説明

金属複合材および金属複合材の製造方法

【課題】摺動部材として構成した場合に、高い耐摩耗性と耐久性とを発揮し得る金属複合材、および該金属複合材の製造方法を提案する。
【解決手段】多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3を含有する多孔質状プリフォーム1に、金属の溶湯を加圧含浸することにより、ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内に金属を充填してなる金属複合材10とした。この金属複合材10は、金属母材とホウ酸アルミニウム粒子3とが強固に結合され、高い強度と硬さとを有するため、摺動部材として適用した場合に、優れた耐摩耗性を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維や粒子等の強化材を焼結した多孔質状プリフォームに、アルミニウム合金等の金属の溶湯を加圧含浸することにより成形される金属複合材および該金属複合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車には、燃費や操安性等を向上させるために、軽量化、高耐久性、低熱膨張性等に優れるアルミニウム合金などの軽金属から製造された部品が増加する傾向にある。特に、エンジン部品等のように使用環境が厳しいものには、軽金属とセラミックス等の強化材とを複合化した金属複合材が適用されており、さらなる軽量化と高耐久性等とを発揮できるようにしている。
【0003】
この金属複合材の製造方法としては、金属やセラミックの短繊維、粒子等の強化材を焼結して多孔質状プリフォームを成形し、ダイカスト成形等により、この多孔質状プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸する方法が知られている。ここで、金属溶湯は比較的大きな圧力で加圧含浸されることから、多孔質状プリフォームには該加圧力により変形したり壊れたりすることを防ぐために、セラミック短繊維やセラミック粒子等から成形されている。
【0004】
例えば、特許文献1,2にあっては、アルミナ短繊維やホウ酸アルミニウムウィスカなどの強化材を焼結して多孔質状プリフォームを成形して、アルミニウム合金の溶湯を加圧含浸することにより成形される構成が開示されている。ホウ酸アルミニウムウィスカを強化材として用いることにより、金属複合材の強度と硬さとを向上することができ、耐久性や耐摩耗性を高め得る。
【特許文献1】特開平9−316566号公報
【特許文献2】特開2004−263211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した金属複合材は、軽量化と優れた耐久性を発揮するものとして、エンジンを構成するシリンダやピストン等の所謂摺動部材にも適用されている。このような摺動部材は、その駆動に伴って繰り返し摺動するものであるから、優れた耐摩耗性が求められている。そのため、摺動部材を構成する金属複合材には、さらなる耐摩耗性の向上が求められている。
【0006】
本発明は、優れた耐摩耗性を発揮し得る金属複合材、および該金属複合材の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填してなるものであることを特徴とする金属複合材である。
【0008】
かかる構成にあっては、多孔質状プリフォームを構成する強化材として、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を用いたものであると共に、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内にまで金属を充填したものである。これにより、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子と金属母材との結合力を強化することができる。また、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子にあっても、その微細孔内に金属が充填されることから、硬さと強度が向上する。
【0009】
上述した従来の、ホウ酸アルミニウムウィスカを含有する構成にあって、該ホウ酸アルミニウムウィスカは微細孔を有していない。そのため、本発明の、ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属が充填された構成は、前記従来構成に比して、ホウ酸アルミニウム粒子と金属母材との結合力が向上する。また、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子は、その微細孔内に金属が充填されているため、微細孔を有していないホウ酸アルミニウムウィスカとほぼ同等の強度と硬さを発揮できる。以上のことから、本発明の金属部材は、その強度と硬さが、従来構成に比して向上するため、上述したような摺動部材に適用した場合に、その耐久性や耐摩耗性を向上する。
【0010】
尚、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を用いた場合にあって、その微細孔内に金属が充填されていない構成では、本発明の構成に比して、当該ホウ酸アルミニウム粒子と金属母材との結合力が低く、かつ当該ホウ酸アルミニウム粒子自体の強度や硬さも低い。そのため、本発明の構成に比して、耐久性や耐摩耗性が低くなる。
【0011】
一方、本発明は、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、外表面に、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出していると共に、内部に、ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填したホウ酸アルミニウム粒子が分散していることを特徴とする金属複合材である。
【0012】
ここで、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出形成された外表面としては、金属複合材の全ての外表面であっても良いし、また、当該金属複合材を摺動部材として適用した場合に、その摺動面を構成する特定の外表面だけであっても良い。
【0013】
一般的に、上述したピストンやシリンダ等の摺動部材は、所定の潤滑油脂中で摺動するものであるから、該摺動部材を構成する金属複合材として、所定の潤滑油脂中で、所望の摺動特性を維持できる優れた摺動寿命が求められる。発明者らは、優れた摺動寿命を得ることを目的として鋭意研鑽した結果、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、この微細孔内へ油脂を吸入し易く、かつ該微細孔内で油脂を保持する性質を有していることを突き止めた。本発明は、これに基づいて成し得たものである。
【0014】
