説明

金属錯体、発光素子、表示装置

【課題】良好な発光特性を有する金属錯体を提供する。
【解決手段】 以下の組成を含む金属錯体。
[(MII(M(L)] (C1)
ここで、MIIは、PtII及びPdIIのうちの一種又は両者の組み合わせであり、Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl及びPbの一種又は二種以上の組み合わせであり、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。複数存在するMII、M、Lは、各々、同一であっても異なっていてもよい。


式中、A環は、炭化水素環又は複素環を表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光特性を有する金属錯体に関する。また、本発明は、この金属錯体を含む発光層を有する発光素子に関する。また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、液晶に代わる発光ディスプレイ(表示装置)として、有機EL素子が注目を集めている。従来の有機EL素子では、一重項励起状態からの発光(蛍光)が利用されてきた。この場合には、有機EL現象の原理から25%の発光効率が最大となり、非常に発光効率が悪かった。
【0003】
発光効率を上げる方法として、最近特に注目されているのが三重項励起状態から生じるリン光である(例えば、非特許文献1参照)。
この場合、原理的には100%の発光効率が可能となる。
【0004】
ところで、PtIIイオンにジイミン類やターピリジン及びその誘導体が配位した錯体は、MLCT(metal−to−ligand charge transferの略。金属イオンから配位子への電荷移動)や、MMLCT(metal−metal−to−ligand charge transferの略。金属−金属間相互作用により生じたdσ軌道から配位子への電荷移動)に起因した発光を示すものが多く、これらの化合物の光物理的性質に興味が持たれている(例えば、非特許文献2参照)。
さらに、複数のCuIイオンやAuIイオンをピラゾールやその誘導体が架橋した多核錯体が発光することも知られている(例えば、非特許文献3参照)。
従って、分子内にPtIIイオンとCuイオン、AgIイオン、あるいはAuIイオンを含み、これらの金属イオンをピラゾールやその誘導体で架橋すると、異種金属イオン間の協奏的効果による発光特性を兼ね備えた新たな分子の創出が期待できる。
【0005】
このような着想に基づいて新規な金属錯体を開発するにあたり、3,5-ジメチルピラゾラト配位子が2つのPdIIイオンと4つのAgIイオンを架橋した混合金属錯体[Pd2Ag4(μ-dmpz)8](非特許文献4参照)が類似化合物として知られているが、この化合物の発光特性については全く報告がない。
【0006】
また、本発明者らも置換基を持たないピラゾラト配位子を用いてPtIIイオンとAgIイオンを架橋した混合金属錯体[Pt2Ag4(μ-pz)8](非特許文献5参照)を既に合成しているが、この化合物は発光を示さない。
【0007】
【非特許文献1】M. A. Baldo, S. Lamansky, P. E. Burrows, M. E. Thompson, S. R. Forrest, Appl. Phys. Lett., 1999, 75, 4-6.
【非特許文献2】S.-W. Lai, C.-M. Che, Topics in Current Chemistry, 2004, 241(Transition Metal and Rare Earth Compounds III), 27-63.
【非特許文献3】H. V. R. Dias, H. V. K. Diyabalanage, M. G. Eldabaja, O. Elbjeirami, M. A. Rawashdeh-Omary, M. A. Omary, J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 7489-7501.
【非特許文献4】G. A. Ardizzoia, G. La Monica, S. Cenini, M. Moret, N. Masciocchi, J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1996, 1351-1357.
【非特許文献5】K. Umakoshi, Y. Yamauchi, K. Nakamiya, T. Kojima, M. Yamasaki, H. Kawano, M. Onishi, Inorg. Chem. 2003, 42, 3907-3916.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、良好な発光特性を有する金属錯体を提供することを目的とする。
また、本発明は、この金属錯体を発光層に有する発光素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の第1の金属錯体は、以下の(C1)〜(C5)のうちの少なくともいずれかの組成を含む。
[(MII(M(L)] (C1)
[(MII(M(X)(L)] (C2)
[(MII(M(X)(L)] (C3)
(M)[(MII(M(X)(L)] (C4)
(MII)[(MII(M(X)(L)] (C5)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。Xは、Cl、Br又はIを表す。Mは、アルカリ金属イオン、アルキルアンモニウムイオン又は有機陽イオンを表す。MIIは、アルカリ土類金属イオンを表す。複数存在するMII、M、L、X及びMは、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【0010】
【化4】

【0011】
式中、A環は、炭化水素環、もしくは複素環、又はこれらの組み合わせを表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。
なお、複素環とは、炭素原子以外の原子(窒素原子等)を含むヘテロ環のことである。
【0012】
また、本発明の第2の金属錯体は、以下の(C6)の組成を含む。
[(MII(M(L)(L2)] (C6)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。L2は、下記式(2)で表される構造を表す。複数存在するMII、M、L及びL2は、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
【化5】

