説明

鉄含有ダスト塊成化物の製造方法

【課題】少ない製造コスト、設備コストで十分な強度を有する鉄含有ダスト塊成化物を安定して製造する。
【解決手段】酸化鉄および金属鉄を含むダストと、水硬性バインダーと、塩化物を主体とする原料に水を加えて混合した後、成形し、該成形物を水和硬化させてダスト塊成化物とする。原料中に配合された塩化物の作用により、原料中の金属鉄の酸化・発熱反応が促進される結果、水硬性バインダーの水和硬化が促進されるので、少ない水硬性バインダー量と短時間の養生で高い強度を有する鉄含有ダスト塊成化物を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスなどで発生する鉄含有ダストを製鉄用原料としてリサイクルするために、鉄含有ダストを塊成化してダスト塊成化物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスでは、種々の工程で鉄含有ダストが発生するが、このような鉄含有ダストを塊状化し、これをキュポラなどの竪型溶解炉に鉄源としてリサイクル装入する方法が、古くから知られている。例えば、特許文献1には、酸化鉄粉に生石灰または消石灰を配合し、必要に応じてさらに炭質物粉を配合したものを造粒し、この造粒物を所定の圧縮強度となるまで炭酸ガス含有気流中で養生する製鉄原料ペレット(ダスト塊成化物)の製造方法が示されている。
【特許文献1】特開昭48−23613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
竪型溶解炉において、ダスト塊成化物を装入し、鉄源として利用する際に最も重要なことは、十分に高い強度のダスト塊成化物を使用することである。強度の低いダスト塊成化物は、炉装入前や装入時さらには炉内において粉化し、再びダストとして回収されてしまい、製鉄用原料としての歩留まりが低くなるからである。バインダーの配合量を増大させたり、水硬性バインダーを用いる場合には養生時間を長くすることで強度は増大するが、バインダーの増量は製造コストの増大を招くため好ましくない。また、養生時間を長くすることは、ダスト塊成化物を長期間貯留しておく必要があるため貯留設備が大型化し、設備コストが増大するという問題がある。
【0004】
特許文献1の製造方法では、ダスト塊成化物の強度を向上させるために炭酸ガス雰囲気中で養生を行うものであるため、大気と遮断された養生設備が必要であり、設備コストが高いという問題がある。
したがって本発明の目的は、少ない製造コスト、設備コストで十分な強度を有する鉄含有ダスト塊成化物を安定して製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鉄鋼製造プロセスなどで発生する鉄含有ダストを、十分な強度を有する状態に低コストで塊成化できる方法を見出すべく鋭意検討を行い、その結果、酸化鉄および金属鉄を含むダストに対して水硬性バインダーとともに塩化物を混合し、この混合原料を水和硬化させることにより、少ない水硬性バインダー量と短時間の養生で高い強度を有するダスト塊成化物を製造できることを見出した。
【0006】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]酸化鉄および金属鉄を含むダストと、水硬性バインダーと、塩化物を主体とする原料に水を加えて混合した後、成形し、該成形物を水和硬化させてダスト塊成化物とすることを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、原料が、さらに炭材粉を含むことを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【0007】
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、原料中の塩化物の配合量が、塩素イオン濃度換算で0.05〜3.2mass%であることを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、原料中の水硬性バインダーの配合量が2〜25mass%であることを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、成形工程では、原料と水の混合物を圧縮成形し、または加振しつつ圧縮成形することを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、原料中に配合された塩化物の作用により、原料中の金属鉄の酸化・発熱反応が促進される結果、水硬性バインダーの水和硬化が促進されるので、特別な設備を用いることなく、且つ少ない水硬性バインダー量と短時間の養生で高い強度を有する鉄含有ダスト塊成化物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
