説明

金属積層用ポリイミドフィルム、製造方法および金属積層板

【課題】接着剤に影響を与えず、優れた接着性改善効果が安定的かつ安価に得られる金属積層用ポリイミドフィルム、その製造方法および金属積層板を提供する。
【解決手段】表面を擦過処理することによりスジ状凹凸を形成してなるポリイミドフィルムの前記擦過処理面に、接着剤を積層してなることを特徴とする金属積層用ポリイミドフィルムであり、また、表面に微細な研磨材粒子がコーティングされた研磨テープでポリイミドフィルムの表面を擦過処理し、このポリイミドフィルムの擦過処理面に接着剤を積層する金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法であり、さらにはこれらの金属積層用ポリイミドフィルムの接着剤層の上に金属箔を積層した金属積層板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムと金属箔との接着性を改善した金属積層用ポリイミドフィルム、製造方法およびそのポリイミドフィルムを用いた金属積層板に関し、更に詳しくは、接着剤に影響を与えず、優れた接着性改善効果が安定的かつ安価に得られる金属積層ポリイミドフィルム、製造方法およびそのポリイミドフィルムを用いた金属積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、絶縁性、耐熱性、電気特性、機械的特性に優れていることが知られていることから、電線の電気絶縁材、断熱材、フレキシブル回路基板(FPC)のベースフィルム、ICのテープオートメーティドボンディング(TAB)用キャリヤテープのベースフィルム、ICのリードフレーム固定用テープなどに広く利用されている。このうち,FPC、TAB用キャリヤテープ、リードフレーム固定用テープなどの用途においては、通常、種々の接着剤を介してポリイミドフィルムと銅箔とが接着されて用いられている。
【0003】
ところが、ポリイミドフィルムは、その化学構造及び高度な耐薬品(溶剤)安定性により、銅箔との接着性が不十分な場合が多いことから、現状ではポリイミドフィルムに後処理として各種の表面処理を施す必要があった。
【0004】
この表面処理の具体例としては、例えば、サンドブラスト処理(例えば、特許文献1参照)、コロナ放電処理(例えば、特許文献2参照)、プラズマ処理(例えば、特許文献3参照)、およびアルカリ処理(例えば、特許文献4参照)などが知られており、これらの処理を施した後、ポリイミドフィルムの処理面に接着剤を介して銅箔を接着していた。
【0005】
しかしながら、例えばアルカリ処理、サンドブラスト処理などでは、ポリイミドフィルムの製膜後、アルカリ処理などの各処理を施した後、更に洗浄、乾燥などの別工程を要することから、生産性、安定性、コストの面だけでなく、環境保全面でも問題を含んでいた。
【0006】
また、最近では、コロナ放電処理、プラズマ処理が接着性改善の目的に提案されて相応の効果が得られてはするが、処理後の接着力の長期安定性に欠けるために、比較的短期間に使用するなどの制約やプラズマ処理においては高電圧のエネルギ−、雰囲気ガスとしてテトラフルオルトメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体等を使用するために、設備コスト面、ランニングコストの増加、処理の不均一化、環境保全面で問題があった。
【特許文献1】特開平8−34866号公報
【特許文献2】特開平7−330930号公報
【特許文献3】特開平2003−55487号公報
【特許文献4】特開平8−12779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、接着剤に影響を与えず、優れた接着性改善効果が安定的かつ安価に得られる金属積層用ポリイミドフィルム、製造方法およびそのポリイミドフィルムを用いた金属積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ボリイミドフィルムの表面にある特定の擦過処理を施すことにより、低コストで安定して実用的に十分な程度にまで接着力が改善された金属積層用ポリイミドフィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、上記の目的を達成するために本発明によれば、表面を擦過処理することによりスジ状凹凸を形成してなるポリイミドフィルムの前記擦過処理面に、接着剤をを積層してなることを特徴とする金属積層用ポリイミドフィルムが提供される。
【0011】
なお、本発明の金属積層用ポリイミドフィルムにおいては、
前記擦過処理面のJIS B―0601(2001)に準じて測定したフィルム表面粗さRzが0.7〜10μmにあること、
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の高低差が0.05〜10μmの範囲にあること、
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の高低差の最大高さRyが4〜10μmの範囲にあること、
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の最大幅が0.1〜20μmの範囲にあること、および
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の数が0.1〜10000本/mmの範囲にあること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0012】
また、上記本発明の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法は、
