説明

金属箔張り積層板及びその製造方法、並びにこれを用いたプリント配線板

【課題】十分な耐熱性を有するとともに、耐引き裂き性にも優れ、しかも折り曲げ可能な金属箔張り積層板を提供する。
【解決手段】第1の金属箔11と、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と、熱硬化性樹脂13及び25μm以下の厚みを有する繊維基材30から構成される基材層25と、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層22と、第2の金属箔21とをこの順に備え、基材層25の厚みは、100μm以下であり、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層22の厚みが、1μm以上10μm以下であり、且つ、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層12の厚みと第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層22の厚みとの差の絶対値が、3μm以下である金属箔張り積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔張り積層板及びその製造方法、並びにこれを用いたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造において、プリント回路をサブトラクティブ法により形成する場合には、金属箔張り積層板が用いられる。この金属箔張り積層板は、一般に、電気絶縁性を有する樹脂組成物(絶縁性樹脂)をマトリックスとしその中に繊維基材を含むプリプレグを所定枚数重ね、その表面(片面又は両面)に銅箔等の金属箔を重ねて加熱加圧することによって製造される。絶縁性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂等のような熱硬化性樹脂が汎用されるが、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂等のような熱可塑性樹脂が用いられることもある。
【0003】
このような金属箔張り積層板を用いて得られたプリント配線板は、種々の電子機器に搭載される。近年では、パーソナルコンピュータや携帯電話等の情報端末機器の普及に伴って、これらに搭載されるプリント配線板は、小型化、高密度化が進んでいる。そして、プリント配線板におけるチップ部品(チップ)の実装形態は、ピン挿入型から表面実装型へ、さらにはプラスチック基板を使用したBGA(ボールグリッドアレイ)に代表されるエリアアレイ型へと変わりつつある。
【0004】
例えば、BGAのようなベアチップを直接実装する場合、チップと基板との接続は、熱超音波圧着によるワイヤボンディングで行われるのが一般的である。この場合、ベアチップを実装する基板は、150℃以上の高温にさらされることとなる。そのため、基板の構成材料であるプリプレグに用いられる絶縁性樹脂には、ある程度の耐熱性が必要とされる。
【0005】
また、プリント配線板においては、一度実装したチップを外す、いわゆるリペア性も要求される場合があるが、このリペアの際にも、実装時と同程度の熱がかけられる。そして、基板にはその後、再度チップの実装が施されることになるため、更なる熱処理が施されることとなる。そのため、リペア性が要求される基板においては、高温でのサイクル的な耐熱衝撃性が要求される。ところが、従来の絶縁性樹脂を用いたプリプレグを用いた場合では、このようなサイクル的な熱衝撃により、繊維基材と樹脂との間で剥離が生じ易い傾向にあった。
【0006】
そこで、上記のような不都合を低減するために、繊維基材にポリアミドイミド樹脂を必須成分とする樹脂組成物を含浸してなるプリプレグが開示されている(特許文献1参照)。また、シリコーン変性ポリイミド樹脂と熱硬化性樹脂とからなる樹脂組成物を繊維基材に含浸させた耐熱性の基材が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
また、プリント配線板の薄型化に伴って、繊維基材としても更に薄い基材が開発されている。例えば、繊維基材として用いられるガラスクロスのなかには、厚みが10μm程度のものが供給されつつある。これらの薄い繊維基材に樹脂組成物を含浸することで、薄いプリプレグ、更にはこれを用いた薄い金属箔張り積層板が開発されているが、このような薄い繊維基材を用いた場合、得られる金属箔張り積層板やプリント配線板にはそりが発生し易くなる傾向にあった。金属箔張り積層板にそりが発生すると、その後の回路加工時に回路形成性が低下するほか、プリント配線板にそりが発生していると、チップ部品の実装性が低下したり、信頼性が低下したりするといった不都合が生じ易くなる。
【0008】
さらに、最近では、電子機器の更なる小型化や高性能化に伴って、限られた空間内に部品の実装がなされたプリント配線板を収納することが求められつつある。その方法としては、複数のプリント配線板を多段に配して、これらを相互にワイヤーハーネスやフレキシブル配線板によって接続する方法が知られている。また、ポリイミドをベースとするフレキシブル基板と、従来のリジッド基板とを多層化してリジッド−フレックス基板とする方法が知られている。
【0009】
電子機器の小型化、高性能化に対応するためには、任意に折り曲げることができ、それによって限られた空間内に高密度で収納することが可能なプリント配線板が重要な役割を果たす。そこで、折り曲げ可能なプリント配線板を提供するために、硬化後も可とう性を有する熱硬化性樹脂を50μm以下の繊維基材に含浸したプリプレグを用い、折り曲げ可能で薄型化にも対応可能な多層材料が提案されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−55486号公報
【特許文献2】特開2003−55486号公報
【特許文献3】特開2005−272799号公報
【特許文献4】特開2003−274150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したような折り曲げ可能なプリプレグを用いた多層材料は、薄型化した場合に引き裂きに対する耐性が小さい傾向にあり、また、そりの発生を十分に抑制することも困難であるため、プリント配線板の製造等が困難な場合も少なくなかった。
【0012】
そこで、本発明はこのような事情にかんがみてなされたものであり、十分な耐熱性を有するとともに、耐引き裂き性にも優れ、そりの発生が少なく、しかも折り曲げ可能な金属箔張り積層板を提供することを目的とする。また、このような金属箔張り積層板の製造方法及びこの金属箔張り積層板を用いたプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の金属箔張り積層板は、第1の金属箔と、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層と、熱硬化性樹脂及び25μm以下の厚みを有する繊維基材から構成される基材層と、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層と、第2の金属箔と、をこの順に備え、基材層の厚みは、100μm以下であり、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みが、1μm以上10μm以下であり、且つ、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みと第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとの差の絶対値が、3μm未満であることを特徴とする。
【0014】
上記本発明の金属箔張り積層板は、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸されて両者がほぼ一体化した基材層の両側に、それぞれ非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び金属箔が順次積層された構造を有するものとなる。
【0015】
そして、このように、熱硬化性樹脂を含む基材層の両側に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層を有していることで、本発明の金属箔張り積層板は、薄い繊維基材を用いて任意に折り曲げ可能な構造としても、高い耐熱性に加えて、優れた耐引き裂き性を発揮することができる。
【0016】
さらに、本発明者らが検討を行った結果、従来、金属箔張り積層板におけるそりの発生は、繊維基材の両側の樹脂層の厚みのばらつきが一つの要因となっていることが判明した。これに対し、本発明の金属箔張り積層板は、繊維基材の両側に配置される非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みの差が上記の特定範囲内であるため、そりの発生も極めて少ないものとなる。
【0017】
上記本発明の金属箔張り積層板は、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みが、1μm以上10μm以下であるものである。非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みがこのような範囲であると、金属箔張り積層板の全体的な厚みを十分に薄くしながら、高い耐熱性及び耐引き裂き性を得るとともに、そりの発生を少なくすることができる。
【0018】