【0014】
式中、A環は、炭化水素環、もしくは複素環、又はこれらの組み合わせを表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。
【0015】
【化6】

【0016】
式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。
【0017】
本発明の発光素子は、前記第1の金属錯体又は前記第2の金属錯体を含む発光層を有することを特徴とする。
本発明の表示装置は、前記発光素子を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上述の本発明の金属錯体によれば、良好な発光特性を有する、新規な金属錯体を提供することができる。
本発明の発光素子によれば、新規な発光素子を提供することができる。
本発明の発光装置によれば、新規な発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
まず、本発明の金属錯体について説明する。
本発明の第1の金属錯体は、以下の(C1)〜(C5)のうちの少なくともいずれかの組成を含む。
[(MII(M(L)] (C1)
[(MII(M(X)(L)] (C2)
[(MII(M(X)(L)] (C3)
(M)[(MII(M(X)(L)] (C4)
(MII)[(MII(M(X)(L)] (C5)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、前記式(1)で表される構造を表す。Xは、Cl、Br又はIを表す。Mは、アルカリ金属イオン、アルキルアンモニウムイオン又は有機陽イオンを表す。MIIは、アルカリ土類金属イオンを表す。複数存在するMII、M、L、X及びMは、各々、同一であっても異なっていてもよい。
本発明の第2の金属錯体は、以下の(C6)の組成を含む。
[(MII(M(L)(L2)] (C6)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、前記式(1)で表される構造を表す。L2は、前記式(2)で表される構造を表す。複数存在するMII、M、L及びL2は、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
即ち、本発明の第1の金属錯体は、配位子Lを用いて構成され、白金又はパラジウムと、11族〜13族の1価の金属イオン(Au、Ag、Cu、Hg、Tl、Pbのいずれか)とを有する多核金属錯体である。そして、式(C1)〜式(C5)で表される組成のうち、少なくとも1つの組成を含んでおり、2つ以上の組成を含んでいてもよい。式(C2)〜(C5)の組成では、さらに、ハロゲン化物イオン(X=Cl、Br又はI)を有する。式(C4)では、さらに、1価の陽イオン(リチウムイオンやナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、テトラn−ブチルアンモニウムイオン等のアルキルアンモニウムイオン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムイオン等の有機陽イオン)Mを有する。式(C5)の組成では、アルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオン、カルシウムイオン、等)MIIを有する。
【0022】
また、本発明の第2の金属錯体は、配位子L及び配位子L2を用いて構成され、白金又はパラジウムと、11族〜13族の1価の金属イオン(Au、Ag、Cu、Hg、Tl、Pbのいずれか)とを有する多核金属錯体である。そして、式(C6)で表される組成を含んでいる。
【0023】
ピラゾール化合物LHは、基本的に、下記式(1−1)の構造であり、下記式(1−1)において、環Aで表される炭化水素環、複素環は、芳香環でも非芳香環でもよく、これらの環の水素原子の一部又は全部が置換されたものであってもよい。前記炭化水素環の具体例としては、ベンゼン環、脂環式炭化水素等が挙げられる。これらの環の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。また、これらの環が複数縮合してなる環、これらの環が単結合等で複数結合してなる環等であってもよい。
具体的な構造としては、例えば、後述する化合物群が挙げられる。
は、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい1価の複素環基を表す。
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示される。
で表されるアルキル基は、直鎖又は分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜8程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が好ましい。更に好ましくは、メチル基が挙げられる。置換されているアルキル基としては、ハロゲン原子で置換されたアルキル基が好ましい。
で表されるアリール基は、炭素数が通常6〜16程度であり、好ましくは6〜10である。具体的には、フェニル基、C〜Cアルコキシフェニル基(「C〜Cアルコキシ」は、アルコキシ部分の炭素数が1〜4であることを意味する。以下、同様である。)、C〜Cアルキルフェニル基(「C〜Cアルキル」は、アルキル部分の炭素数が1〜4であることを意味する。以下、同様である。)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ペンタフルオロフェニル基等が例示され、C〜Cアルコキシフェニル基、C〜Cアルキルフェニル基が好ましい。ここに、アリール基とは、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた原子団である。ここに芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
〜Cアルコキシとして具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が例示される。
〜Cアルキルとして具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等が例示される。
で表される1価の複素環基は、複素環式化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいい、炭素数は通常4〜14程度であり、好ましくは4〜9である。なお、1価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。ここに複素環式化合物とは、環式構造を持つ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、燐原子、硼素原子等のヘテロ原子を環内に含むものをいう。具体的には、チエニル基、C〜Cアルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C〜Cアルキルピリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基等が例示され、チエニル基、C〜Cアルキルチエニル基、ピリジル基、C〜Cアルキルピリジル基が好ましい。
強発光性錯体を得るためには、白金原子の配位平面の上部(dz軌道が張り出している空間)を、適した大きさの置換基Rで覆うことが、混合金属錯体の分子設計上有用である。また、A環上の適切な位置に、適した大きさの置換基を導入することでも、同様の効果が期待できる。
なお、下記式(1−1)は、前記式(1)とは、5員環部分の標記が異なっているが、実質的な構成は同等である。また、ここでは、電荷を持たないピラゾール化合物をLHと表し、ピラゾール化合物から水素イオンが解離した一価の陰イオンをLと表すものとする。
【0024】
【化7】