表面に微細な研磨材粒子がコーティングされた研磨テープでポリイミドフィルムの表面を擦過処理し、このポリイミドフィルムの擦過処理面に接着剤を介して金属箔を積層することを特徴とし、
前記研磨材粒子が、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、ダイヤモンドの各粒子のいずれかであること、
前記研磨材粒子の粒度が0.1〜100μmであること、
1段階目で粒度0.1μm以上10μm未満の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理した後、2段階目で粒度10μm以上100μm以下の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理すること、および
1段階目で粒度10μm以上100μm以下の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理した後、2段階目で粒度0.1μm以上10μm未満の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理すること
が、いずれも好ましい条件である。
【0013】
また、金属積層板としては、これらの金属積層用ポリイミドフィルムの接着剤層の上に金属箔を積層した金属積層板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記に説明するとおり、優れた接着性改善効果が安定的かつ安価に得られる金属積層用ポリイミドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明で使用されるポリイミドフィルムの例としては、芳香族テトラカルボン酸としてピロメリット酸二無水物および芳香族ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの4成分から得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの3成分から得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンの3成分から得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp−フェニレンジアミンから得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および4,4’−オキシジアニリンから得られるポリアミド酸から製造されたポリイミドフィルム等が挙げられる。ポリアミド酸からポリイミドへの脱環化は化学的閉環法、熱的閉環法のいずれでも構わない。また加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物を含有することも可能である。
【0017】
ポリイミドフィルムの厚みは3〜200μmであることが望ましい。厚みが3μm未満では形状を保持することが困難となり、また200μmを越えると屈曲性に欠けるため、フレキシブル回路基板用途には不向きである。またポリイミドフィルムの寸法安定性を向上させるために、アニール処理等により低熱収縮化処理を行っても良い。
【0018】
本発明で使用するポリイミドフィルムは、表面を擦過処理することによりスジ状凹凸を形成していることが必要である。
【0019】
スジ状凹凸とは、フィルムの表面に凹部と凸部が連続して表面に存在することを言う。代表的な形状のスジ状凹凸を有するフィルムの断面図を図5に示す。図において、9は本来のフィルムの表面位置を示し、8は凹部、7は凸部である。凹凸の高低差5は凸部7の頂点と凹部8の頂点の長さを計測した値である。なお、図5の凹凸は凹部を長目に示して描いているが、凹凸のパターンはこれのみに限るものではなく、凸部が極めて低くフィルム表面位置9からあまり盛り上がらない場合もある。本発明のフィルムは、表面にこのようなスジ状凹凸が多数存在する。多数のスジ状凹凸の中には高低差の大きいもの(溝が深いもの)や高低差が小さいもの(溝が浅いもの)が存在するが、それらの高低差は0.05〜10μmの範囲にあることが必要である。スジ状凹凸の高低差が0.05μm未満のものが多数存在するとフィルムと金属箔との接着性が悪化し、また10μmを超えるものが存在するとフィルムの機械特性が悪化するという好ましくない傾向が招かれることがある。
【0020】
本発明で使用するポリイミドフィルムは、JIS B−0601(2001)に準じて測定したフィルム表面粗さRzが0.7〜10μmであることが好ましく、2〜9μmがさらに好ましく、3〜8μmがよりさらに好ましい。ここで示すフィルム表面粗さRzとは、JIS B−0601(2001)「表面粗さ」に基づき、レーザー顕微鏡により測定した値であり、実際にはレーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE2」モードにてフィルム表面を撮影後、三谷商事(株)製SALTにて、粗さ曲線を作成する時のカットオフ値を0.025mmに設定して、拡張表面粗さ0.01mm2以上の面積を解析し、Rz(十点平均粗さ)の値を読み取った値である。これらの特性は、フィルム表面上に特定のスジ状の凹凸を付与することによって得ることができる。
【0021】
また、スジ状凹凸は、その高低差の最大高さRyが4〜10μmの範囲にあることが好ましい。ここでの最大高さRyは、具体的にはレーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE2」モードで撮影後のSALTでの拡張表面粗さ0.01mm以上の面積での解析による最大高さRyで確認した値である。最大高さ4〜10μmのスジ状の凹凸が存在すると、フィルムと金属箔との接着性がさらに向上するので好ましい。
