説明

金属熱処理炉

【課題】 ランニング・コストを低廉化することができるとともに、冷却速度を高めることが可能な金属熱処理炉を実現する。
【解決手段】 ピッチが調整自在のコイルに高周波電流を流すことにより発熱するカーボンを用いた発熱体を備える加熱部20を、加熱室10内に配設する。加熱室10の下方に、発熱体により加熱された被加熱金属を冷却するための冷却室80を、連結部60を介して加熱室10と連通するようにして配設する。被加熱金属を支持して加熱室10内に進入可能な水冷昇降軸90を、冷却室80の底部を貫通して配設する。水冷昇降軸90により支持されて加熱室10内から冷却室80内に移動した、加熱された被加熱金属を冷却するガスを冷却室80内に導入するガス導入管81を、冷却室80に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属熱処理炉に関する。具体的には、金属を一定時間高温に保持した後に急速に冷却する処理を施す金属熱処理炉であって、ランニング・コストを低廉化することができるとともに、冷却速度を高めることが可能な金属熱処理炉を提供せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、Ni(ニッケル)基超耐熱合金では、γ(ガンマ:合金マトリックス)およびγ’(ガンマプライム:NiAl)が整合配列した組織を示す場合に、その強度は最大に生かされる。この最大の強度をもたらすγ/γ’の整合組織を得るためには、合金の融点ぎりぎりの温度(1350℃程度)にまで上げ、かつ、均質化のため一定時間(40時間程度)保持したうえで、その後、急冷する熱処理方法が必要である。その場合、冷却速度が速いほど高温時に形成された精度の高い整合組成が保たれるため、合金強度は優れる傾向が見られる。
【0003】
そこで、従来より、合金を高温に加熱した後急冷する手段として、抵抗発熱型ガス冷却式真空熱処理炉(ガスファンクーリング炉)が用いられており、その構成例を図10に示し説明する。ここで、図10は、この従来例の構成を概略的に示す、一部を断面表示した正面図である。
【0004】
図10において、加熱室100は、密閉した円缶状に形成されており、その内部に、複数の棒状の抵抗発熱体111が、円柵状に配設されている。ここにおける抵抗発熱体111の素材には、W(タングステン)やMo(モリブデン)などが用いられる。
【0005】
また、複数の抵抗発熱体111を囲むようにして、それぞれ径が異なる円筒状の熱遮蔽板121〜123が三重に配設されるとともに、熱遮蔽板121〜123の上下開口を覆うようにして円板状の熱遮蔽板131〜133が配設されている。これらの熱遮蔽板121〜123,131〜133にも、WやMoなどが素材として用いられる。
【0006】
このような構成による熱処理炉を用いて合金を融点温度近くまで加熱する場合は、複数の抵抗発熱体111により囲まれる空間の中央部に、被加熱合金Aを配置したうえで、加熱室100内を真空にする。そこで、各抵抗加熱体111に電流を流すと、各抵抗発熱体111はジュール熱を発生し、これを熱源とし輻射熱を利用して被加熱合金Aを融点近くの温度にまで上げ、この状態を一定時間にわたって保持する。
【0007】
一定時間が経過したならば、各抵抗発熱体111への通電を停止するとともに、図示されてはいないガス吹込み口を介して、高純度のHe(ヘリウム)ガスあるいはAr(アルゴン)ガスを冷却ガスとして加熱室100内に供給し、これを被加熱合金Aに吹き付けて冷却する。供給された冷却ガスが加熱室100内に充満すると、ファン(図示せず)を駆動して冷却ガスを強制的に撹拌する。
【0008】
このように、この従来例では、抵抗発熱体111および熱遮蔽板121〜123,131〜133の素材としてWやMoなどを用い、また、同一空間内で被加熱合金Aの加熱と、加熱された被加熱合金Aの冷却とを行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−218144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図10に示した従来例は、熱処理炉としては構成が簡易であるものの、つぎのような解決すべき課題がある。すなわち、第1に、合金強度は、加熱と冷却のサイクルを繰り返すほど高められるが、抵抗発熱体111および熱遮蔽板121〜123,131〜133の素材として用いられるWやMoは、加熱と冷却のサイクルを繰り返すと、その損耗が大きく、使用頻度が多い場合は、約1年程度の使用で交換が必要となる。
【0011】
しかし、WやMoはレア・メタルであり、極めて高価である。抵抗発熱体111および熱遮蔽板121〜123,131〜133を交換する場合は、熱処理炉の価格の50%程度のコストを要する。したがって、図10に示した従来例によると、コスト要因となるHeガスあるいはArガスを冷却ガスとして使用している点も含めて、ランニング・コストが極めて高くなってしまうことになる。
