説明

金属酸化物薄膜の製造方法

【課題】極めて薄い金属酸化物薄膜を、厚み精度良く、且つ確実に形成し得る金属酸化物薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】水酸基を有する固体表面に、該固体の水酸基と縮合反応し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物、例えば、金属アルコキシド類等を接触させることにより該金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物を洗浄等の手段により除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物を加水分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面に金属酸化物薄膜を製造するための新規な方法に関する。詳しくは、極めて薄い金属酸化物薄膜を、厚み精度良く、且つ確実に形成し得る金属酸化物薄膜の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
ナノレベルで膜厚や組成が制御された金属酸化物薄膜の作成は、その広範囲な応用と産業上の要求から、多くの分野で活発に研究されている。たとえば、今日の半導体産業では、電子デバイスの一層の高集積化が重要な技術目標となっているが、このためには、ナノレベルで膜厚制御された絶縁薄膜の製造技術が必要不可欠である。太陽電池などの光電変換素子においても半導体薄膜の多層構造の作成が必要となるが、これらを社会的に広く普及させるためには、安価な金属酸化物を用いた積層型薄膜製造プロセスの開発が重要なブレークスルーと考えられている。
【0003】
また、今後実用化が期待されているオプトエレクトロニクス分野においては、反射効率のよい金属酸化物薄膜のコーティング技術が模索されており、ナノレベルで精密かつ均一な薄膜製造プロセスの開発が重要な技術課題となっている。
【0004】
更に、種々の化学物質の分離膜や海水脱塩に使用される逆浸透膜等においては、表面の超薄層の構造がその性能に大きな影響を及ぼすことが知られている。同様の知見は、金属酸化物薄膜を用いるイオンやガスセンサー等でも認められており、薄膜構造の分子・原子的な構造制御を如何に実現するかが重要な課題となっている。
【0005】
また、金属酸化物薄膜は、構造材料あるいは汎用製品の物理、化学、生物学的特性を改質する手段としても、近年多くの注目を集めている。誘電性、発水性等の表面特性の改質はもちろんのこと、最近では院内感染を防止するために、病院の壁に金属酸化物をコーティングすることも試みられている。
【0006】
悪臭物質等の光分解、医療や食品関連製品の抗菌作用、あるいは浄水作用などの用途に金属酸化物を触媒的に利用する場合、酸化物薄膜の厚みがその特性に大きな影響を及ぼす。即ち、量子サイズ領域(数ナノメートル以下)まで薄膜化された金属酸化物では、物質本来のエネルギー状態が離散的になり、高効率な光触媒反応や電気化学反応の実現が可能となる。このような生活環境に関連する分野での金属酸化物薄膜の利用は、今後も急成長することが見込まれている。
【0007】
これらの多くの技術分野において、金属酸化物薄膜の製造プロセスに共通する必要条件は、組成や構造がナノレベルで制御された酸化物薄膜をより安価にかつ温和な条件下で製造することである。同時に、求められる電子的、磁気的、光学的、生物学的特性を任意に設計することが可能であり、有機、無機、金属などとの容易な複合化が可能な薄膜製造プロセスであることが必要とされている。
【0008】
従来、金属酸化物の薄膜を製造する方法として、以下のような手法が知られている。例えば、CVD、PVD等の気相からの薄膜成長法では、数μmオーダーの膜厚をもつ薄膜を比較的容易に製造することができる。しかしながら、ナノメートル領域の薄膜を作成しようとすると、装置自体に対する経済的な負担が大きくなり、原料コストやエネルギー消費、排ガス等の処理などにも多くの問題を残している。従って、製造プロセス全体の生産性が必ずしもよいとは言えない。また、複雑な形状を有する基板や大面積の基板へ均一に薄膜を形成させるためには必ずしも適した方法ではない。
【0009】
最近、気相成長法と表面反応とを組み合わせた新しい薄膜製造法が考案されている。例えば、CVD法において、四塩化チタンと過酸化水素などの2種類の反応性ガスを交互に導入すると、原子レベルの厚みの酸化物薄膜を逐次成長させることが可能である。このような表面反応を組み合わせた薄膜製造プロセスでは、原理的にはあらゆる形状の基板に均一な薄膜を作成することが可能である。
【0010】
しかしながら、気相法を用いる限りにおいて生産性の向上は期待できない。
【0011】
また、金属酸化物薄膜を製造する手段として、しばしばゾルーゲル法が用いられる。この方法では、金属アルコキシドに必要に応じて水や有機溶媒を添加し、この溶液をディップあるいはスピンコーティングすることで、数μmの厚みの薄膜が得られる。
【0012】
しかしながら、この場合、ゲルコーティング膜の膜厚が、ゾル溶液の粘度や密度等の流体力学的な物理量によって決定されるため、0.1μm以下の均一な薄膜を作成することが非常に困難である。同様な問題は、金属酸化物のコロイド溶液の塗装乾燥法でも指摘されている。
【0013】
更に、無機イオンの過飽和溶液からの析出により金属酸化物薄膜を製造する手法、あるいは電気化学的手法により電極表面に酸化物薄膜を製造する手法なども研究されている。これらの手法においても、固体表面に微粒子あるいはロッド状の構造が形成され、均一なナノレベルの厚みの金属酸化物薄膜を得ることはできない。
【0014】