【0025】
このようなピラゾール化合物LHの構造としては、例えば、下記構造が挙げられる。なお、下記に挙げる各構造において、Rは、水素原子H、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等である。
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示される。
で表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜6程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が好ましい。更に好ましくは、メチル基が挙げられる。
で表されるアルコキシ基は、直鎖又は分岐のいずれでもよい。炭素数は通常1〜6程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が例示される。
複数存在するRは、同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
【化8】

【0027】
これらの構造のうち、最初の左上の構造で、R及びRを水素原子Hとした化合物を、インダゾールと呼ぶ。インダゾールは、ベンゼンと複合した構成のピラゾール化合物であり、市販の化合物として入手することが可能である。
【0028】
また、ピラゾール化合物L2Hは、基本的に、下記式(2−1)の構造であり、下記式(2−1)において、R,R,Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリール基等である。
〜Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示される。
〜Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜6程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が好ましい。更に好ましくは、メチル基が挙げられる。
〜Rで表されるアルコキシ基は、直鎖又は分岐のいずれでもよい。炭素数は通常1〜6程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が例示される。
〜Rで表されるアリール基は、フェニル基、トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が例示される。
なお、下記式(2−1)は、前記式(2)とは、5員環部分の標記が異なっているが、実質的な構成は同等である。また、ここでは、電荷を持たないピラゾール化合物をL2Hと表し、ピラゾール化合物から水素イオンが解離した一価の陰イオンをL2と表すものとする。
【0029】
【化9】

【0030】
次に、本発明の金属錯体の分子構造の例のいくつかの形態を、以下に示す。
【0031】
【化10】

【化11】

上記各構造は、式(C4)の構造例であり、同一組成で構造が異なる2つの異性体を示している。化10に示した構造では、MII原子にA環に近いN原子とR基に近いN原子が配位しているのに対し、化11に示した構造では、MII原子にはR基に近いN原子のみで配位している。
【0032】
【化12】

【化13】

【化14】

上記各構造は、式(C3)の構造例であり、同一組成で構造が異なる3つの異性体を示している。化12に示した構造では、MII原子にA環に近いN原子とR基に近いN原子が配位しているのに対し、化13に示した構造では、MII原子にはR基に近いN原子のみで配位している。また、化14に示した構造では、MII原子にはA環に近いN原子のみで配位している。
【0033】
【化15】

