金属板
【課題】金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離を防止する。
【解決手段】最大径が直径0.45mm未満であって深さが5〜30μmである複数の微小凹部13が形成された基板11上に、微小凹部13より径大の凸部12を設けたことによるエンボス模様41を形成し、基板11には、その表層に着色塗装を施した着色塗装付きエンボス板1を、実用時において微小凹部13以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、微小凹部13に蓄積した着色塗料により着色塗装付きエンボス板1全体からその色彩を発揮させる。
【解決手段】最大径が直径0.45mm未満であって深さが5〜30μmである複数の微小凹部13が形成された基板11上に、微小凹部13より径大の凸部12を設けたことによるエンボス模様41を形成し、基板11には、その表層に着色塗装を施した着色塗装付きエンボス板1を、実用時において微小凹部13以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、微小凹部13に蓄積した着色塗料により着色塗装付きエンボス板1全体からその色彩を発揮させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
着色塗装が施された金属板に関し、特にキッチンのシンクやカウンターの天板等のように食器が接触し、水が頻繁に付着する環境下で使用する上で好適な金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において対面型キッチンの普及により、キッチンやカウンターの天板やシンクは、ダイニングルームやリビングルームからの視界に入る場合が増加している。このため、天板やシンクは、見た目にも美しい外観が特に求められるようになってきている。実際にこの天板やシンクの外観に美しさを出すためには、その表面に塗料を塗布又は吹き付けを行うことによる着色塗装を施す場合が先ず考えられる。
【0003】
ところで、このキッチンのシンク等は、ステンレス鋼板をプレス成形加工することにより製作される。このようなステンレス鋼板は、特に耐久性の面において非常に優れており、しかも耐食性に優れ清潔感を呈することから、シンクの材料として長年の間使用されている。
【0004】
このステンレス鋼板からなるシンク等に対して実際に塗料による着色塗装を施したときに、実際に食器及び器物等がシンクに触れた場合には、塗装表面にスリ疵、カキ疵及び押込み疵等のような様々な疵が付いてしまう。特に従来のシンクは、その表面が極めて平滑な状態となっているため、このような平滑面に疵が付くと塗装が落ちて視覚的に目立ちやすくなるという欠点がある。
【0005】
また、食器及び器物等の洗浄時においては、水滴がシンクの各部位に付着するが、この水滴の中には洗浄された汚物の一部及び洗剤等の物質がある程度含まれている。更に、水道水には、水酸化カルシウム及びマグネシウム等の物質が少量ながら含まれている。このため、洗浄時にシンクに付着した水滴が乾燥すると、その部分が斑点となり、これがシミ状の汚れとなって残存することになる。このため、このようなシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを拭くケースが多くなるが、その金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることとなり、シンクに疵が付着するばかりでなく、かかる表面に塗布されていた塗装が剥げ落ちてしまうという問題点があった。
【0006】
なお、従来においては、かかる表面の疵付き防止性を向上させる観点から、シンクに適用されるステンレス鋼板の表面に特定の微細凹凸をランダムに設ける技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この特許文献1に記載のステンレス鋼板では、その表面において耐疵付性と水滴等の付着による汚染性とを防止するために、高さ3〜50μmの範囲で、かつ長さ25.4mm当たり20〜1000個の範囲で、鋼板の圧延方向に対してランダムに凹凸を突設させている。
【0008】
また、シンクの底面のみに平滑面に突設された複数の半球状の凸部によるエンボス模様を形成し、凸部の頂点の高さ及び凸部間の間隔を最適化した表面保護構造も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この表面保護構造によれば、このエンボス模様に対して各凸部上の一点を介して接触することになり、その接触面積を減らすことで凸部上の線及び面で接触することはなくなる。また、かかる接触に伴う疵も点状に離散させることができるため、視覚的により目立たなくさせることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−137796号公報
