説明

金属複合粉末の製造方法及び金属複合粉末

【課題】 本発明は、金属粒子表面に貴金属粒子を添着させてなる金属複合粉末の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、例えば平均粒径が約50nm以上である球状の金属粒子20をスパッタ装置10内でローリングさせつつ、スパッタ法により貴金属粒子を添着させる金属複合粉末の製造方法にあり、これにより、平均粒子径が約5〜10nmである貴金属粒子が添着される金属複合粉末が得られ、優れた触媒作用や抗菌作用などを期待することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子表面に貴金属粒子を添着させてなる金属複合粉末の製造方法、及びこれにより得られる金属複合粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の排ガス浄化用触媒などにおいては、白金の触媒作用が利用されている。しかし、白金は貴金属として高価であるため、通常比表面積の大きな触媒担体の表面に高分散状態で担持させて、触媒作用を最大限に発揮する技術が開発されている。また、貴金属の抗菌作用に着目した技術の開発も行われている。
【0003】
このような貴金属を触媒担体側に担持させた金属複合粉末として、例えば酸化物粒子の表面に球形状でその粒径がnmオーダーの貴金属を添着させた金属複合粉末が提案されている(特許文献1)。さらに、燃料電池(ダイレクトメタノール形のもの)のメタノール酸化用触媒などにおいては、カーボンブラックなどの炭素微粉末に白金を担持させた金属複合粉末も利用されている。
【特許文献1】特開2000−103606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような金属複合粉末について、本発明者等が種々検討したところ、以下のような問題点があることを見い出した。先ず、触媒作用や抗菌作用などを十分に発揮されるためには、添着された貴金属粒子が空間的になるべく均一に分散していることが必要であると推測されるが、実際の金属複合粉末にあっては、貴金属粒子側の粒径が不揃いであったり、さらには担持側粒子にあっても、粒径が不揃いであることが分かった。
【0005】
そこで、本発明者等は、粒径の揃ったものが入手し易い、金属粒子に着目し、これを担持側粒子として用いる一方、この金属粒子に貴金属を添着させるにおいて、スパッタ法(スパッタリング法ともいう)を用い、種々の試験を行ったところ、金属粒子の平均粒径や、スパッタ装置の通電量、通電時間の調整により、良好な結果が得られた。
つまり、平均粒径が約50nm以上の金属粒子を用いたとき、優れた触媒作用や抗菌作用などを発揮する大きさである、平均粒子径が約5〜10nmの貴金属粒子が1個の金属粒子の表面に複数個ほぼ均一に添着させることができた。
【0006】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、基本的には、貴金属粒子をスパッタ法により、金属粒子にほぼ均一に添着させた金属複合粉末の製造方法、及びこれにより得られる金属複合粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明は、球状の金属粒子をスパッタ装置内でローリングさせつつ、スパッタ法により貴金属粒子を添着させることを特徴とする金属複合粉末の製造方法にある。
【0008】
請求項2記載の本発明は、前記金属粒子の平均粒径が約50nm以上であることを特徴とする請求項1記載の金属複合粉末の製造方法にある。
【0009】
請求項3記載の本発明は、前記金属粒子の平均粒径のCV値が30%以下であることを特徴とする請求項2記載の金属複合粉末の製造方法にある。
【0010】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1〜3記載の製造方法の一つにより得られた金属複合粉末であって、前記金属粒子に添着される貴金属粒子の平均粒子径が約5〜10nmであることを特徴とする金属複合粉末にある。
【0011】
請求項5記載の本発明は、前記貴金属粒子の平均粒径のCV値が20%以下であることを特徴とする請求項4記載の金属複合粉末にある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の金属複合粉末の製造方法によると、球状の金属粒子をローリングさせつつ、スパッタ法により貴金属粒子を添着させるため、スパッタ法によりターゲット(貴金属成分含有材料)からはじき出された貴金属粒子(スパッタ粒子)を金属粒子表面にほぼ均一に添着させた金属複合粉末を得ることができる。
【0013】
請求項2記載の金属複合粉末の製造方法によると、金属粒子の平均粒径が約50nm以上であるため、後述する図面代用写真から明らかなように、平均粒子径が約5〜10nmである貴金属粒子を、1個の金属粒子の表面に複数の貴金属粒子をほぼ均一に添着させることができる。
【0014】
請求項3記載の金属複合粉末の製造方法によると、金属粒子の平均粒径のCV値が30%以下であるため、粒径の揃った金属粒子により、優れた触媒作用や抗菌作用などを発揮する金属複合粉末が得られる。
【0015】
請求項4記載の金属複合粉末によると、請求項1〜3記載の製造方法の一つにより得られた金属複合粉末であって、金属粒子に添着される貴金属粒子の平均粒子径が約5〜10nmであるため、1個の金属粒子の表面に複数の貴金属粒子をほぼ均一に添着させれた活性に富んだ金属複合粉末が得られる。
【0016】
請求項5記載の金属複合粉末によると、貴金属粒子の平均粒径のCV値が20%以下であるため、粒径の揃った貴金属粒子により、優れた触媒作用や抗菌作用などを発揮する金属複合粉末が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る金属複合粉末の製造方法により使用されるスパッタ装置の要部の概略を示したものである。このスパッタ装置10は、例えば2個の駆動ローラー11、11により回転される、例えば円筒状の金属粒子用容器12を有し、この金属粒子用容器12の底面側(図中下方側)には、球状の金属粒子20がローリング(回転)されながら収納される。なお、金属粒子20に対するローリング運動は、回転に限定されず、首振り運動や前後・左右などの進退運動などでもよい。また、この金属粒子用容器12で、収納された金属粒子20に対向する位置(例えば容器中央)などには、貴金属をスパッタ粒子としてはじき出す材料であるターゲット30が設置してある。
