説明

金属含有炭化物およびその製造方法

【課題】本発明は、安価な上に、固体高分子形燃料電池の電極触媒に用いたとき、白金含有触媒と同程度の触媒活性を示す金属含有炭化物を提供することを目的とする。また、本発明では、当該金属含有炭化物を製造するための新規な製造方法を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属含有炭化物の製造方法は、金属を含有する有機化合物を二段階で炭化処理するものであり;一段階目の炭化処理の温度を150〜500℃とし;且つ、二段階目の炭化処理の温度を600〜1200℃とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有炭化物の製造方法、および当該方法で製造される金属含有炭化物に関するものである。また、本発明は、当該金属含有炭化物を用いた電極、酸素還元電極、および固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、環境に調和した高効率な発電システムとして注目を集めている。特に固体高分子電解質膜を電解質として使用する固体高分子電解質形燃料電池は、常温での作動が可能であり、かつ高出力密度であるため、排気ガスフリーの電気自動車用電源、家庭用電熱併給システムの電源等として幅広い実用化が期待されている。
【0003】
このような燃料電池の実用化と普及のためには、低コスト化が大きな課題となっている。しかし、既存の固体高分子電解質形燃料電池では、一般に電極触媒の成分に高価な白金を含む。よって、固体高分子電解質形燃料電池の低コスト化のためには、白金使用量を低減する工夫が求められる。また白金の埋蔵量や生産量にも限りがあり、将来的に普及が進んだ場合には、白金価格が高騰することも予想される。そこで、白金を用いない安価な電極触媒材料の開発が課題となっている。
【0004】
白金を用いない有望な酸素還元電極触媒材料の一つに、資源的に豊富な鉄などを利用した触媒が挙げられる。この触媒は、鉄などの金属イオンが炭素材料表面に窒素原子を介して結合した構造を有し、この部分が触媒の活性点として機能する。かかる触媒は、これまで下記の方法により製造できることが報告されている。
【0005】
1. ポルフィリン、フタロシアニンなど、窒素原子を介して鉄イオンが配位している鉄錯体を炭素材料上に担持し、不活性雰囲気下で熱処理する方法(非特許文献1)。
2. ポリピロールやポリアクリロニトリルなど窒素原子を含有する高分子と鉄塩とを混合し、不活性雰囲気下で熱処理する方法(非特許文献2)。
3. 炭素材料に担持した鉄塩を、アンモニアやアセトニトリルなどの窒素含有ガス中で熱処理する方法(非特許文献3)。
4. 窒素原子を含有する炭素材料の表面に鉄塩を担持した後、不活性雰囲気下で熱処理する方法(非特許文献4)。
【非特許文献1】A.van der Puttenら,ジャーナル・オブ・エレクトロアナリティカル・ケミストリー(J.Electroanal.Chem),第205号,第233〜244頁(1986年)
【非特許文献2】S.Guptaら,ジャーナル・オブ・アプライド・エレクトロケミストリー(J.Appl.Electrochem),第19号,第19〜27頁(1989年)
【非特許文献3】G.Lalandeら,エレクトロシミカ・アクタ(Electrochim.Acta),第42号,第1379〜1388頁(1987年)
【非特許文献4】M.Lefevreら,ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(J.Phys.Chem),第106号,第8705〜8713頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した様に、高価な白金含有触媒に代えて、鉄等を含む炭素材料を固体高分子形燃料電池の触媒として用いようとする試みはあった。
【0007】
しかし、上記の従来方法で製造された触媒は、白金を材料として含む炭素材料に比べて性能が劣ることは否めないものである。
【0008】