金属鉄は水および酸素と反応して酸化反応を生じる。この反応は発熱反応であり、水硬性バインダーの硬化促進のための熱源となり得る。しかしながら、鉄鋼製造プロセスで発生するダスト、例えば転炉脱炭工程で生じる精錬ダスト、いわゆる転炉OGダストは、金属鉄を含有してはいるが、容易に酸化・発熱反応を生じない。これは、例えば転炉OGダストを例に述べると、次のような理由による。転炉OGダストは、溶銑に純酸素を吹き付け、溶銑中の炭素を燃焼除去することで溶鋼を製造する際に発生するダストである。このダストは高温条件下で溶鋼が気化し、その後冷却されて生成することから、その組成は金属鉄を多く含有し、粒子が小さいため極めて活性である。しかし、発生直後の転炉OGダストのような金属鉄を主体としたダストは、その活性の高さゆえに、火災防止や作業者の火傷等を防止するために取り扱いに特別な注意を必要とする。したがって、塊成化などの処理をする前に、大気雰囲気下で放置し、その表層に酸化膜を形成して安定化させる処理を行うことが一般的である。
【0010】
表1に代表的な転炉OGダストの成分組成を示す。また、図4に、転炉OGダスト粒子の断面構造および組成(半径方向でのM.Fe濃度分布)を模式的に示すが、ダスト粒子表層には酸化皮膜が形成され、その内側に活性な金属鉄が存在する。このような転炉OGダストに含まれる金属鉄の酸化反応は、下記(1)式と(2)式に従い水と酸素が酸化皮膜の内側にある金属鉄と反応することで生じるが、通常の条件下では、その反応速度は遅く実用上無視できる。
Fe→Fe2++2e …(1)
(酸化反応 アノード反応)
1/2・O+HO+2e→2OH …(2)
(還元反応 カソード反応)
【0011】
上記(1)式および(2)式の反応を促進して金属鉄の一部を酸化させ、その反応熱で水硬性バインダーの硬化速度を速め、養生時間を短縮するために、原料中への塩化物の添加が有効であることを見出した。すなわち、塩化物を添加することにより、(i)塩化物が水に溶けてイオン化し、この塩化物イオンが、上記(1)式の反応で発生する鉄イオンと上記(2)式の反応で発生する水酸化物イオンを電気的に中和することで、それらの反応が促進される、(ii)塩化物イオンによりダスト粒子表層の酸化皮膜(不働態皮膜)が破壊される、という効果が得られ、その結果、金属鉄の酸化反応が促進され、その反応熱で水硬性バインダーの水和硬化が促進されることが判った。
【0012】
以下、このような塩化物の作用を利用した本発明の製造方法の詳細を説明する。
本発明の鉄含有ダスト塊成化物の製造方法では、酸化鉄および金属鉄を含むダストと、水硬性バインダーと、塩化物と、さらに必要に応じて配合される炭材粉を主体とする原料に水を加えて混合した後、成形し、この成形物を水和硬化させてダスト塊成化物とする。
前記酸化鉄および金属鉄を含むダスト(以下、「鉄含有ダスト」という)の種類に特に制限はないが、代表的なものとしては、鉄鋼製造プロセスで生じる精錬ダストを挙げることができる。この精錬ダストには、溶銑予備処理工程で生じる精錬ダスト、転炉脱炭工程で生じる精錬ダストなどが含まれる。これらの精錬ダストは、精錬工程で発生した排ガスから集塵することにより回収されたものである。また、これらのなかでも、転炉脱炭工程で生じる精錬ダスト、いわゆる転炉OGダストが、不純物の含有量が少なく、したがって鉄含有量が高いため特に好ましい。
鉄含有ダスト中の金属鉄の含有量に特別な制限はないが、反応熱により水硬性バインダーの硬化を促進する効果を十分に得るためには、金属鉄を5mass%以上含有していることが望ましい。金属鉄含有量は、前述のようにダスト粒子の表層に酸化皮膜を形成させるために実施される大気雰囲気下での放置期間を調整することにより、調整が可能である。
【0013】
前記水硬性バインダーとしては、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、アルミナセメント、フライアッシュセメントなどの各種セメント、高炉水砕スラグ微粉末、生石灰などの1種以上を用いることができる。
原料中の水硬性バインダーの配合量は特に限定しないが、2〜25mass%とすることが好ましい。水硬性バインダーの配合量が2mass%未満では、強度の発現が不十分となりやすい。一方、配合量が25mass%を超えると、ダスト塊成化物の強度は十分であるが、生成するスラグにより竪型溶解炉の操業が不安定化する場合がある。一般に、水硬性バインダーはCaO、SiO、Alなどを主成分とするものであり、これらの成分は炉内で溶解した後スラグとして排出される必要がある。一般にスラグは溶銑に比べて流動性が悪いため、量が増えるとその排出が困難となり、竪型溶解炉中に蓄積しやすくなり、溶解量と排出量のバランスが取りにくくなる。なお、鉄のリサイクルのためには、水硬性バインダーの配合量は少ない方がよく、2〜10mass%とすることがより望ましい。
【0014】
前記塩化物としては、例えば、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの1種以上を用いることができる。
原料中の塩化物の配合量は特に限定しないが、塩素イオン濃度換算で0.05〜3.2mass%とすることが好ましい。
図1は、原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量と製造されたダスト塊成化物の圧縮強度との関係を示すものであり、塩化物配合量が塩素イオン濃度換算で0.05mass%未満では、上記した(1)式および(2)式の反応の促進効果が小さいため、ダスト塊成化物の圧縮強度の向上効果が小さい。
