説明

金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法、金属微粒子・金属酸化物微粒子、並びに金属含有ペーストおよび金属膜・金属酸化物膜

【課題】安価に、しかも低環境負荷で金属微粒子・金属酸化物微粒子を製造すること。
【解決手段】金属または金属化合物からなる原料(S1)に対して、酸化工程(S2)と還元工程(S5)とを含む工程を行うことにより、前記原料(S1)を微細化して金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造(S8)する金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法、金属微粒子・金属酸化物微粒子、並びに金属含有ペーストおよび金属膜・金属酸化物膜に関する。本発明により製造される金属微粒子、金属酸化物微粒子は、電子材料における電子回路形成や導体膜形成、はんだ材料、電線シールド層形成、触媒材料、セラミックス焼結体などに使用される。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子や金属酸化物微粒子は表面活性の高さから機能性材料として注目を浴びており、様々な工業分野での応用が期待されている。ここで、微粒子とは、粒径1nm〜1000nm程度の粒子を意味する。
しかしながら、従来の金属微粒子は、その合成製造プロセス上の制約のために、コストが高いという問題があった。金属微粒子は、物理的手法もしくは化学的手法で作製される。
【0003】
物理的手法とは、真空チャンバーなどの装置内で金属あるいは金属化合物を加熱して気化させ、金属蒸気の過飽和度を調整することなどにより金属微粒子を製造する方法である。例えば、物理的手法によって無機微粒子や金属微粒子を高純度で合成する手法が開示されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
化学的手法とは、溶液中で金属のイオンや錯体を還元し、金属原子の核を少しずつ成長させていくことにより、金属微粒子を製造する技術である。例えば、有機金属化合物であるカルボニル化合物などを金属源とし、還元剤を共用して微粒子を合成する手法が開示されている(特許文献4、5参照)。また、硝酸塩・硫酸塩・炭酸塩・塩化物などの金属塩を金属源として用い、金属微粒子を合成する手法が開示されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−177983号公報
【特許文献2】特開2005−211730号公報
【特許文献3】特許第2561537号公報
【特許文献4】特開2007−31835号公報
【特許文献5】特開2007−63580号公報
【特許文献6】特開2006−307341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記物理的手法による金属微粒子の製造では、使用する真空チャンバーなどの大型装置は高価であり、スループットも低いため、製造コストが非常に高くなるという問題がある。
【0007】
また、上記化学的手法による金属微粒子の製造では、原料の価格が高く、更に、原料の多くが毒性物質であるため、製造方法として環境負荷が大きいという問題がある。具体的には、特許文献4及び5に開示されている製造方法では、金属カルボニル化合物などの有機金属化合物を原料として用いているが、有機金属化合物の多くは毒性物質であり、かつ高価である。また、特許文献6に開示されている製造方法では、金属塩を原料として用いているが、硝酸塩・硫酸塩・炭酸塩・塩化物などの金属塩も毒性物質であり、また微粒子
作製後の溶液には原料由来のアニオン(硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオンなど)が残留しているため、脱塩除去のための工程が必要である。さらに粒度の揃った微細な粒子を作製するためには、希薄溶液で作製する必要があり、多量の溶媒が必要となるため、多量の廃液処理も必要となる。また、これらの化学的手法は、金属微粒子合成に特化されたものであり、酸化物などの微粒子合成には不適である。
【0008】
本発明の目的は、安価に、しかも低環境負荷で金属微粒子・金属酸化物微粒子を製造することが可能な金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法、金属微粒子・金属酸化物微粒子、並びに金属含有ペーストおよび金属膜・金属酸化物膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、金属または金属化合物からなる原料に対して、酸化工程と還元工程とを含む工程を行うことにより、前記原料を微細化して金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造する金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程と前記還元工程とを交互に繰り返して行う。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程の後に、前記酸化工程で生成された金属酸化物を粉砕する粉砕工程を行う。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法おいて、前記酸化工程及び前記還元工程において保護剤を用いずに、粒径500nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程または前記還元工程において、前記原料を還元力または酸化力を有する液体に添加したときの、前記原料に含まれる金属の前記液体中における金属濃度が0.01〜10mol/Lの範囲にある。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記還元工程または前記酸化工程は、固体状態の前記原料を、還元力または酸化力を有する液相中または気相中で行う。