かかる本発明の構成にあっては、外表面に露出したホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に、油脂を保持することができる。この金属複合材から成るピストンやシリンダ等の摺動部材は、潤滑油脂中に配されることにより、外表面に露出したホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に該潤滑油脂が入って保持される。そして、摺動に伴って徐々に潤滑油脂が滲み出る。そのため、長期間に亘って摺動を繰り返しても、ホウ酸アルミニウム粒子内から徐々に滲み出た潤滑油脂によって、外表面の摩耗を抑制することができるから、所望の摺動特性を維持することができ、その摺動寿命が著しく延びる。また、ホウ酸アルミニウム粒子が露出した外表面に、予め所定の潤滑油脂を塗布することによっても、該潤滑油脂をホウ酸アルミニウム粒子内に保持することができる。このように潤滑油脂を外表面に塗布することによっても、上述と同様に摺動寿命を向上することができ得る。
【0015】
さらに、かかる本発明の構成にあっては、微細孔内に金属を充填した多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、内部に分散してなるものであるから、当該ホウ酸アルミニウム粒子と金属母材との結合力を強化することができると共に、当該ホウ酸アルミニウム粒子自体の硬さと強度も向上する。そのため、上述した従来の、微細孔を有していないホウ酸アルミニウムウィスカを含有する構成に比して、本発明の金属複合材は、高い強度と硬さとを発揮することができる。
【0016】
このようにかかる本発明の金属複合材は、外表面に形成された、多孔質状が維持されたホウ酸アルミニウム粒子によって、潤滑油脂を保持すると共に、内部に分散された、微細孔内に金属が充填されたホウ酸アルミニウム粒子により、強度と硬さとが向上する。したがって、優れた耐久性と耐摩耗性とを発揮する摺動部材を構成することができ得る。
【0017】
また、上述した金属複合材にあって、多孔質状プリフォームが、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子とを焼結してなるものとした構成が提案される。
【0018】
かかる構成にあっては、セラミック短繊維を用いて多孔質状プリフォームを形成することにより、当該プリフォームの強度を向上することができる。さらに、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子はセラミック短繊維の間に擬着することから、セラミック短繊維間の強度を高めることができ、多孔質状プリフォームの強度を向上することができ得る。また、ホウ酸アルミニウム粒子は、上述した従来のホウ酸アルミニウムウィスカに比して、セラミック短繊維と混合した場合に分散し易く、かつ前記のようにセラミック短繊維間に擬着し易い。したがって、多孔質状プリフォームの強度向上効果に優れ、金属の溶湯を加圧含浸するときに潰れたり壊れたりすることがない。
【0019】
上述した金属複合材にあって、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmのものであるとした構成が提案される。
【0020】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子は、粒径が大きくなるに従って、その微細孔も大きくなる傾向にある。そのため、微細孔は大きい方が金属を充填し易い。また、粒径は、小さい方が金属母材中の分散性が良い。以上のことから、かかる構成にあっては、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子の粒径を上記の範囲とすることにより、金属の溶湯を比較的充填し易く、かつホウ酸アルミニウム粒子を分散したものを成形し易い。
【0021】
尚、ホウ酸アルミニウム粒子は、粒径10μm〜60μmの範囲のものが好ましく、粒径10μm〜40μmのものがさらに好ましい。このように粒径を限定することにより、上記した作用効果に一層優れたものとなる。
【0022】
上述した金属複合材を製造する方法として、本発明は、セラミック短繊維と、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子と、無機バインダーとを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、該予備混合体を所定温度で焼結して、多孔質状プリフォームを成形する焼結工程と、該多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を所定圧力により加圧含浸する溶湯含浸工程とを備えたことを特徴とする。
【0023】
かかる方法にあって、混合工程で、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子とを混合することにより、これら両者をほぼ均一に分散することができる。そのため、脱水工程から焼結工程を経て成形される多孔質状プリフォームは、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子とがほぼ均一に分散し、かつ該ホウ酸アルミニウム粒子がセラミック短繊維間に擬着されたものとなるから、溶湯含浸工程で金属の溶湯を加圧含浸に充分に耐え得る高い強度を発揮できる。
【0024】
そして、溶湯含浸工程により多孔質状プリフォームに加圧含浸した金属の溶湯が、ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内にまで入り込んで充填される。これにより、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子の、その微細孔内に金属を充填してなる、上述した本発明の金属複合材を製造することができる。
【0025】
上述した金属複合材の製造方法にあって、混合工程で添加する無機バインダーが、粒径10nm〜100nmの固形粒子を有するコロイド状水溶液であるとした方法が提案される。
【0026】
ここで、無機バインダーは、セラミック短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とを擬結する作用を有するものである。そして、この固形粒子の粒径が大きくなるに従って、セラミック短繊維やホウ酸アルミニウム粒子に凝集し易くなる。ホウ酸アルミニウム粒子の表面に、無機バインダーの固形粒子が多量に凝集すると、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔を外部から遮るため、該微細孔内へ金属の溶湯が侵入することを妨げることともなり得る。一方、固形粒子の粒径が小さくなるに従って、該固形粒子がホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に侵入し易くなるため、該微細孔内へ金属の溶湯が侵入することを妨げることとなってしまう。以上のことから、無機バインダーの固形粒子の粒径を上記の範囲とすることにより、セラミック短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とを充分に擬結することができると共に、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内へ金属の溶湯が充分に侵入することができる。
【0027】
尚、固形粒子の粒径20nm〜50nmのものが、上記した作用効果を一層適正に発揮することができるため、好適に用い得る。
【0028】
また、上述した金属複合材の製造方法にあって、混合工程で添加する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を、多孔質状プリフォームの体積に対して0.03〜0.30の体積比となるように調合した方法が提案される。