【0018】
この金属粒子用容器12自体は、図示しないより大きな真空槽(容器)内に設置され、この真空槽内には、外部からスパッタ用ガス(アルゴンなど)が導入されるようになっている。また、上記ターゲット30側には、外部からスパッタ用の電極線が接続され、通電されるようになっている。なお、もう一方の対向電極は、図示しないが、通電時、ターゲット30側にスパッタ用ガスが効率的に衝突する位置に設けてある。
【0019】
このスパッタ装置10において、本発明では、球状の金属粒子として、平均粒径が約50nm以上、好ましくは約50〜100nmの球状である、ニッケル、銅、銀、鉄などの粒子(粉末)を用いる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、或いは、これらの2種以上を適宜組み合わせて併用することもできる。このような粒径の金属粒子は、例えば金属溶融流に対してガスを吹き付ける所謂アトマイズ法やCVD法などにより合成した球状粉を用いることにより得られる。この金属粒子の平均粒径の測定にあたっては、CV値〔coefficient of variation、変動係数=(標準偏差/平均値)・100〕で求め、30%以下のものを使用する。
【0020】
ここで、金属粒子の平均粒径を約50nm以上としたのは、添着される貴金属粒子の大きさを考慮したためである。つまり、得られる金属複合粉末の触媒作用や抗菌作用などを考えると、添着される貴金属粒子において、その平均粒径は小さいほど活性が高いものの、平均粒径が約5nm未満になると、その効果の持続性に問題があり、逆に、平均粒径が10nmを超えると、活性が低下し、十分な反応性が期待できなくなる。
このような貴金属粒子の大きさに対して、金属粒子の平均粒径を約50nm以上としておけば、1個の金属粒子の表面に複数の貴金属粒子をほぼ均一に添着させることができるからである。
【0021】
また、本発明で添着される貴金属粒子としては、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどを挙げることができる。具体的には、これらの単独の成分、又は複合成分からなるターゲットによって提供する。
【0022】
本発明方法の実施にあたっては、平均粒径が約50nmの粉末状の金属粒子を、分散剤、例えば1%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に投入し、この金属粒子粉末を均一に分散させる。この後、金属粒子粉末を濾過し乾燥させる。このようにして得られた金属粒子の粉末を、上記したスパッタ装置10の金属粒子用容器12中に収納させる。
【0023】
そして、スパッタ装置10を駆動させ、金属粒子用容器12を回転させ、金属粒子20をローリングさせながら、真空槽内にスパッタ用ガスを導入すると共に、スパッタ用電極線に所定の通電量で、所定の時間通電する。そうすると、スパッタ用のガスが、貴金属成分含有のターゲット30に衝突して、スパッタ粒子、即ち貴金属粒子がはじき出され、ローリング中の金属粒子の表面にほぼ均一に添着され、目的とする金属粒子と貴金属粒子とからなる、金属複合粉末が得られる。
【0024】
このようにして得られた金属複合粉末は、図2の図面代用写真(電界放射型走査型電子顕微鏡、FE−SEMによる写真)に示すように、比較的大きな1個の金属粒子の表面に対して、平均粒径が約5〜10nmである小さな貴金属粒径の複数個が埋め込まれた形で添着されていることが分かる。この貴金属粒子の平均粒径の測定にあたって、CV値〔coefficient of variation、変動係数=(標準偏差/平均値)・100〕で求めると、20%以下であった。つまり、バラツキの小さい粒径の揃った貴金属粒子であることが分かる。また、複合される両材料が共に金属材料であるため、上述した従来の金属複合粉末のように、担持側の粒子が酸化物粒子やカーボンブラック粒子などの場合とは異なり、容易に剥離などしない、安定した結合状態が得られる。勿論結果として、経時的変化に強い安定した触媒作用や抗菌作用などが得られる。
【0025】
〈実施例1〜2、比較例1〜3〉
先ず、分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムを1%溶解した水溶液中に平均粒径約80nm、CV値28%の球状のニッケル粒子(粉末)を加えて、超音波を印加しながら攪拌し分散させた。この分散されたニッケル粒子を濾過し、80℃で乾燥させた。
【0026】
得られたニッケル粒子を、図1に示したスパッタ装置10の金属粒子用容器12に入れてローリングさせながら、真空度約10Pa下で、スパッタ電流(mA)、スパッタ時間(秒)を適宜変更して、金成分含有のターゲットから金をスパッタさせた。また、同様の手順で、白金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムについても、スパッタさせた。
その結果を、表1に併記した。一例として貴金属が金の場合の得られた金属複合粉末について、上述したように、電界放射型走査型電子顕微鏡により観察すると、実施例1の場合、図2(図面代用写真)の如くであった。つまり、球状のニッケル粒子の表面に平均粒径が約5〜10nm、CV値20%以下の金粒子がほぼ均一に多数添着していることが観察された。
【0027】
しかし、比較例1〜3の場合、上記と同様にして金をスパッタするものの、比較例1において、真空度約10Pa、スパッタ電流30mA、スパッタ時間35秒間としたところ、添着された金粒子の平均粒径が約18〜30nmで、そのCV値42%であった。これでは、所望の優れた触媒作用や抗菌作用などを期待することは不可能である。また、比較例2において、真空度約10Pa、スパッタ電流30mA、スパッタ時間50秒間としたところ、ニッケル粒子の表面を添着された金粒子が膜状(層状)に形成されていた。この場合には、優れた触媒作用や抗菌作用などを期待することは殆ど不可能である。さらに、比較例3の場合、真空度約10Pa、スパッタ電流30mA、スパッタ時間20秒間としたところ、ニッケル粒子の表面を添着された金粒子の平均粒径が小さく、触媒作用や抗菌作用などの持続性が期待できないことが判った。
【0028】
【表1】

