説明

針状ころ軸受用保持器及び針状ころ軸受

【課題】針状ころ軸受の薄肉化を実現する。
【解決手段】本発明の針状ころ軸受用保持器12は、互いに間隔をあけて配置されるとともに、それぞれに針状ころ11の直径よりも小さい幅Wの複数のポケット15が並列して形成された2枚の保持板14と、この2枚の保持板14の前記ポケット15に収容された針状ころ11の外周面が各保持板14の外面から突出するように、2枚の保持板14の間隔sを保持する間隔保持部16と、を備え、間隔保持部16が、少なくとも一方の保持板14を、他方の保持板14側へ部分的に突出させた凸部からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状ころ軸受用保持器及び針状ころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、平面研削盤や円筒研削盤等の加工機械や光学測定器等の各種装置において平面的な往復摺動部分に組み込まれる針状ころ軸受(スライド軸受)が開示されている。この特許文献1の針状ころ軸受は、図4に示すように、平板形状に形成された保持器112に複数のポケット115を形成し、このポケット115内に針状ころ111を組み込んだものである。また、ポケット115の縁部には、針状ころ111の離脱を防止するための突起120がカシメによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−150524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、医療機器や精密機器、生物顕微鏡等の分野では、装置の小型化、精密化がより進められており、平面的な摺動部分における針状ころ軸受の挿入空間も極小化している。そのため、僅かな隙間にも挿入しうる超薄型の針状ころ軸受の実現が求められている。
針状ころ軸受を薄型化する場合、まず、転動体としての針状ころの直径を小さくすることが必要であり、次に、針状ころを保持する保持体を薄肉化する必要がある。針状ころについては、現状の製作技術において直径0.3mm程度の極小化が可能となっているので、この針状ころに対応した保持器を製作することができれば、現状において、最も薄い針状ころ軸受が実現する。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の針状ころ軸受を薄肉化する場合について検討する。特許文献1に記載の針状ころ軸受のように保持器112を一枚の板材によって形成する場合、まず、針状ころ111の直径よりも小さい肉厚の板材が必要となる。現状において、直径0.3mmの針状ころよりも薄肉の板材は存在しているので、保持器112の材料については問題がない。しかし、保持器112の加工において次のような問題が生じる。すなわち、特許文献1の保持器は、1枚の板材にポケット115を貫通形成するとともに、ポケット115の端縁に針状ころ離脱防止のための微小な突起120をカシメによって形成している。ポケットについては薄い板材であってもプレス加工等によって比較的容易に形成することができるが、突起120の形成が非常に困難である。
【0006】
したがって、本発明は、針状ころ軸受の薄肉化を実現する針状ころ軸受用保持器及び針状ころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の針状ころ軸受用保持器は、互いに間隔をあけて配置されるとともに、それぞれに針状ころの直径よりも小さい幅の複数のポケットが並列して形成されている2枚の保持板と、
この2枚の保持板の前記ポケットに収容された針状ころの外周面が各保持板の外面から突出するように、2枚の保持板の間隔を保持する間隔保持部と、を備え、
前記間隔保持部が、少なくとも一方の保持板の板面を、他方の保持板側へ部分的に突出させた凸部からなることを特徴とする。
【0008】
このような構成によって、2枚の保持板の間でポケット内に針状ころを収容することができ、しかも針状ころがポケットから離脱しないように保持することができる。また、2枚の保持板の間隔が間隔保持部によって所定に保持されるので、2枚の保持板の間隔が狭くなることによって針状ころが各ポケットの両端縁に同時に接触し、針状ころの回転抵抗が増大してしまうといった不都合が生じることもない。
【0009】
また、薄肉化した保持器を形成するには薄い保持板を使用する必要があるが、薄い保持板に対して細かい加工を行うことは非常に困難である。この点、本発明では、薄い保持板に対してポケットや凸部をプレス加工等によって比較的容易に形成することができ、薄肉化した保持器の製造を実現することができる。