一方、湿式法の一つとして、水面上に展開した金属酸化物の前駆体を適当な基板に移し取ることにより、一層または多層の超薄膜を作成するLB法が知られている。このようにして得られる一層または多層の超薄膜に適当な物理化学的処理を施すことにより、均一な厚みの酸化物超薄膜を製造することができる。かかる金属酸化物の前駆体としては、比較的疎水性が大きい金属アルコキシドや無機錯体の長鎖アルキル誘導体などを用いることができる。また、適当な物理化学的処理としては、熱処理や酸素プラズマ処理、UV−オゾン処理等を用いることができる。このような気/液界面を利用する手法は、累積回数の選択により、任意の厚みの酸化物薄膜を製造することが可能である。
【0015】
しかしながら、気/液界面で安定な薄膜を形成できる金属酸化物の前駆体の数に限りがあり、様々な金属酸化物の製造に適用するためには、前駆体の分子構造を有機合成化学的な手法を用いて設計する必要がある。これらの問題に加えて、LB膜の作成装置が高価かつ取り扱いが容易でないこと、工程全体での生産性が劣っていることなどの要因のため、金属酸化物薄膜を製造する手段として広く採用されるまでには至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上の通り、ナノレベルで膜厚や組成を制御することが可能な、実用的な金属酸化物薄膜の製造プロセスは、現時点では見あたらない。従来の薄膜製造プロセスの問題点を考慮すると新しい薄膜製造プロセスに必要とされる条件は、一般性のある安価な金属酸化物前駆体から、簡単な製造設備を用いて、ナノレベルの精密さで金属酸化物薄膜を生産性よく製造することであり、さらに、様々な薄膜特性の要求に随時対応できるよう、その製造プロセス自身が薄膜構造を設計可能な製造プロセスであることである。
【0017】
そこで、本発明は、簡便な操作で、汎用性があり、精密かつ構造設計が可能な金属酸化物薄膜の製造プロセスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、水酸基と縮合反応し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を固体表面に過剰量接触させて化学吸着せしめ、該固体表面に物理的に吸着する過剰の金属化合物を除去した後、該固体表面に存在する金属化合物を加水分解することによって、形成される酸化物薄膜の厚みが、該固体表面での金属化合物の吸着飽和量、即ち、固体表面に存在する水酸基の量によって規制されているため、一定厚みの金属酸化物薄膜が形成されること、また、かかる操作を逐次繰り返すことにより、該金属酸化物薄膜を厚み精度良く形成可能であること、更に、上記金属酸化物薄膜の逐次形成において、使用する金属化合物について金属の種類を変えることにより、ハイブリッドな金属酸化物薄膜を形成し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0019】
以上、詳しく説明したように、この発明においては、ナノメートル領域の均一な酸化物薄膜を、温和な条件化かつ簡単な操作で、あらゆる形状の表面や大面積の基板上に製造することができる。また、本発明は、多様な積層構造を有する酸化物薄膜を製造でき、その生産性も極めて高い。これらの他に類のない特長を有する本発明の方法は、次世代の高集積化デバイスをになう重要な基盤技術として、汎用製品の様々なコーティング技術として、新しい電気、電子的特性、磁気的特性、光機能特性を有する薄膜材料を製造する手段として、固体表面の物理化学的特性を改質する手段として、高効率の触媒システムを構築する手段として、様々な分離機能膜を設計、製造する手段として、様々なタイプの有機・無機複合超薄膜材料を設計、製造する手段として、各種の分野に応用されることが期待できる。
【0020】
即ち、本発明は、水酸基を有する固体表面に、該固体の水酸基と縮合反応し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を接触させることにより該金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物を除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物を加水分解することを特徴とする金属酸化物薄膜の製造方法である。
【0021】
また、本発明は、上記方法により形成された金属酸化物薄膜の表面に、該金属酸化物薄膜の水酸基に化学吸着し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の該金属化合物を除去した後、該固体表面に存在する金属化合物を加水分解する操作を少なくとも1回繰り返して行い、金属酸化物薄膜を逐次形成する金属酸化物薄膜の製造方法を提供する。
【0022】
更に、本発明は、上記方法によって逐次形成される金属酸化物薄膜の少なくとも1層を他層と異なる金属化合物によって形成する金属酸化物薄膜の製造方法をも提供する。
【0023】
本発明の方法においては、以上の操作により、固体表面に数ナノメートルの範囲で膜厚が制御された金属酸化物薄膜を形成することができる。このような薄膜が形成されるのは、以下のような原理に基づくものと推定される。
【0024】
即ち、先ず、表面に水酸基を有する固体を、アルコキシル基を有する金属化合物、金属アルコキシドゲルの微粒子、固体表面の水酸基と化学吸着可能な金属錯体等の金属化合物の溶液に浸漬させると、該金属化合物が固体表面と結合して強く吸着される。その際、金属化合物は、固体表面と化学吸着するのみならず、弱い物理吸着種として過剰に吸着する。これを適当な時間および温度で洗浄すると、弱い物理吸着種のみが洗浄され、固体表面には化学吸着した金属化合物の一分子の厚みの薄膜が形成される。次に、この固体を適当な温度の水の中に適当な時間浸漬する、あるいは水蒸気を含んだ空気中に曝すと、表面に吸着した金属化合物の分子が加水分解し、互いに縮合することで酸化物の薄膜が形成され、同時に、その表面には新たな水酸基が形成される。尚、加水分解と同時に金属化合物の金属原子が空気酸化され金属酸化物を形成する反応も同時に起こる場合もある。
