説明

金属基材からの高温用フィルムおよび/またはデバイスの剥離方法

(i)金属基材にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、(ii)このコーティングした金属基材をポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、(iii)この金属基材上の硬化したコーティングに、高分子フィルムを適用する工程と、(iv)このコーティングした金属基材を、高分子フィルムの硬化に十分な温度にさらに加熱する工程と、(v)高分子フィルム上に電子デバイスを作製する任意の工程と、(vi)金属基材から高分子フィルムを剥離する工程とによって、金属基材からフィルムおよび電子デバイスを剥離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用高分子フィルムおよび/またはそのフィルム上のデバイスを、金属または他の基材から容易に剥離するための方法を対象とする。1つの特定の用途では、ポリイミドフィルムをステンレス鋼の箔から剥離する。金などの貴金属フィルムも、金属基材から剥離することができる。
【背景技術】
【0002】
従来の光起電力装置(PVセル) の製造、ならびにディスプレイおよび他の光電子デバイスの製造には、非常に多くの高温プロセスが必要とされる。そのような一般的デバイスのほとんどは、ガラス基材上に組み立てられている。しかし、フレキシブルな光起電力デバイスにおける最近の進歩には、ステンレス鋼などの金属基材を、大きな領域上にフレキシブルな太陽電池素子を効率よく製造するために利用することが含まれる。これらの光起電力デバイスは、ガラス基材上に組み立てられた従来の硬質のセルの代替として非常に多くの地上用途に使用されている。同様に、フレキシブルなディスプレイが、ステンレス鋼の基材上に製造され始めた。薄膜電池などの他の技術も、ステンレス鋼基材上で開発され得る。ステンレス鋼などの金属基材には、非常に多くの利点がある。金属基材は、最低25μmまでの様々な厚さのロールとして商業的に入手可能であり、したがってバッチ式より通常費用効率が高い連続式で加工することができる。これらの金属基材は、デバイス製造に必要とされる高い加工温度の間、最小限の変化で寸法安定性を維持することができる。金属基材は磁気を帯びさせることができ、したがって磁界により可能となる連続加工に適している。オプトエレクトロニクス、エネルギー、および他の分野におけるステンレス鋼基材の使用に関しては、以下の刊行物を参照し得る。(i) Cannella等、「Flexible Stainless-Steel Substrates」 Information Display 2005年6月、24頁、(ii) Kessler等、「Monolithically Integrated Cu(IN, Ga)Se2 Thin-Film Solar Modules on Flexible Polymer and Metal Foils」、第19回European Photovoltaic Solar Energy Conference、2004年6月7日〜11日、Paris、France、1702頁、(iii) Baojie、Y.等、「High Efficiency Triple-Junction Solar Cells with Hydrogenated Nanocrystalline Silicon Bottom Cell」、Conference Record of the IEEE Photovoltaic Specialists Conference (2005年)、31st、1456〜1459頁、および(iv) Beernink等、「Ultralight amorphous silicon alloy photovoltaic modules for space applications」、Materials Research Society Symposium Proceedings (2002年)、730(Materials for Energy Storage Generation and Transport)、193〜198頁。
【0003】
ステンレス鋼のいくつかの欠点は、プラスチック基材よりも比重が高いこと、透明性がないこと、および高価な化学-機械研磨(CMP)技術によって研磨しない限り、表面粗さが低いことである。宇宙での光起電力の用途に対しては、低い比重、優れた透明性、および滑らかな表面を有する高温用プラスチックフィルムを基材として有することが望ましい。ディスプレイ用途では、光透過性および滑らかな表面を有することが望ましい。フレキシブルなPVデバイスへのポリイミド基材の使用に関しては、以下の刊行物を参照し得る。(i) Beernink、K.J.等、「High specific power amorphous silicon alloy photovoltaic modules」、Conference Record of the IEEE Photovoltaic Specialists Conference (2002年)、第29回、998〜1001頁、(ii) Guha、S.