説明

金属酸化物構造体及びその製造方法

【課題】従来にない平均短径が細いロッド状又はチューブ状の棒状結晶を基板上に立設してなり、表面積を大きくすることができるので、高感度のセンサーとして有用な金属酸化物構造体、及び該金属酸化物構造体を効率よく、低コストで製造することができる金属酸化物構造体の製造方法の提供。
【解決手段】基板と、該基板上に種晶を介して棒状結晶が立設してなり、前記種晶が第1の金属酸化物からなり、前記棒状結晶が第2の金属酸化物からなり、該棒状結晶の平均短径が50nm以下であることを特徴とする金属酸化物構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度なセンサー等に好適に用いられる金属酸化物構造体及び金属酸化物構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上にウィスカー状乃至針状の金属酸化物結晶を立設した構造体について種々の提案がなされている。
例えば特許文献1には、一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面を有する基板を金属酸化物が析出可能な反応溶液中に浸漬させて該金属含有材料を含む結晶面に金属酸化物結晶を析出させる方法が提案されている。この提案によれば、針状及び棒状のいずれかの形状を有する金属酸化物構造体を効率よく製造することができる。
しかし、前記特許文献1では、種晶粒子、即ち結晶成長のスタートとなる核が存在しないため、平均短径が50nm以下である細径の棒状結晶は得られない。また、前記特許文献1では、基板が単結晶に限られるため、規則的に孔を開けた多孔質基板などを用いることができず、用いる基板の適用範囲が狭いという問題がある。
【0003】
また、非特許文献1には、一酸化炭素センサー用の高比表面積材料を基材上にウエットの2ステップで作製する方法が開示されている。この文献では、ZnOからなる下地層を有するものの、この下地層はRFスパッタリングで形成した層であるため多結晶であり、平均短径が50nm以下である細径の棒状結晶は得られない。更に、下地層をRFスパッタリングで成膜するため、基板が高温に曝されるので耐熱性の低い基板を用いることができない。前記非特許文献1の方法では、ZnOナノロッドを結晶成長させた後に、別の溶液を準備してナノチューブを作製している。つまり「2ポット」方式である。これは結晶成長のときに用いているHMT(ヘキサメチレンテトラミン)を用いた系では、加熱によりアンモニアを発生させ、pHを上昇させて結晶成長を引き起こしている。アンモニア(弱アルカリ)で実現できるpHはせいぜい12程度である。このpHはHMTの分解が進行する限り徐々に増加していき、反応が収束すればpHは動かなくなり一定値となる。よって、前記非特許文献1では、エッチング時のpHを一定(エッチング条件を一定)にするためには、新たに一定のpHを示す溶液を準備することが必要となる。
【0004】
また、非特許文献2は、ZnOからなる下地層を有するものの、単分散な種晶微粒子からなる層を用いていないので、平均短径が50nm以下の細径の棒状結晶を得ることはできず、種晶微粒子の平均短径の分布も広いものである。前記非特許文献2では、下地層を形成した後、該下地層に結晶性を付与するため、高温(500℃)で焼成しており、耐熱性の低い基板を用いることができないという課題がある。
【0005】
したがって従来にない平均短径が細いロッド状乃至チューブ状の棒状結晶を基板上に立設でき、表面積を大きくすることができる金属酸化物構造体、及び該金属酸化物構造体を効率よく製造する方法は未だ提供されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2006−96591号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.A88,611−615(2007)
【非特許文献2】J.Mater.Chem.12,3773−3778(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、従来にない平均短径が細いロッド状又はチューブ状の棒状結晶を基板上に立設してなり、表面積を大きくすることができるので、高感度のセンサーとして有用な金属酸化物構造体を提供することができる。
また、本発明は、プラスチック基板等の熱に弱い基板でも用いることができ、ウェットプロセスにより金属酸化物構造体を効率よく、低コストで製造することができる金属酸化物構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者が鋭意検討を重ねた結果、従来の核生成してから結晶の成長を行う棒状結晶の製造方法ではなく、核生成を行わず基板上の種晶を核として結晶の成長を行うことにより、平均短径が細いロッド状又はチューブ状の棒状結晶が製造できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 基板と、該基板上に種晶を介して棒状結晶が立設してなり、
前記種晶が第1の金属酸化物からなり、
前記棒状結晶が第2の金属酸化物からなり、該棒状結晶の平均短径が50nm以下であることを特徴とする金属酸化物構造体である。
<2> 第1の金属酸化物と、第2の金属酸化物とが同種である前記<1>に記載の金属酸化物構造体である。
<3> 第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物が、いずれも酸化亜鉛(ZnO)である前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属酸化物構造体である。
<4> 種晶の平均粒子径が、40nm以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属酸化物構造体である。
<5> 棒状結晶が、ロッド状及びチューブ状のいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の金属酸化物構造体である。