【0029】
かかる方法にあっては、ホウ酸アルミニウム粒子の含有量を、多孔質状プリフォームに対する体積比によって示した上記範囲とする方法である。ここで、ホウ酸アルミニウム粒子の含有量が少ないと、金属複合材の強度向上効果を充分に発揮できない。また、含有量が多くなりすぎても、金属複合材の脆性が高くなってしまう。一方、ホウ酸アルミニウム粒子の含有量が増えると、金属の溶湯を含浸したときに、該溶湯の熱をホウ酸アルミニウムが奪ってしまうため、微細孔内へ侵入し難くなる。さらに、ホウ酸アルミニウム粒子の含有量が増えると、多孔質状プリフォームの空隙が減少するため、金属の溶湯が含浸し難くなる。以上のように、本方法によれば、強度向上効果と成形性との両者を適度に満足する金属複合材を得ることができる。
【0030】
また、上述した金属複合材の製造方法にあって、混合工程で混合する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmであるとした方法が提案される。
【0031】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子は、粒径が大きくなるに従って、その微細孔も大きくなる傾向にある。微細孔は、大きい方が金属を充填し易い。また、粒径は、小さい方が金属母材中の分散性が良い。以上のことから、かかる構成にあっては、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子の粒径を上記の範囲とすることにより、金属が比較的充填され易くなる。尚、ホウ酸アルミニウム粒子は、粒径10μm〜60μmの範囲のものが好ましく、粒径10μm〜40μmのものがさらに好ましい。このように粒径を限定することにより、上記した作用効果に一層優れたものとなる。
【0032】
また、上述した金属複合材の製造方法にあって、溶湯含浸工程が、金型内に、該金型の内面に多孔質状プリフォームの外表面が接触するように、該多孔質状プリフォームを装着して、多孔質状プリフォーム内に金属溶湯を加圧含浸するようにした方法が提案される。
【0033】
通常、金属の溶湯をプリフォームに加圧含浸するときには、多孔質状プリフォームを金型内に装着し、金属の溶湯を加圧含浸させる方法が用いられている。この場合には、金属溶湯の多孔質状プリフォームへの含浸性を高めるために、該多孔質状プリフォームを予熱すると共に、該プリフォームを装着する金型を所定温度に加熱保持するようにしている。ここで、プリフォームの予熱温度は、金型の保持温度に比して高く設定されている。
【0034】
かかる方法にあっては、このようにプリフォームを予熱し、かつ金型を所定温度に加熱保持して、溶湯含浸工程を行う場合に、多孔質状プリフォームの外表面を金型内面に接触して装着するようにした。これにより、当該プリフォームの外表面では、その熱量が金型に奪われてしまう。そのため、多孔質状プリフォームの外表面では、金属の溶湯の含浸性は維持できるものの、当該外表面に存在するホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属の溶湯が侵入し難くなる。したがって、このように製造された金属複合材は、その外表面に、多孔質状が維持さえれたホウ酸アルミニウム粒子が存在すると共に、内部のホウ酸アルミニウム粒子はその微細孔内に金属が充填されたものとなる。
【0035】
この溶湯含浸工程の後に、該溶湯含浸工程で金型の内面に接触して形成した外表面を研磨する研磨工程を行うようにした方法が提案される。
【0036】
かかる方法にあっては、溶湯含浸工程で金型の内面に接触した多孔質状プリフォームの外表面により形成される金属複合材の外表面を研磨して、該外表面に、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子を露出形成することができる。そして、この研磨工程により、当該ホウ酸アルミニウム粒子を外表面に安定して露出することができ得る。ここで、研磨としては、切削刃や砥石等による機械研磨、薬品等による化学研磨、該機械研磨と化学研磨とを組み合わせる等、様々な研磨方法を用い得る。また、本構成の研磨工程には、前記した機械研磨や化学研磨のように、研磨する工程を単独で行う場合だけでなく、外表面を所定の寸法形状に加工して整える機械加工を含むものとしても良い。尚、この機械加工では、外表面の寸法形状を比較的高い精度で整えることができるように、例えば、ダイヤモンドチップなどの切削刃を用いることが好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填してなるものであるから、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子と金属母材とが強固に結合すると共に、該ホウ酸アルミニウム粒子自体の強度と硬さが向上する。したがって、本発明の金属部材は、その強度と硬さとに優れ、高い耐久性や耐摩耗性を発揮することができるため、上述した摺動部材に適用して所望の性能を充分に発揮することができ得る。
【0038】
一方、本発明は、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、外表面に、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出していると共に、内部に、ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填したホウ酸アルミニウム粒子が分散しているものである。この構成により、内部では、金属母材とホウ酸アルミニウム粒子とが強固に結合され、かつ該ホウ酸アルミニウム粒子自体の強度と硬さとが向上する。そして、外表面では、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に潤滑油脂を保持することができ得る。したがって、潤滑油脂中で摺動する摺動部材を構成した場合に、外表面の摩耗を抑制でき、所望の摺動特性を維持できる潤滑寿命が著しく延びると共に、高い耐久性や耐摩耗性を発揮することができ得る。
【0039】
多孔質状プリフォームが、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子とを焼結してなるものとした構成にあっては、該ホウ酸アルミニウム粒子がセラミック短繊維間に擬着するため、多孔質状プリフォームは高い強度を発揮し得る。したがって、金属の溶湯を比較的高い圧力により加圧含浸しても、当該多孔質状プリフォームが潰れたり壊れたりすることを防ぎ得る。
【0040】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmのものであるとした構成にあっては、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充分に充填することができ、上述した本発明の作用効果を一層適正に発揮することができる。
【0041】
