説明

金属粒子及びその製造方法

【課題】低コストで作製することができ、焼結により孔径の小さな金属多孔体を製造することができる金属粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子及びその製造方法である。金属粒子1は、中心層2と最外層3とをする。中心層2は、易焼結性金属元素を主成分とし、難焼結性金属元素を副成分とする。最外層3は、易焼結性金属元素を主成分とし、難焼結性元素を含有しないか、あるいは難焼結性元素を中心層2よりも少ないモル比率で含有している。また、金属粒子1の製造方法においては、易焼結性金属元素と難焼結性元素とを含有する析出粒子に、金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出物を付着させ、多層構造の多層析出粒子を得る。次いで、多層析出粒子を還元条件下で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面や内部に多数の細孔を有する多孔体は、衝撃吸収性、騒音吸収性、ガス吸着性等にすぐれている。特に、金属多孔体は、低コストで耐熱性、耐圧性、耐衝撃性、耐溶剤性等に優れている。上記多孔体は、その特性をいかして、防爆材、引火防止材、ガス抜き材、エアーの送り込み材、急激な圧力変化を減少させるための緩撃材、消音材、及び濾過材等に用いられていた。
【0003】
金属多孔体は、金属粒子を加圧成形し、その後焼結させて作製することができる。
具体的には、例えば、金属粉末と、加熱により焼失する空隙形成材料としての無機又は有機のスペーサ材料粉末とを混合してプレス成形し、次いで、スペーサ材料粉末の焼失温度に加熱してスペーサ材料を焼失させた後、これより高温の焼結温度で金属粉末を焼結処理して金属の高衝撃吸収性多孔質金属体を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、金属粉末をカプセルに封入し、静水圧媒体中、低圧力・低温加熱の仮焼結処理を行って多孔質の仮焼結体を形成した後、カプセルを除去しもしくは除去することなく、その仮焼結体を加熱処理することにより金属多孔体を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、従来の金属多孔体の製造方法においては、多孔体の孔径を充分に小さくすることが困難であった。
一般に、金属多孔体であってもセラミックス多孔体であっても、焼結して作製される多孔体の孔径と原料となる粒子の粒径との間には、孔径≒1/4×粒径という関係がある。アトマイズ、粉砕、研削等の通常の手法では、金属粒子の小粒径化には限界があり、数μm以下の金属粒子を得ることはできない。そのため、孔径が1μm以上の金属多孔体しか得ることができないのが現状である。
一方、不活性ガス中蒸発法によって粒径が1μmよりも小さな金属粒子(例えば粒径≒0.02μm)を得ることが可能であるが、量産ができないため、製造コストが高くなるという問題がある。
このように、金属多孔体の孔径を小さくすることが困難であったため、例えば振動が激しい場所で使用される部品等のように、耐熱性や機械的強度が特に要求される用途には、高分子やセラミックスからなる多孔体が代用されていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−171704号公報
【特許文献2】特開平8−218102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、低コストで作製することができ、焼結により孔径の小さな金属多孔体を製造することができる金属粒子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子であって、
該金属粒子は、中心層と、該中心層の表面に配された最外層とを有し、
上記中心層は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、かつ上記還元条件において還元されない難焼結性金属元素を副成分とし、
上記最外層は、上記易焼結性金属元素を主成分とし、上記難焼結性元素を含有しないか、あるいは上記難焼結性元素を上記中心層よりも少ないモル比率で含有していることを特徴とする金属粒子にある(請求項1)。
【0008】
上記第1の発明の金属粒子は、上記中心層と上記最外層とを有し、上記中心層は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、かつ上記還元条件において還元されない難焼結性金属元素を副成分とする。そのため、上記還元条件で上記金属粒子を焼結させて上記金属多孔体を作製する際には、上記中心層の上記難焼結性元素によって金属粒子の粗大化、即ち細孔の収縮や消滅を抑制し、小さな孔径の細孔を保持することができる。
また、上記最外層は、上記易焼結性金属元素を主成分とし、上記難焼結性元素を含有しないか、あるいは上記難焼結性元素を上記中心層よりも少ない量で含有している。そのため、上記金属粒子を焼結させると、上記最外層において焼結を充分に進行させることができる。
したがって、上記金属粒子を用いることにより、機械的強度に優れ、孔径の小さな金属多孔体を製造することができる。
【0009】
第2の発明は、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子であって、
該金属粒子は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、上記還元条件において還元されない難焼結性元素を副成分とし、
上記金属粒子中に含まれる上記難焼結性元素の濃度は、上記金属粒子の中心部から外表面に向けて小さくなることを特徴とする金属粒子にある(請求項4)。
【0010】
上記第2発明の金属粒子は、上記易焼結性金属元素を主成分とし、副成分として上記難焼結性元素を含有する。また、上記金属粒子の中心部から外表面に向けて濃度が小さくなるように、上記難焼結性元素を含有している。即ち、上記金属粒子においては、該金属粒子の中心部から外側に向けて上記難焼結性元素の濃度が小さくなるような濃度勾配が形成されている。そのため、上記還元条件で上記金属粒子を焼結させて金属多孔体を作製する際には、上記難焼結性元素を多く含有する中心部に近い部分ほど、金属粒子の粗大化、即ち細孔の収縮や消滅が抑制され、小さな孔径の細孔を保持することができる。また、上記中心部から離れる部分ほど、上記易焼結元素によって焼結が進行し易くなる。その結果、機械的強度に優れ、孔径の小さな金属多孔体を製造することができる。