【0025】
また、金属酸化物薄膜の逐次形成は、上記反応により形成された金属酸化物薄膜に同様な操作を行うことにより、逐次行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において、金属酸化物薄膜を形成させる固体は、表面に水酸基を有するものであれば特に制限されない。例えば、表面に水酸基を有する、有機物、無機物、金属等の様々な固体に適用することができる。具体的には、ガラス、酸化チタン、シリカゲル等の無機物よりなる固体、ポリビニルアルコール、セルロース、フェノール樹脂等の有機物よりなる固体、表面が酸化され易い特性を有する鉄、アルミニウム、シリコン等の金属が代表的である。
【0027】
また、表面に水酸基を持たない固体、例えば、硫化カドミウム、ポリアニリン、金等に本発明を適用する場合には、該固体表面は、水酸基を導入する方法が推奨される。水酸基の導入は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、金属の表面には、メルカプトエタノールなどの吸着により、水酸基を導入することができる。
【0028】
上記固体表面に存在させる水酸基の量は、形成される金属酸化物薄膜の密度に影響を及ぼすため、良好な金属薄膜を形成しようとする場合、一般には、5.0×1013〜5.0×1014当量/cm2、好ましくは、1.0×1014〜2.0×1014当量/cm2の範囲が適当である。
【0029】
また、固体の形状、表面状態は、特に制限されない。即ち、本発明の方法は、固体表面に金属化合物を接触させることにより、化学吸着せしめることによるため、該表面は平滑である必要がなく、材質や形状にも様々なものを選択できる。
【0030】
また、本発明が適用可能な固体の形状、大きさは、繊維状、ビーズ状、粉末状、薄片状、などの様々な形態の固体表面、あるいはフィルターや多孔質物質の内部表面から壁等の大面積のものまで多様である。
【0031】
本発明において、金属化合物は、固体の水酸基と縮合反応し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する公知の化合物が特に制限なく使用される。代表的な金属化合物を例示すれば、チタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)、ジルコニウムプロポキシド(Zr(O-nPr)4)、アルミニウムブトキシド(Al(O-nBu)3)、ニオブブトキシド(Nb(O-nBu)5)、シリコンテトラメトキシド(Si(O-Me)4)、ホウ素エトキシド(B(O-Et)3)等の金属アルコキシド化合物;メチルトリメトキシシラン(MeSi(O-Me)3)、ジエチルジエトキシシラン(Et2Si(O-Et)2)等、2個以上のアルコキシル基を有する金属アルコキシド;アセチルアセトン等の配位子を有し2個以上のアルコキシル基を有する金属アルコキシドなどの金属アルコキシド類が挙げられる。
【0032】
また、本発明では、上記金属アルコキシド類の他に、該金属アルコキシドに少量の水を添加し、部分的に加水分解、縮合させて得られるアルコキシドゲルの微粒子、チタンブトキシドテトラマー(C4H9O[Ti(OC4H9)2O]4C4H9)等、複数個あるいは複数種の金属元素を有する二核或いはクラスター型のアルコキシド化合物、酸素原子を介して一次元に架橋した金属アルコキシド化合物に基づく高分子などを使用することも可能である。
【0033】
さらに、本発明では、固体表面の水酸基と化学吸着し、加水分解等によって表面に新たな水酸基を生じるような金属錯体をも、前記金属化合物として使用することが可能である。上記金属錯体としては、具体的には、塩化コバルト(CoCl2)等の金属ハロゲン化物、チタニウムオキソアセチルアセテート(TiO(acac)2)、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)等の金属カルボニル化合物、ならびにこれらの多核クラスターも使用することができる。
【0034】
本発明の金属化合物は、必要に応じて、二種以上を組み合わせて使用することにより、固体表面に複合酸化物薄膜を形成することも可能である。
【0035】
本発明において、金属化合物と固体との接触は、該金属化合物を飽和吸着量で該固体表面に吸着させる接触方法が特に制限なく採用される。一般には、金属化合物を有機溶媒に溶解させた溶液に、固体を浸漬するか、該溶液をスピンコート等の方法により固体表面に塗布する方法が好適である。上記溶媒は、特に制限されない。例えば、金属アルコキシド類の場合、一般に、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、四塩化炭素、ベンゼン等を単独で或いはこれらを混合して使用することができる。
【0036】
また、上記溶液中の金属化合物の濃度は、10〜100mモル/l程度が好適である。
【0037】
更に、接触時間及び温度は、用いる金属化合物の吸着活性によって異なり、一概に限定することはできないが、一般には、5〜20分の時間で、室温〜50℃の範囲内で決定すればよい。
【0038】
更にまた、上記化学吸着の際、酸や塩基などの触媒を用いることで、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0039】