【0022】
さらに、スジ状の凹凸の幅は、0.1〜20μmの範囲に調整させることが好ましく、0.1〜10μmの範囲に調整させることがより好ましい。ここでのスジ状の凹凸の幅は図5の6を計測した値である。この範囲より下回るとフィルムと金属箔との接着性が悪化し、上回るとフィルムの機械特性が悪化するので好ましくない。
【0023】
殊さらには、スジ状の凹凸の数を、0.1〜10000本/mmの範囲に調整することが好ましく、10〜1000本/mmに調整することがより好ましく、100〜500本/mmに調整することがさらにより好ましい。この範囲を下回るとフィルムと金属箔との接着性が悪化するので好ましくなく、この範囲を上回るとフィルムの機械特性が悪化するので好ましくない。
【0024】
ポリイミドフィルムの表面へ上記のスジ状凹凸を付与するに際しては、表面に微細な研磨材粒子がコーティングされた研磨テープでポリイミドフィルムの表面を擦過処理することが必要である。
【0025】
例えば、図1〜図4に示すように、ポリイミドフィルムに研磨テープを接触させて走行させることによって、スジ状凹凸を形成することができる。
【0026】
図1において、ポリイミドフィルムは巻出しロール1から送り出され、走行方向に対して逆方向に回転している研磨ロール3の表面を擦過しながら巻取りロール2に巻き取られる。
【0027】
図2では、巻出しロール1を出たポリイミドフィルムは逆方向に回転している研磨ロール3と押さえロール4との間を擦過しながら通り、巻取りロール2に巻き取られる。この時の面圧は1〜10kg/500mmが好ましい。
【0028】
図3では、巻出しロール1を出たポリイミドフィルムは2個の逆方向に回転している研磨ロール3、3’との間を擦過しながら通り、巻取りロール2に巻き取られる。ここでは面圧を高くするとフィルムの走行が困難となるので0.1〜5kg/500mmに面圧を設定しておくことが好ましい。
【0029】
さらには、研磨処理を2回以上連続して処理する時には図4のように並べて処理することも可能である。
【0030】
フィルムの片面のみを処理する場合は図1、図2あるいは図4のような方式で処理することができるが、図2あるいは図4の方が研磨ロールをフィルムに接触させる時の圧力をコントロールでき、効率的に凹凸を付与できるので好ましい。フィルムの両面を処理する場合は図3のように処理することによって得ることができる。これらの処理をする際にフィルムに与える張力としては10〜50N/mの範囲で調整することが好ましく、また処理速度は5〜40m/minの範囲で調整することが好ましい。
【0031】
研磨ロールは表面が硬く、粗い状態のものであればよいが、テープに研磨剤をコーティングした研磨テープを通常のロールに貼り付けたものも使用可能である。研磨テープとしては、例えばPETフィルムをベースとし、その上に研磨材粒子がコーティングされている形式のものが挙げられる。そのベースとなるPETフィルムの厚みは25〜75μmの範囲にあると取り扱いやすいので好ましい。研磨材粒子としては、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、ダイヤモンドなどが挙げられ、これら研磨材粒子の粒度は粗面化したい程度に応じて0.1〜100μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは1〜50μmの範囲にあること、さらに好ましくは5〜40μmの範囲にあることである。この範囲より粒度が大きいとフィルムを荒らしすぎて強度などの機械特性を損ねる恐れがあったり、処理中にフィルムが破れたりして好ましくなく、この範囲より粒度が小さいと、フィルムと金属箔との接着性を改善する効果が低くなるので好ましくない。また、複数の研磨材による処理も可能であり、最初に粒度が10μm未満の研磨材を使用して、全面に細かいスジ状の凹凸を付けた後、次に粒度が10μm以上の研磨材を使用して、高低差が高く幅の大きいスジ状の凹凸を付ける方法もあり、またその逆も可能である。
【0032】
スジ状の凹凸の方向は、フィルムの機械送り方向(MD)に平行に沿って付与させること、フィルムの幅方向(TD)に平行に沿って付与させること、また機械送り方向とは斜めに沿って付与させること等、どのように付与させても構わないが、図1〜4に示すようにフィルムの機械送り方向(MD)に平行に沿って付与させる方法が、最も工程的に簡易にできるので好ましい。
【0033】
その他研磨方法については、研磨テープとして円盤状のディスクタイプのものを使用して、これをフィルム表面に回転させながら接触させることで、スジ状の凹凸をまったくのランダム方向に発生させても良い。なお、擦過処理の後にさらにプラズマ処理を施しても良い。
【0034】
本発明の金属積層用ポリイミドフィルムを製造するには、次いでポリイミドフィルムの擦過処理面に接着剤を積層するが、本発明においては、一般に公知の熱可塑性ポリイミド接着剤やエポキシ樹脂接着剤または、アクリル系接着剤が使用可能である。接着剤の積層方法としては、塗布、噴射、ラミネート等が挙げられる。
【0035】
更に、金属積層板を製造するには上記で得られた金属積層用ポリイミドフィルムの接着剤層の上に金属箔を積層する。このときの積層方法も公知の圧着、ラミネート等の方法が使用可能である。
【0036】
このようにして擦過処理によりフィルム表面にスジ状の凹凸を付与することによって、このポリイミドフィルムの擦過処理面と銅箔に代表される金属箔とを接着剤を介して積層する際の接着性を著しく改善することが可能となる。
