説明

金属化合物、それを用いたビニル系モノマー重合用触媒組成物および該組成物のビニル系モノマーの重合への使用

【課題】より温和な条件下で官能基を側鎖に有するビニル系モノマーを重合させることが可能な金属化合物およびそれを含む重合用触媒組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)で示されるホスフィンスルホニルイミド配位子を有する金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む成分A


(式中、R〜Rは水素、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)、または上記成分Aと所定の元素および/または基を有する化合物を含む成分Bとの組み合わせからなる組成物を用いてビニル系モノマーを重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期律表第10族の元素とホスフィンスルホニルイミド配位子を含有する金属化合物、それを用いたビニル系モノマー重合用触媒組成物、および該組成物を用いたビニル系モノマーの重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの高機能化の手段として、種々の官能基を重合体中に導入する方法がある。例えば、側鎖に官能基を有するビニル系モノマーの付加重合法により、様々な性能を有するポリマーが得られる。ビニル系モノマーの種類は豊富であることからも、この方法は簡便かつ有用な手段といえる。
【0003】
ビニル系モノマーの付加重合法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合等が知られている。ラジカル重合法は重合可能なモノマーの適用範囲が広く、α−オレフィン、スチレン誘導体等の炭化水素系モノマーのみならず、エステル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有するモノマーでも重合可能である。その反面、ラジカル重合法は重合を開始させるためには高温に加熱することを必要とする。また、低温下でも重合開始能のある開始剤を用いた場合には生産性に乏しく、生産性を確保するために乳化剤を用いた乳化重合法を行う場合には操作が煩雑となる、といった問題がある。また、カチオン重合法およびアニオン重合法は、重合可能なモノマーの適用範囲が狭いという欠点がある。
【0004】
一方、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等を用いた重合に代表される配位重合では、近年、官能基を有するモノマーを重合可能とする後周期金属錯体を用いた重合法が開発され、アクリル酸エステル、ノルボルネオールといった水酸基含有オレフィン等の官能基含有モノマーとエチレンとの共重合法も開発されている(特許文献1〜8)。
【0005】
しかしながら、このような重合方法でも官能基含有モノマーを主成分とする重合は困難であり、官能基を有さないα−オレフィン等のモノマーに少量の官能基含有モノマーを導入した共重合体を製造できるにすぎない。
【0006】
【特許文献1】国際公開第96/23010号パンフレット
【特許文献2】国際公開第98/42664号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/42665号パンフレット
【特許文献4】国際公開第98/56839号パンフレット
【特許文献5】米国特許第6303720号明細書
【特許文献6】国際公開第01/92354号パンフレット
【特許文献7】国際公開第01/96406号パンフレット
【特許文献8】国際公開第02/059165号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の課題は、ビニル系モノマー、特に官能基を含有するビニル系モノマーを比較的温和な条件下で生産性高く重合することが可能な触媒組成物およびそれを用いた重合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、周期律表第10族の金属元素とホスフィンスルホニルイミド配位子を有する金属化合物を触媒組成物に用いることにより、ビニル系モノマー、特に官能基を含有するビニル系モノマーを比較的温和な条件下で生産性高く重合できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記式(I):
【化1】

(式(I)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物に関する。
【0010】
また本発明は、下記式(II):
【化2】

(式(II)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Xは置換基を有しても良い炭素数2〜20の含窒素化合物を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物に関する。
【0011】
さらに本発明は、下記式(III):
【化3】

(式(III)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物に関する。
【0012】
また本発明は、ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(I):
【化4】

(式(I)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物に関する。
【0013】
さらに本発明は、ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(II):
【化5】

(式(II)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Xは置換基を有しても良い炭素数2〜20の含窒素化合物を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物に関する。
【0014】
また本発明は、ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(III):
【化6】