等、「Amorphous silicon alloy solar cells for space applications」、European Commission、[Report] EUR (1998年)、(EUR 18656、第2回World Conference on Photovoltaic Solar Energy Conversion、1988年、第III巻、3609〜3613頁、および(iii) 薄膜太陽電池およびフレキシブルな薄膜回路基板の製造方法に関する米国特許第6,301,158号(2001年10月9日)。一般的な高分子基材は、軽量さに加え絶縁性もあるため、デバイスのモノリシック集積に適している。
【0004】
現行のプロセスであると当業者により考えられている方法の1つの変法は、ステンレス鋼の箔上にキャスティングしたポリイミドフィルム上の光電池である。次いで、この光電池を有するポリイミドフィルムを、プロセスの最後にステンレス鋼の箔から剥離する。この方策には2つの利点がある。第一に、ポリマー基材に密接した支持体としてのステンレス鋼の存在は、高温加工中のポリマーの変形をある程度制限する可能性がある。また、ステンレス鋼基材が磁気を帯びていれば、磁界を使用して連続的ロール・ツー・ロール加工が可能となる。言い換えると、この方法によれば、ステンレス鋼基材のみの上にデバイスを製造するのに使用される設備およびプロセスと同じ設備およびプロセスを使用できる。第二に、誘電性のポリイミドフィルムを使用すると、その後のデバイスのモノリシック集積を費用効率的に行うことができるようになる。第三の経済的利点は、ステンレス鋼のリサイクルの可能性である。
【特許文献1】米国特許第6,301,158号
【特許文献2】米国特許第3,615,272号
【特許文献3】米国特許第5,010,159号
【特許文献4】米国特許第4,999,397号
【特許文献5】米国特許第6,399,210号
【特許文献6】米国特許第6,924,346号
【非特許文献1】Cannella等、「Flexible Stainless-Steel Substrates」 Information Display 2005年6月、24頁
【非特許文献2】Kessler等、「Monolithically Integrated Cu(IN, Ga)Se2 Thin-Film Solar Modules on Flexible Polymer and Metal Foils」、第19回European Photovoltaic Solar Energy Conference、2004年6月7日〜11日、Paris、France、1702頁
【非特許文献3】Baojie、Y.等、「High Efficiency Triple-Junction Solar Cells with Hydrogenated Nanocrystalline Silicon Bottom Cell」、Conference Record of the IEEE Photovoltaic Specialists Conference (2005年)、31st、1456〜1459頁
【非特許文献4】Beernink等、「Ultralight amorphous silicon alloy photovoltaic modules for space applications」、Materials Research Society Symposium Proceedings (2002年)、第730巻「Materials for Energy Storage Generation and Transport」、193〜198頁
【非特許文献5】Beernink、K.J.等、「High specific power amorphous silicon alloy photovoltaic modules」、Conference Record of the IEEE Photovoltaic Specialists Conference (2002年)、29th、998〜1001頁
【非特許文献6】Guha、S.等、「Amorphous silicon alloy solar cells for space applications」、European Commission、[Report] EUR (1998年)、(EUR 18656、第2回World Conference on Photovoltaic Solar Energy Conversion、1988年、第III巻、3609〜3613頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この変法は、未だ商業的に実現されていない。なぜならば、(i)剥離されていないステンレス鋼基材からポリイミドフィルムを剥離するためには、約170g/cmの剥離力が必要とされ、これによってフィルム上の壊れやすい光起電力デバイスが損傷を受ける恐れがある。