説明

金属酸化物ゾル組成物、これを用いた硬質塗膜の製造方法、及び組成物の製造方法

【課題】基材に対する塗布性が優れ、得られた膜の特性が金属酸化物の特性を損なうことがない組成物、これを用いた硬質塗膜の製造方法、及び組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して成る組成物であって、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7以下である場合は、(A)を充足する界面活性剤を配合し、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7を超える場合は、(B)を充足する界面活性剤を配合することを特徴とする組成物。(A)pH2±0.3とした塩酸水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。(B)pH12±0.3としたアンモニア水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物が広範な、金属酸化物ゾル組成物、これを用いた硬質塗膜の製造方法、及び組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材表面に機能性の薄膜を形成することにより、付加価値の高い材料を製造する方法がさまざま考案されてきた。これらの薄膜の機能としては、例えば、撥水性、光触媒機能、高誘電性が挙げられ、撥水性を奏する薄膜としては、ハフニア(酸化ハフニウム)膜、ジルコニア(酸化ジルコニウム)膜またはイットリア(酸化イットリウム)膜等が挙げられ、光触媒機能を奏する薄膜としては、チタニア(酸化チタン)膜またはニオビア(酸化ニオブ)膜等が挙げられ、高誘電性を奏する薄膜としては、ニオビア膜またはタンタラ(酸化タンタル)膜が挙げられる。
【0003】
薄膜の形成方法としては、メッキ法、真空蒸着法、スパッタ法、UV硬化樹脂の塗布およびゾルゲル法などが挙げられる。このうち、ゾルゲル法は、低温における無機あるいは無機有機ハイブリッドの薄膜形成が可能であり、製造設備においても大規模な装置が必要ないため初期投資が抑えられる点でも有効であり、様々な研究がなされてきた。(特許文献1〜3)ゾルゲル法の原料となる金属酸化物ゾル溶液は、金属の有機および無機化合物の溶液から出発し、加水分解・重合された金属酸化物または水酸化物の微粒子を溶解した状態となり、組成としては水のみまたは水アルコール混合溶液中に触媒となる酸またはアルカリを加えている。
【0004】
金属酸化物ゾル溶液は上記組成になっているため、溶液の特徴として水の表面エネルギーの大きさの影響を受けていることが多く、金属、プラスチック、セラミックス、金属酸化物などの基材に対する塗布性に劣り、また、形成される塗膜が不均一となる(塗膜ムラを生じる)という問題があった。すなわち、従来の金属酸化物ゾル溶液は一般に、有機溶剤を多く含まない場合は、被塗物に塗るとはじきを生じ、或いは硬化処理を加える段階ではじきを生じて、均一な硬質塗膜を得ることができない。また、ゾル溶液は製法、用途に応じて、濃度、比重、ゾル安定性が異なり、これらに対する適切な個々のゾルに対して、試行錯誤的な対応をするしか解決する方法がなかった。
【0005】
特に、水を溶媒として調製された金属酸化物ゾルにおいては、その傾向が著しく、基材表面ではじいてしまい、塗布することができないという重大な問題があった。塗布液は、環境上の配慮から、有機溶媒に代えて水を溶媒として用いることが要求されていて、環境を配慮した機能性材料の製造という観点からも、解決されなければならない問題である。
【0006】
これを解決しようとする例として「ジルコニアゾル、シランカップリング剤および樹脂を含有する水系塗装下地用処理剤」が開示されている。この処理剤は、ジルコニアゾルが10〜40質量%、シランカップリング剤が10〜60質量%、樹脂が20〜70質量%と、ジルコニアゾルの使用割合が小さいものである。(特許文献4)
さらに、シランカップリング剤で基板表面を処理したのちに、金属酸化物ゾルを塗布する方法(特許文献5)や金属基板を脱脂処理又は電解処理する方法(特許文献6)や塗布環境を相対湿度50%以上にする方法(特許文献7)など、基板や金属酸化物ゾルの塗布環境に工夫を凝らすものが報告されている。
【0007】
また、金属酸化物ゲルそのものの改良としては、タンニン/ウルシオール/紫外線硬化樹脂を加える方法(特許文献7)やシランカップリング剤や光硬化有機物を含有させる方法(特許文献8)がある。いずれも、基材との付着性を向上させる為の工夫であり、主に基材と金属酸化物ゲルの界面での効果を期待したものである。