【0015】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記還元工程または前記酸化工程において、前記原料を還元力または酸化力を有する液体中に分散させ、前記液体中の前記原料にレーザーまたはマイクロ波を照射して加熱する。
【0016】
本発明の第8の態様は、第1〜第7の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記原料は、粒状ないし粉状の純金属または金属酸化物である。
【0017】
本発明の第9の態様は、第1〜第8の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法を用いて得られた金属微粒子・金属酸化物微粒子である。
【0018】
本発明の第10の態様は、第1〜第8の態様のいずれかの金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法により製造された金属微粒子または金属酸化物微粒子と、溶剤組成物とを含む金属含有ペーストである。
【0019】
本発明の第11の態様は、第10の態様の金属含有ペーストを、塗布し焼成することにより得られる金属膜・金属酸化膜である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安価に、しかも低環境負荷で金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係る金属微粒子の製造方法の製造工程を示す流れ図である。
【図2】本発明の実施例1の原料および生成物のX線回折パターンを示す図である。
【図3】本発明の実施例1の原料および生成物を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)による観察結果を示す画像である。
【図4】本発明の実施例1で生成された金属微粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の原料および生成物のX線回折パターンを示す図である。
【図6】本発明の実施例2の原料および生成物のFE−SEMによる観察結果を示す画像である。
【図7】本発明の実施例2で生成された金属微粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態に係る金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法を説明する。
【0023】
本発明者は、原料(金属源)に金属もしくはその金属化合物を用い、原料に対して酸化処理と還元処理とを行うことで、前記原料が微細化する新規な事実を見出し、鋭意研究の結果、本発明を完成させた。
【0024】
本発明の一実施形態に係る金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子の製造工程は次のように説明される。
【0025】
原料としては金属もしくは金属化合物を用い、固気系もしくは固液系において、原料に酸化と還元を行い、また必要に応じて原料を酸化した後に粉砕を行う。これら一連の工程を一回ないし複数回繰り返すことで、原料(一回以上の酸化工程もしくは還元工程を経て生成された中間生成物を含む)は微細化し、最終の工程が、酸化工程で終了すれば金属酸化物微粒子が得られ、還元工程で終了すれば金属微粒子が得られる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る製造方法の特徴は、金属源(固体)と気体という固気反応、あるいは金属源(固体)と液体という固液反応を利用しており、目的とする金属または金属酸化物微粒子に比較して大きな塊状の金属源(安価な金属のバルク体、粒状体、粉状体など)を汎用的なプロセスで微細化していくというトップダウン型のプロセスであることである。
金属源の微細化のためには、従来の物理的手法(均一気相反応、気体−気体反応)では高価な装置の使用が必須であったが、本実施形態はこのような装置を必要としないため低コストで製造が可能である。また、本実施形態における化学反応は固気反応や固液反応という不均一系の反応であることから、従来の化学的手法(均一液相系におけるイオン反応)の問題点である、アニオンの残存や、合成濃度が希薄なことに由来する大量の廃液発生などの問題を解決することが可能である。
【0027】
本実施形態に使用する原料(金属源)としては、金属あるいは金属化合物を使用でき、目的とする金属微粒子もしくは金属酸化物微粒子の金属を含んでいればよい。金属微粒子
