説明

鉄合金扁平微粒子及びその製造方法

【課題】平均直径が小さくかつ平均厚みが薄い鉄合金扁平微粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の鉄合金扁平微粒子は、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に、直径が2mm以下のジルコニア製ボールを用いて機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子であり、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の軟磁性体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄合金扁平微粒子及びその製造方法に関し、特に、平均直径が小さくかつ平均厚みが薄い扁平状の鉄合金からなる微粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄系材料は導電材料、高剛性材料、磁性材料等、幅広い分野にて使用されており、さらに、鉄を合金化させることにより剛性、加工性、磁性等の様々な特性を向上させ、幅広い用途へ適応することができる。
例えば、鉄系合金材料を直接、所望の形状に成形した成型体、あるいは、鉄系合金粉末を成形した後に焼成した鉄系合金焼結体、もしくは、鉄系合金粉末を樹脂と混合し成形した鉄系合金複合体等が、熱電素子、記録媒体、各種高透磁率材料、永久磁石材料等の各種磁性材料として幅広く使用されている。
【0003】
一方、パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子機器においては、その性能の幅を広げるべく使用周波数の広帯域化が進んでおり、高周波帯域に対しても適応できるように検討が進んでいる。このような高周波帯域に適用するためには、上記の電子機器に搭載される基板においても、高周波のデバイス電磁場特性を制御する必要がある。そこで、基板に磁性特性を付与するために磁性材料を付与することが行われている。
【0004】
磁性材料は、フェライト系磁性材料と金属系磁性材料に大別することができる。このフェライト系磁性材料を高周波デバイス用基板に適応しようとする場合、Snoekの限界と称される高周波帯域における透磁率の低下により、高周波帯域における磁性特性を確保することが難しい。
また、金属系磁性材料を高周波デバイス用基板に適応しようとする場合、使用する波長帯域が高周波帯域にシフトするに伴い、材料の導電性に起因した電力損失である渦電流が生じるため、通常は使用することができない。
そこで、渦電流損失を低減することで高周波帯域でも使用可能とするために、金属系磁性材料を微粒子化して樹脂と混合することにより、粒子間の接触を妨げかつ絶縁性を確保した金属・樹脂複合体からなる基板が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、金属系磁性材料には、表皮効果と称される高周波が表面層に限定されて内部に浸入しない現象があるために、この金属系磁性材料の粒子径や厚みを表皮効果が生じるサイズ以下とすることで、高周波帯域に適応することが期待される。そのため、高周波帯域で使用する磁性材料としては、金属材料でかつ粒子径が小さく厚みが薄く、さらには飽和磁化などの磁性特性が高い材料が望まれている。
【0006】
一般に、金属系磁性材料としての鉄材料は、安価であることから主原料として汎用的に用いられており、また、鉄を各種金属と合金化して鉄系合金材料とすることにより、透磁率や飽和磁化、保磁力等の磁性特性が向上することが知られている。
飽和磁化の高い鉄系合金材料としては、Fe−Ni系合金、Fe−Al系合金、Fe−Co系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Al系合金等が使用されている。特に、材料コスト及び磁気特性の点から、鉄とケイ素もしくはアルミニウムとを合金化させたFe−Al系合金、Fe−Si系合金、Fe−Si−Al系合金等のケイ素および/またはアルミニウムを含む鉄系合金材料が使用されている。
【0007】
これら鉄系合金材料については、塊状の鉄系合金を機械的に粉砕する粉砕法、あるいは鉄系合金原料を含む溶液を気流中に噴霧して微粒子化するアトマイズ法等により微粒子化し、この鉄系合金微粒子を樹脂等と混合し、この混合物をバルク状、シート状あるいはフィルム状に成形することにより、各種の磁性特性を有する成形体として用いることができる。さらに、磁性特性を向上させるために、鉄系合金微粒子を樹脂と混合する前、もしくは混合後に、この鉄系合金微粒子にボールミル等を用いて機械的処理を施すことにより、この鉄系合金微粒子を扁平化させることが一般的に行われている。
【特許文献1】特開平6−92619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の粉砕法やアトマイズ法により得られた鉄系合金微粒子の粒径は1μm以上であり、また、気相還元法にて得られた鉄系合金微粒子の粒径は500nm〜2μm程度である。したがって、これら鉄系合金微粒子を機械的処理により扁平化した場合、粒径自体が大きく、機械的処理の際に粒子同士が凝集し易くなる等のために、扁平化した粒子の直径が数十μmにもなってしまい、微粒子化が困難であるという問題点があった。
【0009】
また、鉄系合金微粒子自体の硬度が高いために、機械的処理を行っても粒子が潰れ難く、したがって、厚みを薄くすることが難しく、概ね数μm程度の厚みのものしか得ることができないという問題点もあった。