上記操作により、固体表面には、その表面の水酸基に対して、飽和吸着量の金属化合物と物理吸着による過剰の金属化合物とが存在する。
【0040】
本発明において、重要な要件は、上記過剰に吸着する金属化合物を除去することにある。即ち、過剰に存在する金属化合物を除去することにより、固体表面に化学吸着する金属化合物の層により金属酸化物薄膜が形成されるため、該金属化合物の存在量に基づいて、極めて精度良く、且つ高い再現性で金属薄膜を形成することができる。
【0041】
上記過剰の金属化合物の除去方法は、該金属化合物を選択的に除去する方法であれば特に制限されない。例えば、前記有機溶媒により洗浄する方法が好適である。洗浄は、該有機溶媒に、浸漬洗浄する方法、スプレー洗浄する方法、蒸気洗浄する方法等が好適に採用される。また、洗浄温度は、前記接触操作における温度が好適に採用される。
【0042】
本発明において、上記の過剰の金属化合物の洗浄後、加水分解を行う。かかる加水分解により、該金属化合物が縮合し、金属酸化物薄膜が形成される。
【0043】
上記加水分解は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、金属化合物を吸着させた固体を水に浸漬する操作が最も一般的である。該水としては、不純物等の混入を防止し、高純度の金属酸化物を生成するためには、イオン交換水が好適である。また、加水分解において、酸や塩基などの触媒を用いることにより、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0044】
ただし、金属化合物のうち、水との反応性が高いものは、空気中の水蒸気と反応することで、加水分解を行うこともできる。
【0045】
加水分解後、必要により、窒素ガス等の乾燥用ガスにより表面を乾燥させて本発明の金属酸化物薄膜が得られる。
【0046】
本発明において、形成される金属酸化物薄膜の膜厚の調整は、以上の一連の操作を逐次行うことによって、ナノメーターレベルで行うことが可能である。
【0047】
即ち、金属酸化物薄膜の逐次形成は、加水分解によって形成された金属酸化物薄膜に存在する水酸基を利用して、金属化合物との接触による化学吸着、過剰の金属化合物の除去、及び加水分解の操作を1回以上繰り返して行うことによって達成される。
【0048】
このような工程の繰り返しにより、数ナノメートルから数十ナノメートルの酸化物薄膜を逐次積層化することが可能である。チタンブトキシドなど一個の金属原子を有する金属アルコキシドでは、吸着条件により、数オングストロームの厚みの薄膜を逐次積層化することができる。この場合、1サイクルあたりの膜厚の増加は金属アルコキシドの一分子層の吸着に対応している。一方、アルコキシドゲルの微粒子などを用いると、1サイクルあたり、60ナノメートル程度の厚みの薄膜を積層化することもできる。
【0049】
また、その際、使用する金属化合物の種類を変えることにより、ハイブリッドな層構成で、金属酸化物薄膜の積層体を得ることが可能である。
【0050】
このようにして製造された酸化物薄膜の主な特徴ならびに産業上の用途は、次の通りである。
【0051】
本発明は、ナノメートル領域の酸化物薄膜を極めて均一に製造することができるため、次世代の高集積化デバイスをになう重要な基盤技術となる。具体的には、エレクトロニクス分野での高精度の絶縁薄膜の製造技術、オプトエレクトロニクス分野での効率よい反射コート膜の製造技術として利用することができ、微小磁気記憶素子等の製造にも応用されることが期待できる。
【0052】
本発明は、温和な条件下かつ簡単な操作で、あらゆる形状の表面や大面積の基板に酸化物薄膜を製造することができ、また生産性が高いため、汎用製品のコーティング技術として広く普及することが期待できる。具体的には、医療や食品関連製品の抗菌コート、衣服や電気製品の静電気防止膜、複雑な形状を持つ機器の酸化防止膜、構造材料への発水性あるいは親水性の付与などに用いることができる。
【0053】
本発明の方法は、固体を金属化合物と接触させるという、極めて簡便な手法で短時間に酸化物薄膜が製造されるため、特別な設備を必要とせず、高い生産性が期待できる。
【0054】
また、本発明の方法は、固体表面での飽和吸着に基づいており、金属化合物の濃度や、洗浄、加水分解での温度、時間等を厳密に設定しなくても十分に精密な金属酸化物薄膜を製造することが可能である。
【0055】
また、本発明の方法は、ナノメートルの精度で多様な金属酸化物薄膜を積層化することができるので、それ自身、新しい、電気、電子的特性、磁気的特性、光機能特性を設計することができる。具体的には、半導体超格子材料の製造、高効率な光化学反応や電気化学反応の設計に用いることができる。また、本発明は、金属酸化物薄膜の製造コストが他の手法と比較して著しく低いため、太陽電池等の光エネルギー変換システム等の実用的な基盤技術となり得る。
【0056】
また、本発明の方法によれば、ビーズや微粒子表面に酸化物薄膜を作成することができるため、これらの物理化学的な特性を大きく変化させることが可能となる。また、多孔質物質や中空糸の内部表面に金属酸化物薄膜を製造することで、新規な高効率の触媒システムを構築することができる。
【0057】
更に、本発明の方法によれば、金属酸化物薄膜の組成や積層構造を設計できるため、様々な物質の分離膜や逆浸透膜の製造に用いることができる。また、2種類以上の金属化合物の積層比率を段階的に変化させることで、様々な傾斜機能材料を製造することが可能となる。また、従来から多数提案されている有機分子の表面吸着手法と組み合わせることで、様々なタイプの有機・無機複合超薄膜の設計も可能になり、新しい光、電子、化学的機能を有する超薄膜を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1〜5本発明の方法によって、酸化物薄膜が逐次、一定量で積層化されていることを示すために、水晶発振子上への酸化物薄膜の作成を行った。