もしくは金属酸化物微粒子の金属としては、Mg,Al,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Auなどが挙げられ、或いはこれら金属種からなる合金でもよい。金属源には、純金属、金属酸化物、金属塩、有機金属化合物などがあるが、いずれを使用しても酸化工程において金属酸化物とすることができる。また、金属イオンの存在するような溶液などについても酸化工程によって金属酸化物を得られるのであれば原料とすることができる。また、純金属、金属酸化物、金属塩、有機金属化合物、金属イオン溶液などを2種類以上混合した混合物についても利用することが可能である。望ましい原料としては、安価であり分解生成物が無害な金属源として、純金属、金属酸化物などが挙げられる。原料の形態としては、バルク体、粉末状などを用いることが出来るが、酸化・還元の反応速度を向上するためには、比表面積が大きいことが望ましく、1〜100μm程度の粒子や粉末、あるいは1〜100μm程度の厚さの膜状であることがより望ましい。
【0028】
本実施形態における原料の微細化の機構は次のように説明される。
原料を固気系もしくは固液系において酸化と還元を繰り返すことで、原料はしだいに微細化・粉化していく。原料の微細化は、複数の複雑な現象の重複により起こるが、具体的には原料粒子の熱膨張や収縮、原料粒子の粒内や粒界におけるクラック発生、原料からのガスの発生、あるいは原料粒子の組成の不均一化などの原因によって起こっていると考えられる。酸化工程では、金属から金属酸化物になる過程で、体積膨張が起こり、また酸化が完全でないような場合、組成の不均一化なども起こる。金属酸化物となる際に、応力による粒内や粒界でのクラック発生、脆性的な破壊などが起こり易くなる。還元工程では、金属酸化物から金属になる過程で、体積収縮が起こり、さらに酸素ガス発生などが起こる。これら酸化工程、還元工程が繰り返されていくと、微細な金属微粒子あるいは金属酸化物粒子が生成されるようになる。酸化と還元の繰り返しだけでも微細化は進行するが、酸化工程後に、生成物である金属酸化物を粉砕する工程を行い、その後、還元工程を実施することで、粒子の微細化はより顕著となる。
【0029】
本実施形態における酸化あるいは還元の工程は、固気系あるいは固液系で行うことが可能である。
【0030】
固気系での酸化もしくは還元は、大気中、所定の雰囲気置換下、または大気もしくは所定の雰囲気の真空下で行われる。中間生成物を作る上では微細化を促進する雰囲気で行うことが望ましく、例えば金属の酸化、窒化、水素化などを行う。より具体的には、大気中、または酸素、窒素、アルゴン、水素等の雰囲気中、あるいは真空中で、温度100〜1500℃の範囲において行う。これにより、後の粉砕効率が向上し、より微細な生成物が得られる。酸化もしくは還元反応の温度については、粒子の凝集を抑制する目的で、より低温において反応を行うことが望ましい。
【0031】
固液系での酸化もしくは還元は、原料を水もしくは有機溶媒または水と有機溶媒との混合物に分散させた状態で、酸化剤もしくは還元剤、必要に応じて保護剤を添加し、熱や電磁波などのエネルギーを加え、原料の微細化・粉化を促進し、最終的に金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子を得る。加熱方法は、公知の方法に従えばよいが、エネルギー源が電磁波であれば特にレーザーやマイクロ波を用いるのが好適である。これらのエネルギーは、原料(固体)と溶媒(液体)とが混合している固液系に加えられた場合、固体と液体の応答性が異なる。より具体的には、固体と液体のエネルギー吸収の違いから、両者の間では瞬間的な温度勾配が生まれる。これは固体である粉末状などの原料の温度が急速的に上下することを意味しており、このことは原料の微細化に、有利に作用する。本実施形態の固液系での酸化還元反応は、イオン中間体の形成を経ない直接酸化反応や直接還元反応が起こるが、微視的には固体粒子表面において、溶解還元再析出反応や溶解酸化再析出も起
こっていると考えられる。しかし、レーザーやマイクロ波のような熱源を用いた場合、固体粒子の瞬間的な昇温と冷却過程によって、固体粒子の表面から析出する微粒子が粒成長しにくく、より微細な粒子となる効果がある。急速加熱もしくは急速冷却、あるいはその両方を効果的に行うことが可能な熱源や反応場であれば、熱源などはレーザーやマイクロ波に限らない。また、理論的な確証は得られていないものの、レーザーやマイクロ波のような熱源を用いると、固体の熱膨張や収縮、固体内の粒内や粒界でのクラックの発生、固体の不均一化が起こり易くなり、固体粒子の直接的な還元反応においても微細な粒子が得られる効果がある。
【0032】
本実施形態に使用する溶媒や保護剤は、熱や電磁波などのエネルギーの投入以前に添加してもよいし、エネルギーの投入途中で添加してもよい。これら使用する溶媒や保護剤の組み合わせや、添加のタイミングによって、反応速度や粒子径を制御できる。また、固液系での反応温度は酸化反応、還元反応のいずれであっても、0℃〜250℃とすることが望ましい。使用する溶媒と、酸化剤あるいは還元剤との組み合わせにもよるが、0℃未満の低温では酸化反応や還元反応の進行が著しく遅くなる虞がある。他方、250℃を超える高温では、粒子の凝集が進行しやすく、効率的な微細化を阻害する虞がある。