加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンアジペート(PEA)、および架橋密度の低いシリコーン類などの、工業的に使用されている現行の剥離コーティング材は、このプロセスの間にポリイミドフィルムが晒されることになる最も高い温度である425℃の温度に耐えることができない。この温度は、ポリイミドフィルム上のCIGS(銅 インジウム ガリウム ジセレン化物)セルから測定される許容可能な効率を得るためには必須である。同様に、CdTeをベースにしたPVセルは、その製造に同程度の温度を必要とする。多結晶シリコン(例えば薄膜トランジスター)、微結晶シリコン、および非晶質シリコン(PVセル)を使用するデバイスは、280℃以上の高い温度範囲の加工を必要とする。本発明はこれらの問題の解決策であり、これによって前述したプロセスを修正して、電子デバイス製造工業のために商業的に実現可能にすることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(i)金属基材にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材上の硬化したコーティングに、高分子フィルムを適用する工程と、
(iv) コーティングした金属基材を、高分子フィルムの硬化に十分な温度にさらに加熱する工程と、任意選択で、
(v)高分子フィルム上に電子デバイスを作製する工程と、
(vi)金属基材から高分子フィルムを剥離する工程と
を含む方法を対象とする。
【0007】
本発明は、
(i)電子デバイスと金属基材との間にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材から電子デバイスを剥離する工程と
を含む方法も対象とする。
【0008】
本発明は、
(i)金属基材にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材上の硬化したコーティングに、貴金属フィルムを適用する工程と、
(iv)金属基材から貴金属フィルムを剥離する工程と
を含む方法をさらに対象とする。
【0009】
これら各方法において、フィルムまたはデバイスは、酸または塩基を用いて金属基材から化学的に剥離することができる。第1の方法においては、コーティングした金属基材を切断し、次いで金属基材に剥離力を加えることにより、高分子フィルムから金属基材を分離することによって、金属基材から高分子フィルムを機械的に剥離することもできる。本発明のこれらおよび他の特徴は、以下の詳細な説明を考慮することにより明白となるであろう。
【0010】
本発明は、ポリイミドフィルムなどの高温用高分子フィルムおよび/またはこのフィルム上のデバイスを、ステンレス鋼箔などの金属基材から剥離する方法を対象とする。1つの実施態様において、水素シルセスキオキサン(HSQ)樹脂を、高分子フィルムと金属基材との間の剥離コーティングとして使用する。剥離のメカニズムは、亀裂の先端に少量の塩基水溶液を保持することにより水素が生じることにより引き起こされる。高分子フィルムを剥離するために剥離力は必要とされないが、少しの力により、プロセスの速度を加速することができる。最小限の剥離力で、または剥離力なしで、高分子フィルムが容易に金属基材から剥離する。第2の実施態様においては、メチルフェニルシルセスキオキサン(MPSQ)樹脂を、高分子フィルムと金属基材との間の剥離コーティングとして使用する。これを金属基材上に適用し、硬化した場合、高分子フィルムと金属基材との間の界面で酸によるエッチングを行うことにより、高分子フィルムは金属基材から剥離可能になった。第3の実施態様においては、メチルフェニルシルセスキオキサン樹脂を、高分子フィルムと金属基材との間の剥離コーティングとして使用する。これを金属基材に適用し、硬化した場合、機械的手段を用いて、高分子フィルムを、メチルフェニルシルセスキオキサン樹脂剥離コーティングおよび金属基材の両方から剥離可能にすることができる。
【0011】
本発明のポリシルセスキオキサン樹脂剥離コーティングは、ポリシルセスキオキサン樹脂が、ポリイミドフィルムなどの高分子フィルム上で、非晶質ケイ素(α-Si)、微晶質ケイ素(μ-Si)、テルル化カドミウム(CdTe)およびCIGSを加工するのに必要な温度に耐えることができるという点で現在および従来の剥離コーティングと異なる。これらは、少ない剥離力または剥離力なしで、剥離させることもできる。これによって、高分子基材上に支持されている光電池のような繊細なデバイスを機械的に破損する危険性が最小限に抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔ポリシルセスキオキサン樹脂〕
剥離コーティングとして用いるポリシルセスキオキサン樹脂は、少なくとも50%のケイ素原子が水素置換基を有する、当分野で既知の任意の樹脂でよく、このような樹脂として、ホモポリマーまたはコポリマーであってよい。この樹脂の構造は、特に制限はないが、水素シルセスキオキサン樹脂が好ましい。樹脂は、末端基(例えば、ヒドロキシル基、トリオルガノシロキシ基、ジオルガノハイドロジェンシロキシ基、トリアルコキシ基、ジアルコキシ基、およびその他の基など)を含み得る。構造式では表されないが、これらの樹脂は、0もしくは2個の水素原子が結合するケイ素原子を最高で約50%まで、または少数のSiC基(例えば、CH3SiO3/2基もしくはHCH3SiO2/2基など)も含み得る。有用な樹脂を以下に例示することができるが、これらに限定されない。