そこで、本発明が解決すべき課題は、安価な上に、固体高分子形燃料電池の電極触媒に用いたとき、白金含有触媒と同様の優れた触媒活性を示す金属含有炭化物を提供することにある。また、本発明では、当該金属含有炭化物を製造するための新規な製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、金属を含有する有機化合物を、比較的低温と高温での二段階で炭化処理することによって、白金含有触媒に匹敵するほど触媒活性に優れた金属含有炭化物を、低コストで且つ収率良く製造できることを見出して本発明を完成した。
【0010】
本発明に係る金属含有炭化物の製造方法は、
金属を含有する有機化合物を二段階で炭化処理するものであり;
一段階目の炭化処理の温度を150〜500℃とし;且つ
二段階目の炭化処理の温度を600〜1200℃とすることを特徴とする。
【0011】
上記製造方法においては、二段階目の炭化処理を賦活剤の存在下で行うことが好ましい。触媒性能の高い炭化物を、より効率的に製造できるからである。特に、炭化物の細孔を発達させ、表面積を高められる。本発明方法で使用できる賦活剤としては、二酸化炭素、水蒸気、空気、酸素、アルカリ金属水酸化物、塩化亜鉛、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を例示することができる。
【0012】
本発明の金属含有炭化物は、上記本発明方法により製造されることを特徴とする。本発明の金属含有炭化物としては、2価鉄イオンを含むもの、および鉄−窒素結合を有するものが好適である。それぞれ、触媒活性に優れるからである。
【0013】
本発明の電極および酸素還元電極は、本発明の金属含有炭化物を含むことを特徴とする。また、本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の酸素還元電極を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法を用いることで、固体高分子形燃料電池の電極用触媒として、白金含有触媒に匹敵するほど高い酸素還元性能を有する触媒を、低コストで収率良く製造することが可能になる。なお、本発明方法で製造された金属含有炭化物は、特にアルカリ環境下で高い触媒性能を発揮することができるので、例えばアニオン交換型高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池において、高い酸素還元性能を発揮できるものである。従って、本発明の金属含有炭化物を用いた電極、酸素還元電極、および固体高分子形燃料電池は、安価で且つ発電性能に優れるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る金属含有炭化物の製造方法は、
金属を含有する有機化合物を二段階で炭化処理するものであり;
一段階目の炭化処理の温度を150〜500℃とし;且つ
二段階目の炭化処理の温度を600〜1200℃とすることを特徴とする。
以下、実際の実施の順番に従って、本発明方法を説明する。
【0016】
本発明で使用する「金属を含有する有機化合物」の種類は特に制限されず、例えば、天然有機化合物、合成有機化合物、低分子量化合物、高分子量化合物、タンパク質、酵素、芳香族有機化合物など特に制限されない。具体的には、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリン、ポルフィリン構造を有する化合物、コバラミンなどの天然由来の金属含有有機化合物;ヘモグロビン、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ヒドロゲナーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼなどの金属含有タンパク質などを例示することができる。
【0017】
本発明の「金属を含有する有機化合物」は、金属を含む。当該金属は、触媒能を有するものであり、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、クロムからなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。好ましくは、鉄、銅、コバルト、またはニッケルを用いる。金属を含有する有機化合物において、基本骨格と金属との結合種は特に制限されないが、例えば配位結合や静電結合などとすることができ、特に制限されない。
【0018】
本発明方法は、金属を含有する有機化合物を二段階で炭化処理することを特徴とし、第一炭化処理では、炭化処理温度を比較的低温である150〜500℃とする。