<6> 基板が、多孔質基板である前記<1>から<5>のいずれかに記載の金属酸化物構造体である。
<7> 多孔質基板が、繊維状ポリマーからなる前記<6>に記載の金属酸化物構造体である。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の金属酸化物構造体を有し、棒状結晶部分がセンシング部となることを特徴とするセンサーである。
<9> 基板上に第1の金属酸化物からなる微粒子を含む種晶分散液を塗布する種晶形成工程と、
前記種晶が形成された基板を、第2の金属イオンと、NHイオンとを含む反応溶液に浸漬させて第2の金属酸化物からなる棒状結晶を成長させる成長工程と、を少なくとも含むことを特徴とする金属酸化物構造体の製造方法である。
<10> 第2の金属イオンにおける金属が、第1の金属酸化物における金属と同種である前記<9>に記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<11> 金属がZnである前記<10>に記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<12> 種晶の平均粒子径が、40nm以下である前記<9>から<11>のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<13> 成長工程後に、棒状結晶の先端面から基板に向かって穴を形成する穴あけ工程を含む前記<9>から<12>のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<14> 穴あけ工程が、40℃〜90℃の温度で行われる前記<13>に記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<15> 基板が、多孔質基板である前記<9>から<14>のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<16> 多孔質基板が繊維状ポリマーからなる前記<15>に記載の金属酸化物構造体の製造方法である。
<17> 前記<9>から<16>のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法により製造されたことを特徴とする金属酸化物構造体である。
<18> 前記<17>に記載の金属酸化物構造体を有し、棒状結晶部分がセンシング部となることを特徴とするセンサーである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、従来にない平均短径が細いロッド状又はチューブ状の棒状結晶を基板上に立設してなり、表面積を大きくすることができるので、高感度のセンサーとして有用な金属酸化物構造体、及び該金属酸化物構造体を効率よく、低コストで製造することができる金属酸化物構造体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(金属酸化物構造体)
本発明の金属酸化物構造体は、基板と、該基板上に種晶を介して棒状結晶が立設してなり、更に必要に応じてその他の構成を有してなる。
【0012】
−基板−
前記基板としては、その形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記形状としては、例えば平板状、などが挙げられ、前記構造としては、例えば単層構造であってもいし、積層構造であってもよく適宜選択することができる。
前記基板の材料としては、特に制限はなく、無機材料及び有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。
前記無機材料としては、例えば、アルミニウム、ガラス、石英、シリコン、シリコン表面に酸化膜を形成してなるSiO/Si、などが挙げられる。
前記有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
前記基板としては、多孔質基板であることが好ましい。このような多孔質基板を用いると、例えばガスセンサーの用途に適用する場合には、ガスの流れる方向と、棒状結晶の立設方向を平行に近い状態にすることができるので、より高感度なガスセンサーが得られる。
前記多孔質基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば無機素材又は有機素材が用いられる。前記無機素材としては、例えばアルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物の多孔質体などが挙げられる。前記有機素材としては、例えば繊維状ポリマーからなることが好ましい。前記繊維状ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば綿繊維(セルロース繊維)、毛繊維(羊毛、獣毛)のような天然繊維の他、ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタン等の合成繊維などが挙げられる。
【0014】
−種晶−
前記種晶は第1の金属酸化物からなる。
前記第1の金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば酸化亜鉛(ZnO)、MgO、Al、In、SiO、SnO、TiO、チタン酸バリウム、SrTiO、PZT、YBCO(YBaCu7−x)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、YAG(YAl12又は3Y・5Al)、ITO(In/SnO)、などが挙げられる。これらの中でも、既に多くの分野で活用され多種多様なサイズや形態のものがあったり(市販品をそのままでも活用できる)、安全上の問題として人体に与える影響もないという点から酸化亜鉛(ZnO)が特に好ましい。
【0015】
前記種晶の平均粒子径は、40nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。前記平均粒子径が、40nmを超えると、その後成長反応を終えたときに最終的に得られるロッドが太くなり、最終的な金属酸化物層の表面積が低下し、センサーとして用いる場合の感度が低下してしまうことがある。