(HSiO3/2)n
(HSiO3/2)x(R1 SiO3/2)y
(HSiO3/2)x(R1R2SiO)y
(HSiO3/2)x (R1R2SiO)y(SiO2)zおよび
(HSiO3/2)x(H2SiO)y
【0013】
式中、R1は、最高で約600℃までの温度に加熱することによって除去されない置換基である。R1は、メチル、エチルおよびプロピルなどのアルキル基、フェニルなどのアリール基、ビニルおよびアリルなどの不飽和炭化水素基、ならびに置換されたこれらの基(フェニルエチルなどのアラルキル基、トリルなどのアルカリール基、およびクロロメチルなどのハロゲン化炭化水素基を含む)により例示されるが、これらに限定されない。R2は、R1または水素であってよく、nは8以上であり、そのモル分率であるx、yおよびzは上記各コポリマーにおいて合計が1であり、xは、x、yおよびzの合計の少なくとも0.5である。この樹脂の好ましい重量平均分子量は、1,000〜150,000の間で、好ましい範囲は20,000〜100,000の間である。
【0014】
上記樹脂およびこれらの製造方法は当分野では既知である。例えば、米国特許第3,615,272号(1971年10月26日)には、ベンゼンスルホン酸水和物の加水分解媒質中でトリクロロシランを加水分解し、次いで生成した樹脂を水または水性硫酸で洗浄するプロセスによって、最高で100〜300 ppmまでのシラノールを含有し得るほぼ完全に縮合したヒドリドシロキサン樹脂の製造が記載されている。同様に、米国特許第5,010,159号(1991年4月23日)には、アリールスルホン酸水和物加水分解媒質中でヒドリドシランを加水分解することにより樹脂を形成し、次いでそれを中和剤と接触させる代替法が記載されている。本発明に使用することができる他の樹脂としては、例えば、 (i)米国特許第4,999,397号(1991年3月12日)に記載の樹脂、(ii)酸性またはアルコール性加水分解媒質中でアルコキシシランまたはアシルオキシシランを加水分解することにより製造される樹脂、(iii)米国特許第6,399,210号(2002年6月4日)に記載のアルコキシヒドリドシロキサン樹脂、および(iv)米国特許第6,924,346号(2005年8月2日)に記載のフェニル含有樹脂が挙げられる。(iii)のアルコキシヒドリドシロキサン樹脂は、ROSiO3/2シロキサン単位およびHSiO3/2シロキサン単位(式中、Rは10〜28個の炭素原子を有するアルキル基である)からなり、このアルコキシヒドリドシロキサン樹脂は、平均5〜40モル%のケイ素結合アルコキシ基を含有し、このアルコキシヒドリドシロキサン樹脂は、平均で少なくとも45モル%のケイ素結合水素原子を含有する。(iv)の樹脂は、5〜50モル%の(PhSiO)(3-x)/2(OH)x単位および50〜95モル%の(HSiO)(3-x)/2(OH)x単位(式中、Phはフェニル基であり、xは1〜2の数を有する)からなる。
【0015】
〔酸および塩基の剥離剤〕
剥離剤は、金属基材からの高分子フィルムの剥離を可能にするために使用する。剥離剤は、酸または塩基であってよい。通常、剥離剤は、塩酸、硫酸、もしくは硝酸などの一般的な酸を含有する水溶液、または水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、もしくは水酸化カリウムなどの一般的な塩基を含有する溶液である。有機酸および有機塩基もまた、溶解パラメーターが許す場合には、溶媒中に単独で、または対応する無機物との混合液中で使用される剥離剤として機能することができる。有機酸のいくつかの例は、酢酸、ギ酸、およびトリフルオロ酢酸である。有機塩基のいくつかの例は、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、ならびに第一級、第二級、および第三級アミンである。但し、これらの例は包括的なものではない。
【0016】
〔溶媒〕
ポリシルセスキオキサン樹脂は、一般的に製造、市販されており、この樹脂を含有する溶媒溶液として適用される。多くの有機溶媒またはシリコーン溶媒が用いられる。溶媒は通常、溶媒および樹脂の重量に対して10〜75重量%の様々な量で存在し得る。いくつかの有機溶媒としては、n-ペンタン、ヘキサン、n-ヘプタンおよびイソオクタンなどの飽和脂肪族類、シクロペンタンおよびシクロヘキサンなどの脂環式類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、メチルイソブチルケトン(MIBK)およびシクロヘキサノンなどのケトン類、トリクロロエタンなどのハロゲン置換アルカン類、ブロモベンゼンおよびクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族類、ならびにイソブチルイソブチレートおよびプロピルプロピオネートなどのエステル類が挙げられる。有用なシリコーン溶媒としては、オクタメチルシクロテトラシロキサンおよびデカメチルシクロペンタシロキサンなどの環状シロキサン類が挙げられる。単一溶媒を用いることも、溶媒の混合液を用いることもできる。
