説明

金属粉末製造装置

【課題】ガスアトマイズ法を用いて所望形状の金属粒子で構成された高品質な金属粉末を製造することができる金属粉末製造装置を提供すること。
【解決手段】金属粉末製造装置1は、溶融金属Qを流下させる溶融金属供給部2と、溶融金属供給部2の下方に設置された筒状体3と、溶融金属供給部2から供給された溶融金属Qに向けて気体を噴射する気体噴射部5と、筒状体3の内周面に沿って冷却液層S1を形成するように冷却液Sを流出させる冷却液流出部4とを有し、溶融金属供給部2から流下した溶融金属Qに気体噴射部5から噴射した気体Gを衝突させることにより、溶融金属Qを多数の液滴Q1とするとともに、多数の液滴Q1を冷却液層S1に衝突させ冷却固化させて、金属粉末Rを製造するものであって、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整する昇降機構10(距離調整手段)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるガスアトマイズ法を用いて金属粉末を製造する金属粉末製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、特許文献1にかかる金属粉末製造装置は、溶融金属を流下させる溶湯ノズルが形成された原料容器と、この原料容器の下方に配設された冷却容器と、冷却容器の内周面に沿って冷却液層を形成する冷却液供給手段と、流下した溶融金属に向けてガスを噴射する高圧ガス噴射手段とを備えている。
このような金属粉末製造装置では、原料容器から流下した溶融金属に高圧ガス噴射手段から噴射されたガスを衝突させることにより、当該溶融金属を多数の溶滴とするとともに、その多数の溶滴を冷却液層に衝突させ冷却固化させ、これにより、金属粉末を製造する。
【0003】
かかる金属粉末製造装置では、冷却容器が円筒状をなしその軸線が鉛直方向に対して傾斜するように配設されている。また、冷却液供給手段は、冷却容器の内周面の接線方向に向けて冷却液を噴射し、冷却液を冷却容器の内周面に沿って旋回させながら流下させることにより、冷却液層を形成している。このような冷却液層を用いることで、溶滴を急冷し、高機能性の金属粉末を製造することができる。
しかしながら、特許文献1にかかる金属粉末製造装置では、金属粒子の形状を変化させることができず、所望形状の金属粒子が得られない場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−80812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ガスアトマイズ法を用いて所望形状の金属粒子で構成された高品質な金属粉末を製造することができる金属粉末製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の金属粉末製造装置は、溶融金属を流下させる溶融金属供給部と、
前記溶融金属供給部の下方に設置された筒状体と、
前記溶融金属供給部から供給された溶融金属に向けて気体を噴射する気体噴出部と、
前記筒状体の内周面に沿って冷却液層を形成するように冷却液を流出させる冷却液流出部とを有し、
前記供給部から流下した溶融金属に前記気体噴出部から噴射した気体を衝突させることにより、当該溶融金属を多数の液滴とするとともに、該多数の液滴を前記冷却液層に衝突させ冷却固化させて、金属粉末を製造する金属粉末製造装置であって、
前記溶融金属に前記気体が衝突する位置と前記多数の液滴が前記冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整する距離調整手段を有することを特徴とする。
本発明によれば、溶融金属に気体が衝突する位置と多数の液滴が冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整することで、得られる金属粉末の粒子形状を変更することができる。その結果、ガスアトマイズ法を用いて所望形状の金属粒子で構成された高品質な金属粉末を製造することができる。
【0007】
本発明の金属粉末製造装置では、前記距離調整手段は、前記気体噴出部を前記筒状体に対して変位させる変位手段を備えることが好ましい。
これにより、比較的簡単な構成で、溶融金属に気体が衝突する位置と多数の液滴が冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
本発明の金属粉末製造装置では、前記変位手段は、前記気体噴出部を鉛直方向に移動するように構成されていることが好ましい。
これにより、より簡単な構成で、溶融金属に気体が衝突する位置と多数の液滴が冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【0008】
