説明

金属窒化物および金属窒化物の製造方法

【課題】 不純物の少ない高品質の金属窒化物、特に窒化ガリウムを効率よく得る方法を提供する。
【解決手段】 非酸化物材質のコンテナを用いることを特徴とする金属窒化物の製造方法。原料金属や生成する金属窒化物と接触するコンテナの材質を非酸化物とすることで、コンテナと原料金属や生成する金属窒化物との反応や固着を回避し、また、コンテナの材質由来の酸素の混入を防ぐことで結晶性の高い高品質な金属窒化物が得られる。一定以上の窒素源ガスの供給量と流速を確保することで極めて高い転化率で原料金属を窒化物に転化でき、未反応の原料金属の残存が少ない、金属と窒素が理論定比の金属窒化物が高い収率で得られる。得られた金属窒化物は酸素混入量も少なく金属と窒素が理論定比であるため、バルク結晶成長用の原料として極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属窒化物に関し、特に窒化ガリウムに代表される周期表13族金属元素の窒化物並びに金属窒化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は発光ダイオードやレーザーダイオード等の電子素子に適用される物質として有用である。窒化ガリウム結晶の製造方法としては、サファイヤ又は炭化ケイ素等のような基板上にMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法
による気相エピタキシャル成長を行う方法が最も一般的である。しかしながら、この方法は、基板と窒化ガリウムの格子定数及び熱膨張係数が異なるヘテロエピタキシャル成長であるので、得られる窒化ガリウムに格子欠陥が発生しやすく、青色レーザー等で応用できるような高い品質を得ることが困難であるという問題がある。
【0003】
そこで、近年、ホモエピタキシャル成長用の基板として用いられる窒化ガリウムバルク単結晶の製造技術の確立が強く望まれている。新しい窒化ガリウムバルク単結晶の製造方法のひとつとして、超臨界アンモニアやアルカリ金属フラックスを溶媒として用いた金属窒化物の溶液成長法が提案されている。高品質の窒化ガリウムバルク単結晶を得るためには、原料となる窒化ガリウムの多結晶体についても不純物が少なく、ガリウムと窒素がより理論定比に近い良質なものを安価に製造することが必要である。
【0004】
窒化ガリウムの多結晶体(粉体)については、主にガリウム金属から製造する方法、酸化ガリウムから製造する方法が知られている。この他にも種々のガリウム塩や有機ガリウム化合物から製造する方法が報告されているが、転化率、回収率や得られる窒化ガリウムの純度やコストの観点などから有利ではない。ガリウム金属や酸化ガリウムからアンモニアガスを用いて窒化ガリウムを製造する場合、不純物、特に酸素の混入が少なく、かつ、ガリウムと窒素が理論定比の窒化ガリウムをつくるのは非常に難しい。本来窒化ガリウムは可視光を吸収しないので無色であるはずだが、酸素が多く混入した場合、バンドギャップ内に不純物準位を形成するため、褐色から黄色を呈した窒化ガリウムとなる。ガリウム金属を原料に用いてアンモニアガスとの反応により窒化ガリウムを製造する場合は、酸化ガリウムを原料に用いる場合のような原料酸化物由来の酸素の混入はない。しかし、反応終了後に未反応の原料ガリウム金属が残存すると、その酸化により酸素が混入しやすくなる。また、未反応の原料ガリウム金属が多く残存すると灰色から黒色を呈した窒化ガリウムとなる。このような窒化ガリウムをバルク単結晶の製造原料として使用した場合、その製造段階でそれらの不純物の除去工程が必要となる上に、転位や欠陥発生等の問題が生じる。そのため、窒化ガリウムに酸素や未反応の原料金属が残存する場合はそれをできるだけ除去することが必要となる。
【0005】
非特許文献1においては、石英製やアルミナ製ボート上でガリウム金属とアンモニアガスを反応させ、暗灰色のh−GaN(六方晶窒化ガリウム)が得られている。しかし、転化率は50%以下で未反応の原料金属ガリウムが多量に残存するので、生成物から金属ガリウムを除去するためにフッ化水素酸:硝酸の混合液などで洗浄しなければならず、効率が悪い。同様に、特許文献1では、石英製のるつぼに入れたガリウム金属融液中にアンモニアガスをバブリングし、ガリウム金属に覆われた形でh−GaNを得ているので、h−GaNを得るためにはガリウム金属部分を塩酸や過酸化水素等で洗浄する工程が必要である。しかも、通常の酸などによる洗浄方法では、残存するガリウム金属を十分に除去することはできず、後者の場合、例えば2重量%のガリウムがh−GaNに含有されて残存している。
【0006】
一方、ガリウム金属を窒素で気化させ、得られたガリウム金属蒸気をアンモニアガスと気相中で反応させて暗灰色のh−GaNを得る方法が提案されている(非特許文献2参照)。また、アンモニアガスとガリウム金属蒸気を気相中で反応させて生成させた窒化ガリウムの結晶核を輸送し、この結晶核上で塩化ガリウムとアンモニアガスを反応させて石英管中でh−GaNを得る方法も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、これらの方法は収率が30%以下と低く、h−GaNが原料を装填した容器とは別のところに非選択的に生成付着するため、生成物を回収するのが容易ではない。
【0007】
また、従来の方法で得られた窒化ガリウムは、非特許文献3のTablelにおいて示されているように、得られたh−GaNが接触する反応容器の材質に由来して、あるいは洗浄等の後処理工程などにおいて酸素の混入が避けられないため、酸素混入量の最も少ない分析値でも酸素が0.08重量%含有する。また、この場合には、Gaを含む金属成分が相当量含有され、h−GaNの純度が低下する。
したがって、以上述べた方法で得られる窒化物は、いずれも結晶性及び不純物の混入の点で必ずしも充分ではなく、結晶性が高く、かつ、より高純度の窒化物の効率的な製造プロセスの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3533938号公報
【特許文献2】特開2003−63810号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Crystal Growth Vol.211 (2000) 184p J. Kumar et al.
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys. Part2 40 (2001) L242p K. Hara et al.