【特許文献2】特開2009−191605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1、2に示すようなエンボス模様を形成させたシンクに着色塗装を施す場合、確かに食器及び器物等の接触に伴う疵を視覚的により目立たなくさせることが可能となる。しかしながら、シンク等の表面に付着したシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを拭いた場合、その金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離は依然として生じてしまう。
【0011】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、キッチンのシンクやカウンターの天板として用いられる着色塗装が施された金属板に関し、特に金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離を防止することが可能な金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために、最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装を施し、実用時において上記微小凹部以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、上記微小凹部に蓄積した着色塗料によりその色彩を発揮させる金属板を発明した。
【0013】
本発明を適用した金属板は、上述した課題を解決するために、最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装が施されていることを特徴とする。
【0014】
このとき、上記各微小凹部は、深さが5〜30μmとしてもよいし、微小凹部に径が1000μm〜2000μmの凸部によるエンボス模様を重ねて設けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成からなる本発明によれば、金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることにより、着色塗装の全部又は一部が剥離した場合であっても、微小凹部に残存した塗料により、金属板全体からその色彩を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した金属板の表面を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用した金属板の表面を示す平面図である。
【図3】本発明を適用した金属板の表面を示す側面図である。
【図4】微小凹部のサイズについて説明するための図である。
【図5】微小凹部の内部に塗料が蓄積されている状態を示す図である。
【図6】ステンレス繊維が金属板の表面に擦れることにより、平滑な表面における一部又は全部が剥離した例を示す図である。
【図7】この微小凹部を周端から底面にかけて、上に凸の曲面となるように構成した例を示す図である。
【図8】微小凹部の他の形態について説明するための図である。
【図9】微小凹部間の間隔A、Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態として、キッチンのシンクやカウンターの天板、扉等に用いられる金属板について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した金属板1の表面を示す斜視図であり、図2はその平面図を、図3はその側面図を示している。
【0019】
金属板1は、複数の微小凹部13が形成された金属製の基板11の表面上に凸部12を設けたことによるエンボス模様を形成させたものである。また、この基板11の表層には、その塗料14による着色塗装が施されている。
【0020】
基板11は、例えばステンレス鋼板であり、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、析出硬化型、二相系のいずれのタイプのものも使用することができる。また、基板11の例としては、このステンレス鋼板以外にチタン、アルミ、銅、鉄、真鍮等を用いるようにしてもよい。
【0021】
凸部12は、基板11における平滑な表面22に複数個に亘って突設されてなる。凸部12の形状は半球状であり、その直径は、後述する微小凹部13よりも径大とされて例えば1000〜2000μmの範囲とすることができ、また、その高さは、0.05〜0.15mmの範囲とすることができる。以下の説明においては、複数の凸部12と各凸部12間の平坦部とを合わせてエンボス模様41という。この凸部12は、表面22横方向及び縦方向において規則的に配列されていることが望ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の凸部12が離散的に形成されていてもよい。但し、このエンボス模様41は、ユーザから視認可能な位置に形成されているため、凸部12が離散的に形成されている場合においても、その意匠性をも確保する必要があるときは、その集合により視覚的な違和感が生じない程度の模様が作り出されていることが望ましい。これにより、複数の凸部12の集合により構成されるエンボス模様41により、システムキッチン2のユーザが視覚的に感じる違和感をなくすことができる。