【0010】
他方の保持板には、前記凸部の先端部が嵌合する孔又は凹部が形成されていることが好ましい。
これにより、2枚の保持板の板面に沿う方向の相対位置を正確に合わせることができ、各保持板の互いに対応するポケット同士の位置合わせを適切に行うことができる。
【0011】
前記凸部は、並列されたポケットの間に形成されていることが好ましい。
このような構成によって、凸部がポケットから外れた位置(例えば、保持板の端部)に形成されている場合に比べて、各保持板の互いに対応するポケット同士の位置合わせをより確実に行うことができる。
【0012】
本発明の針状ころ軸受は、上記構成を有する保持器と、この保持器のポケット内に収容された針状ころとを備えていることを特徴とする。
これにより、薄肉化した針状ころ軸受の製造を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄い保持板を用いて薄肉の保持器を製造することができ、針状ころ軸受の薄肉化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る針状ころ軸受の平面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】図2のIII部拡大図である。
【図4】従来技術に係る針状ころ軸受の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る針状ころ軸受の平面図、図2は、図1のII−II断面図、図3は、図2のIII部拡大図である。
本実施形態の針状ころ軸受10は、複数の針状ころ11と、この針状ころ11の間隔を保持する保持器12とを備えている。針状ころ11は、精密機器等の摺動部分に形成された非常に狭い隙間にも挿入可能となるように、直径が極小化されており、図3に示すように、例えば、約0.3mmの直径Dを有するものが使用される。
【0016】
保持器12は、2枚の保持板14から構成されている。各保持板14は、針状ころ11の直径Dよりも薄い厚さtの金属製の薄板材からなり、本実施形態の保持板14には、針状ころ11の直径約0.3mmに対して、厚さ約0.05mmの薄板材が使用されている。
【0017】
図1及び図2に示すように、2枚の保持板14は、互いに同一寸法に形成された長方形状の板材であり、その長手方向の両端部同士が固着され、この両端部を除く中間部分が互いに間隔s(図3参照)をあけて配置されている。そして、各保持板14には、針状ころ11を収容するための複数のポケット15が保持板14の長手方向に沿って等間隔に並設されている。2枚の保持板14の両端部は、例えばマイクロレーザ溶接により接合することができ、各ポケット15は、プレス加工によって形成することができる。
【0018】
各保持板14に形成されたポケット15の位置及び数は同一とされ、2枚の保持板14は、互いに対応するポケット15同士の位置が適合するように接合されている。各ポケット15は、針状ころ11の長さよりもやや長い長さと、針状ころ11の直径Dよりもやや小さい幅W(図3参照)とを有する長方形状に形成されている。
【0019】
2枚の保持板14は間隔sをあけて配置されているので、保持器全体の厚さTは、2枚の保持板14の厚さtと間隔sとを足し合わせた寸法となる。本実施形態では、保持板14の厚さtが約0.05mmであり、間隔sが約0.1mmであるので、保持器12の厚さTは、約0.2mmとなる。この保持器12の厚さ寸法Tは針状ころ11の直径Dよりも小さいので、ポケット15に収容された針状ころ11は、その外周面の一部が各保持板14の外面から突出する。
【0020】
図3に示すように、上側の保持板14には、下側の保持板14に向けて下方へ突出(膨出)する平面視円形状の凸部16が形成されている。この凸部16は、ポケット15と同様にプレス加工によって保持板14の板面を下方に塑性変形させることによって形成されている。したがって、上側の保持板14の上面側には凹み17が形成される。また、下側の保持板14には、凸部16に対応する位置に円形状の孔18が形成されている。この孔18もプレス加工によって形成される。そして、凸部16の先端が所定の深さで孔18に嵌合されることによって、2枚の保持板14の間隔sが所定に保持されている。
【0021】
したがって、上側の保持板14に形成された凸部16は、上下の保持板14の間隔sを保持するための間隔保持部として機能している。また、下側の保持器12に形成された孔18は、凸部16が嵌合することによって2枚の保持板14の板面に沿う方向の相対位置を設定するための位置決め部として機能している。そして、これら間隔保持部と位置決め部とは、並列するポケット15の各間のうちの数カ所(図示例では4箇所)であって、ポケット15の長さ方向の略中央部に配置されている。