(式(III)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、(a)原子番号3以上で、かつ周期律表第1、2、11、12および13族の元素から選ばれた少なくとも1種の元素、(b)置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基および/または置換基を有してもよい炭素数6〜40の芳香族炭化水素基、ならびに(c)過塩素酸基および/または四フッ化ホウ素基、からなる3つの群のうちの少なくとも2つの群からそれぞれ1種以上選ばれた、元素および/または基を有する化合物の少なくとも1種を含む成分Bをさらに含有する、前記重合用触媒組成物に関する。
【0016】
また本発明は、式中のMがパラジウムである、前記重合用触媒組成物に関する。
【0017】
さらに本発明は、式中のRがメチル基であり、RおよびRがそれぞれ置換基を有してもよいフェニル基であり、R〜Rがそれぞれ水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基である、前記重合用触媒組成物に関する。
【0018】
また本発明は、式中のXが、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ピリジン、ピコリンまたは2,6−ルチジンである、前記重合用触媒組成物に関する。
【0019】
さらに本発明は、成分Bが有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、トリフルオロメタンスルホン酸塩、過塩素酸塩、有機亜鉛化合物、有機ホウ素化合物、ホウ酸塩および有機アルミニウム化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、前記重合用触媒組成物に関する。
【0020】
また本発明は、前記重合用触媒組成物のビニル系モノマーの重合への使用に関する。
【0021】
さらに本発明は、ビニル系モノマーが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルエーテル、ビニルエステル、エチレン、α-オレフィン、スチレン誘導体およびジエン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である、前記ビニル系モノマーの重合への使用に関する。
【発明の効果】
【0022】
以上のとおり、本発明のビニル系モノマー重合用触媒組成物は、周期律表第10族の元素とホスフィンスルホニルイミド配位子を有する金属化合物を含む成分Aを含有するので、官能基を含有するモノマーを含む重合体を、比較的温和な条件下で生産性高く製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の金属化合物は下記式(I)で示され、本発明のビニル系モノマー重合用触媒組成物に含まれる成分Aは、下記式(I)で示される金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を含有し、該金属化合物はホスフィンスルホニルイミド配位子を有する。金属化合物の金属Mは周期律表第10族のニッケル、パラジウムまたは白金であり、特にパラジウムが好ましい。
【0024】
【化7】

【0025】
式(I)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表す。上記炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基等の直鎖、分枝鎖または環状の脂肪族炭化水素基が挙げられ、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基等が挙げられる。また、これらの基の置換基としては、上記の炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、上記の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ等のアリロキシ基、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、アセトキシ基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。また、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、アリロキシ基としてはフェノキシ基、ナフトキシ等が挙げられる。
【0026】
の好ましい例としてはメチル基が挙げられ、RおよびRの好ましい例としてはそれぞれ置換基を有してもよいフェニル基が挙げられ、R〜Rの好ましい例としてはそれぞれ水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基等が挙げられる。特に好ましくはR、RおよびRがともに置換基を有してもよいフェニル基である。
【0027】
本発明の別の金属化合物は下記式(II)で示され、本発明の別のビニル系モノマー重合用触媒組成物に含まれる成分Aは、下記式(II)で示される金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を含有し、該金属化合物はホスフィンスルホニルイミド配位子を有する。金属化合物の金属Mは周期律表第10族のニッケル、パラジウムまたは白金であり、特にパラジウムが好ましい。
【0028】
【化8】