【0022】
また、エンボス模様の作成方法として、特開2009−136904号公報に記載の方法を用いるなどして、裾野がなだらかなエンボスを適用することができる。
【0023】
微小凹部13は、基板11における平滑な表面22に複数個に亘って窪みを形成するようにしてなる。また微小凹部13は、凸部12においても設けられている。即ち、金属板1を作製する際には、基板11において、先ずこの微小凹部13を形成した後に、凸部12を加工することを前提としている。このため、凸部12においても微小凹部13が形成されていることとなるが、これに限定されるものではない。微小凹部13は、例えば彫刻ロールを使った圧延、プレス、電解研磨、エッチング等により基板11表面に形成させることが可能となる。
【0024】
微小凹部13のサイズは、最大径450μm以下である。ここでいう最大径とは、例えば図4に示すように微小凹部13に外接する外接円の直径に相当するものであり、微小凹部13の直径の中から最大のものをいう。また、この微小凹部13は、深さが5〜30μmの範囲とされている。この微小凹部13は、凸部12と比較して単位面積あたりの個数は大きい。
【0025】
このような凸部12、微小凹部13が設けられた基板11の表層に塗装される塗料14は、従来公知の各種のコーティング材料を用いることができる。この塗料14としては、例えば特許第4012939号記載の親水性塗料や、撥水性塗料や、撥油性塗料や、フッ素系処理剤や、フッ素を含有するフッ素系塗膜材料や、シリカ系塗料、アクリル系樹脂材料、クリアー系塗料(下地の色とは異なる塗料であって、下地の色が透けて見えるようにするものをいう)、その他機能性塗料などを用いることができる。
【0026】
この塗料14に混合する溶媒としては、均等に塗装するためには、レベリング性があるものを用いる必要がある。レべリング性を持たせるためには、界面活性剤や高沸点溶媒などの添加物を加えてもよい。その添加剤は、塗装後の焼成段階で分解・蒸発してしまう揮発性のものが望ましい。例えば、塗料が溶媒としてアルコールを使用している場合、添加剤としてはその必要な沸点を得られる程度にブチルセロソルブを添加することが望ましい。
【0027】
上述した構成からなる金属板1は、製造直後において図3に示すように塗料14が基板11の表面一面に亘って塗布されている状態となっている。この塗料14は、基板11における平滑な表面22、並びに凸部12表面において塗布されている。また、この微小凹部13が設けられている箇所においては、図5に示すように、その微小凹部13の内部に塗料14が蓄積されている状態となっている。
【0028】
しかしながら、このような製造直後の金属板1を例えば、シンクの底面や、カウンターの天板に実用化した場合において、付着したシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを擦る場合がある。その結果、この金タワシのステンレス繊維が金属板1の表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離が生じる。図6は、この金タワシのステンレス繊維が金属板1の表面に擦れることにより、平滑な表面22における一部又は全部が剥離した例を示している。このとき、微小凹部13の内部に蓄積した塗料14は、金タワシのステンレス繊維で擦れた場合であっても剥離することなく残存することとなる。
【0029】
したがって、金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることにより、着色塗装の全部又は一部が剥離した場合であっても、この微小凹部13に残存した塗料14により、金属板1全体からその色彩を発揮させることが可能となる。
【0030】
なお、この微小凹部13の最大径が450μm超である場合、金タワシのステンレス繊維の径よりも大きくなってしまう。即ち、微小凹部13の径がより大きくなるため、金タワシのステンレス繊維が微小凹部13内に入り込んでしまう場合もあり、その結果、微小凹部13内に蓄積された塗料14に金タワシのステンレス繊維が接触してしまう。そして、微小凹部13内に蓄積された塗料14自体が、かかる金タワシのステンレス繊維の擦れにより、剥離してしまう場合も出てくる。このため、本発明では、微小凹部13の最大径は、450μm以下としている。
【0031】