【0017】
〔適用〕
ポリシルセスキオキサン樹脂を金属基材に適用する具体的な方法には、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、およびスクリーン印刷が含まれる。樹脂を金属基材に適用する好ましい方法は、スピンコーティングである。通常2.5マイクロメーター(μm)未満の薄いコーティングが金属基材に適用される。好ましくは、コーティングは0.3〜1.2μmの厚さを有する。
【0018】
適用後、溶媒を金属基材から除去することができる。例えば、乾燥、真空の適用、および/またはコーティングした基材を1つまたは複数のホットプレート上を通過させることにより生じた熱の適用などの、除去のための適切なあらゆる方法を用いることができる。スピンコーティングを用いる場合、回転により溶媒の大部分が飛ばされるので、追加の乾燥は最小限に抑えられる。
【0019】
金属基材への適用を行った後、ポリシルセスキオキサン樹脂コーティングした基材を、樹脂を硬化するために適当な温度に加熱する。典型的には、コーティングした金属基材を、100〜600℃の範囲、好ましくは100〜450℃の範囲の温度に加熱して樹脂を硬化する。
【0020】
樹脂の硬化中に用いる雰囲気は、限定されない。いくつかの有用な雰囲気として、空気などの酸素を含む雰囲気、ならびに窒素およびアルゴンなどの不活性な雰囲気が挙げられる。不活性とは、50ppm未満、好ましくは10ppm未満の酸素を含む環境を意味する。硬化を行う圧力は重要ではない。典型的には、硬化は大気圧で行われるが、準大気圧または超大気圧を用いてもよい。
【0021】
いかなる加熱方法を用いて樹脂を硬化してもよい。例えば金属基材を石英管炉、対流式炉、急速熱処理装置の中に置いてもよく、あるいはホットプレート上に静置してもよい。当業界では通常加熱炉を用いて、基材上の硬化樹脂フィルムを製造する。
【0022】
本発明を、ポリイミドフィルムおよびステンレス鋼箔を用いて以下の実施例において記載するが、本明細書における本発明の方法は他の高分子フィルムおよび金属基材に適用可能である。本方法は、電池および電子ディスプレイなどの光電池以外の電子デバイス用の支持体として意図される高分子フィルムに用いることもできる。さらに、本方法の実施において、デバイスを支持する高分子フィルムを樹脂剥離コーティングに適用することができ、あるいはデバイスだけを直接この樹脂剥離コーティングに適用することができる。
【実施例】
【0023】
以下の実施例を、本発明の好ましい実施態様を実証するために挙げる。これらの実施例で開示した技術は、本発明を実施する上でうまく機能することが本発明者により発見された技術を表すものであり、したがって本発明の実施のために好ましい態様であると考えられることを当業者は理解されたい。しかし、本発明の開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施態様において多くの変更が可能であり、依然として似通ったまたは類似の結果を得ることが可能であることを当業者は理解されたい。特に明記のない限り、すべての百分率は重量%である。さらに、特に明記のない限り、実施例に用いたポリシルセスキオキサン樹脂は、Dow Corning Corporation、Midland、Michiganからの市販の製品であった。
【0024】
(実施例1) 水素シルセスキオキサン樹脂をコーティングしたステンレス鋼箔の調製
25μmの厚さのステンレス鋼箔を、イソプロピルアルコール、次いでアセトンで洗浄した。固体の水素シルセスキオキサン(HSQ)樹脂をメチルイソブチルケトン(MIBK)中に溶解し、20重量%の溶液を得た。この溶液を用いて、ステンレス鋼箔にスピンコーティングによりコーティングを行った。スピンコーティングの条件は、1000 rpm、30秒、無制御の加速であった。コーティングしたステンレス鋼箔を、1〜24時間室温で保存し、次いで熱風循環式オーブンに移して硬化させた。硬化条件は、100℃まで3℃/分、100℃で30分、150℃まで3℃/分、150℃で30分、200℃まで3℃/分、および200℃で60分であった。
【0025】
(実施例2) メチルフェニルシルセスキオキサン樹脂コーティンしたステンレス鋼箔の調製
この実施例では、メチルフェニルシルセスキオキサン(MPSQ)樹脂を、60重量%の樹脂を含有するキシレン溶液として用いた。この樹脂溶液をさらにMIBKで希釈して、18重量%の樹脂を含有する溶液を得た。ステンレス鋼箔を、この樹脂溶液を用いて、実施例1で用いた条件と同じコーティング条件および硬化条件でコーティングした。
【0026】
(実施例3) 樹脂のブレンドでコーティングしたステンレス鋼箔の調製