【0008】
さらに、基材へのプライマー処理とアクリル酸/アクリレートを金属酸化物ゾル液に加える方法も報告されている(特許文献9)。
【特許文献1】特開2005−78991号公報
【特許文献2】特開2005−104026号公報
【特許文献3】特開2004−300301号公報
【特許文献4】特開2001−81392号公報
【特許文献5】特開2004−91853号公報
【特許文献6】特開2004−267822号公報
【特許文献7】特開2005−54116号公報
【特許文献8】特開2005−52774号公報
【特許文献9】特開2005−194313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの方法のうち、基板への前処理が必要なものは工業的にはコストの増加が否めないものである。また、金属酸化物ゾル溶液へ有機物を添加する方法は、金属酸化物を硬化させると金属酸化物の特性の一部が低下する可能性があり、それを避ける為には金属酸化物の特性を損なわない樹脂を選択する必要がある。しかし、金属酸化物ゾル溶液は強酸性あるいは強塩基性であり、さらに水溶媒との高い相溶性も求められるため、現実的ではないものである。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、基材に対する塗布性が優れ、得られた膜の特性が金属酸化物の特性を損なうことがない組成物、これを用いた硬質塗膜の製造方法、及び組成物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)請求項1の発明は、
金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して成る組成物であって、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7以下である場合は、(A)を充足する界面活性剤を配合し、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7を超える場合は、(B)を充足する界面活性剤を配合することを特徴とする組成物を要旨とする。
【0012】
(A)pH2±0.3とした塩酸水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
(BpH12±0.3としたアンモニア水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
【0013】
本発明の組成物は、(A)または(B)を充足する界面活性剤を含むことで、塗布性が優れており、例えば、プラスチック表面にも均一に塗ることができる。また、本発明の組成物は、塗布性が優れているので、有機物を添加しなくてもよく、塗膜を形成したとき、金属酸化物の特性を損なわない。例えば、強誘電体等の性質を溶剤の放散なく作成できるため、用途展開の可能性が広がる。さらに、本発明の組成物を用いて形成した塗膜は硬度が高い。
【0014】
前記金属酸化物ゾルは、例えば、特公平6−26238号公報、特開2005−126274号公報に示されるように、金属アルコキシドを加水分解することにより得ることができる。また、金属酸化物ゾルは、金属錯体あるいは金属塩を加水分解することによっても得ることができる。あるいは、金属酸化物ゾルは、特開2000−247642号公報記載のように、水酸化物を強酸で溶解することにより得ることができる。また、一部の金属酸化物ゾルは市販されており、それらを使うこともできる。金属酸化物ゾルは、安定なゾルとするため、酸或いは塩基で処理することができる。
【0015】
前記金属酸化物ゾルとしては、例えば、酸化ハフニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化チタンゾル、酸化イットリウムゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化銅ゾル、酸化ゲルマニウムゾル、酸化タングステンゾル等が挙げられる。前記金属酸化物ゾルにおいて金属酸化物の重量比は1〜20重量%の範囲が好適である。
【0016】
なお、前記界面活性剤が、その種類により、表面エネルギーを上げ、下げすることは知られており、表面エネルギーを下げた方が一般に塗液ははじきがなく塗ることができる。しかし、酸性・アルカリ性、特に極端な酸性・アルカリ性の場合の表面エネルギーの挙動は不明確であり、また 本発明を構成要素である金属酸化物ゾルの場合は、ゾルの濃度、製造時の使用原料に千差万別であり、仮に、特定の金属酸化物ゾルに対し、表面エネルギーを下げる界面活性剤を見つけたとしても、その金属酸化物ゾルにしか適応できないものであった。本発明は種々、界面活性剤の濃度、pHを設定し、鋭意検討した結果、金属酸化物ゾル溶液のpHに応じて、(A)又は(B)を充足する界面活性剤を添加することにより、塗布性が優れた組成物となり、塗布、硬化後に得られた硬質塗膜が本来の特性を奏する。