また微小凹部13の深さが5μm未満であるとき、視覚的に色調が認識できない。このため、微小凹部13の深さの最小値は、5μm以上としている。但し、この塗料14の膜厚は10μm程度になる場合もあるため、かかる塗料14の膜厚分を考慮した場合には、微小凹部13の深さの最小値は10μm以上とすることが望ましい。また、この微小凹部13の深さが20μm以上である場合に、これに蓄積された塗料14による色彩がより顕著に発揮させることから、微小凹部13の深さは20μm以上とされていることが望ましい。
【0032】
また微小凹部13の深さが30μmを超えた場合、基板11自体の機械的強度や耐久性が劣化してしまう。これに加えて、微小凹部13の深さが30μmを超えた場合、当該微小凹部13に蓄積する塗料14の量が多くなり、基板11表面を塗装する上で必要な塗料14の量が増加し、コストパフォーマンスを低下させる要因にもなる。このため、微小凹部13の深さの最大は、30μmとしている。
【0033】
なお、この微小凹部13は、図7に示すように、周端51から底面52にかけて、上に凸の曲面となるように構成されていてもよい。これにより、塗料14を塗布した場合に微小凹部13へ容易に流し込むことが可能となり、各微小凹部13間において塗料14を均等に蓄積することが可能となる。微小凹部13の断面形状は、他の形態に置き換えてもよいことは勿論である。
【0034】
また、微小凹部13に対しても上述した着色が施されることによって、当該微小凹部13から放たれる独自の色彩を感じる場合もある。このため、微小凹部13と微小凹部13以外の領域との間で放たれる色彩の差を感じさせないようにするため、微小凹部13以外の領域を予め研磨するようにしてもよい。
【0035】
なお、微小凹部13の形状は、上述したものに限定される趣旨ではなく、例えば図8(a)に示すように長方形状、図8(b)に示すような三角形状、図8(c)に示すように、多角形状で構成するようにしてもよい。これによって、デザイン性を増した金属板を得ることができる。
【0036】
なお、本発明は、最大径が直径450μm以下であって深さが5〜30μmである複数の微小凹部が形成された金属板上に、上記微小凹部より径大の凸部を設けたことによるエンボス模様を形成し、上記金属板には、その表層に着色塗装を施し、実用時において上記微小凹部以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、上記微小凹部に蓄積した着色塗料により上記着色塗装付きエンボス板全体からその色彩を発揮させる、金属板の色彩発揮方法として具現化されるものであってもよい。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明を適用した金属板1の効果を確認するため、以下に説明する実験を行った。
【0038】
この実験的検討においては、隣接する微小凹部13の間隔A、Bに対する金タワシによる疵付き性を評価した。図8に示すように微小凹部13は、表面22上において互いに上下左右に規則的に配列させ、上下又は左右方向に隣接する微小凹部13との間隔を間隔Aとし、斜め方向に隣接する微小凹部13との間隔を間隔Bとしている。
【0039】
表1は、この間隔A、Bの条件並びにその実験結果を示している。実験は、表1の間隔A、Bに調整された各金属板1について、金タワシで10回擦り、目視でその疵付き性を評価した。疵付き性は、微小凹部13内並びに基板11表面の平坦部においてそれぞれ評価した。疵付き性の評価項目について、“○”は、ほぼ疵が見当たらない場合、“△”は、わずかに疵が確認される場合、“×”は多数の疵が確認される場合、に相当する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から、微小凹部13内は、金タワシで擦っても殆ど疵が付かず塗装も剥離しないため、評価項目は“○”であった。
【0042】
また、表1の結果から、間隔Aが0.15mm以下であり、間隔Bが0.39mm以下である場合に、評価項目は“○”であることが分かった。即ち、微小凹部13間の間隔をより狭めることにより、当該微小凹部13間にある基板11表面の平坦部においても疵付き性を向上させることが可能となる。その理由は、平坦部の間隔が短いため、その部分に付く疵の長さが短くなり認識出来なくなるからである。
【0043】
また、表1の結果から、間隔Aが0.33mm以下であり、間隔Bが0.64mm以下である場合に、評価項目は“△”以上であることが分かった。その理由は、平坦部の間隔が短いため、その部分に付く疵の長さが短くなり認識しづらくなるからである。
【0044】
このため、燐接する各微小凹部の間隔は、0.64mm以下とすることにより、微小凹部13間にある基板11表面の平坦部においても疵付き性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 金属板
11 基板
12 凸部
13 微小凹部
14 塗料
22 表面
