金属表面処理液
【課題】プリント回路板製造等の電子工業分野や、塗装等の一般工業分野に用いる、銅及びまたは銅合金の表面の光沢性を維持したまま銅及びまたは銅合金の表面とレジン類等とを強固に密着させる表面処理液を提供する。
【解決手段】本発明は、(1)過酸化水素、(2)燐酸または燐酸および硫酸の混合物、(3)ベンゾトリアゾール類、(4)アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンを含有する銅及びまたは銅合金の表面処理液である。
【解決手段】本発明は、(1)過酸化水素、(2)燐酸または燐酸および硫酸の混合物、(3)ベンゾトリアゾール類、(4)アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンを含有する銅及びまたは銅合金の表面処理液である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路板、特にドライフィルムラミネート前の表面処理の際に用いる、銅及びまたは銅合金表面の処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路板は回路形成を行う前工程として、回路のマスクとしてドライフィルムレジストをラミネート、露光、次いで現像により形成するのであるが、従来、ドライフィルムラミネート前の表面処理としてバフ、スクラブ等の機械研磨あるいは過硫酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−硫酸混合液等による化学研磨が用いられていた。しかし、昨今のプリント回路板の高密度化に伴い、回路の線幅が極めて微細化されてきており、前記従来の表面処理ではドライフィルムレジストの接着が十分に確保できず、ドライフィルムレジストの剥離に起因する回路の断線、欠損による製品の歩留りが大幅に低下するという問題が発生するに至っている。
【0003】
この問題を解決する手段として、銅及びまたは銅合金の表面を化学的に粗化し、表面積を上げることでドライフィルムレジストの接着を向上させる方法が提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−282265号公報
【特許文献2】特開2002−60980号公報
【特許文献3】特開2004−119564号公報
【特許文献4】特開2004−218021号公報
【特許文献5】特開2005−213526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1〜5に開示されているような銅及びまたは銅合金の表面の化学的な粗化技術は、広く採用されるには至っておらず、依然として多くの技術者は前記バフ、スクラブ、粗化しないタイプの化学研磨液等の従来法による研磨を採用している。この理由は、銅及びまたは銅合金の表面を化学研磨し、粗化することにより表面の色調が赤橙色、赤茶色、茶褐色ないしは暗い茶褐色となり、光の反射が極端に抑制されることにより、回路形成後に行われる自動光学検査(AOI)工程において、回路は正常に形成されているにも係らず、回路検出が不可能となることにより、自動検査がスムーズに行かず、このため人手に頼る目視検査が必要となり、歩留りの向上効果よりも人件費の増加および生産性の低下が増大するためである。このことから光沢性があり且つドライフィルムレジストの接着が十分に出来る処理液の開発が技術者より強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記光沢性があり且つドライフィルムレジストの接着が十分に確保出来る銅及びまたは銅合金の表面処理液を提供することを鋭意、検討した結果、過酸化水素、燐酸または燐酸および硫酸の混合物、ベンゾトリアゾール、5−アミノテトラゾールおよび塩化物イオンを含む特定組成の処理液で処理すると、所望の光沢があり且つドライフィルムレジストとの接着が十分に確保出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、(1)過酸化水素、(2)燐酸または燐酸および硫酸の混合物、(3)ベンゾトリアゾール類、(4)1H−5−アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンを含む表面処理液である。
また、本発明は、このような表面処理液を用いる銅または銅合金の表面の粗化処理方法である。
さらに、本発明は、この表面粗化処理方法により処理された銅または銅合金を有するプリント回路板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表面処理液によって、銅及びまたは銅合金表面を処理すれば、銅表面の光沢性を維持しつつ、ドライフィルムレジストの接着性を確保可能な超微細な穴およびまたは超微細な溝を銅表面に形成することが出来るため、外観も明るく且つ銅表面とドライフィルムレジスト等のレジン類等との接着を強固にすることができる。
【0009】