上記構造は式(C2)の構造例である。
【0034】
【化16】

上記構造は式(C1)の構造例である。
【0035】
次に、本発明の金属錯体の合成方法について説明する。
本発明の金属錯体は、ピラゾール化合物(LH及びL2H)を原料として、合成することができる。
【0036】
まず、本発明の第1の金属錯体及び第2の金属錯体を構成するピラゾール化合物(LH及びL2H)の合成について説明する。
これらのピラゾール化合物は、市販の化合物として購入し、使用することができる。また、既知の方法を用いて、又は、既知の方法を組み合わせることによって、合成することができる。
例えば、以下の方法により、ピラゾール化合物を合成することができる。
まず、J.Am.Chem.Soc.,72,1352−1356(1950)に記載の方法により、中間体であるジケトン化合物を得る。
次に、このジケトン化合物と、ヒドラジン又はヒドラジン一水和物とを、Bull.Soc.Chim.,45,877−884(1929)、Chem.Abstr.,24,7541(1930)、Tetrahedron,42,15,4253−4257(1986)、Heterocycles,53,1285(2000)に記載の方法等により、反応させることによって、前記式(1−1)及び式(2−1)のピラゾール化合物を合成することができる。
【0037】
所望のジケトン化合物の合成法は、上述の合成法に限らず合成することができる。例えば、β−不飽和ケトンの酸化反応や、ケトカルボン酸と、アルキルブロマイドのGrignard試薬との反応によっても合成できる。
【0038】
また、ピラゾール化合物は、ジケトン化合物を原料とする上述の方法に限らず、J.Heterocyclic Chem.,35,1377(1998)、Organic Syntheses,39,27−30(1959)、J.Heterocyclic Chem.,21(4),937−943(1984)、J.Am.Chem.Soc.,79,5242−5245(1957)、J.Heterocyclic Chem.,24(1),117−119(1981)、J.Medicinal Chemistry,24(1),117−119(1981)、J.Medicinal Chemistry,20(6),847−850(1977)、J.Heterocyclic Chem.,21(4),937−943(1984)、J.Chem.Soc.,Perkin Transactions1,(23),2901−2907(1973)に記載の方法、又はそれらの方法に準じても、合成することができる。
【0039】
続いて、ピラゾール化合物(LH及びL2H)を使用した、本発明の金属錯体の合成方法を説明する。
ただし、以下では、BzpzHは前述したインダゾールを、Bzpzはインダゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンを表すものとする。また、dmpzHは3,5-ジメチルピラゾールを、dmpzは3,5-ジメチルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンを表すものとする。
【0040】
まず、本発明の第1の金属錯体及び第2の金属錯体を製造する際の中間生成物となる金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]の合成方法について説明する。
この金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]は、例えば次のようにして、合成することができる。
[PtCl2(C2H5CN)2]とBzpzHとを1:2のモル比でトルエン中において反応させることにより、[PtCl2(BzpzH)2]を合成する。なお、[PtBr2(BzpzH)2]、[PtI2(BzpzH)2]も、同様にして合成することができる。
【0041】
次に、本発明の第1の金属錯体を製造する際の2段階目の中間生成物となる金属錯体[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]の合成方法について説明する。
この金属錯体[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]は、例えば次のようにして、合成することができる。
[PtCl2(BzpzH)2]に、等量の銀イオンを作用させることにより、析出したAgClを濾別し、その濾液にBzpzHを加えて還流することにより、[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]を合成する。
[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。この他に、次のような合成方法がある。
[PtCl2(C2H5CN)2]とBzpzHとを1:3のモル比でトルエン中において反応させることにより、[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]を合成する。なお、[PtBr(Bzpz)(BzpzH)2]、[PtI(Bzpz)(BzpzH)2]も、同様にして合成することができる。
[PtCl(Bzpz)(BzpzH)2]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。この他に、次のような合成方法がある。
[PtCl2(C2H5CN)2]を水、メタノール又はエタノールに懸濁させ、過剰量のBzpzHを加えて、1時間還流する。放冷後、溶液を減圧濃縮し、アセトン又はジエチルエーテルを加えると、沈殿が析出する。析出した沈殿をNaOH,KOH等の塩基で処理して、得られる固体をメタノール及び水で洗浄した後、減圧乾燥する。
【0042】
次に、本発明の第1の金属錯体の一例として、(n-Bu4N)2[Pt2Ag2Cl4(μ-Bzpz)4]の合成方法について説明する。この金属錯体は、前記式(C4)において、Mをテトラn−ブチルアンモニウムイオン、MIIを白金(II)イオン、Mを銀(I)イオン、Xを塩化物イオン、Lをインダゾラト配位子とした構成である。
上述のように合成した金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]と等量のAgBF4とを反応させた溶液に、n-Bu4NCl溶液を加えることにより、金属錯体(Bu4N)2[Pt2Ag2Cl4(μ-Bzpz)4]を合成する。
そして、さらに(Bu4N)2[Pt2Ag2Cl4(μ-Bzpz)4]にAgBF4を反応させることにより、前記式(C3)で表される錯体[Pt2Ag4(μ-Cl)4(μ-Bzpz)4]を合成する。
[Pt2Ag4(μ-Cl)4(μ-Bzpz)4]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。この他に、次のような合成方法がある。
[PtCl2(BzpzH)2]に2当量のAgBF4を反応させ、反応溶液を徐々に自然濃縮することにより、[Pt2Ag4(μ-Cl)4(μ-Bzpz)4]を合成する。
【0043】
次に、本発明の第1の金属錯体の一例として、[Pt2Ag4(μ-Cl)2(μ-Bzpz)6]の合成方法について説明する。この金属錯体は、前記式(C2)において、MIIを白金(II)イオン、Mを銀(I)イオン、Xを塩化物イオン、Lをインダゾラト配位子とした構成である。
上述のように合成した金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]に、等量のBzpzHと3当量のAgBF4とを加えた溶液を、遮光下で還流することにより、金属錯体[Pt2Ag4(μ-Cl)2(μ-Bzpz)6]を合成する。
[Pt2Ag4(μ-Cl)2(μ-Bzpz)6]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。この他に、次のような合成方法がある。
[Pt2Ag4(μ-Cl)4(μ-Bzpz)4]に2当量のAgBF4と2当量のBzpzHを加えた溶液を、遮光下で還流することにより、金属錯体[Pt2Ag4(μ-Cl)2(μ-Bzpz)6]を合成する。
【0044】
次に、本発明の第1の金属錯体の一例として、[Pt2Ag4(μ-Bzpz)8]の合成方法について説明する。この金属錯体は、前記式(C1)において、MIIを白金(II)イオン、Mを銀(I)イオン、Lをインダゾラト配位子とした構成である。
上述のように合成した金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]に2当量のBzpzHと4当量のAgBF4を加えた溶液を、遮光下で還流することにより、金属錯体[Pt2Ag4(μ-Bzpz)8]を合成する。