【0019】
より具体的には、比較的低温での第一炭化処理を行うことで、金属含有炭化物中の金属を、より活性が高い状態で安定化することができる。例えば鉄イオンを、2価の状態で含むものとすることができる。その結果、高い酸素還元性能を有する金属含有炭化物の製造が可能になった。一方、比較的低温での第一炭化処理を行うことなく、一段階で高温度での炭化処理を行うと、得られる金属含有炭化物中の金属イオンは活性が高い状態を保つことができない。例えば、鉄イオンは、2価よりも活性の低い3価となってしまう。結果として、優れた酸素還元性能を有する金属含有炭化物は得られない。
【0020】
さらに、第一炭化処理を行うことで、続く第二化処理における処理温度を上げることができ、炭素構造の規則性がより高められた金属含有炭化物を得ることが可能になる。その結果、金属含有炭化物の導電性が向上し、高い酸素還元性能が得られ、また、触媒としての耐久性も向上する。一方、比較的低温での第一炭化処理を行うことなく、一段階で高温度での炭化処理を行う場合、金属含有炭化物の収率は著しく低減するため、炭化温度を上げることができない。
【0021】
第一炭化処理温度を150℃以上とするのは、処理温度が150℃未満であると炭化が進まず、適切な第一炭化物が得られない場合があるからである。一方、500℃を超えると炭化が過剰に進み、適切な第一炭化物が得られない場合があることに加え、収率が低下するおそれがある。より好ましくは、当該処理温度を200℃以上、450℃以下とし、さらに好ましくは300℃以上、400℃以下とする。
【0022】
炭化処理は、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。本発明で用いる不活性雰囲気は、窒素ガスや希ガス雰囲気下などのガス雰囲気をいう。なお、酸素が含まれていたとしても、被処理物を燃焼させない程度まで酸素量を制限した雰囲気であれば、本発明に係る金属含有炭化物を製造することができる。当該雰囲気は、閉鎖系または新たなガスを流通させる流通系の何れであってもよく、好ましくは流通系とする。流通系とする場合には、被処理物1グラム当たり0.01〜0.1リットル/分のガスを流通させることが好ましい。
【0023】
第一炭化処理においては、金属含有有機化合物を150℃〜500℃に1〜20時間保持することが好ましく、さらに好ましくは5〜15時間程度保持する。1時間以上であれば、第一炭化処理の目的を達することができ、均一な予備炭化物が得られる。一方、20時間を超えて炭化処理しても、処理時間に相応する効果は得られず不経済である。
【0024】
当該第一炭化処理は、金属含有有機化合物を炭化装置等に挿入した後に常温から所定温度まで昇温してもよいし、或いは、所定温度の炭化装置等へ金属含有有機化合物を挿入してもよい。好適には、常温から所定温度まで昇温するのがよい。常温から所定温度まで昇温する場合には、昇温温度を一定にすることが好ましい。
【0025】
第一炭化処理の終了後は、そのまま温度を上げて第二炭化処理を行ってもよい。しかし好適には、一旦室温まで冷却した後に温度を上げ、第二炭化処理を行う。また、第一炭化処理後に予備炭化物を室温まで冷却した際には、均一に粉砕してもよいし、さらに成形してもよい。
【0026】
本発明方法では、前述した第一炭化処理に引き続いて、第二炭化処理を行う。第二炭化処理の温度は600℃〜1200℃とし、好ましくは800℃以上、1200℃以下、さらに好ましくは850℃以上、1100℃以下とする。当該温度を600℃以上にすることによって、十分に炭化が進んで高い触媒性能を有する金属含有炭化物が得られる。一方、1200℃超で炭化処理すると炭化物の収率が著しく低減し、炭化物が収率よく製造できない場合がある。
【0027】
第二炭化処理においては、被処理物を600℃〜1200℃で、通常30分〜5時間保持し、より好ましくは1時間〜3時間保持する。30分以上炭化処理を行えば、炭化が均一に十分進行する。一方、5時間を超えて炭化処理しても処理時間に相応する効果は得られず、不経済である。
【0028】
第二炭化処理は、第一炭化処理と同様に不活性雰囲気下で行うことが好ましく、また流通系で行うことが好ましい。流通系とする場合には、被処理物1g当たり0.01〜0.1L/分のガスを流通させることが好ましい。
【0029】
