説明

金属粒子分散液

【課題】常温における広がり性及び加熱時における乾燥現象を抑制することのできる金属粒子分散液を提案すること。
【解決手段】金属粒子と、常温における粘度が10mPa・s以上であって、引火点が100℃以上である有機溶媒を含んで製造される金属粒子分散液を提供する。また、用いられる金属粒子は、平均粒子の大きさが100nm以下であるナノ粒子であって、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉛、錫、インジウム、アルミニウム及びこれらの合金中のいずれか一つとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属粒子分散液に関し、より詳しくは、常温での広がり性及び加熱時における乾燥が抑制され得る金属粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器が軽薄短小化される傾向にしたがって、高密度で集積性の高い印刷回路基板が求められており、このような印刷回路基板は、非常に微細な配線幅及びピッチを有することが求められる。このような微細な回路配線を実現する方法として、従来の複雑なフォトリソグラフィー工程ではなく、単一の工程であるインクジェット方式に対する研究が活発に行われている。インクジェット方式の場合、基材に直接印刷するため工程が単純で、それにより工程費用を画期的に抑えることができるという長所を有する。
【0003】
インクジェット方式で微細な金属配線を実現するためには、一般に、高沸点且つ低粘度である金属粒子分散液が多く用いられる。インクジェットヘッドからの吐出性を考えると低い粘度であることが有利であるが、基材に吐出された場合、低粘度に因る広がり現象によって微細な線幅を形成するのが困難になる。金属粒子分散液の粘度は、一般的に分散溶媒の粘度特性により左右されるため、溶媒の特性を調節して金属粒子分散液の粘度を調節しようとする試みがある。
【0004】
従って、インクジェット用金属粒子分散液の場合、インクジェットヘッドノズルでの乾燥を防いで円滑な流れを確保するため、金属粒子に対して優れた分散性を有する高沸点及び低粘度の分散溶媒が用いられる。常用されているピエゾ方式のインクジェットヘッドでの吐出性を有するための金属粒子分散液の粘度は20mPa・s(20℃)以下の範囲が好ましいことが知られている。
【0005】
特許文献1によれば、テトラデカンを分散溶媒とした銀ナノ粒子による分散液が提示されている。分散溶媒であるテトラデカンは2.0〜2.3mPa・s(20℃において)の低い粘度特性を有するため、銀ナノ粒子の含有量が60wt%の高濃度分散液の場合にも分散液の粘度が8mPa・s(20℃において)程度の低い値を示す。しかし、テトラデカンの場合は配線が乾燥するまで数分以上かかるため、配線の広がり現象が発生して微細な配線を実現することが容易ではないという欠点がある。
【0006】
従って、インクジェットヘッドでの吐出において優れた特性を有しながらも、微細な線幅の形成が容易な分散溶媒を用いて金属粒子分散液の粘度特性を制御することのできる分散液の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】大韓民国特開第2006−0060725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためのもので、本発明の目的は、常温での広がり性及び加熱時における乾燥が抑制され得る金属粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような課題を解決し目的を達成すべく、本発明による金属粒子分散液は、金属粒子と、常温における粘度が10mPa・s以上であって、引火点が100℃以上である有機溶媒と、を含む。
【0010】
金属粒子は、平均粒子径が100nm以下のナノ粒子であって、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉛、錫、インジウム、アルミニウム及びこれらの合金中のいずれか一つのナノ粒子であることが好ましい。
【0011】
金属粒子の含量は、金属粒子分散液の全体重量を基準として、1wt%〜80wt%であることが好ましい。有機溶媒との親和性のために、金属粒子はアミン系分子、脂肪酸系分子、及びチオール系分子のうち少なくともいずれか一つでキャッピングされていることが好ましい。
【0012】
本発明に使用可能な有機溶媒は常温において固体であることが好ましい。このような有機溶媒を使用した金属粒子分散液は60℃以上で粘度が20mPa・s以下であることが好ましい。
【0013】
なお、有機溶媒は炭素数10以上の脂肪族アルコールとすることが可能であるが、脂肪族アルコールは、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、及びオクタデカノールのうちの少なくとも一つであることが好ましい。また、有機溶媒は、炭素数10以上の液状パラフィンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、金属粒子分散液の常温での粘度が高いと常温で広がり性を抑制できるため、印刷回路基板などに使用する際に優れた縦横比を有する微細な配線を効果的に形成することができる。
【0015】
また、インクジェット工法において用いられるとき、ノズルでの加熱吐出時にもノズルで乾燥しないよう引火点が高く、安定した吐出性を確保することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による金属粒子分散液をそれぞれ異なる有機溶媒を用いて製造した後、分散液内の金属粒子の含量を測定したものを表した図である。