【0060】
水晶発振子はマイクロバランスとして知られ、振動数変化よりその表面上に形成された薄膜の重さを10-9gの精度で測定できるデバイスである。実施例1〜5では、金電極で被覆した水晶発振子を10mMのメルカプトエタノールのエタノール溶液に12時間浸漬し、表面に水酸基を導入した後、エタノールで洗浄後、窒素ガスを吹き付けて十分に乾燥させたものを用いた。
【0061】
実施例1として、トルエンとエタノールの1:1混合溶媒に溶かした100mMのチタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)の溶液に、上記方法により表面に水酸基を導入した水晶発振子を18℃で10分間浸漬させ、次いで、18℃のエタノールに1分間浸漬して洗浄後、18℃のイオン交換水に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。
【0062】
表1には、実施例1の金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化(△F)を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
また、実施例2として、エタノールと四塩化炭素の1:1混合溶媒に溶かした88mMのアルミニウムブトキシド(Al(O-nBu)3)の溶液に、水晶発振子を45℃で10分間浸漬させ、次いで、45℃のエタノールと四塩化炭素の1:1混合溶媒に1分間浸漬して洗浄後、45℃のイオン交換水に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。
【0065】
表2には、実施例2の金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化(△F)を示す。
【0066】
【表2】

【0067】
また、これらの実施例の振動数変化をグラフにして図1に示す。図に示されるように、水晶発振子の振動数は、積層化サイクル数に比例して減少する。この結果は、本発明の方法によって、水晶発振子の電極表面に一定重量の金属酸化物薄膜が形成されていることを示している。
【0068】
本発明の方法によって形成される金属酸化物薄膜は、後の実施例において、その一例を示すが、走査型電子顕微鏡で観察することによって、均一な厚みで固体表面に形成されていることが確認された。従って、上記実施例1でのチタンブトキシドから作成された金属酸化物薄膜の形成において、各積層化サイクルでの膜厚の増加量は、通常の方法でチタンブトキシドから作成された乾燥ゲルの密度(1.66g/cm3)を用い、吸着重量(W)と薄膜の形成面積(S)とから計算することができる。
【0069】
実施例1の場合、各積層化サイクルでの金属酸化物薄膜の膜厚の増加量は、約1ナノメートルである。一方、実施例2のアルミニウムブトキシドの場合、該膜厚の増加量は、約5ナノメートルである。
【0070】
上記アルミニウムブトキシドの場合、膜厚が増加する理由として、アルミニウムのアルコキシド化合物は、溶液中で2量体、4量体、或いは、多量体の橋かけ構造を形成することが知られており、該アルミニウムブトキシドを使用した場合には、かかる橋かけ構造を形成した状態で吸着が起こっているものと考えることができる。
【0071】
そして、この結果は、溶液中での金属アルコキシド類の会合構造を考慮することにより、1サイクルあたりの膜厚の増加量を制御可能なことを示している。
【0072】
実施例3として、トルエンとn−プロパノールの1:1混合溶媒に溶かした100mMのジルコニウムプロポキシド(Zr(O-nPr)4)の溶液に、水晶発振子を10℃で3分間浸漬させ、次いで、10℃のエタノールに1分間浸漬して洗浄後、10℃のイオン交換水に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。
【0073】
表3には、実施例3での水晶発振子の積層化サイクル毎の振動数変化を示す。また、この結果をグラフにしたものを図2に示した。
【0074】
【表3】

【0075】
これら実施例1〜3の結果から、本発明の方法による酸化物薄膜の逐次積層化は、何サイクルにもわたって繰り返し行うことが可能であることがわかる。
【0076】
上記実施例1〜3の1サイクルあたりの水晶発振子の平均振動数変化を表4にまとめた。また、上記実施例の方法に準じて、実施例4として、シリコンテトラメトキシド(Si(OMe)4)を、実施例5としてホウ素エトキシド(B(OEt)3)をそれぞれ使用して金属酸化物薄膜の形成を行った場合の、1サイクルあたりの水晶発振子の平均振動数変化を表4に併せて示した。
【0077】
上記の実施例4、5での金属アルコキシドの溶媒、濃度、温度ならびに吸着時間は、表4に示したとおりである。但し、シリコンテトラメトキシドの場合は、50℃のメタノールに10分間浸漬して洗浄し、更に、50℃のイオン交換水に5分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させることで、また、ホウ素エトキシドの場合は、20℃のベンゼンに1分間浸漬して洗浄し、更に、20℃のイオン交換水に1分間浸漬して酸化物薄膜を形成させることで、逐次積層化を行った。
【0078】
【表4】

【0079】
