説明

針状物体およびその製造方法

【課題】金属やシリコン、合成高分子などからなる針状物体は穿刺時に万が一皮膚内に残存した場合に危険性を伴うため、代替物として注目されている多糖類などの天然物由来の高分子からなる針状物体を提供することにある。多くの天然多糖類は水溶性であり、成形後に吸湿による変形、長期保存の場合の劣化、水性薬剤が塗布出来ない、におい等の問題があり、耐水性を向上させる製造方法を提供する。
【解決手段】分子構造内にカルボキシル基および、またはアミノ基を持つ天然物由来の多糖類は多くの場合、塩を形成して水に溶解する。そこで乾燥固化した成形体を、酸またはアルカリを含む水もしくは、水を少量含む親水性有機溶媒に浸漬して脱塩して耐水性を持たせてなることを特徴とする針状物体とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を持つ天然物由来の多糖類を含む針状物体、およびその製造方法に関するものであり、成形後の吸湿による変形や変質を抑制することが可能な針状物体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
針状物体とは痛みを伴わない微細な注射針であり、これまでの経皮吸収では難しかった薬剤の投与も可能になり、治療の幅が大きく広がるため医療分野等において非常に注目されている。また、針の先端部が毛細血管や神経まで到達しないように設計することで、使用時に出血や痛みを伴わないようにすることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
剛性に優れる金属やシリコン等、また靭性に優れる合成高分子等を用いた針状物体が開発されているが、表皮に直接穿刺するため、万が一皮膚内に残存した場合には危険性を伴う。そのため皮膚内に残存した際に、速やかに分解されるよう、針や基材の部分には生分解性材料の利用が好まれる。
【0004】
分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を有する天然物由来の多糖類は、地球上に豊富に存在する生分解性材料であり、酵素や生化学、薬学、健康食品、医療材料、化粧品など多岐に渡って研究されている。水に可溶であり、乾燥させるだけで容易に成形することが可能である。
【0005】
しかしながら、分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を有する天然物由来の多糖類はもともと水溶性であるため、針状物体を成形した際に、吸湿による変形、長期保存時の劣化、水性薬剤が塗布出来ない、におい等の問題があった。
【0006】
分子構造内にカルボキシル基やアミノ基の塩を有する多糖類を乾燥固化した針状物体は、水に溶解または膨潤しやすく、大気中でも吸湿してしまい、変形や変質の原因となってしまう。特許文献2に記載の技術のように、キトサンフィルムを水含有親水性有機溶剤に浸漬することで有機酸塩を除去する方法が知られている。しかし、キトサンのみならず分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を有する多糖類成形体を脱塩する際には、劣化やにおいの発生を抑えて水性薬剤塗布を可能とするためには、90%以上の脱塩が必要であるため、特許文献2に記載の技術では力不足であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−152180号公報
【特許文献2】特開平6−25433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、耐水性が良好であり、分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を有する多糖類を含む針状物体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため本発明の請求項1においては、微細な針で皮膚を穿刺する針状物体であって、基板と、前記基板上に、複数配列された針状部分と、を備え、少なくとも前記針状部分は、分子構造内にカルボキシル基および/またはアミノ基を持つ多糖類を含むことを特徴とする針状物体、としたものである。
【0010】
また、請求項2の発明は、前記多糖類はキトサン、アルギン酸、多糖類酸化体、およびその誘導体を含む群より選ばれた少なくとも一つ以上の物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の針状物体、としたものである。
