説明

金属酸化物触媒の製造方法

【課題】 気相接触酸化によりプロパンからアクリル酸を高収率で製造するのに適する触媒の製造方法の提供。
【解決手段】 金属化合物の混合物を400℃以上で焼成してなる、金属元素Mo、V、Sb、A(AはNbまたはTa)およびB(BはAg、Zn、Sn、Pb、As、Cu、TlおよびSeからなる群から選ばれた1種以上の元素)を含有する金属酸化物の粉末に、元素X(但し、XはNaおよびKからなる群より選ばれた1種以上の元素)を構成成分とする化合物を担持させることを特徴とするアクリル酸製造用の金属酸化物触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プロパンを気相接触酸化によるアクリル酸の製造方法に使用される金属酸化物触媒の製造方法および該金属酸化物触媒を用いるアクリル酸の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】アクリル酸は、従来プロピレンと酸素とを接触酸化させてアクロレインを製造し、次いでアクロレインと酸素と接触酸化させるという二段酸化法により製造されている。他方、上記二段酸化法と比較して製造コストを大幅に低減できる可能性のある一段酸化法すなわちプロパンを出発原料として用い、それと酸素から一段の反応でアクリル酸を製造する方法の実用化に関する研究も各所で行われている。たとえば特開平9−316023号公報には、プロパンの一段酸化法によるアクリル酸の製法において、Mo、VおよびSbを必須金属とし、それらとNb、Ta、W、Ti、CrおよびFe等からなる金属群から選ばれた金属とからなる4成分系の金属酸化物触媒が提案されており、また特開平10−45664号公報にも同様な金属からなる4成分系の金属酸化物触媒が開示されている。
【0003】上記4成分系の金属酸化物触媒よりもアクリル酸合成反応における転化率および選択率に優れる触媒として、特開平10−120617号公報には、前記特開平9−316023号公報に開示の4成分系金属酸化物触媒に、さらにAs、Pまたはアルカリ金属を含む溶液を含浸させてなる基本的に5成分系の金属酸化物触媒が開示されている。かかる5成分系の金属酸化物触媒によれば、プロパンの一段酸化法により収率約20〜25%でアクリル酸を合成できる。また、特開平10−28862号公報は、主にニトリル合成のためのアルカンとアンモニアの接触酸化反応触媒に関するものであるが、前記特開平10−45664号公報に開示の4成分系金属酸化物触媒に、さらにMo、W、Zr、Cr、Ti、Nb、Ta、Fe、P、Si、アルカリ金属またはアルカリ土類金属等から選ばれた1種以上の元素を担持させた金属酸化物触媒が提案されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、金属化合物の混合物を400℃以上で焼成してなる、金属元素Mo、V、Sb、A(AはNbまたはTa)およびB(BはAg、Zn、Sn、Pb、As、Cu、TlおよびSeからなる群から選ばれた1種以上の元素)を含有する金属酸化物の粉末に、元素X(但し、XはNaおよびKからなる群より選ばれた1種以上の元素)を構成成分とする化合物を担持させ、しかる後焼成することを特徴とするアクリル酸製造用の金属酸化物触媒の製造方法である。以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明において元素X(但し、XはNaおよびKからなる群より選ばれた1種以上の元素)を構成成分とする化合物を担持させる金属酸化物を、以下担持用酸化物という。本発明における担持用酸化物としては、以下の製法によって得られるものが好ましく使用できる。すなわち、水性媒体中で、モリブデン酸アンモニウム、酸化モリブデンまたはモリブデン酸等のMo+6を構成元素とするMo+6化合物の存在下に、メタバナジン酸アンモンニウムまたは五酸化バナジウム等のV+5化合物および三酸化アンチモンまたは酢酸アンチモン等のSb+3化合物を70℃以上の温度で反応させた後に(以下これまでの操作を工程1という)、得られる反応生成物に金属元素AすなわちNbまたはTaを構成成分とする化合物を加えて均一に混合する工程(以下この操作を工程2という)により製造される混合物に、さらに金属元素Bを構成元素とする化合物(以下金属B化合物ということがある)を添加する。金属B化合物は、前記工程1におけるMo+6化合物とともに使用するか、または工程2におけるNbまたはTaを構成成分とする化合物とともに使用することにより、他の成分と混合することが好ましい。Nb化合物としては、酸化ニオブおよびニオブ酸等が挙げられ、またTa化合物としては、酸化タンタルおよびタンタル酸等が挙げられる。