【図2】図2は、本発明による金属粒子分散液をそれぞれ異なる有機溶媒を用いて製造した後、分散液内の金属粒子の含量を測定したものを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、具体的な実施例及び添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態は、当該技術分野における通常の知識を有している者に本発明をより完全に説明するために提供される。
【0018】
本発明の一側面による金属粒子分散液は、金属粒子と、常温における粘度が10mPa・s以上であって、引火点は100℃以上である有機溶媒と、を含む。本発明ではインクジェットによって微細な回路配線を実現するため、常温で高粘度を有する有機溶媒を分散溶媒に導入して高粘度金属粒子分散液を製造して配線での広がり性を抑制して高い縦横比(aspect ratio)を有する微細な配線の製造が可能である。
【0019】
本発明において、金属粒子は平均粒子の大きさが100nm以下のナノ粒子であることが好ましい。本発明の金属粒子分散液は、例えば、微細な配線パターンの形成に使用され得るため金属粒子の大きさが小さいほど好ましい。
【0020】
本発明において使用され得る金属粒子としては、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉛、錫、インジウム、及びアルミニウムのうちいずれか一つであることが好ましい。また、本発明において使用され得る金属粒子は、前述の金属の合金や、これらの硫化物、これらの炭化物、これらの酸化物及びこれらの塩のうちのいずれか一つの形態であることが好ましい。
【0021】
金属粒子の含量は、金属粒子分散液の全体重量を基準として1wt%〜80wt%であることが好ましい。金属粒子の含量が1wt%未満の場合、金属粒子の含量が少なすぎて金属粒子の機能が発現しない可能性があり、金属粒子の含量が80wt%を超える場合に有機溶媒の含量が小さくなるため、金属粒子分散液を所望の粘度に調節するのが困難になることがある。
【0022】
有機溶媒との親和性のために、金属粒子は、有機溶媒と親和性を有する粒子でキャッピング(capping)されていることが好ましい。本発明において有機溶媒に親和性を有する粒子として使用できる粒子は、アミン系分子、脂肪酸系分子、及びチオール系分子がある。
【0023】
本発明による金属粒子分散液において、有機溶媒は、前述した金属粒子に対して優れた分散性を有し、高濃度の金属粒子分散液を製造することができることが好ましい。また、有機溶媒は常温(20℃)において粘度が10mPa・s以上であって、引火点は100℃以上であることが好ましい。常温で粘度が一定の粘度以上の場合、吐出後、金属粒子分散液が高い粘度を有するため広がりが抑制され得る。
【0024】
また、金属粒子分散液は常温で高い粘度を有するため、吐出時には加熱によって粘度を低くして吐出しなければならない。従って、加熱時の吐出されるノズルが乾燥するのを抑制する必要がある。従って、本発明による金属粒子分散液に使用される有機溶媒は、引火点が100℃以上であって乾燥現象を抑制する有機溶媒であることが好ましい。なお、引火点の特性の他にも、加熱して吐出することが可能でなければならないため、有機溶媒は、60℃以上の温度で粘度が20mPa・s以下であることが好ましい。
【0025】
常温で高粘度を有することができる分散用溶媒として、炭素数10以上の脂肪族アルコール(Fatty alcohol)であることが好ましい。それは、例えば、脂肪族アルコールはデカノール(decanol)、ドデカノール(dodecanol)、テトラデカノール(tetradecanol)、ヘキサデカノール(hexadecanol)、及びオクタデカノール(octadecanol)のうち少なくとも一つであることが好ましい。または、有機溶媒は炭素数10以上の炭化水素の混合物のパラフィンであることが好ましい。パラフィンは液状パラフィン(liquid paraffine)であることが好ましい。
【0026】
以下、表1に脂肪族アルコールのデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール及び液状パラフィンの化学式、融点、引火点及び常温での粘度を示した。但し、液状パラフィンは炭素数10以上の炭化水素の混合物であるため、融点及び引火点は、混合された炭化水素毎に種々の温度で表れて単一の値を得ることができないため、粘度のみを表した。
【0027】
【表1】

【0028】
これら有機溶媒は引火点がいずれも100℃以上で、常温で10mPa・s以上の高い粘度を有する。脂肪族アルコールのうち炭素数14以上のテトラアルコール、ヘキサデカノール、及びオクタデカノールは常温において固体状態で存在するため、特に吐出の後、広がり性の抑制に効果的であることが予測できる。
【0029】
一般的に、常用のピエゾ方式のインクジェットヘッドを使用する場合、インクジェット用金属粒子分散液の粘度が20mPa・s以上の場合、吐出性が低下する問題があるが、内部加熱が可能なヘッドを用いると高粘度の分散液を吐出可能な水準に低粘度化することができて吐出性を確保することができる。
【0030】
このような有機溶媒による高濃度インク化及びその適用可能性を確認してみた。実施例1〜6では、それぞれデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、及びオクタデカノールと液状パラフィンを有機溶媒にして銅ナノ粒子を分散させ銅粒子分散液を製造した。
【0031】
実施例1〜6によって銅粒子分散液の熱分析を実施し、インク内に含有された純粋な金属含量を測定した。図1は実施例1、2及び6による銅粒子分散液の熱分析の結果を表した図で、図2は実施例3、4及び5による銅粒子分散液の熱分析の結果を表した図である。熱分析を利用して、製造された銅粒子分散液内の銅粒子の含量を測定した。
【0032】