一方、上述した金属複合材を製造するため製造方法として、本発明は、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子と無機バインダーとを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程を行った後に、脱水工程および焼結工程により多孔質状プリフォームを形成し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸する溶湯含浸工程を行うようにした方法である。かかる方法によれば、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が分散した多孔質状プリフォームを成形でき、さらに、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属の溶湯を含浸することができる。したがって、上述した、微細孔内に金属が充填されたホウ酸アルミニウム粒子が分散された金属複合材を成形することができ得る。
【0042】
混合工程で添加する無機バインダーが、粒径10nm〜100nmの固形粒子を有するコロイド状水溶液であるとした製造方法にあっては、当該無機バインダーの固形粒子によってホウ酸アルミニウム粒子の微細孔が遮られることがなく、該微細孔内に金属溶湯が容易かつ安定的に侵入することができ得る。
【0043】
混合工程で添加する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を、多孔質状プリフォームの体積に対して0.03〜0.30の体積比となるように調合した製造方法にあっては、溶湯含浸工程で、金属の溶湯が含浸していく過程で失う熱量を抑制することができるため、該金属の溶湯をホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に安定して含浸でき得る。
【0044】
混合工程で混合する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmであるとした製造方法にあっては、その微細孔が適当な大きさのものとなるから、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属の溶湯を安定的かつ容易に含浸することができる。
【0045】
溶湯含浸工程が、金型内に、該金型の内面に多孔質状プリフォームの外表面が接触するように、該多孔質状プリフォームを装着して、多孔質状プリフォーム内に金属溶湯を加圧含浸するようにした製造方法にあっては、多孔質状のプリフォームの、金型に接触した外表面が、該金型により熱を奪われることから、該外表面に、多孔質性を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出し、かつ、内部に、微細孔内に金属が充填したホウ酸アルミニウム粒子を分散した金属複合材を製造することができ得る。
【0046】
溶湯含浸工程の後に、該溶湯含浸工程で金型の内面に接触して形成した外表面を研磨する研磨工程を行うようにした製造方法にあっては、当該研磨工程により、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子を外表面に容易かつ安定的に露出形成することができ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
図1は、プリフォーム1を成形する工程を表した図であり、このプリフォーム成形工程は、混合工程、脱水工程、乾燥工程、焼結工程から構成されている。図1(A)は混合工程であって、所定の容器21内で、各材料を水中で攪拌棒31により攪拌してほぼ均質に混合させて混合水溶液8をつくる。そして、この混合水溶液8を、容器21から吸引成形器22に移す。図1(B)は脱水工程であって、混合水溶液8から、フィルター24を介して真空ポンプ23によって水分を吸引し、予備混合体9を得る。そして、この予備混合体9を、吸引成形器22から取り出して充分に乾燥させる乾燥工程を行う(図示省略)。図1(C)は焼結工程であって、この予備混合体9を加熱炉25内のテーブル32に設置し、所定温度で加熱することにより焼結して、所望の多孔質状プリフォーム1を得る。
【0048】
次に、図2(A)〜(C)に示すようなダイカスト成形工程によって、上記した多孔質状プリフォーム1にアルミニウム合金の溶湯6を含浸して金属複合材10を成形する。このダイカスト成形工程を行うダイカスト成形装置33にあっては、図2(A)のように、所定形状のキャビティ35を形成する金型34と、該キャビティ35内に射出する溶湯6を一旦滞留させ、進退駆動制御されたプランジャーチップ38によって該溶湯6を射出するスリーブ37とを備えている。この成形工程は、金型34のキャビティ35内に多孔質状プリフォーム1を装着し、また、該キャビティ35内に射出する溶湯6を、プランジャーチップ38を退出位置としたスリーブ37に注入する。そして、図2(B),(C)のように、金型34の湯口36にスリーブ37を接続し、プランジャーチップ38を進出駆動することにより、該スリーブ37内の溶湯6をキャビティ35内に射出して、溶湯6を多孔質状プリフォーム1に加圧含浸する。
【0049】
尚、このようなダイカスト成形工程により、本発明にかかる溶湯含浸工程を構成している。
【0050】
次に、上記したダイカスト成形工程後に、旋盤により所望の寸法形状に整える切削加工工程を行い、さらに、フライス盤により摺動面とする特定の外表面(後述する内周表面)を機械研磨する研磨工程を行う。これにより、所望の形状寸法の金属複合材10を得る。
【0051】
上述したプリフォーム1の成形工程、該プリフォーム1にアルミニウム合金の溶湯6を含浸させるダイカスト成形工程、切削加工工程、外表面を機械研磨する研磨工程により製造する金属複合材10,50を、以下の具体例に従って説明する。
【実施例1】
【0052】
プリフォーム1の成形工程では、その混合工程(図1(A))で、容器21内の水中に下記(i)〜(v)の各材料を入れて混合する。
(i)アルミナ短繊維2(平均繊維径3μm、平均繊維長400μm)
(ii)ホウ酸アルミニウム粒子3(9Al・2B、平均粒径40μm)
(iii)シリカゾル4(水素イオン濃度pH10、濃度約30%のコロイド状水溶液)
(iv)ポリアクリルアミド7(濃度約10%の水溶液)
ここで、ホウ酸アルミニウム粒子3は、図3のように、微細孔3aを多数有する多孔質状の形態のものを使用している。また、シリカゾル4は、所謂無機バインダーであって、そのシリカ粒子の平均粒径が20nmものを用いている。
【0053】
尚、上記した平均繊維径、平均繊維長、平均粒径は、それぞれ繊維径、繊維長、粒径の平均値であり、バラツキを有している。また、アルミナ短繊維2およびホウ酸アルミニウム粒子3が、いわゆる強化材である。
【0054】
上記した各材料の混入する量として、アルミナ短繊維2は、その後の脱水工程および乾燥工程により成形した予備混合体9の体積率で約5%となるように調整している。また、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3は、同じく予備混合体9の体積率で約10%となるように調整している。
【0055】
また、シリカゾル4の添加量は、アルミナ短繊維2とホウ酸アルミニウム粒子3との総重量に対して約0.05の重量比となるように調整している。ここで、シリカゾル4内に含まれているシリカ粒子の重量が、ホウ酸アルミニウム粒子3に対して約0.015の重量比となる。
【0056】
そして、上記(i)〜(iv)の各材料を入れた水溶液を攪拌棒31で攪拌することにより、各材料がほぼ均一に混在した混合水溶液8を得る。
【0057】
