説明

金属箔体の拡散接合方法

【課題】被接合体に細かな凹凸があっても、安定した拡散接合が可能で密着力が強い金属箔体の拡散接合方法を提供する。
【解決手段】一対の加圧用平板治具33a,33bの間に、被接合体52となる金属板(Ta板)53と接合体50a,50bとなる金属箔体(Pd箔)51a,51bとを、お互いの接合界面が対面するように配置し、かつ、金属箔体51a,51bの接合界面とは反対側の背面と加圧用平板治具33a,33bとの間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、金属箔体51a,51bと加圧用平板治具33a,33bとの剥離性が良い剥離性シート54a,54bを介在させた後、一対の加圧用平板治具33a,33bにより、金属板53の接合界面と金属箔体51a,51bの接合界面とを所定の圧力で加圧しながら加熱することにより拡散接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔体の拡散接合方法に関するものであり、例えば、メタンガスなどの炭化水素と水蒸気とを混合し、高温にて改質処理した後、生成した混合ガスの中から水素ガスのみを透過分離して、高純度の水素ガスを生成する水素透過分離膜の製法として使用される金属箔体の拡散接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水素透過分離膜は、選択的に水素のみを透過させるPd(パラジウム)又はPdを含有する合金を使用した単一層のものが知られている。
【0003】
また、セラミック多孔質支持体表面にPd合金膜をメッキ法により形成しているものもある(特許文献1参照)。
【0004】
また、サンドウィッチ構造を有する水素透過分離膜として、水素透過性能の高い金属膜の両面にPd膜又はPd合金膜を配してなるものもある(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、サンドウィッチ構造となるクラッド材を均一に作る拡散接合方法としては、ステンレス金属薄板の袋の中にクラッド素材を重ねて置き、袋の中を真空にすることで大気圧を加え、焼成炉で加熱する方法が紹介されている(特許文献3参照)。
【0006】
まず、Pd又はPd合金を水素透過分離膜として使用されている水素分離法について、簡単に述べる。
【0007】
通常、水素透過分離膜は、Pd又はPd合金を薄膜状に圧延加工して使用する。例えばPd膜又はPd合金膜で円筒状のチューブを作り、その一端を密封溶接してチューブの外側に加圧された原料水素ガスを供給し、一定温度まで加熱すると、チューブ表面に接触している水素分子は、原子状に解離し、Pdと固溶体を形成してPd膜内に取り込まれる。
【0008】
取り込まれた水素原子は、チューブ内外の水素分圧差により、圧力が高いチューブの外側から低い内側へ拡散し、その内側表面で再度水素分子となる。メタンやメタノールから水蒸気改質により作り出される改質ガスに含有されている水素以外の不純物は、Pdと反応しないためチューブの外側に残存し、これにより水素が精製される。
【0009】
Pdのみの水素透過分離膜では、水素脆性による劣化が課題であり、合金化して使用される。すでに、23%銀や40%銅とのPd合金が良く知られており、Pd合金膜だけの単一管を用いた水素精製装置は、実用化されているが、用いられている管の膜厚は強度を保つために80μm以上と厚くなり、水素透過量が少なく、且つ高価であるとの問題点を有していた。
【0010】
図6は、特許文献1に記載された従来の水素透過分離膜の一例を示すものである。図6に示すように、水素分離体1は、円筒状のセラミックで出来た多孔質基体2と、その外側で被処理面となる多孔質基体の表面2aにPdおよびPd等の水素分離能を有する金属3を無電解メッキにより形成した水素分離膜4とで構成され、多孔質基体2の小孔5の径が水素分離膜4の厚み以下で、かつ1μm以上である。
【0011】
ここで、水素分離膜4が外面部を形成する円筒状の水素分離体1について、その動作を説明する。まず、円筒状の水素分離体1の外側に加圧された原料水素ガスを供給し、そして一定温度まで加熱すると、多孔質体2表面の水素分離膜4に接触している水素分子は、原子状に解離し、Pdと固溶体を形成して、Pd膜内、すなわち水素分離膜4に取り込まれる。
【0012】
取り込まれた水素原子は、水素分離膜4内外の水素分圧差により、圧力が高い水素分離膜4の外側から低い内側へ拡散し、その内側表面で再度水素分子となる。その後、多孔質体の表面2aから円筒状の多孔質基体2の小孔5内を流れる。改質水素ガスに含有されている多くの不純物は、Pdと反応しないため、水素分離体1の外側に残存し、これにより水素が精製される。
【0013】