【0033】
本実施形態に使用できる還元剤および酸化剤としては、一般に利用される無機ないし有機化合物を用いることが出来る。例えば還元剤としては、溶存水素やヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムなどの無機化合物、メタノールやエタノール、2−プロパノール、1,2−エタンジオールなどのアルコール類や、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ギ酸や酢酸、蓚酸、クエン酸、アスコルビン酸などのカルボン酸などの有機化合物が利用できる。還元剤としての有機酸は、脱塩が必要なアニオンを含有しなく、金属および金属酸化物の固液還元と溶解還元再析出を促進するため、反応と環境の面で有効である。
【0034】
酸化剤としては、溶存酸素や過酸化水素、二クロム酸塩、過マンガン酸塩などの無機化合物等が挙げられる。特に原料粉末のイオン化を過度に促進せず、形態をある程度保ったまま適切な速度で反応し、溶液中に有害物質や不純物となり得るイオンを残さないものが適切であり、過酸化水素などを好適に用いることができる。
【0035】
また有機溶媒としては、還元性溶媒や非還元性溶媒を組み合わせて使用することができる。溶媒の選択だけではなく、還元性溶媒や非還元性溶媒の比率を調節することで、酸化反応や還元反応の反応速度を制御し、生成する粒子のサイズを制御できる。また有機溶媒と酸化剤、還元剤との組み合わせ方や比率の調整によっても同様に酸化反応や還元反応の反応速度を制御し、生成する粒子のサイズを制御することが可能である。また、保護剤を使用する場合は、保護剤の良溶媒を混入させることで、粒子への保護剤の被覆が起こり易くなり、また被覆の程度を制御することが可能となり、その結果、粒子のサイズを制御できる。有機溶媒だけでなく、水系での反応も可能であり、有機溶媒と水を混合した溶媒中における反応も可能である。有機溶媒と水の比率を調節することでも粒子サイズを制御できる。
【0036】
還元性溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールや2−エチルヘキシルアルコールなどのアルコール類やアセトアルデヒドなどのアルデヒド類やグリコールなどのポリオール類などが好ましく、非還元性溶媒としては、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレン、ベンゼンなどを用いることができる。
【0037】
原料を溶液(有機溶媒や水などに、酸化剤もしくは還元剤、必要に応じて保護剤を添加した液体)に添加した際の金属濃度は、0.01〜10mol/Lの範囲とするのが望ま
しく、0.05〜3mol/Lの範囲とするのがより望ましい。0.01mol/L未満の
場合は、希薄濃度での製造はスループットの低下につながり、製造コストは上昇する虞がある。他方、10mol/Lを超える濃度では作製した金属微粒子の凝集などが起きる虞がある。
【0038】
本実施形態では、金属微粒子表面を被覆する役割を果たす保護剤と呼ばれる化合物群を添加せずとも、粒径500nm以下の金属微粒子や金属酸化物微粒子を製造可能である。また、より微細な粒子を製造する目的で、必要に応じて保護剤を添加することも可能である。保護剤を添加することで、微粒子の凝集を抑制するだけでなく、金属微粒子の酸化等の変性を抑制したり、溶媒中での分散性を向上することも可能である。保護剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやアミン類などの有機物が例示される。非イオン系だけではなく、イオン系の界面活性剤の使用も可能である。
【0039】
保護剤の添加量が多いと、廃液量が増加する問題が生じる。そのため、保護剤は、金属重量比として50wt%以下の添加量がより望ましい。保護剤の添加条件を調節することで、金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子の粒子径を、0.5nm〜100μmの範囲で
制御することができる。また、異なる粒度分布域をもつ粒子が混合した形態の作製も可能である。さらには生成する微粒子の形状制御も可能であり、球形、多角形、プレート状の微粒子を得ることもできる。
【0040】
本実施形態の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法により製造された金属微粒子または金属酸化物微粒子と、溶剤組成物とを混合すること金属含有ペースト(導電性金属ペースト(金属ペースト)または金属酸化物ペースト)を作製することができる。また、導電性金属ペーストを配線基板、電線などの対象物に塗布あるいは印刷した後、焼結することにより金属膜を形成できる。また、導電性金属ペーストと同様にして、金属酸化物ペーストを用いて金属酸化物膜を形成できる。
【0041】
