説明

鉄微粒子及びその製造方法

【課題】アスペクト比が低く、平均粒子径が小さく、保磁力を制御するために結晶子径が制御された鉄微粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の鉄微粒子は、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子であり、α鉄を主成分とし、アスペクト比が1.5以下、平均粒子径が300nm以下、結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下、飽和磁化が80emu/g以上、保磁力が300Oe以下の磁性体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄微粒子及びその製造方法に関し、特に、平均粒子径が300nm以下、結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下、アスペクト比が1.5以下の磁性を有する超微粒子である鉄微粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄微粒子が、記録媒体、高透磁率材料、永久磁石材料、磁性流体等、多方面で幅広く使用されているが、近年における装置の軽量化、小型化に伴い、鉄微粒子に対しても粒子サイズをさらに小さくする要求が高まってきている。
一方、パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子機器においては、これらの性能をさらに向上させるために、使用する周波数帯を高周波帯へシフトする検討が進んでいる。このような高周波帯を使用するためには、上記の電子機器に搭載される基板においても、高周波の電磁場特性を制御する必要がある。そこで、基板に磁性特性を付与するために、ニッケル、コバルト、鉄、あるいはこれらの合金からなる金属粒子をエポキシ樹脂等の絶縁材料中にフィラーとして分散させた基板が用いられている。
【0003】
ところで、このような基板を高周波領域で用いた場合、フィラーとして分散させた金属粒子の導電性に起因する渦電流損失が生じる。そこで、使用される金属粒子としては、渦電流損失を生じさせることのない平均粒子径が300nm以下、好ましくは200nm以下のナノ粒子が望まれており、特に、小粒子であり、かつ飽和磁化が高く、保磁力の低い軟磁性特性を有する金属微粒子が望まれている。また、将来的には、アスペクト比を低くした等方性の軟磁性材料も望まれている。
【0004】
飽和磁化の高い金属微粒子としては、鉄微粒子が挙げられる。この鉄微粒子を製造する方法としては、例えば、鉄の塊状体を機械的に粉砕する粉砕法がある。
しかしながら粉砕法では、粒子の粒径が1μm以上となるために、ナノメートル級の微粒子を得ることが難しく、そこで、ナノメートル級の鉄微粒子を得る方法として、湿式法を基盤とした製造方法を採用する必要がある。
この湿式法とは、鉄イオンの素となる鉄化合物を含む溶液に還元剤またはpH調製剤を添加して粒子核を形成し、この粒子核を成長させることにより微粒子を生成する方法である。なお、還元剤を用いる場合には、直接鉄微粒子を得ることが可能である。また、pH調整剤を用いる場合には、一旦鉄の水酸化物あるいは酸化物等の前駆体を生成し、その後還元ガス雰囲気中にて熱処理することにより、鉄微粒子を得ることが可能である。
【0005】
湿式法による鉄微粒子の製造方法としては、例えば、次に挙げる(1)〜(3)のような方法が提案されている。
(1)熱分解または還元により0価の鉄を生成する鉄化合物を、脂肪族アミン及び酸素含有化合物を含み、この酸素含有化合物の割合が脂肪族アミン1モルに対して0.1モル以下である凝集抑制剤を含む液中にて熱分解または還元することにより、この凝集抑制剤が配位した鉄超微粒子を生成させる方法(特許文献1)。
(2)鉄無機塩水溶液およびその還元剤水溶液を、それぞれの水溶液を内水相とするW/Oエマルジョンを形成させた上で、これらを混合し、鉄微粒子を生成させる方法(特許文献2)。
(3)鉄のハロゲン化物を400〜800℃の温度にて水素還元し、鉄微粒子を生成させる方法(特許文献3)。
【特許文献1】特開2006−342399号公報
【特許文献2】特開平8−143916号公報
【特許文献3】特開昭62−23901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の湿式法による鉄微粒子の製造方法では、次のような問題点があった。
(1)鉄の水酸化物あるいは酸化物等の前駆体を還元ガス雰囲気中にて熱処理する方法では、確かに、粒子径が小さくかつ透磁率が高い鉄微粒子を得ることができるが、これらの前駆体がアスペクト比の高い粒子であり、これらの前駆体を還元ガス雰囲気中にて熱処理する際に針状結晶が生じることとなるために、アスペクト比の高い鉄微粒子が生成されてしまうという問題点があった。
【0007】
(2)鉄化合物を凝集抑制剤を含む液中にて熱分解または還元する方法や、鉄無機塩水溶液およびその還元剤水溶液にW/Oエマルジョンを形成させた上で鉄微粒子を生成させる方法では、アスペクト比の低い球状の鉄微粒子を生成することはできるが、生成した鉄微粒子の結晶性が悪いために表面を覆っている酸化層の影響が強く生じてしまい、鉄微粒子の保磁力が高くなってしまうという問題点があった。さらに、鉄超微粒子中に異物である凝集抑制剤が配位しているために、飽和磁化を十分に確保することができない虞があるという問題点があった。