【0012】
第2に、図10に示した従来例では、被加熱合金Aの加熱と、加熱された被加熱合金Aの冷却とを同一空間内で行っている。すなわち、一定時間にわたって加熱された被加熱合金Aを冷却するときは、加熱されて高温となっている加熱室100内に、冷却ガスを供給するようにしている。そのため、冷却ガスによる被加熱合金Aの冷却速度が遅く、例えば、1300℃付近から冷却する場合、冷却速度は、最大でも150℃/分であり、冷却速度としては不充分である。
【0013】
前述のように、冷却速度が速いほど優れた合金強度が得られるものである。しかし、被加熱合金Aの加熱と、加熱された被加熱合金Aの冷却とを同一空間内で行うと、冷却速度が遅いため被加熱合金Aの強度を充分に発揮することができないことになる。以上のような解決すべき課題が、図10に示した従来例にはあった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決するために、本発明はなされたものである。そのために、本発明では、ピッチが調整自在のコイルに高周波電流を流すことにより発熱するカーボンを用いた発熱体を、加熱室内に配設する。加熱室の下方に、発熱体により加熱された被加熱金属を冷却するための冷却室を、加熱室と連通するようにして配設する。被加熱金属を支持して加熱室内に進入可能な水冷昇降軸を、冷却室の底部を貫通して配設する。水冷昇降軸により支持されて加熱室内から冷却室内に移動した、加熱された被加熱金属を冷却するガスを冷却室内に供給する。以上のような手段を、本発明では用いるようにした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるならば、安価であり消耗も微少量であるカーボンを発熱体として用い、これを誘導加熱方式により発熱させるとともに、加熱室と冷却室とを別空間にし、冷却ガスとして低価格のN(窒素)ガスも使用し得るようにしたので、熱処理炉を稼働させた場合のランニング・コストを著しく低廉なものとすることができる。数年間使用しても、熱電対以外の消耗品の交換の必要はほとんどない。
【0016】
また、発熱体にカーボンを用いることにより、最高使用温度を1700℃以上にすることができるうえに、誘導コイルのピッチを被加熱合金のサイズや形状などに応じて調整し得るようにしていることから、均熱性すなわち加熱空間における温度分布の均一性を、±5℃の範囲で確保することができる。
【0017】
さらに、加熱室と冷却室とを、同一空間とするのではなく別空間として形成して、加熱された被加熱合金を、高温となっている加熱室から加熱されていない冷却室内に移動させて冷却する結果、高い冷却速度を得ることができ、高強度の合金を実現することが可能となる。したがって、本発明によりもたらされる効果は、実用上極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例の構成を示す、一部を断面表示した正面図である。
【図2】図1に示した加熱部の構成を拡大表示した断面図である。
【図3】図1に示した水冷昇降軸を下降させた場合の様子を示す構成図である。
【図4】図3に示した誘導コイルを支持するための構成を示す部分斜視図である。
【図5】図5に示した誘導コイルを支持する構成要素の構成を示す構成図である。
【図6】図3に示した誘導コイルのピッチを等しくした場合の、加熱部内の温度分布を説明するための説明図である。
【図7】図1に示した金属熱処理炉により被加熱合金を加熱している状態を説明するための説明図である。
【図8】図1に示した金属熱処理炉により被加熱合金を冷却している状態を説明するための説明図である。
【図9】加熱された被加熱合金を冷却するための他の構成を示す部分断面図である。
【図10】従来例の構成を示す、一部を断面表示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による金属熱処理炉は、ピッチが調整自在のコイルに高周波電流を流すことにより発熱するカーボン製の発熱体を、被加熱金属を加熱する手段として加熱室内に配設する。加熱室の下方に、加熱された被加熱金属を冷却するための冷却室を設ける。加熱室と冷却室は、中空の連結部により連結し、加熱室と冷却室を仕切って両者の雰囲気を分離するための真空ゲート弁を連結部に設ける。加熱室内の下部に、加熱室からの熱を遮蔽する可動の熱遮蔽板を配設するとともに、冷却室内の上部に、真空ゲート弁に加わる、加熱された被加熱金属からの熱を遮蔽するための可動の熱遮蔽板を配設する。被加熱金属を支持して加熱室内に進入可能な水冷昇降軸を、冷却室の底部を貫通して配設する。冷却用のガスを冷却室内に導入するための、内部にガスを圧送するファンを備えたガス導入管と、冷却室内に導入されたガスを外部に排出するためのガス排出管を、冷却室に設ける。ガス導入管およびガス排出管のうちの少なくとも一方の内部に、ガスと熱交換するための熱交換器を配設する。以下、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の一実施例の構成を、図1に示し説明する。ここで、図1は、本実施例における金属熱処理炉の構成を示す、一部を断面表示した正面図である。