【0011】
第3の発明は、所定の還元条件で焼結させることによって金属多孔体を作製するための原料として用いられる金属粒子の製造方法であって、
上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素の塩と、上記還元条件において還元されない難焼結性元素の塩とを、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結性元素イオンのモル数よりも多くなるような割合で水に溶解することにより第1原料液を作製する第1混合工程と、
上記第1原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出粒子を析出させる第1析出工程と、
少なくとも上記易焼結性金属元素の塩を水に溶解することにより、上記易焼結性金属元素イオンを含有する第2原料液を作製する第2混合工程と、
上記析出粒子と、上記第2原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第2反応液とを混合し、上記析出粒子の表面に難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出物を付着させ、多層構造の多層析出粒子を得る第2析出工程と、
上記多層析出粒子を還元条件下で加熱することにより、上記金属シュウ酸塩又は上記金属水酸化物を金属に還元させて上記金属粒子を得る還元工程とを有し、
上記第2混合工程においては、上記第2原料液として、上記難焼結性元素イオンを含有していない難焼結元素フリー原料液を用いるか、あるいは上記第1混合工程における上記第1原料液よりも少ないモル数で上記難焼結性元素イオンを含有する難焼結元素含有原料液を用いることを特徴とする金属粒子の製造方法にある(請求項8)。
【0012】
上記第3の発明の製造方法においては、上記第1混合工程と、上記第1析出工程と、上記第2混合工程と、上記第2析出工程と、上記還元工程とを行うことにより、所定の還元条件で焼結させることによって、金属多孔体を作製するための原料として用いられる金属粒子を製造する。
上記第1混合工程においては、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素の塩と、上記還元条件において還元されない難焼結性元素の塩とを、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結性元素イオンのモル数よりも多くなるような割合で水に溶解することにより第1原料液を作製する。これにより、易焼結性金属元素イオンを難焼結性元素イオンよりも多く含有する第1原料液を作製することができる。
【0013】
また、上記第1析出工程においては、上記第1原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出粒子を析出させる。即ち、上記第1原料液としてシュウ酸水溶液を用いた場合には、上記金属シュウ酸塩として、上記易焼結性金属元素のシュウ酸塩を析出させることができる。このとき、金属シュウ酸塩の少なくとも一部は、上記難焼結性元素を含有しつつ析出する。したがって、この場合には、上記易焼結性金属元素を主成分とし上記難焼結性元素を副成分とするシュウ酸塩からなる上記析出粒子を得ることができる。
また、上記第1原料液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いた場合には、上記易焼結性金属元素を主成分とし上記難焼結性元素を副成分とする金属水酸化物からなる上記析出粒子を得ることができる。
【0014】
次いで、上記第2混合工程においては、少なくとも上記易焼結性金属元素の塩を水に溶解することにより、上記易焼結性金属元素イオンを含有する第2原料液を作製する。上記第2原料液としては、上記難焼結性元素イオンを含有していない難焼結元素フリー原料液を用いるか、あるいは上記第1混合工程における上記第1原料液よりも少ないモル数で上記難焼結性元素イオンを含有する難焼結元素含有原料液を用いることができる。
【0015】
また、上記第2析出工程においては、上記析出粒子と、上記第2原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第2反応液とを混合し、上記析出粒子の表面に難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出物を付着させ、多層構造の多層析出粒子を得る。即ち、上記析出粒子と、上記第2原料液と、上記第2反応液とを混合すると、上記第2原料液中に含まれる上記易焼結性金属元素イオンが上記第2反応液中に含まれるシュウ酸イオン又は水酸化物イオンと反応し、難溶性の易焼結性金属元素の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩が析出する。このときシュウ酸塩又は水酸化物塩は、上記析出粒子の周囲に付着するため、多層構造の上記多層析出粒子を得ることができる。
【0016】
上記第2混合工程において、上記第2原料液として、上記難焼結元素フリー原料液を用いた場合には、上記第2析出工程において、上記難焼結性元素を含有していない金属シュウ酸塩又は金属水酸化物が析出し、上記析出粒子の表面に付着する。その結果、この場合には、中心部分が上記難焼結元素を含有する上記易焼結金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩からなり、その周囲が上記難焼結元素を含まない上記易焼結金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩からなる上記多層析出粒子を得ることができる。
【0017】
一方、上記第2混合工程において、上記第2原料液として、上記難焼結元素含有原料液を用いた場合には、上記第2析出工程において、上記難焼結性元素を含有する金属シュウ酸塩又は金属水酸化物が析出し、上記析出粒子の表面に付着する。その結果、この場合には、中心部分が上記難焼結元素を含有する上記易焼結金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩からなり、その周囲が中心部分よりも少ないモル数で上記難焼結元素を含有する上記易焼結金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩からなる上記多層析出粒子を得ることができる。
【0018】
