0027】
実使用時において、絶縁の欠陥部分で短絡が生じた場合には短絡のエネルギーで欠陥部分周辺の金属蒸着電極4aが蒸発・飛散して絶縁が復活する。この自己回復機能により、第1の金属化フィルム1、第2の金属化フィルム2間の一部が短絡しても金属化フィルムコンデンサの機能が回復する。また、分割小電極部10aの不具合により分割小電極部10aに大量の電流が流れた場合には、ヒューズ11a、あるいはヒューズ12aが飛散することで不具合の生じている部分の分割小電極部10aの電気的接続が切断され、金属化フィルムコンデンサの電流は正常な状態に戻る。
【0028】
第2の金属化フィルム2は、第1の金属化フィルム1と同様、図1に示されるように、誘電体となるポリプロピレンの誘電体フィルム3bの片面上に一端の絶縁マージン5bを除いて金属蒸着電極4bが形成されている。ただし、第2の金属化フィルム2と第1の金属化フィルム1とではメタリコンに接続される方向が異なり、第2の金属化フィルム2は、第1の金属化フィルム1が接続されたメタリコン電極6aと対向して配置されたメタリコン電極6bに接続されている。また、金属蒸着電極4bは、容量を形成する有効電極部の幅Wにおける略中央部から絶縁マージン5bに向かう側に、金属蒸着電極を有しない非蒸着の縦マージン7bおよび横マージン8bにより大電極部9bと複数の分割小電極部10bに区分されている。
【0029】
この分割小電極部10bは、図2(b)に示されるように第1の金属化フィルム1の分割小電極部10aと同様の構成となっており、大電極部9bとヒューズ11bにて並列接続され、また分割小電極部10bどうしもヒューズ12bにて並列接続されている。分割小電極部10b、ヒューズ11b、12bを備えることによる効果も第1の金属化フィルム1と同様である。
【0030】
なお本実施例では、金属蒸着電極4a、4bを大電極部9a、9b、分割小電極部10a、10bに区分けしたが、区分けしない場合も、コンデンサとして機能する。
【0031】
また本実施例では誘電体フィルム3a、3bとしてポリプロピレンフィルムを用いたが、これ以外にもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリスチレンなどを用いてもよい。
【0032】
本実施例の金属化フィルムコンデンサでは第1の金属化フィルム1または第2の金属化フィルム2の金属蒸着電極4a、4bのうち少なくとも一方は、アルミニウム(Al)を主成分とし、Al:シリコン(Si)の原子濃度比率が95:5〜85:15であって、銅(Cu)はSiの原子濃度比率の半分以下であり、かつSiの次にCuの原子濃度比率が高いものである。
【0033】
ここでAC用途の金属化フィルムコンデンサの金属蒸着電極4a、4bとしてAlを用いる場合、Alは比較的抵抗が小さいため薄く形成することができ、高圧印加時にはセルフヒーリング性が高いという利点がある。一方、素子中の気泡や欠陥近傍でコロナ放電が発生した場合に、放出された電子によってAlが腐食(コロージョン)を起こすという課題がある。これに対し本実施例では、金属蒸着電極4a、4bをAl−Si合金とすることにより、腐食を抑制することができる。
【0034】
その理由を以下に説明する。すなわちSiの仕事関数は4.9eVであり、Alの仕事関数(4.15eV)よりも大きい。したがってSiは酸化に必要なエネルギーが大きく、酸化しにくいと考えられる。以上より、Al−Si合金はAl単体の金属蒸着電極4a、4bよりも腐食しにくい(コロージョンを起こしにくい)のである。
【0035】
なお、AlとSiの含有率については、例えば特開昭60−183715号公報に、少なくともAlに対しSiを5〜40重量部含むように形成することによって、部分放電時の腐食を抑制でき、Al単体の場合よりも静電容量変化を低減できると記載されている。さらに例えば特開平9−326328号公報には、Siを0.01wt%以上(残りはAl)含むことによって、酸化劣化を抑制できると記載されている。
【0036】
本実施例のAl:Siの原子濃度比率(Al:Si=95:5〜85:15)においても、上記と同様に、コロナ放電時に放出された電子による酸化腐食(コロージョン)を抑制できたと考えられる。そしてその結果、電極の有効面積の減少を抑え、静電容量変化を低減できる。
【0037】
