説明

金属調塗料及び金属調インキ、金属調塗膜、並びにこれらの製造方法

【課題】金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗料、金属調塗膜、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】金属調塗料は、重合開始剤が修飾されたアルミニウム微粒子1に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、アルミニウム微粒子1表面にポリメタクリル酸メチル2が導入され、アルミニウム微粒子1をコアとしてポリメタクリル酸メチル2をシェルとするコアシェル構造の複合体材料3と、複合体材料3が分散混合される溶媒とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属調塗料及び金属調インキ、金属調塗膜、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の内装部品は、意匠性の向上や高級感の演出を目的として金属調加飾の採用が増加している。
このような金属調加飾の塗装においては、金属顔料を溶媒中に分散混合させた塗料を使用する。そして、この塗料を意匠面に塗装して樹脂溶液を乾燥させることで金属調塗膜を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この金属調塗膜に用いる塗料は、溶媒である樹脂溶液中に配合させた鱗片状アルミニウム粉末等の金属顔料に太陽光等の光が反射して輝くことで金属光沢を提供している。このような金属調塗膜においては、金属光沢が高く、塗膜内での剥離が生じず、また隣接するベース塗膜や成形素材基材に対する密着性に優れた剥離強度の高いものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−53901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記塗料は樹脂溶液に対して比重の大きい金属顔料が樹脂溶液中に沈降して分散性が悪く、攪拌が不十分だったり攪拌後に時間が経過したりすると、所望の金属光沢が得られない問題があった。そこで、金属顔料が沈降したまま使用すると金属光沢が減少するため、金属顔料の沈降が起きても所定の金属光沢が得られるよう樹脂溶液に対する金属顔料の含有量を所定より多目にしたり、使用直前に攪拌したりすることで対処していた。一方で、図6に示されるように、上記塗料の溶媒を乾燥させた金属調塗膜16においては、金属顔料11と樹脂12との密着性が物理吸着のため悪く、金属顔料11と樹脂12との境界面Lが連続すると界面破壊や金属顔料11同士の凝集Mにおける凝集破壊によって塗膜内での剥離が生じて剥離強度が低下するため、金属顔料11の含有量を多くすることに限界があった。すなわち、金属調塗料においては、金属材料に匹敵する金属光沢を得るために樹脂溶液に対する金属顔料の含有量を多くしたいところ、樹脂溶液に対して金属顔料の含有量を多くすると凝集破壊によって剥離強度が低下してしまうという背反する課題があった。そこで、金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗膜、その金属調塗料及び金属調インキ、並びにこれらの製造方法が求められていた。
【0006】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗膜、その金属調塗料及び金属調インキ、並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーが導入され、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料と、前記複合体材料が分散混合される溶媒とを備えたことを特徴とする金属調塗料及び金属調インキであることをその要旨としている。
【0008】
同構成によれば、重合開始剤が修飾された金属顔料の表面に原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)によりポリマーが導入されるため、金属顔料は化学結合されたポリマーに被覆され、乾燥しても化学結合で繋がれ金属顔料とポリマーとの密着を維持することができる。そして、この複合体材料が溶媒に溶かされると、複合体材料のポリマーが溶媒和されることで膨潤し、それぞれの複合体材料同士の凝集が抑えられ、溶媒中に沈降することなく溶媒中に均等に分散する。また、金属顔料自体がポリマーに被覆されるため、金属顔料が重なり合うことがないので凝集破壊のおそれがなく、金属顔料が塗膜の表面に突出するおそれがない。さらに、溶媒中に複合体材料を大量に含有させることができ、溶媒に対する金属顔料の含有量を従来よりも増やすことが可能である。よって、金属材料に匹敵する金属光沢とすることができるとともに、剥離強度が高い金属調塗膜を形成できる金属調塗料とすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属調塗料及び金属調インキを塗布して溶媒を乾燥させたことを特徴とする金属調塗膜であることをその要旨としている。