【非特許文献3】J. Phys. Chem. B Vol.104 (2000) 4060p M.R. Ranade et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題を解消するためになされたものであり、本発明の目的は、結晶性が高く不純物の少ない高品質の金属窒化物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、不純物の少ない金属窒化物を製造する方法を提供することにあり、特に製造プロセスにおいては、残存する未反応の原料金属の除去に多大な労力を要することに鑑み、転化率よく原料金属を窒化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、特定の製造方法とすることにより、従来の方法では得ることができなかった結晶性が高く不純物の少ない高品質の金属窒化物を提供することに成功した。
【0012】
また、原料金属を窒素源ガスで窒化する方法において、原料金属や生成する金属窒化物が接触するコンテナの材質が、生成する金属窒化物の品質、特に酸素の混入に対して予想以上に大きな悪影響を与える等の知見を見出し、本発明に到達した。すなわち、不純物の少ない金属窒化物を得るために、コンテナの材質として通常よく用いられる石英やアルミナなどの酸化物を使用することを避け、非酸化物である窒化ホウ素などの窒化物やグラファイトなどのカーボン材質を用いることにより、前記の課題を解決した。
【0013】
さらに、原料金属を窒素源ガスで窒化する方法において、原料金属をるつぼやボート等のコンテナに装填し、コンテナ内あるいはコンテナ上で原料金属を窒化物に転化する際に
、所定の反応温度において窒素源ガスを一定以上の量と流速で供給することによって、極めて高い転化率で高純度のh−GaNが得られる等の知見を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、非酸化物の材質を有するコンテナを用い、窒素源ガスを一定以上の量と流速で供給し、原料金属と窒素源ガスを高温で反応させて金属窒化物を90%以上の転化率、収率で得ることで、前記の課題を解決した。
かくして、本発明は、下記の要旨を有する。
(1)周期表13族の金属元素を含む金属窒化物であり、該金属酸化物中の酸素の含有量が0.07重量%未満であることを特徴とする周期表13族の金属元素を含む金属窒化物。
(2)原子価ゼロ状態の金属元素の含有量が5重量%未満であることを特徴とする上記(1)に記載の金属窒化物。
(3)含有する窒素量が47原子%以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の金属窒化物。
(4)色差計による色調でLが60以上、aが−10以上10以下及びbが−20以上10以下であることを特徴とする金属窒化物。
(5)1次粒子の長軸方向の長さのうち最長のものが0.05μm以上1mm以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金属窒化物。
(6)比表面積が、0.02m2/g以上2m2/g以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の金属窒化物。
(7)周期表13族の金属元素がガリウムであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の金属窒化物。
(8)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の金属窒化物のペレット状またはブロック状成型体からなることを特徴とする金属窒化物成形体。
(9)原料金属をコンテナに入れ、原料金属と窒素源を反応させて金属窒化物を得る方法であって、るつぼの内表面が少なくとも非酸化物を主成分とし、かつ、700℃以上1200℃以下の反応温度において、窒素源ガスを、原料金属の体積に対して毎秒あたりの体積で1.5倍以上の供給量で原料金属表面に接触するように供給するか、または、原料金属上のガス流速として0.1cm/s以上で供給する工程を含むことを特徴とする金属窒化物の製造方法。
(10)原料金属を窒化物に90%以上転化することを特徴とする(9)に記載の金属窒化物の製造方法。
(11)原料金属がガリウムであることを特徴とする上記(9)または(10)に記載の金属窒化物。
(12)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属窒化物または金属窒化物成形体を用いることを特徴とする金属窒化物バルク結晶の製造方法。
【0014】
本発明は、かかる金属窒化物及びその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は特定の金属窒化物の製造方法により、不純物酸素の少ない金属窒化物を提供することができる。本発明によれば、コンテナ内あるいはコンテナ上で、原料金属表面と窒素源ガスとを接触させて反応させる方法において、一定以下の窒素源ガスとの接触時間、すなわち一定以上の窒素源ガスの供給量と流速を確保することにより、未反応の原料金属が残存することを極力回避し、さらに原料金属および生成する金属窒化物が接触するコンテナにBNやグラファイト等の非酸化物の材質を用いることで酸素の混入を徹底的に排除し、金属と窒素が理論定比である金属窒化物の収率のよい製造を容易ならしめる。また、非酸化物材質のコンテナを用いることにより、生成する金属窒化物のコンテナへの固着を回避し、極めて高い収率の達成が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明の金属窒化物及びその製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0017】
[金属窒化物]
本発明の金属窒化物の種類は特に限定されないが、例えば、Al、Ga、In等の周期表13族金属元素を含む窒化物が好ましい。例えば、GaN、AlN等の単独金属の窒化物、ないし、InGaN,AlGaN等の合金の窒化物であり、中でも単独金属の窒化物が好ましく、特に窒化ガリウムが好ましい。
【0018】
本発明の金属窒化物は、不純物である酸素の混入量が極限まで低減されていることを特徴とする。かかる酸素の混入形態は、金属窒化物の結晶格子への不純物酸素としての混入、金属窒化物の表面に吸着する酸素や水分としての混入、あるいは、アモルファス形態を含む酸化物や水酸化物としての混入などが挙げられる。これらの酸素の混入量は酸素窒素分析計を用いて容易に測定することができる。酸素の混入量は、0.07重量%未満、好ましくは0.06重量%未満、特に好ましくは0.05重量%未満である。
【0019】
また、本発明の金属窒化物は、原子価ゼロ状態の金属の混入ないし付着が極限まで低減されていることを特徴とする。原子価ゼロ状態の金属とは、生成した金属窒化物の純度を低下させる要因となる金属をいい、金属窒化物の製造過程で残存した原料金属そのものの金属単体ないし化合物も含まれる。このような原子価ゼロ状態の金属の残存量は、酸によって原子価ゼロ状態の金属を抽出した液をICP元素分析装置によって定量分析することによって容易に測定することができる。原子価ゼロ状態の金属の混入ないし付着量は、5重量%未満、好ましくは2重量%未満、さらに好ましくは1重量%未満、特に好ましくは0.5重量%未満である。このように、本発明においては原子価ゼロ状態の金属の混入ないし付着量が極限まで低減されているため、塩酸等の酸や過酸化水素等による洗浄工程を追加しなくても高純度の金属窒化物としてそのまま利用することが可能である。
【0020】
さらに、本発明の金属窒化物は、金属と窒素が理論定比に近い金属窒化物であることが好ましい。含有する窒素量は、前記酸素窒素分析計を用いて測定することができる。含有する窒素量としては、好ましくは47原子%以上であり、さらに好ましくは49原子%以上である。
【0021】