[Pt2Ag4(μ-Bzpz)8]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。この他に、次のような合成方法がある。
[Pt2Ag4(μ-Cl)4(μ-Bzpz)4]に4当量のAgBF4と4当量のBzpzHを加えた溶液を、遮光下で還流することにより、金属錯体[Pt2Ag4(μ-Bzpz)8]を合成する。
【0045】
次に、本発明の第2の金属錯体を製造する際の2段階目の中間生成物となる金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]の合成方法について説明する。
この金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]は、例えば次のようにして、合成することができる。
トリエチルアミンの存在下、[PtCl2(BzpzH)2]に、3,5-ジメチルピラゾールを反応させることにより、trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]を合成する。
trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。
【0046】
次に、本発明の第2の金属錯体の一例として、[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の合成方法について説明する。この金属錯体は、前記式(C6)において、MIIを白金(II)イオン、Mを銅(I)イオン、Lをインダゾラト配位子、L2を3,5-ジメチルピラゾラト配位子とした構成である。
上述のように合成した金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]に、2当量の[Cu(CH3CN)4]BF4を加えて反応させることにより、金属錯体[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成する。
[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。
【0047】
次に、本発明の第2の金属錯体の一例として、[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]の合成方法について説明する。この金属錯体は、前記式(C6)において、MIIを白金(II)イオン、Mを銀(I)イオン、Lをインダゾラト配位子、L2を3,5-ジメチルピラゾラト配位子とした構成である。
上述のように合成した金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]に、2当量のAgBF4を加えて反応させることにより、金属錯体[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成する。
[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]の合成方法は、上述した合成方法に限定されない。
【0048】
次に、本発明の金属錯体の用途について説明する。
上述の金属錯体は、有機EL素子等の発光素子の発光層に含有させる発光剤としての用途がある。
なお、上述の金属錯体の用途は、発光剤に限定されない。この他、有機分子やガス分子等のセンサーや制癌剤、或いは、普段は無色透明であるが紫外光照射時のみ発光する塗料等の用途がある。
【0049】
次に、上述の金属錯体を発光層に含有する発光素子について説明する。
本発明の発光素子の一例の断面図を、図1に示す。
図1に示す発光素子は、ガラス等の透明な基板1の上に、陽極2が形成され、この陽極2の上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層7が積層形成され、さらに電子注入層7の上に陰極8が形成された構成である。
即ち、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7の5層が積層形成された、5層型の発光素子となっている。
【0050】
本発明の発光素子は、上述の5層型の発光素子に限定されない。
この他、5層型の発光素子から電子輸送層を省略した4層型の発光素子であってもよい。また、5層型の発光素子から正孔注入層と電子注入層を省略した3層型の発光素子であってもよい。また、3層型の発光素子の発光層と電子輸送層を兼用して1つの層とする2層型の発光素子であってもよい。また、陽極と陰極の間に発光層のみが形成される単層型であってもよい。
【0051】
本発明の金属錯体を有利に適用し得る発光素子は、本質的に、発光能を有する金属錯体を含んでなる発光素子であって、通常、正電圧を印加する陽極と、負電圧を印加する陰極と、陽極から正孔を注入して輸送する正孔注入/輸送層と、陰極から電子を注入して輸送する電子注入/輸送層と、正孔と電子を再結合させ発光を取り出す発光層とを含んでなる積層型発光素子が重要な適用対象となる。
【0052】
本発明の金属錯体は、顕著な発光能を有するので、発光素子におけるホスト発光剤として極めて有用である。
さらに、この金属錯体は、正孔注入/輸送層用剤、電子注入/輸送層用剤、さらには、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム等の、8−キノリノール類を配位子とする金属錯体を始めとする他のホスト発光剤に微量ドープしてその発光効率や発光スペクトルを改善するためのゲスト発光剤としても機能する。
このことから、これらの材料の単独又は複数が不可欠の要素となる発光素子において、単独で、或いは、ジシアノメチレン(DCM)類、クマリン類、ペリレン類、ルブレン類等の他の発光剤や正孔注入/輸送層用剤及び/又は電子注入/輸送層用剤と組み合わせて、極めて有利に用いることができる。
【0053】
なお、積層型発光素子において、発光剤が正孔注入/輸送能又は電子注入/輸送能を兼備する場合には、それぞれ、正孔注入/輸送層又は電子注入/輸送層を省略することがあり、また、正孔注入/輸送層用剤及び電子注入/輸送層用剤の一方が他方を兼備する場合には、それぞれ、電子注入/輸送層又は正孔注入/輸送層を省略することがある。
【0054】
本発明の金属錯体は、単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにも適用可能である。
発光素子の動作は、本質的に、電子及び正孔を電極から注入する過程、電子及び正孔が固体中を移動する過程、電子及び正孔が再結合し、三重項励起子を生成する過程、そして、その励起子が発光する過程からなり、これらの過程は単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。
ただし、単層型発光素子においては、発光剤の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改良し得るのに対して、積層型発光素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させると共に、それぞれの材料を独立して最適化することができることから、一般的には、単層型に構成するより積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0055】
上述の発光素子は、表示装置に用いることができる。即ち、発光素子を構成要素とする表示装置においては、この発光素子の発光層に上述の本発明の金属錯体を含有させることができる。
【0056】
なお、本発明は、上述の発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成を採り得る。
【実施例】
【0057】
(合成例1)
実際に、本発明の第1の金属錯体を製造する際の中間生成物となる金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]を合成した。具体的には、白金錯体[PtCl2(C2H5CN)2]を使用して、以下のようにして合成を行った。
まず、[PtCl2(C2H5CN)2](200mg,0.53mmol)を含むトルエン溶液(20ml)とインダゾール(BzpzH)(125mg,1.06mmol)のトルエン溶液(20ml)とを混合し、Ar雰囲気下で24時間還流した。
さらに、溶液を冷却して、析出した黄色固体を濾別し、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥した。収量は260mg(収率97%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0058】
【化17】