【0021】
図1において、本実施例における金属熱処理炉は、被加熱合金を加熱するための加熱部20が内部に設けられた円缶状の加熱室10の下方に、加熱された被加熱合金を冷却するための円缶状の冷却室80が、加熱室10と軸心を同一にして配設され、両者は、円筒状の中空の連結部60を介して連結されている。
【0022】
連結された加熱室10の側壁・底壁および冷却室80の上壁・側壁・底壁、両者を連結する連結部60の側壁は、それぞれ二重構造となっており、その空隙部内に冷却水が供給されるようになっている。また、冷却室80の底部を貫通し、内部に冷却水が流通する昇降可能なパイプ状の水冷昇降軸90が、加熱室10内に進入し得るようになっている。
【0023】
上方の加熱室10内に配設された加熱部20は、本発明では誘導加熱方式を用いており、その構成について、加熱部20を拡大表示した図2(断面図)により説明する。
【0024】
図2において、21は、素材に高純度のカーボンを用いて円筒状に形成された発熱体であり、その上部開口は、同じく高純度のカーボンを用いた円板状の発熱体22により塞がれている。また、下部開口は、図3に示されているように、水冷昇降軸90の上端に取り付けられた、被加熱合金を支持するための円板状の支持台91(素材はムライト)と、円板状の断熱材27との間に介装された、高純度のカーボンを用いた円板状の発熱体23により、水冷昇降軸90が上昇したときに塞がれるようになっている。
【0025】
図2において、円筒状の発熱体21の外周壁は、円筒状の断熱材24により囲まれ、上部の円板状の発熱体22の上面は、円板状の断熱材26より覆われている。下部の円板状の発熱体23(図3)の下面は、図3に示したように、円板状の断熱材27により覆われている。各断熱材24,26,27の素材には、本実施例ではカーボン・フェルトを用いている。なお、円筒状の発熱体21は、円筒状の断熱材24の下方に連設された平面形状がリング状の断熱材25により支持され、この断熱材25は、図1では図示を省略している、4つの脚部を有する平面形状がリング状の基台40により支持されている。
【0026】
発熱体21を囲む円筒状の断熱材24は、素材にムライトを用いた円筒状の外筒28により囲まれ、外筒28の周囲には、外筒28の高さ方向にわたって誘導コイル31が配設されている。誘導コイル31は、図1では図示を省略している細板状のコイル支持具32a,32bにより支持されている。
【0027】
図4(部分斜視図)は、コイル支持具32a,32bにより誘導コイル31を支持するための構成を示している。図示するように、コイル支持具32aには、スリット33が設けられており、図5(a)に示すように、側面形状が凸字状の可動ノブ34の軸部36が、スリット33に嵌合して摺動し得るようになっている。可動ノブ34の軸部36は、図5(b)に示すように、ろう付けにより誘導コイル31に固着されている。
【0028】
したがって、可動ノブ34の頭部35(図5(a))をつまんで可動ノブ34を上下方向において移動させれば、誘導コイル31が移動するので、そのピッチを自在に調整することができることになる。なお、図5(c)(平面図)に示すように、コイル支持具32a〜cは、外筒28の周方向において等間隔に3つ配設され、それぞれの下端部が、基台40(図2)に固定されている。
【0029】
ここで、誘導コイル31のピッチをすべて等しくすると、加熱部20内部の空間における温度分布は均一とはならず、均熱性を確保することができない。すなわち、誘導コイル31のピッチがすべて等しい場合は、図6に示すように、破線の平行斜線で示す中層の部位Bが、最も温度が高く、1点鎖線の平行斜線で示す上層の部位Aは、中層の部位Bよりは温度が低く、2点鎖線の平行斜線で示す部位Cは、上層の部位Aよりもさらに温度が低くなる。これは、上層の部位Aは、外筒28(図2)の上部が開口しているため熱が上方に逃げるとともに常温の大気に近いこと、下層の部位Cは、内部に冷却水が流通する水冷昇降軸90(図1)が近接することによる。
【0030】
そこで、誘導コイル31のピッチが狭いほど加熱温度が高まることから、中層の部位Bに対しては、図2に示されているように、誘導コイル31のピッチは広くし、上層の部位Aに対しては、ピッチをやや狭くし、下層の部位Cに対しては、部位Aに対するよりもさらにピッチを狭くしている。
【0031】