次に、上記還元工程においては、上記多層析出粒子を還元条件下で加熱することにより、上記金属シュウ酸塩又は上記金属水酸化物を金属に還元させて上記金属粒子を得る。
このようにして得られる上記金属粒子は、上記易焼結金属元素を主成分とする。また、上記金属粒子は、その中心部分に上記難焼結元素を含有し、その外表面部分には上記難焼結元素を含有していないか、或いは中心部分よりも少ないモル数で上記難焼結元素を含有する。即ち、例えば上記第1の発明の金属粒子を製造することができる。
【0019】
上記第3の発明によって得られる上記金属粒子を所定の還元条件で焼結させて上記金属多孔体を作製すると、上記金属粒子の中心部分の上記難焼結性元素によって上記金属粒子の粗大化、即ち細孔の収縮や消滅が抑制され、小さな孔径の細孔を保持することができる。
また、上記金属粒子の中心部分の外側においては、上記難焼結性元素を含有しないか、あるいは上記難焼結性元素を中心部分よりも少ない量で含有しているため、上記金属粒子を焼結させると、外側において焼結を充分に進行させることができる。
したがって、上記第3の発明の製造方法によって得られる上記金属粒子を用いることにより、機械的強度に優れ、孔径の小さな金属多孔体を製造することができる。
【0020】
また、上記第3の発明の製造方法においては、上記金属粒子を特別な装置等を用いずに、簡単に作製することができる。そのため、大量生産が可能であり、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記金属粒子は、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる。具体的には、例えば上記金属粒子を加圧成形後、水素ガス雰囲気で加熱して焼結させることにより金属多孔体を得ることができる。
【0022】
上記金属粒子の粒径は、0.2μm〜3μmであることが好ましい。
上記金属粒子の粒径が0.2μm未満の場合には、難焼結元素による金属粒子の粗大化の抑制が不十分となり、細孔が消滅するおそれがある。一方、3μmを越える場合には、上記金属粒子を焼結させたときに得られる上記金属多孔体の孔径を充分に小さくすることができなくなるおそれがある。
上記金属粒子の粒径は、例えば次のようにして測定することができる。
【0023】
即ち、走査型電子顕微鏡(SEM)にて多数の上記金属粒子を含む試料を観察し、一定区画内の全ての金属粒子について縦方向と横方向の粒径を求め、その平均を金属粒子の粒径とする。
なお、上記金属粒子が球状でない場合には、上記金属粒子の最も長い粒径とその直角方向の粒径の平均値を上記金属粒子の粒径とする。
【0024】
次に、第1の発明の金属粒子について説明する。
図1に示すごとく、上記第1の発明の金属粒子1は、中心層2と、該中心層2の表面に配された最外層3とを有する。中心層2は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、かつ上記還元条件において還元されない難焼結性金属元素を副成分とする。また、最外層3は、易焼結性金属元素を主成分とし、難焼結性元素を含有しないか、あるいは難焼結性元素を中心層2よりも少ないモル比率で含有している。
【0025】
上記最外層が上記難焼結性元素を上記中心層よりも多いモル比率で含有する場合には、上記金属粒子を用いて上記金属多孔体を作製する際に、焼結が困難になる。そのため、得られる金属多孔体の機械的強度が低下するおそれがある。
【0026】
上記最外層は、実質的に上記難焼結性元素を含有しないことが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記金属粒子を焼結させて上記金属多孔体を作製する際に、上記金属粒子同士がその最外層同士で焼結し易くなる。そのため、より機械的強度に優れた金属多孔体を作製することができる。
【0027】
また、上記最外層は、板状粒子が上記中心層の表面に配されてなることが好ましい(請求項3)。その一例を図2に示す。
図2に示す金属粒子1は、図1の場合と同様に、中心層2と、該中心層2の表面に配された最外層3とを有するが、図2に示す金属粒子1において、最外層3は、板状粒子31が中心層2の表面に配されてなる。
この場合には、球状粒子(図1参照)を用いた場合よりも、金属多孔体の孔径を小さくすることができる。
【0028】
次に、第2の発明の金属粒子について説明する。
図3に示すごとく、上記第2の発明の金属粒子1は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、上記還元条件において還元されない難焼結性元素を副成分とする。金属粒子1中に含まれる難焼結性元素の濃度は、金属粒子1の中心部11から外表面19に向けて小さくなる。なお、同図においては、難焼結性元素の濃度をハッチングによるドットの濃淡で示してあり、ドットの濃淡が濃い部分ほど難焼結性元素の濃度が濃い部分を示している。
上記第2の発明の金属粒子1においては、上記第1の発明と同様に、金属粒子1の最も外側に難焼結性元素を含有しない最外層3を有していることが好ましい(図3参照)。
この場合には、上記金属粒子を焼結させて上記金属多孔体を作製する際に、上記金属粒子同士がその最外層同士で焼結し易くなり、得られる金属多孔体の機械的強度を向上させることができる。
【0029】
また、上記第1の発明及び上記第2の発明において、上記金属粒子中に含まれる上記難焼結性元素のモル数をAとし、上記金属粒子中に含まれる全金属元素のモル数をBとしたとき、0.005≦A/B≦0.05であることが好ましい(請求項5)。
A/B<0.005の場合には、上記金属粒子を焼結させて上記金属多孔体を作製する際に、上記難焼結性元素による焼結の阻害効果が充分に発揮されなくなるおそれがある。その結果、製造される金属多孔体の細孔径を小さくすることが困難になるおそれがある。一方、A/B>0.05の場合には、上記難焼結性元素による焼結の阻害効果が強く現れすぎて上記金属粒子の焼結性が低下するおそれがある。
【0030】
次に、「難焼結性」及び「易焼結性」について説明する。
一般に、金属の焼結は、金属粒子がその表面積に比例する表面エネルギーを減少させるために、粒子同士が結合することである。また、金属の焼結においては、焼結する温度及び雰囲気で、酸化物、水酸化物、あるいは有機化合物の状態から還元され、金属状態となることが必要である。