【0037】
かくして、ポリイミドフィルムと金属箔との接着性が、接着剤の種類に関係なく実用的かつ十分に改善された金属積層板を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性は、以下の方法により測定した値である。
【0039】
[フィルムの表面粗さRzの測定]
JIS B−0601(2001)「表面粗さ」に基づき、レーザー顕微鏡により測定した。すなわちレーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE2」モードにてフィルム表面を撮影後、三谷商事(株)製SALTにて、粗さ曲線を作成する時のカットオフ値を0.025mmに設定して、拡張表面粗さ0.01mm2以上の面積を解析し、Rz(十点平均粗さ)の値を読み取った。
【0040】
[スジ状凹凸の高低差]
レーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE1」モードにてフィルム表面を撮影・解析し得られたチャートから各スジ状凹凸の高低差(図5の5)を読み取った。代表値としては無作為に選んだ5点の平均値とし、最大値としては、「SURFACE2」モードで撮影後のSALTでの拡張表面粗さ0.01mm2以上の面積での解析による最大高さRyで確認した。
【0041】
[スジ状凹凸の幅]
レーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE1」モードにてフィルム表面を撮影・解析し、各スジにLキー(左)とRキー(右)を定めてスジ幅(図5の6)を読み取った。この視野で見える中で最大幅のスジを代表値とした。
【0042】
[スジ状凹凸の数(密度)]
レーザーテック(株)製走査型レーザー顕微鏡「1LM15W」にて、ニコン製50倍レンズ(CF Plan Apo 50×/0.95 ∞/0 EPI)を用いて、「SURFACE1」モードにてフィルム表面を撮影し、観察されているスジの数をカウントした。
【0043】
[接着力評価]
以下の3種類の接着剤を介して、ポリイミドフィルムの擦過処理面と銅箔(日鉱マテリアル(株)製電解銅箔BHY−13B−T 1oz)とを、以下に記載の条件で張り合わせた。
【0044】
1)熱可塑性ポリイミド接着剤(デュポン(株)製カプトン100KJ)・・成形温度330℃、成形時間30分で成形圧力10.2MPa(400mm□プレート)の条件で、ポリイミドフィルムの擦過処理面と銅箔とで接着剤を挟んで作製した。得られた積層板を10mm巾にカットし90°剥離を100mm/minで引っ張り測定を行った。
【0045】
2)アクリル系接着剤(デュポン(株)パイララックスLF010)・・上記熱可塑ポリイミド(カプトン100KJ)の代わりにこの接着剤を挟み込んで、160℃で30分のプレスを行い作製した。得られた積層板を10mmにカットし90°剥離を100mm/minで引っ張り測定を行った。
【0046】
3)エポキシ樹脂接着剤(東亜合成(株):アロンマイティBX−60)・・接着剤をバーコータでポリイミドフィルムの擦過加工面に塗布し、さらに接着剤の上に銅箔を載せて、100℃×2分乾燥しその後熱プレス(150℃×50kg/cmG×30分)硬化させ、得られた積層板を10mmにカットし90°剥離を100mm/minで引っ張り測定を行った。
【0047】
[実施例1]
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ25μmのポリイミドフィルムに、粒度20μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して、図1の要領にて走行速度10m/minで擦過処理した。
【0048】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.46、表面粗さRzは、1.14μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は0.54μm、最大高さRyは1.27μm、スジ状凹凸の最大幅は1.5μm、スジ状凹凸の数は219本/mm幅であった。
【0049】
アクリル系接着剤(パイララックス)を介してポリイミドフィルムの擦過処理面と積層した銅箔の接着強度を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例1で得られたポリイミドフィルムの擦過処理面に、熱可塑性ポリイミドフィルムカプトン100KJ(Dupont製)を介し、330℃×30min×10.2MPa(400cm)の条件で銅箔をラミネートした。接着強度を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
実施例1で得られたポリイミドフィルムの擦過処理面に、エポキシ樹脂接着剤(東亞合成製)を介し、150℃×50kg/cmG×30分の熱プレス条件で銅箔をラミネートした。接着強度を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ25μmのポリイミドフィルムに、粒度9μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して、実施例1と同様に図1の要領にて擦過処理した。
【0053】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.39、表面粗さRzは、1.39μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は0.44μm、最大高さRyは1.12μm、スジ状凹凸の最大幅は1.1μm、スジ状凹凸の数は350本/mm幅であった。