また、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みと第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとの差の絶対値は、3μm未満である。基材層の両側に配置される非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みの差がこのように小さいことによっても、金属箔張り積層板は、そりの発生が極めて少ないものとなり得る。
【0019】
さらに、繊維基材は、25μm以下の厚みを有する。このような繊維基材を用いることで、金属箔張り積層板が十分に薄型化されるとともに、優れた折り曲げ性も有するものとなり得る。なかでも、繊維基材としては、ガラスクロスが好適である。
【0020】
さらに、基材層は、100μm以下の厚みを有する。基材層の厚みが100μmを超えると、耐熱性が低下する傾向にある。この観点から、基材層の好適な厚みは、80μm以下である。
【0021】
また、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層を構成する非熱可塑性ポリイミド樹脂は、ビフェニルテトラカルボン酸無水物及びピロメリット酸無水物のうちの少なくとも一方の無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン及びm−フェニレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させて得られるものであると好ましい。これらの非熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることで、金属箔張り積層板の耐熱性や耐引き裂き性が一層向上する傾向にある。
【0022】
一方、熱硬化性樹脂は、グリシジル基を有する樹脂、アミド基を有する樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むものであると好ましい。熱硬化性樹脂がこれらのものであると、金属箔張り積層板の耐熱性及び耐引き裂き性が更に良好となる。特に、これらの熱硬化性樹脂を、前述の非熱可塑性ポリイミド樹脂と組み合わせて用いることで、このような特性が極めて良好となる傾向にある。
【0023】
本発明はまた、上記本発明の金属箔張り積層板を用いて得られるプリント配線板を提供する。すなわち、本発明のプリント配線板は、上記本発明の金属箔張り積層板における第1の金属箔及び/又は第2の金属箔を、回路に加工して得られることを特徴とする。かかるプリント配線板は、本発明の金属箔張り積層板を用いて得られたものであるため、薄型であっても、耐熱性及び耐引き裂き性に優れ、またそりの発生が少ないものとなる。
【0024】
また、本発明による金属箔張り積層板の製造方法は、第1の金属箔、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第1の熱硬化性樹脂層をこの順に備える第1の積層体と、第2の金属箔、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第2の熱硬化性樹脂層をこの順に備える第2の積層体とを、第1の熱硬化性樹脂層と第2の熱硬化性樹脂層とが向き合うようにして繊維基材を介して重ね、加熱及び加圧する工程を有することを特徴とする。
【0025】
上記本発明の製造方法では、第1及び第2の積層体で繊維基材を挟んだ後に、加熱及び加圧を行うことから、繊維基材の両側に配置される第1及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みを同等とすることが容易である。したがって、繊維基材の両側の樹脂層の厚みのばらつきに起因するそりの発生を大幅に低減できる。また、本発明の製造方法によれば、第1及び第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層に由来する樹脂層が形成されることから、耐熱性及び耐引き裂き性に優れる金属箔張り積層板が得られるようになる。
【0026】
本発明の製造方法においては、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みと、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとの差の絶対値が3μm未満であると好ましい。こうすれば、金属箔張り積層板のそりの発生を一層低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、十分な耐熱性を有するとともに、耐引き裂き性にも優れ、そりの発生が少なく、しかも折り曲げ可能な金属箔張り積層板を提供することが可能となる。また、このような金属箔張り積層板の製造方法及びこの金属箔張り積層板を用いたプリント配線板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】金属箔張り積層板の製造方法を模式的に示す工程図である。
【図2】好適な実施形態のプリント配線板の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0030】
[金属箔張り積層板の製造方法]
まず、好適な実施形態に係る金属箔張り積層板の製造方法を説明する。図1は、本実施形態の金属箔張り積層板の製造方法を模式的に示す工程図である。本実施形態の製造方法では、まず、図1(a)に示すように、金属箔11(第1の金属箔)、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12(第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層)及び熱硬化性樹脂層13(第1の熱硬化性樹脂層)をこの順に備える積層体10(第1の積層体)と、金属箔21(第2の金属箔)、非熱可塑性ポリイミド樹脂層22(第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層)及び熱硬化性樹脂層23(第2の熱硬化性樹脂層)をこの順に備える積層体20(第2の積層体)とをそれぞれ準備する。そして、積層体10と積層体20とを、これらの熱硬化性樹脂層13と熱硬化性樹脂層23とが向き合うようにして対向配置させるとともに、これらの間に繊維基材30を配置する。
【0031】
次いで、図1(b)に示すように、繊維基材30を挟むように積層体10と積層体20とを重ね合わせ、得られた積層体を、その積層方向に加熱及び加圧することにより、金属箔張り積層板100を得る。このような加熱及び加圧により、積層体の各層が十分に密着される。この際、熱硬化性樹脂層13,23を構成していた熱硬化性樹脂は、繊維基材30に含浸されるとともに、加熱によって硬化する。そして、これにより、熱硬化性樹脂層13,23と繊維基材30とがほぼ一体化され、熱硬化性樹脂層13,23を構成していた熱硬化性樹脂の硬化物中に繊維基材30が配された構造を有する基材層25となる。
【0032】
加熱及び加圧の条件は、各層が十分に密着することができ、また、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22が軟化せず、しかも熱硬化性樹脂層13,23が十分に硬化する条件とすることが好ましい。
【0033】
上記の観点から、加熱は、150〜280℃の温度範囲で行うことが好ましく、180℃〜250℃の温度範囲で行うことがより好ましい。加熱温度が低すぎると、熱硬化性樹脂の硬化が不十分となって耐熱性が低下する傾向にある。一方、加熱温度が高すぎると、熱硬化性樹脂の劣化によって耐熱性が低下する傾向にある。
【0034】
また、加圧は、0.5〜20MPaの範囲で行うことが好ましく、1〜8MPaの範囲で行うことがより好ましい。この圧力が低すぎると、繊維基材への熱硬化性樹脂の含浸が不十分となり、ボイドが発生し易くなるおそれがある。一方、圧力が高すぎると、基材の厚みが所望の設計値から外れ易くなる傾向にある。
【0035】
以下、このような金属箔張り積層板100の製造方法に用いる積層体10,20及び繊維基材30について詳細に説明する。
【0036】
(繊維基材)
繊維基材30としては、金属箔張り積層板やプリント配線板等における基板材料として適用されるものであれば特に制限無く適用することができ、織布や不織布等の繊維基材が用いられる。繊維基材の材質としては、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維やアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維、或いはこれらの混抄系が挙げられる。なかでも、ガラス繊維の織布(ガラスクロス)が好ましい。
【0037】
繊維基材としては、特に、25μm以下の厚みを有するガラスクロスが好適であり、20μm以下の厚みを有するガラスクロスが更に好ましい。25μm以下の厚みのガラスクロスを用いることで、得られる金属箔張り積層板は優れた柔軟性を有し、任意に折り曲げ可能なプリント配線板を製造することができるものとなる。
【0038】
(積層体)
積層体10及び積層体20における対応する構成同士、すなわち、金属箔11と金属箔21、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22、熱硬化性樹脂層13と熱硬化性樹脂層23は、それぞれ、同じ材料により構成されるものであっても、異なる材料により構成されるものであってもよい。ただし、金属箔張り積層板のそりを低減する観点からは、これらの対応している構成同士は、同じ材料によって構成されているとより好ましい。
