説明

鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造

【課題】 犠牲陽極材の設置を容易に行うことができ、更には、鉄筋コンクリート構造物の断面修復後、長期間にわたって煩雑なメンテナンス作業を伴わずに鉄筋の腐食を防止できる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造を提供すること。
【解決手段】 線状犠牲陽極材3は、コンクリート除去部2の底面2aから正面部分が露出される深層部鉄筋62bの軸方向に沿って、その深層部鉄筋62bの正面部分、即ち、深層部鉄筋62bの露出部分の表面に接触するように、当該深層部鉄筋62bに添設される。線状犠牲陽極材3の湾曲形態部3aが弾性バネ固定具4と表層部鉄筋62aとの間に挟持されて、表層部鉄筋62aの外周表面に通電可能に直接接触した状態で固定されている。断面修復部材5は、セメント系モルタルを主成分とし、それに添加物として鉄筋コンクリート構造物60の内部へ浸透拡散する性質のある防錆剤が混合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の欠陥部を断面修復するために用いられる断面修復構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の鉄筋コンクリート構造物においては、海岸部で飛来する空気中の塩分や、内陸部で散布される凍結防止剤などの塩分が、コンクリート表面に付着して、鉄筋コンクリート構造物の内部へ浸透し、鉄筋を腐食させてしまう塩害が問題となっている。特に、塩害による鉄筋腐食は、鉄筋コンクリート構造物内に配筋される鉄筋の体積の増加膨張を招くため、鉄筋コンクリート構造物のかぶり部にひび割れ、浮き、剥離を発生させ、ひいては鉄筋断面欠損や鉄筋コンクリート構造物の耐荷性能の低下を招来したりしてしまう。
【0003】
このため、塩害による鉄筋腐食が発生した鉄筋コンクリート構造物に対しては、各種の対策工法が提案されており、例えば、流電陽極方式や外部電源方式による電気防食工法、脱塩工法、断面修復工法、又は、塩害対策専用の犠牲陽極部材を用いた防食工法などが用いられている。例えば、そのうちの1つである断面修復工法は、鉄筋の腐食を防止するため、塩分(塩化物イオン)濃度が高くなっているコンクリート部分(欠陥部)を除去して、補修材料を用いて修復するものである。
【0004】
この断面修復工法についても、更に種々の工法が提案されており、例えば、鉄筋腐食により劣化した欠陥部からコンクリートをはつり取って除去することで、構造物内部に完全に埋設されている鉄筋を露出させてから、その鉄筋の表面に亜硝酸系防錆剤などを塗布した後、コンクリートがはつり取られた欠損凹部に断面修復用の補修材料を充填して修復するものがある。
【0005】
ところが、このような断面修復工法による鉄筋コンクリート構造物の修復では、鉄筋コンクリート構造物の内部に埋設されている鉄筋が、既設のコンクリート材料と新設の補修材料とに跨った状態で存在することとなり、既設のコンクリート材料及び新設の補修材料の双方に接している鉄筋の表面において電位差が生じ、一方の材料に接する部分がアノード、他方の材料に接する部分がカソードとなって、鉄筋のマクロセル腐食が発生してしまう。
【0006】
これに対し、別の塩害対策工法である防食工法は、このような鉄筋のマクロセル腐食を抑制するため、鉄筋の素材である鉄より卑な金属(イオン化傾向の大きな金属)を用いた犠牲陽極部材を鉄筋に接合し、この犠牲陽極部材を鉄筋の代わりに腐食させるものであり、例えば、下記する特許文献1記載の防蝕法や、特許文献2記載の防食工法がなどが提案されている。
【特許文献1】特表8−511581号公報
【特許文献2】特開2003−129671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した防食工法では、塩害対策専用の犠牲陽極部材を鉄筋に接合するために、その犠牲陽極部材本体から導出される金属線を、鉄筋に巻き付けて結着する必要があるため、鉄筋の背面以深までコンクリートをはつり取って除去する必要がある。しかも、かかる犠牲陽極部材を鉄筋に確実に固定するためには、金属線の結着部分の背面にモルタル等を充填する必要もある。このため、従来の防食工法では、施工コストが増大し、工期も延び、その他にも除去されたコンクリートなどの建設副産物も多くなるという問題点があった。しかも、鉄筋の背面以深までコンクリートをはつり除去するには、鉄筋の配設箇所を避けてコンクリートを除去する必要があるために施工作業も煩雑となりやすく、その結果、施工コストも更に余分に必要となるという問題点がある。