本発明の金属粉末製造装置では、前記溶融金属供給部および前記筒状体の互いに位置関係を維持したまま、前記変位手段が前記気体噴出部を移動するように構成されていることが好ましい。
これにより、さらに簡単な構成で、溶融金属に気体が衝突する位置と多数の液滴が冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【0009】
本発明の金属粉末製造装置では、前記気体噴射部は、前記筒状体の軸線に平行に流下した前記溶融金属に対し前記気体を衝突させることで、前記多数の液滴を前記筒状体の軸線に対して傾斜した方向に向けて飛翔させることが好ましい。
これにより、多数の液滴を冷却液層に比較的簡単かつ確実に衝突させることができる。
本発明の金属粉末製造装置では、前記気体噴射部は、前記多数の液滴を鉛直方向に対して傾斜した第1の方向に向けて飛翔させるように構成されており、前記筒状体は、その軸線が鉛直方向に対して前記第1の方向とは反対側に傾斜した第2の方向を向くように設置されていることが好ましい。
これにより、多数の液滴を冷却液層により簡単かつ確実に衝突させることができる。
【0010】
本発明の金属粉末製造装置では、前記気体噴射部は、流下した前記溶融金属に気体を第1の流速および第1の流量で噴射する第1の気体噴射口と、流下した前記溶融金属に前記第1の気体噴射口とは反対側から気体を前記第1の流速より遅い第2の流速および前記第1の流量よりも少ない第2の流量で噴射する第2の気体噴射口とを備えることが好ましい。
これにより、多数の液滴をその広がりを抑えつつ鉛直方向に対して傾斜する方向に飛翔させることができる。
本発明の金属粉末製造装置では、前記距離調整手段は、前記多数の液滴の飛翔方向を変更する向き変更手段を備えることが好ましい。
これにより、比較的簡単な構成で、溶融金属に気体が衝突する位置と多数の液滴が冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の金属粉末製造装置ついて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の金属粉末製造装置の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の金属粉末製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)、図2は、図1に示す金属粉末製造装置に備えられた気体噴射部を示す斜視図、図3は、図2に示す気体噴射部の部分拡大縦断面図、図4は、図1に示す金属粉末製造装置における距離調整手段の作用を説明するための模式図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1ないし図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0012】
図1に示す金属粉末製造装置1は、溶融金属Qをアトマイズ法(ガスアトマイズ法)により粉末化して、多数の金属粉末Rを得るものである。この金属粉末製造装置1は、溶融金属Qを供給する溶融金属供給部(タンディシュ)2と、溶融金属供給部2の下方に設けられた筒状体(冷却容器)3と、筒状体3内に冷却液Sを流出させる冷却液流出部4と、流下する溶融金属Qに向けて気体Gを噴射する気体噴射部(ノズル)5と、気体噴射部5を上下に昇降させる昇降機構10とを有している。
【0013】
以下、各部の構成について説明する。
図1に示すように、溶融金属供給部2は、有底筒状をなす部分を有している。この溶融金属供給部2の内部空間(内腔部)には、製造すべき金属粉末の原材料を溶融した溶融金属Qが一時的に収納される。このような溶融金属供給部2は、例えば、黒鉛、窒化珪素等の耐火性材料で構成されている。また、溶融金属供給部2の外周には、溶融金属Qを加熱・保温するための誘導コイル6が設けられている。
【0014】
溶融金属Qは、いかなる元素を含んでいてもよく、例えば、TiおよびAlの少なくとも一方を含んでいるものも用いることができる。これらの元素は活性が高く、これらの元素を含む溶融金属Qは、短時間の空気との接触により、容易に酸化して酸化膜を形成してしまい、微細化することが困難とされている。金属粉末製造装置1は、後述するように気体噴射部5が噴射する気体Gとして不活性ガスを用いることで、このような溶融金属Qをも容易に粉末化することができる。
【0015】
また、溶融金属供給部2の底部の中央部には、吐出口21が設けられている。この吐出口21からは、溶融金属供給部2内の溶融金属Qが下方に向かって自然落下により吐出される。
このような溶融金属供給部2の下方には、筒状体3が設けられている。