41 エンボス模様
【技術分野】
【0001】
着色塗装が施された金属板に関し、特にキッチンのシンクやカウンターの天板等のように食器が接触し、水が頻繁に付着する環境下で使用する上で好適な金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において対面型キッチンの普及により、キッチンやカウンターの天板やシンクは、ダイニングルームやリビングルームからの視界に入る場合が増加している。このため、天板やシンクは、見た目にも美しい外観が特に求められるようになってきている。実際にこの天板やシンクの外観に美しさを出すためには、その表面に塗料を塗布又は吹き付けを行うことによる着色塗装を施す場合が先ず考えられる。
【0003】
ところで、このキッチンのシンク等は、ステンレス鋼板をプレス成形加工することにより製作される。このようなステンレス鋼板は、特に耐久性の面において非常に優れており、しかも耐食性に優れ清潔感を呈することから、シンクの材料として長年の間使用されている。
【0004】
このステンレス鋼板からなるシンク等に対して実際に塗料による着色塗装を施したときに、実際に食器及び器物等がシンクに触れた場合には、塗装表面にスリ疵、カキ疵及び押込み疵等のような様々な疵が付いてしまう。特に従来のシンクは、その表面が極めて平滑な状態となっているため、このような平滑面に疵が付くと塗装が落ちて視覚的に目立ちやすくなるという欠点がある。
【0005】
また、食器及び器物等の洗浄時においては、水滴がシンクの各部位に付着するが、この水滴の中には洗浄された汚物の一部及び洗剤等の物質がある程度含まれている。更に、水道水には、水酸化カルシウム及びマグネシウム等の物質が少量ながら含まれている。このため、洗浄時にシンクに付着した水滴が乾燥すると、その部分が斑点となり、これがシミ状の汚れとなって残存することになる。このため、このようなシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを拭くケースが多くなるが、その金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることとなり、シンクに疵が付着するばかりでなく、かかる表面に塗布されていた塗装が剥げ落ちてしまうという問題点があった。
【0006】
なお、従来においては、かかる表面の疵付き防止性を向上させる観点から、シンクに適用されるステンレス鋼板の表面に特定の微細凹凸をランダムに設ける技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この特許文献1に記載のステンレス鋼板では、その表面において耐疵付性と水滴等の付着による汚染性とを防止するために、高さ3〜50μmの範囲で、かつ長さ25.4mm当たり20〜1000個の範囲で、鋼板の圧延方向に対してランダムに凹凸を突設させている。
【0008】
また、シンクの底面のみに平滑面に突設された複数の半球状の凸部によるエンボス模様を形成し、凸部の頂点の高さ及び凸部間の間隔を最適化した表面保護構造も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この表面保護構造によれば、このエンボス模様に対して各凸部上の一点を介して接触することになり、その接触面積を減らすことで凸部上の線及び面で接触することはなくなる。また、かかる接触に伴う疵も点状に離散させることができるため、視覚的により目立たなくさせることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−137796号公報
【特許文献2】特開2009−191605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1、2に示すようなエンボス模様を形成させたシンクに着色塗装を施す場合、確かに食器及び器物等の接触に伴う疵を視覚的により目立たなくさせることが可能となる。しかしながら、シンク等の表面に付着したシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを拭いた場合、その金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離は依然として生じてしまう。
【0011】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、キッチンのシンクやカウンターの天板として用いられる着色塗装が施された金属板に関し、特に金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離を防止することが可能な金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために、最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装を施し、実用時において上記微小凹部以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、上記微小凹部に蓄積した着色塗料によりその色彩を発揮させる金属板を発明した。