ここで、前記種晶の平均粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察したあとに、その径を計測することにより測定することができる。
前記種晶を基板表面に形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば種晶粒子を溶媒中に分散させてなる種晶分散液を基板表面に塗布する方法、などが挙げられる。なお、種晶の形成方法については、金属酸化物構造体の製造方法において説明する。
【0016】
−棒状結晶−
前記棒状結晶は、基板上に種晶を介して立設しており、該棒状結晶が基板面に対し略直交する方向に立設されていることが好ましい。
【0017】
ここで、前記棒状結晶が、基板上に種晶を介して立設していること、即ち、基板と棒状結晶との間に種晶が存在していることは、例えば基板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認することができる。
【0018】
前記棒状結晶は、第2の金属酸化物からなる。
前記第2の金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば酸化亜鉛(ZnO)、MgO、Al、In、SiO、SnO、TiO、チタン酸バリウム、SrTiO、PZT、YBCO(YBaCu7−x)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、YAG(YAl12又は3Y・5Al)、ITO(In/SnO)、などが挙げられる。これらの中でも、高表面積の金属酸化物を得られる、あるいは安全上の問題として人体に与える影響もないという点から酸化亜鉛(ZnO)が特に好ましい。
【0019】
前記第1の金属酸化物と前記第2の金属酸化物とが同種であることが、結晶成長しやすくなるばかりでなく、転位やクラックなどの欠陥が少なくなるという点で好ましく、前記第1の金属酸化物と前記第2の金属酸化物とが、いずれも、酸化亜鉛(ZnO)であることが特に好ましい。
【0020】
前記棒状結晶は、平均短径が50nm以下であり、5nm〜40nmが好ましい。
前記平均短径が50nmを超えると、成長反応を終えたときに最終的に得られるロッドが太くなり、最終的な金属酸化物層の表面積が低下し、センサーとして用いる場合の感度が低下してしまうことがある。
ここで、前記平均短径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、得られた画像からノギス等で計測したり、画像解析装置などを用いて測定することができる。観察においては、基板をつけたまま観察してもよいし、基板から剥離させた状態で観察してもよい。
【0021】
前記棒状結晶の長さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜調整することができ、例えば1μm〜10μmが好ましく、1μm〜5μmがより好ましい。
前記棒状結晶は、ロッド状及びチューブ状のいずれかであることが好ましい。前記棒状結晶がチューブ状であると、ロッド状に比べて表面積を更に大きくすることができるので、ガスセンサーとしての感度を更に高くすることができる。
前記チューブ状とは、棒状結晶の先端面から基板に向かって穴が形成されている状態を意味し、穴が形成されていない状態がロッド状である。
前記穴の大きさ(内径)は、棒状結晶の平均短径などに応じて異なり一概には規定できないが、2nm〜20nmが好ましい。また、穴の長さは、棒状結晶の長さに応じて異なり一概には規定できないが、1μm〜10μmが好ましい。
前記穴の内径及び長さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた像を解析することにより測定することができる。
【0022】
前記基板に棒状結晶を析出(成長)させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば前記基板を棒状結晶が析出可能な反応溶液中に浸漬させて棒状結晶を析出させる水溶液中での結晶成長法が、高価な設備を必要とせず、低コスト、低温プロセスである点で好ましい。なお、棒状結晶の成長方法については、金属酸化物構造体の製造方法において説明する。
【0023】
(金属酸化物構造体の製造方法)
本発明の金属酸化物構造体の製造方法は、種晶形成工程と、成長工程とを少なくとも含み、穴あけ工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0024】
<種晶形成工程>
前記種晶形成工程は、基板上に第1の金属酸化物からなる微粒子を含む種晶分散液を塗布する工程である。
【0025】
前記種晶分散液は、第1の金属酸化物からなる微粒子を含み、溶媒、分散剤、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記第1の金属酸化物としては、上述したものと同じである。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、などが挙げられる。
前記分散剤としては、例えば高分子分散剤、界面活性剤等の一般的な分散剤を用いることができるが、導電性を有するものがより好ましい。前記分散剤の含有量は、第1の金属酸化物からなる微粒子の質量に対して、0.1質量%〜40質量%が好ましい。
前記種晶分散液としては、適宜調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えばZnO粒子分散液(ビックケミージャパン社製、NANOBYK−3820)、ZnO粒子分散液(ビックケミージャパン社製、NANOBYK−3840)、などが挙げられる。
前記塗布方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばスピンコート法、キャスト法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法、などが挙げられる。