また、本発明の金属窒化物は、未反応の原料金属などに由来する原子価ゼロ状態の金属の混入量ないし付着量が少ないことにより色調の点でもその特徴があらわれており、バンドギャップから想定される本来の色を呈するようになる。すなわち、窒化ガリウムを例にすれば、破砕等で粉体状の形態としたとしても、より無色透明に近い、あるいは散乱によって白色に近く見える窒化ガリウムとなる。色調については、例えば、粒径0.5μm程度の粉体とした後に測色色差計を用いて測定することができる。通常、明るさを示すLが60以上、赤色−緑色を示すaが−10以上10以下、黄色−青色を示すbが−20以上10以下、好ましくはLが70以上、aが−5以上5以下、bが−10以上5以下である。
【0022】
本発明の金属窒化物は、バルク単結晶成長用の原料としても有用である。窒化物バルク単結晶の成長方法としては、例えば超臨界アンモニア溶媒や金属アルカリ溶媒を用いる溶液成長法の他、昇華法、メルト成長法など既知の方法を用いることができる。必要に応じて、種結晶や基板を用い、ホモあるいはヘテロのエピタキシャル成長をさせてもよい。
【0023】
本発明の金属窒化物は、原子価ゼロ状態の金属の残存が極めて少ないので、塩酸等の酸や過酸化水素水溶液洗浄による除去工程を経ることなく、そのままバルク単結晶成長用の
原料として使用することができる。また、不純物酸素濃度が低く、金属と窒素がほぼ定比であり、得られるバルク単結晶が格子欠陥や転位密度等の観点から優れる特徴を持つ。
【0024】
本発明の金属窒化物は、必要に応じて、好ましくはペレット成形体やブロック状成形体に成形して用いてもよい。また、本発明の金属窒化物を用い、さらに結晶成長させて得られたバルク窒化物単結晶は、例えば、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)等で洗浄し、そ
の方位によって特定の結晶面に対してスライスした後、必要に応じて、エッチングや研磨を施し、窒化物自立単結晶基板とすることができる。得られた窒化物単結晶基板は不純物が少なく、かつ、結晶性も高いので、VPEやMOCVDで各種デバイスを製造するにあたり、基板として、特にホモエピタキシャル成長用の基板として供することができる。
【0025】
[金属窒化物の製造方法]
[窒化反応装置例と原料]
次に本発明の金属窒化物の好ましい製法について説明する。本発明で規定する特定物性の金属窒化物は、代表的な製造方法としては、非酸化物材質のコンテナに入れた原料金属の表面に、アンモニアガスなどの窒素源ガスを一定以上の供給量と流速で接触させることにより生成する金属窒化物として得ることができる。
【0026】
原料としては、原料金属と窒素源を用いるが、通常、前記金属(原子価ゼロ状態の金属)と窒素源ガスを使用することが好ましい。窒素源ガスとしては、例えばアンモニアガス、窒素ガス、アルキルヒドラジン等のヒドラジン類、アミン類を使用することができる。
【0027】
原料となる金属と窒素源ガスを接触させることが本発明の要件であるが、特に好ましい製法としては、原料となる高純度金属を装填したコンテナを容器内に設置し、その容器に窒素源ガスを流通させ、原料金属表面と接触する窒素源ガスと該金属との反応に基づく窒化反応により、該コンテナ内あるいはコンテナ上で原料金属を金属窒化物に転化する。本発明においては、原料金属、および生成する金属窒化物が直接触れるコンテナとして非酸化物の材質のものを用いることを特徴とする。通常、このような金属の窒化にはコンテナとして石英製のコンテナやアルミナ製のコンテナが用いられるが、そのような酸化物を用いた場合、原料金属や生成する金属窒化物と直接触れることより、好ましからざる酸素成分が生成する金属窒化物に混入しやすくなる。しかしながら、本発明のコンテナの材質の一例であるBNやグラファイトなどの非酸化物の材質からなるコンテナを用いると、原料として装填する金属、溶融金属とコンテナとの反応が起こりにくく、生成する金属窒化物への酸素の混入を防ぐことができるという特徴がある。また、本発明の非酸化物の材質からなるコンテナは化学的に不活性であるために生成する金属窒化物のコンテナへの固着を防ぐことが可能であるため、回収率が極めて高い。
【0028】
本発明のコンテナの材料として用いる非酸化物としては、SiC、Si34、BN、カーボン、グラファイト、好ましくはBN、グラファイト、特に好ましくはpBN(パイロリティックボロンナイトライド)を用いることができる。pBNは耐性が高く、生成する金属窒化物への混入は問題とならないため、好ましい。
また、これら非酸化物の材質を、原料金属や生成する金属窒化物が直接触れるコンテナ表面に設けたりコーティングしてもよい。例えば、カーボン製の紙やシート等の部材をコンテナ表面に設けることが好適に用いられる。
【0029】
本発明の原料金属を入れるコンテナは、ガスを流通できる容器に入れた上で、窒化反応を行うことが好ましい。容器を含むガスの流路全体の密閉性は十分確保することが、安全上および得られる金属窒化物の純度を高めるうえで重要である。容器の材質に関しては特に限定されないが、ヒーターで高温に曝される部分には、通常1000℃付近の高温でも耐熱性のあるBNや石英やアルミナ等のセラミックスを用いることが好ましい。容器は、
前記コンテナとは異なり、原料金属や生成する金属窒化物と接触しない場合は酸化物でもよい。また、容器の形状には特に限定されないが、ガスを効率よく流通させるために、縦置きあるいは横置きの管型の容器が好適に用いられる。
【0030】
コンテナの形状については特に限定されないが、流通するガスと十分に接触することが可能な形状が好ましい。コンテナの形状がるつぼやボートのように底面と側壁を有する場合、通常その底面積に対する壁面積の比は10以下、好ましくは5以下、さらに好ましく3以下である。また半割筒状や筒状の形状、ボール状の形状も好適に用いられる。また、原料金属のコンテナへの装填についても、原料金属が流通するガスと十分に接触することを可能にする装填量、装填状態にすることが好ましい。特に、原料金属が窒化反応の温度以下で溶融する場合、コンテナの容積に対する原料金属の容積比が0.6以下、好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.1以下になるように装填するのが好ましく、また、原料金属が溶融して液体となった場合、コンテナの底と壁の面積の総和に対する原料金属がコンテナと接触している部分のコンテナの底と壁の面積比が0.6以下、好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.1以下となるように装填するのが好ましい。この範囲にすることにより、得られる窒化物や原料金属がコンテナから逸脱することを防ぐことができ、また、得られる窒化物の収率を高くすることができる。コンテナが筒状の場合はコンテナ自身にアンモニアガスを流し、コンテナが容器を兼ねた構造にすることも可能である。さらには、コンテナを回転させてアンモニアガスが均一に原料金属と接触するなどの工夫をしてもよい。コンテナが原料金属や生成する金属窒化物と直接触れる非酸化物材質の部分、例えばコンテナの底面や側壁の厚さについては特に限定されないが、通常0.05mm以上10mm以下、好ましくは0.1mm以上5mm以下である。容器の厚さは通常0.01mm以上10mm以下、好ましくは0.2mm以上5mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下であるが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらに限定されない。
【0031】
原料金属をコンテナに装填する場合、あるいは装填した後容器内に装着する場合、これらの操作は系内への酸素の混入を避けるために不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。一つの容器に対して複数のコンテナを並べたり、石英などの耐熱性の材質の冶具を用いて多段に装着することも好適に用いられる。コンテナが酸素や水分を吸収、吸着しやすい場合は、予め、該容器か別の容器を用いて高温で水素あるいは不活性ガス下で処理するか、または脱気して不活性化あるいは乾燥することが好適に用いられる。
【0032】
金属窒化物の原料金属としては、通常当該金属単体を用いることが好ましい。高純度の金属窒化物を製造するうえで当該金属単体の純度が高いものを用いるのが望ましく、通常5N以上、好ましくは6N以上、特に好ましくは7N以上が用いられる。また、原料金属単体に含まれる酸素は通常0.1重量%未満である。また、酸素の混入を避けるために不活性ガス下での取り扱うことが好ましい。当該金属原料の形状は特に限定されないが、粉体を用いるよりは表面積の少ない直径1mm以上の粒状、好ましくはバーやインゴットの状態でコンテナに装填することが好ましい。理由は表面の酸化による酸素の混入を防ぐためである。金属ガリウムのように融点が低い金属の場合は液体にして装填してもよい。