但し、第二炭化処理は、賦活剤の存在下で行うことが好ましい。賦活剤の存在下、高温で炭化処理することにより、金属含有炭化物の細孔が発達して表面積が増大し、当該金属含有炭化物の表面における金属の露出度が向上することにより、触媒としての性能が向上する。なお、炭化物の表面積は、N2吸着量により測定することができる。
【0030】
本発明方法で使用できる賦活剤は、特に制限されないが、例えば、二酸化炭素、水蒸気、空気、酸素、アルカリ金属水酸化物、塩化亜鉛、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができ、さらに好ましくは、二酸化炭素、水蒸気、空気、酸素からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。二酸化炭素や水蒸気などの気体賦活剤は、第二炭化処理の雰囲気中に2〜80モル%、好ましくは10〜60モル%含有させればよい。2モル%以上であれば十分な賦活効果が得られる一方で、80モル%を超える場合には賦活効果が顕著になり炭化物の収率が著しく低減し、効率よく炭化物を製造することができなくなるおそれがある。また、アルカリ金属水酸化物等の固体賦活剤は、固体の状態で被炭化物と混合してもよく、或いは、水等の溶媒で溶解または希釈した後、被炭化物を含浸するか、或いはスラリー状にして被炭化物に練り込んでもよい。液体賦活剤は、水等で希釈した後、被炭化物を含浸するか或いは被炭化物に練り込めばよい。
【0031】
本発明に係る金属含有炭化物の製造方法の具体的な例を以下に示す。
(1)金属含有有機化合物を不活性ガスの存在下に室温から150℃〜500℃まで昇温し、所定時間保持した後、次いで600〜1200℃まで昇温し、所定時間保持する方法
(2)金属含有有機化合物を不活性ガスの存在下に室温から150℃〜500℃までに昇温し所定時間保持する。次いで、室温まで冷却した上で粉砕する。次に、所定時間保持した後、600〜1200℃まで昇温し、所定時間保持する方法
なお、後炭化処理に際しては、賦活剤を系内に添加することが好ましい。
【0032】
本発明方法で製造した金属含有炭化物は、特に固体高分子形燃料電池の電極に用いる触媒として、極めて優れた性質を有する。
【0033】
本発明の金属含有炭化物としては、2価鉄イオンを含むものが好適である。3価鉄イオンの触媒活性は比較的低く、従来の触媒は、固体高分子形燃料電池の電極触媒としては十分ではなかった。しかし、本発明方法で製造された金属含有炭化物は2価鉄イオンを含み、固体高分子形燃料電池の電極触媒として極めて優れている。2価鉄イオンの含有量は、メスバウア分光法により測定することができる。
【0034】
当該金属含有炭化物は、鉄−窒素結合を有するものが好ましい。窒素原子の孤立電子対に配位した鉄原子は比較的安定であり、且つ良好な触媒活性を発揮することができる。鉄−窒素結合は、メスバウア分光測定や広域X線吸収微細構造(EXAFS)により測定することができる。
【0035】
本発明の金属含有炭化物は、触媒活性が高い上に優れた導電性を有することから、電極、特に酸素還元電極の材料として極めて優れる。本発明の電極は、特にアニオン交換型高分子電解質を用いた燃料電池において、白金触媒を用いた電極に匹敵するほどの高い酸素還元性能を示すことから、空気極の電極として特に有用である。
【0036】
本発明に係る電極は、本発明の金属含有炭化物の他に、イオン伝導性物質を含有する。カチオン交換型高分子電解質を用いた燃料電池の場合、イオン伝導性物質は、触媒反応により燃料から生じたプロトンを高分子電解質膜へ、さらに高分子電解質膜から正極触媒へ送達する役割を有する。例えば、ナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成(株)製)、フレミオン(旭硝子(株)製)などのスルホン酸基を有するフッ素樹脂や、タングステン酸、リンタングステン酸などの無機物などを、イオン伝導性物質として使用することができる。
【0037】
アニオン交換型高分子電解質を用いた燃料電池の場合、イオン伝導性物質は、触媒反応により酸素から生じた水酸化物イオンを高分子電解質膜へ、さらに高分子電解質膜から負極触媒へ送達する役割を担っている。例えば、芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸の共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られるアニオン交換樹脂や、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマーの末端をジアミンで処理して4級化したポリマーなどを、イオン伝導性物質として使用することができる。