しかしながら、従来のセラミックから成る多孔質基体外表面にPd膜或いはPd合金膜をメッキ法により形成する方法では、構造体としての機械的強度を高めることが出来、1〜5μm程度の薄膜であり、一定量の水素分離能を確保できるが、多孔質支持体の孔径を透過量に影響を及ぼさない程度に小さなものを選定しても、メッキ処理においてメッキ厚みのばらつきが生じ、Pd合金膜が薄くなる部分にはピンホールが残り、漏れを解消することは困難である。
【0014】
よって、水蒸気改質の結果生成する改質水素ガスの純度が低いと、膜を透過し分離して得られる水素ガスの純度も比例して悪くなり、例えばPd合金膜の厚さ5μmでは、純度99.9%程度で、50ppm以上の一酸化炭素が混入するため、透過したガスを固体高分子膜の燃料電池に供給して使用することはできなかった。また、長時間使用すると、水素脆性によって強度が低下し、特にピンホール部の劣化が促進され破壊が生じやすいといった問題が残る。
【0015】
図7は特許文献2に記載された従来の水素透過膜を示している。図7に示すように、水素透過膜6は、水素透過性能の高い金属膜7と、その両側に配置されたPd膜又はPd合金膜8とから構成されている。
【0016】
このサンドウィッチ構造を有する水素透過膜6は、以下に示す(1)と(2)のような形態で作製される。
【0017】
(1)水素透過性能の高い金属膜7とPd膜又はPd合金膜8を、真空中でドライエッチングして表面の不純物及び酸化物層を除去する。エッチングには不活性ガスイオンによるイオン衝撃等により行うことができる。その後、真空を保持したまま水素透過性能の高い金属膜の両面にPd膜又はPd膜を配置して真空中で圧延する。
【0018】
(2)水素透過性能の高い金属膜7の両面にPd膜又はPd合金膜8を配置して、真空中で加熱することにより、不純物及び酸化物層を除去する。真空中での加熱にはホットプレス等の手法が適用できる。その後圧延する。
【0019】
このようにして作成されたサンドウィッチ構造の水素透過膜の取り付け方法と作用を説明する。
【0020】
図8で示すように、通常、円筒状の多孔質体9の外層10に水素透過膜6を巻きつけて、合わせ部11を銅ろう12で溶接することにより、円筒状のチューブを作る。つぎに、その一端を密封溶接して、チューブの外側に加圧された原料水素ガスを供給する。
【0021】
一定温度まで加熱すると、チューブ表面に接触している水素分子は、原子状に解離し、Pdと固溶体を形成してPd膜内に取り込まれる。
【0022】
取り込まれた水素原子は、チューブ内外の水素分圧差により、水素分圧が高いチューブの外側から水素透過性能の高い金属膜を抜け水素分圧の低い内側へ、すばやく拡散し、その内側のPd膜表面で再度水素分子となる。
【0023】
改質水素ガスに含有されている多くの不純物は、Pdと反応しないため、チューブの外側に残存し、これにより水素が精製される。
【0024】
このように作成されたサンドウィッチ構造を有する水素透過膜6は、芯材に水素の拡散係数が大きく、水素透過性能が高い金属7が使用されているので、Pd合金単一管を用いたものより、水素透過性能が高いものが得られる。
【0025】
また、水素透過性能の高い金属膜の両面にPd膜又は合金膜を配してなるので、表面に酸化被膜層が生成することも無く、且つ積層構造であるのでピンホールのない緻密な水素透過膜が得られ、さらに、水素脆性に弱いとされる水素透過性の高い金属膜の両側にPd膜又はPd合金膜を均一に配してなるので、水素脆性による物性の低下は少なくなる。
【0026】
また、図9は特許文献3に記載された従来の拡散接合方法を示している。図9において、タンタル板21、銅板22、ステンレス鋼(SUS316L)板23の組合わせにおいて、タンタル板21と銅板22の間に銀または、Ag−Cu等の銀ろう薄層24(箔または粉末)を挿入し、これらの両外側に剥離材25を置いた積層物をステンレス鋼等の金属箔または薄い金属板の袋26に入れ、袋内をパイプ部27より真空にした後シーム熔接28で封じ、大気圧を掛けたまま、800〜1050℃に加熱することによるクラッドの製造方法がある。
【0027】
このような圧力の加え方であれば、袋の外から大気圧の均一な圧力が加えられる為に、油圧プレスを併用した大型の拡散接合装置が必要でなく、拡散接合が安定して可能であり、均一な強度のクラッド材が得られる。
【特許文献1】特開2000−317282号公報
【特許文献2】特開平11−276866号公報
【特許文献3】特開平5−169281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上記従来の、水素透過性能の高い金属膜7の両面にPd膜又はPd合金膜8を配置して、真空中で加熱とプレス、または圧延する方法は、不純物及び酸化物層を除去する工程とサンドウイッチ構造を形成する拡散接合工程とを共有するもので、金属膜7を均一に密着させる為には高圧を必要とし、装置が大型で非常に複雑化し高価となり、また、水素透過膜に使用されるPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔の場合には、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部には均一に力が加わらず、全面均一な密着強度を有する貼り合わせは困難である。