【0017】
(A)、(B)において、界面活性剤の濃度が5重量%を超えた状態で表面エネルギーを測定すると、全体として低い値となり、界面活性剤として適正なものを選ぶことができず、5重量%よりも低濃度では、本来使用することができる界面活性剤の場合でも、表面エネルギーが規定外となってしまう。また 、(A)、(B)におけるpH値の設定についても、設定値より上或いは下とすると、本来使用することができる界面活性剤も、表面エネルギーが規定外となってしまう。また、pHを2と12の中間の値とすると、界面活性剤を使うための条件にはなり得ないものであった。表面エネルギーの閾値は25mN/mとしてもよい。
【0018】
前記(A)におけるpHは2.0が好ましく、前記(B)におけるpHは12.0が好ましい。
前記界面活性剤としては、シリコン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、多価アルコール系化合物、アクリル系化合物、両性界面活性剤などがある。また、酸性水溶液を用いる場合には陽イオン界面活性剤が、アルカリ性水溶液を用いる場合には陰イオン界面活性剤を用いることもできる。
【0019】
シリコン系化合物としては、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリアルキル変性ポリジメチルシロキサン、あるいは複数の鎖状化合物により変性されたポリジメチルシロキサン、ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体などが挙げられる。
【0020】
ポリエチレングリコール系化合物としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエーテルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0021】
多価アルコール系化合物としては、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0022】
アクリル系化合物としては、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物、その他共重合物のアルキル変性物、ポリエステル変性物、ポリエーテル変性物などが挙げられる。
両性界面活性剤としては、β−N−アルキルアミノプロピオン酸、N−アルキル−β−イミノジプロピオン酸、イミダゾリンカルボン酸、N−アルキルベタインなどが挙げられる。
【0023】
陽イオン界面活性剤としては、長鎖ポリアミン類およびその塩、長鎖第4級アンモニウム塩、酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシプロピレン長鎖ポリアミン、酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシプロピレン長鎖第4級アンモニウム塩、アミンオキシドなどが挙げられる。
【0024】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸塩、ヤシ油脂肪酸のナトリウム・カリウム塩、トール油脂肪酸のナトリウム・カリウム塩、アミン塩などが挙げられる。
本発明の組成物における界面活性剤の配合量は、例えば、金属酸化物ゾル100重量部に対する界面活性剤添加の量が0.01〜10重量部、望ましくは0.05〜5重量部となる量が好適である。0.01重量部以上とすることにより、十分なレベリング性が得られ、10重量部以下とすることにより、界面活性剤が薄膜表面に集まって薄膜表面を覆ってしまい、金属酸化物の性能が十分に発現しなくなるようなことを防止できる。
【0025】
前記表面エネルギーの測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面化学株式会社)を用いて行う。蒸留水によって校正を行った装置を用いて、シャーレへ上記酸またはアルカリに界面活性剤を添加した水溶液を規定量注ぎ、白金の羽根を垂直に降ろして液面に触れさせ、上げたときの力によって表面エネルギーを測定する。
(2)請求項2の発明は、
請求項1記載の組成物を塗布、硬化処理することを特徴とする硬質塗膜の製造方法を要旨とする。
【0026】
本発明によれば、基材に対する金属酸化物ゾルの塗布性が良好であり、均質で、金属酸化物ゾルの持つ特性を損なうことのない硬質塗膜を形成することができる。