以上の理由により、更なる高周波帯域にて使用可能な広帯域の金属磁性材料としては、粒子径が小さく、かつ厚みの薄い鉄系合金粒子が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、平均直径が小さくかつ平均厚みが薄い鉄合金扁平微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鉄合金微粒子の合金化と扁平化を同時に達成すべく鋭意検討を行った結果、平均粒子径が0.1μm以下でありかつα鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、この混合物に機械的処理を施すこととすれば、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子が容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の鉄合金扁平微粒子は、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子であって、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の鉄合金扁平微粒子では、磁性特性を有することが好ましい。
前記機械的処理は、メカニカルミリング、メカニカルアロイング、メカニカルグライディングのうちいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
前記機械的処理の際に、直径が2mm以下のジルコニア製ボールを用いることが好ましい。
【0014】
本発明の鉄合金扁平微粒子の製造方法は、平均粒子径が0.1μm以下でありかつα鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、次いで、機械的処理を施すことにより、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を生成することを特徴とする。
【0015】
本発明の鉄合金扁平微粒子の製造方法では、前記機械的処理は、メカニカルミリング、メカニカルアロイング、メカニカルグライディングのうちいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
前記機械的処理の際に、直径が2mm以下のジルコニア製ボールを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鉄合金扁平微粒子によれば、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子の平均直径を3μm以下、平均厚みを0.1μm以下としたので、鉄合金扁平微粒子の平均直径を小さくすることができ、その平均厚みも薄くすることができる。
したがって、高周波帯域にて使用可能な広帯域の金属磁性材料である平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の扁平な鉄系合金粒子を提供することができる。
【0017】
本発明の鉄合金扁平微粒子の製造方法によれば、平均粒子径が0.1μm以下でありかつα鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、次いで、機械的処理を施すこととしたので、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を容易に生成することができる。
したがって、高周波帯域にて使用可能な広帯域の金属磁性材料である平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の扁平な鉄系合金粒子を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の鉄合金扁平微粒子及びその製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
本実施形態の鉄合金扁平微粒子は、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子であり、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下である。
【0020】
この鉄合金扁平微粒子の平均直径は、3μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。
また、この鉄合金扁平微粒子の平均厚みは、0.1μm以下が好ましく、より好ましくは0.08μm以下である。
ここで、平均直径とは、複数個の鉄合金扁平微粒子各々の最長部分の長さをそれぞれ測定し、これらの測定値を複数個の鉄合金扁平微粒子にて平均した値のことであり、平均厚みとは、複数個の鉄合金扁平微粒子各々の扁平部分の中心部における厚みをそれぞれ測定し、これらの測定値を複数個の鉄合金扁平微粒子にて平均した値のことである。
【0021】
ここで、鉄合金扁平微粒子の平均直径を3μm以下、平均厚みを0.1μm以下と限定した理由は、平均直径が3μmを超えるか、または平均厚みが0.1μmを超えると、高周波帯域にて渦電流損失が大きくなるために、高周波帯域における磁性特性を確保することが困難になるからである。
【0022】
この鉄合金扁平微粒子は、高周波帯域に適用する際に、高周波のデバイス電磁場特性を制御する必要があることを考慮すると、磁性特性を有することが好ましく、特に、軟磁性特性を有することが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態の鉄合金扁平微粒子の製造方法について説明する。
本実施形態の鉄合金扁平微粒子の製造方法は、平均粒子径が0.1μm以下でありかつα鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、次いで、機械的処理を施すことにより、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を生成する方法である。
【0024】
ここで、鉄微粒子としては、平均粒子径が0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下でありかつα鉄相を有する微粒子である必要がある。