図2は、原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量と原料混合用ミキサー内部の鋼材の肉厚減少速度との関係を示すものであり、塩化物配合量が塩素イオン濃度換算で3.2mass%を超えると、耐食性鋼材で製作したミキサー内部の腐食が進行し、設備の補修、更新頻度が早まる。
【0015】
ここで、原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量は次式で求めることができる。
【数1】

但し %Cl:塩素イオン濃度換算量(mass%)
n:塩化物分子中の塩素の数(−)
(例えば、NaCl:n=1,CaCl:n=2)
Cl:塩素分子量(−)
Sal:塩化物の分子量(−)
%Sal:塩化物の配合量(mass%)
【0016】
原料には、竪型溶解炉中で酸化鉄の還元材となる炭材粉を必要に応じて配合してもよい。ここで、炭材粉とは炭素を主成分とする粉体のことである。一般に、製鉄用の竪型溶解炉では還元材として塊コークスが用いられるが、塊コークスよりもコークス粉などの炭材粉の方が価格が安く、コスト的に有利なことに加え、酸化鉄と炭素の接触面積が増大するため、酸化鉄の還元反応も速やかに進行する利点がある。
炭材粉としては、コークス粉、石炭粉(好ましくは無煙炭粉)、プラスチック粉などの1種以上を用いることができる。但し、炭材粉としては、揮発分が少ないものが好ましい。これは、高揮発分の石炭粉や、プラスチック粉のように揮発分が多いものを使用すると、(a)竪型溶解炉内で加熱昇温された際に炭材粉の揮発分がガス化して、ダスト塊成化物に亀裂を生じさせ、強度を低下させる原因となる、(b)酸化鉄の還元は固体炭素と酸化鉄が接触している面で生じやすく、ガス相では生じにくいため還元材としての効果が小さい、からである。また、炭材粉は粒径3mm以下が好ましい。これは、ダスト塊成化物中に大きな炭材が存在すると、その部分から亀裂が生じ、強度を低下させる原因となるためである。
【0017】
原料中の炭材粉の配合量は特に限定しないが、2〜25mass%程度が好ましい。配合量が2mass%未満では、塊コークスの使用量を低減させる効果が小さく、一方、配合量が25mass%を超えると、還元に消費されなかった炭材粉が、炉下部に蓄積して通気性を阻害したり、ダストとして炉外に排出されることがある。
また、原料中には、上述した鉄含有ダスト、水硬性バインダー、塩化物および炭材粉以外の材料を必要に応じて適宜配合してもよい。例えば、硬化速度調整剤、界面活性剤、ベントナイト、さらには、原料に適度な粒度分布を与えて成型性を高めるための材料として焼結篩下粉、ミルスケールなどの鉄含有粉粒物、スラグの塩基度を調整するための石灰石、硅石などの粉粒物などの1種以上を配合してもよい。
また、生成するスラグ量をなるべく少なくするという観点から、原料中でのSiO、Al、CaO、MgOの合計量を25mass%以下とすることが好ましい。当然、これら成分は水硬性バインダーなどに含有されるものも含まれる。
【0018】
ダスト塊成化物を得るには、上述した原料に水を加えて混合した後、成形し、この成形物を水和硬化させる。
水の量は原料の配合によっても異なるが、成形時に圧縮しても水がしみ出てこない最大水量が望ましい。定量的には、JIS−A−1101(コンクリートのスランプ測定方法)に準じた測定においてスランプが0である最大水量となるように調整することが好ましい。水の量が少なすぎると適切に成形できず、また水硬性バインダーの硬化も進行しない。一方、水の量が多すぎて成形時に水がしみ出てくると、その水の処理などに特別な対応が必要になるからである。
【0019】
成形工程は、型枠を用いた成形、押し出し成形、ロールプレス成形など任意の方式で行うことができるが、成形物を高密度にするとダスト塊成化物は高強度化する傾向があるため、できるだけ高密度化に成形することが好ましい。このため原料と水の混合物を圧縮成形し、または加振しつつ圧縮成形することが好ましい。具体的には、ブリケット成形機、プレス成形機、押出成形機などのような圧縮成形機や、これに加振機能を持たせたものなどを用いて成形することが好ましい。
成形物の形状は任意であるが、炉に装入した際の粉化をなるべく抑えるために角部が少ない方が好ましい。また、成形物の大きさも任意であるが、あまり小さいと竪型溶解炉に装入した際に炉の圧力損失を増大させ、一方、あまり大きいと竪型溶解炉に装入した際に塊成化物の中心部の昇温遅れによる還元・溶解遅れを生じるので、一般には容積で20〜2000cc程度のサイズが好ましい。
【0020】
原料と水の混合物を成形して得られた成形物は、水硬性バインダーにより水和硬化させるため、一定期間養生させる。この養生の方法や期間は任意であり、例えば、蒸気による一次養生を行った後、大気下での二次養生を行ってもよい。養生期間は、養生スペースや生産性などの面からはなるべく短い方が好ましいが、養生後の必要強度に応じて適宜選択すればよい。一般には1〜7日間程度が好ましい。
【0021】
本発明法によれば、7日養生後の圧縮強度が10MPa以上のダスト塊成化物を安定して製造することができる。
この圧縮強度は、JIS−A−1108に準拠して測定する。但し、供試体形状は100mm×100mm×50mmの直方体を基準形とし、100mm×100mmの面方向に圧縮した値を圧縮強度の基準する。ダスト塊成化物が上記基準形よりも大きい場合には、同形に切り出して測定する。一方、ダスト塊成化物が上記基準形よりも小さい場合には、上記基準形の相似形に切り出して測定する。この相似形の場合の強度換算は、下式により算出する。