【0029】
式(II)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表す。上記炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基等の直鎖、分枝鎖または環状の脂肪族炭化水素基が挙げられ、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基等が挙げられる。また、これらの基の置換基としては、上記の炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、上記の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ等のアリロキシ基、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、アセトキシ基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。また、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、アリロキシ基としてはフェノキシ基、ナフトキシ等が挙げられる。
【0030】
の好ましい例としてはメチル基が挙げられ、RおよびRの好ましい例としてはそれぞれ置換基を有してもよいフェニル基が挙げられ、R〜Rの好ましい例としてはそれぞれ水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基等が挙げられる。特に好ましくはR、RおよびRがともに置換基を有してもよいフェニル基である。
【0031】
Xは置換基を有しても良い炭素数2〜20の含窒素化合物を表す。Xの好ましい例としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン等が挙げられる。
【0032】
本発明のさらに別の金属化合物は下記式(III)で示され、本発明のさらに別のビニル系モノマー重合用触媒組成物に含まれる成分Aは、下記式(III)で示される金属化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を含有し、該金属化合物はホスフィンスルホニルイミド配位子を有する。金属化合物の金属Mは周期律表第10族のニッケル、パラジウムまたは白金であり、特にパラジウムが好ましい。
【0033】
【化9】

【0034】
式(III)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表す。上記炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基等の直鎖、分枝鎖または環状の脂肪族炭化水素基が挙げられ、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、フルオレニル基、アズレニル基等が挙げられる。また、これらの基の置換基としては、上記の炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、上記の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ等のアリロキシ基、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、アセトキシ基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。また、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられ、アリロキシ基としてはフェノキシ基、ナフトキシ等が挙げられる。
【0035】
の好ましい例としてはメチル基、1−アセトキシエチル基、1−アセトキシプロピル基、1−ピバロキシエチル基、1−ピバロキシプロピル基が挙げられ、RおよびRの好ましい例としてはそれぞれ置換基を有してもよいフェニル基が挙げられ、R〜Rの好ましい例としてはそれぞれ水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基等が挙げられる。特に好ましくはR、RおよびRがともに置換基を有してもよいフェニル基である。
【0036】
なお、式(I)、(II)または(III)において示される実線は、それぞれ共有結合、イオン結合および配位結合のいずれかを表す。
【0037】
本発明のビニル系モノマー重合用触媒組成物は、成分Aに式(I)、(II)または(III)で表される金属化合物を含有するが、もちろん、これらの金属化合物の2種以上を組み合わせた混合物として含有してもよい。
【0038】
式(I)、(II)または(III)で示される金属化合物を構成する置換基R〜RおよびXの好ましい組み合わせを下記表1に示す。例示したこれらの置換基R〜RおよびXはそれぞれ独立して適宜組み合わせ、式(I)、(II)または(III)で示される金属化合物とすることができる。
【0039】
【表1】

【0040】
式(I)、(II)または(III)で示される金属化合物の好ましい具体例としては、下記の構造で示される化合物が挙げられる。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【0041】
本発明の金属化合物の合成方法は特に制限されず、公知の方法により、またはそれらを適宜組み合わせることにより合成することができる。式(I)、(II)または(III)で示される金属化合物の代表的な合成方法を以下に示すが、本発明の金属化合物は以下の方法によるものに限定されない。
【0042】
【化20】

【0043】
本発明の金属化合物の合成方法は、まずアミン化合物(1)と置換または無置換のベンゼンスルホニルクロライド(2)を反応させ、対応するベンゼンスルホンアミド(3)とし、(3)にn−ブチルリチウム、さらにRPClを反応させて、対応するホスフィノベンゼンスルホンアミド(4)とする。(4)に水素化ナトリウム、さらにPdR1Cl(cod)を反応させ、第10族の元素がPdである、式(I)で表される化合物(5)または式(III)で表される化合物(6)を得る。さらに化合物(6)に上記Xを反応させ、第10族の元素がPdである式(II)で表される化合物(7)を得る。式(II)で表される化合物の具体例として上記金属化合物(iii)の合成経路を以下に示す。
【0044】
【化21】