実施例2で用いたメチルフェニルシルセスキオキサン樹脂溶液3gと、60重量%の樹脂を含有するMIBK溶液としての固体の水素シルセスキオキサン樹脂3gとを混合し、MIBK溶液6gを加えた。この混合液を、実施例1で用いた条件と同じコーティング条件および硬化条件で、ステンレス鋼箔にコーティングした。
【0027】
(実施例4) 樹脂のブレンドでコーティングしたステンレス鋼箔の調製
メチルフェニルシルセスキオキサン薄片状樹脂2gを4gのMIBK中に溶解した。固体の水素シルセスキオキサン樹脂2gを4gのMIBK中に溶解し、薄片状樹脂のMIBK溶液と完全に混合した。この混合液を、実施例1で用いた条件と同じコーティング条件および硬化条件で、ステンレス鋼箔に適用した。
【0028】
(実施例5) 薄片状樹脂コーティングしたステンレス鋼箔の調製
メチルフェニルシルセスキオキサン薄片状樹脂をMIBK中に溶解し、薄片状樹脂を20重量%含有する溶液を得た。この樹脂溶液を、0.2μmのフィルターを通して濾過し、4×4インチのステンレス鋼箔上にスピンコーティングした。コーティングしたステンレス鋼箔を、1〜24時間室温で保存し、次いで赤外線オーブンに移動させて硬化させた。赤外線オーブンは4つの開放型加熱ゾーンを有し、各ゾーンの長さは1.5フィートであった。試料の入り口から出口まで、これらゾーンの温度設定は、それぞれ140℃、180℃、200℃、および240℃であった。搬送ベルトの速度は、滞留時間が約40分になるように制御した。コーティング厚さは約1μmであった。
【0029】
(実施例6) 樹脂ブレンドでコーティングされたテンレス鋼箔の調製
メチルトリクロロシランを加水分解し、この加水分解産物を縮合し、次いでこの樹脂を真空乾燥することによって、溶解性のメチルシルセスキオキサン樹脂を調製した。このメチルシルセスキオキサン樹脂0.5gと、固体の水素シルセスキオキサン樹脂2gをMIBK中に溶解することにより得た60重量%の溶液とを混合し、次いで6gのMIBK中に溶解した。このブレンドしたシルセスキオキサン樹脂溶液を用いて、ステンレス鋼箔をコーティングした。コーティング条件および硬化条件は、実施例1で用いた条件であった。
【0030】
(実施例7) HSQ樹脂コーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
HD Microsystems、Parlin、New Jerseyから、PYRALINの商標の下で市販されているポリイミド前駆体を、実施例1で調製した、水素シルセスキオキサン樹脂コーティングしたステンレス鋼箔上に適用した。このポリイミド樹脂前駆体を、ピペットで適用し、ドローダウンナンバー16のコーティングバーで広げた。コーティングしたステンレス鋼箔をホットプレート上で150〜160℃で20分間焼き、熱風循環式オーブン内で300℃にて1時間硬化させた。
【0031】
(実施例8) MPSQ樹脂コーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
実施例7で用いたポリイミド前駆体を、実施例2で調製したメチルフェニルシルセスキオキサン樹脂コーティングしたステンレス鋼箔上に同様の方法で適用し、次いで実施例7で用いた条件と同じ条件で硬化させた。
【0032】
(実施例9) 樹脂ブレンドコーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
実施例7で用いたものと同じポリイミド前駆体を、実施例3で調製したステンレス鋼箔に同様の方法で適用し、実施例7で用いた条件と同じ条件で硬化させた。このブレンドは、メチルフェニルシルセスキオキサン樹脂および固体の水素シルセスキオキサン樹脂を含有していた。
【0033】
(実施例10) 樹脂ブレンドコーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
実施例7で用いたものと同じポリイミド前駆体を、実施例4で調製したステンレス鋼箔に同様の方法で適用し、実施例7で用いた条件と同じ条件で硬化させた。このブレンドは、薄片状のメチルフェニルシルセスキオキサン樹脂および固体の水素シルセスキオキサン樹脂を含有していた。
【0034】
(実施例11) 薄片状MPSQコーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
実施例7で用いたものと同じポリイミド前駆体を、実施例5で調製したステンレス鋼箔に同様の方法で適用し、実施例7で用いた条件と同じ条件で硬化させた。
【0035】
(実施例12) 樹脂ブレンドコーティングしたステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
実施例7で用いたものと同じポリイミド前駆体を、実施例6で調製したステンレス鋼箔に同様の方法で適用し、実施例7で用いた条件と同じ条件で硬化させた。このブレンドは、メチルシルセスキオキサン樹脂および固体の水素シルセスキオキサン樹脂を含有していた。
【0036】