難焼結及び易焼結は、焼結条件における金属の酸化物、水酸化物、あるいは有機化合物と金属との平衡から定義することができる。焼結条件(水素の圧力、COの圧力、温度)において、金属の状態が安定であるものを「易焼結性」とし、金属の酸化物、水酸化物、あるいは有機化合物の状態が安定であるものを「難焼結性」とする。
例えば、水素分圧:1気圧、CO分圧1気圧、温度600℃、金属がCuで、焼結時にCuOから還元させる場合には、図8及び図9のごとくグラフ(平衡線)にプロットすることができる。平衡線は、標準状態の生成エンタルピー、エントロピーの値を化学便覧等によって調べ、平衡を算出することができる。この平衡線より上であれば易焼結元素、下であれば難焼結元素である。図8及び図9に示すごとく、Cuにおいては、上述の焼結条件の点(点P)が平行線よりも上にあるため、この焼結条件では易焼結元素と判断できる。
【0031】
また、上記易焼結性金属元素は、Fe、Co、Ni、Ag、Mo、Cuから選ばれる1種以上であることが好ましい(請求項6)。
この場合には、比較的低い温度で焼結させることができる。
【0032】
上記難焼結性元素は、周期律表のIIA族に属する元素、Al、Ba、In、Si、Ge、Mn、W、Ti、Zr、Cr、Sc、Y、及びZnから選ばれる1種以上であることが好ましい(請求項7)。
この場合には、少量で焼結の進行を阻害させることができる。
【0033】
次に、第3の発明の金属粒子の製造方法につき、説明する。
上記第3の発明の製造方法においては、上記第1混合工程、上記第1析出工程、上記第2混合工程、上記第2析出工程、及び上記還元工程を行うことにより金属粒子を作製する。該金属粒子は、上記第1の発明及び上記第2の発明と同様に、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる。
【0034】
上記第1混合工程においては、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素の塩と、上記還元条件において還元されない難焼結性元素の塩とを、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結性元素イオンのモル数よりも多くなるような割合で水に溶解することにより第1原料液を作製する。
即ち、上記第1混合工程においては、上記易焼結性金属元素の塩と、上記難焼結性元素の塩とを水に溶解する。これにより、上記易焼結性金属元素イオンと上記難焼結性元素イオンとを含有する上記第1原料液を得ることができる。
上記第1原料液において、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結元素イオンのモル数よりも小さくなると、還元工程後に得られる金属粒子に含まれる難焼結元素量が多すぎて、上記金属粒子を焼結させることが困難になるおそれがある。
【0035】
上記易焼結性金属元素としては、上記第1及び上記第2の発明と同様に、Fe、Co、Ni、Ag、Mo、Cuから選ばれる1種以上の金属元素を用いることができる(請求項16)。
上記難焼結性元素としては、上記第1及び上記第2の発明と同様に、周期律表のIIA族に属する元素、Al、Ba、In、Si、Ge、Mn、W、Ti、Zr、Cr、Sc、Y、及びZnから選ばれる1種以上の元素を用いることができる(請求項17)。
【0036】
上記易焼結性金属元素の塩及び上記難焼結性元素の塩としては、例えば硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩等を用いることができる。
【0037】
次に、上記第1析出工程においては、上記第1原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出粒子を析出させる。
即ち、上記第1析出工程においては、上記第1原料液中と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合する。このとき、上記第1反応液は、例えばシュウ酸及びアルカリ金属水酸化物が、上記第1原料液中に含まれる金属イオンの等量(モル)以上となるように少量ずつ攪拌しながら添加することができる。これにより、易焼結性金属元素イオン及び/又は難焼結性元素イオンと、シュウ酸イオン又は水酸化物イオンとが反応し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩からなる析出粒子を析出させることができる。
【0038】
析出する金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩としては、例えば易焼結性金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩、難焼結性元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩、及び易焼結性金属元素と難焼結性元素とのシュウ酸塩又は水酸化物塩等がある。易焼結性金属元素と難焼結性元素とのシュウ酸塩又は水酸化物塩としては、例えば易焼結性金属元素のシュウ酸塩又は水酸化物塩において、易焼結性金属元素の少なくとも一部が難焼結性元素に置換されたもの等がある。
【0039】
上記第1析出工程においては、上記第1原料液と上記第1反応液とを上記易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤の存在下で混合することが好ましい(請求項9)。
この場合には、析出物が球状になるという効果を得ることができる。
上記錯化剤としては、例えばアンモニアや、1,3−プロパンジアミン、グリオキシムなどの金属イオンに配位する窒素原子を分子内に2個以上有する有機化合物等を用いることができる。
【0040】
上記第1析出工程において上記錯化剤の存在下で上記第1原料液と上記第1反応液とを混合する具体的な方法としては、例えば錯化剤水溶液と上記第1原料と上記第1反応液とを混合する方法がある。この場合には、上記錯化剤水溶液の濃度は、0.05モル/L〜4モル/Lであることが好ましい。
上記錯化剤水溶液の濃度が0.05モル/L未満の場合には、充分な量の錯体を形成することができず、後述の第1析出工程において例えば球状の析出粒子を形成させることが困難になるおそれがある。一方、4モル/Lを越える場合には、錯体が安定化しすぎて、上記析出粒子の回収量が低下するおそれがある。
【0041】
上記第1析出工程によって得られた析出粒子は、ろ過して水洗し、その後さらに粉砕して第2混合工程に用いることができる。