【0045】
成分Bは、(a)原子番号3以上で、かつ周期律表第1、2、11、12および13族の元素から選ばれた少なくとも1種の元素、(b)置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基および/または置換基を有してもよい炭素数6〜40の芳香族炭化水素基、ならびに(c)過塩素酸基および/または四フッ化ホウ素基、からなる3つの群のうちの少なくとも2つの群からそれぞれ1種以上選ばれた、元素および/または基を有する化合物を少なくとも1種含む。原子番号3以上で、かつ周期律表第1、2、11、12および13族の元素は、具体的には1族(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)、2族(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、11族(Cu、Ag、Au、Uuu)、12族(Zn、Cd、Hg、Uub)、および13族(B、Al、Ga、In、Tl)で示される元素である。置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基および置換基を有してもよい炭素数6〜40の芳香族炭化水素基は、好ましくは上記のR〜Rで示した脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基である。
【0046】
成分Bに含まれる化合物としては、アルキルリチウム等の有機リチウム化合物、アルキルナトリウム、アルキルマグネシウム等の有機マグネシウム化合物、トリフルオロメタンスルホン酸塩、過塩素酸塩、四フッ化ホウ素塩、アルキル亜鉛等の有機亜鉛化合物、アルキルホウ素等の有機ホウ素化合物、ホウ酸塩、アルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物等が挙げられる。具体例としては、メチルリチウム、ブチルリチウム、フェニルリチウム、ブチルナトリウム、ブチルエチルマグネシウム、臭化メチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、臭化ブチルマグネシウム、臭化フェニルマグネシウム、塩化メチルマグネシウム、塩化エチルマグネシウム、塩化ブチルマグネシウム、塩化フェニルマグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸銀、ホウフッ化銀、過塩素酸銀、過塩素酸トリフェニルメチル、ジエチル亜鉛、トリスペンタフルオフェニルホウ素、トリス(トリフルオロメチル)ホウ素、テトラキスペンタフルオロフェニルホウ酸トリフェニルメチル、テトラキス[3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸トリフェニルメチル、テトラキス[3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム、テトラキス[3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ビス(ジエチルエーテル)、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシド、イソブチルアルミニウムイソプロポキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシド、エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシド、水素化ジイソプロピルアルミニウム、メチルアルミニウムビス(2,6−ジtert−ブチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6−ジtert−ブチル−4−メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6−ジtert−ブチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6−ジtert-ブチル−4−メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス{2−(N−フェニルイミノ)フェノキシド}、イソブチルアルミニウムビス{2−(N−フェニルイミノ)フェノキシド}、ジメチルアルミニウム{2−(N−フェニルイミノ)フェノキシド}、ジメチルアルミニウム(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)、ジメチルアルミニウム(N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジナート)、ジメチルガリウム(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)、ジメチルガリウム(N,N’−ジシクロヘキシルアセトアミジナート)、酸素原子や窒素原子を介して2個以上のアルミニウムが結合したアルミノキサン化合物等が挙げられる。中でもトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、アルミノキサン化合物等が好ましい。成分Bは、これらの化合物の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
本発明の重合用触媒組成物は通常のビニル系モノマーの重合に使用することができるが、特に官能基を含有するビニル系モノマーの重合に使用するのに適している。ビニル系モノマーに含まれる官能基としては、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アシロキシ基、アリールオキシ基、フェニル基、アリールカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0048】
本発明で用いるビニル系モノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸エステル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、n−プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、2−エチルへキサン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等のα−オレフィン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン誘導体、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ネオプレン等の共役ジエン誘導体が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の重合用触媒組成物を用いたビニル系モノマーの重合においては、上記のビニル系モノマーに、それ以外のモノマーとして一酸化炭素を共重合させることもできる。
【0050】
重合条件は特に限定されないが、ビニル系モノマーと不活性溶媒との混合溶液を用いるのが好ましい。この不活性溶媒は、重合を阻害しないものであればいかなる溶媒でも使用できるが、特に炭素数4〜20の脂肪族炭化水素、例えばイソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等、芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン等、炭素数1〜20のハロゲン化脂肪族炭化水素、例えばクロロホルム、塩化メチレン、四塩化水素、ジブロモエタン、テトラクロロエタン等、ハロゲン化芳香族炭化水素、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等、炭素数3〜20の脂肪族エステル、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸2−エチルへキシル、酢酸フェニル、ヘキサン酸エチル等、または芳香族エステル、例えば安息香酸メチル、安息香酸エチル等が適当である。
【0051】
上記ビニル系モノマーとしてビニルエステルを用い、単独重合またはエチレン、プロピレン等のα−オレフィン系モノマー等と共重合する場合、得られるポリビニルエステルまたはその共重合体は、常法に従って鹸化し、ポリビニルアルコールまたはその共重合体に変換してもよい。
【0052】
本発明の実施にあたり、成分Aはビニル系モノマーと不活性溶媒を含有する混合溶液1Lあたり、周期律表第10族の金属原子0.001〜2.5モルに相当する量で使用するのが好ましく、条件によりさらに高い濃度で使用することもできる。
【0053】
成分Bは、成分Aの種類等により適宜濃度を変更し得るが、ビニル系モノマーと不活性溶媒を含有する混合溶液1Lあたり、通常周期律表第1、2、11、12または13族の元素0.02〜50モルの濃度で使用する。触媒組成物の成分B/成分Aのモル比は特に限定されないが、通常0〜1000であり、好ましくは0〜500であり、より好ましくは0.1〜100である。
【0054】
本発明における重合操作は、通常の単一の重合条件で行う一段重合のみならず、複数の重合条件下で行う多段重合においても行うことができる。
【0055】
本発明における重合温度は特に限定されないが、通常−100℃〜150℃であり、好ましくは−30℃〜120℃である。
【実施例】
【0056】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、合成例、実施例および比較例に用いた測定方法は以下の通りである。
【0057】
(成分Aの同定)
核磁気共鳴装置(日本電子(株)製、JNM-ECP-500)を用い、H NMRおよび31P NMRを測定した。
(重合体の分子量)
カラム(東ソー(株)製、TSKgelGMHHR−MおよびTSKgelG2000HHR)および示差屈折率計(東ソー(株)製、RI−8020)を備えたゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製)により、40℃、テトラヒドロフラン溶媒中で、重合体の重量平均分子量(Mw)および分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕をポリスチレン換算で求めた。またポリエチレンについてはカラム((株)センシュー科学製、GPC3506およびShodex社製、UT-802.5)および示差屈折率計((株)センシュー科学製、SSC−7100)を備えたゲル浸透クロマトグラフ((株)センシュー科学製)により、120℃、o−ジクロロベンゼン溶媒中で重量平均分子量(Mw)および分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕をポリスチレン換算で求めた。
【0058】
実施例1
[成分Aの調製]金属化合物(i)の合成
【化22】