(実施例13) コーティングしていないステンレス鋼箔上のポリイミドフィルムの調製
比較のために、実施例7〜12に記載の方法を用いて、コーティングしていないステンレス鋼箔上に、ポリイミドフィルムを調製した。
【0037】
(実施例14) HSQコーティングしたステンレス鋼箔上の金フィルムの調製
実施例1で用いた、コーティングしたステンレス鋼箔を、スパッタリングチャンバー内に置いて、金のターゲットからその上に金をプラズマスパッタリングすることにより、金のフィルムを調製した。0.15μmの厚さの金フィルムが水素シルセスキオキサン樹脂コーティングしたステンレス鋼箔上に形成されるように、スパッタリングの時間および条件を調整した。
【0038】
(実施例15) 水性HClを用いてコーティングを剥離する方法
実施例7〜13で調製したポリイミドフィルムを、5または10重量%のHCl水溶液中に浸した。外部からの力を加えずに、ステンレス鋼箔からポリイミドフィルムが持ち上がる時間を記録した。結果を表1に示す。酸の場合の剥離のメカニズムは、酸の剥離剤がポリシルセスキオキサン樹脂コーティングとポリイミドフィルムとの間の界面をエッチングすることである。これによってポリイミドフィルムがステンレス鋼箔から剥離可能になる。ポリシルセスキオキサン樹脂コーティングは、ポリイミドフィルムの表面上に残る。
【0039】
(実施例16) 水性HClを用いてコーティングを剥離する方法
実施例7〜13で調製したポリイミドフィルムを20重量%のHCl水溶液中に浸した。外部からの力を加えずに、ステンレス鋼箔からポリイミドフィルムが持ち上がる時間を記録した。結果を表1に示す。剥離のメカニズムは、実施例15に示したものと同じである。
【0040】
(実施例17) 水性H2SO4を用いてコーティングを剥離する方法
実施例7〜13で調製したポリイミドフィルムを7.7容量%のH2SO4水溶液中に浸した。外部からの力を加えずに、ステンレス鋼箔からポリイミドフィルムが持ち上がる時間を記録した。結果を表1に示す。剥離のメカニズムは、実施例15に示したものと同じである。
【0041】
(実施例18) 水性HNO3を用いてコーティングを剥離する方法
実施例7〜13で調製したポリイミドフィルムを17.4容量%のHNO3水溶液中に浸した。外部からの力を加えずに、ステンレス鋼箔からポリイミドフィルムが持ち上がる時間を記録した。結果を表1に示す。剥離のメカニズムは、実施例15に示したものと同じである。
【0042】
(実施例19) NaOHを用いてコーティングを剥離する方法
実施例7〜14で調製したポリイミドフィルムおよび金フィルムを10重量%のNaOH水溶液中に浸した。外部からの力を加えずに、ステンレス鋼箔からポリイミドフィルムが持ち上げられる時間を記録した。結果を表1に示す。
【0043】
ポリイミドフィルムとステンレス鋼箔との剥離を得るための代替法において、剥離は、少量の10重量% NaOH水溶液で積層体の断面切口を機械的にこすることによって、くさび状領域へこの水溶液を導入することで開始させた。ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムとステンレス鋼箔との間のくさび状領域の先端に保持されたNaOH水溶液で剥離された。結果を、表1に示す。
【0044】
塩基の場合の剥離のメカニズムは、犠牲的剥離である。したがって、塩基は水素シルセスキオキサン樹脂と反応して、水素ガスを生成する。この水素ガスが、ポリイミドフィルムをステンレス鋼箔から押出す役目をする。ポリシルセスキオキサン樹脂は粉末状の残渣となるが、この残渣は、ポリイミドフィルムおよびステンレス鋼箔から容易に洗い落とすことができる。したがってポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングは、ポリイミドフィルムとステンレス鋼箔との間の犠牲コーティングとなる。
【0045】
(実施例20) 機械的な力のみを用いてコーティングを剥離する方法
この実施例では剥離剤を用いなかった。実施例7〜13で調製したポリイミドコーティングしたステンレス鋼箔を、新たに1対のはさみで切断した。コーティングしたステンレス鋼箔からのポリイミドフィルムの分離は、断面切口でフィルムに垂直に摩擦することで開始した。次いでステンレス鋼箔からポリイミドフィルムを剥離するために剥離力を加えた。この実施態様では、ポリイミドフィルムは、ステンレス鋼箔上に残っているポリシルセスキオキサン樹脂コーティングから剥離される。この結果を表1に示す。
【0046】
表1において、n/aは実施例が遂行されなかったことを示している。アスタリスク**は、ポリイミドフィルムの質が悪かったかまたは酸および塩基の剥離剤が過度にポリイミドフィルムを劣化させたこと、したがってこの手順が有用でなかったことを示している。
【0047】
【表1】

【0048】