【0059】
この化合物は、UV光照射下、固体状態で、オレンジ色に強く発光した。
再結晶はアセトンから行った。
溶媒への溶解性は、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドに可溶である。
【0060】
この金属錯体について、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3218(br),1626(m),1510(m),1439(w),1389(m),1355(s),1281(m),1244(m),1149(m),1122(m),1095(m),1003(m),899(w),869(m),840(s),784(w),751(vs),673(vs),617(m),571(m),526(m),456(s),440(s),336(vs),308(vs)
【0061】
また、H NMRスペクトルにより同定を試みた。結果は、以下の通りであった。
H NMR(300MHz/DMSO-d6):δ6.38(dt、1H)、6.63(dt、1H)、6.77(d、1H)、7.01(d、1H)、7.69(s、1H)、13.05(s、1H)
【0062】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=502[M]+
【0063】
得られた金属錯体の構造について説明する。
この金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表1に示す。
【0064】
【表1】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0065】
この金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]の分子構造を、図2のORTEP図に示す。
[PtCl2(BzpzH)2]は、塩化物イオンが2つ、BzpzH配位子が2つ、それぞれ配位した無電荷の単核錯体であり、BzpzH配位子は2位のN原子でPt原子に配位している。Pt原子は結晶学的な対称中心上に位置し、分子の半分の原子が独立である。Pt−N距離は1.990(6)Åであり、Pt−Cl距離は2.302(2)Åである。
【0066】
この金属錯体[PtCl2(BzpzH)2]について、固体状態とジクロロメタン中で、それぞれ発光スペクトルの測定を行った。
測定して得られた発光スペクトルのうち、固体状態の発光スペクトルを、図3に示す。
この金属錯体は、固体状態では639nmに発光極大をもつオレンジ色の発光(発光量子収率Φ=0.08)を示したが、ジクロロメタン中、室温ではほとんど発光を示さなかった。
【0067】
また、固体状態で、この錯体の発光減衰曲線の測定を行った。励起光源として、Nd+-YAG Laserの第三高調波(355nm,繰り返し周波数10Hz)を用い、ストリークカメラ(Hamamatsu Photonics Inc., C4334)を用いて検出した。
発光減衰曲線は、単一指数関数で解析することができ、発光寿命は14.5μsであった。
発光寿命が比較的長いことより、他の類似錯体と同様に励起三重項状態からの発光であると考えられる。
【0068】
(実施例1)
中間原料として、金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]を合成し、この中間原料を用いて本発明の第2の金属錯体の一種である[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成した。この金属錯体は、本発明の第2の金属錯体において、Mを銅イオンとした構成である。
以下、この金属錯体の合成方法の詳細について説明する。
【0069】
まず、中間原料である金属錯体trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]を合成した。
具体的には、[PtCl2(BzpzH)2](75mg,0.15mmol)と、3,5-ジメチルピラゾール(dmpzH)(30mg,0.31mmol)とを含むアセトン溶液(20ml)に、トリエチルアミン42μlを加え、Ar雰囲気下で24時間還流した。還流開始後15分程度で、黄色の懸濁溶液が白色の懸濁溶液に変化した。反応終了後、白色固体をろ別し、アセトンで洗浄した後、減圧乾燥した。収量は68mg(収率73%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0070】
【化18】