【0006】金属B化合物としては、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀等の銀化合物;硝酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;塩化第一錫、塩化第二錫等の錫化合物;酢酸鉛、塩化鉛等の鉛化合物;三酸化砒素、酸化砒素等の砒素化合物;硝酸銅、酸化第二銅、酸化第一銅等の銅化合物;硝酸第一タリウム、硝酸第二タリウム等のタリウム化合物;セレン酸、亜セレン酸、塩化セレン酸等のセレン化合物が挙げられる。
【0007】担持用酸化物における金属元素Mo、V、Sb、AおよびBの好ましい原子比は、下記組成式(1)において、gおよびhは、各々0.01〜1.5でかつh/g=0.3〜1であり、iは0.001〜3.0であり、jは0.0001〜0.05である。
MoVgSbhAiBj (1)
h/gが0.3未満であると、アクリル酸の選択率が低い。iが0.001未満であると触媒の劣化が起こり易く、一方3.0を越えると触媒が低活性となり、プロパンの転化率に劣る。jが0.0001未満であると元素Bの添加効果が発現せず、一方0.05を越えるとアクリル酸の収率が低下する。
【0008】担持用酸化物の製法において、工程1の反応は、水性媒体の沸点付近で、10〜30時間行うことが好ましい。さらに、Sb+3、V+5およびMo+6の三者間の酸化還元反応を促進するために、工程1における反応液中に酸素ガスを吹き込むか、または酸化還元反応がある程度進行した後に反応液中に過酸化水素を滴下することが好ましい。酸素ガスの代わりに空気等の酸素ガスを含有する気体を使用しても良く、酸素ガス含有気体における好ましい酸素ガス濃度は、0.5vol %以上であり、さらに好ましくは、1〜20vol %であり、特に好ましくは、2〜15vol %(以下%と略す)である。酸素ガス含有気体の反応液中への吹き込み時間は、4時間以上が好ましい。過酸化水素の滴下に当たっては、過酸化水素濃度が0.01〜35重量%程度の過酸化水素水を用いることが好ましく、過酸化水素の好ましい滴下量は、モル比でSbの1に対して、0.2〜1.2である。その際に滴下を受ける反応液の好ましい温度は80〜100℃である。また、過酸化水素の滴下は短時間内で終了させてもよいし、長時間に渡ってもよい。
【0009】工程2においては、上記反応の反応生成物であるMo、VおよびSbを含む分散液またはその蒸発乾固物に、Nb化合物またはTa化合物を加えて均一に混合する。Nb化合物は、蓚酸塩の水溶液の形で用いることが好ましく、その際には、工程1で得られた反応液にアンモニウムイオンを共存させておくことが好ましく、Nbに対するアンモニウムイオンおよび蓚酸イオンの割合は、モル比でNbの1に対して、アンモニウムイオン2〜7および蓚酸イオン4〜12が好ましい。アンモニウムイオンを与える化合物としては、アンモニアまたはその水溶液が好ましい。上記工程1または工程2において、前述のとおり、反応液中に金属B化合物を加えることにより、Mo、V、Sb、AおよびBを含有する混合物が得られ、それを400℃以上で焼成することにより本発明における担持用酸化物が得られる。
【0010】焼成に当たっては、まず酸素ガスの存在下、例えば空気中等で、250〜350°Cで4〜10時間の加熱を行い、その後不活性ガス中で500〜660°Cで1〜3時間焼成を行なうことが好ましい。上記焼成により得られる金属酸化物の中の金属元素の含有量は、螢光X線分析によって確認できる。上記方法により得られる担持用金属酸化物は、適当な粒度にまで粉砕して、粉末として使用する。粉砕方法としては、乾式粉砕法または湿式粉砕法のいずれの方法も使用でき、粉砕装置としては、乳鉢、ボールミル等が挙げられる。湿式粉砕の場合には、粉砕の助剤として使用される溶媒の種類は、水、アルコール類などが挙げられる。本触媒の好ましい粒度は、20μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である 。