実施例6金属アルコキシド溶液への浸漬時間を変化させて、水晶発振子上に金属酸化物薄膜を形成させた。先ず、トルエンとエタノールの1:1混合溶媒に溶かした100mMのチタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)の溶液に、水晶発振子を16℃で30秒から10分間の間で表5に示す時間浸漬させ、次いで、16℃のエタノールに1分間浸漬して洗浄後、16℃のイオン交換水に1分間浸漬して酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を5サイクル繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。結果を表5に併せて示す。また、この結果をグラフにしたものを図3に示した。
【0080】
【表5】

【0081】
上記結果は、浸漬時間が1分より長い場合は、水晶発振子の平均振動数変化がほぼ一定の値になることを示す。このことは、本発明の方法が、固体表面への飽和吸着に基づいた金属酸化物薄膜の製造手法であることを示すものである。即ち、本発明では、固体表面の全面にわたって金属化合物と固体表面の縮合可能な全ての水酸基が縮合することで金属酸化物薄膜が形成される。
【0082】
また、本発明では、一定重量の金属酸化物薄膜を逐次積層化することができ、このことは、各積層化サイクル毎に固体表面に新たに形成される縮合可能な水酸基の量が常に一定であることを示している。
【0083】
更に、本発明の方法では、1回の積層化サイクルあたり、一定厚みの金属酸化物薄膜を再現性良く積層化することが可能である。このように、本発明の方法が、固体表面全体にわたる縮合反応に基づき、一定量の水酸基を新たに形成しながら、分子的な厚みの金属酸化物薄膜を逐次積層化できることは、本発明の方法によりナノメートルレベルの精度で均一な厚みの金属酸化物薄膜を製造可能であることを実証するものである。
【0084】
実施例7〜9金属アルコキシドの溶液に少量の水を添加することで、アルコキシドゲルの微粒子を形成し、これらの微粒子の逐次積層化を行った。
【0085】
実施例7として、トルエンとエタノールの1:1混合溶媒に溶かした100mMのチタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)溶液に3分の2等量の水を添加したものを、実施例8として、同様のチタンブトキシド溶液に1等量の水を添加したものを、また、実施例9として、同様のチタンブトキシド溶液に2等量の水を添加したものを用いた。
【0086】
上記の実施例7〜9でのチタンブトキシドの濃度は100mMであり、いずれの場合も表面に水酸基を導入した水晶発振子を20℃で10分間浸漬させ、20℃のエタノールに1分間浸漬して洗浄後、20℃のイオン交換水に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。実施例7、8では、12回目の浸漬操作の際、また、実施例9では、4、9、13、16回目の浸漬操作の際、チタンブトキシド溶液の再調製を行った。
【0087】
表6〜8に、それぞれの実施例における金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す。また、この結果をグラフにしたものを図4に示した。
【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
また、これらの水晶発振子の振動数変化をグラフにしたものを図4に示した。図に示されるように、水晶発振子の振動数は、積層化サイクル数に比例して減少する。これらの結果は、本発明の方法によって、一定の重量のアルコキシドゲルの微粒子を繰り返し積層可能なことを示している。
【0092】
上記実施例7〜9における1サイクルあたりの水晶発振子の平均振動数変化を表9にまとめて示す。
【0093】
【表9】

【0094】
表9に示させるように、チタンブトキシドの溶液へ水を添加した場合、水の添加量に比例して、1サイクルあたりの平均振動数変化が増加する。これらの結果は、水の添加量に比例して、アルコキシドゲルの粒径が大きくなり、水晶発振子の表面に逐次積層化する金属酸化物薄膜の重量が増加することを示している。
【0095】
このような逐次積層化における金属酸化物薄膜重量の制御は、水以外にも、アセチルアセトン等のキレート配位子を添加する、あるいはアセチルアセトン等のキレート配位子と水の両方を添加することでも行うことができる。一般に、金属アルコキシドに水を添加した系では、時間の経過とともに積層化する金属酸化物薄膜重量が増加する。一方、アセチルアセトン等の錯体を添加した系では、このような金属酸化物薄膜重量の増加を低く抑えることが可能である。
【0096】
実施例10本発明の方法を示す各実施例において、均一、且つ一定の厚みの金属酸化物薄膜が製造されることが走査型電子顕微鏡写真によって確認されたことは、既に述べたが、本実施例では、一例として、水晶発振子の電極表面に作成した金属酸化物薄膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0097】
図5には、実施例7に示した方法によって得られた金属酸化物薄膜の断面についての走査型電子顕微鏡による撮影像を示す。
【0098】
上記撮影像において、製造された酸化物薄膜は、ほぼ同一の厚みの金電極の上に位置し、90ナノメートルの厚みを有する。この膜厚と水晶発振子の振動数変化から計算される酸化物薄膜の密度は、約1.6g/cm3である。この値は、通常の方法でチタンブトキシドから製造されたチタン酸化物の乾燥ゲルの密度(1.66g/cm3)とほぼ一致した。
【0099】
これらの結果は、本発明の方法により、クラックのない一定の厚みの酸化物薄膜が形成されることを明確に示している。
【0100】