本発明の表面処理液は、ドライフィルムレジストラミネート前処理として用いることができるだけでなく、フォトソルダーレジスト塗布前処理、多層板製造時の黒化処理代替としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】処理前の銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例2の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例3の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例4の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例5の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例6の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例7の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例8の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例9の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例10の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図12】比較例2の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例4の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例6の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図15】比較例10の処理液で0.5μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例12の処理液で0.1μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例12の処理液で0.2μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図18】実施例12の処理液で0.5μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図19】比較例13の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図20】比較例14の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図21】比較例15の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図22】比較例16の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図23】未処理のドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図24】実施例12の0.1μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図25】実施例12の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図26】実施例12の0.5μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図27】比較例13の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図28】比較例14の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図29】比較例15の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図30】比較例16の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図31】実施例11の0.5μmエッチング処理した銅断面の12000倍の電子顕微鏡写真である。
【図32】比較例14の0.5μmエッチング処理した銅断面の12000倍の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の表面処理液は、過酸化水素、燐酸または燐酸及び硫酸の混合物、ベンゾトリアゾール類、アミノテトラゾール、及び塩化物イオンを含有し、好ましくはそれぞれ特定濃度範囲で含有したものである。
【0012】
本発明で用いる過酸化水素濃度は0.5〜10%であり、好ましくは、1〜3%である。過酸化水素濃度が低すぎると銅の溶解速度が著しく低下し生産性が低下する。一方で、高すぎると過酸化水素の安定性の確保が困難となり、また経済的でない。以上の観点から、上述した範囲で過酸化水素を用いることにより、両者のバランスにより優れる。
【0013】
本発明で用いる燐酸または燐酸および硫酸の混合物の濃度は合計2〜40%であり、好ましくは5〜30%である。過酸化水素以外の酸濃度が低すぎても高すぎても光沢が得られずくすんだ表面となるが、上述した範囲とすることにより、より優れた光沢が得られる。また、本発明において燐酸の存在が重要であり、少なすぎても光沢を得にくくなるが、硫酸の含有量に関わらず燐酸が0.5%程度以上とすることでより優れた光沢が得られる。
【0014】
本発明で用いるベンゾトリアゾール類としては1H−ベンゾトリアゾール、1H−4(5)−メチルベンゾトリアゾール(別名トリルトリアゾール)が挙げられ、ベンゾトリアゾール類の濃度は、0.05〜1%であり、好ましくは0.1〜0.6%であり、より好ましくは0.2〜0.4%である。
【0015】