【0011】本発明においては、前記金属酸化物の粉末に、元素X(但し、XはNaおよびKからなる群から選ばれた1種以上の元素)を構成成分とする化合物を担持させる。Xの好ましい担持量は、担持用酸化物におけるMoを基準とする元素Xの原子比で、0.001〜0.3であり、さらに好ましくは、0.002〜0.1である。Moを基準とする上記元素Xの原子比が、0.001未満であるとアクリル酸収率が低く、一方0.3を超えると担持用酸化物の活性表面を元素X酸化物が覆うためにプロパンの転化率が低下する。金属X化合物の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび酸化ナトリウム等のNa化合物、ならびに水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、硝酸カリウムおよび酸化カリウム等のK化合物が挙げられる。
【0012】金属酸化物の粉末への金属X化合物の担持方法としては、金属X化合物を水または有機溶剤に溶解させた溶液と担持用酸化物の粉末とを混合させる方法が好ましい。また、上記の担持用酸化物の湿式粉砕で用いる各種溶媒中に金属X化合物を溶解させ、これを用いて湿式粉砕を行ってもよい。金属X化合物溶液の濃度としては、0.1〜1.0モル/リットルが適当であり、また該溶液と担持用酸化物の比率は、担持用酸化物100重量部当たり20〜50重量部が好ましい。金属X化合物の溶液と担持用酸化物の粉末を混合した後、攪拌して、できる限り均一に混合する。混合物中の溶剤を、蒸発乾固等により蒸発させることにより、金属X化合物の担持された金属酸化物粉末が得られる。
【0013】得られた金属酸化物粉末は、所望により300〜500℃で1〜5時間焼成してもよいが、必ずしも焼成しなくても良い。焼成の雰囲気としては、空気または窒素ガス等が適用できるが、好ましくは窒素ガス雰囲気である。得られた金属酸化物触媒における構成金属量の確認は、蛍光X線分析等によって行うことができる。上記方法によって得られる金属酸化物触媒(以下単に触媒ということもある)は、無担体の状態でも使用できるが、適当な粒度を有するシリカ、アルミナ、シリカアルミナおよびシリコンカーバイド等の担体に担持させた状態で使用することもできる
【0014】本発明のアクリル酸の製造方法は、前記触媒の存在下に、原料であるプロパンおよび酸素ガスを反応器に供給して反応させるものである。プロパンおよび酸素ガスは、別々に反応器に導入して反応器内で混合させてもよく、また予め両者を混合させた状態で反応器に導入しても良い。酸素ガスとしては、純酸素ガスまたは空気、ならびにこれらを窒素、スチームまたは炭酸ガスで希釈したガスが挙げられる。プロパンおよび空気を使用する場合、空気のプロパンに対する使用割合は、容積比で30倍以下が好ましく、さらに好ましくは0.〜20倍の範囲である。好ましい反応温度は300〜600℃であり、より好ましくは350〜500℃である。また、ガス空間速度(以下SVという)としては、300〜5000ml/Hrが適当である。以下、製造例、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0015】
【製造例1】(担持用酸化物aの製造)300mlのガラス製フラスコ内の蒸留水130ml中に、メタバナジン酸アンモニウム6.15gを加え、攪拌下で加熱溶解させた後、三酸化アンチモン5.87g、モリブデン酸アンモニウム30.9gおよび硝酸タリウム(2価)0.14gをを加えた。上記成分からなる混合液を360回転/分の速度で攪拌機を回転させながら、窒素ガス雰囲気下で16時間加熱還流を行った。その後、加熱攪拌を継続しながら、反応液中に1.54重量%の過酸化水素水40gを5分かけて滴下した。得られた青いコロイド分散液状の分散液を室温まで冷却し、そこに蓚酸8.82g、ニオブ酸2.33gおよび28重量%アンモニア水3.0gを75mlの蒸留水に溶解した常温の水溶液を加えた。得られた混合液を30分間激しく攪拌した後、徐々に水分を蒸発させ最終的に120℃で乾固させた。上記操作によって得られた固体を280℃で5時間焼成した後、窒素ガス雰囲気下で580℃で2時間焼成し、担持用酸化物aを得た。得られた担持用酸化物bの構成金属の割合は、Mo/V/Sb/Nb/Tl=1.0/0.3/0.23/0.08/0.003であった。