筒状体3は、円筒状をなし、その軸線が鉛直方向に対して傾斜する方向を向くように設置されている。
【0016】
この筒状体3は、後述するように、気体噴射部5からの気体Gにより溶融金属Qを分断(飛散)させて形成された多数の液滴(溶滴)Q1が供給されるとともに、その多数の液滴Q1を冷却液流出部4からの冷却液Sにより形成された冷却液層S1で冷却するためのものである。
このような筒状体3の上側(上端部付近)には、環状の蓋部材7が設けられている。この蓋部材7上には、蓋部材7の中央部の開口を通じて筒状体3内に気体Gを噴射し得るように気体噴射部5が設けられている。
【0017】
また、筒状体3の上端部には、その周方向に沿って冷却液流出部4が設けられている。
冷却液流出部4は、筒状体3の周方向に沿ってほぼ等間隔で並設された複数の冷却液流出口41で構成されている。
各冷却液流出口41は、筒状体3の内周面に開口しており、筒状体3の内周面の接線方向に向けて冷却液S(本実施形態では水)を流出(吐出)する。これにより、冷却液Sを筒状体3の周方向に旋回させて、冷却液層S1を形成する。なお、冷却液Sは、還元剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0018】
このように構成された冷却液流出部4によれば、比較的簡単な構成で、筒状体3の上端部から下端部に亘って冷却液層S1を形成することができる。
特に、冷却液流出部4が前述したように冷却液Sの旋回流を形成させるので、筒状体3内での冷却液Sの流れを安定化することができる。また、冷却液流出部4は、前述したように筒状体3の内周に沿って設けられた複数の冷却液流出口41を備えているため、比較的簡単に、冷却液層S1の厚さを筒状体3の周方向に亘って均一化することができる。
また、図示しないが、各冷却液流出口41には、冷却液供給管を介して冷却液タンクが接続され、当該冷却液供給管の途中には、ポンプが設けられている。これにより、ポンプを作動させることで、冷却タンク内の冷却液Sを冷却液供給管を介して各冷却液流出口41に供給し、加圧された冷却液Sが各冷却液流出口41から流出(噴射)される。
【0019】
以上説明したようにして形成される冷却液層S1には、気体噴射部(ガスジェットノズル)5によって溶融金属Qを分断して形成された多数の液滴Q1が気体噴射部5からの気体Gとともに供給される。
気体噴射部5は、図1に示すように、前述した溶融金属供給部2の吐出口21と同軸上に設けられた溶湯ノズル51と、溶湯ノズル51の外周に沿って設けられたガス室52と、ガス室52に連通する複数の気体噴射口53とを備えている。
【0020】
溶湯ノズル51は、鉛直方向に上下に貫通するように形成された溶湯ノズル孔511を有している。また、溶湯ノズル51は、耐火材で構成されている。
このような溶湯ノズル51は、前述した溶融金属供給部2の吐出口21から流下した溶融金属Qを一旦受け止め、溶融金属Qを溶湯ノズル孔511を通じて筒状体3内へ流下させる。溶湯ノズル孔511を通過した溶融金属Qの横断面形状および横断面積は、溶湯ノズル孔511の横断面積および横断面形状に応じたものとなる。
このような溶湯ノズル51の外周側には、その周方向に沿って環状をなすガス室52が設けられている。このガス室52には、外部から図示しないガス供給管を介して、高圧の気体Gが供給されるようになっている。
【0021】
気体Gとしては、溶融金属Qの酸化を防止することができるものであれば特に限定されないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス、アンモニア分解ガス等の還元性ガス等を用いることができる。
このようなガス室52の下側には、その周方向に沿って並設された複数の気体噴射口53が設けられている。各気体噴射口53は、前述したガス室52に連通しており、気体Gを噴射するようになっている。
【0022】
本実施形態では、複数の気体噴射口53は、図2に示すように、溶湯ノズル51の軸線を中心とする同一円周上に設けられている。特に、複数の気体噴射口53は、図1および図2中左側に設けられた複数の第1の気体噴射口531と、図1および図2中右側(すなわち第1の気体噴射口531とは反対側)に設けられた複数の第2の気体噴射口532とで構成されている。
【0023】
このような複数の気体噴射口53(複数の第1の気体噴射口531および複数の第2の気体噴射口532)は、これらの下方における溶湯ノズル51の軸線Lc上のほぼ同位置に向けて気体Gを噴射するように形成されている。
各第1の気体噴射口(主気体噴射口)531は、流下した溶融金属Qに気体Gを第1の流速および第1の流量で噴射するように構成されている。そして、複数の第1の気体噴射口531は、各第1の気体噴射口531からの気体Gの噴射により主分断用のガス流jを生じさせる。