前記組成物を塗布する対象である基材(被塗物)に制限はなく、様々の素材を採用することができる。例えば、ポリカーボネート(PC)およびポリエチレンテレフタレートをはじめとするプラスチックスから形成された基材、普通鋼、構造用低合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル−クロム系耐熱鋼をはじめとする合金鋼およびステンレス鋼等の鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系の合金、Al−Mg系アルミニウム合金および6000系アルミニウム合金をはじめとするアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅およびジルコニウム銅をはじめとする各種銅合金、純チタン、抗力チタン合金および耐食性チタン合金をはじめとするチタン合金などの金属材料から形成された基材、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器およびステアタイト磁器などのセラミックス材料から形成された基材ならびに上記金属系材料から形成された基材の表面を琺瑯、グラスライニングおよびセラミックスコーティングのいずれかによって被覆した被覆金属基材などを挙げることができる。本発明は特に、従来は塗膜形成が困難とされていたポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレートなどプラスチックス表面を有する基材に良好な塗膜を形成することができる。
【0027】
基材の表面に組成物を塗布する方法としては、例えば、組成物中に基材を浸漬し、これをゆっくりと引き上げるディップ法、固定された基材表面上に組成物を流延する流延法、組成物の貯留された槽の一端から組成物に基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上に組成物を滴下し、基材に作用する遠心力によって組成物を基材上に流延するスピンナー法、基材の表面に組成物を吹き付けるスプレー法およびフローコート法、基材上に組成物を滴下しワイヤーの巻かれた金属棒で組成物を塗るバーコーター法、基材上に組成物を滴下し任意の深さで窪みをつけた金属型で組成物を塗るアプリケーター法を挙げることができる。
【0028】
塗布された組成物(特にゾル)を硬化させる方法としては、例えば、紫外線照射による硬化処理であってもよく、加熱による硬化処理であってもよい。紫外線照射による硬化処理に際して、照射する紫外線の光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザーなどを使用することができる。これらを使用することにより、紫外線を簡便に照射することができる。照射時間は、1分〜1時間ときわめて短時間で十分である。また、照射する紫外線の強度は任意であるが、例えば、プラスチックス基材が黄変したり、変質、変形することがない範囲が好ましい。また、紫外線照射による硬化する場合は、通常乾燥工程を省略するが、事前に水等の溶媒を除去することもある。
【0029】
基材表面に塗布された組成物(特に金属酸化物ゾル)を加熱処理によって硬化させる場合、その加熱処理条件は、通常は、50〜1000℃、好ましくは、50〜600℃、1分〜2時間、好ましくは、10分〜1時間であるが、50〜400℃という温和な温度条件下で硬化することもできる。(プラスチック素材の場合、その耐熱温度を超さない範囲で行う。)したがって、組成物を加熱処理によって硬化させる場合においても、プラスチックス基材が黄変したり、変質、変形することがなく、特別に耐熱性の基材を選択しなければならないという問題は回避される。加熱手段に制限はなく、電気炉を用いる手段、熱風を吹き付ける手段、加熱気体内に据置する手段などが採用される。得られる硬質塗膜の厚さは、基材の種類、適用対象物に応じて適宜、決定することができるが、通常、10〜1000nmの範囲から選ばれる。
【0030】
(3)請求項3の発明は、
金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して組成物を製造する方法であって、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7以下である場合は、前記金属酸化物ゾル溶液と、(A)を充足する界面活性剤とを混合し、前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7を超える場合は、前記金属酸化物ゾル溶液と、(B)を充足する界面活性剤とを混合することを特徴とする組成物の製造方法を要旨とする。