【0016】
【製造例2】(担持用酸化物bの製造)製造例1において、硝酸タリウム0.14gに代えて、82重量%セレン溶液0.317gを加えた。それ以外の点はすべて製造例1と同様に操作を行い、担持用酸化物bを得た。担持用酸化物bの構成金属の割合は、Mo/V/Sb/Nb/Se=1.0/0.3/0.23/0.08/0.008であった。
【0017】
【実施例1】製造例1で得られた担持用酸化物aの10gに、炭酸ナトリウム0.034gを蒸留水7gに溶解させた溶液を加えて充分混合した後、120℃で1時間乾燥させ金属酸化物触媒を得た。得られた触媒を蛍光X線によって分析した結果、Mo/V/Sb/Nb/Tl/Na(含浸)の原子比は、1.0/0.3/0.23/0.08/0.003/0.013であった。得られた触媒を16〜30メッシュに粉砕し、1.5mlを10mmφの石英製の反応管に充填した。反応管は390℃に加温し、そこにプロパン4.5%、酸素ガス7.1%、窒素ガス25%および水蒸気63.4%からなる混合ガスをSV=2380/Hrの速度(接触時間2秒間)で供給することにより、アクリル酸を合成した。プロパンの転化率は59.5%、アクリル酸選択率は55.2%、そしてアクリル酸収率は32.8%であった。なお、プロパン転化率およびアクリル酸収率等は、以下の計算式によって算出した(いずれもモル数により計算)。
● プロパン転化率(%)=(供給プロパン−未反応プロパン)÷供給プロパン● アクリル酸選択率(%)=生成アクリル酸÷(供給プロパン−未反応プロパン)
● アクリル酸収率(%)=プロパン転化率×アクリル酸選択率
【0018】
【実施例2】担持用酸化物bの10gに、炭酸水素カリウム0.063gを蒸留水7gに溶解させた溶液を加えた以外は、すべて実施例1と同様に操作を行い、金属酸化物触媒を得た。得られた触媒を蛍光X線によって分析した結果、Mo/V/Sb/Nb/Se/K(含浸)の原子比は、1.0/0.3/0.23/0.08/0.008/0.014であった。この触媒を用いて、実施例1と同様なアクリル酸製造試験を行った。その結果、プロパンの転化率は59.6%、アクリル酸選択率は57.8%、そしてアクリル酸収率は34.4%であった。
【0019】
【比較例1〜2】担持用酸化物a(比較例1)、b(比較例2)を使用して、実施例1と同様な方法によりアクリル酸製造試験を行った。上記各例のアクリル酸製造試験の結果は、表1のとおりである(表中の数値の単位は%である)。
【0020】
【表1】


【0021】
【発明の効果】本発明の製法によって得られるアクリル酸製造用触媒を使用すれば、プロパンからアクリル酸を高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属化合物の混合物を400℃以上で焼成してなる、金属元素Mo、V、Sb、A(AはNbまたはTa)およびB(BはAg、Zn、Sn、Pb、As、Cu、TlおよびSeからなる群から選ばれた1種以上の元素)を含有する金属酸化物の粉末に、元素X(但し、XはNaおよびKからなる群より選ばれた1種以上の元素)を構成成分とする化合物を担持させ、しかる後焼成することを特徴とするアクリル酸製造用の金属酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の製造方法によって得られる金属酸化物触媒を用いることを特徴とする、プロパンの気相での接触酸化反応によるアクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2000−354765(P2000−354765A)
【公開日】平成12年12月26日(2000.12.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−171636
【出願日】平成11年6月17日(1999.6.17)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】