実施例11、12本発明の方法によって、複数種の金属アルコキシドから任意の順に数ナノメートルの厚みの薄膜を積層化することで、積層構造を有する酸化物超薄膜を製造することが可能であることを示す。
【0101】
表10には、実施例11として、トルエンとエタノールの1:1混合溶媒に溶かした10mMのチタンブトキシドと、エタノールと四塩化炭素の1:1混合溶媒に溶かした44mMのアルミニウムブトキシドとを交互に3回から4回づつ積層化した場合の水晶発振子の振動数変化を示す。
【0102】
但し、実施例11、12での金属酸化物薄膜の形成は、チタンブトキシド、アルミニウムブトキシドの濃度の違いを除くと、実施例1、2と同一の条件で行った。
【0103】
【表10】

【0104】
また、これらの振動数変化をクラブにしたものを図6に示す。図にも示されるように、異なる金属アルコキシドから形成された酸化物薄膜の上にも、単独の金属アルコキシドの場合と同様に、金属酸化物薄膜を形成することが可能である。このような、異なる金属アルコキシド等を用いて、積層型酸化物薄膜が形成されることは、それぞれの積層化段階でのXPSスペクトルや、その角度依存性からも確認された。
【0105】
表11には、実施例12として、実施例11の方法に従って、アルミニウムの酸化物薄膜の上にチタンの酸化物薄膜を形成させた場合の、チタンブトキシドの薄膜形成による水晶発振子の振動数変化と、XPSスペクトルから見積もられた表面近傍でのチタン原子の組成との関係を示す。
【0106】
【表11】

【0107】
また、この関係をグラフにしたものを図7に示した。図に示されるように、振動数数変化に比例して、表面のチタン原子の割合は直線的に増加し、アルミニウムの酸化物薄膜の上にチタンの酸化物薄膜が均一な厚みで形成されていることが確認された。
【0108】
実施例13〜15本発明の方法によって、固体表面に吸着可能な金属錯体に適用し、酸化物薄膜を製造することが可能であることを示す。
【0109】
実施例13では、アセトニトリルに溶かした36mMの塩化コバルト(CoCl26H2O)の溶液に、表面に水酸基を導入した水晶発振子を20℃で5分間浸漬させ、次いで、20℃のアセトニトリルに1分間浸漬して洗浄後、20℃の0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させ、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることより成る操作を繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。
【0110】
この場合の金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を表12に示す。また、上記の実施例における振動数変化をグラフにしたものを図8に示した。
【0111】
【表12】

【0112】
また、実施例14として、100mMの酢酸を含むエタノールに溶かした20mMのチタニウムオキソアセチルアセテート(TiO(acac)2)の溶液に、水晶発振子を60℃で5分間浸漬させ、次いで、20℃のメタノールに1分間浸漬して洗浄後、20℃の0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して金属酸化物薄膜を形成させることで、金属酸化物薄膜を逐次積層化させた。
【0113】
この場合の金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を表13に示す。また、上記の実施例における振動数変化をグラフにしたものを図9に示した。
【0114】
【表13】

【0115】
更に、実施例15として、n−ヘキサンに溶かした6mg/mlのペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)の溶液に、水晶発振子を20℃で10分間浸漬させ、次いで、20℃のn−ヘキサンに1分間浸漬して洗浄後、空気中に数分放置することで金属酸化物薄膜を形成させることより成る操作を5回繰り返して金属酸化物薄膜を逐次積層化させ、同様な条件下でペンタカルボニル鉄への浸漬時間のみを30分に変えて、さらに4回酸化物薄膜を積層化させた。
【0116】
この場合の金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を表14に示す。また、上記の実施例における振動数変化をグラフにしたものを図10に示した。
【0117】
【表14】

【0118】
塩化コバルト溶液の場合、加水分解等による表面の活性化工程で、アルカリ性の水溶液を用いることにより規則的な金属酸化物薄膜の製造が可能となった。同様な金属酸化物薄膜は、塩化第二鉄(FeCl3)等、アルカリ性条件下で加水分解すると水酸化物を生じるような金属ハロゲン化物に適用することが可能であった。一方、チタニウムオキソアセチルアセテートの場合、酢酸を加えた60℃の温度のメタノール溶液を使用して吸着させることで規則的な金属酸化物薄膜の製造が可能となった。
【0119】
また、ペンタカルボニル鉄の例で示されるように、本発明の方法は、固体表面の水酸基と反応する種々の金属カルボニル錯体にも適用することが可能である。
【0120】
以上に示した実施例は、いずれもメルカプトエタノールで修飾した金表面上で金属酸化物薄膜を作成している。
【0121】