その理由は、鉄微粒子を核として合金化を行うために、核となる材料を小さくすることにより、機械的処理後の合金扁平粒子の直径を小さく抑えることができ、また合金扁平粒子の厚みを薄く抑えることができるからである。
この鉄微粒子を作製する方法としては、鉄イオンの素となる鉄化合物を含む溶液に還元剤またはpH調製剤を添加して粒子核を形成し、この粒子核を成長させることにより微粒子を生成する、湿式法が好適である。
【0025】
この鉄微粒子は、鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加し、この鉄イオンを還元剤により還元することにより得ることができる。
鉄イオン源としては、溶液に溶解したときに鉄イオンを生成することができる鉄化合物であればよく、この鉄化合物の鉄イオンの価数としては、2価、3価のいずれでもかまわないが、還元剤を添加したときの還元し易さを考慮すると、2価のイオンが好ましい。
【0026】
鉄化合物としては、特に制限はないが、塩化鉄(II)(塩化第1鉄)、塩化鉄(III)(塩化第2鉄)、臭化鉄(II)(臭化第1鉄)、ヨウ化鉄(II)(ヨウ化第1鉄)等の鉄ハロゲン化物、硫酸鉄(II)(硫酸第1鉄)、硫酸鉄(II)鉄(III)、硫酸鉄(III)(硫酸第2鉄)、硫酸鉄(II)アンモニウム等の硫酸塩、硝酸鉄(II)(硝酸第1鉄)、硝酸鉄(III)(硝酸第2鉄)等の硝酸塩、酢酸鉄(II)(酢酸第1鉄)、酢酸鉄(III)(酢酸第2鉄)、シュウ酸鉄(II)(シュウ酸第1鉄)等の有機酸塩、錯体等の群から選択される1種のみ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
還元剤としても特に制限はないが、鉄イオン自体の起電力を考慮すると、ある程度還元力の強い還元剤を選択することが望ましい。
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カルシウム、水素化リチウムアルミニウム等の水素化物のうち1種のみ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
なお、上記の還元剤を用いない方法としては、鉄イオンを含む溶液を、一価アルコールあるいは多価アルコールを用いて還流下で還元させる還元法等もあり、鉄イオンを0価まで還元することができる液相還元法を適宜選択することも可能である。
この液相還元法により得られる前駆体の粒子径の調整については、反応温度、キレート剤の選択と量の調整、保護コロイドの添加、反応濃度の調整、反応雰囲気の調整等、適宜行うことにより調整することができる。
【0029】
次いで、上記の鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、混合物を得る。
ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子の粒子径は特に問わないが、鉄微粒子の平均粒子径が0.1μm以下であることを考慮すると、平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0030】
次いで、この混合物に機械的処理を施す。
機械的処理としては、メカニカルアロイング、メカニカルグライディング、メカニカルミリングのうちいずれか1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
その際に使用する装置としては、ボールミル、遊星ミル、ビーズミル等、メディアとして用いるボールに遠心力がかかり、ボール間に粒子が挟まれることで、この粒子に負荷がかかって扁平化することのできる装置であれば特に問わない。
【0031】
メディアとしては、ジルコニア製のボールが好ましい。その理由は、ジルコニア製以外のボール、例えば、金属ボールの場合、機械的処理時に鉄微粒子と合金相を形成するからである。
このジルコニア製のボールの直径は、2mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。直径が2mmを超えると、鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との合金化の効力は高まるが、形状が扁平状になり難くなり、さらに、粒子同士の凝集効果、粉砕効果が高まり、不定形の形状の粒子ができ易くなるからである。
【0032】
機械的処理の際の雰囲気としては、特に問わないが、合金化の際に粒子の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
また、機械的処理の際に、メディアに粒子が固着することを防ぐために、適宜溶媒や添加剤を添加してもよい。
機械的処理の時間としては、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を生成することができればよく、特に問わないが、通常は、1時間〜100時間の範囲である。
【0033】
この機械的処理に伴う粉砕効果により、単体としての鉄微粒子が潰れ易くなるのと同時に、鉄微粒子が粉砕されてより小さな粒子径となり、したがって、機械的処理時に平均直径を小さくするとともに、厚みを薄くすることが可能となる。
さらに、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施すことにより、鉄とケイ素および/またはアルミニウムとが固溶し合い、合金化を進行させることが可能となる。
【0034】
このようにして得られた鉄合金扁平微粒子の結晶性を向上させるために、不活性ガス雰囲気下、もしくは還元性ガス雰囲気下にて焼成することとしてもよい。
この場合の焼成温度は100℃以上かつ750℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上かつ700℃以下である。なお、焼成温度が100℃を下回ると、鉄合金扁平微粒子の結晶性が進行せず、また、750℃を超えると、鉄合金扁平微粒子自体が常磁性体に変化する虞があるので好ましくない。