【0033】
本発明では、通常、原料金属を非酸化物の材質からなるコンテナに装填した後にそのコンテナを容器内に装着するが、原料金属が酸化あるいは吸湿しやすい場合には、装着前に別の装置を用いてコンテナに原料金属を装填したまま加熱脱気や還元するなどして十分に原料金属の純度を高めることが好ましい。さらに、その場合は容器への装着は、酸素や水分を極力排した雰囲気下で速やかに行うことがより好ましい。例えば、不活性ガスを満たした槽あるいは部屋内で、容器の内部を十分に不活性ガスで置換した後、原料金属を導入し、原料金属を含有したコンテナを容器に装着した後、容器を密閉する。さらに、あらかじめ、パッキン等を併用したねじ込み方式で容器を密閉することができるようにしておい
てもよいし、フランジ等で密閉することもできる。
【0034】
原料金属を入れるコンテナは、通常、加熱時に容器が最も高温になる位置に装着される。また、窒素源となるアンモニアガスが有効に金属原料と接触するように、アンモニアガスの導入口に近い位置に意図的に設置してもよい。また、ガスの拡散や混合、および流れの均一性等を制御するために、バッフル等の障害物を流路に設置したり、熱の放散を防ぐための遮蔽物を設けてもよい。
【0035】
本発明で用いる容器全体および配管部は、適宜不活性化して利用してもよい。例えば、原料金属を入れるコンテナを装着後、配管およびバルブを介して容器全体および配管部を加熱脱気したり、不活性ガスを流しながら高温にすることができる。また、原料金属を入れたコンテナを装着後、容器に還元性のガスを流しながら高温にすることによって原料を還元して純度をさらに高めてもよく、容器の中に酸素や水分を選択的に吸収あるいは反応除去するスキャベンジャーの役割を果たす物質(例えば、チタンやタンタルなどの金属片)を設置してもよい。
【0036】
〔窒化反応操作例〕
本発明の金属窒化物生成反応の一例として、アンモニアガスによる窒化反応について述べる。以下はその方法を用いた場合の一つの例示であり、かかる方法にのみ本発明が限定されるものではない。
【0037】
はじめに、アンモニアガスによる窒化反応の前に、コンテナを装着した容器に、配管および容器を密閉するためのバルブを介して不活性ガスを流し、十分に該容器内を不活性ガスで置換する。さらに該容器に配管および容器を密閉するためのバルブを介して窒素源となるアンモニアガスを導入する。アンモニアガスはタンクからの配管およびバルブを通じて外気と触れることなく容器に導入される。途中に流量制御装置を設けてあらかじめ設定された量を導入することが好ましい。アンモニアガスは水との親和性が高いために、アンモニアガスを容器に導入した時に容器内に水由来の酸素を持ち込みやすく、それが原因となって生成する金属窒化物への混入酸素量が多くなり、ひいては金属窒化物の結晶性が悪化する恐れがある。したがって、容器に導入されるアンモニアガスに含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましく、アンモニアガスに含まれる水や酸素の濃度は少なくとも1000ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。また、通常、工業的に使われるアンモニアガスは水や酸素の他に炭化水素やNOxなどの不純物を含んでいることが多いので、蒸留により精製したり、あるいは吸着剤やアルカリメタル等を利用した精製装置を介して精製した不純物の少ないアンモニアガスを導入してもよい。高純度の金属窒化物を製造するためには、容器に導入されるアンモニアガスの純度は高いことが好ましく、通常5N、好ましくは6N以上のアンモニアガスを用いるとよい。また、使用する不活性ガスについても、同様に、酸素や水分を極力含まないことが望ましい。用いられる不活性ガスの水や酸素の濃度は少なくとも100ppm以下、好ましくは10ppm以下である。吸着剤やゲッター等を利用した精製装置を介して精製した不純物の少ない不活性ガスを用いることも好ましい。
【0038】
原料金属を含有するコンテナを装着した容器の内部を不活性ガスで十分に置換した後、あらかじめ設置しておいたヒーターによって容器の内部を昇温する。アンモニアガスを導入するタイミングに関しては、特に限定されないが、原料金属が溶融する温度以上で導入するのが好ましい。通常室温以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは500℃以上、特に好ましくは700℃以上である。アンモニアガスを導入するまで不活性ガスを流しながら容器を加熱昇温するのが好ましい。通常金属の窒化反応は700℃以上の温度で進行するので、原料金属が700℃以上の温度に達してから、アンモニアガスを導入することによりアンモニアガスの無駄を省くことができる。また、急激に窒化反応が進
行することにより発熱が問題になる場合、アンモニアガスをごく微量の供給量で導入して、徐々に供給量を増やしたり、温度の昇温やアンモニアガスの導入を多段にすることが好適に用いられる。また、アンモニアガスを複数の管に分けて導入したり、不活性ガスとアンモニアガスを分けて導入したりすることも好適に用いられる。これは特にコンテナを並べたり、多段にして装着するような場合に有効である。
【0039】
窒化反応は所定の反応温度で行うが、反応温度は原料金属の種類によって適宜選択することができる。少なくとも700℃以上1200℃以下、好ましくは800℃以上1150℃以下、特に好ましくは900℃以上1100℃以下である。なお、反応温度は容器外面に接するように設けた熱電対によって測定する。容器内の温度分布は容器の形状や、ヒーターの形状、およびそれらの位置関係や加熱、保温状況により異なり得るが、容器外面から内方向に開けた貫通しない管などに熱電対を挿入することにより、容器内部方向への温度分布を推測、あるいは外挿し、コンテナ部分の温度を推定して、反応温度を決定できる。
【0040】
前記所定の反応温度への昇温速度は特に限定されないが、好ましくは1℃/min以上、さらに好ましくは3℃/min以上、特に好ましくは5℃/min以上である。前記所定の反応温度への昇温速度が遅すぎると、内部が窒化される前に表面だけが窒化されて窒化膜が生成し、内部の窒化が妨げられることがある。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることも好適に用いられる。また、反応容器を部分的に温度差をつけて加熱したり、部分的に冷却しながら加熱することもできる。前記所定の反応温度における反応時間は通常1分以上24時間以下、好ましくは5分以上12時間以下、特に好ましくは10分以上6時間以下である。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、好ましい温度範囲内で徐々に昇温、降下させる、あるいはそれを繰り返してもかまわない。高温で反応を開始させた後に温度を下げて反応を終結させることも好適に用いられる。
【0041】
〔窒素源ガスの供給例〕
次に、本発明の金属窒化物生成反応における窒素源ガスの供給量について、窒素源ガスとしてアンモニアガスを用いた場合のガスの供給量について説明する。以下はその方法を用いた場合の一つの例示であり、かかる方法にのみ本発明が限定されるものではない。
【0042】
反応温度に達するまでの昇温過程および反応温度におけるアンモニアガスの供給量および流速は、高純度の窒化物を収率よく得るための重要な条件のひとつである。例えば、アンモニアガスの供給量が不足すると、未反応の原料金属が残存してしまう。また、蒸気圧の高い金属の場合には、アンモニアガスの供給量が適切でないと、窒化反応が進行する前に原料金属が揮散し、コンテナから逸脱して容器の底や壁に生成する金属窒化物が付着し、回収が非常に困難になるとともに収率が低下する。
【0043】