【0011】
また、請求項3の発明は、前記キトサン、アルギン酸、多糖類酸化体、およびその誘導体の塩を含む群より選ばれた少なくとも一つ以上の物質のカルボキシル基の90%以上がCOOH型および/またはアミノ基の90%以上がNH2型であることを特徴とする請求項1または2に記載の針状物体、としたものである。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の針状物体の製造方法であって、前記多糖類を、水を含む溶媒に溶解させて多糖類溶液を作製する多糖類溶解段階と、前記針状部分と同形状の凹部を有する凹型に前記多糖類溶液を流し込み、さらに乾燥固化する成形段階と、前記多糖類溶液が固化した多糖類成形体を前記凹型から剥離する剥離段階と、剥離した多糖類成形体を水含有親水性有機溶媒で脱塩する脱塩段階と、を有することを特徴とする針状物体の製造方法、としたものである。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の針状物体の製造方法であって、前記多糖類を、水を含む溶媒に溶解させて多糖類溶液を作製する多糖類溶解段階と、所定形状の容器に所定量の前記多糖類溶液を注入する多糖類溶液注入段階と前記容器に注入された前記多糖類溶液の表面に、複数配列された針状突起を有する凸型をいったん押し当てた後に垂直に引き上げた状態で乾燥固化する成形段階と、前記多糖類溶液が固化した多糖類成形体の針状部分の先端部分を切断して、前記凸型の針状突起から分離する分離段階と、分離した多糖類成形体を水含有親水性有機溶媒で脱塩する脱塩段階と、を有することを特徴とする針状物体の製造方法、としたものである。
【0014】
また、請求項6の発明は、前記脱塩工程において、酸またはアルカリを含む水含有親水性有機溶媒で脱塩することを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の針状物体の製造方法、としたものである。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、医療分野あるいは化粧品分野において有用で、天然由来の生体材料であるため人体への安全性が高く、水不溶性の多糖類針状物体を簡便な方法で安価に得ることができ、吸湿による変形や長期保存の際の劣化がなく、水性薬剤の塗布が可能で、におい等の問題を改善することができる。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の針状物体を模式的に示した側面図。
【図2】本発明の針状物体の製造方法の第1実施形態を模式的に示した側断面図。
【図3】本発明の針状物体の製造方法の第2実施形態を模式的に示した側断面図。
【図4】本発明に用いるキトサンのFT−IRのスペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の脱塩前のキトサン針状物体のFT−IRのスペクトルを示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1の脱塩後のキトサン針状物体のFT−IRのスペクトルを示すグラフである。
【図7】本発明に用いるキトサンならびに本発明の実施例1の脱塩前後のキトサン針状物体のH−NMRのスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0018】
本発明の針状物体は、分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を持つ多糖類からなり、この針状物体を脱塩して耐水性を付与していることを特徴とする。分子構造内にカルボキシル基やアミノ基を持つ多糖類からなる針状物体は、穿刺時に万が一皮膚内に残存した際にも、生分解性を持つ材料であるため速やかに分解されるため、安全である。
【0019】
天然多糖類の種類、由来などは特に限定されず、例えばキトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン、ヒドロキシメチルセルロース等を含む群より選ばれた少なくとも一つ以上の物質を含む針状物体である。
【0020】
ここで、針状物体の形状について説明する。図1は針状物体1の形状を模式的に表した側面図である。平らな基板12の片面側に微小な針状部分11が複数配列されている。針状部分11の形状は、円錐形状、多角錐形状、その他の適宜の形状を選択することが可能である。針状部分11の配列は適宜選択可能で、例えば、矩形格子配列、三角格子配列、六角格子配列、同心円状の配列、1次元的な配列、その他の適宜の配列を選択すればよい。また、基板12の形状も矩形板状、円板状、楕円板状、その他の適宜の形状を選択可能である。