【0024】
一方、各第2の気体噴射口(補助気体噴射口)532は、流下した溶融金属Qに第1の気体噴射口531とは反対側から気体Gを前記第1の流速より遅い第2の流速および前記第1の流量よりも少ない第2の流量で噴射するように構成されている。本実施形態では、各第2の気体噴射口532の横断面積は、各第1の気体噴射口531の横断面積よりも小さくなっている。そして、複数の第2の気体噴射口532は各第2の気体噴射口532からの気体Gを噴射により補助分断用のガス流jを生じさせる。
【0025】
このような複数の第1の気体噴射口531および複数の第2の気体噴射口532で複数の第2の気体噴射口532を構成することで、気体噴射部5は、筒状体3の軸線に平行に流下した溶融金属Qに対し気体Gを衝突させることで、多数の液滴Q1を筒状体3の軸線に対して傾斜した方向に向けて飛翔させることができる。これにより、多数の液滴Q1を冷却液層S1に比較的簡単かつ確実に衝突させることができる。
【0026】
より具体的に説明すると、ガス室52に所定の圧力で圧縮された気体Gが供給されると、図3に示すように、各第1の気体噴射口531および各第2の気体噴射口532から気体Gが噴射される。これにより、複数の第1の気体噴射口531から噴射された気体Gによりガス流jが形成されるとともに、複数の第2の気体噴射口532から噴射された気体Gによりガス流jが形成される。これらのガス流j、jは、溶湯ノズル51の下端よりやや下側の位置における溶湯ノズル孔511の軸線上で互いに交差する。
このとき、各第2の気体噴射口532の横断面積が各第1の気体噴射口531の横断面積よりも小さいので、流路抵抗差により、ガス流jの流速および流量がガス流jの流速および流量よりも小さくなる。
【0027】
その結果、図3に示すように、ガス流jは、ガス流jと交わった後、やや広がりを生じてその噴射方向に沿う流れを維持する。一方、ガス流jは、ガス流jと交わることによって、ガス流jの噴射方向に沿うように流れる方向が変化し、ガス流jと一体化される。
このようにして、気体噴射部5は、溶湯ノズル51を囲う円周上に配置された複数の気体噴射口53のそれぞれから気体Gが噴射されるものの、これらのガス流が溶湯ノズル孔511の軸線上で交わることで、円錐状の拡がりを全周にわたって生じることなく、溶湯ノズル孔511の軸線に対して片側に気体Gを噴射することができる。
【0028】
一方、溶湯ノズル51の溶湯ノズル孔511から流下した溶融金属Qは、ガス流jとガス流jとの交差点付近で、これらに衝突し、分断されて複数の液滴Q1となる。複数の液滴Q1は、ガス流jと一体化したガス流jによって、冷却液層S1に向けて飛翔する。そして、複数の液滴Q1は、冷却液層S1に衝突し、さらに分断され微細化されるとともに冷却固化され、これにより、金属粉末R(複数の金属粒子)が得られる。
【0029】
このようにして、流下した溶融金属Qは、気体Gのガス流j、jによって分断されて複数の液滴Q1となるととともに、当該複数の液滴Q1を効率的に冷却液層S1に衝突させて冷却固化させることができる。
特に、気体噴射部5は、多数の液滴Q1を鉛直方向に対して傾斜した第1の方向に向けて飛翔させるように構成されており、筒状体3は、その軸線が鉛直方向に対して前記第1の方向とは反対側に傾斜した第2の方向を向くように設置されている。これにより、多数の液滴Q1を冷却液層S1により簡単かつ確実に衝突させることができる。
【0030】
以上説明したように構成された気体噴射部5は、昇降機構10により支持されている。
この昇降機構10は、前述した気体噴射部5を上下方向に昇降させる機能を有するものである。このような昇降機構10を作動させることにより、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を調整することができる。ここで、昇降機構10は、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を調整する距離調整手を構成するとともに、気体噴射部5を筒状体3に対して変位させる変位手段を構成する。
【0031】
より具体的に説明すると、図1に示すような場合、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離はLである。そして、図4に示すように、昇降機構10が気体噴射部5を上昇させると、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離は、前述したLよりも長いLとなる。
【0032】
このような昇降機構10は、前述したような機能を有するものであれば、いかなる構造を有するものであってもよい。また、昇降機構10の動力源は、手動であっても、モータやソレノイドなどであってもよい。