【0035】
以上により、α鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを合金化してなる平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
「実施例」
(1)鉄微粒子の調整
塩化第一鉄四水和物(FeCl・4HO:試薬特級、関東化学社製)93.8gとイオン交換水506.2gを混合してA液とし、次いで、このA液中に窒素ガスを1時間バブリングさせて溶存酸素を除去した。
一方、窒素ガスにて1時間バブリングしたイオン交換水382.2gに水素化ホウ素ナトリウム(NaBH:試薬特級、関東化学社製)を溶解させてB液とした。
【0038】
次いで、上記のA液中にB液を滴下し、得られた溶液をウォーターバスを用いて40℃に加温し、次いで、窒素雰囲気下にて1時間撹拌し、黒色の粒子を得た。
反応終了後、この反応液を静置して黒色の粒子を沈降させた後に、デカンテーション法により上澄みを除去し、さらにイオン交換水を添加するという洗浄操作を、上澄み液の塩素濃度が20ppm以下になるまで繰り返し行った。洗浄後、得られた黒色の粒子スラリーから遠心分離法により水分を除去した後、減圧下にてスラリーの乾燥を行い、微粒子Aを得た。
【0039】
(2)鉄微粒子の評価
次いで、この微粒子AをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が体心立方をなすことが確認された。また(110)面、(200)面のピーク角度から、調製した微粒子はα鉄からなる鉄微粒子Aであることが確認された。また、この鉄微粒子Aの形状及び粒子50個の平均一次粒子径を、透過型電子顕微鏡(TEM)により求めた。その結果、形状は球状であり、平均一次粒子径は40nmであった。
【0040】
(3)鉄微粒子の合金化
鉄微粒子Aを1g、ケイ素粉末(粒子径10〜50μm:試薬特級、関東化学社製)を1g、ジルコニア製ボール(φ0.2)を150g、それぞれジルコニア製容器に秤量し、この容器内を窒素ガスで置換した後、この窒素ガス雰囲気下、遊星ミル(フリチェ社製)にて3時間、機械的処理を行った。
次いで、この容器内にキシレン50gを添加し、遊星ミルにて1時間、機械的処理を行った。
この処理の後、キシレンに懸濁したスラリーを孔径10μmの限外濾過膜を通過させ、ジルコニアボール及び合金化に寄与しなかったケイ素粉末を分離した。 次いで、得られたキシレン懸濁液を、遠心分離にて上澄み液を除去した後、沈殿物を真空デシケーターにて乾燥させ、鉄−ケイ素合金微粒子Aを得た。
【0041】
(4)鉄−ケイ素合金微粒子の評価
得られた鉄−ケイ素合金微粒子Aの定性分析を電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて行い、この鉄−ケイ素合金微粒子A中に鉄及びケイ素が存在することを確認した。また、半定量分析を行い、この鉄−ケイ素合金微粒子A中の鉄とケイ素の質量比が鉄:ケイ素=75:25であることを確認した。
また、この鉄−ケイ素合金微粒子AをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が面心立方をなすことを確認した。
また、(110)面のピーク強度の回折角(2θ)より格子定数を求めたところ、2.859であり、鉄微粒子単体の格子定数の2.865と比較して数値が0.006シフトしており、鉄−ケイ素合金相が生成していることを確認した。
【0042】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)により鉄−ケイ素合金微粒子Aの形状を観察し、粒子50個の直径及び厚みを測定して測定値の平均値を算出した。図1に、この鉄−ケイ素合金微粒子Aの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。この結果、鉄−ケイ素合金微粒子Aは、平均直径が1.8μm、平均厚みが0.07μmの扁平粒子であった。また、この鉄−ケイ素合金微粒子Aは磁石に引きつけられることから、磁性を有することが確認された。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により飽和磁化を測定したところ、26.3emu/gであった。
【0043】
「比較例1」
(1)鉄微粒子の合金化
実施例にてジルコニア製ボールを3mmのものに替えた以外は、実施例と同様にして鉄−ケイ素合金微粒子Bを得た。
【0044】
(2)鉄−ケイ素合金微粒子の評価
得られた鉄−ケイ素合金微粒子Bの定性分析を電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて行い、この鉄−ケイ素合金微粒子B中に鉄及びケイ素が存在することを確認した。また、半定量分析を行い、この鉄−ケイ素合金微粒子B中の鉄とケイ素の質量比が鉄:ケイ素=60:40であることを確認した。
また、この鉄−ケイ素合金微粒子BをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が面心立方をなすことを確認した。
また、(110)面のピーク強度の回折角(2θ)より格子定数を求めたところ、2.837であり、鉄微粒子単体の格子定数の2.865と比較して数値が0.028シフトしており、鉄−ケイ素合金相が生成していることが確認された。
【0045】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)により鉄−ケイ素合金微粒子Bの形状を観察し、粒子50個の一次粒子径を測定した。図2に、この鉄−ケイ素合金微粒子Bの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。この結果、鉄−ケイ素合金微粒子Bの形状は不定形であり、サイズとしては平均直径3μm、平均厚みが不揃いの粒子であった。また、この鉄−ケイ素合金微粒子Bは磁石に引きつけられることから、磁性を有することが確認された。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により飽和磁化を測定したところ、120emu/gであった。