【0031】
(A)pH2±0.3とした塩酸水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
(B)pH12±0.3としたアンモニア水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。なお、以下の説明において、pHはpHメーターModel392R(アズワン(株)製)で測定した値である。
【実施例】
【0033】
(a)界面活性剤の特性評価
(a−1)塩酸水溶液の調製
純水に塩酸を加えて、pH2.0(23℃)となる塩酸水溶液を調製した。
【0034】
(a−2)アンモニア水溶液の調製
純水にアンモニアを加えて、pH12(23℃)となるアンモニア水溶液を調製した。
(a−3)表面エネルギー測定
4種類の界面活性剤、すなわち、
界面活性剤1:SN−SHICKENER625N(サンノプコ(株)製、ポリエーテル系、固形分15重量%)
界面活性剤2:BYK−310(ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、固形分25重量%)
界面活性剤3:BYK−333(ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、固形分97重量%)、
界面活性剤4:KL−280(共栄社化学(株)製、固形分100重量%)
のそれぞれについて、上記(a−1)で調製した塩酸水溶液100重量部に対し、固形分換算で5.0重量部添加し、表面エネルギーの測定を行った。また、それぞれの界面活性剤について、上記(a−2)で調製したアンモニア水溶液100重量部に対し、固形分換算で5.0重量部添加し、表面エネルギーの測定を行った。
結果は、表1の通りである。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すとおり、界面活性剤3、4は条件(A)を充足し、界面活性剤1、3は条件(B)を充足した。
(b)金属酸化物ゾル水溶液の製造
(b−1)ハフニアゾルの製造
四塩化ハフニウム5.44gを窒素雰囲気下、水32g(1.787モル)に溶解した。この溶液に、29%アンモニア水をpH9.0になるまで添加し、沈澱物(水酸化ハフニウム)を得た。この沈澱物を濾別し、純水により濾液がpH7になるまで洗浄した。洗浄した沈澱物をビーカーに採り、純水32g及びシュウ酸二水和物3gを添加した。80℃で1時間加熱攪拌した。室温まで冷却してハフニアゾルを調製した。このハフニアゾルのpHは1.5であった。
(b−2)ジルコニアゾルの調製
酸化塩化ジルコニウム八水和物 5.48gを水 32g中に溶解した。この溶液に29%アンモニア水pH9.0になるまで(約5ml)添加し、沈殿物(水酸化ジルコニウム)をろ別し、純水でろ液がpH7になるまで洗浄した。洗浄済みの沈殿物をビーカーに移し純水32gを加え、蟻酸をpH1.0になるまで(約22ml)添加した。この溶液を80〜90℃で3時間加熱攪拌した。室温まで冷却後ジルコニアゾルを得た。
(b−3)酸化亜鉛ゾルの調製
焼成亜鉛6.0gを水22g中に加え、撹拌しながら35%塩酸を14g滴下して焼成亜鉛を溶解させた。そこへ飽和水酸化ナトリウム水溶液を200g加えて沈殿物をろ別し、純水でろ液がpH7になるまで洗浄した。洗浄済みの沈殿物4.5gに28%アンモニア水溶液40gを加えて2時間撹拌を行い、酸化亜鉛ゾルを得た。
【0037】
(c)金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して成る組成物の製造
上記(b)で調製した金属酸化物ゾル水溶液と、上記(a)で評価した界面活性剤とを混合して組成物を製造した。金属酸化物ゾル水溶液と界面活性剤との組み合わせは表2に示すとおりであって、酸性であるハフニアゾル及びジルコニアゾルに対しては、条件(A)を充足する界面活性剤3、4を添加した。また、アルカリ性である酸化亜鉛ゾルに対しては、条件(B)を充足する界面活性剤1、3を添加した。なお、ハフニアゾルの場合は、同量の水で希釈してから界面活性剤を加えた。
【0038】
【表2】

【0039】
(d)組成物の塗布性の評価
上記(c)で調製した組成物を基板(ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製 A4300 100μm)、ポリカーボネート板、ガラス板)に、23℃30〜40%RH環境下、ウェット膜厚10μmでバーコート法により塗布した。
【0040】
塗布後、110℃3分の条件で乾燥し、その後、紫外線照射装置(株式会社コートテック製 ハンディUVライトCT−W1000−1、主波長365nm(有効波長300〜450nm)メタルハライドランプ)を用いて積算光量約200mJ/cm2紫外線照射し、塗膜を硬化させた。