本明細書に記載した化合物、組成物、および方法における他の変更を、本発明の本質的特徴から逸脱することなしに行うことができる。本明細書において具体的に実証した本発明の実施態様は、代表的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲に規定した通りの発明の範囲を限定することを意図するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)金属基材にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材上の硬化したコーティングに、高分子フィルムを適用する工程と、
(iv)コーティングした金属基材を、高分子フィルムの硬化に十分な温度にさらに加熱する工程と、
(v)高分子フィルム上に電子デバイスを作製する任意の工程と、
(vi)金属基材から高分子フィルムを剥離する工程と
を含む方法。
【請求項2】
コーティングした金属基材を酸と接触させる工程と、高分子フィルムから金属基材を取り外す工程とによって、金属基材から高分子フィルムを剥離する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コーティングした金属基材を塩基と接触させる工程と、高分子フィルムから金属基材を取り外す工程とによって、金属基材から高分子フィルムを剥離する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
コーティングした金属基材を切断する工程と、次いで高分子フィルムから金属基材を分離するために金属基材に剥離力を加える工程とによって、金属基材から高分子フィルムを剥離する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリシルセスキオキサン樹脂が、式
(HSiO3/2)n
(HSiO3/2)x(R1SiO3/2)y
(HSiO3/2)x(R1R2SiO)y
(HSiO3/2)x(R1R2SiO)y(SiO2)z、または
(HSiO3/2)x(H2SiO)y
(式中、R1はアルキル基、アリール基、不飽和炭化水素基、アラルキル基、アルカリール基、またはハロゲン化炭化水素基であり;R2は、R1と同じかまたは水素であり;nは8以上であり、;モル分率x、yおよびzは、各式で合計が1であり;xは、x、yおよびzの合計の少なくとも0.5である。)
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電子デバイスが、光電池、バッテリー、または電子ディスプレイである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造される電子デバイス。
【請求項8】
(i)電子デバイスと金属基材との間にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材から電子デバイスを剥離する工程と
を含む方法。
【請求項9】
コーティングした金属基材を酸と接触させる工程と、電子デバイスから金属基材を取り外す工程とによって、金属基材から電子デバイスを剥離する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コーティングした金属基材を塩基と接触させる工程と、電子デバイスから金属基材を取り外す工程とによって、金属基材から電子デバイスを剥離する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記電子デバイスが、光電池、バッテリー、または電子ディスプレイである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法で製造される電子デバイス。
【請求項13】
(i)金属基材にポリシルセスキオキサン樹脂のコーティングを適用する工程と、
(ii)コーティングした金属基材を、ポリシルセスキオキサン樹脂の硬化に十分な温度に加熱する工程と、
(iii)金属基材上の硬化したコーティングに、貴金属フィルムを適用する工程と、
(iv)金属基材から貴金属フィルムを剥離する工程と
を含む方法。
【請求項14】
コーティングした金属基材を酸と接触させる工程と、金属基材から貴金属フィルム取り外す工程とによって、金属基材から貴金属フィルムを剥離する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
コーティングした金属基材を塩基と接触させる工程と、金属基材から貴金属フィルムを取り外す工程とによって、金属基材から貴金属フィルムを剥離する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法で製造される貴金属フィルム。

【公表番号】特表2009−510216(P2009−510216A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533362(P2008−533362)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/033548
【国際公開番号】WO2007/040870
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】