【0054】
得られた擦過処理フィルム面に、アクリル系接着剤を介して銅箔を張り合わせ、接着強度を測定した結果を表1に示す。
【0055】
[実施例5]
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸に平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに、粒度9μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して、実施例1と同様に図1の要領にて擦過処理した。
【0056】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.52、表面粗さRzは、1.18μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は0.64μm、最大高さRyは1.32μm、スジ状凹凸の最大幅は1.7μm、スジ状凹凸の数は211本/mm幅であった。
【0057】
得られた擦過処理フィルム面に、アクリル系接着剤を介して銅箔を積層し、接着力を測定した結果を表1に示す。
【0058】
[実施例6]
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸に平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに、粒度40μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して、図1の要領にて走行速度10m/min、処理面圧3kg/500mmで擦過処理した。
【0059】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.44、表面粗さRzは7.35μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は2.38μm、最大高さRyは8.38μm、スジ状凹凸の最大幅は17.6μm、スジ状凹凸の数は180本/mm幅であった。
【0060】
得られた擦過処理フィルム面に、アクリル系接着剤を介して銅箔を積層し、接着力を測定した結果を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
ピロメリット酸二無水物70モル%、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物30モル%と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル80モル%、パラフェニレンジアミン20モル%とから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ25μmのポリイミドフィルムに、粒度20μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して、実施例1と同様に図1の要領にて擦過処理した。
【0062】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.33、表面粗さRzは、1.25μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は0.72μm、最大高さRyは1.38μm、スジ状凹凸の最大幅は1.7μm、スジ状凹凸の数は225本/mm幅であった。
【0063】
得られた擦過処理フィルム面に、アクリル系接着剤を介して銅箔を積層し、接着力を測定した結果を表1に示す。
【0064】
[実施例8]
実施例7の擦過処理フィルム面に、熱可塑ポリイミドを介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例9]
実施例7の擦過処理フィルム面に、エポキシ系接着剤を介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例10]
ピロメリット酸二無水物70モル%、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物30モル%と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル80モル%、パラフェニレンジアミン20モル%とから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに、図1の要領にて走行速度10m/min、処理面圧3kg/500mmで、最初に粒度5μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して擦過処理し、続いて粒度40μmの炭化ケイ素を研磨材として用いた研磨テープを使用して擦過処理した。
【0067】
得られたフィルムの静摩擦係数は0.35、表面粗さRzは5.34μmであり、フィルム表面上に付与されたスジ状凹凸の高低差は2.23μm、最大高さRyは6.67μm、スジ状凹凸の最大幅は9.5μm、スジ状凹凸の数は268本/mm幅であった。
【0068】
得られた擦過フィルム面に、アクリル系接着剤を介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例1]
ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ25μmのポリイミドフィルムに、擦過処理を行わないでアクリル系接着剤を介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2]