前記種晶分散液の塗布量は、その塗布液の固形分によって変わるが固形分の膜厚で100nm以下が好ましく、固形分の膜厚が分散液中の粒子サイズとほぼ一致すること(種晶が一層だけコートされた状態になっていうこと)が最も好ましい。
【0026】
<成長工程>
前記成長工程は、前記種晶が形成された基板を、第2の金属イオンと、NHイオンとを含む反応溶液に浸漬させて第2の金属酸化物からなる棒状結晶を成長させる工程である。
第2の金属イオンにおける金属が、第1の金属酸化物における金属と同種であることが好ましく、金属がZnであることがより好ましい。
【0027】
前記反応溶液は、棒状結晶が析出可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、金属酸化物源、錯化剤、溶媒、pH調整剤などを含有してなる。
前記金属酸化物源としては、基板に析出させる棒状結晶の種類に応じて適宜選択することができ、例えば酸化亜鉛(ZnO)を成長させる場合には、Zn又はその塩、Znの水酸化物、Znの水和物、などが挙げられる。
前記Znの塩としては、例えばZnの硫化物(例えばZnSO・7HO等)、Znの硝化物(例えばZn(NO等)、Znの塩化物(例えばZnCl等)、などが挙げられる。
【0028】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
前記錯化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、などが挙げられる。
前記反応液のpHは8.0〜11.0が好ましく、9.0〜10.0がより好ましい。該反応液のpHは、pH調整剤を用いて調整される。該pH調整剤としては、例えばNaOH、KOH、NHOHなどが挙げられる。
前記反応液の温度は、40℃〜90℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。
【0029】
−穴あけ工程−
前記穴あけ工程は、成長工程後に、棒状結晶の先端面から基板に向かって穴を形成する工程である。
前記穴あけ工程は、NH4+を含む溶液で結晶成長させた後、反応液のpHをそのまま維持するか、又はアルカリ剤を添加してpHを9.5以上にして熟成させる。その際、反応液の温度を一定にして反応させることが好ましく、温度は40℃〜90℃が好適である。これにより、ロッド状の棒状結晶に均一な内径の穴を形成することができる。
【0030】
本発明の金属酸化物構造体の製造方法は、「1ポット」で行うことができる。これは、錯形成剤(NHCl)を用いた系であるので、結晶成長させる前に合わせたpHの値が、結晶成長中も、結晶成長終了後もほとんどpH値が変化しない。このようにpH変化がほとんどない場合には、そのまま「1ポット」でロッド状乃至チューブ状の棒状結晶を効率よく作製することができる。
【0031】
−用途−
本発明の金属酸化物構造体は、基板上に棒状結晶が略垂直に配列されており、例えば絶縁体、導電体、固体電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリスタ、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スィッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー、表面修飾剤、表面保護剤、反射防止剤、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相及び液相の少なくともいずれかの相における触媒、又はその担体などに使用することができる。
これらの中でも、平均短径が50nm以下の細い棒状結晶を基板上に立設でき、表面積を大きくして、高感度化を図れることから、以下に説明するセンサーとして特に好適に用いられる。
【0032】
(センサー)
本発明のセンサーは、本発明の前記金属酸化物構造体を有し、該金属酸化物構造体における棒状結晶部分がセンシング部となる。
【0033】
前記センサーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ガスセンサーが特に好ましい。
前記ガスセンサーにおけるセンシング方法としては、電気抵抗を利用するもの、光学的センシング、重量、通りぬけたガス濃度を分析する方法、などが挙げられる。これらの中でも、電気抵抗を利用する方法が特に好ましい。
前記電気抵抗を利用する方法の測定原理は、温度条件を特定した検出雰囲気下において、金属酸化物構造体の電気抵抗の変動を測定するものである。この雰囲気内にガス検知器を設置し作動させると、ガスの分子が金属酸化物構造体表面に吸着され、電気抵抗を変化させる。一般に電気抵抗の変動幅は、検出ガスの濃度又は含有量により決定される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、「種晶の平均粒子径」、「棒状結晶の平均短径」、「棒状結晶の平均長さ」、及び「棒状結晶の穴の内径」は、以下のようにして測定した。
【0035】
<種晶の平均粒子径の測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた像から、ランダムに選択した50個の粒子について、そのサイズを計測することによって平均粒子径を算出した。粒子の形態が真球状でない場合には、その粒子の中で最も長い部分の長さを計測した。
【0036】
<棒状結晶の平均短径の測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた像から、ランダムに選択した50個の棒状結晶について、そのサイズを計測することによって平均短径を算出した。測定した部分は、その棒状結晶の中で最も太い部分の長さを計測した。
【0037】
<棒状結晶の平均長さの測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた像から、ランダムに選択した50個の棒状結晶について、そのサイズを計測することによって平均長さを算出した。測定した部分は、その棒状結晶の両端を直線で結んだときに最も長い部分の長さを計測した。