【0038】
本発明の電極組成物におけるイオン伝導性物質の割合については、電極としたときに必要なプロトン伝導性やアニオン伝導性が得られるように適宜決定すればよい。例えば、金属含有炭化物100質量部に対してイオン伝導性物質を10〜400質量部の割合で適宜配合すればよい。
【0039】
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、上記電極を含む。
【0040】
本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の金属含有炭化物を用いて、常法により製造することができる。固体高分子型燃料電池の電極(アノードとカソード)は、高分子電解質膜側の触媒層と、その外側のガス拡散層からなる。このガス拡散層としては、優れたガス透過性と導電性を有するものとして、厚さ100〜300μm程度のカーボンペーパーやカーボンクロスが用いられる。これらカーボンペーパー等は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などで撥水処理を施してもよい。よって、本発明の電極組成物により電極を形成する場合には、本発明の金属含有炭化物およびイオン伝導性物質へ、必要に応じて撥水材やバインダーなどを加え、水やイソプロピルアルコールなどの有機溶媒と均一混合してペーストを調製し、これをカーボンペーパーなどのガス拡散層に塗布後、乾燥することによって、電極を形成することができる。
【0041】
得られたアノードとカソードは、高分子電解質膜を間に挟んでホットプレスすることによって、膜電極接合体とすることができる。この際、各電極において、触媒層が高分子電解質膜に接する様に配置する必要がある。また、ホットプレスにおける圧力や温度は、常法の条件に従えばよい。
【0042】
得られた膜電極接合体は、セパレータなどと共に、常法に従って固体高分子型燃料電池とすることができる。こうして得られた本発明の固体高分子型燃料電池は、高性能の電極触媒を有することから発電性能に極めて優れる。よって、本発明の固体高分子型燃料電池は、携帯機器や自動車用の電源、或いは家庭用の発電システムなどに適するものである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
触媒調製例1
金属を含有する有機化合物であるヘモグロビン(16g)を真空ガス置換炉(デンケン社製、製品名:KDF−75)に入れ、不活性ガスであるアルゴン気流下、昇温速度:5℃/分で350℃まで昇温し、350℃で10時間保持して第一炭化処理を行った。その後、室温まで冷却し、得られた第一炭化物を粉砕した。さらに、CO2を10%含有するアルゴン気流下、当該第一炭化物を昇温速度5℃/分で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して第二炭化処理を行った。次いで、室温まで冷却後、第二炭化物を粉砕した。得られた炭化物粉体を0.5mol/リットルの硫酸水溶液中で1時間煮沸後、超純水で十分に洗浄した。次いで、炭化物を濾別し、真空乾燥することによって、金属成分を含有する炭化物材料Aを得た。
【0045】
触媒調製例2
第二炭化処理におけるCO2濃度を25%と変更した以外は、触媒調製例1と同様にして、金属成分を含有する炭化物材料Bを調製した。
【0046】
触媒調製例3
第二炭化処理におけるCO2濃度を50%と変更した以外は、触媒調製例1と同様にして、金属成分を含有する炭化物材料Cを調製した。
【0047】
触媒調製例4
第二炭化処理におけるCO2濃度を75%と変更した以外は、触媒調製例1と同様にして、金属成分を含有する炭化物材料Dを調製した。
【0048】
触媒調製例5
第二炭化処理において、CO2を用いなかった以外は、触媒調製例1と同様にして、金属成分を含有する炭化物材料Eを調製した。
【0049】
触媒調製例6