次に、この混合水溶液8を吸引成形器22に移し、上述の脱水工程(図1(B))に移行する。この吸引成形器22には、内部をフィルター24により上下に区画され、その上部領域26aに混合水溶液8が流入される円筒形状の水溶液滞留部26と、この水溶液滞留部26の下方に設けられ、該水溶液滞留部26の下部領域26bと連通する水滞留部27と、この水滞留部27に接続され、該水滞留部27を経て、水溶液滞留部26から水分を吸引する真空ポンプ23とを備えている。
【0058】
脱水工程にあっては、吸引成形器22の水溶液滞留部26の上部領域26aに、上述の混合水溶液8を流入した後、真空ポンプ23を作動させることにより、該混合水溶液8の水分を、水滞留部27から水溶液滞留部26の下部領域26bを経て吸引する。これにより、混合水溶液8の水分がフィルター24を通過して流下し、上記した各材料が混合してなる円筒形状の予備混合体9を得る。さらに、この予備混合体9を吸引成形器22から取り出し、約120℃の乾燥炉等に入れ、充分に水分を除去する乾燥工程を行う(図示省略)。
【0059】
この脱水工程では、混合水溶液8内の各材料も吸引されるため、この吸引に伴って、混合水溶液8に添加したポリアクリルアミド7により、アルミナ短繊維2と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3とが適度に凝集される。そして、アルミナ短繊維2やホウ酸アルミニウム粒子3の互いに隣接するもの同士が、シリカゾル4により擬結される。このように形成された予備混合体9では、アルミナ短繊維2が互いに隣接するもの同士擬着しており、それらアルミナ短繊維2間に多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3が擬着している。この予備混合体9は、次の焼結工程までの搬送時に、その円筒形状が変形したり壊れたりすることなく維持され得る。
【0060】
尚、本実施例では、シリカゾル4を、粒径20nmのシリカ粒子を有するものを用いている。このようにシリカ粒子が比較的小さいものであることから、該シリカ粒子が多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3に凝集し難く、かつホウ酸アルミニウム粒子3に付着したシリカ粒子によってその微細孔3aが遮られない。すなわち、ホウ酸アルミニウム粒子3は、その多孔質状が維持されたまま存在している。
【0061】
次に、上述した焼結工程(図1(C))に移行する。上記の予備混合体9を、加熱炉25内に設置されたテーブル32上に置く。そして、約1150℃まで加熱して、約1時間保持する。これにより、アルミナ短繊維2や多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3を焼結し、円筒形状の多孔質状プリフォーム1を得る。この多孔質状プリフォーム1は、図4のように、ホウ酸アルミニウム粒子3の多孔質状が維持されている。尚、この図4では、微細孔3aの図示を省略している。
【0062】
この多孔質状プリフォーム1では、アルミナ短繊維2やホウ酸アルミニウム粒子3の表面に付着したシリカ粒子が結晶化することによって、それぞれ隣り合うもの同士が比較的強く結合している。そして、比較的広い空隙が生じており、多孔質状となっていることから、通気性に優れたものである。また、この多孔質状プリフォーム1は、アルミナ短繊維2やホウ酸アルミニウム粒子3が、全体に亘ってほぼ均一に分散して存在するものとなっている。
【0063】
次に、上述したダイカスト成形工程(図2参照)に移行する。ダイカスト成形装置33は、凸形状の上型34aと凹形状の下型34bとからなる金型34を備えており、該金型34が円筒形状のキャビティ35を形成するものとなっている。また、この金型34の下型34bには、スリープ37が接続される接続部(図示省略)と、該スリープ37が接続された場合に、スリープ37内の溶湯6がキャビティ35内に流入する湯口36とが設けられている。尚、上型34aと下型34bとが嵌め合わされた場合には、キャビティ35と湯口36とを連通する湯路39も形成されるようになっており、湯口36から流入した溶湯6は湯路39を通じてキャビティ35内へ流入する。
【0064】
尚、円筒形状の多孔質状プリフォーム1は、その寸法形状を、ダイカスト成形装置33のキャビティ35の寸法に比して僅かに小さくなるように設定している。すなわち、この多孔質プリフォーム1をキャビティ35内に装着した場合に、当該プリフォーム1は、その下面1bがキャビティ35の底を構成する金型34の床面44bと接触するのみで、その他の内周表面1aと外周表面(図示省略)と上面(図示省略)とが金型34の内面に接触しない。
【0065】
ダイカスト成形工程では、先ず、多孔質状プリフォーム1を約600℃で予熱すると共に、金型34を約200℃に保持しておく。そして、図2(A)のように、下型34bに予熱した多孔質状プリフォーム1を配置して、上型34aを嵌め合わせる。これにより、金型34の円筒形状のキャビティ35内に、多孔質状プリフォーム1が装着される。この状態で、多孔質状プリフォーム1は、その下面1bがキャビティ35の底を構成する金型34の床面44bと接触して支持されている。
【0066】
一方、金型34の下方位置に在って、プランジャーチップ38を退出位置(図示省略)としたスリーブ37に、約800℃に保持したアルミニウム合金の溶湯6を注入する。ここで、本実施例にあっては、アルミニウム合金に「JIS ADC12」を用いている。
【0067】
その後、図2(B)のように、スリープ37を昇動して、金型34の湯口36に該スリーブ37の上端部を接続する。そして、プランジャーチップ38を退避位置から所定駆動速度で進出駆動して、スリープ37内の溶湯6をキャビティ35内へ射出する。ここで、湯口36から流入する溶湯6を、約500atmの加圧力で射出するように、プランジャーチップ38の駆動速度を調整している。このようにして、アルミニウム合金の溶湯6を、キャビティ35内に装着した多孔質状プリフォーム1に加圧含浸する。
【0068】
図2(C)のように、キャビティ35内に溶湯6が充填されると、プランジャーチップ38が停止して該溶湯6の注入が止まり、冷却後にスリーブ37を降動して金型34から取り外す。そして、金型34の上型34aと下型34bとを分離して、図2(D)のように、該金型34から金属複合材10を取り出す。この金属複合材10は、アルミニウム合金6’を母材として、アルミナ短繊維2とホウ酸アルミニウム粒子3とが複合化されたものである。
【0069】
次に、上述したようにダイカスト成形工程で成形した金属複合材10を、旋盤により切削加工することにより、図2(D)のように、金型34から取り出した状態で湯口36及び湯路39により形成された部位やバリ等を除去すると共に、所望寸法の円筒形状に整える切削加工工程を行う。さらに、この切削加工工程の後、その内周表面10aをフライス盤により機械研磨する研磨工程を行う。尚、本実施例にあって、研磨工程では、ダイヤモンドチップにより切削加工する機械研磨を行っている。
【0070】
ここで、本実施例1にあっては、金属複合材10により摺動部材を構成した場合に、その内周表面10aを摺動面とするように設定している。すなわち、内周表面10aが、本発明にかかる外表面である。
【0071】
このように製造された金属複合材10を観ると、図5のように、ホウ酸アルミニウム粒子3が分散しており、かつ、該ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a(図3参照)が埋まっていることが確認できる。これは、ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内にアルミニウム合金が充填されていることを示している。