この点に鑑み、本発明では少なくとも昇温過程を含む700℃以上の温度で、原料金属の体積の総和に対して毎秒あたり供給するアンモニアガスの標準状態(STP)における体積は、少なくとも一度は1.5倍以上であることを特徴とする。毎秒あたりに供給するアンモニアガスの標準状態(STP)における体積は、原料金属の体積の総和に対して2倍以上が好ましく、特に好ましくは4倍以上である。また、その供給量でアンモニアガスを流す時間は少なくとも1分以上、好ましくは5分以上、特に好ましくは10分以上である。また、窒化反応においてはアンモニアガスの供給量のみならず、流速も重要な要素である。なぜなら、高温となるコンテナを含む容器内部をアンモニアガスが通過する場合、供給量のみならず流速とも関連して、アンモニアガスが窒素と水素に解離して窒化反応に関与するためである。
本発明では、少なくとも昇温過程を含む700℃以上の温度で、アンモニアガスを少な
くとも一度は、原料金属上付近のガス流速として0.1cm/s以上で供給することを特徴とする。アンモニアガスの流速は0.2cm/s以上が好ましく、特に好ましくは0.4cm/s以上である。また、その流量のアンモニアガスを流す時間は少なくとも1分以上、好ましくは5分以上、特に好ましくは10分以上である。
【0044】
加えて、本発明は原料金属とアンモニアガスとの接触により原料金属の窒化反応を進行させるので、アンモニアガスと接触しうる原料金属の面積を大きくすることが好ましい。特に、原料金属が窒化反応の温度以下で溶融する場合、原料金属がアンモニアガスと接触しうる単位重量あたり面積が、少なくとも0.5cm2/g以上、好ましくは0.75c
2/g以上、さらに好ましくは0.9cm2/g以上、特に好ましくは1cm2/gとな
るように装填する。さらには、原料金属を十分に金属窒化物に転化するために、同じ容積のコンテナでも、深さの深いコンテナの場合はアンモニアガスの流速を速く、浅いコンテナの場合は流速を遅くするなどの工夫が好適に用いられる。
【0045】
窒化反応中の容器内圧力については特に限定されないが、通常1kPa以上10MPa以下、好ましくは100kPa以上1MPa以下である。
【0046】
原料金属を金属窒化物に転化した後、容器内の温度を降下する。温度の降下速度は特に限定されないが、通常1℃/min以上10℃/min以下、好ましくは2℃/min以上5℃/min以下である。温度降下の方法は特に限定されないがヒーターの加熱を停止してそのままヒーター内にコンテナを含有する容器を設置したまま放冷してもよいし、コンテナを含有する容器をヒーターからはずして放冷してもよい。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。降温中も生成した金属窒化物の分解を抑制するために、アンモニアガスを流すことが効果的である。アンモニアは容器内が少なくとも900℃、好ましくは700℃、さらに好ましくは500℃、特に好ましくは300℃に温度が低下するまで供給する。その際、原料金属の体積の総和に対して毎秒あたり供給するアンモニアガスの体積は0.2倍以上であることが好ましい。その後、不活性ガスを流しながらさらに温度を下げ、容器外面の温度あるいは推定するコンテナ部分の温度が所定温度以下になった後、容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定されないが、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0047】
本発明の製造方法によれば、原料金属は極めて高い割合で金属窒化物に転化しているので、容器を開けて金属窒化物をコンテナごと取り出し、生成した金属窒化物をコンテナから回収することができる。この際、得られる金属窒化物に水や酸素の吸着が起こらないように不活性ガス雰囲気下で取り出すことが好ましい。
【0048】
生成した金属窒化物を回収した後のコンテナは清浄した後に再度使用することができる。必要な場合、塩酸等の酸や過酸化水素水溶液を用いて清浄することができる。また、容器も同様に清浄し、再び使用できる。さらには、容器に不活性ガスや還元性ガス、塩酸ガスを流したり脱気しながら高温で清浄や乾燥を行うことができる。その際、空のコンテナを容器内に装着して、コンテナを同時に清浄、乾燥してもよい。
【0049】
本発明の製造方法により極めて収率よく金属窒化物を得ることができる。例えば、アンモニアガスの供給量や流速を十分に確保することにより、原料金属や生成した金属窒化物がコンテナから逸脱することなく、高い転化率で原料金属を金属窒化物に転化することができる。また、コンテナの材質として非酸化物を用いることにより、原料金属や生成した金属窒化物とコンテナとの反応や固着が回避され、高い収率が達成できる。得られた金属窒化物が体積膨張し、ケーキ状になっている場合は、それを粉砕、篩い分けし、粉体にすることが可能である。このような処理や保管は、得られた金属窒化物に水や酸素の吸着が起こらないように不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
〔金属窒化物の性状及びその測定〕
本発明の方法によって得られた金属窒化物、例えば窒化ガリウムは、通常多結晶体となる。得られる金属窒化物の結晶性は高く、粉末X線回折の2θが37°付近に現れる(101)のピークの半値幅は通常0.2°以下、好ましくは0.18°以下、特に好ましくは0.17°以下である。本発明の方法によって得られた金属窒化物は、走査電子顕微鏡による観察によれば、1次粒子が0.1μmから数十μmの針状、柱状あるいはプリズム状結晶からなる。1次粒子の長軸方向の最長の長さは、通常0.05μm以上1mm以下
、好ましくは0.1μm以上500μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上200μm以下、特に好ましくは0.5μm以上100μm以下である。また、比表面積については、例えば使用目的のひとつである、溶液成長法によるバルク窒化物単結晶の製造のための原料として考えた場合、溶解速度をコントロールするうえで比表面積は適度に小さいほうが好ましい。また、不純物の吸着等による不純物の混入を防ぐためにも小さいほうがよい。
本発明の方法によって得られた金属窒化物の比表面積は小さく、通常0.02m2/g
以上2m2/g以下であり、好ましくは0.05m2/g以上1m2/g以下、特に好まし
くは0.1m2/g以上0.5m2/g以下である。得られた金属窒化物を全て分解溶解してICP元素分析装置により定量分析を行うと、不純物の金属元素はいずれも、窒化ガリウム1g当たり20μg以下であり、極めて高純度である。また、Si、B等の典型非金属元素の不純物はICP元素分析装置により定量すると窒化ガリウム1g当たり100μg以下、カーボンを炭素・硫黄分析計で分析すると窒化ガリウム1g当たり100μg以下である。
【0051】
本発明の製造方法で得た金属窒化物は、コンテナに非酸化物の材質を用いることにより、酸素の混入は極限まで低減される。金属窒化物に不純物として含まれる酸素の混入量は酸素窒素分析計で測定することができ、通常0.07重量%未満、好ましくは0.06重量%未満、特に好ましくは0.05重量%未満である。
【0052】
また、窒素源ガスの供給量と流速を十分に確保することにより、高い転化率で所望の金属窒化物に転化することができるため、未反応の原料金属の残存を極力防ぐことができる。本発明の製造方法で得た金属窒化物における未反応の原料金属の残存量は、酸によって原子価ゼロ状態の金属を抽出した液をICP元素分析装置によって定量分析した結果によれば、5重量%未満、好ましくは2重量%未満、さらに好ましくは1重量%未満、特に好ましくは0.5重量%未満である。したがって塩酸等で洗浄することなく、高純度の金属窒化物、即ち金属と窒素が理論定比の金属窒化物が効率良く得られる。
【0053】
本発明の金属窒化物、本発明の製造方法で得た金属窒化物は、未反応の原料金属(原子価ゼロ状態の金属)の含有量が少ないことによりバンドギャップから想定される本来の色調を示す。窒化ガリウムを例にすれば、破砕等で粉体状にしても、より無色透明に近い、あるいは散乱により白色に近く見える窒化ガリウムとなる。色調は得られた金属窒化物を粉体とした後に測色色差計で測定することができ、通常、明るさを示すLが60以上、赤色−緑色を示すaが−10以上10以下、黄色−青色を示すbが−20以上10以下、好ましくはLが70以上、aが−5以上5以下、bが−10以上5以下の窒化ガリウムが得られる。
【0054】
〔応用〕