金属を含有する有機化合物であるヘモグロビン(16g)を真空ガス置換炉(デンケン社製、製品名:KDF−75)に入れ、不活性ガスであるアルゴン気流下、昇温速度:5℃/分で850℃まで昇温し、850℃で2時間保持して炭化処理を行った。次いで、室温まで冷却し、得られた炭化物を粉砕した。得られた炭化物粉体を0.5mol/リットルの硫酸水溶液中で1時間煮沸後、超純水で十分に洗浄した。次いで、炭化物を濾別し、真空乾燥することによって、金属成分を含有する炭化物材料Fを得た。
【0050】
触媒調製例7
炭化処理温度を825℃と変更した以外は、触媒調製例6と同様にして、金属成分を含有する炭化物材料Gを調製した。
【0051】
上記触媒調製例1〜7で得られた金属成分を含有する炭化物材料について、炭化処理前後の質量変化から収率を求めた。また、N2吸着量測定結果より、比表面積を算出した。これらを表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
比較的低温での第一炭化処理を行わず、かつ、賦活剤を用いずアルゴン気流下で高温での炭化処理を行った場合、炭化温度を850℃とした触媒調製例6では、収率が1.9%と極めて低かった。そこで、触媒調製例7では炭化温度を825℃としたところ、11.5%の収率で炭化物を得ることができた。上記結果より、比較的低温での第一炭化処理を行わずに一段で炭化処理を行うと、850℃以上では収率良く炭化物が得られないことがわかる。
【0054】
一方、アルゴン気流下、350℃で第一炭化処理を行い、二段階で炭化処理を行った場合、アルゴン気流下、二段階目の炭化処理で温度を900℃とした触媒調製例5では、収率は17.5%と高かった。しかし、得られた炭化物材料Eでは、細孔発達が不十分であり、比表面積は139m2/gと低いものとなった。
【0055】
二段階目の高温炭化処理を賦活剤であるCO2存在下で行った触媒調製例1〜4では、賦活により収率は低下傾向にあるが、比表面積は賦活剤を用いない触媒調製例5と比較して大幅に増加した。
【0056】
試験例1 酸性環境下での酸素還元性能
触媒調製例1〜5および7で得た炭化物材料A〜EおよびGを用いて作成した触媒層の酸素還元反応に対する活性評価を、回転電極法に準拠して行った。回転電極法は、例えば、“ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサイアティー、第145巻、1998年、第3713頁”や、“ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサイアティー、第146巻、1999年、第1296頁”等において、固体高分子電解質形燃料電池の電極触媒活性の評価に有効であり、かつ、燃料電池性能と良好な相関性があることが報告されている。
【0057】
詳しくは、触媒調製例1〜5および7で得た炭化物材料A〜EおよびGと、カーボンブラック(キャボット社製、 商標名:Vulcan XC−72R)を、5重量%パーフルオロスルホン酸樹脂溶液(アルドリッチ社製)に加え、超音波により分散させて触媒ペーストを調製した。当該触媒ペーストを回転グラッシーカーボンディスク電極に塗布し、室温で十分に乾燥させて電極触媒層を形成した。触媒層を形成した回転電極を、酸素で飽和した25℃の0.1mol/リットル過塩素酸水溶液中に浸漬し、可逆水素電極(RHE)を参照極として酸素還元電流と電極電位との関係を測定した。測定結果を図1に示す。
【0058】
図1の通り、二段階で炭化処理した炭化物材料Eでは、一段階で炭化処理して製造した炭化物材料Gと比較して、酸素還元能が向上した。そしてさらに、二段階の炭化処理を行い、且つ高温での二段階目の炭化処理においてCO2ガスを共存させて製造した炭化物材料A〜Dの酸素還元性能は、大幅に優れることがわかった。これら炭化物材料が優れた酸素還元能を有するのは、二段階の炭化により2価の鉄イオンを含むためと考えられる。また、炭化物材料A〜Dの酸素還元性能が優れるのは、高温での炭化処理の際に賦活剤を用いたことにより、細孔が発達して表面積が高まったことによると考えられる。
【0059】
試験例2 アルカリ環境下での酸素還元性能
触媒調製例2、4および5で得た炭化物材料B、DおよびEを用いて触媒層を形成し、アルカリ環境下での酸素還元反応に対する活性を評価した。加えて、市販のPt系触媒(Electrochem社製、商標名:Vulcan XC−72)を、Pt担持量:20質量%でカーボンブラック(キャボット社製)に担持したもの、およびAg系触媒(E−TEK社製、商標名:Vulcan XC−72)を、Ag担持量:60質量%でカーボンブラック(キャボット社製)に担持したものについても、同様に酸素還元反応に対する活性を評価した。