上記析出粒子の粒径Xμmは、0.2≦X≦3であることが好ましい。粒径0.2μm未満の析出粒子を用いて上記金属粒子を作製すると、該金属粒子は、上記難焼結性元素による焼結阻害効果を充分に発揮することができなくなるおそれがある。一方、上記析出粒子の粒径が3μmを越える場合には、焼結が進行し難くなり、最終的に得られる金属多孔体の強度が低下するおそれがある。
上記第1析出工程によって得られた析出粒子を粉砕したり、篩いにかけたりすることにより、0.2<X<3となるような析出粒子を選別し、後述の第2混合工程に用いることができる。
なお、上記析出粒子の粒径は、上記金属粒子の粒径と同様にして測定できる。
【0042】
また、上記第1混合工程において、上記第1原料液に含まれる上記易焼結性金属元素の塩の濃度は、0.01モル/L〜4モル/Lであることが好ましい。
上記易焼結性金属元素の塩の濃度が0.01モル/Lの場合には、例えばろ過等により上記析出粒子を回収する際に、廃液が多く発生してしまうおそれがある。また、4モル/Lを越える場合には、金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩の析出が急激に進行し、形状が均一でかつ組成が均一な析出粒子を得ること困難になるおそれがある。
【0043】
次に、上記第2混合工程においては、少なくとも上記易焼結性金属元素の塩を水に溶解することにより、上記易焼結性金属元素イオンを含有する第2原料液を作製する。上記第2混合工程における上記易焼結性金属元素の塩としては、上記第1混合工程と同様のものを用いることができる。
【0044】
また、上記第2混合工程においては、上記第2原料液として、上記難焼結性元素イオンを含有していない難焼結元素フリー原料液を用いるか、あるいは上記第1混合工程における上記第1原料液よりも少ないモル数で上記難焼結性元素イオンを含有する難焼結元素含有原料液を用いる。
上記難焼結元素含有原料液における上記難焼結元素のモル数が上記第1原料液よりも大きい場合には、最終的に得られる上記金属粒子の焼結性が悪くなるおそれがある。
【0045】
次に、上記第2析出工程においては、上記析出粒子と、上記第2原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる上記第2反応液とを混合し、上記析出粒子の表面に難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出物を付着させ、多層構造の多層析出粒子を得る。
即ち、上記第2析出工程においては、上記易焼結性金属元素イオンを含有する上記原料液と、上記析出粒子と、上記第2反応液とを混合する。このとき、上記第2反応液は、シュウ酸及びアルカリ金属水酸化物が、例えば上記第2原料液中に含まれる金属イオンの等量(モル)以上となるように少量ずつ攪拌しながら添加することができる。これにより、易焼結性金属元素とシュウ酸イオン又は水酸化物イオンとが反応し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩からなる析出物が生じる。該析出物は、上記析出粒子の表面に付着して析出し、上記多層析出粒子を得ることができる。
上記第2析出工程において析出する金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩は、上記第1析出工程と同様である。
【0046】
また、上記第2析出工程においては、上記析出粒子と上記第2原料液と上記第2反応液とを上記易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤の存在下で混合することが好ましい(請求項10)。
この場合には、析出物が球状となり、表面に板状粒子が形成されるという効果を得ることができる。
上記錯化剤としては、上記第1混合工程と同様に、例えばアンモニアや、1,3−プロパンジアミン、グリオキシムなどの金属イオンに配位する窒素原子を分子内に2個以上有する有機化合物等を用いることができる。上記第2析出工程において、上記錯化剤の存在下で上記第2原料液と上記第2反応液と上記析出粒子とを混合する具体的な方法としては、例えば錯化剤水溶液と上記析出粒子と上記第2原料と上記第2反応液とを混合する方法がある。この場合には、上記錯化剤水溶液の濃度は、0.05モル/L〜4モル/Lであることが好ましい。
【0047】
上記第2析出工程によって得られる多層析出粒子は、ろ過して水洗し、その後さらに粉砕することができる。また、上記多層析出粒子の粒径は3μm以下であることが好ましい。上記多層析出粒子の粒径が3μmを越える場合には、焼結後に得られる金属多孔体の孔径を小さくすることが困難になるおそれがある。上記第2析出工程によって得られた多層析出粒子を粉砕したり、篩いにかけたりすることにより、粒径3μm以下の多層析出粒子を選別することができる。
上記多層析出粒子の粒径は、上記金属粒子と同様にして測定することができる。
【0048】
また、上記第2混合工程において、上記第2原料液に含まれる上記易焼結性金属元素の塩の濃度は、0.01モル/L〜4モル/Lであることが好ましい。
上記易焼結性金属元素の塩の濃度が0.01モル/Lの場合には、例えばろ過等により上記多層析出粒子を回収する際に、廃液が多く発生してしまうおそれがある。また、4モル/Lを越える場合には、金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩の析出が急激に進行し、形状及び組成が均一な多層析出粒子を得ること困難になるおそれがある。
【0049】
また、上記第2析出工程において、上記錯化剤として、1,3−プロパンジアミン等のようにアミノ基を有する有機化合物を用いた場合には、板状の上記析出物を生じさせることができる。そのためこの場合には、上記第2析出工程において、例えば球状の析出粒子の周囲に板状の析出物が配されてなる上記多層析出粒子を得ることができる。なお、このような多層析出粒子を還元工程において加熱することにより、上述のごとく、中心層とその表面に板状粒子が配されてなる最外層とを有する金属粒子を作製することができる。
【0050】
次に、上記還元工程においては、上記多層析出粒子を還元条件下で加熱することにより、上記金属シュウ酸塩又は上記金属水酸化物を金属に還元させて上記金属粒子を得る。
即ち、上記還元工程においては、上記多層析出粒子を還元条件下で加熱する。これにより、金属シュウ酸塩又は金属水酸化物塩が金属に還元され、金属粒子を得ることができる。
【0051】
上記還元工程においては、水素及び/又は一酸化炭素を含む雰囲気下で上記多層析出粒子を温度300℃〜600℃で加熱することが好ましい(請求項18)。