【0039】
まず、金属箔11及び金属箔21について説明する。
【0040】
金属箔11及び金属箔21としては、プリント配線板の回路の構成材料として用いられるものを特に制限無く適用でき、5〜200μmの厚みを有する金属箔が好適である。金属箔11,21としては、例えば、銅箔やアルミニウム箔のほか、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5〜15μmの銅層と10〜300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔や、あるいはアルミニウムと銅箔を複合した2層構造複合箔を用いることができる。
【0041】
金属箔11,21は、その表面が粗化処理されたものであってもよい。例えば、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22側の面が粗化処理されていると、加熱加圧後、これらの層との密着性が良好に得られ、信頼性が高く、また微細な回路の形成等が可能な金属箔張り積層板が得られる傾向にある。金属箔11,21の粗化処理された面における十点平均粗さ(Rz)は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。なお、十点平均粗さ(Rz)とは、JIS B0601−1994に定義された十点平均粗さ(Rz)をいうものとする。
【0042】
次に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層22について説明する。
【0043】
非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22は、非熱可塑性ポリイミド樹脂から構成される層である。ここで、非熱可塑性ポリイミド樹脂とは、主鎖を構成する繰り返し単位中にイミド基を有する重合体であって、300℃以下の温度範囲で軟化点を有していないものをいう。なお、「軟化点」としては、4mm×20mmのフィルム状の試験片について、熱機械分析装置(TMA)を用いた加重50mNの伸張法によって測定された値を適用することができる。
【0044】
このような非熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有するものが挙げられる。
【化1】

【0045】
式(1)中、Rはジアミンからアミノ基を除いた残基、又は、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を示し、Rは芳香族テトラカルボン酸誘導体からカルボン酸誘導体部分を除いた残基を示す。nは、1以上の整数である。ジアミン、ジイソシアネート又は芳香族テトラカルボン酸誘導体としては、後述するポリアミック酸の製造に用いられるものが挙げられる。
【0046】
上述した構造を有する非熱可塑性ポリイミド樹脂は、ポリアミック酸から得られたものであると好適である。このようなポリアミック酸としては、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。下記式(2)中の符号は、いずれも上記と同義である。ポリアミック酸を加熱することで、構造中のアミド基とカルボキシル基との反応が進行してイミド基が形成され、これにより上述したような非熱可塑性ポリイミド樹脂が得られる。
【化2】

【0047】
ポリアミック酸は、例えば、テトラカルボン酸又はその誘導体と、ジアミン及び/又はジイソシアネートとを反応させることによって得ることができる。
【0048】
ジアミンとしては、芳香族ジアミンが好ましい。芳香族ジアミンとしては、例えば、p、m又はo−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、ジアミノジユレン1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、ベンジジン、4,4’−ジアミノターフェニル、4,4’’’−ジアミノクォーターフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,2−ビス(アニリノ)エタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,6−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[4−(p−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ジアミノアントラキノン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、1,3−ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5−ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7−ビス(アニリノ)デカフルオロブタン、2,2−ビス[4−(p−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(2−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジトリフルオロメチルフェニル]ヘキサフルオロプロパン、p−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0049】
また、ジアミンとしては、下記一般式(3)で表されるシロキサンジアミンを用いることもできる。ジアミンとしては、このシロキサンジアミンのみを用いてもよく、上記の芳香族ジアミンと併用してもよい。
【化3】

【0050】
式(3)中、Rは一価の有機基を示し、Rは二価の有機基を示す。複数のR及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、nは1より大きい整数である。
【0051】
ジイソシアネートとしては、上述したような芳香族ジアミンとホスゲン等の反応によって得られる芳香族ジイソシアネートが好ましい。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0052】
一方、ジアミンやジイソシアネートと反応させるテトラカルボン酸としては、2つのカルボキシル基を隣り合う位置に有している構造を2組含む構造を有するものが好ましい。このようなテトラカルボン酸の具体例としては、ピロメリット酸、2,3,3’,4’−テトラカルボキシジフェニル、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニル、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル、2,3,3’,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラカルボキシベンゾフェノン、2,3,3’,4’−テトラカルボキシベンゾフェノン、2,3,6,7−テトラカルボキシナフタレン、1,4,5,7−テトラカルボキシナフタレン、1,2,5,6−テトラカルボキシナフタレン、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルメタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルスルホン、3,4,9,10−テトラカルボキシペリレン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸等が挙げられる。テトラカルボン酸としては、全てのカルボキシル基が芳香環に結合した構造を有する芳香族テトラカルボン酸が好適である。
【0053】
また、テトラカルボン酸の誘導体としては、上述したテトラカルボン酸のエステル化物、酸無水物、塩化物等が挙げられる。なかでも、テトラカルボン酸の無水物が好適であり、芳香族テトラカルボン酸の無水物がより好ましい。
【0054】
好適な非熱可塑性ポリイミド樹脂が得られるポリアミック酸としては、次のようなものが好ましい。すなわち、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン及び2,2’−ビス[4−(p−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミン又はこれらのジアミン由来のジイソシアネートと、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニル及び3,3’,4,4’−テトラカルボキシベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸又はそれらの酸無水物と、の反応により得られるものが好適である。
【0055】
なかでも、ビフェニルテトラカルボン酸無水物及びピロメリット酸無水物のうち少なくとも一方の酸無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン及びm−フェニレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンとを反応させて合成されるものが好ましい。
【0056】