アルゴン置換したシュレンクフラスコに水素化ナトリウム(3.42 mmol)とテトラヒドロフラン(8 mL)を加え、ここに2-(ジフェニルホスフィノ)-N-フェニルベンゼンスルホンアミド(0.501 mmol)を加えて室温で4時間攪拌した。反応液をセライトでろ過し、ろ液を濃縮した後、アセトニトリル(8 mL)に溶解させ、この溶液に(cod)Pd(Me)Cl(0.502 mmol)を投入し室温で3時間撹拌した。反応溶液を濃縮し、塩化メチレン(8 mL)で抽出した。ここにヘキサン(30 mL)を滴下し標記の金属化合物(i)を得た(収量:117 mg、0.112 mmol、収率:43%)。
【0059】
1H NMR (CDCl3) 1.14 (d, 3H), 6.67-8.51 (m, 19H) ; 31P NMR (CDCl3) 29.2.
【0060】
実施例2
[成分Aの調製]金属化合物(iii)の合成
【化23】

アルゴン置換したシュレンクフラスコに水素化ナトリウム(8.08 mmol) とテトラヒドロフラン(25 mL)を加え、ここに2-(ジフェニルホスフィノ)-N-2,6−ジイソプロピルフェニルベンゼンスルホンアミド(1.00 mmol)を加えて室温で4時間攪拌した。反応液をセライトでろ過し、ろ液を濃縮した後、アセトニトリル(25 mL)に溶解させ、この溶液に(cod)Pd(Me)Cl(1.00 mmol)を投入し室温で1時間撹拌した。反応溶液を濃縮し、塩化メチレン(30 mL)で抽出した。塩化メチレン溶液を14 mLに濃縮し、アセトニトリル0.7 mLを加え、ここにヘキサン(60 mL)を滴下し標記の金属化合物(iii)を得た(収量:643 mg、 0.862 mmol、収率:86%)。
【0061】
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) 0.22 (d, 3H), 0.98 (br, 6H), 1.27 (d, 6H), 1.57 (s, 3H), 3.79 (br, 2H), 6.92-8.07 (m, 17H); 31P NMR (CD3CN) 28.2.
【0062】
実施例3
[成分Aの調製]金属化合物(vii)の合成
【化24】