【0029】
また、特許文献3に示されるような、クラッド積層素材の両外側に剥離材を置き、ステンレス鋼等の金属箔または薄い金属板の袋に入れ、袋内を真空に封じ、大気圧を掛けたまま加熱する拡散接合方法であっても、テンパーカラーを形成させた18Cr−3Al鋼のような固い剥離材を使用するのであれば、治具やクラッド材へのくっ付きはなくなるが、水素透過膜に使用されるPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔の場合には、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部には均一に力が加わらず、全面均一な密着強度を有する貼り合わせは困難である。
【0030】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、被接合体に細かな凹凸があっても、安定した拡散接合が可能で密着力が強い金属箔体の拡散接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記目的を達成するために、本発明の金属箔体の拡散接合方法は、一対の加圧用平板治具の間に、被接合体となる金属板と接合体となる金属箔体とを、お互いの接合界面が対面するように配置し、かつ、前記金属箔体の接合界面とは反対側の背面と前記加圧用平板治具との間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、前記金属箔体と前記加圧用平板治具との剥離性が良い剥離性シートを介在させた後、一対の前記加圧用平板治具により、前記金属板の接合界面と前記金属箔体の接合界面とを所定の圧力で加圧しながら加熱することにより拡散接合するのである。
【0032】
本発明によれば、加圧により弾性変形する剥離性シートを用いることで、被接合体の細かな凹凸に対しても金属薄体は追随して均一に圧力が加わるので、非常に安定した拡散接合が可能となり密着力が向上させることができる。
【0033】
本発明において、上記の剥離性シートとして、還元性を有する高純度化処理した炭素繊維のフェルトを使用すると、真空引きによる酸化防止にプラスして、高温における黒鉛の還元性雰囲気を創出することにより、接合界面の酸化皮膜を積極的に除去する働きを有する。
【0034】
これによって、装置が非常に簡素化し、水素透過膜に使用されるパラジウムPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔の場合にも、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部に均一に力が加わわり、全面均一な密着強度を有する貼り合わせが可能となる。また、水素透過分離膜として使用した場合、積層膜としての剥離強度が高くなるだけでなく、水素透過性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の金属箔体の拡散接合方法は、接合体が比較的薄い金属箔体を拡散接合する場合において、背面より弾性変形する剥離性シートを介在させることで、被接合体の細かな凹凸に対しても金属薄体は追随して均一に圧力が加わるので、非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上することで、その後の圧延工程においても剥離しない強固な拡散接合体を提供することが出来る。
【0036】
また、高純度化処理した炭素繊維のフェルトを剥離性シートとして使用すれば、拡散接合工程での真空引きによる接合面の酸化防止に留まらず、高温において黒鉛が還元性雰囲気を創出することで、接合界面の酸化皮膜を除去する働きを有し、接合界面のエッチング工程がなくすことができると共に、装置が非常に簡素化し、水素透過膜に使用されるPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔の場合も、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部にも均一に力が加わわり、全面均一な密着強度を有する貼り合わせが可能となる。よって、水素透過分離膜として使用した場合、積層膜としての剥離強度が高くなるだけでなく、水素透過性能を向上も図ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