本発明で用いるアミノテトラゾールは1H−5−アミノテトラゾールであり、アミノテトラゾールの濃度は0.01〜0.2%であり、好ましくは、0.02〜0.1%であり、より好ましくは0.03〜0.05%である。
【0016】
本発明で用いる塩化物イオンのイオン源は塩化水素、塩化ナトリム、塩化カリウム、塩化錫、塩化銅等であり、塩化物イオンの濃度は0.0001〜0.002%であり、好ましくは0.0002〜0.0015%であり、より好ましくは0.0003〜0.001%である。
【0017】
本発明の処理液には過酸化水素及びベンゾトリアゾール類の安定剤としてアルコール類を添加することができる。アルコール類の濃度が低すぎるとベンゾトリアゾール類の安定性が低下する傾向にあり、高すぎると添加による安定効果の増加が頭打ちになるので経済的でない。以上の観点から、アルコール類の濃度は0.1〜2%が好ましい。アルコール類は予期せぬ副反応を防止するため飽和アルコールが好ましい。また、ヒドロキシル基は1分子内に複数存在してもよいが第1級ヒドロキシル基を有するアルコール類はその一部が過酸化水素によりカルボン酸へ酸化されて悪臭を発するため、安定剤として使用可能であるものの労働安全衛生上好ましくない。以上より、アルコール類は第2級及び第3級ヒドロキシル基のみを有する飽和アルコールであることが好ましく、より具体的には2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが好ましい。
【0018】
本発明の銅または銅合金の表面の粗化処理方法は、上記の表面処理剤を銅または銅合金にエッチング剤として適用して粗化処理する方法である。適用例としては、スプレーする方法、銅または銅合金を表面処理剤に浸漬する方法などが挙げられる。このときの表面処理剤の温度は20〜50℃、好ましくは25〜40℃。適用時間は2〜120秒、好ましくは5〜60秒である。
【0019】
このような表面の粗化処理方法によれば、銅または銅合金の表面に微細な構造、例えば表面に幅0.02〜0.2μmの穴又は溝などを形成させることができる。また、こうして得られた銅または銅合金は、表面の光沢を維持しながら表面積を上げることでドライフィルムレジストとの接着性を確保することができ、プリント回路板の用途に好適である。
これにより、粗化処理後の表面にも光沢を維持させることができ、回路形成後に行われる自動光学検査(AOI)に供することができるようになるため、プリント回路板製造の歩留りを有効に向上させることが可能になる。
なお、本発明の表面処理液は、銅及びまたは銅合金の表面の光沢性を維持したまま銅及びまたは銅合金の表面とレジン類等とを強固に密着させることを可能にすることから、プリント回路板製造等の電子工業分野以外にも、塗装等の一般工業分野にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例をもって本発明を説明する。尚、実施例および比較例における塩化物イオン源は塩化ナトリウムとしたが、塩化物イオン源はこれに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜10及び比較例1〜12)
表1及び表2に示す組成の各表面処理液について、予め処理時間と銅溶解厚さの関係を求めグラフ化し、作成されたグラフより銅溶解厚さが0.25μmとなるよう処理時間を求め、30℃にてプリント配線版用銅張積層板を揺動しながら浸漬し、銅張積層板の銅表面を処理した。尚、銅溶解厚さは、銅張積層板の銅表面および銅の密度と溶解した銅の重量から算出した平均の厚さである。
【0022】
処理前の銅張積層板の銅表面の電子顕微鏡写真を図1に、実施例1〜10で処理した銅表面及び比較的明るい仕上がり外観となった比較例2、4、6および10で処理した銅表面の電子顕微鏡写真を図2〜15に示す。尚、撮影角は各々45°である。
【0023】
実施例および比較例から、燐酸、ベンゾトリアゾール類、5−アミノテトラゾール、塩化物イオンの何れかが含まれない場合、光沢を維持し、且つ、ドライフィルムレジストとの接着力が高くなる銅表面が得られないことが分かる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
(実施例11及び比較例13〜16)
表3及び表4に示す組成の表面処理液に30℃にて、実施例1と同様にプリント配線板用銅張積層板を揺動しながら浸漬し、銅張積層板の銅表面を処理した。実施例11は銅溶解厚さが0.1μm、0.25μmおよび0.5μmとなるよう処理した。比較例13〜16は各々銅溶解厚さが0.25μmとなるよう処理した。実施例11及び比較例13〜16で処理して得られた銅表面の電子顕微鏡写真を図16〜22に示す。尚、撮影角は各々45°である。
【0029】
また、ドライフィルムレジストの密着性の評価として、未処理、実施例び比較例でエッチング処理を施したプリント配線板用銅張積層板に日立化成製ドライフィルムレジスト(H−9825)をラミネート、露光硬化後、JIS K5480に準拠し、ドライフィルムレジストに幅1mmの碁盤目状の傷を付け、45℃に保った4mol/Lの塩酸に10分間浸漬放置した後、水洗、乾燥し、粘着テープによる引き剥がし試験を行った。実施例1〜11では、0.1μmエッチングであっても十分なドライフィルムレジストの接着が得られた。これに対し、未処理および比較例13〜16ではドライフィルムレジストの接着は不十分である。ドライフィルムレジストの密着性の評価試験後の銅張積層板の銅表面写真を未処理、実施例の代表例として実施例11の0.1μm、0.25μmおよび0.5μm処理、比較例13〜16を図23〜30に示す。