加熱温度が300℃未満の場合には、水素及び/又は一酸化炭素による還元が進行し難くなり、得られる金属粒子の還元が不十分になるおそれがある。かかる金属粒子を成形及び焼結させて金属多孔体を作製すると、金属粒子が金型等へ付着し易くなり、表面が平滑な成形体を得ること困難になるおそれがある。一方、600℃を越える場合には、上記還元工程において得られる金属粒子同士の結合が起こりやすくなる。その結果、上記金属多孔体を作製する際に、金型等へ上記金属粒子を均一に充填させることが困難になり、均質な成形体を得ることが困難になるおそれがある。
【0052】
また、上記第3の発明においては、上記第2析出工程後に得られる上記多層析出粒子を再び上記析出粒子として用いて、上記第2析出工程をさらに少なくとも1回以上繰り返し行うことができる(請求項11)。
上記第2析出工程を繰り返し行う際には、適宜上記第2原料液の組成を変えることができる。この場合には、金属組成が異なる複数の層からなる金属粒子を製造するいことができる。
【0053】
上記第2析出工程を繰り返し行う際には、上記第2原料液として、上記易焼結性金属元素の塩の他に上記難焼結性元素の塩を溶解してなる原料液を用い、上記第2析出工程を繰り返すにつれて、上記第2原料液中に含まれる上記難焼結性元素の塩の濃度徐々に低くしていくことが好ましい(請求項12)。
この場合には、上記第2の発明のように、中心部から外表面に向けて難焼結元素の濃度が小さくなるように、難焼結元素を含有する金属粒子を製造することができる。
【0054】
上記第2析出工程を繰り返して上記多層析出粒子を作製する場合において、繰り返しの最後の上記第2析出工程に用いる上記第2原料液としては、上記難焼結元素フリー原料液を用いることが好ましい。この場合には、最外層に難焼結性元素を含有しない上記金属粒子を作製することができ、金属粒子の最外層の焼結性をより向上させることができる。
【0055】
次に、上記第1反応液又は上記第2反応液としてシュウ酸水溶液を用いる場合には、シュウ酸の濃度は0.01モル/L〜1モル/Lであることが好ましい(請求項13)。
シュウ酸の濃度が0.01モル/Lの場合には、ろ過等により上記析出粒子又は上記多層析出粒子を回収する際に、廃液が多く発生してしまうおそれがある。一方、1モル/Lを越える場合には、金属シュウ酸塩の析出が急激に進行し、形状及び元素分布が均一な析出粒子又は多層析出粒子を得ること困難になるおそれがある。
ただし、シュウ酸の濃度を1モル/Lにすると、上記第1析出工程及び上記第2析出工程において80℃以上に加熱することが好ましい。
【0056】
また、上記第1反応液又は第2反応液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物の濃度は、0.01モル/L〜4モル/Lであることが好ましい(請求項14)。
アルカリ金属水酸化物の濃度が0.01モル/Lの場合には、ろ過等により上記析出粒子又は上記多層析出粒子を回収する際に、廃液が多く発生してしまうおそれがある。一方、4モル/Lを越える場合には、金属水酸化物塩の析出が急激に進行し、形状及び元素分布が均一な析出粒子又は多層析出粒子を得ること困難になるおそれがある。
【0057】
また、上記多層析出粒子中に含まれる上記難焼結性元素のモル数をAとし、上記多層析出粒子中に含まれる全金属元素のモル数をBとしたとき、0.005≦A/B≦0.05であることが好ましい(請求項15)。
A/B<0.005の場合には、上記難焼結性元素による焼結阻害効果が充分に発揮されなくなるおそれがある。一方、A/B>0.05の場合には、上記難焼結性元素により焼結阻害効果が強く現れすぎて、上記金属粒子の焼結性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
次に、本発明の金属粒子の実施例につき、図面を用いて説明する。
図2に示すごとく、本例の金属粒子1は、所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる。金属粒子1は、中心層2と、その表面に配された最外層3とを有する。中心層2は、還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、かつ還元条件において還元されない難焼結性金属元素を副成分とする。また、本例において、最外層3は、実質的に難焼結性元素を含有していない。
また、本例の金属粒子1においては、最外層3は、複数の板状粒子31が中心層2の表面に配されてなる。また、本例において、易焼結性金属元素はNiである。また、難焼結性元素はZnである。
【0059】
次に、本例の金属粒子の製造方法につき、説明する。
本例においては、第1混合工程と、第1析出工程と、第2混合工程と、第2析出工程と、還元工程とを行うことにより金属粒子を作製する。
第1混合工程においては、還元条件において還元可能な易焼結性金属元素の塩と、上記還元条件において還元されない難焼結性元素の塩とを、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結性元素イオンのモル数よりも多くなるような割合で水に溶解させることにより第1原料液を作製する。本例においては、易焼結性金属元素の塩としてはNiSO4を用い、難焼結性元素としてはZnSO4を用いる。
【0060】
次に、第1析出工程においては、第1原料液と、アルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合し、難溶性の金属水酸化物からなる析出粒子を析出させる。この析出粒子は、易焼結金属元素の水酸化物塩からなり、副成分として難焼結金属元素を含有する。アルカリ金属水酸化物水溶液としては、濃度4モル/LのNaOH水溶液を用いる。また、本例においては、易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤(NH3)の存在下で第1原料液と第1反応液とを混合する。
【0061】
また、上記第2混合工程においては、易焼結性金属元素の塩を水に溶解することにより、易焼結性金属元素イオンを含有する第2原料液を作製する。この第2原料液は、実質的に難焼結性元素イオンを含有していない難焼結元素フリー原料液である。第2混合工程における易焼結性金属元素の塩としては、上記第1混合工程と同様にNiSO4を用いる。
【0062】