アルゴン置換したオートクレーブに金属化合物(i)(2.00 mmol) と酢酸ビニル(100 mmol)を加えて100℃で3時間攪拌した。この反応溶液を濃縮した後、塩化メチレンとヘキサンとから再結晶して標記の金属化合物(vii)を得た(収率:55%)。
【0063】
1H NMR (CDCl3) 0.99 (d, 3H), 2.14 (s, 3H), 4.97 (q, 1H), 6.67-8.51 (m, 19H) ; 31P NMR (CDCl3) 29.0.
【0064】
実施例4
金属化合物(iii)を用いたエチレン/アクリル酸メチルの共重合
アルゴン置換した50 mLのオートクレーブに金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol) を装入し、アクリル酸メチル(2.5 mL)およびトルエン(2.5 mL) を加え室温で10分間攪拌した後、3.0Mpaのエチレンを導入し80℃で15時間撹拌した。15時間後、反応溶液を減圧下で濃縮し、エチレン/アクリル酸メチル共重合体を得た(収量:265 mg,エチレン含量;82%)。Mn = 2,500; Mw / Mn = 1.74。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例5
金属化合物(iii)を用いたアクリル酸メチルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらに室温でアクリル酸メチル(8.61 g, 100 mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリアクリル酸メチルを得た(収量:8.27 g, 収率:96.1 %)。Mn = 22,600 ; Mw / Mn = 3.12。結果を表2に示す。
【0067】
実施例6
金属化合物(iii)を用いたメタクリル酸メチルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらに室温でメタクリル酸メチル(10.0 g, 100 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリメタクリル酸メチルを得た(収量:5.66 g,収率:56.6 %)。Mn = 9,700 ; Mw / Mn = 2.63。結果を表2に示す。
【0068】
実施例7
金属化合物(iii)を用いたイソブチルビニルエーテルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらに室温でイソブチルビニルエーテル(10.0 g, 100 mmol) を加えて24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリイソブチルビニルエーテルを得た(収量:7.55 g, 収率:75.5 %)。Mn = 45,700 ; Mw / Mn = 3.77。結果を表2に示す。
【0069】
実施例8
金属化合物(iii)を用いた酢酸ビニルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらに酢酸ビニル(8.61 g, 100 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリ酢酸ビニルを得た(収量:2.53 g, 収率:29.4 %)。Mn = 10,800 ; Mw / Mn = 1.98。結果を表2に示す。
【0070】
実施例9
金属化合物(vii)を用いた酢酸ビニルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコに金属化合物(vii)(30.5 mg, 0.05 mmol)と酢酸ビニル(8.61 g, 100 mmol)を加えて60℃で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリ酢酸ビニルを得た(収量:861 mg, 収率:10.0 %)。Mn = 5,500; Mw / Mn = 1.98。結果を表2に示す。
【0071】
実施例10
金属化合物(iii)を用いたエチレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、そこにエチレンガス(1atm)を吹き込みながら室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を1M塩酸メタノール溶液100 mL中に投入し、ポリエチレンを得た(収量:1.02 g)。Mn = 30,500 ; Mw / Mn = 1.75。結果を表2に示す。
【0072】
実施例11
金属化合物(iii)を用いた1−ヘキセンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらに1−ヘキセン(8.42 g, 100 mmol)を加えて、室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリ(1−ヘキセン)を得た(収量:168 mg、収率:2.0%)。Mn = 620 ; Mw / Mn= 1.14。結果を表2に示す。
【0073】
実施例12
金属化合物(iii)を用いたスチレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらにスチレン(10.4 g, 100 mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリスチレンを得た(収量:8.32 g, 収率: 80.0 %)。Mn = 3,800 ; Mw / Mn = 2.41。結果を表2に示す。
【0074】
実施例13
金属化合物(iii)を用いたイソプレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、金属化合物(iii)(33.2 mg, 0.05 mmol)とメチルアルミノキサン(アルミニウム原子換算で2.00 mmol) を加え、さらにイソプレン(6.81 g, 100 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を0.1M塩酸水溶液100 mL中に投入し、クロロホルムで生成物を抽出し、ポリイソプレンを得た(収量:400 mg, 収率:7.0 %)。Mn = 2,200 ; Mw / Mn = 1.58。結果を表2に示す。