本発明の金属窒化物、あるいは、本発明の製造方法で得た金属窒化物は、窒化物バルク単結晶成長用の原料として有用である。窒化物バルク単結晶の成長方法としては、例えば超臨界アンモニア溶媒や金属アルカリ溶媒を用いる溶液成長法の他、昇華法、メルト成長法などが挙げられる。必要な場合、種結晶や基板を用い、ホモあるいはヘテロのエピタキ
シャル成長することも可能である。本発明の金属窒化物、あるいは、本発明の製造方法で得た金属窒化物を塩酸等の酸や過酸化水素水溶液で洗浄し、原子価ゼロ状態の金属さらに除去した後に原料として使用することも可能であるが、未反応の原料金属の残存が極めて少ないので、酸等による洗浄工程は必要なく、そのままバルク窒化物単結晶成長用の原料として使用可能である。また、本発明の金属窒化物、あるいは、本発明の製造方法で得た金属窒化物は、必要な場合ペレットやブロック状に成形されて用いられる。特に、溶液成長法による窒化物バルク単結晶原料として考えた場合、原料の装填を効率よく行う目的や溶解速度のコントロールの目的で、ペレットやブロック状に成形して用いることが好適に行われる。ペレット状とは例えば球状、円柱状など少なくとも一部に曲面を有する形状をいい、ブロック状とはシート状や塊状を含む任意の形状をいう。ペレットやブロック状に成形する手段としては、焼結やプレス成形、造粒などの方法が好適に用いられる。これらの手段で成形する際には、窒素雰囲気や不活性ガス雰囲気下で行ったり、あるいは有機溶媒等を用いて酸素や水を排除することが好ましい。本発明の金属窒化物、あるいは、本発明の製造方法で得た金属窒化物、およびそれを成形したペレットやブロック状の成形体は不純物酸素濃度が低く、金属と窒素がほぼ定比であるので、得られる窒化物バルク単結晶も不純物酸素濃度の低い高品質なものが得られる。また、得られた窒化物バルク単結晶は、必要に応じて塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)等で洗浄し、その方位によって特定の
結晶面に対してスライスした後、さらに必要に応じて、エッチングや研磨を施し、窒化物自立単結晶基板として利用することができる。得られた窒化物単結晶基板は不純物が少なく、結晶性も高いためにVPEやMOCVDで各種デバイスを製造するにあたり、特にホモエピタキシャル成長用の基板として優れている。
【実施例】
【0055】
以下に本発明を実施するための具体的な態様について実施例を挙げて述べるが、本発明はその要旨を越えない限り、下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
長さ100mm幅15mm高さ10mmの焼結BN製のコンテナ(容積13cc)に6N金属ガリウムを1.50g装填した。このとき、コンテナの容積に対する原料金属容積の比は0.05以下であり、原料金属が接しているコンテナの底と壁の面積のコンテナの底と壁の面積の総和に対する比は0.05以下であった。また、このときコンテナ内に装填した金属ガリウムがガスと接触しうる面積は1cm2/g以上であった。内径32mm
、長さ700mmの横置き円筒石英管からなる容器内中央部にコンテナをすばやく装着し、高純度窒素(5N)を流速200Nml/minで流通させ、容器内部や配管部を十分に置換した。
【0057】
その後、高純度(5N)の窒素を50Nml/min流しながら、備え付けのヒーターで300℃まで昇温し、5Nアンモニア250Nml/min、5N窒素50Nml/minの混合ガスに切り替えた。その際の原料金属の体積の総和に対して供給するアンモニアガスの毎秒あたりの体積は16倍以上であり、原料金属上付近のガス流速は0.5cm/s以上であった。ガスの供給はそのままにして、300℃より10℃/minで1050℃まで昇温した。このとき容器中央部の外壁の温度は1050℃であった。そのままの混合ガスの供給で3時間反応した。3時間1050℃で反応した後、ヒーターを止め自然放冷した。300℃までの冷却は約4時間であった。300℃以下に温度が下がった後、ガスを5N窒素のみ(流速100Nml/min)に切り替えた。室温まで冷却した後石英管を開けて酸素濃度5ppm以下で水分濃度5ppm以下の不活性ガスボックス内にコンテナを取り出し、十分に破砕して100メッシュ以下の大きさにした。なお、得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると1.799gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は99%以上であった。また、コンテナから回収した窒化ガリウ
ム粉体の重量は1.797gで回収率は99%以上であり、窒化ガリウムの収率は98%以上であった。
【0058】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の窒素と酸素の含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、窒素は16.6重量%以上(49.5原子%以上)で酸素は0.05重量%未満であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を20%硝酸で加熱溶解抽出し、抽出液をICP元素分析装置で測定することにより定量したところ0.5重量%未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折を、十分に粉砕した窒化ガリウム多結晶粉体約0.3gを用いて以下のように測定した。PANalytical PW1700を使用し、CuKα線を用いて40kV、30mAの
条件でX線を出力し、連続測定モード、走査速度3.0°/min、読込み幅0.05°
、スリット幅DS=1°、SS=1°、RS=0.2mmの条件で測定した結果、六方晶窒化ガリウム(h−GaN)のみの回折線が観察され、その他の化合物の回折線は観察されなかった。h−GaNの(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.17°未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体の表面積を、大倉理研AMS−1000を使用して1点法BET表面積測定法により測定した。前処理として200℃で15分脱気したのち液体窒素温度での窒素吸着量より比表面積を求めたところ、0.5m2/g
以下であった。さらに同一の方法で得た窒化ガリウム多結晶粉体の色調を日本電色工業ZE―2000測色色差計(標準白板 Y=95.03、X=95.03、Z=112.02)を用いて以下の要領で測定した。100メッシュ以下に粉砕した該窒化ガリウム多結晶
粉体約2ccを、該色差計付属品の35mmφの透明の丸型セルの底につめた後に上から押さえて隙間無く装填した。粉末・ペースト試料台の上に設置してキャップをかぶせた後、30mmφの試料面積に対し反射測定したところ、L=65、a=−0.5、b=5であった。
【0059】
[実施例2]
長さ100mm径30mmのpBN製の筒状コンテナ(容積70cc)に6N金属ガリウムを4.00g装填した。このとき、コンテナの容積に対する原料金属容積の比は0.02以下であり、原料金属が接しているコンテナの底と壁の面積のコンテナの底と壁の面積の総和に対する比は0.02以下であった。また、このときコンテナ内に装填した金属ガリウムがガスと接触しうる面積は0.7cm2/g以上であった。その後、混合ガスの
流速を、5Nアンモニア500Nml/min、5N窒素50Nml/minとしたこと、その際の原料金属の体積の総和に対して供給するアンモニアガスの毎秒あたりの体積は12倍以上としたこと、原料金属上付近のガス流速を1cm/s以上としたこと、これら以外については実施例1と同様にして100メッシュ以下の大きさに破砕した窒化ガリウム多結晶粉体を得た。なお、得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると4.798gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は99%以上であった。また、コンテナからの回収した窒化ガリウム粉体の重量は4.796gで回収率は99%以上であり、窒化ガリウムの収率は98%以上であった。