【0030】
更に、実施例11及び比較例14の銅溶解厚さが0.5μmの場合の銅断面の電子顕微鏡写真を図31〜32に示す。尚、断面の撮影角は各々34°である。実施例11では、基材そのものの平らな面を残し、且つ、深さ約1μm前後の極めて幅の狭い溝が形成されている。これに対し、比較例14では浅い凹凸が銅表面に一様に形成されている。
【0031】
即ち、従来の粗化エッチングでは、表面に開いた凹凸形状が形成されるため、粗化深さの浅深により、くすんだ桃色〜橙色〜褐色〜黒褐色となるが、本発明の処理液では、エッチング量の増加によらず表面の平滑性を保ち、また、微細な溝が銅箔表面から内部に向かって逆テーパー状に近い計上に形成されるため、極僅かなエッチング量であっても強いドライフィルムレジストとの密着が得られることが理解される。
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
(実施例12〜15及び比較例17〜19)
表5及び表6に実施例11の組成をベースとし、実際の稼動液を想定し、硫酸銅を加えた組成の表面処理液を45℃で24時間放置した後の臭気を評価した結果を示す。実施例12〜15では悪臭の発生はなかったが、比較例17〜19では悪臭の発生が認められた。このことから、1位にヒドロキシル基を有するアルコール類の使用は過酸化水素/無機酸系エッチング液には好ましくないことが理解される。
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路板、特にドライフィルムラミネート前の表面処理の際に用いる、銅及びまたは銅合金表面の処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路板は回路形成を行う前工程として、回路のマスクとしてドライフィルムレジストをラミネート、露光、次いで現像により形成するのであるが、従来、ドライフィルムラミネート前の表面処理としてバフ、スクラブ等の機械研磨あるいは過硫酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−硫酸混合液等による化学研磨が用いられていた。しかし、昨今のプリント回路板の高密度化に伴い、回路の線幅が極めて微細化されてきており、前記従来の表面処理ではドライフィルムレジストの接着が十分に確保できず、ドライフィルムレジストの剥離に起因する回路の断線、欠損による製品の歩留りが大幅に低下するという問題が発生するに至っている。
【0003】
この問題を解決する手段として、銅及びまたは銅合金の表面を化学的に粗化し、表面積を上げることでドライフィルムレジストの接着を向上させる方法が提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−282265号公報
【特許文献2】特開2002−60980号公報
【特許文献3】特開2004−119564号公報
【特許文献4】特開2004−218021号公報
【特許文献5】特開2005−213526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1〜5に開示されているような銅及びまたは銅合金の表面の化学的な粗化技術は、広く採用されるには至っておらず、依然として多くの技術者は前記バフ、スクラブ、粗化しないタイプの化学研磨液等の従来法による研磨を採用している。この理由は、銅及びまたは銅合金の表面を化学研磨し、粗化することにより表面の色調が赤橙色、赤茶色、茶褐色ないしは暗い茶褐色となり、光の反射が極端に抑制されることにより、回路形成後に行われる自動光学検査(AOI)工程において、回路は正常に形成されているにも係らず、回路検出が不可能となることにより、自動検査がスムーズに行かず、このため人手に頼る目視検査が必要となり、歩留りの向上効果よりも人件費の増加および生産性の低下が増大するためである。このことから光沢性があり且つドライフィルムレジストの接着が十分に出来る処理液の開発が技術者より強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記光沢性があり且つドライフィルムレジストの接着が十分に確保出来る銅及びまたは銅合金の表面処理液を提供することを鋭意、検討した結果、過酸化水素、燐酸または燐酸および硫酸の混合物、ベンゾトリアゾール、5−アミノテトラゾールおよび塩化物イオンを含む特定組成の処理液で処理すると、所望の光沢があり且つドライフィルムレジストとの接着が十分に確保出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、(1)過酸化水素、(2)燐酸または燐酸および硫酸の混合物、(3)ベンゾトリアゾール類、(4)1H−5−アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンを含む表面処理液である。
また、本発明は、このような表面処理液を用いる銅または銅合金の表面の粗化処理方法である。
さらに、本発明は、この表面粗化処理方法により処理された銅または銅合金を有するプリント回路板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表面処理液によって、銅及びまたは銅合金表面を処理すれば、銅表面の光沢性を維持しつつ、ドライフィルムレジストの接着性を確保可能な超微細な穴およびまたは超微細な溝を銅表面に形成することが出来るため、外観も明るく且つ銅表面とドライフィルムレジスト等のレジン類等との接着を強固にすることができる。