【0013】
本発明を適用した金属板は、上述した課題を解決するために、最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装が施されていることを特徴とする。
【0014】
このとき、上記各微小凹部は、深さが5〜30μmとしてもよいし、微小凹部に径が1000μm〜2000μmの凸部によるエンボス模様を重ねて設けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成からなる本発明によれば、金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることにより、着色塗装の全部又は一部が剥離した場合であっても、微小凹部に残存した塗料により、金属板全体からその色彩を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した金属板の表面を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用した金属板の表面を示す平面図である。
【図3】本発明を適用した金属板の表面を示す側面図である。
【図4】微小凹部のサイズについて説明するための図である。
【図5】微小凹部の内部に塗料が蓄積されている状態を示す図である。
【図6】ステンレス繊維が金属板の表面に擦れることにより、平滑な表面における一部又は全部が剥離した例を示す図である。
【図7】この微小凹部を周端から底面にかけて、上に凸の曲面となるように構成した例を示す図である。
【図8】微小凹部の他の形態について説明するための図である。
【図9】微小凹部間の間隔A、Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態として、キッチンのシンクやカウンターの天板、扉等に用いられる金属板について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明を適用した金属板1の表面を示す斜視図であり、図2はその平面図を、図3はその側面図を示している。
【0019】
金属板1は、複数の微小凹部13が形成された金属製の基板11の表面上に凸部12を設けたことによるエンボス模様を形成させたものである。また、この基板11の表層には、その塗料14による着色塗装が施されている。
【0020】
基板11は、例えばステンレス鋼板であり、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、析出硬化型、二相系のいずれのタイプのものも使用することができる。また、基板11の例としては、このステンレス鋼板以外にチタン、アルミ、銅、鉄、真鍮等を用いるようにしてもよい。
【0021】
凸部12は、基板11における平滑な表面22に複数個に亘って突設されてなる。凸部12の形状は半球状であり、その直径は、後述する微小凹部13よりも径大とされて例えば1000〜2000μmの範囲とすることができ、また、その高さは、0.05〜0.15mmの範囲とすることができる。以下の説明においては、複数の凸部12と各凸部12間の平坦部とを合わせてエンボス模様41という。この凸部12は、表面22横方向及び縦方向において規則的に配列されていることが望ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の凸部12が離散的に形成されていてもよい。但し、このエンボス模様41は、ユーザから視認可能な位置に形成されているため、凸部12が離散的に形成されている場合においても、その意匠性をも確保する必要があるときは、その集合により視覚的な違和感が生じない程度の模様が作り出されていることが望ましい。これにより、複数の凸部12の集合により構成されるエンボス模様41により、システムキッチン2のユーザが視覚的に感じる違和感をなくすことができる。
【0022】
また、エンボス模様の作成方法として、特開2009−136904号公報に記載の方法を用いるなどして、裾野がなだらかなエンボスを適用することができる。
【0023】
微小凹部13は、基板11における平滑な表面22に複数個に亘って窪みを形成するようにしてなる。また微小凹部13は、凸部12においても設けられている。即ち、金属板1を作製する際には、基板11において、先ずこの微小凹部13を形成した後に、凸部12を加工することを前提としている。このため、凸部12においても微小凹部13が形成されていることとなるが、これに限定されるものではない。微小凹部13は、例えば彫刻ロールを使った圧延、プレス、電解研磨、エッチング等により基板11表面に形成させることが可能となる。
【0024】