本実施形態の金属微粒子を用いた金属ペーストにおいて、利用可能な溶剤組成物の種類としては、水、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、チオール類、単糖類、多糖類、直鎖の炭化水素類、脂肪酸類、芳香族類の群から選択することが可能であり、複数の溶剤を組み合わせて使用することも可能である。上記の群の中から、金属微粒子を覆う保護剤と親和性のある溶剤を選択することが望ましい。また溶剤は、導電性金属ペーストをコーティング可能な適正な粘度に調整し、また室温で容易に蒸発しない、比較的高沸点な低極性溶剤あるいは非極性溶剤であることが望ましく、より具体的には、炭素数10〜16個のノルマルの炭化水素やトルエン、キシレン、1−デカノール、テルピネオールなどが好適である。また、導電性ペーストの成型性、粘度などを調節する目的で、溶剤中にワックスや樹脂を添加剤として微量に加えることも可能である。
本実施形態における金属微粒子は残存イオンなどの不純物が少なく、触媒活性や焼結性に優れ、純度の高い金属膜を形成できる。金属膜の基本的な特性、例えば体積抵抗率や反射率、密度なども良好なものとなる。
【0042】
本実施形態における金属酸化物微粒子を用いた金属酸化物ペーストにおいても、金属微粒子と同様の溶剤組成物を使用可能である。本発明における金属酸化物微粒子は残存イオンなどの不純物が少なく、触媒活性や焼結性に優れ、純度の高い金属酸化物膜を形成できる。金属酸化物膜の基本的な特性、例えば、硬度や強度、密度なども良好なものとなる。また、その金属酸化物に由来の応用的な特性、例えば、触媒活性なども良好なものとなる。
【0043】
本実施形態の製造方法では、従来法と比較して、高価な装置の導入や生成物の濃縮・脱塩をする必要がなく、安価なプロセスで金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子を高濃度に作製できる。また、廃棄物を最小限に抑え、高濃度・高分散で、安価かつ安全に金属微粒
子あるいは金属酸化物微粒子を製造することができる。さらに本実施形態で得られる金属微粒子や金属酸化物微粒子は、残存イオンなどの不純物が少なく、従来技術によって得られる粒子よりも焼結性に優れている。そのため本実施形態で作製した金属微粒子・金属酸化物微粒子は電子実装分野や触媒分野、焼結材料分野などの様々な分野での利用が期待できる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
各実施例における物性・粒径の測定は、次のようにして実施した。
(1)定性分析
生成物の相同定は、理学電機製の粉末X線回折装置「RINT−2000PC型CuKα線」を用いて行った。
(2)粒子観察と粒度分布測定
生成物を超音波によりエタノール中に分散し、このエタノールを金スパッタを施したガラス板に滴下した。ガラス板を乾燥後、観察用ステージ上にガラス板をカーボンテープで貼り付け、日本電子製の電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)「JSM−6500F」により観察した。観察した粒子画像をノギス(ミツトヨ製)により直接測定した。1試料につき100〜200個程度の粒子の粒径を測定し、個数平均粒子径(粒径の算術平均)を算出した。
【0046】
[実施例1]
図1に、実施例1における銅微粒子の製造方法の流れ図を示す。
(酸化工程)
原料(出発原料)として、添川理化学製の銅粒子(純度99.99%、個数平均粒子径
3μm)を用意した(S1)。この銅粒子0.1molをアルミナ坩堝へ入れ、大気中で
500℃まで10℃/分で昇温した後、500℃で30分間保持して、銅粒子の酸化を行った(S2)。
(粉砕工程)
次に、上記酸化工程で得られた焼結体をアルミナ乳鉢で15分間粉砕した(S3)。図2に、1回酸化後の生成物のX線回折パターンによる相同定の結果を示す。図2には、原料の銅粒子のX線回折パターンも示す。1回酸化後の生成物は、酸化第一銅(CuO)と酸化第二銅(CuO)との混合物であった。
【0047】
(還元工程)
上記粉砕工程で得られた生成物(酸化第一銅と酸化第二銅の混合物)と2−プロパノール100mlとを、300mlの三角フラスコに入れ、超音波を照射し懸濁液を得た(S4)。この懸濁液を300mlの三口フラスコへ移し、ヒドラジン一水和物0.1mol
を加え、溶液の温度が80℃で一定となるように、四国計測工業製のマイクロ波加熱装置「μリアクター」を用いて2.45GHzのマイクロ波を1時間照射した(S5)。生成
物を濾過によって回収し、エタノールを用いて洗浄し、大気中で数時間放置して乾燥させることで粉末状の生成物を得た(S6)。
【0048】
(酸化工程、粉砕工程および還元工程の繰り返し)
上記還元工程で得られた粉末状の生成物を再びアルミナ坩堝へ入れ、前述の酸化工程と同様の条件で酸化させた。得られた酸化銅の生成物をアルミナ乳鉢で粉砕し、前述の還元工程と同様の条件で還元した。以降、酸化工程、粉砕工程および還元工程を1サイクルとして5サイクルを繰り返し(S7)、生成物を得た(S8)。
【0049】
(最終生成物)
5回目の還元で得られた生成物のX線回折パターンを図2に示す。図2から、生成物は金属銅に還元されたことが分かった。(111)面、(200)面、(220)面の回折ピークについて、定数K=0.9としてScherrerの式を適用したところ、結晶子
径は還元を繰り返すごとに減少し、原料のCu粒子の結晶子径57.4nmに対して、5
回目の還元で得られたCu微粒子の結晶子径は37.6nmとなった。原料と5回還元後