ポリアミック酸を合成するためのジアミン及び/又はジイソシアネートと、テトラカルボン酸又はその誘導体との反応においては、テトラカルボン酸又はその誘導体に対する、ジアミン及び/又はジイソシアネートのモル比を0.95〜1.05とすることが好ましい。この範囲外の比率で反応を行うと、生成するポリアミック酸やこれから得られるポリイミド樹脂の分子量が十分に大きくならない場合がある。その場合、得られるフィルムが脆くなったり、フィルムの形状を維持することが困難となったりするなど、フィルム状としたときの物性が十分に得られなくなる場合がある。
【0057】
また、ジアミン及び/又はジイソシアネートと、テトラカルボン酸又はその誘導体との反応は、溶媒中で行うことが好ましく、反応温度は0〜200℃とすることができる。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルホラン、γ−ブチロラクトン、クレゾ−ル、フェノ−ル、ハロゲン化フェノ−ル、シクロヘキサン、ジオキサン等が挙げられる。
【0058】
なお、ポリアミック酸を合成する反応の際には、上記の化合物(ジアミン、ジイソシアネート、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸誘導体)以外の変性用の化合物を添加してもよい。変性用化合物を添加することで、ポリアミック酸から得られる非熱可塑性ポリイミド樹脂中に架橋構造やラダー構造を導入することができる。変性用化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。このような変性用化合物を導入すると、非熱可塑性ポリイミド樹脂中にピロロン環やイソインドロキナゾリンジオン環等の構造が導入される。
【化4】

【0059】
式(4)中、Rは(2+x)価の芳香族有機基を示し、Zは、式(4)における末端のアミノ基に対してオルソ位に位置する基であって、−NH、−CONH、−SONH又は−OHで表される基を示す。xは1又は2である。
【0060】
また、他の変性用化合物としては、例えば、アミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸又はテトラカルボン酸の誘導体であって、分子中に重合性不飽和結合を含む化合物が挙げられる。具体的には、マレイン酸、ナジック酸、テトラヒドロフタル酸、エチニルアニリン等が例示できる。変性用化合物としてこのような化合物を用いると、得られる非熱可塑性ポリイミド樹脂中に架橋構造が導入される。
【0061】
次に、熱硬化性樹脂層13及び熱硬化性樹脂層23について説明する。
【0062】
熱硬化性樹脂層13,23は、熱硬化性樹脂によって構成される層である。熱硬化性樹脂としては、プリント配線板の基板等の材料として用いられる絶縁性の熱硬化性樹脂であれば特に制限なく適用することができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン−ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0063】
なかでも、熱硬化性樹脂としては、グリシジル基を有する樹脂が好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノール又は1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル、アミン、アミド又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0064】
このように熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いると、180℃以下の温度で硬化が可能であり、また熱的、機械的或いは電気的特性を向上することができる。特に、2個以上のグリシジル基を持つエポキシ樹脂とその硬化剤の組み合わせ、2個以上のグリシジル基を持つエポキシ樹脂とその硬化促進剤との組み合わせ、又は2個以上のグリシジル基を持つエポキシ樹脂と硬化剤及び硬化促進剤との組み合わせを用いることが好ましい。グリシジル基を有するエポキシ樹脂のグリシジル基は多いほどよく、3個以上であればさらに好ましい。グリシジル基の数によってエポキシ樹脂の好適な配合量は変わり、グリシジル基が多いほど配合量を少なくできる。
【0065】
エポキシ樹脂の硬化剤、硬化促進剤は、エポキシ樹脂と反応するもの、または、硬化を促進させるものであれば制限なく適用できる。例えば、アミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物類等が挙げられる。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等が挙げられる。多官能フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及びこれらのハロゲン化合物や、これらとホルムアルデヒドとの縮合物であるノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。酸無水物類としては、無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、メチルハイミック酸等が挙げられる。また、硬化促進剤としては、イミダゾール類としてアルキル基置換イミダゾールやベンゾイミダゾール等が例示できる。
【0066】
硬化剤または硬化促進剤の使用量は、例えばアミン類の場合、アミンの活性水素の当量と、エポキシ樹脂のエポキシ当量がほぼ等しくなる量が好ましい。また、硬化促進剤であるイミダゾールの場合、単純に活性水素との当量比とならず、経験的にエポキシ樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部であると好ましい。さらに、多官能フェノール類や酸無水物類の場合、エポキシ樹脂1当量に対して、フェノール性水酸基やカルボキシル基が0.6〜1.2当量となる量であると好ましい。これらの硬化剤または硬化促進剤の量は、少なければ未硬化のエポキシ樹脂が残ってしまい、Tg(ガラス転移温度)が低くなる傾向にあり、多すぎると、未反応の硬化剤及び硬化促進剤が残ってしまい、絶縁性が低下する傾向にある。
【0067】
熱硬化性樹脂は、可とう性や耐熱性の向上を目的として、高分子量の樹脂成分を更に含んでいてもよい。このような高分子量の樹脂成分は、上述したエポキシ樹脂に加えて、又はエポキシ樹脂の代わりに用いることができる。樹脂成分としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂やアクリル樹脂が挙げられる。
【0068】
まず、ポリアミドイミド樹脂としては、シロキサン構造を樹脂の構造中に含むシロキサン変性ポリアミドイミドが好ましい。特に、芳香族環を2個以上有するジアミン(芳香族ジアミン)及びシロキサンジアミンの混合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸を含む混合物と、芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られるポリアミドイミドが好ましい。
【0069】
また、ポリアミドイミド樹脂としては、一分子中にアミド基を10個以上含むポリアミドイミド分子を70モル%以上含有しているものが好ましい。このようなポリアミドイミド分子の含有量は、ポリアミドイミド樹脂のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から得られるクロマトグラム(25℃における標準ポリスチレン換算)と、これとは別に求めた単位質量中のアミド基のmol数(A)とから得ることができる。すなわち、ポリアミドイミド樹脂(a)g中に含まれるアミド基のモル数(A)から、10×a/Aの値を一分子中にアミド基を10個含むポリアミドイミドの分子量(C)とし、GPCで得られるクロマトグラムの数平均分子量が(C)以上となる領域が70%以上となる場合が、「一分子中にアミド基を10個以上含むポリアミドイミド分子を70モル%以上含有している」場合であると判断できる。アミド基の定量方法としては、NMR、IR、ヒドロキサム酸−鉄呈色反応法、N−ブロモアミド法等を適用することができる。なお、GPCの溶離液としては、テトラヒドロフラン/ジメチルホルムアミド(=50/50(体積比))の混合液に、リン酸0.06mol/L及び臭化リチウム一水和物0.03mol/Lを溶解した液が使用され、カラムとしては、GL−S300MDT−5(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名)を2本直結したものが使用される。
【0070】
シロキサン構造を有するシロキサン変性ポリアミドイミドは、その製造時に用いる芳香族環ジアミンaとシロキサンジアミンbの混合比率が、a/b=99.9/0.1〜0/100(モル比)であったものであると好ましく、a/b=95/5〜30/70であったものであると更に好ましく、a/b=90/10〜40/60であったものであると一層好ましい。シロキサンジアミンbの混合比率が多くなると、シロキサン変性ポリアミドイミドのTgが低下する傾向にある。また、シロキサンジアミンbの混合比率が少なくなると、積層体10,20を作製する場合に、熱硬化性樹脂層13,23中に残存するワニス溶剤量が多くなる傾向がある。
【0071】