【0009】
本発明の表面処理液は、ドライフィルムレジストラミネート前処理として用いることができるだけでなく、フォトソルダーレジスト塗布前処理、多層板製造時の黒化処理代替としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】処理前の銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例2の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例3の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例4の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例5の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例6の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例7の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例8の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例9の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例10の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図12】比較例2の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例4の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図14】比較例6の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図15】比較例10の処理液で0.5μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例12の処理液で0.1μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例12の処理液で0.2μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図18】実施例12の処理液で0.5μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図19】比較例13の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図20】比較例14の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図21】比較例15の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図22】比較例16の処理液で0.25μmエッチングした銅表面の3000倍の電子顕微鏡写真である。
【図23】未処理のドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図24】実施例12の0.1μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図25】実施例12の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図26】実施例12の0.5μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図27】比較例13の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図28】比較例14の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図29】比較例15の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図30】比較例16の0.25μmエッチング処理したドライフィルムレジストの引き剥がし試験後の状態を示す図である。
【図31】実施例11の0.5μmエッチング処理した銅断面の12000倍の電子顕微鏡写真である。
【図32】比較例14の0.5μmエッチング処理した銅断面の12000倍の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の表面処理液は、過酸化水素、燐酸または燐酸及び硫酸の混合物、ベンゾトリアゾール類、アミノテトラゾール、及び塩化物イオンを含有し、好ましくはそれぞれ特定濃度範囲で含有したものである。
【0012】
本発明で用いる過酸化水素濃度は0.5〜10%であり、好ましくは、1〜3%である。過酸化水素濃度が低すぎると銅の溶解速度が著しく低下し生産性が低下する。一方で、高すぎると過酸化水素の安定性の確保が困難となり、また経済的でない。以上の観点から、上述した範囲で過酸化水素を用いることにより、両者のバランスにより優れる。
【0013】