【0060】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の窒素と酸素の含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、窒素は16.6重量%以上(49.5原子%以上)で酸素は0.05重量%未満であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ0.5重量%未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体を取り出して実施例1と同様の条件で粉末X線回折測定した結果、六方晶窒化ガリウム(h−GaN)のみの回折線が観察され、その他の化合物の回折線は観察されなかった。h−GaNの(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.17°未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体の比表面積を、実施例1と同様の方法で測定したところ0.5m/g以下であった。さらに実
施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=70、a=−0.4、b=7であった。
【0061】
[実施例3]
長さ100mm幅18mm高さ10mmのグラファイト製のコンテナ(容積12cc)に6N金属ガリウムを2.00g装填した。このとき、コンテナの容積に対する原料金属容積の比は0.03以下であり、原料金属が接しているコンテナの底と壁の面積のコンテナの底と壁の面積の総和に対する比は0.03以下であった。また、このときコンテナ内に装填した金属ガリウムがガスと接触しうる面積は0.9cm2/g以上であった。その
後、混合ガスの流速を、5Nアンモニア500Nml/min、5N窒素50Nml/minとしたこと、その際の原料金属の体積の総和に対して供給するアンモニアガスの毎秒あたりの体積は25倍以上としたこと、原料金属上付近のガス流速は1cm/s以上としたこと、これら以外については実施例1と同様にして100メッシュ以下の大きさに破砕した窒化ガリウム多結晶粉体を得た。なお、得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると2.398gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は99%以上であった。また、コンテナからの回収した窒化ガリウム粉体の重量は2.396gで回収率は99%以上であり、窒化ガリウムの収率は98%以上であった。
【0062】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の窒素と酸素の含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、窒素が16.6重量%以上(49.5原子%以上)で酸素は0.05重量%未満であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ0.5重量%未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体を取り出して実施例1と同様の条件で粉末X線回折測定した結果、六方晶窒化ガリウム(h−GaN)のみの回折線が観察され、その他の化合物の回折線は観察されなかった。h−GaNの(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.17°未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体の比表面積を、実施例1と同様の方法で測定したところ0.5m2/g以下であった。さらに実
施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=75、a=−0.5、b=5であった。
【0063】
[実施例4]
長さ100mm幅18mm高さ10mmの石英製のコンテナ(容積15cc)に市販のカーボンペーパーを敷き、その上に6N金属ガリウムを2.00g装填した。このとき、コンテナの容積に対する原料金属容積の比は0.05以下であり、原料金属が接しているコンテナの底と壁の面積のコンテナの底と壁の面積の総和に対する比は0.05以下であった。また、このとき、コンテナ内に装填した金属ガリウムがガスと接触しうる面積は0.9cm2/g以上であった。その後混合ガスの流速を、5Nアンモニア500Nml/
min、5N窒素50Nml/minとしたこと、その際の原料金属の体積の総和に対して供給するアンモニアガスの毎秒あたりの体積は25倍以上としたこと、原料金属上付近のガス流速は1cm/s以上としたこと、300℃から10℃/minで1050℃まで昇温した後、そのままの混合ガスの供給で30分、1050℃で反応し、30分かけて900℃まで降温した後、2時間900℃で反応し、その後、ヒーターを止め自然放冷し、3時間かけて300℃までの冷却したこと、これら以外については実施例1と同様にして100メッシュ以下の大きさに破砕した窒化ガリウム多結晶粉体を得た。なお、得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると2.399gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は99%以上であった。また、コンテナからの回収した窒化ガリウム粉体の重量は2.397gで回収率は99%以上であり、窒化ガリウムの収率は98%以上であった。
【0064】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の窒素と酸素の含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、窒素が16.6重量%以上(49.5原子%以上)で酸素が0.05重量%未満であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ0.5重量%未満であった。実施例1と同様の条件で該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折測定を行った結果、六方晶窒化ガリウム(h−GaN)のみの回折線が観察され、その他の化合物の回折線は観察されなかった。h−GaNの(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.17°未満であった。該窒化ガリウム多結晶粉体の比表面積を、実施例1と同様の方法で測定したところ0.5m/g以下であった。さらに実施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=75、a=−0.5、b=6であった。
【0065】
[比較例1]
非酸化物のコンテナを用いることの効果を実証するため、アルミナ製のコンテナ(容積12cc)を用いた以外は実施例3と同様にして窒化反応を行った。ガリウム金属は窒化反応中あるいはその過程でアルミナ製のコンテナと反応し、生成物はアルミナ製のコンテナと激しく固着した。得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると2.391gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は98%未満であった。また、コンテナから回収できた窒化ガリウム粉体の重量は2.271gで回収率は97%以下であり、窒化ガリウムの収率は95%以下であった。
【0066】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の酸素含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、0.05重量%以上であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ0.5重量%以上であった。実施例1と同様の条件で該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折測定を行った結果、結晶形は六方晶であったが、(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.20度であった。さらに実施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=57、a=−0.3、b=12であった。