図1によれば、デカノールを使用した実施例1の銅粒子分散液では、熱分析の結果、銅粒子の含量が34.51wt%と表れ、ドデカノールを使用した実施例2の銅粒子分散液では、熱分析の結果、銅粒子の含量が34.61wt%と表れ、液状パラフィンを使用した実施例6の銅粒子分散液では、熱分析の結果、銅粒子の含量が39.27wt%と表れた。
【0033】
図2では、ヘキサデカノールを使用した実施例3の銅粒子分散液は、熱分析の結果、銅粒子の含量が39.03wt%と表れ、オクタデカノールを使用した実施例4の銅粒子分散液では、熱分析の結果、銅粒子の含量が43.01wt%と表れ、テトラデカノールを使用した実施例5の銅粒子分散液では、熱分析の結果、銅粒子の含量が41.31wt%と表れた。
【0034】
従って、それぞれの有機溶媒を使用した場合、分散後の銅粒子含量が34〜45%の高い金属含量を有する金属粒子分散液となり得ることが確認できた。
【0035】
以下の表2に、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、及び液状パラフィンを含む銅粒子分散液の温度による粘度を表した。温度を5℃おきに25℃から95℃まで変化させ粘度を測定した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2において、有機溶媒がデカノールである場合をみると、65℃以上で、好ましい吐出粘度である20mPa・s以下の粘度を示す。デカノールより常温で粘度が高いドデカノール、テトラデカノール、及び液状パラフィンを用いた場合、それぞれ75℃、85℃及び95℃以上で20mPa・s以下の粘度を示す。
【0038】
しかし、ドデカノール及びテトラデカノールはそれぞれ引火点が127℃及び145℃であるため、より高い温度に加熱して吐出可能な粘度状態にする場合にも吐出安定性を確保することができる。液状パラフィンは引火点が確定されていないが、高い粘度特性を考えると、デカノールより高い引火点を示すものと予測され、従って、吐出安定性も確保できるものと予測される。
【0039】
表2から分かるように、有機溶媒を用いた金属粒子分散液の殆どは、常温では非常に高い粘度値を示しているが、昇温と共に粘度値が下降して、65℃以上の温度では吐出可能な粘度範囲である20mPa・s以下の粘度を示した。これを通じて、インクジェットヘッドの昇温によって高粘度インクの吐出の制御が可能であることが確認できた。
【0040】
したがって、このような有機溶媒を含む金属粒子分散液は、常温では高粘度であり、インクジェットヘッドを加熱して低粘度化して吐出すると、吐出された微細な液滴は基材に弾着されると熱を消失し、再び高粘度となることにより配線での広がり現象を抑制することができる。すなわち、脂肪族アルコール及び炭素数10以上の液状パラフィンの場合、高い引火点を有しているため、インクジェットヘッドを吐出可能な程度に加熱してもノズルでの乾燥現象が起こらず、安定した吐出性を確保することができる。
【0041】
本発明は、上述した実施形態及び添付の図面により限定されるのではなく、特許請求の範囲により限定されるものである。また、本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内において多様な形態への置換、変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、
常温における粘度が10mPa・s以上であり、引火点が100℃以上である有機溶媒と、
を含むことを特徴とする金属粒子分散液。
【請求項2】
前記金属粒子は、平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項3】
前記金属粒子は、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉛、錫、インジウム、アルミニウム及びこれらの合金中のいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項4】
前記金属粒子の含量は、前記金属粒子分散液の全体重量を基準として、1wt%〜80wt%であることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項5】
前記金属粒子は、アミン系分子、脂肪酸系分子、及びチオール系分子のうちの少なくともいずれか一つでキャッピングされることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項6】
前記有機溶媒は、常温において固体であることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項7】
65℃以上の温度における粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項8】
前記有機溶媒は、炭素数10以上の脂肪族アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。
【請求項9】
前記脂肪族アルコールは、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、及びオクタデカノールのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項8に記載の金属粒子分散液。
【請求項10】
前記有機溶媒は、炭素数10以上の液状パラフィンであることを特徴とする請求項1に記載の金属粒子分散液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−40506(P2010−40506A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80149(P2009−80149)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】