次に、第2析出工程においては、析出粒子と、第2原料液と、アルカリ金属水酸化物水溶液からなる第2反応液とを混合し、析出粒子の表面に難溶性の金属水酸化物からなる析出物を付着させる。本例においては、易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤(1,3−プロパンジアミン)の存在下で析出粒子と第2原料液と第2反応液とを混合する。その結果、析出粒子(中心層)の表面に析出物(板状粒子)が付着してなる多層構造の多層析出粒子を得る。
次に、還元工程においては、上記多層析出粒子を還元条件下で加熱する。これにより、金属水酸化物が金属に還元されて、中心層2と最外層3とを有する金属粒子1を得る(図2参照)。
【0063】
次に、本例の金属粒子の製造方法につき、詳細に説明する。
即ち、まず、易焼結元素の塩としてのNiSO4と、難焼結性元素の塩としてのZnSO4とを水に溶解し、第1原料液を作製した。この第1原料液は、NiSO4を1.98モル/L含有し、ZnSO4を0.02モル/L含有する。また、第1反応液として、濃度4モル/LのNaOH水溶液を作製した。
次に、濃度2モル/LのNH3水溶液100mlを500mlのトールビーカーに入れ、ウォーターバスにて40℃に保持した。次いで、1000rpmで回転する攪拌棒でNH3水溶液を攪拌しつつ、NH3水溶液に第1原料液と第1反応液とを毎分0.7mlずつ15分間供給した。その結果、水酸化ニッケルを主成分とする析出粒子が析出した。この析出粒子は、水酸化ニッケルの他にもZnを含有する。Znは、一部の水酸化ニッケルのニッケルサイトに置換されていると考えられる。次いで、ろ過により析出粒子を回収し、その析出粒子を水洗して乾燥させた。
【0064】
次に、第2原料液として、濃度1.00モル/LのNiSO4水溶液を作製し、第2反応液として濃度2モル/LのNaOH水溶液を作製した。
次いで、上記析出粒子と、濃度1モル/Lの1,3−プロパンジアミン水溶液100mlとを500mLのトールビーカーに入れ、温度0℃に保持した。次いで、2000rpmで回転する攪拌棒によって析出粒子を含有する1,3−プロパンジアミン水溶液を攪拌しつつ、1,3−プロパンジアミン水溶液に第2原料液と第2反応液とを毎分0.7mlずつ30分間供給した。これにより、析出粒子の表面に、水酸化ニッケルからなる板状粒子が付着してなる多層析出粒子を得た。その後、溶液をろ過し、多層析出粒子を回収し、この多層析出粒子を水洗して乾燥させた。
【0065】
得られた多層析出粒子を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。このときのSEM写真を図4に示す。多層析出粒子においては、中心部(析出粒子)の直径が約0.2μmであり、表面部(板状粒子)の粒径が約0.3μmであった。
【0066】
次に、多層析出粒子を水素ガス雰囲気下で温度450℃で1時間加熱した。これにより、多層析出粒子中の水酸化ニッケルをNiに還元させて、中心層2とその表面に配された最外層3とを有する金属粒子1を得た(図2参照)。
【0067】
次に、本例において作製した金属粒子を用いて金属多孔体を作製する。
具体的には、まず、2gの金属粒子を200mlの蒸留水に加え、ホモジナイザーにより金属粒子を蒸留水中に均一に分散させた。次いで、鏡面仕上げしたセラミックス製の多孔板(孔径=0.1μm、液透過部=5cm×10cm)をフィルターとして、金属粒子の分散水溶液を吸引ろ過した。次に、乾燥後、水素ガス雰囲気下で、温度500℃で1時間保持して仮焼結させた。次いで、200MPaで加圧成形後、水素ガス雰囲気下で温度550℃で1時間保持して本焼結させ、金属多孔体を得た。
このようにして得られた金属多孔体の細孔を走査電子顕微鏡により観察した。このときのSEM写真を図5に示す。
図5より知られるごとく、本例の金属多孔体においては、孔径の小さな細孔が多数形成されていた。さらに、金属粒子同士が充分に焼結されていた。
【0068】
この理由は、次のように考えられる。
即ち、図2に示すごとく、本例の金属粒子1において、中心層2は、易焼結性金属元素(Ni)を主成分とし、かつ難焼結性金属元素(Zn)を副成分とする。そのため、金属粒子1を焼結させて金属多孔体を作製する際には、金属粒子1の中心層2の難焼結性元素によって、金属粒子1が粗大化して金属多孔体の細孔が収縮したり消滅したりすることを抑制し、小さな孔径の細孔を保持することができる。
また、最外層3は、易焼結性金属元素からなり、難焼結性元素を含有していない。そのため、金属粒子1を焼結させると、最外層3において焼結を充分に進行させることができる(図6及び図7参照)。したがって、本例の金属粒子1を用いることにより、機械的強度に優れ、孔径の小さな金属多孔体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】中心層と、その表面に形成された最外層とを有する金属粒子の断面構造を示す説明図。
【図2】中心層と、その表面に板状粒子が複数配されてなる最外層とを有する金属粒子の断面構造を示す説明図。
【図3】難焼結元素の濃度勾配を有する金属粒子の断面構造を示す説明図。
【図4】実施例にかかる、多層析出粒子のSEM写真。
【図5】実施例にかかる、金属多孔体のSEM写真。
【図6】実施例にかかる、金属粒子同士が焼結する前の状態を示す説明図。
【図7】実施例にかかる、隣り合う金属粒子同士がその最外層で焼結した様子を示す説明図。
【図8】水素雰囲気下における焼結の際の金属酸化物と金属との平衡を示すグラフ。
【図9】一酸化炭素雰囲気下における焼結の際の金属酸化物と金属との平衡を示すグラフ。
【符号の説明】
【0070】
1 金属粒子
2 中心層
3 最外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子であって、
該金属粒子は、中心層と、該中心層の表面に配された最外層とを有し、
上記中心層は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、かつ上記還元条件において還元されない難焼結性金属元素を副成分とし、
上記最外層は、上記易焼結性金属元素を主成分とし、上記難焼結性元素を含有しないか、あるいは上記難焼結性元素を上記中心層よりも少ないモル比率で含有していることを特徴とする金属粒子。
【請求項2】
請求項1において、上記最外層は、実質的に上記難焼結性元素を含有しないことを特徴とする金属粒子。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記最外層は、板状粒子が上記中心層の表面に配されてなることを特徴とする金属粒子。
【請求項4】