シロキサン変性ポリアミドイミドを合成するための芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、2,6,2’,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル−4,4’−ジアミン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4’−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3’―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4’−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3’―ジアミノ)ジフェニルエーテル等が例示できる。
【0072】
一方、シロキサンジアミンとしては下記式(5)〜(8)で表される化合物が挙げられる。
【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【0073】
なお、上記一般式(5)で表されるシロキサンジアミンとしては、X−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)(以上、信越化学工業株式会社製)、BY16−853(アミン当量650)、BY16−853B(アミン当量2200)、(以上、東レダウコーニングシリコーン株式会社製)等が例示できる。上記一般式(8)で表されるシロキサンジアミンとしては、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2200)(以上、信越化学工業株式会社製)等が例示できる。
【0074】
シロキサン変性ポリアミドイミドの合成においては、上記の芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンに加えて、脂肪族ジアミン類を併用してもよい。脂肪族ジアミン類としては、下記一般式(9)で表される化合物が挙げられる。
【化9】

【0075】
式(9)中、Xはメチレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合を示し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示し、pは1〜50の整数である。ここで、R及びRの具体例としては、水素原子、炭素数が1〜3のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基が好ましく、フェニル基に結合していてもよい置換基としては、炭素数1〜3のアルキル基やハロゲン原子等が例示できる。
【0076】
脂肪族ジアミンとしては、シロキサン変性ポリアミドイミドにおいて低弾性率及び高Tgの両方を達成する観点から、上記一般式(9)におけるXがエーテル基であるものが好ましい。このような脂肪族ジアミンとしては、ジェファーミンD−400(アミン当量400)、ジェファーミンD−2000(アミン当量1000)等が例示できる。
【0077】
ポリアミドイミド樹脂は、上述の如く、これらの芳香族ジアミン、シロキサンジアミン、脂肪族ジアミン等を含むジアミンの混合物と、無水トリメリット酸とを反応させてジイミドジカルボン酸を含む混合物を得た後、これとジイソシアネートとを反応させることによって得られたものであると好ましい。ジイミドジカルボン酸と反応させるジイソシアネートとしては、下記一般式(10)で表される化合物が挙げられる。
【化10】

【0078】
式(10)中、Dは少なくとも1つの芳香環を有する2価の有機基、又は、2価の脂肪族炭化水素基である。Dとしては、例えば、−C−CH−C−で表される基、トリレン基、ナフチレン基、ヘキサメチレン基、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン基及びイソホロン基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基が好ましい。
【0079】
上記一般式(10)で表されるジイソシアネートとしては、Dで表される基として脂肪族基を有する脂肪族ジイソシアネート、又はDで表される基として芳香族基を有する芳香族ジイソシアネートのどちらも用いることができるが、芳香族ジイソシアネートを用いることが好ましく、両者を併用することがより好ましい。
【0080】
芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、2,4−トリレンダイマー等が例示できる。なかでも、MDIが好ましい。芳香族ジイソシアネートとしてMDIを用いると、得られるポリアミドイミド樹脂の可撓性を向上させることができる。
【0081】
また、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が例示できる。
【0082】
芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートを併用する場合は、脂肪族ジイソシアネートを芳香族ジイソシアネートに対して5〜10モル%程度添加することが好ましい。かかる併用によって、得られるポリアミドイミドの耐熱性を更に向上させることができる。
【0083】
一方、熱硬化性樹脂に用いるアクリル樹脂としては、アクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー、アクリロニトリル、グリシジル基を有するアクリルモノマー等の単独重合体や、これらを複数種類共重合させた共重合体を適用することができる。アクリル樹脂の分子量は特に限定されないが、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量で30万〜100万であると好ましく、40万〜80万であるとより好ましい。これらのアクリル樹脂は、エポキシ樹脂や、エポキシ樹脂と硬化剤や硬化促進剤との組み合わせに適宜加えて用いることが特に好ましい。
【0084】
熱硬化性樹脂層13,23を構成する熱硬化性樹脂には、これらの層の難燃性の向上を目的として、添加型の難燃剤を加えてもよい。添加型の難燃剤としては、リンを含有するフィラーが好ましい。リン含有フィラーとしては、OP930(クラリアント社製商品名、リン含有量23.5%)、HCA−HQ(三光株式会社製商品名、リン含有量9.6%)、ポリリン酸メラミンPMP−100(リン含有量13.8%)PMP−200(リン含有量9.3%)PMP−300(リン含有量9.8%、以上日産化学株式会社製商品名等)が挙げられる。
【0085】
次に、積層体10,20の好適な製造方法について説明する。
【0086】
積層体10,20の製造においては、まず、金属箔11,21を準備し、その表面上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22を形成するための非熱可塑性ポリイミド樹脂又はその前駆体であるポリアミック酸を塗布する。非熱可塑性ポリイミド樹脂又はポリアミック酸は、そのまま塗布してもよく、これらを溶剤に溶解又は分散させたワニスの状態で塗布してもよい。
【0087】
ワニスを用いる場合、ワニス中には、エポキシ化合物、アクリル化合物、ジイソシアネート化合物、フェノール化合物等の架橋性成分や、フィラー、粒子、色材、レベリング剤、カップリング剤等の添加成分が更に含まれていてもよい。ただし、これらの添加成分の量は、非熱可塑性ポリイミド樹脂又はポリアミック酸の量よりも少ないことが好ましい。添加成分の量が多いと、得られる非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の諸特性が低下する傾向にある。
【0088】
ワニス等の塗布は、ロールコータ、コンマコータ、ナイフコータ、ドクタープレードフローコータ、密閉コータ、ダイコータ、リップコータ等を用いて行うことができる。これらの方法においては、ワニスを成膜用スリットから吐出させること等により、できるだけ均一な厚みが得られるように塗布することが好ましい。
【0089】
ワニス中の非熱可塑性ポリイミド樹脂又は前駆体であるポリアミック酸の濃度は、8〜40質量%であると好ましい。また、ワニスの粘度は10〜40Pa・sであると好ましい。ワニスの粘度がこの範囲外であると、金属箔11,21上にワニスを塗布したときに、はじき等が生じ、得られる非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の外観不良が生じたり、膜厚精度が低下したりするおそれがある。
【0090】
ワニスの塗布後には、塗布されたワニスの層を乾燥させることが好ましい。乾燥は、ワニス中の溶剤が除去されるように行うことが好ましく、例えば、ワニスの層を100〜160℃程度で加熱することにより行うことができる。乾燥においては、例えば、ワニス中に含まれている溶剤の割合が、好ましくは全体の1〜60質量%、より好ましくは25〜40質量%となるまで溶剤を除去することが好ましい。乾燥は、大気下のほか、減圧雰囲気下や後述するような還元雰囲気下で行ってもよい。
【0091】
乾燥後のワニス(ワニス層)に含まれる溶剤の割合が1質量%よりも低いと、その後の工程においてワニスから形成した非熱可塑性ポリイミド樹脂層の収縮等が生じ易くなり、得られる金属箔張り積層板100にそりが発生し易くなるおそれがある。また、溶剤の割合が60質量%を超えると、後述するような更なる加熱を行った場合に、発泡が生じて外観不良となったり、タック過多により取り扱い性が低下したりするおそれがある。
【0092】