【0071】
得られた白色固体は、固体状態で黄色の発光を示した。
この固体を、ジクロロメタン/ジエチルエーテルから再結晶することにより、単結晶X線構造解析に適した無色の結晶を得た。
この固体は、クロロホルム、ジクロロメタンに可溶であった。
【0072】
この固体について、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3227(m),3046(w),2924(w),1631(m),1618(m),1588(s),1502(m),1421(m),1382(s),1359(m),1324(m),1311(m),1261(m),1250(m),1208(m),1173(w),1145(m),1124(m),1095(s),1038(w),1014(s),984(m),906(m),852(w),834(m),784(s),751(s),727(s),661(s),620(w),569(m),543(w),453(m),429(m),330(m)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表2の通りである。
【0073】
【表2】

【0074】
次に、得られた中間原料trans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]の構造について説明する。
この中間原料の固体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
X線構造解析の結果、この[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]の結晶構造は、図4のORTEP図に示すように、結晶中に独立な2分子の[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]が存在することが分かった。
[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]は、水素イオンが解離して陰イオンとなったBzpz配位子が2つ、無電荷のdmpzH配位子が2つ、それぞれ配位した、分子全体として無電荷の単核錯体である。
それぞれのPt原子は結晶学的な2回回転軸上に位置し、各々の分子に含まれる原子のうち半分が独立である。Pt−N距離は2.007(6)Å〜2.016(6)Åの範囲にある。分子内及び分子間の水素結合は存在しない。また、分子間の金属間相互作用も存在しない。
【0077】
次に、中間原料の単核錯体[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]から、本発明の第2の金属錯体の1つである[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成した。
具体的には、単核錯体[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2](56mg,0.090mmol)を含むアセトニトリル溶液(20ml)と、[Cu(CH3CN)4]BF4(59mg,0.19mmol)のアセトニトリル溶液(10ml)を混合し、トリエチルアミン40μl(0.29mmol)を加えて、Ar雰囲気下、室温で12時間撹拌した。白色の懸濁液は、徐々に褐色に変化した。
生成した固体を濾別し、減圧乾燥した。収量は36mg(収率54%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0078】
【化19】

【0079】
THF/CHCNから、再結晶を行ったところ、無色の針状結晶を得た。
この得られた結晶は、UV光照射下、固体状態で赤色の発光を示した。
得られた結晶は、THFに可溶であり、塩化メチレン、クロロホルムに微溶であり、メタノール、エーテル、アセトニトリルに難溶であった。
【0080】
さらに、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3062(w),2916(m),1620(s),1529(s),1505(w),1456(w),1400(w),1381(m),1324(m),1261(w),1210(m),1145(m),1126(w),1090(s),909(m),800(m),788(m),755(s),734(s),654(m),466(m),430(m),399(w),374(w),356(m)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表4の通りである。
【0081】
【表4】

【0082】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1493.21[M]+
【0083】
(実施例2)
実施例1でも用いた単核錯体を中間原料として用いて、本発明の第2の金属錯体の1種である[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成した。この金属錯体は、本発明の第2の金属錯体において、Mを銀イオンとしたものである。
以下、この金属錯体の合成方法の詳細について説明する。
【0084】
まず、実施例1と同様に、中間原料の単核錯体[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]を合成した。
次に、この中間原料の単核錯体[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]から、本発明の第2の金属錯体の1つである[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]を合成した。
具体的には、単核錯体[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2](100mg,0.16mmol)のアセトニトリル溶液に、AgBF4(121mg,0.62mmol)のアセトニトリル溶液を加えた。そして、トリエチルアミン78μlを加えて、Ar雰囲気下で24時間撹拌した。
反応が進むにつれ、白色の懸濁液は徐々に赤褐色を帯びた。
生成した固体を濾別し、赤褐色を帯びた白色の固体を得た。収量は72mg(収率54%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0085】
【化20】

【0086】
再結晶はクロロホルム/アセトニトリルから行い、無色の針状結晶を得た。
この得られた結晶は、UV光照射下、ほとんど発光を示さなかった。
また、得られた結晶は、クロロホルム中で281nmに吸収極大(ε46000dm3 mol-1 cm-1)と305nm付近及び316nm付近に吸収のショルダーを示した。
得られた結晶は、クロロホルム、アセトン、THFに可溶であり、エーテルに微溶であり、アセトニトリル、メタノール、塩化メチレンに難溶であった。
【0087】
さらに、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3056(w),2917(w),1621(s),1529(s),1504(m),1455(w),1418(s),1396(m),1381(s),1347(m),1324(s),1260(w),1209(m),1144(m),1125(m),1085(s),1049(m),1015(m),986(w),907(m),840(w),798(m),788(m),768(m),753(s),731(s),653(m),432(m),351(m)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表5の通りである。
【0088】
【表5】