所定の還元条件で焼結させることにより金属多孔体を作製する際の原料として用いられる金属粒子であって、
該金属粒子は、上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、上記還元条件において還元されない難焼結性元素を副成分とし、
上記金属粒子中に含まれる上記難焼結性元素の濃度は、上記金属粒子の中心部から外表面に向けて小さくなることを特徴とする金属粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記金属粒子中に含まれる上記難焼結性元素のモル数をAとし、上記金属粒子中に含まれる全金属元素のモル数をBとしたとき、0.005≦A/B≦0.05であること特徴とする金属粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記易焼結性金属元素は、Fe、Co、Ni、Ag、Mo、Cuから選ばれる1種以上であることを特徴とする金属粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記難焼結性元素は、周期律表のIIA族に属する元素、Al、Ba、In、Si、Ge、Mn、W、Ti、Zr、Cr、Sc、Y、及びZnから選ばれる1種以上であることを特徴とする金属粒子。
【請求項8】
所定の還元条件で焼結させることによって金属多孔体を作製するための原料として用いられる金属粒子の製造方法であって、
上記還元条件において還元可能な易焼結性金属元素の塩と、上記還元条件において還元されない難焼結性元素の塩とを、上記易焼結金属元素イオンのモル数が上記難焼結性元素イオンのモル数よりも多くなるような割合で水に溶解することにより第1原料液を作製する第1混合工程と、
上記第1原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出粒子を析出させる第1析出工程と、
少なくとも上記易焼結性金属元素の塩を水に溶解することにより、上記易焼結性金属元素イオンを含有する第2原料液を作製する第2混合工程と、
上記析出粒子と、上記第2原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第2反応液とを混合し、上記析出粒子の表面に難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出物を付着させ、多層構造の多層析出粒子を得る第2析出工程と、
上記多層析出粒子を還元条件下で加熱することにより、上記金属シュウ酸塩又は上記金属水酸化物を金属に還元させて上記金属粒子を得る還元工程とを有し、
上記第2混合工程においては、上記第2原料液として、上記難焼結性元素イオンを含有していない難焼結元素フリー原料液を用いるか、あるいは上記第1混合工程における上記第1原料液よりも少ないモル数で上記難焼結性元素イオンを含有する難焼結元素含有原料液を用いることを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記第1析出工程においては、上記第1原料液と上記第1反応液とを上記易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤の存在下で混合することを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、上記第2析出工程においては、上記析出粒子と上記第2原料液と上記第2反応液とを上記易焼結性金属元素に配位して錯体を形成する錯化剤の存在下で混合することを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項において、上記第2析出工程後に得られる上記多層析出粒子を再び上記析出粒子として用いて、上記第2析出工程をさらに少なくとも1回以上繰り返し行うことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、上記第2析出工程を繰り返し行う際には、上記第2原料液として、上記易焼結性金属元素の塩の他に上記難焼結性元素の塩を溶解してなる原料液を用い、上記第2析出工程を繰り返すにつれて、上記第2原料液中に含まれる上記難焼結性元素の塩の濃度徐々に低くしていくことを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項において、上記第1反応液又は上記第2反応液としてシュウ酸水溶液を用いる場合には、シュウ酸の濃度は0.01モル/L〜1モル/Lであることを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか一項において、上記第1反応液又は上記第2反応液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物の濃度は、0.01モル/L〜4モル/Lであることを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれか一項において、上記多層析出粒子中に含まれる上記難焼結性元素のモル数をAとし、上記多層析出粒子中に含まれる全金属元素のモル数をBとしたとき、0.005≦A/B≦0.05であること特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項16】
請求項8〜15のいずれか一項において、上記易焼結性金属元素は、Fe、Co、Ni、Ag、Mo、Cuから選ばれる1種以上であることを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれか一項において、上記難焼結性元素は、周期律表のIIA族に属する元素、Al、Ba、In、Si、Ge、Mn、W、Ti、Zr、Cr、Sc、Y、及びZnから選ばれる1種以上であることを特徴とする金属粒子の製造方法。
【請求項18】
請求項8〜17のいずれか一項において、上記還元工程においては、水素及び/又は一酸化炭素を含む雰囲気下で上記多層析出粒子を温度300℃〜600℃で加熱することを特徴とする金属粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−254781(P2007−254781A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77888(P2006−77888)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】