しかしながら、本発明は、修飾により表面に水酸基を有する金属表面に限定されない。例えば、様々な金属酸化物表面に本発明の方法を適用できることは、実施例において様々な金属酸化物表面に逐次積層化が可能なことからも既に実証済みである。また、実施例で示したような酸化物薄膜は、ポリビニルアルコールのような水酸基を有する有機高分子の表面でも製造可能なことが、別に確認されている。さらに、固体表面の水酸基との化学的吸着を基礎とする本発明の方法では、固体の形状に特に制限がないことは明かである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】実施例1、2において、金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図2】実施例3において、金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図3】実施例6において、金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を、浸漬時間依存性に関して示す図である。
【図4】実施例7〜9において、金属酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図5】実施例10で得られた金属酸化物薄膜の断面の走査型電子顕微鏡による撮影像を示す図である。
【図6】実施例11の複数種の金属アルコキシドからの酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図7】実施例12のXPSスペクトルから見積もられたチタン元素の組成と水晶発振子の振動数変化との関係を示す図である。
【図8】実施例13の酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図9】実施例14の酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。
【図10】実施例15の酸化物薄膜の積層化に基づく水晶発振子の振動数変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する固体表面に、
該固体の水酸基と縮合反応し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を接触させることにより該金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の金属化合物を除去した後、上記固体表面に存在する金属化合物を加水分解することを特徴とする、0.1μm未満の厚さの金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物薄膜は、10nm未満の厚さである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において形成された金属酸化物薄膜の表面に、該金属酸化物薄膜の水酸基に化学吸着し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の該金属化合物を除去した後、該固体表面に存在する金属化合物を加水分解する操作を少なくとも1回繰り返して行い、金属酸化物薄膜を逐次形成する、0.1μm未満の厚さの金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2において形成された金属酸化物薄膜の表面に、該金属酸化物薄膜の水酸基に化学吸着し且つ加水分解により水酸基を生成し得る基を有する金属化合物を化学吸着させ、次いで、過剰の該金属化合物を除去した後、該固体表面に存在する金属化合物を加水分解する操作を少なくとも1回繰り返して行い、10nm未満の厚さの金属酸化物薄膜を逐次形成する、0.1μm未満の厚さの金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
逐次形成される金属酸化物薄膜の少なくとも1層を他層と異なる金属化合物によって形成する請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加水分解は、水により行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加水分解は、50℃以下の水に浸漬することにより行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記過剰の金属酸化物の除去は、有機溶媒により行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記過剰の金属酸化物の除去は、メタノール、エタノール、ベンゼンおよび四塩化炭素のいずれか1種以上を用いて行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物の固体表面への化学吸着は、濃度が10〜100mモル/lの金属アルコキシドを前記固体表面に接触させることにより行う、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記固体表面に金属酸化物を接触させる時間は、5〜20分である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記固体表面に金属酸化物を接触させる温度は、50℃以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−8810(P2007−8810A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216951(P2006−216951)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【分割の表示】特願平8−51604の分割
【原出願日】平成8年3月8日(1996.3.8)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】