【0089】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1671.0[M+H]+
【0090】
続いて、実施例1及び実施例2においてそれぞれ得られた、金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
実施例1で得られた金属錯体[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の分子構造を、図5のORTEP図に示す。
図5に示すように、2つの[Pt(Bzpz)2(dmpz)2]2−ユニットが4つのCu(I)イオンを挟んだ構造をとっている。各々の[Pt(Bzpz)2(dmpz)2]2−ユニットでは、2つのBzpz配位子及び2つのdmpz配位子が互いにtransに配置している。このことから、原料として用いたtrans-[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]は、[Cu(CH3CN)4]BF4との反応において、その立体構造を保持していることがX線構造解析により明らかになった。
また、分子内でCu原子は直線形の2配位構造をとっているが、Bzpz配位子のみが配位したCu原子と、dmpz配位子のみが配位したCu原子の2種類のCu原子が存在することも明らかになった。
[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]におけるPt…Pt距離は4.848(2)Åであり、Pt…Cu距離は3.332(4)〜3.452(3)Åの範囲にあり、Cu…Cu距離は3.278(5)〜3.547(5)Åの範囲にある。
【0093】
ここで、実施例1で得られた金属錯体[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の固体状態の発光スペクトルと発光量子収率とを、浜松ホトニクス株式会社製絶対PL量子収率測定装置C9920を用い、励起波長350nmにて測定した。
その結果、[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]は、700〜800nmにブロードな発光を示し、量子収率は2%であった
【0094】
実施例2で得られた金属錯体[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]の結晶は、[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の結晶と同型であることがわかった。[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]の分子構造を、図6のORTEP図に示す。
図6に示すように、[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]は、[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]と同様に、2つの[Pt(Bzpz)2(dmpz)2]2−ユニットが4つのAg(I)イオンを挟んだ構造をとっている。各々の[Pt(Bzpz)2(dmpz)2]2−ユニットでは、2つのBzpz配位子及び2つのdmpz配位子が互いにtransに配置している。
また、分子内でAg原子は直線形の2配位構造をとっているが、Bzpz配位子のみが配位したAg原子と、dmpz配位子のみが配位したAg原子の2種類のAg原子が存在する。
[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]におけるPt…Pt距離は5.350(2)Åであり、Pt…Ag距離は3.434(3)〜3.613(3)Åの範囲にあり、Ag…Ag距離は3.166(4)〜3.456(4)Åの範囲にある。
【0095】
本発明の金属錯体によれば、良好な発光特性を有する金属錯体を提供することができる。
そして、錯体の安定性(熱的安定性、化学的安定性等)を向上して発光寿命を長くしたり、発光強度を向上したり、色純度を向上したりすることが期待できる。
従って、発光層が本発明の金属錯体を含む発光素子を構成することにより、発光素子において、発光特性の向上や、色純度の向上や、安定性の向上を図ることが期待できる。
そして、発光素子を備えた表示装置に適用した場合に、良好な画質で画像表示を行うことができ、信頼性の高い表示装置を実現することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上の通り、本発明に係る金属錯体は、発光素子、表示装置の製造に有用な材料として、産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す断面図である。
【図2】[PtCl2(BzpzH)2]の分子構造を示すORTEP図である。
【図3】[PtCl2(BzpzH)2]の固体状態の発光スペクトルである。
【図4】[Pt(Bzpz)2(dmpzH)2]の分子構造を示すORTEP図である。
【図5】[Pt2Cu4(Bzpz)4(dmpz)4]の分子構造を示すORTEP図である。
【図6】[Pt2Ag4(Bzpz)4(dmpz)4]の分子構造を示すORTEP図である。
【符号の説明】
【0098】
1 基板、2 陽極、3 正孔注入層、4 正孔輸送層、5 発光層、6 電子輸送層、7 電子注入層、8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(C1)〜(C5)のうちの少なくともいずれかの組成を含む金属錯体。
[(MII(M(L)] (C1)
[(MII(M(X)(L)] (C2)
[(MII(M(X)(L)] (C3)
(M)[(MII(M(X)(L)] (C4)
(MII)[(MII(M(X)(L)] (C5)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。Xは、Cl、Br又はIを表す。Mは、アルカリ金属イオン、アルキルアンモニウムイオン又は有機陽イオンを表す。MIIは、アルカリ土類金属イオンを表す。複数存在するMII、M、L、X及びMは、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【化1】

(式中、A環は、炭化水素環、もしくは複素環、又はこれらの組み合わせを表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。)
【請求項2】
以下の(C6)の組成を含む金属錯体。
[(MII(M(L)(L2)] (C6)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。L2は、下記式(2)で表される構造を表す。複数存在するMII、M、L及びL2は、各々、同一であっても異なっていてもよい。
【化2】

(式中、A環は、炭化水素環、もしくは複素環、又はこれらの組み合わせを表し、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。)
【化3】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよい1価の複素環基を表す。)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の発光素子を備えてなる表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215277(P2009−215277A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218767(P2008−218767)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】