比較例1のアクリル系接着剤の代わりに、熱可塑性ポリイミドを介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
比較例1のアクリル系接着剤の代わりに、エポキシ系接着剤を介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例4]
ピロメリット酸二無水物70モル%、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物30モル%と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル80モル%、パラフェニレンジアミン20モル%とから得られるポリアミド酸に、平均粒径1μmのリン酸水素カルシウムを約0.1重量%混入させ、製造された厚さ12.5μmをポリイミドフィルムに、擦過処理を行わないでアクリル系接着剤を介して銅箔を積層した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金属積層用ポリイミドフィルムは、優れた接着性改善効果を奏するため、FPC、TAB用キャリヤテープ、リードフレーム固定用テープなどの用途に対し好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】フィルム表面にスジ状の凹凸を形成させる方法を示す説明図である。
【図2】フィルム表面にスジ状の凹凸を形成させる他の方法を示す説明図である。
【図3】フィルム表面にスジ状の凹凸を形成させるさらに他の方法を示す説明図である。
【図4】フィルム表面にスジ状の凹凸を形成させるまたさらに他の方法を示す説明図である。
【図5】フィルム表面のスジ状の凹凸を示す模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1:巻出しロール
2:巻取りロール
3,3’:研磨ロール
4:押さえロール
5:スジ状凹凸の高低差
6:スジ状凹凸の幅
7:凸部
8:凹部
9:フィルム表面位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を擦過処理することによりスジ状凹凸を形成してなるポリイミドフィルムの前記擦過処理面に、接着剤を積層してなることを特徴とする金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記擦過処理面のJIS B―0601(2001)に準じて測定したフィルム表面粗さRzが0.7〜10μmにあることを特徴とする請求項1に記載の金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の高低差が0.05〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の高低差の最大高さRyが4〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の最大幅が0.1〜20μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記擦過処理面におけるスジ状凹凸の数が0.1〜10000本/mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
表面に微細な研磨材粒子がコーティングされた研磨テープでポリイミドフィルムの表面を擦過処理し、このポリイミドフィルムの擦過処理面に接着剤を積層することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記研磨材粒子が、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、ダイヤモンドの各粒子のいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記研磨材粒子の粒度が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項7または8に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
1段階目で粒度0.1μm以上10μm未満の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理した後、2段階目で粒度10μm以上100μm以下の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
1段階目で粒度10μm以上100μm以下の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理した後、2段階目で粒度0.1μm以上10μm未満の研磨材粒子を配置した研磨テープでポリイミドフィルム表面を擦過処理することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属積層用ポリイミドフィルムの接着剤層の上に金属箔を積層したことを特徴とする金属積層板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−56756(P2008−56756A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233089(P2006−233089)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】