請求項1に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、一対の加圧用平板治具の間に、被接合体となる金属板と接合体となる金属箔体とを、お互いの接合界面が対面するように配置し、かつ、前記金属箔体の接合界面とは反対側の背面と前記加圧用平板治具との間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、前記金属箔体と前記加圧用平板治具との剥離性が良い剥離性シートを介在させた後、一対の前記加圧用平板治具により、前記金属板の接合界面と前記金属箔体の接合界面とを所定の圧力で加圧しながら加熱することにより拡散接合するものであり、接合体となる金属箔体の接合界面とは反対側の背面と加圧用平板治具との間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、金属箔体と加圧用平板治具との剥離性が良い剥離性シートを介在させることにより、被接合体の細かな凹凸に対しても金属薄体は追随して均一に圧力が加わるので、非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上する。
【0038】
請求項2に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項1に記載の発明における前記金属箔体の厚みを1μm以上で100μm以下としたものであり、1μm以下の薄膜では拡散接合作業の取り扱いも困難であり、100μm以上であれば金属板としての剛性を有し背面に弾性変形する剥離性シートを介在させても、被接合体の細かな凹凸に対して金属薄体は追随しない。よって、1μm以上で100μm以下の金属箔体で非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上するものである。
【0039】
請求項3に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項1または2に記載の発明における前記剥離性シートとして、高純度化処理したシリカ繊維の不織布を使用したものであり、1000℃以上での焼成により高純度化処理したシリカ繊維の不織布は、真空高温での拡散接合時において、ガスの発生も無く、圧力により細かな凹凸に対しても追随が可能で、適度な弾性を残し、非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上する。
【0040】
請求項4に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項1または2に記載の発明における前記剥離性シートとして、高純度化処理した黒鉛を使用したものであり、高純度化処理した黒鉛を剥離性シートとして使用することにより、カーボンとしての還元作用が働き、接合界面の酸化皮膜を除去することが可能となり、接合界面のエッチング工程が簡素化できる。
【0041】
請求項5に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項1または2に記載の発明における前記剥離性シートとして、高純度化処理した炭素繊維のフェルトを使用したものであり、2000℃付近で焼成により高純度化処理した炭素繊維のフェルトは、真空高温での拡散接合時において、ガスの発生も無く、圧力により細かな凹凸に対しても追随が可能で、適度な弾性を残し、非常に安定した拡散接合が可能となり、接合面の密着力が向上する。
【0042】
さらに、高温・真空下において黒鉛が還元性雰囲気を創出することで接合界面の酸化皮膜を除去する働きも有し、水素透過膜に使用されるPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔体の場合には、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部にも均一に力が加わわり、全面均一な密着強度を有する貼り合わせが可能となる。
【0043】
請求項6に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、前記被接合体には水素透過係数の高い金属板を用い、前記被接合体である金属板の両面接合界面には接合体の金属箔体としてパラジウムまたはパラジウム合金の箔を用いたものであり、接合界面の酸化皮膜が水素透過性能に大きく影響する積層型の水素透過分離膜に活用することで、水素透過膜に使用されるPdやPd合金のような10μm程度の薄い金属箔の場合にも、被接合面となる水素透過性能の高い金属面の凹凸細部にも均一に力が加わわり、高圧を加えずとも全面均一な密着強度を有する貼り合わせが可能で、その後の圧延工程も円滑にでき、水素透過性能も向上する。
【0044】
請求項7に記載の金属箔体の拡散接合方法の発明は、請求項6に記載の発明における前記水素透過性の高い金属板が、Ta、Nb、V、Ta合金、Nb合金、V合金のいずれかであることを特徴とするものであり、酸化皮膜を作り易いこれらの金属には、密着力を高め、酸化皮膜を除去できる本発明の金属箔体の拡散接合方法は非常に効果的に働く。