【0046】
「比較例2」
(1)鉄微粒子の合金化
実施例にて得られた鉄微粒子Aを水素雰囲気中にて焼結させ、平均粒子径2μmの鉄微粒子Bを調製した。次いで、この鉄微粒子Bを用い、実施例と同様にして鉄微粒子の合金化を行い、鉄合金微粒子Cを得た。
【0047】
(2)鉄合金微粒子の評価
得られた鉄合金微粒子Cの定性分析を電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて行い、この鉄合金微粒子C中に鉄及びケイ素が存在することを確認した。また、半定量分析を行い、この鉄合金微粒子C中の鉄とケイ素の質量比が鉄:ケイ素=70:30であることを確認した。
また、この鉄合金微粒子CをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が面心立方をなすことを確認した。
また、(110)面のピーク強度の回折角(2θ)より格子定数を求めたところ、2.866であり、鉄微粒子単体の格子定数の2.865と比較して数値が殆どシフトしておらず、鉄−ケイ素合金相が生成していないことが確認された。
【0048】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)により鉄合金微粒子Cの形状を観察し、粒子50個の一次粒子径を測定した。図3に、この鉄合金微粒子Cの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。この結果、鉄合金微粒子Cの形状は不定形であり、サイズとしては平均直径3μm、平均厚みが0.07μmの扁平状粒子であった。また、この鉄合金微粒子Cは磁石に引きつけられることから、磁性を有することが確認された。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により飽和磁化を測定したところ、4.21emu/gであった。
以上の結果を表1に示す。また、実施例、比較例1、2各々の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図1〜図3に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の鉄合金扁平微粒子は、鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子であり、平均直径を3μm以下、平均厚みを0.1μm以下としたことにより、平均直径が小さくかつ平均厚みも薄い、高周波帯域にて使用可能な広帯域の金属磁性材料である鉄合金扁平微粒子を提供することができるものであるから、使用する電子機器の周波数帯を高周波帯へシフトすることが可能となり、その工業的価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例の鉄−ケイ素合金微粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図2】比較例1の鉄−ケイ素合金微粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】比較例2の鉄合金微粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄微粒子とケイ素および/またはアルミニウムの微粒子との混合物に機械的処理を施してなる鉄合金扁平微粒子であって、
平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下であることを特徴とする鉄合金扁平微粒子。
【請求項2】
磁性特性を有することを特徴とする請求項1記載の鉄合金扁平微粒子。
【請求項3】
前記機械的処理は、メカニカルミリング、メカニカルアロイング、メカニカルグライディングのうちいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の鉄合金扁平微粒子。
【請求項4】
前記機械的処理の際に、直径が2mm以下のジルコニア製ボールを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の鉄合金扁平微粒子。
【請求項5】
平均粒子径が0.1μm以下でありかつα鉄相を有する鉄微粒子と、ケイ素および/またはアルミニウムの微粒子とを混合し、次いで、機械的処理を施すことにより、平均直径が3μm以下、平均厚みが0.1μm以下の鉄合金扁平微粒子を生成することを特徴とする鉄合金扁平微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記機械的処理は、メカニカルミリング、メカニカルアロイング、メカニカルグライディングのうちいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項5記載の鉄合金扁平微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記機械的処理の際に、直径が2mm以下のジルコニア製ボールを用いることを特徴とする請求項5または6記載の鉄合金扁平微粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−24479(P2010−24479A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185064(P2008−185064)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】