(3)鉄のハロゲン化物を400〜800℃の温度にて水素還元し、鉄微粒子を生成させる方法では、得られた鉄粒子の粒径が500nm〜2μm程度と大きく、渦電流損失を低減させるには不充分な大きさであるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、アスペクト比が低く、平均粒子径が小さく、保磁力を制御するために結晶子径が制御された鉄微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鉄微粒子について改良すべく鋭意検討を行った結果、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を、不活性雰囲気下にて熱処理することとすれば、アスペクト比が1.5以下の鉄微粒子を容易に得ることができ、しかも、不活性雰囲気下にて熱処理することにより、鉄微粒子の表面を覆う酸化膜が、この鉄微粒子の粒成長を阻害し、平均粒子径を300nm以下、かつ結晶子径を200オングストローム以上かつ800オングストローム以下に制御することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の鉄微粒子は、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子であって、アスペクト比が1.5以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の鉄微粒子では、平均粒子径が300nm以下、かつ結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下であることが好ましい。
主成分はα鉄であることが好ましい。
飽和磁化が80emu/g以上、保磁力が300Oe以下の磁性体であることが好ましい。
前記還元剤は、水素化物であることが好ましい。
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスであることが好ましい。
【0012】
本発明の鉄微粒子の製造方法は、鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加して微粒子を生成する微粒子生成工程と、生成した微粒子を不活性ガスの雰囲気下にて熱処理する熱処理工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の鉄微粒子の製造方法では、前記還元剤は、水素化物であることが好ましい。
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄微粒子によれば、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子のアスペクト比を1.5以下としたので、粒子の等方性及び結晶性を向上させることができる。したがって、飽和磁化を高めるとともに、保磁力を低く制御することができる。
また、微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理したので、この微粒子の表面に形成された酸化膜により微粒子同士の結合が阻害され、平均粒子径を300nm以下に制御した鉄微粒子を提供することができる。
【0015】
本発明の鉄微粒子の製造方法によれば、鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加して微粒子を生成する微粒子生成工程と、生成した微粒子を不活性ガスの雰囲気下にて熱処理する熱処理工程と、を有するので、アスペクト比が低く、平均粒子径が小さく、結晶子径が制御された鉄微粒子が容易に得られる。
したがって、アスペクト比が1.5以下に制御され、さらには平均粒子径が300nm以下、かつ結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下に制御された鉄微粒子を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の鉄微粒子及びその製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
本実施形態の鉄微粒子は、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子であり、この鉄微粒子の最長部分の長さ(L)と厚み(t)の比、すなわちアスペクト比(L/t)が1.5以下である。
ここで、この鉄微粒子のアスペクト比を1.5以下と限定した理由は、アスペクト比が1.5を超えると、微粒子としての等方性が失われてしまい、等方性の軟磁性材料を得ることができなくなるからである。
【0018】
この鉄微粒子の平均粒子径は、300nm以下が好ましく、より好ましくは200nm以下である。
ここで、この鉄微粒子の平均粒子径を300nm以下と限定した理由は、平均粒子径が300nmを超えると、この鉄微粒子に外部磁場が加わった場合に渦電流が生じ易くなり、その結果、渦電流損失を低減させることができなくなるからである。
【0019】
この鉄微粒子の結晶子径は、200オングストローム以上かつ800オングストローム以下が好ましく、より好ましくは300オングストローム以上かつ700オングストローム以下である。
ここで、結晶子径を上記の範囲内に限定した理由は、結晶子径が200オングストローム未満では、表面の酸化層の影響が強くなることにより、保磁力が高くなってしまうからであり、一方、結晶子径が800オングストロームを超えると、粒子径が大きくなってしまい、渦電流損失が大きくなってしまうからである。
【0020】
この鉄微粒子の主成分はα鉄であることが好ましい。
その理由は、α鉄が常温(25℃)で安定な強磁性体であり、しかもキュリー温度(770℃)以上で強磁性体から常磁性体に容易に変わり得るからである。
【0021】
この鉄微粒子の飽和磁化は、80emu/g以上が好ましく、より好ましくは90emu/g以上である。
ここで、飽和磁化を80emu/g以上と限定した理由は、飽和磁化が80emu/gを下回ると、高周波帯域における磁性特性が不充分なものとなってしまい、その結果、この鉄微粒子を用いた各種デバイスの高周波帯域の磁性特性が低下するからである。
【0022】
この鉄微粒子の保磁力は、300Oe以下が好ましい。
ここで、保磁力を300Oe以下と限定した理由は、保磁力が300Oeを超えると、高周波帯域での渦電流損失が大きくなるからである。
【0023】
次に、本実施形態の鉄微粒子の製造方法について説明する。