【0021】
次に、本発明の針状物体の製造方法の第1実施形態を、図2を参照しながら説明する。図2(a)に示したように、凹型20は、片面に複数配列された凹部21を有している。凹型20を構成する物質は、例えば非水溶性高分子、金属、シリコン、ガラスなど、適宜のものを選択可能である。
【0022】
針状物体の針状部分の型となる凹部21の形状は、円錐形状、多角錐形状、その他の適宜の形状を選択することが可能である。また、ヒトの表皮の厚さは70μm〜200μmの範囲内にあるため、凹部21の深さは300μm以上とする。太さ200μm以下の針には痛みを感じないことが知られているので、凹部21の最大径は200μm以下とする。また、凹部21の配列は適宜選択可能で、例えば、矩形格子配列、三角格子配列、六角格子配列、同心円状の配列、1次元的な配列、その他の適宜の配列を選択すればよい。
【0023】
前述の多糖類を水(酸性、アルカリ性、中性のいずれでもよい)を含む溶媒に、固形分濃度が20%以下になるように溶解させた多糖類溶液15を、この凹型20上に流し込む(図2(b)参照)。その後、周囲を真空引きすることにより凹部21から脱気(脱泡)を行ってもよい。多糖類溶液15の固形分濃度を20%以下とするのは、凹部21への流入時や、真空引きにより脱泡を行う際に、多糖類溶液15にある程度の流動性があったほうがよいからである。
【0024】
次に、凹型20上に多糖類溶液15を載せた状態で乾燥固化を行う。このときの乾燥温度は前記多糖類の分解温度よりも低温度に設定する。乾燥による収縮や多糖類の劣化等を考慮し、水の沸点である100度以下が好ましい。乾燥時間は設定された乾燥温度において、溶媒中の水の蒸発による質量変化がなくなる時間より適宜決定する。この乾燥中に乾燥炉内の水蒸気量を一定にするためにエアーを供給するなどしてもよい。
【0025】
乾燥が完了すると多糖類溶液15は固化して、多糖類成形体16となるので、凹型20から剥離する(図2(c)参照)。
【0026】
本発明の脱塩工程において使用する親水性有機溶媒は特に限定はなく、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ピリジン等を含む群より選ばれた少なくとも一つの物質を含むものである。
【0027】
また、親水性有機溶媒と水を混合して水含有親水性有機溶媒を作製する際に、親水性有機溶媒に対し水の割合が多くなってしまうと脱塩時に多糖類成形体が溶解もしくは歪んでしまう問題があるため、親水性有機溶剤に対する水の重量濃度は1〜20%以下が好ましい。
【0028】
さらに、この水含有親水性有機溶媒に酸を添加する場合、酸の種類には特に限定はなく、例えば塩酸や硫酸、硝酸等、適宜の酸を少なくとも一つ選択すればよい。
【0029】
または、この水含有親水性有機溶媒にアルカリを添加する場合、アルカリの種類には特に限定はなく、例えば水酸化ナトリウムやアンモニア等、適宜のアルカリを少なくとも一つ選択すればよい。
【0030】
酸またはアルカリを混合した水含有親水性有機溶媒を使用する場合、前記多糖類針状物体に含まれるカルボキシル基やアミノ基に対して、水含有親水性有機溶媒中の水素イオンまたは水酸化物イオンのモル量が1:1になるように混合することが好ましい。
【0031】
酸またはアルカリを混合した水含有親水性有機溶媒を作製する際、まず酸またはアルカリを水に添加し、それを親水性有機溶剤に対して、重量濃度が1〜20%になるように加え、水含有親水性有機溶剤とする。
【0032】
脱塩工程においては、乾燥固化して得られた多糖類成形体16を、水含有親水性有機溶剤に浸漬することにより脱塩する。浸漬時間は、多糖類針状物体の脱塩が90%以上になるまでとする。5時間未満の浸漬時間では脱塩の効果が確認できないため、5時間以上の浸漬時間が好ましい。また、脱塩の際には水含有親水性有機溶剤の攪拌を行うことが好ましい。
【0033】
所定の浸漬時間が終了したら、水含有親水性有機溶剤から多糖類針状物体を取り出す。エアブローを施すなどして水含有親水性有機溶剤を大まかに除去して自然乾燥させてもよいし、必要に応じて適宜の洗浄液で洗浄を行ってから、エアブローを施すなどして洗浄液を大まかに除去して自然乾燥させてもよい。このようにして、本発明の第1実施形態の製造方法により針状物体を得ることができる。
【0034】