本発明で用いる燐酸または燐酸および硫酸の混合物の濃度は合計2〜40%であり、好ましくは5〜30%である。過酸化水素以外の酸濃度が低すぎても高すぎても光沢が得られずくすんだ表面となるが、上述した範囲とすることにより、より優れた光沢が得られる。また、本発明において燐酸の存在が重要であり、少なすぎても光沢を得にくくなるが、硫酸の含有量に関わらず燐酸が0.5%程度以上とすることでより優れた光沢が得られる。
【0014】
本発明で用いるベンゾトリアゾール類としては1H−ベンゾトリアゾール、1H−4(5)−メチルベンゾトリアゾール(別名トリルトリアゾール)が挙げられ、ベンゾトリアゾール類の濃度は、0.05〜1%であり、好ましくは0.1〜0.6%であり、より好ましくは0.2〜0.4%である。
【0015】
本発明で用いるアミノテトラゾールは1H−5−アミノテトラゾールであり、アミノテトラゾールの濃度は0.01〜0.2%であり、好ましくは、0.02〜0.1%であり、より好ましくは0.03〜0.05%である。
【0016】
本発明で用いる塩化物イオンのイオン源は塩化水素、塩化ナトリム、塩化カリウム、塩化錫、塩化銅等であり、塩化物イオンの濃度は0.0001〜0.002%であり、好ましくは0.0002〜0.0015%であり、より好ましくは0.0003〜0.001%である。
【0017】
本発明の処理液には過酸化水素及びベンゾトリアゾール類の安定剤としてアルコール類を添加することができる。アルコール類の濃度が低すぎるとベンゾトリアゾール類の安定性が低下する傾向にあり、高すぎると添加による安定効果の増加が頭打ちになるので経済的でない。以上の観点から、アルコール類の濃度は0.1〜2%が好ましい。アルコール類は予期せぬ副反応を防止するため飽和アルコールが好ましい。また、ヒドロキシル基は1分子内に複数存在してもよいが第1級ヒドロキシル基を有するアルコール類はその一部が過酸化水素によりカルボン酸へ酸化されて悪臭を発するため、安定剤として使用可能であるものの労働安全衛生上好ましくない。以上より、アルコール類は第2級及び第3級ヒドロキシル基のみを有する飽和アルコールであることが好ましく、より具体的には2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが好ましい。
【0018】
本発明の銅または銅合金の表面の粗化処理方法は、上記の表面処理剤を銅または銅合金にエッチング剤として適用して粗化処理する方法である。適用例としては、スプレーする方法、銅または銅合金を表面処理剤に浸漬する方法などが挙げられる。このときの表面処理剤の温度は20〜50℃、好ましくは25〜40℃。適用時間は2〜120秒、好ましくは5〜60秒である。
【0019】
このような表面の粗化処理方法によれば、銅または銅合金の表面に微細な構造、例えば表面に幅0.02〜0.2μmの穴又は溝などを形成させることができる。また、こうして得られた銅または銅合金は、表面の光沢を維持しながら表面積を上げることでドライフィルムレジストとの接着性を確保することができ、プリント回路板の用途に好適である。
これにより、粗化処理後の表面にも光沢を維持させることができ、回路形成後に行われる自動光学検査(AOI)に供することができるようになるため、プリント回路板製造の歩留りを有効に向上させることが可能になる。
なお、本発明の表面処理液は、銅及びまたは銅合金の表面の光沢性を維持したまま銅及びまたは銅合金の表面とレジン類等とを強固に密着させることを可能にすることから、プリント回路板製造等の電子工業分野以外にも、塗装等の一般工業分野にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例をもって本発明を説明する。尚、実施例および比較例における塩化物イオン源は塩化ナトリウムとしたが、塩化物イオン源はこれに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜10及び比較例1〜12)
表1及び表2に示す組成の各表面処理液について、予め処理時間と銅溶解厚さの関係を求めグラフ化し、作成されたグラフより銅溶解厚さが0.25μmとなるよう処理時間を求め、30℃にてプリント配線版用銅張積層板を揺動しながら浸漬し、銅張積層板の銅表面を処理した。尚、銅溶解厚さは、銅張積層板の銅表面および銅の密度と溶解した銅の重量から算出した平均の厚さである。
【0022】
処理前の銅張積層板の銅表面の電子顕微鏡写真を図1に、実施例1〜10で処理した銅表面及び比較的明るい仕上がり外観となった比較例2、4、6および10で処理した銅表面の電子顕微鏡写真を図2〜15に示す。尚、撮影角は各々45°である。
【0023】
実施例および比較例から、燐酸、ベンゾトリアゾール類、5−アミノテトラゾール、塩化物イオンの何れかが含まれない場合、光沢を維持し、且つ、ドライフィルムレジストとの接着力が高くなる銅表面が得られないことが分かる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
(実施例11及び比較例13〜16)
表3及び表4に示す組成の表面処理液に30℃にて、実施例1と同様にプリント配線板用銅張積層板を揺動しながら浸漬し、銅張積層板の銅表面を処理した。実施例11は銅溶解厚さが0.1μm、0.25μmおよび0.5μmとなるよう処理した。比較例13〜16は各々銅溶解厚さが0.25μmとなるよう処理した。実施例11及び比較例13〜16で処理して得られた銅表面の電子顕微鏡写真を図16〜22に示す。尚、撮影角は各々45°である。
【0029】