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0046】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1による金属箔体の拡散接合方法に使用する拡散接合装置30を示す概略断面構成図である。図2は同実施の形態1における拡散接合装置30のプレス部材31を示す拡大断面図である。図3は同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法で得た積層型水素透過分離膜32の斜視図である。図4は同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法による加圧前のプレス部材31を示す拡大断面図である。図5は同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法による加圧後のプレス部材31を示す拡大断面図である。
【0047】
図1において、拡散接合装置30は、真空チャンバー34と高温拡散炉35と油圧プレス36で構成されている。
【0048】
真空チャンバー34は、ステンレス製の上チャンバー37と下チャンバー38と油回転ポンプと油拡散ポンプとを真空排気方式として用いた真空ポンプ39から構成され、連結部40のピン41の脱着により上チャンバー37と下チャンバー38とは上下に開閉可能となる。
【0049】
高温拡散炉35は、前面で開放可能な構造(図示せず)のセラミック製の断熱壁42で囲まれた中に、耐熱性の高いカンタル製のヒータ43が埋め込まれてあり、電源及び制御装置44により高温拡散炉35内の温度をコントロールできる。
【0050】
高温拡散炉35内には下ステージ45があり、下ステージ45上にプレス部材31を設置することで、上ステージ46を油圧プレス36により下降させ、プレス部材31に圧力を加えることができる。
【0051】
上ステージ46の駆動軸47は、断熱壁42と上チャンバー37を貫通し、油圧プレス36に連結されており、駆動軸47と上チャンバー37との交差部48は、ベローズ等を応用した駆動可能気密機構により、真空チャンバー34内と外部との間を完全シールしている。
【0052】
図2において、プレス部材46は、SUS316Lのステンレス鋼材の平板を一定寸法に切断した一対の加圧用平板治具33a,33bと、一対の加圧用平板治具33a,33bを定置に固定する2本のボルト49で構成されている。
【0053】
加圧用平板治具33a,33bの間には、2枚の接合体50a,50bとしてパラジウムPd又はパラジウム合金の金属箔体51a,51bと、2枚の金属箔体51a,51bに挟まれた状態で被接合体52となる水素透過係数の高いタンタル金属板53とが、積み重ねて置かれ、金属箔体51a,51bと金属板53との接合界面が対面して近接してセットされている。
【0054】
さらに、接合体50a,50bは、比較的薄い金属箔体51a,51bからなるものであり、その金属箔体51a,51bの接合界面とは反対側の背面と加圧用平板治具33a,33bとの間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、接合体50a,50bの金属箔体51a,51bと加圧用平板治具33a,33bとの拡散接合処理後の離型性が良い剥離性シート54a,54bを介在させた状態で構成されている。
【0055】
この剥離性シート54a,54bの材質としては、1000℃以上で高純度化処理したシリカ繊維の不織布(アドバンテック東洋社、シリカ繊維ろ紙、QR−100)や、約2000℃で高純度化処理した黒鉛(日本カーボン社、ニカフィルム、FL−300SH)や、同じく約2000℃で高純度化処理した炭素繊維のフェルト(日本カーボン社、カーボロン、GF−20−2F)が使用できる。
【0056】
図3に示す積層型水素透過分離膜32は、金属箔体51a,51bとしてパラジウムまたはパラジウム合金の接合体50a,50bをタンタル金属板53に拡散接合により接合したものである。
【0057】
次に、本実施の形態の金属箔体の拡散接合方法により、接合体50a,50bの金属箔体51a,51bを被接合体52の金属板53に拡散接合で貼り付けた水素透過分離膜32の製造方法と、拡散接合工程時の作用について、図4、図5を参照して説明する。
【0058】
水素透過分離膜32には、接合体50a,50bの金属箔体51a,51bとして、所定の大きさに切断した厚さ10μmの2枚のPd箔と、被接合体52の金属板53に、所定の大きさに切断した厚さ500μmのTa板とを用いた。
【0059】
まず、水素透過係数の高い金属板53となるTa板の表面を脱脂した後、約0.1mol濃度のフッ酸で20分間浸漬エッチング処理し、充分な水洗とアルコールによる共沸乾燥を行い、事前に脱脂して洗浄しておいた2枚のPd箔の間に重ね合わせてセットする。
【0060】