【0038】
<棒状結晶の穴の内径の測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)で基板正面を観察し、そのときに得られた画像から、穴のサイズを計測した。
【0039】
(実施例1)
−ナノロッドの作製−
種晶粒子としての平均粒子径20nmのZnO粒子分散液(ビックケミージャパン社製、NANOBYK−3820)を、SiO層付きSi(100)基板上にスピンコート法により乾燥後の膜厚が50nmになるように塗布し、種晶層を形成した(種晶形成工程)。種晶粒子のTEM写真を図1に示す
次に、金属酸化物源としてのZnSO・7HOを水中に[Zn2+]が0.02Mとなるように1時間撹拌して溶解した。この溶液中に錯化剤としてのNHClをR=[NH4+]/[Zn2+]=30となるように30分間撹拌して、[Zn2+]が0.02Mである母液を調製した。
次に、得られた母液に水及びNaOH水溶液を[Zn2+]が0.01M、pH=11.0となるように添加し、ZnO結晶成長用溶液を調製した。
次に、ZnO結晶成長用溶液中に、前記種晶層を形成した基板を入れて60℃とし、この60℃を維持しつつ24時間オーブン中で静置し、ZnO結晶を成長させた(成長工程)。その後、基板を取り出し、乾燥させた。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した結果、ZnOナノロッドが立設されていることが分かった。また、基板断面を観察することにより、種晶を介してZnOナノロッドが立設されていることも確認できた。
得られたZnOナノロッドの平均短径は38nm、平均長さは1.9μmであった。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、成長工程における反応条件を60℃にて72時間に変えた(24時間以降は穴あけ工程)以外は、実施例1と同様にして、ZnO結晶を作製した。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した結果、ZnOナノチューブが作製されていることが分かった。また、基板断面を観察することにより、種晶を介してZnOナノチューブが立設されていることも確認できた。
得られたZnOナノチューブの平均短径は34nm、平均長さは2.3μmであった。ZnOナノチューブの穴のサイズ(内径)は15nmであった。
【0041】
(実施例3)
−ナノロッドの作製−
実施例1において、SiO層付きSi(100)基板の代わりに多孔質基板(綿繊維)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ZnO結晶を作製した。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した結果、ZnOナノロッドが作製されていることが分かった。
得られたZnOナノロッドの平均短径は43nm、平均長さは1.4μmであった。
【0042】
(実施例4)
実施例2において、成長工程及び穴あけ工程における温度を50℃に変化させて72時間反応させた以外は、実施例2と同様にして、ZnO結晶を作製した。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した結果、ZnOナノチューブが作製されていることが分かった。
得られたZnOナノチューブの平均短径は29nm、平均長さは1.8μmであった。
ZnOナノチューブの穴のサイズ(内径)は11nmであったが、実施例2に比べて不均一な内径の穴が形成された。
【0043】
(比較例1)
Appl.Phys.A88,611−615(2007)に記載の方法により、SiO層付きSi(100)基板上にZnO膜をスパッタ法により設け、ZnOスパッタ膜を形成したSiO層付きSi(100)基板を用いた以外は、実施例1と同様にして、ZnO結晶を作製した。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した結果、ZnOナノロッドが作製されていることが分かった。
得られたZnOナノロッドの平均短径は85nm、平均長さは2.1μmであった。
【0044】
(比較例2)
J.Mater.Chem.12,3773−3778(2002)に記載の方法により、ガラス基板上にZnO種晶層を形成した。得られたZnO種晶層のSEM写真を図2に示す。
次に、ZnO種晶層を設けたガラス基板を用いた以外は、実施例1と同様にして、ZnO結晶を作製した。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した。このときのSEM写真を図3に示す。図3の結果から、ZnOナノロッドが作製されていることが分かった。
得られたZnOナノロッドの平均短径は97nm、平均長さは1.6μmであった。
【0045】
(比較例3)
単結晶基板としてサファイア(Al)基板を用いた。該サファイア基板のc面(0001)を一定方位への規則的な結晶配向構造を有する金属含有材料を含む結晶面として用いた。
金属酸化物源としてのZnSO・7HOを水中に[Zn2+]が0.02Mとなるように1時間撹拌して溶解した。この溶液中に錯化剤としてのNHClをR=[NH4+]/[Zn2+]=30となるように30分間撹拌して、[Zn2+]が0.02Mである母液を調製した。
次に、得られた母液に水及びNaOH水溶液を[Zn2+]が0.01M、pH=9.5となるように添加した。以上により、ZnO結晶成長用溶液を作製した。
次に、得られたZnO結晶成長用溶液中に基板を60℃にて24時間浸漬した。その後、基板を取り出し、乾燥させた。
乾燥後のZnO結晶を電解放出型走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立製作所製)により観察した。このときのSEM写真を図4A及び図4Bに示す。図4Aは平面図、図4Bは平面図を傾斜させて得た図である。図4の結果から、ZnOナノロッドが作製されていることが分かった。