【0067】
[比較例2]
非酸化物のコンテナを用いることの効果を実証するため、カーボンペーパーを敷かないで石英製のコンテナに直接金属ガリウムを装填した以外は実施例4と同様にして窒化反応を行った。ガリウム金属は窒化反応中あるいはその過程で石英製のコンテナと反応し、生成物はアルミナ製のコンテナと激しく固着した。得られた窒化ガリウム多結晶粉体はコンテナ重量を含んだ反応前後の重量変化から計算すると2.392gであり、金属ガリウムが全て窒化ガリウムになったとした場合の重量増加の理論値から計算すると転化率は98%以下であった。また、コンテナから回収できた窒化ガリウム粉体の重量は2.296gで回収率は97%以下であり、窒化ガリウムの収率は95%以下であった。
【0068】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体の酸素含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、0.05重量%以上であった。また、該窒化ガリウム多結晶粉体の未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ0.5重量%以上であった。実施例1と同様の条件で該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折測定を行った結果、結晶形は六方晶であったが、(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.20度であった。さらに実施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=55、a=−0.4、b=3であった。
【0069】
[比較例3]
アンモニアの流量と流速の効果を実証するため、アンモニアの流速を25Nml/mi
nとした以外は実施例3と同様にして窒化反応を行った。その際の原料金属の体積の総和に対して供給するアンモニアガスの毎秒あたりの体積は1.25倍であり、原料金属上付近のガス流速は0.05cm/sであった。反応後、未反応の原料ガリウムのガリウム金属を含む生成物はコンテナより激しく逸脱しており、容器壁面にも生成物が付着し、回収が困難であった。回収した粉体の重量は2.240gであり、100%窒化ガリウムになったと仮定して得られる重量に対して、得られた粉体の収率は95%以下であった。
【0070】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体は黒っぽい部分を含み、未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ1重量%以上であった。実施例1と同様の条件で該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折測定を行った結果、結晶形は六方晶であったが、(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.20度であった。さらに実施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=53、a=−0.4、b=3であった。
【0071】
[比較例4]
原料金属とコンテナの容積比や、原料金属がコンテナに接触する面積とコンテナの内側の面積の比が、粉体の収率などに与える影響を調べるため、内径12mmφで容積1.7ccのpBN製のるつぼをコンテナとして用いた以外は実施例2と同様にして窒化反応を行った。このとき、コンテナの容積に対する原料金属容積の比は0.39であり、原料金属が接しているコンテナの底と壁の面積のコンテナの底と壁の面積の総和に対する比は0.3以上であった。また、このときコンテナ内の装填した金属ガリウムのガスと接触しうる面積は0.45cm2/gであった。反応後、未反応の原料ガリウムのガリウム金属を
含む生成物はコンテナより激しく逸脱しており、回収が困難であった。回収した粉体の重量は2.263gであり、100%窒化ガリウムになったと仮定して得られる重量に対して、得られた粉体の収率は95%以下であった。
【0072】
得られた窒化ガリウム多結晶粉体は黒っぽい部分を含み、未反応の原料ガリウム金属残存分を実施例1と同様の方法で測定することにより定量したところ1重量%以上であった。実施例1と同様の条件で該窒化ガリウム多結晶粉体の粉末X線回折測定を行った結果、結晶形は六方晶であったが、(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.22度であった。さらに実施例1の方法と同様に色調を測定したところ、L=50、a=−0.4、b=3であった。
【0073】
[比較例5]
市販の窒化ガリウム試薬として、Aldrich社(以下、A社と略す)の窒化ガリウム(カ
タログ番号07804121)とWako社(以下、W社と略す)の窒化ガリウム(カタログ番号481769)を準備した。まず、窒素と酸素の含有量を酸素窒素分析計(LECO社TC436型)で測定したところ、A社の窒化ガリウムは窒素が14.0重量%(40.3重量%以下)で酸素が5.2重量%であった。また、W社の窒化ガリウムは窒素が15.3重量%(46.9重量%以下)で酸素が0.48重量%であった。W社の窒化ガリウムについて未反応の原料ガリウム金属残存分を硝酸で加熱溶解抽出し、抽出液をICP元素分析装置で測定することにより定量したところ10重量%であった。
【0074】
次に実施例1と同様の条件で粉末X線回折測定を行った結果、A社、W社の窒化ガリウムとも結晶形は六方晶であったが、W社の窒化ガリウムは六方晶の窒化ガリウム以外にガリウム金属の回折線が観察された。一方、A社の窒化ガリウムではその他の回折線は観察されなかったが、h−GaNの(101)の回折線(2θ=約37°)の半値幅(2θ)は0.5°以上であった。また、A社の窒化ガリウムの比表面積を、実施例1と同様の方法で測定したところ2m2/g以上であった。さらにA社、W社の窒化ガリウムの色調を実施例1の方法と同様に測定したところ、A社のh−GaNはL=80、a=−3、b=
25、W社のh−GaNはL=50、a=−0.4、b=3であった。
【0075】
以上の実施例と比較例との結果から、実施例の本発明の製造方法で得られる金属窒化物が、比較例の方法のものよりも結晶性が高く不純物酸素や未反応の原料金属の残存が少なく高品質で、色調も優れている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は金属の窒化反応による金属窒化物の製造方法に関し、特に窒化ガリウムに代表される周期表13族金属元素の窒化物の高純度、高結晶性の多結晶体の効率の良い製造方法、および該製造方法によって得られる金属窒化物に関する。本発明は窒化ガリウムに代表されるIII−V族化合物半導体からなる発光ダイオード及びレーザーダイオード等の電
子素子に適用されるホモエピタキシャル基板用バルク結晶の製造原料として、不純物が少なく金属と窒素がより理論定比に近い金属窒化物を提供する。それを原料に用いて製造するバルク結晶は転位や欠陥発生等の問題が生じにくくバルク結晶の性能として優れるため、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表13族の金属元素を含む金属窒化物であり、該金属窒化物中の酸素の含有量が0.07重量%未満であることを特徴とする金属窒化物。

【公開番号】特開2011−251910(P2011−251910A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205590(P2011−205590)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【分割の表示】特願2005−236343(P2005−236343)の分割
【原出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】