St=St*×(St/St*)
St:ダスト塊成化物が基準形よりも小さいときの圧縮強度換算値(MPa)
St*:小さいダスト塊成化物を基準形の相似形に切り出して測定した圧縮強度(MPa)
St:任意の基準形のダスト塊成化物の圧縮強度(MPa)
St*:Stを測定するときに用いたダスト塊成化物を、St*を測定する際の相似形に切り出して測定した圧縮強度(MPa)
個体間のばらつきが大きいため、最低5塊程度は測定して、その平均値を圧縮強度とする。
ダスト塊成化物の高強度化は、輸送に伴う落下衝撃や、炉に装入する際の落下衝撃による粉化を防止するために重要である。本来、強度測定は落下強度で規定すべきものであるが、落下強度と圧縮強度は良い正相関があることから、ここでは圧縮強度を基準とした。
【0022】
図3は、本発明の製造フローの一例を模式的に示すものである。
1は原料貯留設備であり、鉄含有ダストの貯留槽1a、水硬性バインダーの貯留槽1b、塩化物の貯留槽1c、炭材粉の貯留槽1dを備えている。貯留槽1a〜1dは、それぞれの貯留原料を定量供給するための機能を備えている。これら貯留槽1a〜1dからコンベア8上に定量供給された原料は、水供給ライン3から供給される水とともにミキサー2に導入され、混合される。
ミキサー2で十分に混合された水と原料の混合物は、成形機4で成形された後、所定時間養生設備5で養生(図3の例では蒸気養生)され、ダスト塊成化物が得られる。このダスト塊成化物は分級機6で分級され、粒径の大きいもの(塊)が製品となり、粒径の小さいもの(概ね粒径5mm未満の粉)は粉回収ライン7によりミキサー2に返送される。
【0023】
製造されたダスト塊成化物(製鉄用非焼成塊成物)は、高炉をはじめとする任意の竪型溶解炉の製鉄用原料(鉄源)として用いることができるが、竪型溶解炉としては、主に鉄系スクラップを主原料として溶銑を製造する竪型溶解炉が特に好ましい。その理由は、ダストは一般に微量の不純物を含んでいるためである。すなわち、高炉は高級鋼の生産に適した高純度の溶銑を製造しているため、不純物元素の混入を招くダストを高炉で使用するのはあまり好ましくなく、比較的不純物の多い鉄系スクラップを溶解する竪型炉で使用するのが望ましい。また、高炉では亜鉛や鉛などの蒸気圧の高い金属の化合物が炉壁上部に付着すると、装入物分布(焼結鉱とコークスの層構造)を乱し、通気性が変化・悪化し、操業に悪影響を及ぼすため、それらの不純物の使用が厳しく制限されている。これに対して、鉄系スクラップを溶解する竪型炉では、炉内の分布は特に重要ではなく、これら蒸気圧の高い元素を不純物として含むダストの使用・リサイクルには適していると言える。
【実施例】
【0024】
鉄含有ダストを塊成化してダスト塊成化物を製造し、竪型溶解炉(鉄スクラップ溶解炉)において使用した。鉄含有ダストとしては転炉OGダストを、水硬性バインダーとしてはポルトランドセメントを、塩化物としは塩化カルシウムを、炭材粉としてはコークス粉を、それぞれ用いた。表1に、使用した転炉OGダスト、ポルトランドセメント、コークス粉の各成分組成を示す。使用した転炉OGダストは、金属鉄(M.Fe)含有量が54.6mass%、酸化第一鉄(FeO)含有量が20.5mass%、酸化第二鉄(Fe)含有量が11.6mass%であり、図2に示すような形態で金属鉄と酸化鉄を含むものである。
【0025】
以下に示す発明例1〜8および比較例において、図1に示す製造フローに従いダスト塊成化物を製造し、このダスト塊成化物を竪型溶解炉に装入して操業を行った。その結果を、ダスト塊成化物の原料配合量、圧縮強度、炉の操業条件などとともに表2に示す。
表2において、原料の配合条件中にある「水分(外数)」とは、原料(転炉OGダスト+ポルトランドセメント+塩化カルシウム+コークス粉)100質量部に対して添加した水の質量部である。また、「塩素イオン濃度」とは、原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量である。また、「スラグ化する不純物量」とは、原料中のSiO,Al,CaO,MgOの合計量である。また、「ミキサー補修サイクル」は、3週間(21日間)稼動した前後でのミキサーの側壁厚さの差を測定することによりミキサー側壁の減肉速度を算出し、補修が必要な減肉量に到達するまでの時間を計算したものである。本実施例で使用したミキサーの初期側壁厚さは13.5mmであり、8mm程度まで減肉すると張替え補修が必要となる。
【0026】
・発明例1
原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.639mass%であり、この塩化物によって、転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進させることができた結果、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は25.2Mpaと十分に高く、竪型溶解炉の操業も順調であった。ミキサー側壁の21日経過後の減肉量は0.3mmであり、ミキサー補修サイクルは385日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。スラグ化する不純物量は15.9mass%であり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。