本実施形態の鉄微粒子の製造方法は、鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加して微粒子を生成する微粒子生成工程と、生成した微粒子を不活性ガスの雰囲気下にて熱処理する熱処理工程と、を有する方法である。
この製造方法について、工程毎に詳細に説明する。
【0024】
「微粒子生成工程」
鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加し、この鉄イオンを還元剤により還元し、アスペクト比が1.5以下の鉄微粒子を得る。
鉄イオン源としては、溶液に溶解したときに鉄イオンを生成することができる鉄化合物であればよく、この鉄化合物の鉄イオンの価数としては、2価、3価のいずれでもかまわないが、還元剤を添加したときの還元し易さを考慮すると、2価のイオンが好ましい。
【0025】
鉄化合物としては、特に制限はないが、塩化鉄(II)(塩化第1鉄)、塩化鉄(III)(塩化第2鉄)、臭化鉄(II)(臭化第1鉄)、ヨウ化鉄(II)(ヨウ化第1鉄)等の鉄ハロゲン化物、硫酸鉄(II)(硫酸第1鉄)、硫酸鉄(II)鉄(III)、硫酸鉄(III)(硫酸第2鉄)、硫酸鉄(II)アンモニウム等の硫酸塩、硝酸鉄(II)(硝酸第1鉄)、硝酸鉄(III)(硝酸第2鉄)等の硝酸塩、酢酸鉄(II)(酢酸第1鉄)、酢酸鉄(III)(酢酸第2鉄)、シュウ酸鉄(II)(シュウ酸第1鉄)等の有機酸塩、錯体等の群から選択される1種のみ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
還元剤としても特に制限はないが、鉄イオン自体の起電力を考慮すると、ある程度還元力の強い還元剤を選択することが望ましい。
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カルシウム、水素化リチウムアルミニウム等の水素化物のうち1種のみ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
なお、上記の還元剤を用いない方法としては、鉄イオンを含む溶液を、一価アルコールあるいは多価アルコールを用いて還流下で還元させる還元法等もあり、鉄イオンを0価まで還元することができる液相還元法を適宜選択することも可能である。
この液相還元法により得られる前駆体の粒子径の調整については、反応温度、キレート剤の選択と量の調整、保護コロイドの添加、反応濃度の調整、反応雰囲気の調整等、適宜行うことにより調整することができる。
【0028】
「熱処理工程」
上記の微粒子生成工程にて生成したアスペクト比の低い鉄微粒子を、不活性ガスの雰囲気下にて熱処理(焼成)する。
この熱処理(焼成)は、不活性ガスの雰囲気中にて行う必要がある。その理由は、大気雰囲気中では、鉄微粒子が酸化してしまうからであり、一方、水素などの還元性ガス雰囲気中では、最表面の酸化被膜が還元されて鉄が露わになってしまい、この鉄が露わになった粒子同士が結合して粒成長を増大するからである。
不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガス、窒素ガス、のうち1種のみ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
熱処理(焼成)の温度は、100℃以上かつ750℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上かつ700℃以下である。その理由は、100℃以下では鉄微粒子の結晶化が進まないために、所定の結晶子径まで結晶成長が進まず、したがって、鉄微粒子の表面の酸化膜の部分の保磁力の影響が大きくなり、軟磁性特性が低下するからであり、一方、750℃以上では、鉄微粒子が強磁性体から常磁性体に変化し、磁力を失うからである。
【0030】
以上により、アスペクト比が1.5以下に制御され、さらには平均粒子径が300nm以下、かつ結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下に制御された鉄微粒子を容易に作製することができる。
しかも、溶液中の鉄イオンを還元剤により還元し、得られた微粒子を不活性ガスの雰囲気下にて熱処理(焼成)するので、得られた鉄微粒子における不純物を極めて少なくすることができる。したがって、飽和磁化が高く、保磁力が低く、軟磁性特性を有する鉄微粒子を提供することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
「実施例」
(1)微粒子Aの調製
塩化第一鉄四水和物(FeCl・4HO:試薬特級、関東化学社製)93.8gとイオン交換水506.2gを混合してA液とした。次いで、このA液中に窒素ガスを1時間バブリングさせ、このA液中の溶存酸素を除去した。
一方、窒素ガスで1時間バブリングしたイオン交換水382.2gに水素化ホウ素ナトリウム(NaBH:試薬特級、関東化学社製)を溶解させてB液とした。
【0033】
次いで、このA液中に上記のB液を滴下し、得られた溶液をウォーターバスを用いて40℃に加温し、窒素雰囲気下にて1時間撹拌し、反応を進行させた。
次いで、この反応終了後に反応液を静置し、この反応液中の黒色の粒子を沈降させた後、デカンテーション法により上澄みを除去し、さらにイオン交換水を添加した。この洗浄操作を上澄み液の塩素濃度が20ppm以下になるまで繰り返し行い、黒色粒子を含むスラリーとした。次いで、この黒色粒子を含むスラリーから遠心分離法により水分を除去した後、減圧下でスラリーの乾燥を行い、黒色の微粒子Aを得た。
【0034】
(2)微粒子Aの焼成
黒色の微粒子Aをアルゴン雰囲気下、650℃にて1時間焼成し、黒色の微粒子Bを得た。得られた微粒子BをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が体心立方をなすことが確認された。また(110)面、(200)面のピーク角度から、調製した微粒子Aの組成はα鉄であることが確認された。また、(110)面の半値幅から結晶子径を求めたところ、584.5オングストロームであった。