次に、本発明の針状物体の製造方法の第2実施形態を、図3を参照しながら説明する。図3(a)に示したように、凸型30は、片面に複数配列された凸部31を有している。凸型30を構成する物質は、例えば非水溶性高分子、金属、シリコン、ガラスなど、適宜のものを選択可能である。
【0035】
凸部31の形状は、円錐形状、多角錐形状、その他の適宜の形状を選択することが可能である。また、凸部31の配列は適宜選択可能で、例えば、矩形格子配列、三角格子配列、六角格子配列、同心円状の配列、1次元的な配列、その他の適宜の配列を選択すればよい。
【0036】
多糖類溶液17は第1の実施形態と同様の手順で作製し、所定形状の容器40に注入する。容器40に注入された多糖類溶液17の表面に、真上から凸型30を押し当てて少なくとも凸部31の先端を接触させた後(図3(b)参照)、垂直に引き上げそのまま停止する。
【0037】
このとき、凸部31それぞれの先端には多糖類溶液17が付着しておりそのまま垂直に引き上げられているので、多糖類溶液17表面からツノ状の突起18が複数形成された状態となる(図3(c)参照)。この状態のまま、多糖類溶液17を乾燥固化させる。
【0038】
このツノ状の突起18が、後に針状物体1の針状部分11となる。ヒトの表皮の厚さは70μm〜200μmの範囲内にあるため、このツノ状の突起18の高さが300μm以上となるように凸型30の停止位置を調製する。また、太さ200μm以下の針には痛みを感じないことが知られているので、ツノ状の突起18の最大径は200μm以下となるようにする。
【0039】
本実施形態においては、凸型30を垂直に引き上げてツノ状の突起18の形状を保持しながら乾燥固化させるため、多糖類溶液17は、固形分濃度は20%以上としておくことが好ましい。
【0040】
乾燥固化の際の条件と手順は、第1実施形態と同様である。
乾燥が完了すると多糖類溶液17は固化して多糖類成形体19となるので、凸型30の凸部31先端とツノ状の突起18の先端を切り離し、さらに容器40を外す。(図3(d)参照)。
【0041】
脱塩工程の条件と手順は、第1実施形態と同様である。このようにして、本発明の第2実施形態の製造方法により針状物体を得ることができる。
【0042】
こうして得られる本発明の多糖類の針状物体は、脱塩処理によって耐水性を持ち、吸湿による変形や長期保存する際の劣化が少なく、水性薬剤の塗布が可能で、におい等の問題が改善された針状物体である。
【実施例1】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1では、アミノ基を持つ多糖類としてキトサンを用い、凹部を有する凹型により針状物体を作製した。
【0044】
0.16gのキトサンに0.06gの酢酸および1.78gの精製水を加え、スターラーを用いて攪拌し、溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を、針状部分の型となる凹部を有する凹型に流入し、アスピレーターと栓をした濾過鐘を用いて脱気を行った。その後エアーを流しながら、80℃のオーブン中で3時間加熱乾燥したのち、凹型から剥離した。
【0045】
重量濃度が10%になるように水をアセトンに添加し、水含有アセトンとした。この水含有アセトンに乾燥固化したキトサン酢酸塩成形体を浸漬させ15時間放置し、その後水含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、キトサン針状物体を作製した。
【0046】
KBr錠剤法により測定したキトサン原料のFT−IRスペクトルを図4に、脱塩前のFT−IRスペクトルを図5に、脱塩後のFT−IRスペクトルを図6に示す。またキトサン原料、脱塩前、脱塩後のH−NMRスペクトルを図7にそれぞれ示す。
【0047】
図4〜図6のFT−IRスペクトルから、15時間脱塩することにより酢酸塩が減少していることが確認できた。また、図7のH−NMRスペクトルからも3.2ppmのC4位のプロトン量を一定にした際に2.1ppmのメチル基のプロトン量が減少し、99.7%が原料と同じ状態に戻っていることが確認できた。
【実施例2】
【0048】
実施例2では、アミノ基を持つ多糖類としてキトサンを用い、凸部を有する凸型により針状物体を作製した。
【0049】
0.4gのキトサンに0.15gの酢酸および1.45gの精製水を加え、スターラー上にて攪拌して溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を平面部を有する容器内に展延した後、真上から凸部を有する凸型を押し当て、垂直に引き上げてそのまま固定した。その後エアーを流しながら、80度オーブン中で3時間加熱乾燥したのち、ツノ状部分の先端部分を断裁した。