次に、下側の加圧用平板治具33bに剥離性シート54bとして高純度化処理したカーボン繊維のフェルトを置き、その上に先の金属板53と金属箔体51a,51bとをセットしたもの(金属板53を金属箔体51a,51bで挟んだもの)を置き、さらに、その上から、同じ剥離性シート54aと上側の加圧用平板治具33aとを順次置き、ボルト49で軽く締め付け、プレス部材31として準備する。
【0061】
次に、拡散接合装置30の真空チャンバー34を連結部40のピン41を外し、上チャンバー37を上方に移動させ、真空チャンバー34を開放する。
【0062】
次に、高温拡散炉35の断熱壁42を開放し、中の油圧プレス36の下ステージ45の上に、準備したプレス部材31を定位置にセットし、断熱壁42を閉じ、真空チャンバー34を定位置に戻し、連結部40をピン41により固定することで真空チャンバー34を密閉する。
【0063】
次に、真空ポンプ39を稼動させ、真空チャンバー34内の真空度を10-5Pa以下に下げ、ヒータ43電源を入れ、制御装置44で900℃に上昇させる。上昇を確認した上で、油圧プレス36を駆動し上ステージ45を下降させ、プレス部材31に約0.1MPaの圧力が加わるように加圧し、900℃で2時間放置する。
【0064】
その後、ヒータ43電源を切り、炉冷にて50℃まで冷却することにより拡散接合工程は終了とする。
【0065】
図4、図5に示す様に、プレス部材31が加圧されると、加圧により弾性変形する高純度化処理した炭素繊維のフェルトからなる剥離性シート54は、変形しながらも金属箔体を押し付け、金属板53表面の凹凸に沿って変形させる。
【0066】
よって、加圧していないときに生じていた金属箔体51と金属板53との間にあった隙間55をなくすこととなり、金属箔体51と金属板53との接合界面が全面にて密着することにより拡散接合が円滑に行われることとなる。
【0067】
特許文献3での実施例の様に、剥離材25としてテンパーカラーを形成させた18Cr−3Al鋼のような固いものであれば、隙間55は保持される為に、凸部分での拡散接合だけが進み、凹部分の接合は不十分となる為に密着力が極端に低下してしまう。
【0068】
また、剥離性シート54として、約2000℃で高純度化処理したカーボン繊維のフェルトを適用することで、炭素は(数1)の様に、タンタル表面に形成した酸化皮膜の酸化タンタルに対して還元剤として働き、高温拡散炉35が高温になるにつれ、タンタル金属箔体51表面に形成していた酸化皮膜の酸素が除去される方向に働き、密着力がさらに増し、水素透過量に大きく影響を与えるとされる酸化被膜の減少は水素透過量の低下を抑制する。
【0069】
【数1】

次に、50℃にまで冷却した後、二段式圧延機で拡散接合させ作成した520μmの試料を50μmにまでロール圧延して水素透過分離膜32として完成させる。
【0070】
剥離性シート54を使用しなかった場合には、圧延時において、タンタル表面い形成されたパラジウム金属箔体は非常に剥がれ易くなり、水素透過分離膜32として良品が取れなかったが、本発明の実施の形態1で作成した試料は良好な密着力を有し歩留まりも非常に良好なものとなった。
【0071】
以上のように本実施の形態の金属箔体の拡散接合方法は、一対の加圧用平板治具33a,33bの間に、被接合体52となる金属板(Ta板)53と接合体50a,50bとなる金属箔体(Pd箔)51a,51bとを、お互いの接合界面が対面するように配置し、かつ、金属箔体51a,51bの接合界面とは反対側の背面と加圧用平板治具33a,33bとの間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、金属箔体51a,51bと加圧用平板治具33a,33bとの剥離性が良い剥離性シート54a,54bを介在させた後、一対の加圧用平板治具33a,33bにより、金属板53の接合界面と金属箔体51a,51bの接合界面とを所定の圧力で加圧しながら加熱することにより拡散接合するものであり、被接合体52の細かな凹凸に対しても金属薄体51a,51bは追随して均一に圧力が加わるので、非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上する。
【0072】
本発明の実施の形態1ではタンタル金属板52を採用したが、水素透過係数の高い金属板であれば適用できるものであり、特に遷移金属であるタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、とそれらの合金が効果的であり、タンタル金属板に限定するものではない。
【0073】
また、剥離性シート54の材質としては、本発明の実施の形態1では、約2000℃で高純度化処理した炭素繊維のフェルト(日本カーボン社、カーボロン、GF−20−2F)を使用したが、1000℃以上で高純度化処理したシリカ繊維の不織布(アドバンテック東洋社、シリカ繊維ろ紙、QR−100)では表面の緻密性の面で適切な接合界面への圧力を加え良好であり、また約2000℃で高純度化処理した黒鉛(日本カーボン社、ニカフィルム、FL−300SH)も同じ効果を有し、熱によるガスの発生が無く、加圧により弾性変形し、金属箔体及び加熱用平板治具との剥離性が良好な素材であれば可能であり、炭素繊維のフェルトに限定するものではない。