同構成によれば、前記金属調塗料及び金属調インキを塗布して溶媒を乾燥させることにより、金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗膜とすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーを導入し、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料を生成し、前記複合体材料を溶媒に溶かして分散混合することを特徴とする金属調塗料及び金属調インキの製造方法であることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、重合開始剤が修飾された金属顔料の表面に原子移動ラジカル重合(ATRP)によりポリマーが導入されるため、金属顔料は化学結合されたポリマーに被覆され、乾燥しても化学結合で繋がれ金属顔料とポリマーとの密着を維持することができる。そして、この複合体材料が溶媒に溶かされると、複合体材料のポリマーが溶媒和されることで膨潤し、それぞれの複合体材料同士の凝集が抑えられ、溶媒中に沈降することなく溶媒中に均等に分散する。また、金属顔料自体がポリマーに被覆されるため、金属顔料が重なり合うことがないので凝集破壊のおそれがなく、金属顔料が塗膜の表面に突出するおそれがない。さらに、溶媒中に複合体材料を大量に含有させることができ、溶媒に対する金属顔料の含有量を従来よりも増やすことが可能である。よって、金属材料に匹敵する金属光沢とすることができるとともに、剥離強度が高い金属調塗膜を形成できる金属調塗料を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーを導入し、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料を生成し、前記複合体材料を溶媒に溶かして分散混合し、前記複合体材料が分散混合された金属調塗料及び金属調インキを塗布して乾燥させることを特徴とする金属調塗膜の製造方法であることをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、重合開始剤が修飾された金属顔料の表面に原子移動ラジカル重合(ATRP)によりポリマーが導入されるため、金属顔料は化学結合されたポリマーに被覆され、乾燥しても化学結合で繋がれ金属顔料とポリマーとの密着を維持することができる。そして、この複合体材料が溶媒に溶かされると、複合体材料のポリマーが溶媒和されることで膨潤し、それぞれの複合体材料同士の凝集が抑えられ、溶媒中に沈降することなく溶媒中に均等に分散する。また、金属顔料自体がポリマーに被覆されるため、金属顔料が重なり合うことがないので凝集破壊のおそれがなく、金属顔料が塗装の表面に突出するおそれがない。さらに、溶媒中に複合体材料を大量に含有させることができ、溶媒に対する金属顔料の含有量を従来よりも増やすことが可能である。よって、金属材料に匹敵する金属光沢とすることができるとともに、剥離強度が高い金属調塗膜を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の金属調塗料及び金属調インキにおいて、前記金属顔料は、金属微粒子であることをその要旨としている。
同構成によれば、金属膜等へ表面グラフト重合を行っても溶媒へは分散し難く金属調塗料を得ることは難しい。一方、金属微粒子へ表面グラフト重合を行うと、溶媒への分散性が得られ、金属調塗料が得られる。溶媒への分散性は金属微粒子の大きさと表面グラフトポリマーの厚さの比によって決めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗膜、その金属調塗料及び金属調インキ、並びにこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】複合体材料を示す図。
【図2】金属調塗料及び金属調インキを示す図。
【図3】複合体材料を示す図。
【図4】金属調塗膜を示す図。
【図5】(a)金属調塗料の分散性を示す図、(b)金属調塗膜の剥離強度、正反射率、及び拡散反射率を示す図。
【図6】従来の金属調塗膜を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図5を参照して説明する。
本実施形態では、金属顔料をコアとしてポリマーのシェルで被覆したコアシェル構造の複合体材料を溶媒に溶かした金属調塗料と、この金属調塗料を塗布して乾燥させた金属調塗膜との製造方法を説明することで、併せてこれらの構造を説明する。
【0018】
金属顔料は、金属光沢を有し、溶媒に分散可能な金属微粒子である。本実施形態では、金属顔料としてアルミニウム微粒子を用いる。ここで、金属光沢は正反射率が高く、拡散反射率が低い特徴があり、金属微粒子の形状や大きさによって決まる。高い金属光沢を金属微粒子で実現するためには、正反射を上げるため金属微粒子の平面性を高くし、拡散反射を抑えるため金属微粒子のエッジ部分を少なくする必要がある。即ち、金属微粒子径を大きくすると正反射率は上がり、拡散反射率が下がるが、微粒子が目視できるようになりかつ溶剤への分散性が悪くなる。そこで、本実施形態では、粒径が例えば90μm径程度の鱗片状のアルミニウム微粒子を用いることによって金属材料に匹敵する金属光沢を得る。また、ポリマーは、後述する原子移動ラジカル重合(ATRP)により生成可能であり、可視光波長領域に吸収のないものである。