この誘導コイル31のピッチの具体的な設定値は、被加熱合金のサイズや形状などにより異なるものである。したがって、ピッチを設定する場合は、あらかじめピッチをすべて等しくした状態で被加熱合金を加熱したうえで、加熱部20内部の空間における温度分布を測定し、得られた測定値に基づいてピッチを設定するようにする。
【0032】
このように、被加熱合金のサイズや形状などに応じて誘導コイル31のピッチを設定すれば、温度制御が容易ではないため用途が限られていた誘導加熱方式であっても、金属の熱処理において充分に有効性を発揮することが可能となる。
【0033】
図1において、以上のような構成の加熱部20が内部に設けられた加熱室10の下端部には、加熱室10からの放射熱を遮蔽するための、図面上で左右方向において移動可能な熱遮蔽板50aが配設されている。また、加熱室10と下方の冷却室80とを連結する連結部60の中間の部位には、加熱室10と冷却室80とを仕切って両者の雰囲気を分離するための、円板状の可動のゲート71を備えた真空ゲート弁70が配設されている。
【0034】
他方、冷却室80の上端部にも、図面上で左右方向において移動可能な熱遮蔽板50bが配設されている。ここにおける熱遮蔽板50bは、加熱室10の下端部に配設された熱遮蔽板50aと相まって、耐熱性がさほど高くない真空ゲート弁70を保護するためのものである。
【0035】
さらに、冷却室80の側面部には、冷却室80内に冷却用のガスを導入するためのガス導入管81が開口して備えられ、その内部には、ガスを圧送するためのファン82と、ガスを冷却するための熱交換器83aが配設されている。また、このガス導入管81と対向する位置の冷却室80の側面部には、冷却室80内に導入されたガスを外部に排出するためのガス排出管84が開口して備えられ、その内部に熱交換器83bが配設されている。冷却室80内に導入されるガスは、冷却室80より排出されるガスを循環して使用する。なお、熱交換器83a,83bは、ガス導入管81およびガス排出管84の双方ではなく、いずれか一方に配設するようにしてもよい。
【0036】
図7は、以上のように構成された熱処理炉を使用して被加熱合金を加熱している状態を示している。被加熱合金Aを加熱する場合は、水冷昇降軸90を上昇させて、その上端に固定された、被加熱合金を支持する支持台91を、加熱室10内に配設された加熱部20内部の空間内に進入させたうえで、被加熱合金Aを支持台91上に搭載する。支持台91への被加熱合金Aの搭載は、加熱室10の円板状の上部蓋11をはずして行う。所要の作業が完了したならば、加熱室10内に開口する、図示されてはいない排気口を介して排気をして、加熱室10および冷却室80内を真空にする。
【0037】
そこで、周波数が例えば1kHzの高周波電流を誘導コイル31に流して、加熱部20の内部を例えば1300℃程度に加熱する。このとき、誘導コイル31のピッチは、等間隔ではなく、加熱部20内部の温度分布が均一となるように調整されており、これにより、均熱性が±5℃の範囲で確保されている。
【0038】
この状態で、一定の時間が経過したならば、図8に示すように、水冷昇降軸90を下降させて被加熱合金Aを冷却室80内に移動させる。同時に、各熱遮蔽板50a,50bおよび真空ゲート弁70のゲート71を、それぞれ張り出させる。
【0039】
そこで、ファン82の駆動のもとに、ガス導入管81を介する冷却用のガスを、熱交換器83aを通して冷却室80内に送り込んで、被加熱合金Aを冷却する。冷却室80内に送り込まれたガスは、ガス排出管84の開口部に配設された熱交換器83bにより冷却されて、冷却室80より排出された後、循環してガス導入管81に導かれて冷却室80内に送り込まれる。
【0040】
ここで、冷却用のガスは、HeガスやArガスなどの不活性ガスに限られない。図10に示した従来例では、例えば、Nガスは、素材がWやMoである抵抗発熱体211を損傷する危険性があるため用いることができない。しかし、本発明による熱処理炉の冷却室80内では、そのような危険性はないことから、安価なNガスを用いることが可能である。
【0041】
このようにして冷却室80内で冷却される被加熱合金Aの冷却速度は、本願発明者が行った実験によれば、加熱温度が1350℃付近の場合で400℃/分である。したがって、図10に示した従来例によった場合の冷却速度が最大150℃/分であるのと比較して、極めて高い冷却速度を実現することができることになる。
【0042】
なお、本発明による熱処理炉は、鋼鉄などの金属の熱処理にも使用することができるが、鋼鉄などの浸炭を嫌う金属を熱処理する場合は、発熱体21〜23に用いるカーボンにSiC(炭化珪素)のコーティングを施すことにより対処することができる。
【0043】