【0050】
重量濃度が10%になるように水をアセトンに添加し、水含有アセトンとした。この水含有アセトンに乾燥固化したキトサン酢酸塩成形体を浸漬させ15時間放置し、その後水含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、キトサン針状物体を作製した。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、カルボン酸を持つ多糖類としてアルギン酸を用い、凹部を有する凹型により針状物体を作製した。
【0052】
0.16gのアルギン酸ナトリウムに1.84gの精製水を加え、スターラーを用いて攪拌し、溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を針状部分の型となる凹部を有する凹型に流入し、アスピレーターと栓をした濾過鐘を用いて脱気を行った。その後エアーを流しながら、80度オーブン中で3時間加熱乾燥し、パターンから剥離した。
【0053】
水に塩酸を0.9m mol加え、その後、重量濃度が10%になるようにアセトンに添加し、塩酸含有アセトンとした。この塩酸含有アセトンに乾燥固化したアルギン酸ナトリウム成形体を浸漬させ15時間放置し、その後塩酸含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、アルギン酸針状物体を作製した。
【実施例4】
【0054】
実施例4では、カルボン酸を持つ多糖類としてアルギン酸を用い、凸部を有する凸型により針状物体を作製した。
【0055】
0.4gのアルギン酸ナトリウムに1.6gの精製水を加え、スターラー上にて攪拌して溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を平面部を有する容器内に展延した後、真上から凸部を有する凸型を押し当て、垂直に引き上げてそのまま固定した。その後エアーを流しながら、80度オーブン中で3時間加熱乾燥したのち、ツノ状部分の先端部分を断裁した。
【0056】
水に塩酸を2m mol加え、その後、重量濃度が10%になるようにアセトンに添加し、塩酸含有アセトンとした。この塩酸含有アセトンに乾燥固化したアルギン酸ナトリウム成形体を浸漬させ15時間放置し、その後塩酸含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、アルギン酸針状物体を作製した。
【実施例5】
【0057】
実施例5では、カルボン酸を持つ多糖類としてセルロースのC6位一級水酸基のみを選択的に酸化したセロウロン酸を用い、凹部を有する凹型により針状物体を作製した。
【0058】
0.16gのセロウロン酸ナトリウムに1.84gの精製水を加え、スターラーを用いて攪拌し、溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を針状部分の型となる凹部を有する凹型に流入し、アスピレーターと栓をした濾過鐘を用いて脱気を行った。その後エアーを流しながら、80度オーブン中で3時間加熱乾燥し、パターンから剥離した。
【0059】
水に塩酸を0.8m mol加え、その後、重量濃度が10%になるようにアセトンに添加し、塩酸含有アセトンとした。この塩酸含有アセトンに乾燥固化したセロウロン酸ナトリウム成形体を浸漬させ15時間放置し、その後塩酸含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、セロウロン酸針状物体を作製した。
【実施例6】
【0060】
本実施例では、カルボン酸を持つ多糖類としてセルロースのC6位一級水酸基のみを選択的に酸化したセロウロン酸を用い、凸部を有する凸型により針状物体を作製した。
【0061】
0.4gのセロウロン酸ナトリウムに1.6gの精製水を加え、スターラー上にて攪拌して溶解させた。不溶物はアスピレーターを用いて濾過し除去した。この溶液を平面部を有する容器内に展延した後、真上から凸部を有する凸型を押し当て、垂直に引き上げてそのまま固定した。その後エアーを流しながら、80度オーブン中で3時間加熱乾燥したのち、ツノ状部分の先端部分を断裁した。
【0062】