【0072】
すなわち、上述したダイカスト成形工程では、予熱された多孔質状プリフォーム1に、アルミニウム合金の溶湯6を加圧含浸することにより、該溶湯6が多孔質状プリフォーム1の隅々にまで侵入する。さらに、多孔質状プリフォーム1を構成するホウ酸アルミニウム粒子3は、上述したように多数の微細孔3aを有していることから、該微細孔3a内にも溶湯6が侵入する。これにより、ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内にアルミニウム合金が充填されてなる金属複合材10が成形される。
【0073】
尚ここで、多孔質状プリフォーム1は、その下面1bが金型34の床面44bに支持されてキャビティ35内に装着されていることから、当該下面1bの熱が、該プリフォーム1よりも低温の金型34に奪われてしまう。そのため、この下面1bの表層領域では、溶湯6の含浸性が低下する傾向となる。しかし、当該下面1bの表層領域は、湯路39に隣接する部位であることから、含浸性はほとんど低下せず、溶湯6は充分に含浸できる。また、この下面1bの表層領域に存在するホウ酸アルミニウム粒子3は、その熱量が低下するために、その微細孔3a内への溶湯6の含浸性が低下する傾向にある。しかし、例え、この下面1bの表層領域に存在するホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内にアルミニウム合金が充分に充填されなかったとしても、当該表層領域をダイカスト成形工程後の切削加工工程や研磨工程により削除すれば、微細孔3a内にアルミニウム合金が充填されたホウ酸アルミニウム粒子3が分散した金属複合材10を得ることができる。
【0074】
また、本実施例1の金属複合材10は、図5のように、アルミニウム合金6’が充分に含浸されており、巣(未含浸部位)を生じていない。さらに、金属複合材10には、亀裂や割れ等も生じていない。これにより、アルミナ短繊維2と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3とを焼結して成形した多孔質状プリフォーム1は、溶湯6を加圧含浸する際の比較的高い圧力に充分に耐え得る強度と優れた通気性とを有している。
【実施例2】
【0075】
実施例2は、上述した実施例1と同様のプリフォーム成形工程(図1参照)により、所望の多孔質状プリフォーム51を成形する。ここで、実施例2の多孔質状プリフォーム51は、その内周表面51aが、ダイカスト成形工程で使用する金型34のキャビティ35に装着した場合に、該金型34の内側内周面44aと全体的に接触するように、当該プリフォーム51の外径寸法を定めたものである(図2参照)。
【0076】
尚、混合工程では、実施例1と同じ材料をそれぞれ同量だけ混入することにより、実施例1と同じ混合水溶液8をつくる。そして、脱水工程、乾燥工程、焼結工程を、実施例1と同じ条件で実行する。
【0077】
本実施例2の多孔質状プリフォーム51は、上述した実施例1の多孔質状プリフォーム1と比して、外形寸法を僅かに大きくした以外は同じ構成のものである。すなわち、この多孔質状プリフォーム51にあっても、アルミナ短繊維2と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3とが全体的にほぼ均一に分散し、それぞれ隣り合うもの同士が強固に結合されていると共に、比較的広い空隙を有し、通気性に優れたものとなっている。そして、ホウ酸アルミニウム粒子3は、その多孔質状が維持された状態で存在している。
【0078】
このように成形した円筒形状の多孔質状プリフォーム51を、上述した実施例1と同様に、ダイカスト成形工程によって、アルミニウム合金の溶湯6を含浸して(図2参照)、金属複合材50を成形する。ここで、本実施例2にあっては、多孔質状プリフォーム51を金型34のキャビティ35内に装着した場合に、該多孔質状プリフォーム51の内周表面51aが、キャビティ35の外周を構成する金型34の内側内周面44aと全体的に接触した状態となる。また、多孔質状プリフォーム51の下面51bは、上述した実施例1と同様に、キャビティ35の底を構成する金型34の床面44bと接触して、該キャビティ35内に支持されている。
【0079】
尚、多孔質状プリフォーム51の予熱、金型34の加熱保持、溶湯6の温度は、いずれも上述した実施例1と同様としている。
【0080】
このダイカスト成形工程後には、上述した実施例1と同様に、旋盤により不要な部分を削除すると共に所望の寸法形状に整える切削加工工程を行い、さらにフライス盤により内周表面50aを研磨する研磨工程を行っている。ここで、内周表面50aの切削量および研磨量は、その表層領域に存在するホウ酸アルミニウム粒子3が露出する程度の、極僅かな量としている。また、下面50bの切削量は、上述した実施例1と同様に、その表層領域を削除する量としている。このように成形した金属複合材50は、上述した実施例1とほぼ同寸法形状である。尚、このフライス盤による機械研磨により、本発明にかかる研磨工程が構成されている。
【0081】
ここで、本実施例2にあっても、上述した実施例1と同様に、金属複合材50により摺動部材を構成した場合に、その内周表面50aを摺動面として設定している。すなわち、内周表面50aが、本発明にかかる外表面である。
【0082】
本実施例2の金属複合材50は、上述した実施例1と同様に、アルミニウム合金6’とアルミナ短繊維2とホウ酸アルミニウム粒子3とが複合化されたものである。この金属複合材50の内部を観察すると、上述した実施例1と同様に、ホウ酸アルミニウム粒子3は、その微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填されている(図5参照)。そして、このようなホウ酸アルミニウム粒子3が分散して存在している。これは、上述した実施例1と同様に、ダイカスト成形工程により、アルミニウム合金の溶湯6が、ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内にまで侵入したためである。尚、金属複合材50は、その上面(図示省略)、下面50b、外周表面(図示省略)の各表層領域でも、同様に、微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填したホウ酸アルミニウム粒子3が分散して存在している。
【0083】
金属複合材50の内周表面50aを観察すると、図6のように、多孔質状が維持されたホウ酸アルミニウム粒子3が露出している。これは、ダイカスト成形工程にあって、多孔質状プリフォーム51の内周表面51aが、金型34の内側内周面44aと接触していたために、該プリフォーム51の内周表面51aの熱が金型34に奪われ、アルミニウム合金の溶湯6が該内周表面51aの表層領域に存在するホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内に充填されなかったためである。そして、ダイカスト成形工程後に、研磨工程を行うことにより、その内周表面50aに、多孔質状が維持されたホウ酸アルミニウム粒子3が露出形成された金属複合材50を得る。
【0084】