【0041】
基板上に組成物を塗布した直後、常温で10分静置後、乾燥工程(110℃3分)後、およびUV硬化後のそれぞれの段階で、ハジキの有無を目視観察し、組成物の塗布性を、評価した。
そのときの塗布性を上記表2に示す。なお、塗布性の評価基準は次のとおりである。
【0042】
○:全体の95%以上の部分ではじきが見られず、均一な膜が得られる
△:一部(全体の5%以上50%以下の面積)ではじきがみられたが、それ以外の場所では均一な膜が得られる
×:全体の50%以上の面積ではじきがみられる
(e)塗膜硬度の評価
硬度試験では、0000番のスチールウールを用い、硬質塗膜上で200gの荷重をかけて5往復させた。このスチールウール試験により硬質塗膜に傷が生じるがそれを目視により、以下の5段階に分けて評価した。
【0043】
5:0〜5本の浅い傷が観察される
4:5〜10本の浅い傷が観察される
3:10〜15本の浅い傷が観察されるものの実用的には問題がない
2:15本以上の傷が目視ではっきりと見える
1:多くの傷がつく
評価結果を上記表2に示す。表2に示すとおり、塗布性、硬度ともに優れていた。
(比較例)
前記実施例の(b)で調製した金属酸化物ゾル水溶液単独で(界面活性剤を添加せずに)、前記実施例と同様に基材に塗布し、塗布性、硬度を評価した。その結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
その結果は、上記表3に示すとおり、塗布性、硬度ともに劣っていた。
また、前記実施例の(b)で調製した金属酸化物ゾル水溶液と、前記実施例の(a)で評価した界面活性剤とを混合して組成物を製造した。ただし、金属酸化物ゾル水溶液と界面活性剤との組み合わせは表3に示すとおりであって、酸性であるハフニアゾル及びジルコニアゾルに対しては、条件(A)を充足しない界面活性剤1、2を添加した。また、アルカリ性である酸化亜鉛ゾルに対しては、条件(B)を充足しない界面活性剤2、4を添加した。前記実施例と同様にして、塗布性及び硬度を評価したところ、その結果は、上記表3に示すとおり、塗布性、硬度ともに劣っていた。
【0046】
なお、表2、3の評価の欄において、「−」は、基板への塗布ができないため測定不能であることを表し、PETはポリエチレンテレフタレートを表し、PCはポリカーボネートを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して成る組成物であって、
前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7以下である場合は、(A)を充足する界面活性剤を配合し、
前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7を超える場合は、(B)を充足する界面活性剤を配合することを特徴とする組成物。
(A)pH2±0.3とした塩酸水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
(B)pH12±0.3としたアンモニア水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
【請求項2】
請求項1記載の組成物を塗布、硬化処理することを特徴とする硬質塗膜の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物ゾル溶液と界面活性剤とを混合して組成物を製造する方法であって、
前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7以下である場合は、前記金属酸化物ゾル溶液と、(A)を充足する界面活性剤とを混合し、
前記金属酸化物ゾル溶液のpHが7を超える場合は、前記金属酸化物ゾル溶液と、(B)を充足する界面活性剤とを混合することを特徴とする組成物の製造方法。
(A)pH2±0.3とした塩酸水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。
(B)pH12±0.3としたアンモニア水溶液に、界面活性剤を固形分換算で5重量%を添加したとき、この水溶液の表面エネルギーが50mN/m以下である。

【公開番号】特開2008−50532(P2008−50532A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231046(P2006−231046)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】