【0022】
以上説明したように、本実施形態では、互いに間隔sをあけて配置された2枚の保持板14によって保持器12が構成され、各保持板14に形成されたポケット15の幅Wが針状ころ11の直径Dよりも小さい寸法に設定されている。そのため、2枚の保持板14の間でポケット15に収容された針状ころ11を、ポケット15から離脱することなく保持することができる。したがって、従来技術(図7参照)のようにポケット115からの離脱を防止するための突起120をポケット115の端縁に形成する必要が無く、プレス加工によって容易にポケット15を形成することができる。そのため、極めて薄い針状ころ軸受10の製作が実現する。
【0023】
また、薄肉の保持板14を使用した場合、板面方向の撓みが問題となるが、本実施形態では、上側の保持板14に形成された凸部(間隔保持部)16によって2枚の保持板14の間隔sが所定に保持されているので、2枚の保持板14の間隔sが所定より小さくなることによって、針状ころ11の外周面が各ポケット15の幅方向両縁部に同時に接触し、針状ころ11の回転抵抗が増大してしまうという不都合を回避することができる。
さらに、凸部16は、並列するポケット15の間、すなわち当該ポケット15により近い位置に配置されているので、上記不都合をより確実に回避することができる。
【0024】
また、下側の保持板14には孔18が形成され、この孔18に凸部16を嵌合させることで2枚の保持板14の相対位置が所定に設定されているので、各保持板14の互いに対応するポケット同士を確実に位置合わせすることができる。また、孔18についても並列するポケット間に配置されているので、対応するポケット同士をより確実に位置合わせすることができる。
【0025】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、下側の保持板14には、上側の保持板14に形成された凸部16が嵌合する孔18に代えて、凹部を形成してもよい。
また、凸部16及び孔18(又は凹部)は、上下逆の保持板14に形成してもよい。また、1枚の保持板14に対して凸部16と孔18との双方を互いに異なる箇所に形成してもよい。
【0026】
下側の保持板14に形成された孔18(又は凹部)は省略することができ、この場合、上側の保持板14の凸部16の先端を保持板14の板面に当接させることができる。
【0027】
本発明の用途は特に限定されるものではなく、あらゆる装置の摺動部分に使用することが可能である。特に、従来、滑り軸受を適用せざるを得ないほどの狭い隙間にも本発明の針状ころ軸受10を適用することが可能になるため、摺動抵抗を大幅に低下させることができ、摺動部分の駆動力低減による省エネルギー化にも大きく寄与する。
【符号の説明】
【0028】
10:針状ころ軸受、11:針状ころ、12:保持器、14:保持板、15:ポケット、16:凸部、18:孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて配置されるとともに、それぞれに針状ころの直径よりも小さい幅の複数のポケットが並列して形成されている2枚の保持板と、
この2枚の保持板の前記ポケットに収容された針状ころの外周面が各保持板の外面から突出するように、2枚の保持板の間隔を保持する間隔保持部と、を備え、
前記間隔保持部が、少なくとも一方の保持板の板面を、他方の保持板側へ部分的に突出させた凸部からなることを特徴とする針状ころ軸受用保持器。
【請求項2】
他方の保持板には、前記凸部の先端部が嵌合する孔又は凹部が形成されている請求項1に記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記凸部が、並列されたポケットの間に形成されている請求項1又は2に記載の針状ころ軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の保持器と、この保持器のポケット内に収容された針状ころとを備えていることを特徴とする針状ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163357(P2011−163357A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23140(P2010−23140)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】