乾燥後のワニス層には、更に還元雰囲気下で加熱を行ってもよい。還元雰囲気下での加熱は、例えば、250〜550℃で行うことが好ましく、250〜400℃で行うことがより好ましい。また、還元雰囲気としては、窒素ガスと0.1体積%〜4体積%の水素ガスとを含む混合ガスからなる雰囲気が好適である。この還元雰囲気において、水素ガスの濃度が0.1体積%未満であると、樹脂の酸化が進んで、可とう性が低下する傾向にあり、4体積%以上であると水素ガスの爆発下限を越える場合がある。信頼性の更なる向上等のためには、混合ガスにおける水素ガスの濃度は0.1体積%以上1体積%未満であるとより好ましい。
【0093】
このような還元雰囲気下で加熱を行うことにより、金属箔11,21と非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22との接着性が向上するほか、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の耐熱性が向上する傾向にある。例えば、金属箔11,21と非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22との界面での引き剥がし強さを0.3kN/m以上とすることができ、また、288℃のはんだ槽でフロート法により測定されるはんだ耐熱性を30秒以上とすることができる。
【0094】
また、還元雰囲気下で加熱することにより、酸化を抑制しつつ非熱可塑性ポリイミド樹脂を形成することができ、これにより信頼性の高い非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22を得ることも可能となる。さらに、非熱可塑性ポリイミド樹脂の着色を防止することもできるほか、加工時の作業性も向上するようになる。
【0095】
このように、ワニスの塗布後、乾燥及び還元雰囲気下での加熱を行うことにより、非熱可塑性ポリイミド樹脂を用いた場合には、ワニスから溶媒が除去される。また、ポリアミック酸を用いた場合には、溶媒が除去されるとともに、ポリアミック酸におけるアミド基とカルボキシル基との反応が進行して非熱可塑性ポリイミド樹脂が生成する。その結果、金属箔11,21上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22が形成される。
【0096】
なお、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の形成方法は、最終的にこれらの層が得られるのであれば必ずしも上記に限定されない。例えば、ワニスの塗布後には、乾燥のみを行ってもよく、還元雰囲気下での加熱のみを行ってもよく、また必要がなければこれらの両方を行わなくてもよい。
【0097】
乾燥や還元雰囲気下での加熱後により、ワニス中の溶媒は除去されるため、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22は、溶剤が実質的に残存していない状態となる。ただし、溶剤は必ずしも完全に除去されている必要はなく、金属箔張り積層板やプリント配線板において特性上の問題が生じない範囲であれば、微量の溶剤が残存していてもよい。
【0098】
上記のようにして形成された非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22は、1〜100μmの厚みであると好ましく、1〜10μmの厚みであるとより好ましい。このような好適な厚みの範囲とすることで、金属箔張り積層板100におけるこれらの層の厚みのばらつきに起因するそりの発生を低減できるほか、金属箔張り積層板100やこれから得られるプリント配線板の折り曲げ性と、吸湿や温度に対する寸法安定性の両方を向上させることができる。
【0099】
また、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22とは、それらの厚みの差の絶対値が3μm未満であると好ましく、1μm以下であるとより好ましい。このように厚みの差を小さくするためには、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と、非熱可塑性ポリイミド樹脂層22とを、同じ材料を用い、同じ方法によって形成することが好ましい。非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22との厚みの差の絶対値が3μm以下であると、金属箔張り積層板100におけるこれらの層の厚みのばらつきによるそりの発生を大幅に低減することができる。
【0100】
次に、金属箔11,21上に形成された非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の上に、更に熱硬化性樹脂層13,23を形成する。
【0101】
熱硬化性樹脂層13,23は、これらを形成するための熱硬化性樹脂のワニスを、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の金属箔11,21に対して反対側の面上に塗布した後、乾燥させることにより形成することができる。塗布方法としては、ギャップの間をワニスを通過させるコンマコータや、ノズルから流量を調整したワニス流を吐出して塗布するダイコータが使用できる。ワニス状態の塗膜の厚みを50〜500μmとする場合、ダイコータが好ましい。ワニスの塗布量は、乾燥後のワニス層(熱硬化性樹脂層)の厚みが20〜60μmとなるようにすることが好ましい。
【0102】
乾燥の条件は特に制限されないが、ワニスに用いた溶剤が80質量%以上揮発するように行うと好ましい。このような揮発が生じるように、乾燥時の温度は80〜180℃の範囲内で調整し、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで適切に設定することが好ましい。
【0103】
また、熱硬化性樹脂層13,23は、熱硬化性樹脂のワニスを離型基材上に塗布し、80〜180℃で乾燥させて樹脂フィルムを形成した後に、この樹脂フィルムを非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22上に積層することによって形成することもできる。
【0104】
この方法に用いる離型基材としては、乾燥時の温度に耐え得るものであれば特に制限無く適用することができ、例えば、離型剤付きのポリエチレンテレフタレートフィルムやポリイミドフィルム、アラミドフィルム等の樹脂フィルムのほか、離型剤付きのアルミニウム箔等の金属箔を適用することができる。なお、離型基材へのワニスの塗布及びその後の乾燥等の好適な方法や条件は、上述したようなワニスを非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22上に直接塗布する場合と同様である。
【0105】
これらの方法によって、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22上に熱硬化性樹脂層13,23が形成される。そして、その結果、金属箔11,21上に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22及び熱硬化性樹脂層13,23が順に積層された積層体(樹脂付き金属箔)10,20が得られる。そして、このようにして得られた積層体10,20を、上述したように繊維基材30を介して重ね合わせ、加熱及び加圧することによって、金属箔張り積層板100が得られる。
【0106】
[金属箔張り積層板及びプリント配線板]
次に、上述した製造方法によって得られる金属箔張り積層板及びこれを用いたプリント配線板の好適な実施形態について説明する。
【0107】
図1(b)に示すように、好適な実施形態の金属箔張り積層板100は、熱硬化性樹脂層13,23を構成している熱硬化性樹脂が繊維基材30に含浸して硬化されることにより一体化され、熱硬化性樹脂の硬化物中に繊維基材30が配された構造を有する基材層25と、この基材層25の一方の表面上に非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び金属箔11が、他方の表面上に非熱可塑性ポリイミド樹脂層22及び金属箔21がそれぞれ形成された構造を有している。言い換えれば、金属箔張り積層板100は、金属箔11、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12、基材層25、非熱可塑性ポリイミド樹脂層22及び金属箔21がこの順に積層されたものである。この金属箔張り積層板100においては、基材層25とこれを挟む非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び22との複合体が、金属箔11,21を支持する絶縁性の複合基材50となる。
【0108】
このような構造を有する金属箔張り積層板100において、基材層25の厚みは、100μm以下であり、80μm以下であると好ましい。基材層25の厚みが好適な範囲であるほど、薄型化が可能であり、良好な耐熱性が得られるようになる。また、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層22の厚みは、1μm以上10μm以下である。これにより、金属箔張り積層板100の全体的な厚みを小さくしつつ、高い耐熱性及び耐引き裂き性が得られ、且つそりの発生を低減可能となる。
【0109】