微小凹部13のサイズは、最大径450μm以下である。ここでいう最大径とは、例えば図4に示すように微小凹部13に外接する外接円の直径に相当するものであり、微小凹部13の直径の中から最大のものをいう。また、この微小凹部13は、深さが5〜30μmの範囲とされている。この微小凹部13は、凸部12と比較して単位面積あたりの個数は大きい。
【0025】
このような凸部12、微小凹部13が設けられた基板11の表層に塗装される塗料14は、従来公知の各種のコーティング材料を用いることができる。この塗料14としては、例えば特許第4012939号記載の親水性塗料や、撥水性塗料や、撥油性塗料や、フッ素系処理剤や、フッ素を含有するフッ素系塗膜材料や、シリカ系塗料、アクリル系樹脂材料、クリアー系塗料(下地の色とは異なる塗料であって、下地の色が透けて見えるようにするものをいう)、その他機能性塗料などを用いることができる。
【0026】
この塗料14に混合する溶媒としては、均等に塗装するためには、レベリング性があるものを用いる必要がある。レべリング性を持たせるためには、界面活性剤や高沸点溶媒などの添加物を加えてもよい。その添加剤は、塗装後の焼成段階で分解・蒸発してしまう揮発性のものが望ましい。例えば、塗料が溶媒としてアルコールを使用している場合、添加剤としてはその必要な沸点を得られる程度にブチルセロソルブを添加することが望ましい。
【0027】
上述した構成からなる金属板1は、製造直後において図3に示すように塗料14が基板11の表面一面に亘って塗布されている状態となっている。この塗料14は、基板11における平滑な表面22、並びに凸部12表面において塗布されている。また、この微小凹部13が設けられている箇所においては、図5に示すように、その微小凹部13の内部に塗料14が蓄積されている状態となっている。
【0028】
しかしながら、このような製造直後の金属板1を例えば、シンクの底面や、カウンターの天板に実用化した場合において、付着したシミ状の汚れを除去するために、金タワシ等でシンクを擦る場合がある。その結果、この金タワシのステンレス繊維が金属板1の表面に擦れることによる疵の付着、塗装の剥離が生じる。図6は、この金タワシのステンレス繊維が金属板1の表面に擦れることにより、平滑な表面22における一部又は全部が剥離した例を示している。このとき、微小凹部13の内部に蓄積した塗料14は、金タワシのステンレス繊維で擦れた場合であっても剥離することなく残存することとなる。
【0029】
したがって、金タワシのステンレス繊維がシンク表面に擦れることにより、着色塗装の全部又は一部が剥離した場合であっても、この微小凹部13に残存した塗料14により、金属板1全体からその色彩を発揮させることが可能となる。
【0030】
なお、この微小凹部13の最大径が450μm超である場合、金タワシのステンレス繊維の径よりも大きくなってしまう。即ち、微小凹部13の径がより大きくなるため、金タワシのステンレス繊維が微小凹部13内に入り込んでしまう場合もあり、その結果、微小凹部13内に蓄積された塗料14に金タワシのステンレス繊維が接触してしまう。そして、微小凹部13内に蓄積された塗料14自体が、かかる金タワシのステンレス繊維の擦れにより、剥離してしまう場合も出てくる。このため、本発明では、微小凹部13の最大径は、450μm以下としている。
【0031】
また微小凹部13の深さが5μm未満であるとき、視覚的に色調が認識できない。このため、微小凹部13の深さの最小値は、5μm以上としている。但し、この塗料14の膜厚は10μm程度になる場合もあるため、かかる塗料14の膜厚分を考慮した場合には、微小凹部13の深さの最小値は10μm以上とすることが望ましい。また、この微小凹部13の深さが20μm以上である場合に、これに蓄積された塗料14による色彩がより顕著に発揮させることから、微小凹部13の深さは20μm以上とされていることが望ましい。
【0032】
また微小凹部13の深さが30μmを超えた場合、基板11自体の機械的強度や耐久性が劣化してしまう。これに加えて、微小凹部13の深さが30μmを超えた場合、当該微小凹部13に蓄積する塗料14の量が多くなり、基板11表面を塗装する上で必要な塗料14の量が増加し、コストパフォーマンスを低下させる要因にもなる。このため、微小凹部13の深さの最大は、30μmとしている。
【0033】
なお、この微小凹部13は、図7に示すように、周端51から底面52にかけて、上に凸の曲面となるように構成されていてもよい。これにより、塗料14を塗布した場合に微小凹部13へ容易に流し込むことが可能となり、各微小凹部13間において塗料14を均等に蓄積することが可能となる。微小凹部13の断面形状は、他の形態に置き換えてもよいことは勿論である。
【0034】
また、微小凹部13に対しても上述した着色が施されることによって、当該微小凹部13から放たれる独自の色彩を感じる場合もある。このため、微小凹部13と微小凹部13以外の領域との間で放たれる色彩の差を感じさせないようにするため、微小凹部13以外の領域を予め研磨するようにしてもよい。