【0035】
(3)微粒子Bの評価
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、得られた微粒子Bの粒子50個の一次粒子径及びアスペクト比を求めた。なお、一次粒子径は長軸側の長さを測定した。その結果、この微粒子Bの結晶形は立方晶であり、平均一次粒子径は220nm、アスペクト比は1.2であった。また、この微粒子Bが磁石に引きつけられることにより、磁性を有することを確認した。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により測定した飽和磁化は99emu/g、保磁力は229Oeであった。
【0036】
「比較例1」
(1)実施例にて得られた焼成前の微粒子AをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が体心立方をなすことが確認された。また(110)面、(200)面のピーク角度から、調製した微粒子Aの組成はα鉄であることが確認された。また、(110)面の半値幅から結晶子径を求めたところ、98.6オングストロームであった。
【0037】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、微粒子Aの形状及び粒子50個の一次粒子径並びにアスペクト比を求めた。この微粒子Aの形状は球状、一次粒子径は50nm、アスペクト比は1.0であった。また、この微粒子Aが磁石に引きつけられることにより、磁性を有することを確認した。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により測定した飽和磁化は103emu/g、保磁力は435Oeであった。
【0038】
「比較例2」
(1)実施例にて得られた焼成前の微粒子Aを、水素雰囲気下、650℃にて1時間焼成し、黒色の微粒子Cを得た。
この微粒子CをX線回折(XRD)により分析したところ、結晶構造が体心立方をなすことが確認された。また(110)面、(200)面のピーク角度から、得られた微粒子Cの組成はα鉄であることが確認された。また、(110)面の半値幅から結晶子径を求めたところ、1131.1オングストロームであった。
【0039】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、微粒子Cの形状及び粒子50個の一次粒子径並びにアスペクト比を求めた。この微粒子Cの形状は直方体状、長軸側の長さは500nm、アスペクト比は1.6であった。また、この微粒子Cが磁石に引きつけられることにより、磁性を有することを確認した。さらに、振動試料型磁力計(VSM)により測定した飽和磁化は144emu/g、保磁力は28Oeであった。
【0040】
「比較例3」
(1)実施例にて得られた焼成前の微粒子Aを、大気雰囲気下、650℃にて1時間焼成し、褐色の微粒子Dを得た。
この微粒子DをX線回折(XRD)により分析したところ、3本の最強線のピーク角度から、得られた微粒子Dは酸化鉄であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の鉄微粒子は、鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子とし、しかもアスペクト比を1.5以下としたことにより、平均粒子径を300nm以下、かつ結晶子径を200オングストローム以上かつ800オングストローム以下に制御するとともに、飽和磁化を80emu/g以上、保磁力を300Oe以下とすることができるものであるから、さらなる微粒子化が可能になり、その結果、使用する電子機器の周波数帯を高周波帯へシフトすることが可能となり、その工業的価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオンを還元剤により還元して得られた微粒子を不活性雰囲気下にて熱処理してなる鉄微粒子であって、
アスペクト比が1.5以下であることを特徴とする鉄微粒子。
【請求項2】
平均粒子径が300nm以下、かつ結晶子径が200オングストローム以上かつ800オングストローム以下であることを特徴とする請求項1記載の鉄微粒子。
【請求項3】
主成分はα鉄であることを特徴とする請求項1または2記載の鉄微粒子。
【請求項4】
飽和磁化が80emu/g以上、保磁力が300Oe以下の磁性体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の鉄微粒子。
【請求項5】
前記還元剤は、水素化物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の鉄微粒子。
【請求項6】
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の鉄微粒子。
【請求項7】
鉄イオンを含む溶液に還元剤を添加して微粒子を生成する微粒子生成工程と、
生成した微粒子を不活性ガスの雰囲気下にて熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする鉄微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記還元剤は、水素化物であることを特徴とする請求項7記載の鉄微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスであることを特徴とする請求項7または8記載の鉄微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−24478(P2010−24478A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185063(P2008−185063)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】