【0027】
・発明例2
原料中の水硬性バインダーの配合量が発明例1に較べて低いが、原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.639mass%であり、この塩化物によって、転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進させることができた結果、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は25.1Mpaと十分に高く、竪型溶解炉の操業も順調であった。ミキサー補修サイクルは385日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。スラグ化する不純物量は8.9mass%であり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。
【0028】
・発明例3
原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.038mass%であり、好ましい範囲をやや下回っている。このため転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果がやや小さく、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は20Mpaと発明例1に比べ若干低下したが、それでも竪型溶解炉の操業には十分な強度であり、操業も順調であった。ミキサー補修サイクルは390日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。スラグ化する不純物量は15.9mass%であり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。
【0029】
・発明例4
原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で3.578mass%であり、好ましい範囲をやや上回っている。このため転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が大きく、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は27.6Mpaと発明例1に比べ大きくなった。竪型溶解炉の操業には十分な強度であり、操業も順調であった。但し、ミキサー補修サイクルは348日毎と見積もられ、実用上は問題ないレベルであるが、発明例1よりはやや短くなった。スラグ化する不純物量は15.7mass%であり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。
【0030】
・発明例5
原料中の水硬性バインダーの配合量が、好ましい範囲をやや下回っている例である。原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で1.278mass%であり、このため転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が大きく、水硬性バインダーの不足を補うことができ、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は18.2Mpaと発明例1に比べ若干低下したが、それでも竪型溶解炉の操業には十分な強度であり、操業も順調であった。ミキサー補修サイクルは382日毎と見積もられ、発明例1よりやや短いが、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。スラグ化する不純物量は8.5mass%であり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。
【0031】
・発明例6
原料中の水硬性バインダーの配合量が、好ましい範囲をやや上回っている例である。原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.639mass%であり、転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が十分であって、且つ水硬性バインダー量も多いため、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は28.2Mpaと非常に高強度化した。しかし、スラグ化する不純物量が29.8mass%であり、好ましい上限値25mass%を超えたため、生成したスラグが炉内にやや蓄積する傾向があり、竪型溶解炉の操業はやや不安定になる場合があった。このため、竪型溶解炉の送風圧力がやや上昇し、送風ブロアの電力費用がやや増大した。ミキサー補修サイクルは385日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。
【0032】