ところで、前述したように溶融金属Qを分断して形成された液滴Q1は、冷却液層S1に到達するまでの間、球形に近づくように形状を徐々に変化させながら飛翔する。そして、当該液滴Q1は、冷却液層S1に到達・衝突することで、冷却固化され、形状が固定される。
したがって、液滴Q1は、冷却液層S1までの飛翔時間が短ければ、異形状のまま冷却固化される。その結果、異形状の金属粒子で構成された金属粉末Rを得ることができる。一方、液滴Q1は、冷却液層S1までの飛翔時間が長ければ、球形状をなした状態で冷却固化される。その結果、球形の金属粒子で構成された金属粉末Rを得ることができる。
【0033】
溶融金属Qを構成する金属の種類や雰囲気温度等にもよるが、例えば、円形度0.8の球形の金属粒子で構成された金属粉末Rを得るためには、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を1m以上にする。
このようなことから、金属粉末製造装置1では、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整することで、得られる金属粉末Rの粒子形状を変更することができる。その結果、ガスアトマイズ法を用いて所望形状の金属粒子で構成された高品質な金属粉末Rを製造することができる。
【0034】
特に、本実施形態では、昇降機構10で気体噴射部5を筒状体3に対して変位させる変位手段を構成することにより、比較的簡単な構成で、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整することができる。
また、本実施形態では、昇降機構10が気体噴射部5を鉛直方向に移動するように構成されているので、より簡単な構成で、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【0035】
この場合、昇降機構10は、溶融金属供給部2および筒状体3の互いに位置関係を維持したまま、気体噴射部5を移動するように構成されているのが好ましい。これにより、溶融金属供給部2および筒状体3を変位させる機構を必要とせず、さらに簡単な構成で、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置と多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【0036】
また、筒状体3の下側には、その内周面に、冷却液層S1の厚さを調整するリング状の厚さ調整部材8が設けられている。このような厚さ調整部材8は、筒状体3の下端部で冷却液Sの下方への流速を低下させることで、冷却液層S1の厚さの均一化を図ることができる。
また、筒状体3の下端には、金属粉末Rを冷却液Sとともに排出するための排出管9が接続されている。この排出管9は、筒状体3の下端付近から下側に向けて収斂する部分を有している。また、この排出管9は、図示しない回収タンクに接続されている。
【0037】
回収された金属粉末Rと冷却液Sとの混合物は、脱液装置を用いて、冷却液Sを除去することで金属粉末Rが分離される。分離された金属粉末Rは、乾燥装置を用いて、乾燥される。
以上説明したような金属粉末製造装置1によれば、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整することで、得られる金属粉末Rの粒子形状を変更することができる。その結果、ガスアトマイズ法を用いて所望形状の金属粒子で構成された高品質な金属粉末Rを製造することができる。
【0038】
<第2実施形態>
次に、本発明の金属粉末製造装置の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の金属粉末製造装置の第2実施形態を示す模式図である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態の金属粉末製造装置1Aは、距離調整手段の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。
【0039】
金属粉末製造装置1Aは、図5に示すように、気体噴射部5による多数の液滴Q1の飛翔方向を変更する向き変更手段11を備えている。
向き変更手段11は、各気体噴射口53からの気体Gの流量および流速を変更することで、気体噴射部5による多数の液滴Q1の飛翔方向を変更する。これにより、多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pを上下させ、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整することができる。ここで、向き変更手段11は、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置Pとの間の距離を調整する距離調整手段を構成する。