以上においては、発熱体21を円筒状に形成し、上下開口を塞ぐ発熱体22,23を円板状に形成したものを、例に挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。その他にも、例えば、発熱体を角筒状に形成し、上下開口を塞ぐ発熱体を開口の形状に対応した形状に形成する場合についても、本発明は適用され得るものである。
【0044】
また、加熱された被加熱合金Aを冷却するための構成として、冷却室80に、ガス導入管81、ファン82、ガス排出管84および熱交換器83a,83bを配設する場合について説明した。しかし、本発明は、これに限られるものではない。例えば、図9(部分断面図)に示すように、冷却室80B内の上部に張り出す熱遮蔽板50bの下方に、平面形状がリング状のガス供給管85を配し、その下面に、冷却用のガスを円錐状に噴出する多数のノズル86を、それぞれが破線で示す被加熱合金Aを指向するように、所定の角度(例えば、45°)をもって付設するとともに、冷却室80B内の下部に開口するガス排出管87を設ける構成としてもよい。
【0045】
さらに、冷却室80内に冷却用のガスを導入する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本願発明者が行った実験によれば、冷却用のガスを使用しなくても、加熱された被加熱合金Aの冷却速度は、加熱温度が1300℃付近の場合で300℃/分以上であり、図10に示した従来例によった場合よりも高い冷却速度を得ることができる。したがって、冷却室80へのガス導入管81、ファン82、ガス排出管84および各熱交換器83a,83bの配設を省略しても、ランニング・コストの低廉化とともに本発明の目的である冷却速度の向上化を達成することができるものである。
【符号の説明】
【0046】
10 加熱室
11 上部蓋
20 加熱部
21〜23 発熱体
24〜27 断熱材
28 外筒
31 誘導コイル
32a〜32c コイル支持具
33 スリット
34 可動ノブ
35 頭部
36 軸部
40 基台
50a,50b 熱遮蔽板
60 連結部
70 真空ゲート弁
71 ゲート
80,80B 冷却室
81 ガス導入管
82 ファン
83a,83b 熱交換器
84 ガス排出管
85 ガス供給管
86 ノズル
87 ガス排出管
90 水冷昇降軸
91 支持台
100 加熱室
111 抵抗発熱体
121〜123,131〜133 熱遮蔽板
A 被加熱合金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチが調整自在に支持されたコイル(31)および前記コイルに電流が流れることにより発熱するカーボンを用いた発熱体(21〜23)を含む加熱部(20)が配設された、被加熱金属(A)を加熱するための加熱室(10)と、
前記加熱部により加熱された前記被加熱金属を冷却するための、前記加熱室の下方に配設された冷却室(80)と、
前記加熱室と前記冷却室とを仕切る可動のゲート(70)が配設された、前記加熱室と前記冷却室とを連結するための中空の連結部(60)と、
前記加熱室内の下部に配設された、前記加熱室からの熱を遮蔽するための第1の可動の熱遮蔽板(50a)と、
前記冷却室内の上部に配設された、前記ゲートに加わる前記加熱された前記被加熱金属からの熱を遮蔽するための第2の可動の熱遮蔽板(50b)と、
前記冷却室の底部を貫通して配設された、前記被加熱金属を支持して前記加熱室内に進入可能な水冷昇降軸(90)とを
を具備した金属熱処理炉。
【請求項2】
前記冷却室が、
前記水冷昇降軸により支持されて前記加熱室内から前記冷却室内に移動した前記加熱された被加熱金属を冷却するガスを前記冷却室内に導入するための、内部に前記ガスを圧送するファン(82)が配設されたガス導入管(81)と、
前記ガス導入管により前記冷却室内に導入された前記ガスを前記冷却室内より排出するためのガス排出管(84)とを備えるとともに、
前記ガス導入管および前記ガス排出管のうちの少なくとも一方の内部に前記ガスと熱交換するための熱交換器(83a,83b)が配設された
ものである請求項1記載の金属熱処理炉。
【請求項3】
前記冷却室が、
前記加熱された被加熱金属を冷却するガスを供給するためのリング状のガス供給管(85)に前記ガス供給管を介して供給される前記ガスを噴出するための多数のノズル(86)が付設されたものと、
前記ノズルを介して噴出された前記ガスを排出するためのガス排出管(87)とを
備えたものである請求項1記載の金属熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−281534(P2010−281534A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136824(P2009−136824)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(592115825)日新技研株式会社 (10)
【Fターム(参考)】