さらに、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22との厚みの差の絶対値は、3μm以下であり、1μm以下であるとより好ましい。このような条件を満たすことで、金属箔張り積層板100のそりの発生を大幅に低減することが可能となる。ここで、金属箔張り積層板100における非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22の「厚み」とは、金属箔張り積層板100の断面における、金属箔11,21と非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22との界面の凹凸の平均線と、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12,22と基材層25との界面の凹凸の平均線との間の距離をいうこととする。
【0110】
そして、上記構造を有する金属箔張り積層板100における金属箔11及び/又は金属箔21を、所定の回路形状に加工することによって、プリント配線板を得ることができる。
【0111】
図2は、好適な実施形態のプリント配線板の断面構造を示す図である。図2に示すように、本実施形態のプリント配線板200は、複合基材層50と、この複合基材50の両表面上にそれぞれ設けられた回路導体61及び回路導体62とを備えた構成を有している。複合基材50は、上述の如く、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22との間に基材層25が配置されたものである。
【0112】
回路導体61,62は、金属箔張り積層板100における金属箔11,21を所定の回路形状に加工したものである。金属箔11,21を回路加工する方法は、特に制限されず、公知の回路形成方法を適用することができる。
【0113】
このような金属箔張り積層板100及びプリント配線板200は、いずれも、熱硬化性樹脂の硬化物中に繊維基材30が配された基材層25の両面に、非熱可塑性ポリイミド樹脂層12及び22を備えた複合基材50を有する。したがって、薄い繊維基材30を用いることで全体を薄型化し、これにより折り曲げ可能な構造とした場合であっても、高い耐熱性に加えて、優れた耐引き裂き性を発揮することができる。
【0114】
また、金属箔張り積層板100及びプリント配線板200は、上述した金属箔張り積層板の製造方法を経て得られたことから、基材層25の両側に設けられた非熱可塑性ポリイミド樹脂層12と非熱可塑性ポリイミド樹脂層22との厚みの差が小さいものである。したがって、上記の特性に加えて、従来、繊維基材の両側の樹脂層の厚みの違いに起因して生じ易かったそりの発生も極めて少ないものとなる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
[非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体(ポリアミック酸)ワニスの調製]
熱電対、攪拌機及び窒素吹込口を取り付けた60Lのステンレス製反応釜に、約300ml/分で窒素を流しながら、p−フェニレンジアミン867.8g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル1606.9g及びN−メチル−2−ピロリドン40kgを入れ、これらを攪拌して、ジアミン成分をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。
【0117】
この溶液に対し、ウォータージャケットで50℃以下に冷却しながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物4722.2gを徐々に加えて重合反応を進行させた。これにより、非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸及びN−メチル−2−ピロリドンを含む粘ちょうなポリアミック酸ワニスを得た。その後、塗膜作業性を良くするために、ワニスの回転粘度が10Pa・sとなるまで80℃にてクッキングを行った。
【0118】
[熱硬化性樹脂ワニスの調製]
(配合例1)
ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業株式会社製KS9900F)35.93kg(樹脂固形分33.4質量%)、エポキシ樹脂であるHP7200(大日本インキ株式会社製商品名)1.0kg、(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)、エポキシ樹脂であるEPPN502H(日本化薬株式会社製商品名)2.0kg(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)、及び1−シアノエチル−2−エチル−1−メチルイミダゾール8.0gを配合し、これらが均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため24時間室温で静置して、配合例1の熱硬化性樹脂ワニスを得た。
【0119】
(配合例2)
ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業株式会社製KS9900B)22.44kg(樹脂固形分31.2質量%)、エポキシ樹脂であるEPPN502H(日本化薬株式会社製商品名)2.0kg(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)、エポキシ樹脂であるHP4032D(日本化薬株式会社製商品名)3.0kg、エポキシ樹脂であるNC3000(日本化薬株式会社製商品名)1.0kg(樹脂固形分50質量%のメチルエチルケトン溶液)及び1−シアノエチル−2−エチル−1−メチルイミダゾール8.0gを配合し、これらが均一になるまで約1時間撹拌した後、脱泡のため24時間室温で静置して、配合例2の熱硬化性樹脂ワニスを得た。
【0120】
(配合例3)
エポキシ樹脂であるBREN−S(日本化薬株式会社製商品名)3.0kg、硬化剤であるFG−2000(帝人化成株式会社製商品名)1.81kg、硬化促進剤である1−シアノエチル−2−エチル−1−メチルイミダゾール10.0gを、メチルイソブチルケトン6.0kgに溶解した後、アクリル樹脂であるHTR−860−P3(ナガセケムテックス株式会社製商品名:15%メチルエチルケトン溶液)2.87kgを更に加えて1時間撹拌し、配合例3の熱硬化性樹脂ワニスを得た。
【0121】
[両面銅箔張り積層板(金属箔張り積層板)の作製]
(実施例1〜13)
まず、上記のポリアミック酸ワニスを、塗工機(コンマコータ)を用いて銅箔の粗化面上に塗布した。ここで、銅箔としては幅540mm、厚み12μmの片面粗化した圧延銅箔である「BHY−02B−T」(実施例1〜8及び12〜13、日鉱マテリアルズ社製商品名)、「F0−WS−12」(実施例9)、「F2−WS−12」(実施例10、以上、古河サーキットフォイル社製商品名)、又は「MT18SD−H3」(実施例11、三井金属社製商品名)を用いた。この際、ポリアミック酸ワニスの塗布厚みは、ポリアミック酸ワニスから形成される非熱可塑性ポリイミド層の厚みが、それぞれ表1又は2に示す通りとなるようにした。
【0122】
次に、ワニスが塗布された銅箔に対し、連続式硬化炉を用い、最高温度400℃、滞留時間15分の条件で加熱処理し、前駆体であるポリアミック酸を非熱可塑性ポリイミド樹脂に変化させて、銅箔上に非熱可塑性ポリイミド層を形成した。
【0123】
続いて、銅箔上に形成された非熱可塑性ポリイミド層上に、上述した配合例1〜3の熱硬化性樹脂ワニスのいずれかをダイコータで塗布した後、乾燥炉にて100〜140℃、滞留時間5分で乾燥させて、熱硬化性樹脂層を形成した。各実施例において用いた熱硬化性樹脂ワニスの種類、及び乾燥後に得られた熱硬化性樹脂層の厚みは、表1又は2に示す通りとした。これにより、銅箔上に非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び熱硬化性樹脂層が順次積層された構造を有する各種の積層体を得た。
【0124】
そして、各実施例について上記の積層体をそれぞれ2つずつ準備し、それぞれ対応するもの同士を、熱硬化性樹脂層間に繊維基材であるガラスクロスが挟まれるようにして重ねた後、積層方向にプレスを行った。ここで、繊維基材であるガラスクロスとしては、「WEX−1027」(実施例1〜11、厚み19μm)、「WEX1015」(実施例12、厚み15μm)又は「WEX−1037」(実施例13、厚み29μm)を用いた。また、プレスの条件は、それぞれ表1又は2に示す通りとした。
【0125】
これにより、熱硬化性樹脂層とガラスクロスとがほぼ一体化して硬化された基材層の両面に、それぞれ非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び銅箔が順次積層された構造を有する実施例1〜13の両面銅箔張り積層板(金属箔張り積層板)を得た。
【0126】
(比較例1〜5)
ポリアミック酸ワニスにより形成される非熱可塑性ポリイミド層の厚み、熱硬化性樹脂ワニスの種類及びその塗布厚み、並びにプレスの条件を、表3に示すとおりとなるように変えたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1〜5の両面銅箔張り積層板をそれぞれ作製した。
【0127】
(比較例6)
圧延銅箔である「BHY−02B−T」の粗化面上に、配合例1の熱硬化性樹脂ワニスを、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布した後、乾燥炉にて100〜140℃、滞留時間5分で乾燥して、銅箔上に熱硬化性樹脂層が形成された構造を有する積層体を得た。
【0128】
この積層体を2つ準備し、これらを、熱硬化性樹脂層間に繊維基材であるガラスクロス(WEX−1027)が挟まれるようにして重ねた後、積層方向にプレスを行った。プレスの条件は、表3に示す通りとした。