尚、多孔質状プリフォーム51の内周表面51aの熱が金型34に奪われたとしても、この内周表面51aの表層領域に存在するホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3aには、該微細孔3aの開口部分であればアルミニウム合金の溶湯6が侵入することも可能である。このように微細孔3aの開口部分がアルミニウム合金6’で塞がれたとしても、研磨工程で金属複合材50の内周表面50aを切削加工することにより、当該内周表面50aに存在するホウ酸アルミニウム粒子3の表面をも切削することから、該ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3aの開口部分を塞いでいるアルミニウム合金6’を削除することができる。したがって、金属複合材50の内周表面50aには、多孔質状が維持されたホウ酸アルミニウム粒子3が露出形成されることとなる。
【0085】
上述したように、本実施例2の金属複合材50は、その内周表面50aに、多孔質状が維持されたホウ酸アルミニウム粒子3が露出すると共に、内部に、微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填されたホウ酸アルミニウム粒子3が分散したものである。尚、上述したように、本実施例2の金属複合材50により摺動部材を構成した場合に、その内周表面50aが摺動面となるようにしている。
【0086】
本実施例2は、多孔質状プリフォーム51の外径寸法を大きくし、ダイカスト成形工程で、多孔質状プリフォーム51を、その内周表面51aが金型34の内側内周面44aと接触するように、キャビティ35内に装着した以外は、上述した実施例1と同じ方法で成形している。そのため、実施例1と同じ成形工程や同じ構成には、同じ符号を記し、その説明を省略している。
【0087】
次に、上述した実施例1,2の金属複合材10,50について、その強度と硬さとを確認する。ここで、強度は、引張試験により測定し、硬さは、ビッカース硬さ試験により測定している。また、比較対照として、金属複合材10,50の母材と同じアルミニウム合金(JIS ADC12)について同じ試験により、その強度と硬さとを測定している。
【0088】
引張試験は、JIS Z2201に従って行った。試験片は、平行部外径を約5mmφの円柱状とした。そして、標点間距離を約25mmとして引張試験を行っている。この引張試験から引張強度と0.2%耐力とを測定した。ここで、引張強度は、いわゆる公称応力とし、試験片が破断する最大荷重により求めた。この引張試験に供する試験片は、上述した実施例1,2の金属複合材10,50から作成している。尚、実施例2の金属複合材50から作成した試験片は、該金属複合材50の内周表面50aを含まないように作成している。また、アルミニウム合金についても同じ形状の試験片を作成している。
【0089】
ビッカース硬さ試験は、JIS Z 2244に従って行った。試験では、所定の四角錐の圧子を、実施例1,2の金属複合材10,50の各内周表面10a,50aに、98Nの荷重で押し付けてその硬さを測定している。ここで、金属複合材10,50は、摺動部材に適用した場合に、その内周表面10a,50aを摺動面とするように設定していることから、該内周表面10a,50aにおける硬さを測定している。また、アルミニウム合金についても同様に硬さを測定した。
【0090】
上記した引張試験、ビッカース硬さ試験の結果、実施例1の金属複合材10は、引張強度が340MPa、0.2%耐力が220MPa、ビッカース硬さが130Hvであった。
【0091】
実施例2の金属複合材50は、引張強度が320MPa、0.2%耐力が200MPa、ビッカース硬さが110Hvであった。
【0092】
アルミニウム合金は、引張強度が310MPa、0.2%耐力が180MPa、ビッカース硬さが100Hvであった。
【0093】
この結果から、本実施例1,2の金属複合材10,50は、アルミニウム合金に比して、強度と硬さとが著しく向上していることが確認できた。これは、金属複合材10,50が、微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填されたホウ酸アルミニウム粒子3を分散してなるものであるから、アルミニウム合金6’の母材と該ホウ酸アルミニウム粒子3とが強固に結合されており、高い強度と硬さとを発現できるのである。このように高い強度と硬さとを有することから、金属複合材10,50を摺動部材として適用した場合に、優れた耐久性と耐摩耗性とを発揮でき得る。
【0094】
ここで、ビッカース硬さは、実施例1の金属複合材10が、実施例2の金属複合材50に比して高くなった。これは、硬さ試験をした内周表面10a,50aで、実施例1では、ホウ酸アルミニウム粒子3はその微細孔3a内にまでアルミニウム合金6’が充填されていることに対して、実施例2では、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子3が露出形成されているためである。
【0095】
すなわち、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3は、その微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填されることにより、その硬さが向上する。具体的には、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3の硬さを測定すると、ビッカース硬さ相当で200〜300Hv程度であり、これに対して、微細孔3a内にアルミニウム合金を充填したホウ酸アルミニウム粒子3では、400〜600Hvとなる。このように実施例1では、内周表面10aに存在するホウ酸アルミニウム粒子3の硬さが、実施例2に比して高くなり、総じてビッカース硬さが一層高く発揮されているのである。
【0096】
尚、上記した引張試験では、実施例2から採取した試験片が、金属複合材50の内周表面50aを含まないようにしたものであるから、実施例1と同じ強度を発揮している。
【0097】
また、本実施例1,2の金属複合材10,50については、各内周表面10a,50aを30mm×40mmの長方形とする矩形片を切り出し、油脂の保持性を調べた。油脂の保持性を測定する試験としては、実施例1,2の各試験片の各内周表面10a,50aに、自動車用のエンジンオイル(潤滑性油脂)を塗布し、塗布前後の重量増加を測定した。尚ここで、油脂の保持性は、金属複合材10,50の内周表面10a,50aについて測定している。これは、本実施例にあっては、この金属複合材10,50により摺動部材を構成した場合に、その内周表面10a,50aを摺動面とするように設定しているからである。
【0098】
この油脂保持性の試験結果は、実施例1の試験片が約0.2mgの重量増加であり、また、実施例2の試験片が約5.2mgの重量増加であった。これにより、実施例2の試験片は、実施例1の試験片に比して、油脂の保持性が高いことが確認できた。これは、実施例2の金属複合材50の内周表面50aには、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子3が露出しており、エンジンオイルが、該ホウ酸アルミニウム粒子3の微細孔3a内に侵入して保持されるためである。一方、実施例1の金属複合材10の内周表面10aに存在するホウ酸アルミニウム粒子3は、その微細孔3a内にアルミニウム合金6’が充填されているために、エンジンオイルが侵入できず、油脂を保持することができない。