このような向き変更手段11によれば、比較的簡単な構成で、溶融金属Qに気体Gが衝突する位置Pと多数の液滴Q1が冷却液層S1に衝突する位置との間の距離を調整することができる。
【0040】
以上説明したような金属粉末製造装置1Aによっても、前述した第1実施形態の金属粉末製造装置1と同様の効果を発揮することができる。
以上、本発明の金属粉末製造装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、金属粉末製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の金属粉末製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図2】図1に示す金属粉末製造装置に備えられた気体噴射部を示す斜視図である。
【図3】図2に示す気体噴射部の部分拡大縦断面図である。
【図4】図1に示す金属粉末製造装置における距離調整手段の作用を説明するための模式図(縦断面図)である。
【図5】本発明の金属粉末製造装置の第2実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【符号の説明】
【0042】
1、1A……金属粉末製造装置 2……溶融金属供給部 3……筒状体 21……吐出口 4……冷却液流出部 41……冷却液流出口 5……気体噴射部 51……溶湯ノズル 511……溶湯ノズル孔 52……ガス室 53……気体噴射口 531……第1の気体噴射口 532……第2の気体噴射口 6……誘導コイル 7……蓋部材 8……厚さ調整部材 9……排出管 10……昇降機構 11……向き変更手段 Lc……軸線 j、j……ガス流 L、L……距離 P、P……位置 S……冷却液 S1……冷却液層 G……気体 Q……溶融金属 Q1……液滴 R……金属粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を流下させる溶融金属供給部と、
前記溶融金属供給部の下方に設置された筒状体と、
前記溶融金属供給部から供給された溶融金属に向けて気体を噴射する気体噴出部と、
前記筒状体の内周面に沿って冷却液層を形成するように冷却液を流出させる冷却液流出部とを有し、
前記供給部から流下した溶融金属に前記気体噴出部から噴射した気体を衝突させることにより、当該溶融金属を多数の液滴とするとともに、該多数の液滴を前記冷却液層に衝突させ冷却固化させて、金属粉末を製造する金属粉末製造装置であって、
前記溶融金属に前記気体が衝突する位置と前記多数の液滴が前記冷却液層に衝突する位置との間の距離を調整する距離調整手段を有することを特徴とする金属粉末製造装置。
【請求項2】
前記距離調整手段は、前記気体噴出部を前記筒状体に対して変位させる変位手段を備える請求項1に記載の金属粉末製造装置。
【請求項3】
前記変位手段は、前記気体噴出部を鉛直方向に移動するように構成されている請求項2に記載の金属粉末製造装置。
【請求項4】
前記溶融金属供給部および前記筒状体の互いに位置関係を維持したまま、前記変位手段が前記気体噴出部を移動するように構成されている請求項3に記載の金属粉末製造装置。
【請求項5】
前記気体噴射部は、前記筒状体の軸線に平行に流下した前記溶融金属に対し前記気体を衝突させることで、前記多数の液滴を前記筒状体の軸線に対して傾斜した方向に向けて飛翔させる請求項1ないし4のいずれかに記載の金属粉末製造装置。
【請求項6】
前記気体噴射部は、前記多数の液滴を鉛直方向に対して傾斜した第1の方向に向けて飛翔させるように構成されており、前記筒状体は、その軸線が鉛直方向に対して前記第1の方向とは反対側に傾斜した第2の方向を向くように設置されている請求項5に記載の金属粉末製造装置。
【請求項7】
前記気体噴射部は、流下した前記溶融金属に気体を第1の流速および第1の流量で噴射する第1の気体噴射口と、流下した前記溶融金属に前記第1の気体噴射口とは反対側から気体を前記第1の流速より遅い第2の流速および前記第1の流量よりも少ない第2の流量で噴射する第2の気体噴射口とを備える請求項5または6に記載の金属粉末製造装置。
【請求項8】
前記距離調整手段は、前記多数の液滴の飛翔方向を変更する向き変更手段を備える請求項1ないし7のいずれかに記載の金属粉末製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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