【0129】
これにより、熱硬化性樹脂層とガラスクロスとがほぼ一体化して硬化された基材層と、この基材層の両表面にそれぞれ銅箔が設けられた構造を有する比較例6の両面銅箔張り積層板を得た。
【0130】
[特性評価]
実施例1〜13並びに比較例1〜6で得た両面銅箔張り積層板をそれぞれ用いて、以下の各種評価を行った。各両面銅箔張り積層板で得られた結果を、表1〜3に示す。
【0131】
ただし、比較例5で得られた両面銅箔張り積層板は、ガラスクロスへの熱硬化性樹脂のしみ込みが十分に生じず、不完全な構造の両面銅箔張り積層板となった。そのため、比較例5の両面銅箔張り積層板については、下記の全ての特性評価を行うことができなかった。
【0132】
(非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みの差の測定)
両面銅箔張り積層板の積層方向に沿う断面を顕微鏡により観察した。これに基づき、非熱可塑性ポリイミド樹脂層と基材層との界面の凹凸の平均線と、非熱可塑性ポリイミド樹脂層と銅箔との界面の凹凸の平均線との間の距離を求め、これを非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとした。そして、基材層の両面に設けられている2つの非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みの差の絶対値を算出した。なお、比較例6で得られた両面銅箔張り積層板については、非熱可塑性ポリイミド樹脂層を設けなかったため、この測定は行わなかった。
【0133】
(はんだ耐熱性の評価)
両面銅箔張り積層板から50mm×50mmの試験片を切り出し、この試験片を288℃のはんだ槽に浮かべ、ふくれが生じるまでの時間を測定した。各実施例又は比較例の両面銅箔張り積層板について、それぞれ5個の試験片を用いて同様の測定を行い、5個の試験片で得られた結果の平均時間を求め、これに基づいてはんだ耐熱性を評価した。平均時間が長いほど、はんだ耐熱性が優れていることを意味する。ただし、試験時間は300秒を上限とした。
【0134】
(そりの測定)
両面銅箔張り積層板を、幅10mm長さ200mmに切り出して測定用サンプルとし、その測定用サンプルについて、そりゲージにより長手方向の端部から100mmの部分の高さを測定した。この値が大きいほど、そりが大きく生じていることを意味する。
【0135】
(折り曲げ性の評価)
両面銅張り積層板の銅をエッチングにより除去し、これを試験用基板とした。この試験用基板の屈曲させる部位にピンゲージ(0.1mmφ)を挟んで180度折り曲げ、指で強く押さえつけながら、折り曲げ部に沿って指を移動させた後、試験用基板を元に戻した。この操作後の試験用基板を観察し、折り曲げ部分でクラックや破断が生じているか否かを目視で観察し、折り曲げ性を評価した。クラックや破断の発生が見られない場合を「良好」とし、それ以外は「クラック有り」、「破断」とした。
【0136】
(複合基材のそり及びカールの評価)
まず、両面銅箔張り積層板の銅をエッチングにより除去した。これにより得られた複合基材のカールや波打ちの有無を目視により観察した。目視により平坦と判断できた複合基材について、さらにそりゲージによりそりを測定し、そりが生じていないと確認できたものを表1〜3中、「なし」と記した。
【0137】
(複合基材の熱膨張係数の測定)
まず、両面銅箔張り積層板の銅箔をエッチングにより除去した。これにより得られた複合基材を25mm×4mmに切り出し、測定用試料とした。これらの測定用試料の熱膨張係数を、テキサスインスツルメンツ社製、熱機械分析装置を用い、昇温速度10℃/分で20〜300℃の範囲を引き張りモードで測定することにより求めた。
【0138】
(複合基材の耐引き裂き性の評価)
まず、両面銅箔張り積層板の銅箔をエッチングにより除去した。これにより得られた複合基材を、幅10mm、長さ100mmに切り出すとともに、長手方向の端部から50mmの位置に、長手方向と垂直の方向に1mmの切り込みを入れ、これを測定用試料とした。測定用試料の長手方向の一端を固定するとともに他端に500gの荷重をかけ、この状態で左右に各180度ねじる操作を60回/分の速度で行い、試料が破断するまでの回数を測定した。ただし、測定回数は300回を上限とした。この回数が多いほど、耐引き裂き性に優れることを意味する。
【0139】
(複合基材の絶縁耐圧の測定)
両面銅箔張り積層板から100mm×100mmの試験片を切り出し、この試験片の一方の面の銅箔をエッチングして50mmφの円形状とし、次いで、対向する銅箔間に100V/秒の速度で昇圧させながら、絶縁破壊が生じるまで電圧を印加した。そして、絶縁が破壊したときの電圧を、複合基材の絶縁耐圧とした。
【表1】


【表2】


【表3】

【0140】
表1〜3に示されるように、実施例1〜13で得られた両面銅箔張り積層板は、いずれもはんだ耐熱性に優れ、そりも有しておらず、さらにこれらが有している複合基板も、折り曲げ性が良好であり、そり及びカールが発生しておらず、良好な耐引き裂き性及び絶縁耐圧を有していることが確認された。これに対し、比較例1、2、3、4及び6で得られた両面銅箔張り積層板は、両面銅箔張り積層板や複合基材にそりが生じていたり、折り曲げ性が十分でなかったり、耐引き裂き性が劣るなど、実施例の両面銅箔張り積層板が備える全ての特性を具備するものではなかった。
【符号の説明】
【0141】
10,20…積層体、11,21…金属箔、12,22…非熱可塑性ポリイミド樹脂層、13,23…熱硬化性樹脂層、25…基材層、30…繊維基材、50…複合基材、100…金属箔張り積層板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属箔と、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層と、熱硬化性樹脂及び25μm以下の厚みを有する繊維基材から構成される基材層と、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層と、第2の金属箔と、をこの順に備え、
前記基材層の厚みは、100μm以下であり、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び前記第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みが、1μm以上10μm以下であり、且つ、
前記第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みと前記第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとの差の絶対値が、3μm未満である、
ことを特徴とする金属箔張り積層板。
【請求項2】
前記繊維基材が、ガラスクロスである、ことを特徴とする請求項1記載の金属箔張り積層板。
【請求項3】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び前記第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層を構成する非熱可塑性ポリイミド樹脂が、ビフェニルテトラカルボン酸無水物及びピロメリット酸無水物のうちの少なくとも一方の無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン及びm−フェニレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンと、を反応させて得られるものである、ことを特徴とする請求項1又は2記載の金属箔張り積層板。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、グリシジル基を有する樹脂、アミド基を有する樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属箔張り積層板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属箔張り積層板における前記第1の金属箔及び/又は前記第2の金属箔を、回路に加工して得られる、ことを特徴とするプリント配線板。
【請求項6】
第1の金属箔、第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第1の熱硬化性樹脂層をこの順に備える第1の積層体と、第2の金属箔、第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層及び第2の熱硬化性樹脂層をこの順に備える第2の積層体とを、前記第1の熱硬化性樹脂層と前記第2の熱硬化性樹脂層とが向き合うようにして繊維基材を介して重ね、加熱及び加圧する工程を有する、ことを特徴とする金属箔張り積層板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みと前記第2の非熱可塑性ポリイミド樹脂層の厚みとの差の絶対値が、3μm未満である、ことを特徴とする請求項6記載の金属箔張り積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−235583(P2011−235583A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110387(P2010−110387)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】