下記(表1)は、金属蒸着電極の組成比とコンデンサの容量変化の大小を示すものである。コンデンサの容量変化については、金属化フィルムコンデンサ(容量1uF)を室温(23℃)環境において、380VACを印加しAC負荷試験を実施し、コンデンサの容量が5%減少する時間を測定した。容量変化が−5%となるまでに掛かった時間が500時間以上であれば、容量変化は比較的小さいと判断した。500時間未満であれば、容量変化が大きいと判断した。
【0038】
【表1】

【0039】
以上より本実施例では、金属蒸着電極4a、4bのコロージョンを抑制し、容量変化を抑制できたと考えられる。
【0040】
また本実施例では、Al:Siの原子濃度比率を95:5〜85:15の範囲とすることによって、図3に示すようにAl−Si合金が共晶点もしくは共晶点近傍となり、融点を20℃〜85℃程度下げることができる。
【0041】
金属蒸着電極4a、4bの融点が下がると、メタリコン電極6a、6bとの接着性を向上でき、tanδを下げ、かつ接続信頼性を高めることができる。特にAlは比較的抵抗が小さく、薄く形成することができ、セルフヒーリング性を良くすることができる。本実施例では、薄く形成してもメタリコン電極6a、6bとの接着性を向上できるため、セルフヒーリング性の良さを効果的に利用することができる。
【0042】
また本実施例では、金属蒸着電極4a、4bにCu原子をSiの原子濃度比率の半分以下含有させることにより、Al−Si合金中におけるSi原子の析出を抑制し、Si原子の析出による金属蒸着電極4a、4b中の侵食や空隙(エロージョン)が発生しにくくなる。これにより金属蒸着電極4a、4bの欠陥を低減し、欠陥を起点としたコロナ放電の発生を抑制できる。
【0043】
その理由を以下に説明する。SiはAlへの溶解度が小さいため、Al−Si合金中のSiは析出しやすく、金属蒸着電極4a、4bの侵食、空隙の要因となる。しかしAl−Si合金にCu原子を含有させると、CuがAlの粒界に速やかに析出するため、Siの析出による空隙を埋めることができる。そしてその結果、金属蒸着電極4a、4bの欠陥を抑制できる。
【0044】
なお、半導体分野におけるAl−Si−Cu合金配線において、CuをSiの原子濃度の半分程度含有させることで、断線を抑制できることが分かっており、本実施例の金属蒸着電極4a、4bにおいても同様の理由により欠陥を抑制できたと推測する。なお、Cuの仕事関数は4.65eVであり、Alの仕事関数(4.15eV)より高いがSiの仕事関数(4.9eV)よりも小さい。したがってCuの含有比率を多くすると、Siによる仕事関数の低減効果に影響を与えるため、本実施例ではCuをSiの原子濃度の半分以下とした。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による金属化フィルムコンデンサは、金属蒸着電極をAC用途に用いた場合にも、信頼性を高め、さらにはメタリコン電極との接着強度を高めることができ、各種電子機器、電気機器、産業機器、自動車、電車、太陽光発電用等に用いられるコンデンサとして好適に採用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 第1の金属化フィルム
2 第2の金属化フィルム
3a、3b 誘電体フィルム
4a、4b 金属蒸着電極
5a、5b 絶縁マージン
6a、6b メタリコン電極
7a、7b 縦マージン
8a、8b 横マージン
9a、9b 大電極部
10a、10b 分割小電極部
11a、11b ヒューズ
12a、12b ヒューズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルム上に金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを一対とし、この一対の金属化フィルムに形成された夫々の金属蒸着電極が誘電体フィルムを介して対向するように重ね合わせて巻回または積層した素子と、
この素子の両端面に形成された一対のメタリコン電極からなり、
前記一対の金属化フィルムの金属蒸着電極のうち少なくとも一方は、Alを主成分とし、Al:Siの原子濃度比率が95:5〜85:15であって、CuはSiの原子濃度比率の半分以下であり、かつSiの次にCuの原子濃度比率が高い、金属化フィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−80766(P2013−80766A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219003(P2011−219003)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】