【0060】
具体的には、炭化物材料とカーボンブラック(キャボット社製、商標名:Vulcan XC−72R)を、2.5重量%アニオン交換樹脂溶液に加え、超音波により分散させて触媒ペーストを調製した。当該触媒ペーストを回転グラッシーカーボンディスク電極に塗布し、室温で十分に乾燥させて電極触媒層を形成した。触媒層を形成した回転電極を、酸素で飽和した25℃の1mol/リットル水酸化カリウム水溶液中に浸漬し、可逆水素電極(RHE) を参照極として酸素還元電流と電極電位との関係を測定した。なお、市販のPt系、Ag系触媒を用いた触媒層形成では、カーボンブラック(キャボット社製、商標名:Vulcan XC−72R)を加えなかった以外は、上記と同様にして触媒層を形成した。測定結果を図2に示す。
【0061】
図2の通り、二段階の炭化処理を行い、且つ高温での二段階目の炭化処理においてCO2ガスを共存させて製造した炭化物材料BとDの酸素還元性能は、二段階で炭化処理はしたが賦活剤を用いなかった炭化物材料Eよりも、大幅に優れることがわかった。また、その触媒性能は、市販のAg系触媒よりも高く、Pt系触媒の性能に匹敵するものであった。
【0062】
以上の結果より、本発明に係る炭化物材料は、酸素還元反応に対して優れた活性を有しており、特にアルカリ環境下での使用においては、Pt担持カーボンブラック触媒に匹敵する活性を発揮することが可能である。従って、本発明に係る炭化物材料は、アニオン交換膜を電解質膜とする固体アルカリ形燃料電池での正極触媒として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る金属含有炭化物は、特異的な物性を有することで触媒として作用し、特に固体高分子形燃料電池の電極触媒として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は試験例1の結果を示すものであり、横軸は触媒層の酸素還元活性の指標となる電流値Ikの対数値であり、縦軸は電極電位である。
【図2】図2は試験例2の結果を示すものであり、横軸は触媒層の酸素還元活性の指標となる電流値Ikの対数値であり、縦軸は電極電位である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有炭化物を製造する方法であって、
金属を含有する有機化合物を二段階で炭化処理するものであり;
一段階目の炭化処理の温度を150〜500℃とし;且つ
二段階目の炭化処理の温度を600〜1200℃とすることを特徴とする方法。
【請求項2】
二段階目の炭化処理を、賦活剤の存在下で行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
賦活剤として、二酸化炭素、水蒸気、空気、酸素、アルカリ金属水酸化物、塩化亜鉛、およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により得られることを特徴とする金属含有炭化物。
【請求項5】
2価鉄イオンを含む請求項4に記載の金属含有炭化物。
【請求項6】
鉄−窒素結合を有する請求項4または5に記載の金属含有炭化物。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか1項に記載の金属含有炭化物を含むことを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項4〜6の何れか1項に記載の金属含有炭化物を含むことを特徴とする酸素還元電極。
【請求項9】
請求項8に記載の酸素還元電極を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222486(P2008−222486A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62275(P2007−62275)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月14日 社団法人 電気化学会発行の「2006年 電気化学秋季大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】