【0029】
〈実施例3〉
分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムを1%溶解した水溶液中に平均粒径約100nm、CV値26%の球状の銅粒子(粉末)を加えて、超音波を印加しながら攪拌し分散させた。この分散された銅粒子を濾過し、80℃で乾燥させた。
【0030】
得られた銅粒子を、図1に示したスパッタ装置10の金属粒子用容器12に入れてリングさせながら、上記実施例1と同様にして、表2に示すスパッタ条件下で、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムをスパッタさせた。その結果は表2に併記した。
【0031】
【表2】

【0032】
〈実施例4〉
分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムを1%溶解した水溶液中に平均粒径約90nm、CV値29%の球状の銀粒子(粉末)を加えて、超音波を印加しながら攪拌し分散させた。この分散された銀粒子を濾過し、80℃で乾燥させた。
【0033】
得られた銀粒子を、図1に示したスパッタ装置10の金属粒子用容器12に入れてリングさせながら、上記実施例1と同様にして、表3に示すスパッタ条件下で、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムをスパッタさせた。その結果は表3に併記した。
【0034】
【表3】

【0035】
〈実施例5〉
分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムを1%溶解した水溶液中に平均粒径約70nm、CV値29%の球状の鉄粒子(粉末)を加えて、超音波を印加しながら攪拌し分散させた。この分散された鉄粒子を濾過し、80℃で乾燥させた。
【0036】
得られた鉄粒子を、図1に示したスパッタ装置10の金属粒子用容器12に入れてリングさせながら、上記実施例1と同様にして、表4に示すスパッタ条件下で、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムをスパッタさせた。その結果は表4に併記した。
【0037】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る金属複合粉末の製造方法を実施するためのスパッタ装置の要部を示した概略説明図である。
【図2】金属複合粉末の図面代用写真である。
【符号の説明】
【0039】
10・・・スパッタ装置、12・・・金属粒子用容器、20・・・金属粒子、30・・・ターゲット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の金属粒子をスパッタ装置内でローリングさせつつ、スパッタ法により貴金属粒子を添着させることを特徴とする金属複合粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子の平均粒径が約50nm以上であることを特徴とする請求項1記載の金属複合粉末の製造方法。
【請求項3】
前記金属粒子の平均粒径のCV値が30%以下であることを特徴とする請求項2記載の金属複合粉末の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3記載の製造方法の一つにより得られた金属複合粉末であって、前記金属粒子に添着される貴金属粒子の平均粒子径が約5〜10nmであることを特徴とする金属複合粉末。
【請求項5】
前記貴金属粒子の平均粒径のCV値が20%以下であることを特徴とする請求項4記載の金属複合粉末。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104565(P2006−104565A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296576(P2004−296576)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】