【0099】
実施例2の金属複合材50は、摺動面として設定した内周表面50aに露出するホウ酸アルミニウム粒子3内に油脂を保持できるものであるから、摺動部材として構成することにより、摺動時に、ホウ酸アルミニウム粒子3内に保持した油脂が滲み出て、高い摺動特性を発揮することができる。これにより、金属複合材50から構成した摺動部材は、総じて耐摩耗性が向上し、所望の摺動特性を維持できる摺動寿命も延びるために耐久性が向上する。したがって、実施例2の金属複合材50は、実施例1に比して、その内周表面50aの硬さが低いものの、優れた油脂保持性を有していることから、充分な耐摩耗性を発揮することができ得る。
【0100】
尚、上述した実施例2にあっては、金属複合材50の内周表面50aにのみ、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子3を露出するようにした構成であるが、その他の構成として、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子3を、金属複合材の全ての外表面に露出した構成や、内周表面と外周表面とに露出した構成とすることもできる。この構成は、金属複合材を摺動部材とした場合に、少なくともその摺動面に、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子3が露出するようにしたものであればよく、これにより本発明の作用効果を充分に発揮できるのである。
【0101】
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、その他の構成についても、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。例えば、強化材として、アルミナ短繊維の他に、セラミック短繊維やセラミック粒子など他の短繊維、ウィスカ、粒子を添加することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1の多孔質状プリフォーム1を成形するプリフォーム成形工程を表す説明図である。
【図2】同上のプリフォーム成形工程で成形した多孔質状プリフォーム1から、ダイカスト成形工程および切削加工工程により金属複合材10を成形する工程を表す説明図である。
【図3】多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子3の、(A)拡大写真と、(B)その表面をさらに拡大した拡大写真である。
【図4】実施例1の多孔質状プリフォーム1を構成しているホウ酸アルミニウム粒子3の拡大写真である。
【図5】同上の多孔質状プリフォーム1から成形した金属複合材10の拡大写真である。
【図6】実施例2の金属複合材10の内側内周面44aの拡大写真である。
【符号の説明】
【0103】
1,51 多孔質状プリフォーム
1a,51a,多孔質状プリフォームの内周表面(外表面)
2 アルミナ短繊維(セラミック繊維)
3 ホウ酸アルミニウム粒子
3a 微細孔
4 シリカゾル(無機バインダー)
6 アルミニウム合金の溶湯(金属の溶湯)
6’ アルミニウム合金(金属母材)
8 混合水溶液
9 予備混合体
10,50 金属複合材
10a,50a 金属複合材の内周表面(外表面)
34 金型
44a 内側内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、該ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填してなるものであることを特徴とする金属複合材。
【請求項2】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を含有する多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を加圧含浸することにより、外表面に、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子が露出していると共に、内部に、ホウ酸アルミニウム粒子の微細孔内に金属を充填したホウ酸アルミニウム粒子が分散しているものであることを特徴とする金属複合材。
【請求項3】
多孔質状プリフォームが、セラミック短繊維と多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子とを焼結してなるものである請求項1又は請求項2に記載の金属複合材。
【請求項4】
多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmのものである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属複合材。
【請求項5】
セラミック短繊維と、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子と、無機バインダーとを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、
該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、
該予備混合体を所定温度で焼結して、多孔質状プリフォームを成形する焼結工程と、
該多孔質状プリフォームに、金属の溶湯を所定圧力により加圧含浸する溶湯含浸工程と
を備えたことを特徴とする金属複合材の製造方法。
【請求項6】
混合工程で添加する無機バインダーが、粒径10nm〜100nmの固形粒子を有するコロイド状水溶液であることを特徴とする請求項5に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項7】
混合工程で添加する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を、多孔質状プリフォームの体積に対して0.03〜0.30の体積比となるように調合したことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項8】
混合工程で混合する多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子が、粒径3μm〜100μmである請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の金属複合材の製造方法。
【請求項9】
溶湯含浸工程が、金型内に、該金型の内面に多孔質状プリフォームの外表面が接触するように、該多孔質状プリフォームを装着して、多孔質状プリフォーム内に金属溶湯を加圧含浸するようにしたことを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の金属複合材の製造方法。
【請求項10】
溶湯含浸工程の後に、該溶湯含浸工程で金型の内面に接触して形成した外表面を研磨する研磨工程を行うようにしたことを特徴とする請求項9に記載の金属複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−68306(P2008−68306A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251446(P2006−251446)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】