の生成物とのFE−SEM像を図3に示す。原料の個数平均粒子径3μmのCu粒子(図3(a))が微細化し、Cu微粒子(図3(b))になっていることが確認できる。この生成物の粒度分布を測定したところ、測定結果は図4のようになり、個数平均粒径は187nmであった。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、原料(出発原料)に酸化第二銅粒子を用い、最終生成物として銅微粒子を製造した。
(還元工程)
300mlの三角フラスコに2−プロパノール100mlを入れ、さらに高純度化学製の酸化第二銅粒子(99%、個数平均粒子径1〜2μm)を0.1mol加え、超音波に
より分散させた。得られた懸濁液を300mlの三口フラスコへ移し、ヒドラジン一水和物0.1molを加え、溶液の温度が70℃で一定となるように、四国計測工業製のマイ
クロ波加熱装置「μリアクター」を用いて2.45GHzのマイクロ波を1時間照射した
。生成物を濾過によって回収し、エタノールを用いて洗浄し、大気中で数時間放置して乾燥させることで粉末状の生成物を得た。
【0051】
(酸化工程および粉砕工程)
上記還元工程で得られた粉末状の生成物を再びアルミナ坩堝へ入れ、上記実施例1の酸化工程と同様の条件で酸化させた。得られた酸化銅の生成物をアルミナ乳鉢で粉砕し、上記実施例1の粉砕工程と同様の条件で粉砕した。
【0052】
(最終生成物)
上記粉砕工程で得られた粉末状の酸化銅の生成物に、2回目の還元工程を実施して最終生成物としての銅微粒子を得た。最後の2回目の還元工程で得られた生成物のX線回折パターンを図5に示す。酸化銅は完全に還元し、金属銅となっていた。また、図5には、原料の酸化第二銅粒子のX線回折パターンも示す。(111)面、(200)面、(220)面の回折ピークについて、定数K=0.9としてScherrerの式を適用したとこ
ろ、原料のCuO粒子の結晶子径40.6nmに対して、生成物の結晶子径は39.1nmとなっていた。原料CuOのFE−SEM像を図6(a)に、生成物とのFE−SEM像を図6(b)にそれぞれ示す。図6(b)の画像から、生成物の粒度分布を測定した結果を図7に示す。生成物の個数平均粒径は307.5nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または金属化合物からなる原料に対して、酸化工程と還元工程とを含む工程を行うことにより、前記原料を微細化して金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造することを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程と前記還元工程とを交互に繰り返して行うことを特徴とする金属微粒子または金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程の後に、前記酸化工程で生成された金属酸化物を粉砕する粉砕工程を行うことを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程及び前記還元工程において保護剤を用いずに、粒径500nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を製造することを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記酸化工程または前記還元工程において、前記原料を還元力または酸化力を有する液体に添加したときの、前記原料に含まれる金属の前記液体中における金属濃度が0.01〜
10mol/Lの範囲にあることを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記還元工程または前記酸化工程は、固体状態の前記原料を、還元力または酸化力を有する液相中または気相中で行うことを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記還元工程または前記酸化工程において、前記原料を還元力または酸化力を有する液体中に分散させ、前記液体中の前記原料にレーザーまたはマイクロ波を照射して加熱することを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法において、前記原料は、粒状ないし粉状の純金属または金属酸化物であることを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法を用いて得られたことを特徴とする金属微粒子・金属酸化物微粒子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の金属微粒子・金属酸化物微粒子の製造方法により製造された金属微粒子または金属酸化物微粒子と、溶剤組成物とを含むことを特徴とする金属含有ペースト。
【請求項11】
請求項10に記載の金属含有ペーストを、塗布し焼成することにより得られることを特徴とする金属膜・金属酸化膜。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−202208(P2011−202208A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68515(P2010−68515)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】