【0019】
まず、シランカップリング剤を用いてアルミニウム微粒子の酸化物表面に自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)を形成する。アルミニウムの表面には酸化皮膜で覆われているため、この酸化皮膜を利用している。シランカップリング剤は、後述する原子移動ラジカル重合(ATRP)を行うため、重合開始剤を末端に有する、例えば2−(4−クロロスルフォニルフェニル)エチルトリメトキシシラン(CTS)である。具体的には、アセトニトリル溶媒にCTSを溶解し、アルミニウム微粒子を浸漬し、2時間程還流してアルミニウム微粒子の表面にCTS−SAMを形成する。このSAMは、アルミニウム微粒子の表面に高密度に修飾されているため、後述する原子移動ラジカル重合によって高密度にポリマーを修飾することができるようになる。
【0020】
なお、CTS−SAMが形成されたか否かは、水との接触角から確認できる。水との接触角は、CTS−SAM処理がされたアルミニウム微粒子の表面が疎水性となるため、未処理のアルミニウム微粒子よりも大きくなる。
【0021】
次に、原子移動ラジカル重合を行う。ガラスアンプル管にモノマーであるメタクリル酸メチル(MMA:Methyl Methacrylate)及び反応溶媒としてジフェニルエーテルを加え、反応触媒として臭化銅(Cu(I)Br)と4,4´−ジノニル−2,2´−ビピリジル(bpy9)を加え、そして分子量制御のための重合開始剤として塩化p−トルエンスルフォニル(TsCl)を溶解させる。そして、先ほどのCTS−SAMが修飾されたアルミニウム微粒子を加え溶解して均一分散溶液とする。
【0022】
これらが入ったガラスアンプル管を真空ラインに取り付け、液体窒素溶液を用いて反応溶液を凍結する。反応溶液の凍結後、ガラスアンプル管を真空に引き、窒素ガスを充填後、ガラスアンプル管を水温し、反応溶液を解凍し、溶解している空気を窒素に置換する。これら凍結−脱気−解凍操作を3回繰り返し、溶存酸素を除いた後、凍結して真空状態でガスバーナを使ってガラスアンプル管を封止する。
【0023】
このガラスアンプル管を恒温槽に投入し、重合温度90℃で24時間重合を行い、水冷して重合を停止する。停止後、ガラスアンプル管を開封し、メンブランフィルターを使って表面グラフト重合したアルミニウム微粒子と反応溶液をろ別する。このアルミニウム微粒子はテトラヒドロフラン(THF)を用いて3回洗浄後、真空乾燥して複合体材料を得た。ろ液は活性アルミナカラムに通すことで金属錯体を活性アルミナカラムに吸着させ、反応溶液から取り除く。そして、メタノールに滴下することによりポリメタクリル酸メチル(PMMA:Polymethyl Methacrylate)の沈殿物が得られる。このポリメタクリル酸メチルの分子量を測定し、測定したポリメタクリル酸メチルの分子量を表面グラフトポリマーの分子量とした。これは、表面グラフトポリマーの分子量を直接測定することができないためである。表面グラフトポリマーの分子量は、モノマーと重合開始剤(CTS−SAM)とのモル比によって制御される。重合開始剤のモル数はアルミニウム微粒子の表面積と表面濃度との積から求められ、モノマーのモル数は溶媒体積とモノマーの体積濃度との積から求められる。このため、重合開始剤のモル数に対してモノマーのモル数が極端に小さな値となり、表面グラフトポリマーの分子量の制御が難しくなる。そこで、溶存重合開始剤(TsCl)を添加することで制御しており、表面グラフトポリマーの生成条件と溶液重合ポリマーの生成条件とを同じと仮定し、溶液重合ポリマーの分子量から表面グラフトポリマーの分子量を求めている。
【0024】
図1に示されるように、この重合によりアルミニウム微粒子1の表面には、自己組織化単分子膜を重合開始基としてポリメタクリル酸メチル(PMMA:Polymethyl Methacrylate)2が直鎖状ポリマーとして導入された複合体材料3が得られる。この複合体材料3は、アルミニウム微粒子1をコアとしてポリメタクリル酸メチル2によって被覆されたコアシェル構造となっている。なお、原子移動ラジカル重合では、ポリマー鎖長を制御することができるため、複合体材料3自体においてもアルミニウム微粒子1とポリメタクリル酸メチル2との比を制御することができる。ここで、グラフトしたポリマーの分子量は1万〜50万が望ましく、表面グラフトポリマー(ポリメタクリル酸メチル2)とアルミニウム微粒子1の重量比(PMMA/Al)は0.1〜2が望ましい。
【0025】
図2に示されるように、上記の複合体材料3を、溶媒として例えばトルエン4に分散させて金属調塗料5を得る。図3に示されるように、トルエン4に分散された複合体材料3は、ポリメタクリル酸メチル2の間にトルエン4が入り込み膨潤する。図2に示されるように、この金属調塗料5において、トルエン4に分散された複合体材料3は、ポリメタクリル酸メチル2の膨潤によって、互いの複合体材料3の凝集が抑えられ、従来のようにアルミニウム微粒子1が沈降することがなく、トルエン4中に均等に分散する。このため、従来に比べて多くのアルミニウム微粒子1をトルエン4中に含有させることができる。