水に塩酸を2m mol加え、その後、重量濃度が10%になるようにアセトンに添加し、塩酸含有アセトンとした。この塩酸含有アセトンに乾燥固化したセロウロン酸ナトリウム成形体を浸漬させ15時間放置し、その後塩酸含有アセトンから取り出し乾燥させることにより、セロウロン酸針状物体を作製した。
【0063】
以上の実施例1〜6において作製した多糖類針状物体(脱塩後)と、その脱塩前の多糖類成形体を、生理食塩水に1週間浸漬して溶解性を調べた結果を表1に示す。
【表1】

【0064】
実施例1および2で作製したキトサン酢酸塩成形体(脱塩前)と、キトサン針状物体(脱塩後)を生理食塩水に一週間浸漬したところ、キトサン酢酸塩成形体はいずれも溶解したが、キトサン針状物体はいずれも不溶であり、脱塩により耐水性が向上していることが確認できた。
【0065】
実施例3および4で作製したアルギン酸ナトリウム成形体(脱塩前)と、アルギン酸針状物体(脱塩後)を生理食塩水に一週間浸漬したところ、アルギン酸ナトリウム成形体はいずれも溶解したが、アルギン酸針状物体はいずれも不溶であり、脱塩により耐水性が向上していることが確認できた。
【0066】
実施例5および6で作製したセロウロン酸ナトリウム成形体(脱塩前)と、セロウロン酸針状物体(脱塩後)を生理食塩水に一週間浸漬したところ、セロウロン酸ナトリウム成形体はいずれも溶解したが、セロウロン酸針状物体はいずれも不溶であり、脱塩により耐水性が向上していることが確認できた。

【符号の説明】
【0067】
1・・・針状物体
11・・針状部分
12・・基板
15、17・・多糖類溶液
16、19・・多糖類成形体
18・・ツノ状の突起
20・・凹型
21・・凹部
30・・凸型
31・・凸部
40・・多糖類溶液の容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な針で皮膚を穿刺する針状物体であって、
基板と、
前記基板上に、複数配列された針状部分と、を備え、
少なくとも前記針状部分は、分子構造内にカルボキシル基および/またはアミノ基を持つ多糖類を含むことを特徴とする針状物体。
【請求項2】
前記多糖類はキトサン、アルギン酸、多糖類酸化体、およびその誘導体を含む群より選ばれた少なくとも一つ以上の物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の針状物体。
【請求項3】
前記キトサン、アルギン酸、多糖類酸化体、およびその誘導体の塩を含む群より選ばれた少なくとも一つ以上の物質のカルボキシル基の90%以上がCOOH型および/またはアミノ基の90%以上がNH2型であることを特徴とする請求項1または2に記載の針状物体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の針状物体の製造方法であって、
前記多糖類を、水を含む溶媒に溶解させて多糖類溶液を作製する多糖類溶解段階と、
前記針状部分と同形状の凹部を有する凹型に前記多糖類溶液を流し込み、さらに乾燥固化する成形段階と、
前記多糖類溶液が固化した多糖類成形体を前記凹型から剥離する剥離段階と、
剥離した多糖類成形体を水含有親水性有機溶媒で脱塩する脱塩段階と、
を有することを特徴とする針状物体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の針状物体の製造方法であって、
前記多糖類を、水を含む溶媒に溶解させて多糖類溶液を作製する多糖類溶解段階と、
所定形状の容器に所定量の前記多糖類溶液を注入する多糖類溶液注入段階と
前記容器に注入された前記多糖類溶液の表面に、複数配列された針状突起を有する凸型をいったん押し当てた後に垂直に引き上げた状態で乾燥固化する成形段階と、
前記多糖類溶液が固化した多糖類成形体の針状部分の先端部分を切断して、前記凸型の針状突起から分離する分離段階と、
分離した多糖類成形体を水含有親水性有機溶媒で脱塩する脱塩段階と、
を有することを特徴とする針状物体の製造方法。
【請求項6】
前記脱塩工程において、酸またはアルカリを含む水含有親水性有機溶媒で脱塩することを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の針状物体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−241702(P2010−241702A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89938(P2009−89938)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】