【0074】
また、金属箔体51としての厚みを1μm以下となると、非常に取り扱いが困難であり、また、金属箔体51の金属質が金属板53に完全に拡散吸収され、表面の触媒効果が規程できなくなる。
【0075】
また、金属箔体51としての厚みが100μm以上であれば、金属箔体51としての剛性を有し背面より弾性変形する剥離性シート54を介在させても、被接合体52の細かな凹凸に対して金属箔体51は追随しないため効果は低下する。
【0076】
よって、1μm以上で100μm以下の金属箔体51で非常に安定した拡散接合が可能となり、密着力が向上するものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明にかかる金属箔体の拡散接合方法は、積層型水素透過分離膜を使用する燃料電池分野だけでなく、クラッド材の製法にも効果を発揮するので、機能性を有する高価な金属を安価な鋼材に貼り付けて合理化するにも効果的に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態1による金属箔体の拡散接合方法に使用する拡散接合装置を示す概略断面構成図
【図2】同実施の形態1における拡散接合装置のプレス部材を示す拡大断面図
【図3】同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法で得た積層型水素透過分離膜の斜視図
【図4】同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法による加圧前のプレス部材を示す拡大断面図
【図5】同実施の形態1の金属箔体の拡散接合方法による加圧後のプレス部材を示す拡大断面図
【図6】特許文献1に記載された従来の水素透過分離膜の断面図
【図7】特許文献2に記載された従来の水素透過分離膜の斜視図
【図8】特許文献2に記載された従来の水素透過分離膜を使用したチューブの斜視図
【図9】特許文献3に記載された従来の拡散接合方法を示す断面図
【符号の説明】
【0079】
33a,33b 加圧用平板治具
50a,50b 接合体
51a,51b 金属箔体
52 被接合体
53 金属板
54a,54b 剥離性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の加圧用平板治具の間に、被接合体となる金属板と接合体となる金属箔体とを、お互いの接合界面が対面するように配置し、かつ、前記金属箔体の接合界面とは反対側の背面と前記加圧用平板治具との間に、熱によるガスの発生がなく、加圧により弾性変形し、前記金属箔体と前記加圧用平板治具との剥離性が良い剥離性シートを介在させた後、一対の前記加圧用平板治具により、前記金属板の接合界面と前記金属箔体の接合界面とを所定の圧力で加圧しながら加熱することにより拡散接合することを特徴とする金属箔体の拡散接合方法。
【請求項2】
前記金属箔体の厚みを1μm以上で100μm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の金属箔体の拡散接合方法。
【請求項3】
前記剥離性シートとして、高純度化処理したシリカ繊維の不織布を使用したことを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔体の拡散接合方法。
【請求項4】
前記剥離性シートとして、高純度化処理した黒鉛を使用したことを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔体の拡散接合方法。
【請求項5】
前記剥離性シートとして、高純度化処理した炭素繊維のフェルトを使用したことを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔体の拡散接合方法。
【請求項6】
前記被接合体には水素透過係数の高い金属板を用い、前記被接合体である金属板の両面接合界面には接合体の金属箔体としてパラジウムまたはパラジウム合金の箔を用いたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の金属箔体の拡散接合方法。
【請求項7】
前記水素透過性の高い金属板が、Ta、Nb、V、Ta合金、Nb合金、V合金のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の金属箔体の拡散接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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