【0026】
図4に示されるように、この金属調塗料5をガラス基板上に塗布して乾燥させることにより金属調塗膜6を生成する。この金属調塗膜6は、アルミニウム微粒子1がポリメタクリル酸メチル2に被覆されているため、アルミニウム微粒子1同士が重なり合うことがないので凝集破壊のおそれがない。また、アルミニウム微粒子1が塗膜の表面に突出するおそれがない。
【0027】
さて、このようにして製造された金属調塗料5及び金属調塗膜6は、トルエン4中に複合体材料3を大量に含有させることができ、トルエン4に対するアルミニウム微粒子1の含有量を従来よりも増やすことが可能である。
【0028】
図5(a)及び図5(b)に示されるように、本実施形態の塗料B,Cの分散性及び、これら塗料B,Cから生成した塗膜b,cの剥離強度、並びに正反射率、拡散反射率を考察する。塗料Bはグラフトしたポリマーの分子量が33.5万であり、塗料Cはグラフトしたポリマーの分子量が7.7万である。表面グラフトポリマー(ポリメタクリル酸メチル2)とアルミニウム微粒子1の重量比(PMMA/Al)は同ポリマーの分子量が33.5万のとき1.49であり、7.7万のとき0.82である。アルミニウム微粒子1の代表的厚さ80μmに対して表面グラフトポリマー(ポリメタクリル酸メチル2)の平均厚さは分子量が33.5万のとき160nmであり、分子量が7.7万のとき90nmである。
【0029】
なお、アルミニウム微粒子をトルエン溶媒に溶かした塗料Aと、アルミニウム微粒子と33.5万のポリマーをトルエン溶媒に溶かした塗料Dと、アルミニウム微粒子と7.7万のポリマーをトルエン溶媒に溶かした塗料Eとを比較する。
【0030】
塗料B,Cは、ほぼ均一な分散溶液となる。塗料Aは、トルエン溶媒とアルミニウム微粒子とが透明溶液と沈殿との二層に分離した溶液となる。塗料D,Eは、トルエン溶媒とポリマーとアルミニウム微粒子とが透明溶液と分散溶液と沈殿との三層に分離した溶液となる。分散性は、本実施形態の塗料B,Cが優れていることがわかる。
【0031】
次に、塗料A〜Eをガラス基板に塗布して生成した塗膜a〜eの剥離強度をスコッチ(登録商標)テープを塗膜に貼り、剥がした際の剥離の有無により比較した。塗料B,Cから生成された塗膜b,cのみ剥離強度を満たしている。
【0032】
正反射率、拡散反射率共に、塗料Aや塗料D,Eから生成した塗膜aや塗膜d,eの方が塗料B,Cから生成した塗膜b,cよりも優れているが、金属材料に匹敵する金属光沢を得られている。
【0033】
よって、金属材料に匹敵する金属光沢とすることができるとともに、剥離強度が高い金属調塗料5及び金属調塗膜6とすることができる。
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0034】
(1)重合開始剤が修飾されたアルミニウム微粒子1の表面に原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)によりポリメタクリル酸メチル2が直鎖状に導入されるため、アルミニウム微粒子1は化学結合されたポリメタクリル酸メチル2に被覆され、乾燥しても化学結合で繋がれアルミニウム微粒子1とポリメタクリル酸メチル2との密着を維持することができる。そして、この複合体材料3が溶媒に溶かされると、ポリメタクリル酸メチル2が膨潤し、それぞれの複合体材料3同士の凝集が抑えられ、従来のようにアルミニウム微粒子1がトルエン4中に沈降することなく、トルエン4中に均等に分散する。また、アルミニウム微粒子1自体がポリメタクリル酸メチル2に被覆されるため、アルミニウム微粒子1が重なり合うことがないので凝集破壊のおそれがなく、アルミニウム微粒子1が塗膜の表面に突出するおそれがない。さらに、トルエン4中に複合体材料3を大量に含有させることができ、トルエン4に対するアルミニウム微粒子1の含有量を従来よりも増やすことが可能である。よって、アルミニウム微粒子1に匹敵する金属光沢とすることができるとともに、剥離強度が高い金属調塗料5とすることができる。
【0035】
(2)金属調塗料5を塗布してトルエン4を乾燥させることにより、金属材料に匹敵する金属光沢を得ることができるとともに、剥離強度の高い金属調塗膜6とすることができる。
【0036】
(3)アルミニウム微粒子1を用いることにより、塗料及びインキとしての溶媒への分散性と塗膜としての金属光沢を兼ね備えた複合体材料3を製造することができる。特に、鱗片状のアルミニウム微粒子1にすることにより、金属微粒子の平面性が高くなり、正反射率を高めることができる。
【0037】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、複合体材料3がトルエン4に分散混合された金属調塗料5を塗布して乾燥させることにより金属調塗膜6を生成したが、金属調インキを用いてグラビア印刷等の印刷によって金属調塗膜を生成してもよい。
【0038】