【0075】
比較例1
ラジカル重合開始剤を用いたエチレン/アクリル酸メチルの重合
アルゴン置換した50 mLオートクレーブに2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4−ジメチルバレロニトリル)[和光純薬工業(株)製V-70 ](15.4 mg, 0.05 mmol) を挿入し、アクリル酸メチル(2.5 mL)、トルエン(2.5mL) を加え室温で10分間攪拌した後、3.0Mpaのエチレンを導入し80℃で15時間撹拌した。15時間後、反応溶液反応溶液を減圧下で濃縮し、エチレン/アクリル酸メチル共重合体を得た (収量:213 mg)。Mn = 38,000 ; Mw / Mn = 2.25。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
比較例2
ラジカル重合開始剤を用いたアクリル酸メチルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4−ジメチルバレロニトリル)[和光純薬工業(株)製V-70 ](15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらに室温でアクリル酸メチル(8.61 g,100 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮し、ポリアクリル酸メチルを得た(収量:1.13 g, 収率: 13.2 %)。Mn = 47,000 ; Mw / Mn = 2.15。結果を表3に示す。
【0078】
比較例3
ラジカル重合開始剤を用いたメタクリル酸メチルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらに室温でメタクリル酸メチル(10.0 g, 100 mmol) を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮し、ポリメタクリル酸メチルを得た(収量:1.08 g, 収率:10.8 %)。Mn = 31,700 ; Mw / Mn = 2.01。結果を表3に示す。
【0079】
比較例4
ラジカル重合開始剤を用いたイソブチルビニルエーテルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらに室温でイソブチルビニルエーテル(10.0 g, 100 mmol) を加えて24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮したがポリマーは得られなかった。結果を表3に示す。
【0080】
比較例5
ラジカル重合開始剤を用いた酢酸ビニルの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらに酢酸ビニル(8.61 g, 100 mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮し、ポリ酢酸ビニルを得た(収量:577 mg, 収率:6.7 %)。Mn = 22,400 ; Mw / Mn = 1.92。結果を表3に示す。
【0081】
比較例6
ラジカル重合開始剤を用いたエチレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、そこにエチレンガス(1atm)を吹き込みながら室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮したがポリマーは得られなかった。結果を表3に示す。
【0082】
比較例7
ラジカル重合開始剤を用いた1−ヘキセンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらに1−ヘキセン(8.42 g, 100 mmol)を加えて、室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮したが、ポリマーは得られなかった。結果を表3に示す。
【0083】
比較例8
ラジカル重合開始剤を用いたスチレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにトルエン(10 mL)を装入し、和光純薬製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらにスチレン(10.4 g, 100 mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮しポリスチレンを得た(収量:1.30 g, 収率:12.5%)。Mn = 12,300 ; Mw / Mn = 2.01。結果を表3に示す。
【0084】
比較例9
ラジカル重合開始剤を用いたイソプレンの重合
アルゴン置換した100 mLのシュレンクフラスコにクロロホルム(1mL)を装入し、和光純薬工業(株)製V-70 (15.4 mg, 0.05 mmol) を加え、さらにイソプレン(6.81 g, 100 mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。24時間後、反応溶液を濃縮し、ポリイソプレンを得た(収量:197 mg, 収率:2.9 %)。Mn = 1,000 ; Mw / Mn = 1.60。結果を表3に示す。
【0085】
実施例4と比較例1、実施例5と比較例2、実施例6と比較例3、実施例7と比較例4、実施例8および9と比較例5、実施例10と比較例6、実施例11と比較例7、実施例12と比較例8、および実施例13と比較例9との比較から明らかなように、本発明の重合用触媒組成物を用いた方が得られるポリマーの収率が高く、生産性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式(I)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物。
【請求項2】
下記式(II):
【化2】