また、ドライフィルムレジストの密着性の評価として、未処理、実施例び比較例でエッチング処理を施したプリント配線板用銅張積層板に日立化成製ドライフィルムレジスト(H−9825)をラミネート、露光硬化後、JIS K5480に準拠し、ドライフィルムレジストに幅1mmの碁盤目状の傷を付け、45℃に保った4mol/Lの塩酸に10分間浸漬放置した後、水洗、乾燥し、粘着テープによる引き剥がし試験を行った。実施例1〜11では、0.1μmエッチングであっても十分なドライフィルムレジストの接着が得られた。これに対し、未処理および比較例13〜16ではドライフィルムレジストの接着は不十分である。ドライフィルムレジストの密着性の評価試験後の銅張積層板の銅表面写真を未処理、実施例の代表例として実施例11の0.1μm、0.25μmおよび0.5μm処理、比較例13〜16を図23〜30に示す。
【0030】
更に、実施例11及び比較例14の銅溶解厚さが0.5μmの場合の銅断面の電子顕微鏡写真を図31〜32に示す。尚、断面の撮影角は各々34°である。実施例11では、基材そのものの平らな面を残し、且つ、深さ約1μm前後の極めて幅の狭い溝が形成されている。これに対し、比較例14では浅い凹凸が銅表面に一様に形成されている。
【0031】
即ち、従来の粗化エッチングでは、表面に開いた凹凸形状が形成されるため、粗化深さの浅深により、くすんだ桃色〜橙色〜褐色〜黒褐色となるが、本発明の処理液では、エッチング量の増加によらず表面の平滑性を保ち、また、微細な溝が銅箔表面から内部に向かって逆テーパー状に近い計上に形成されるため、極僅かなエッチング量であっても強いドライフィルムレジストとの密着が得られることが理解される。
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
(実施例12〜15及び比較例17〜19)
表5及び表6に実施例11の組成をベースとし、実際の稼動液を想定し、硫酸銅を加えた組成の表面処理液を45℃で24時間放置した後の臭気を評価した結果を示す。実施例12〜15では悪臭の発生はなかったが、比較例17〜19では悪臭の発生が認められた。このことから、1位にヒドロキシル基を有するアルコール類の使用は過酸化水素/無機酸系エッチング液には好ましくないことが理解される。
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)過酸化水素、(2)リン酸またはリン酸および硫酸の混合物、(3)1H−ベンゾトリアゾール類、(4)1H−5−アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンの(1)〜(5)を全て含有する表面処理液。
【請求項2】
さらにアルコール類を含有する請求項1記載の表面処理液。
【請求項3】
過酸化水素0.5〜10%、リン酸0.5〜40%、リン酸を含む無機酸2〜40%、1H−ベンゾトリアゾール類0.1〜0.5%、1H−5−アミノテトラゾール0.01〜0.1%、塩化物イオン0.0001〜0.0015%含有する請求項1又は2に記載の表面処理液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理液を用いる銅または銅合金の表面の粗化処理方法。
【請求項5】
請求項4記載の表面の粗化処理方法により処理された銅または銅合金を有するプリント回路板。
【請求項6】
請求項4に記載の方法により表面の粗化処理がなされ、かつ、表面に幅0.02〜0.2μmの穴又は溝が形成された銅又は銅合金。
【請求項7】
請求項6記載の銅又は銅合金を有するプリント回路板。
【請求項8】
請求項6記載の構造の表面を形成することにより表面の光沢を維持しながら表面積を上げることでドライフィルムレジストの接着性を確保した銅又は銅合金を有するプリント回路板。
【請求項1】
(1)過酸化水素、(2)リン酸またはリン酸および硫酸の混合物、(3)1H−ベンゾトリアゾール類、(4)1H−5−アミノテトラゾールおよび(5)塩化物イオンの(1)〜(5)を全て含有する表面処理液。
【請求項2】
さらにアルコール類を含有する請求項1記載の表面処理液。
【請求項3】
過酸化水素0.5〜10%、リン酸0.5〜40%、リン酸を含む無機酸2〜40%、1H−ベンゾトリアゾール類0.1〜0.5%、1H−5−アミノテトラゾール0.01〜0.1%、塩化物イオン0.0001〜0.0015%含有する請求項1又は2に記載の表面処理液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理液を用いる銅または銅合金の表面の粗化処理方法。
【請求項5】
請求項4記載の表面の粗化処理方法により処理された銅または銅合金を有するプリント回路板。
【請求項6】
請求項4に記載の方法により表面の粗化処理がなされ、かつ、表面に幅0.02〜0.2μmの穴又は溝が形成された銅又は銅合金。
【請求項7】
請求項6記載の銅又は銅合金を有するプリント回路板。
【請求項8】
請求項6記載の構造の表面を形成することにより表面の光沢を維持しながら表面積を上げることでドライフィルムレジストの接着性を確保した銅又は銅合金を有するプリント回路板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2013−1944(P2013−1944A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133289(P2011−133289)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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