・上記実施形態では、アルミニウム微粒子の粒径を例えば90μmとしたが、90μmに限らず、10μm〜200μmの範囲が望ましい。
・上記構成においては、金属顔料としてアルミニウムを使用したが、アルミニウムに限らず、金、銀、銅、白金、ニッケル、鉄、クロム等の他の金属顔料を使用してもよい。
【0039】
・上記構成においては、ポリマーとしてポリメタクリル酸メチルを使用したが、ポリメタクリル酸メチルに限らず、メタクリル酸エステル系ポリマー、アクリル酸エステル系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン等の他のポリマーを使用してもよい。
【0040】
・上記構成においては、溶媒としてトルエン4を使用したが、トルエンに限らず、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、酢酸エステル系溶剤、エーテル系溶剤等の他の溶媒を使用してもよい。
【0041】
・上記構成においては、自己組織化単分子膜をシランカップリング剤により形成したが、シランカップリング剤に限らず、メルカプト基やリン酸基等の他のものを使用してもよい。
【0042】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(a)請求項2に記載の金属調塗膜において、前記金属顔料は、金属微粒子であることを特徴とする金属調塗膜。
【0043】
同構成によれば、金属微粒子とポリマーを混合した塗料を塗布、乾燥して塗膜を形成している従来の金属調塗膜に比べ、金属微粒子の表面上に化学結合により導入した表面グラフトポリマーからなる複合体材料によって高輝度な金属光沢、溶媒への高分散性、金属調塗膜の高い剥離強度を実現できる。
【0044】
(b)請求項3に記載の金属調塗料及び金属調インキの製造方法において、前記金属顔料は、金属微粒子であることを特徴とする金属調塗料及び金属調インキの製造方法。
同構成によれば、金属微粒子の表面上に化学結合したポリマーを導入する方法として用いた原子移動ラジカル重合は、表面グラフト重合したポリマーの表面密度を高くでき、金属微粒子の表面をポリマーで覆うことができる。金属微粒子とポリマーを混合した塗料及びインキを塗布、乾燥して塗膜を形成している従来の金属調塗膜に比べ、金属微粒子の表面上に化学結合により導入した表面グラフトポリマーからなる複合体材料によって高輝度な金属光沢、溶媒への高分散性、金属調塗膜の高い剥離強度を実現できる。
【0045】
(c)請求項4に記載の金属調塗膜の製造方法において、前記金属顔料は、金属微粒子であることを特徴とする金属調塗膜の製造方法。
同構成によれば、複合体材料を溶媒へ分散させた金属調塗料は均一分散性が高く、金属調塗膜を形成する上において好都合である。また、形成された金属調塗膜はそれぞれの金属微粒子がポリマーシェルで覆われているため、金属微粒子同士の凝集はできなくなり、金属調塗膜内に金属微粒子を均一に分散することができる。その結果、金属光沢は従来の金属調塗膜と同程度であり、剥離強度の向上が図れる。
【符号の説明】
【0046】
1…アルミニウム微粒子、2…ポリメタクリル酸メチル、3…複合体材料、4…トルエン(溶媒)、5…金属調塗料、6…金属調塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーが導入され、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料と、
前記複合体材料が分散混合される溶媒とを備えた
ことを特徴とする金属調塗料及び金属調インキ。
【請求項2】
請求項1に記載の金属調塗料及び金属調インキを塗布して溶媒を乾燥させた
ことを特徴とする金属調塗膜。
【請求項3】
重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーを導入し、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料を生成し、
前記複合体材料を溶媒に溶かして分散混合する
ことを特徴とする金属調塗料及び金属調インキの製造方法。
【請求項4】
重合開始剤が修飾された金属顔料に原子移動ラジカル重合により表面グラフト重合を行い、金属顔料表面にポリマーを導入し、同金属顔料をコアとして同ポリマーのシェルで覆うコアシェル構造の複合体材料を生成し、
前記複合体材料を溶媒に溶かして分散混合し、
前記複合体材料が分散混合された金属調塗料及び金属調インキを塗布して乾燥させる
ことを特徴とする金属調塗膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属調塗料及び金属調インキにおいて、
前記金属顔料は、金属微粒子である
ことを特徴とする金属調塗料及び金属調インキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−254934(P2010−254934A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110140(P2009−110140)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】