得られたZnOナノロッドの平均短径は742nm、平均長さは2.3μmであった。
【0046】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜3の製造条件、及び測定結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の金属酸化物構造体は、平均短径が50nm以下の細い棒状結晶を基板上に配置でき、表面積を大きくすることができるので、例えば絶縁体、導電体、固体電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリスタ、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スィッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー、表面修飾剤、表面保護剤、反射防止剤、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相及び液相の少なくともいずれかの相における触媒、又はその担体などに使用することができ、特にガスセンサーの用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実施例1で用いた種晶粒子のTEM写真である。
【図2】図2は、比較例2のZnO種晶層のSEM写真である。
【図3】図3は、比較例2で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図4A】図4Aは、比較例3で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。
【図4B】図4Bは、比較例3で製造した酸化亜鉛(ZnO)結晶のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に種晶を介して棒状結晶が立設してなり、
前記種晶が第1の金属酸化物からなり、
前記棒状結晶が第2の金属酸化物からなり、該棒状結晶の平均短径が50nm以下であることを特徴とする金属酸化物構造体。
【請求項2】
第1の金属酸化物と、第2の金属酸化物とが同種である請求項1に記載の金属酸化物構造体。
【請求項3】
第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物が、いずれも酸化亜鉛(ZnO)である請求項1から2のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
【請求項4】
種晶の平均粒子径が、40nm以下である請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
【請求項5】
棒状結晶が、ロッド状及びチューブ状のいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
【請求項6】
基板が、多孔質基板である請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
【請求項7】
多孔質基板が、繊維状ポリマーからなる請求項6に記載の金属酸化物構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の金属酸化物構造体を有し、棒状結晶部分がセンシング部となることを特徴とするセンサー。
【請求項9】
基板上に第1の金属酸化物からなる微粒子を含む種晶分散液を塗布する種晶形成工程と、
前記種晶が形成された基板を、第2の金属イオンと、NHイオンとを含む反応溶液に浸漬させて第2の金属酸化物からなる棒状結晶を成長させる成長工程と、を少なくとも含むことを特徴とする金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項10】
第2の金属イオンにおける金属が、第1の金属酸化物における金属と同種である請求項9に記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項11】
金属がZnである請求項10に記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項12】
種晶の平均粒子径が、40nm以下である請求項9から11のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項13】
成長工程後に、棒状結晶の先端面から基板に向かって穴を形成する穴あけ工程を含む請求項9から12のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項14】
穴あけ工程が、40℃〜90℃の温度で行われる請求項13に記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項15】
基板が、多孔質基板である請求項9から14のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項16】
多孔質基板が繊維状ポリマーからなる請求項15に記載の金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項9から16のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法により製造されたことを特徴とする金属酸化物構造体。
【請求項18】
請求項17に記載の金属酸化物構造体を有し、棒状結晶部分がセンシング部となることを特徴とするセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−30845(P2010−30845A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195750(P2008−195750)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】