(式(II)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Xは置換基を有しても良い炭素数2〜20の含窒素化合物を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物。
【請求項3】
下記式(III):
【化3】

(式(III)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物。
【請求項4】
ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(I):
【化4】

(式(I)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物。
【請求項5】
ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(II):
【化5】

(式(II)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Xは置換基を有しても良い炭素数2〜20の含窒素化合物を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物。
【請求項6】
ビニル系モノマー重合用触媒組成物であって、下記式(III):
【化6】

(式(III)中、R〜Rはそれぞれ、水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基を表し、Mは周期律表第10族の元素を表す。)で示される金属化合物の少なくとも1種を含む成分Aを含有する、前記重合用触媒組成物。
【請求項7】
(a)原子番号3以上で、かつ周期律表第1、2、11、12および13族の元素から選ばれた少なくとも1種の元素、(b)置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基および/または置換基を有してもよい炭素数6〜40の芳香族炭化水素基、ならびに(c)過塩素酸基および/または四フッ化ホウ素基、からなる3つの群のうちの少なくとも2つの群からそれぞれ1種以上選ばれた、元素および/または基を有する化合物の少なくとも1種を含む成分Bをさらに含有する、請求項4〜6のいずれかに記載の重合用触媒組成物。
【請求項8】
式中のMがパラジウムである、請求項4〜6のいずれかに記載の重合用触媒組成物。
【請求項9】
式中のRがメチル基であり、RおよびRがそれぞれ置換基を有してもよいフェニル基であり、R〜Rがそれぞれ水素、置換基を有してもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、アルコキシ基またはアリロキシ基である、請求項4〜6のいずれかに記載の重合用触媒組成物。
【請求項10】
式中のXが、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ピリジン、ピコリンまたは2,6−ルチジンである、請求項5に記載の重合用触媒組成物。
【請求項11】
成分Bが有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、トリフルオロメタンスルホン酸塩、過塩素酸塩、有機亜鉛化合物、有機ホウ素化合物、ホウ酸塩および有機アルミニウム化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項7に記載の重合用触媒組成物。
【請求項12】
請求項4〜11のいずれかに記載の重合用触媒組成物の、ビニル系モノマーの重合への使用。
【請求項13】
ビニル系モノマーが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルエーテル、ビニルエステル、エチレン、α-オレフィン、スチレン誘導体およびジエン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項12に記載のビニル系モノマーの重合への使用。

【公開番号】特開2007−332086(P2007−332086A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167158(P2006−167158)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】