【0035】
なお、微小凹部13の形状は、上述したものに限定される趣旨ではなく、例えば図8(a)に示すように長方形状、図8(b)に示すような三角形状、図8(c)に示すように、多角形状で構成するようにしてもよい。これによって、デザイン性を増した金属板を得ることができる。
【0036】
なお、本発明は、最大径が直径450μm以下であって深さが5〜30μmである複数の微小凹部が形成された金属板上に、上記微小凹部より径大の凸部を設けたことによるエンボス模様を形成し、上記金属板には、その表層に着色塗装を施し、実用時において上記微小凹部以外に塗布された着色塗装の一部又は全部が剥離した場合であっても、上記微小凹部に蓄積した着色塗料により上記着色塗装付きエンボス板全体からその色彩を発揮させる、金属板の色彩発揮方法として具現化されるものであってもよい。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明を適用した金属板1の効果を確認するため、以下に説明する実験を行った。
【0038】
この実験的検討においては、隣接する微小凹部13の間隔A、Bに対する金タワシによる疵付き性を評価した。図8に示すように微小凹部13は、表面22上において互いに上下左右に規則的に配列させ、上下又は左右方向に隣接する微小凹部13との間隔を間隔Aとし、斜め方向に隣接する微小凹部13との間隔を間隔Bとしている。
【0039】
表1は、この間隔A、Bの条件並びにその実験結果を示している。実験は、表1の間隔A、Bに調整された各金属板1について、金タワシで10回擦り、目視でその疵付き性を評価した。疵付き性は、微小凹部13内並びに基板11表面の平坦部においてそれぞれ評価した。疵付き性の評価項目について、“○”は、ほぼ疵が見当たらない場合、“△”は、わずかに疵が確認される場合、“×”は多数の疵が確認される場合、に相当する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から、微小凹部13内は、金タワシで擦っても殆ど疵が付かず塗装も剥離しないため、評価項目は“○”であった。
【0042】
また、表1の結果から、間隔Aが0.15mm以下であり、間隔Bが0.39mm以下である場合に、評価項目は“○”であることが分かった。即ち、微小凹部13間の間隔をより狭めることにより、当該微小凹部13間にある基板11表面の平坦部においても疵付き性を向上させることが可能となる。その理由は、平坦部の間隔が短いため、その部分に付く疵の長さが短くなり認識出来なくなるからである。
【0043】
また、表1の結果から、間隔Aが0.33mm以下であり、間隔Bが0.64mm以下である場合に、評価項目は“△”以上であることが分かった。その理由は、平坦部の間隔が短いため、その部分に付く疵の長さが短くなり認識しづらくなるからである。
【0044】
このため、燐接する各微小凹部の間隔は、0.64mm以下とすることにより、微小凹部13間にある基板11表面の平坦部においても疵付き性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 金属板
11 基板
12 凸部
13 微小凹部
14 塗料
22 表面
41 エンボス模様
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装が施されていることを特徴とする金属板。
【請求項2】
上記各微小凹部は、深さが5〜30μmであること
を特徴とする請求項1記載の金属板。
【請求項3】
上記微小凹部に、径が1000μm〜2000μmの凸部によるエンボス模様を重ねて設けたこと
を特徴とする請求項1又は2記載の金属板。
【請求項1】
最大径450μm以下である複数の微小凹部が形成された金属板であって、隣接する上記各微小凹部の間隔が640μm以下になるように上記微小凹部を配置し、上記金属板の表層には、着色塗装が施されていることを特徴とする金属板。
【請求項2】
上記各微小凹部は、深さが5〜30μmであること
を特徴とする請求項1記載の金属板。
【請求項3】
上記微小凹部に、径が1000μm〜2000μmの凸部によるエンボス模様を重ねて設けたこと
を特徴とする請求項1又は2記載の金属板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−52290(P2012−52290A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193176(P2010−193176)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【Fターム(参考)】
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