・発明例7
原料中に炭材粉を配合しなかった例である。原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.639mass%であり、転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が十分であって、且つ水硬性バインダー量も適正範囲であるため、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は26.1Mpaと高強度化した。スラグ化する不純物量は15.4mass%となり、好ましい上限値25mass%以下であったため、生成したスラグが炉内に蓄積することもなく、順調に竪型溶解炉の操業が可能であった。但し、ダスト塊成化物中に炭材を添加していないため、コークス比が上昇している。発明例1との比較ではダスト塊成化物から供給されるコークス粉は15kg/t相当であるが、コークス比は18kg/t上昇している。これはコークス粉で炭材を供給した方が酸化鉄と炭素の接触面積が大きくなるため、還元効率が良いことによるものと考えられる。ミキサー補修サイクルは385日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。
【0033】
・発明例8
原料中の水硬性バインダーの配合量が、好ましい範囲の上限に近い例である。原料中の塩化物の配合量は、塩素イオン濃度換算で0.639mass%であり、転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が十分であって、且つ水硬性バインダー量も多いため、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は27.9Mpaと高強度化した。しかし、スラグ化する不純物量が27.2mass%であり、好ましい上限値25mass%を超えたため、生成したスラグが炉内にやや蓄積する傾向があり、竪型溶解炉の操業はやや不安定になる場合があった。このため、竪型溶解炉の送風圧力がやや上昇し、送風ブロアの電力費用がやや増大した。ミキサー補修サイクルは385日毎と見積もられ、1年間以上の連続使用が可能であることから、実用上全く問題ないレベルであった。
【0034】
・比較例1
原料中に塩化物を配合しなかった例である。塩化物による転炉OGダスト中の金属鉄の酸化・発熱反応を促進する効果が全く無いため、製造されたダスト塊成化物の7日養生後の圧縮強度は7.2Mpaと非常に低い。竪型溶解炉の操業を見ると、送風圧力が増大している。これは竪型溶解炉に装入したダスト塊成化物の強度が低いために粉化し、細粒となって充填層の空隙を埋め、通気性を悪化させたことによるものと推定される。このため操業は不安定化し、吹き抜けを頻発するようになり、コークス比も195kg/tと大幅に増大した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量と製造されたダスト塊成化物の圧縮強度との関係を示すグラフ
【図2】原料中の塩化物の塩素イオン濃度換算量と原料混合用ミキサー内部の鋼材の肉厚減少速度との関係を示すグラフ
【図3】本発明の製造フローの一例を模式的に示す説明図
【図4】転炉OGダスト粒子の断面構造および組成(半径方向でのM.Fe濃度分布)を模式的に示す説明図
【符号の説明】
【0038】
1 原料貯留設備
1a〜1d 貯留槽
2 ミキサー
3 水供給ライン
4 成形機
5 養生設備
6 分級機
7 粉回収ライン
8 コンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄および金属鉄を含むダストと、水硬性バインダーと、塩化物を主体とする原料に水を加えて混合した後、成形し、該成形物を水和硬化させてダスト塊成化物とすることを特徴とする鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【請求項2】
原料が、さらに炭材粉を含むことを特徴とする請求項1に記載の鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【請求項3】
原料中の塩化物の配合量が、塩素イオン濃度換算で0.05〜3.2mass%であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【請求項4】
原料中の水硬性バインダーの配合量が2〜25mass%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。
【請求項5】
成形工程では、原料と水の混合物を圧縮成形し、または加振しつつ圧縮成形することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鉄含有ダスト塊成化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179854(P2009−179854A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20246(P2008−20246)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】