【0008】
特に、補修箇所が広範囲に及ぶ場合には、塩害対策専用の犠牲陽極部材の配設箇所も増加するため、施工の作業性も一層低下し、施工コストもより一層嵩んでしまうという問題点がある。また、特許文献1の場合には、犠牲陽極部材が短期間でマクロセル腐食により消耗しきってしまえば、それ以降は犠牲陽極部材による防食効果を期待することは不可能であるという問題点がある。さらに、特許文献2の場合には、犠牲陽極部材を取り替え可能としているが、このような犠牲陽極部材の取り替えに伴う事後的メンテナンスが極めて煩雑であるという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、犠牲陽極材の設置を容易に行うことができ、更には、鉄筋コンクリート構造物の断面修復後、長期間にわたって煩雑なメンテナンス作業を伴わずに鉄筋の腐食を防止できる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために請求項1の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを除去することで形成されるコンクリート除去部と、そのコンクリート除去部の底面から正面部分が露出される鉄筋に沿って添設される線材状の形態を有する線状犠牲陽極材と、その線状犠牲陽極材を前記鉄筋の露出した正面部分に対して通電可能に接触した状態で前記コンクリート除去部内に固定する固定部材と、その固定部材によって固定される前記線状犠牲陽極材を被包するように前記コンクリート除去部に充填されて硬化した補修材料で形成される断面修復部材とを備えている。
【0011】
請求項2の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記コンクリート除去部の底面からは、前記鉄筋の正面部分が当該鉄筋の軸方向に沿って露出されており、前記線状犠牲陽極材は、そのコンクリート除去部の底面に露出される前記鉄筋の軸方向に沿って、その鉄筋の露出部分に接触するように添設されるものである。
【0012】
この請求項1又は2の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、断面修復部材は、コンクリート除去部に充填される未硬化状態の補修材料が硬化することで形成され、この断面修復部材によってコンクリート除去部だった箇所が復元される。この断面修復部材の内部には、線状犠牲陽極材から鉄筋へと防食電流が流れるマクロセル電池回路(防食回路)が形成されているので、線状犠牲陽極材が鉄筋に代わって腐食して、鉄筋の腐食が防止される。
【0013】
ここで、線状犠牲陽極材は線材状の形態であるので、コンクリート除去部の底面に露出する鉄筋の正面部分の表面に接触させて添設させることで、コンクリート除去部の底面から露出される鉄筋に対して線状犠牲陽極材を余す所なく張り巡らすことも容易にできる。このため、コンクリート除去部から露出される鉄筋に対して全体的又は連続的に線状犠牲陽極材を通電可能に配置でき、線状犠牲陽極材による防食効果をコンクリート除去部の全体に行き渡らせることができ、更に、損傷箇所の形状に応じて線状犠牲陽極材の設置態様を容易に変更することもできる。
【0014】
しかも、線状犠牲陽極材の形態が線材状であることから、鉄筋の正面部分の表面に通電可能に接触させた状態でコンクリート除去部内に固定する場合に、例えば、導電性を有する接着剤、コンクリート釘、又は、ステープル若しくはワイヤーリテイナーその他の配線用固定具などを、固定部材として用いることもでき、線状犠牲陽極材を金属線を用いて鉄筋に巻き付けることなく、コンクリート除去部内に容易に固定することができる。
【0015】
例えば、線材状の形態を有する線状犠牲陽極材は、導電性接着剤を用いて鉄筋の正面部分の表面に直接接着したり、或いは、コンクリート除去部内のコンクリート面にコンクリート釘を打ち込み、そのコンクリート釘の頭部分を叩き曲げて、その曲がった部分で鉄筋の正面部分の表面に押し当てて固定しても良い。
【0016】
また、例えば、線状犠牲陽極材は、線状犠牲陽極材に接触した鉄筋を跨いだ格好でステープルをコンクリート除去部内のコンクリート面に打ち込んで鉄筋の正面部分の表面に押し当てて固定したり、或いは、コンクリート用タッピングねじをコンクリート除去部内のコンクリート面に打ち込んでワイヤーリテイナーその他の配線用固定具を固定し、かかる配線用固定具によって鉄筋の正面部分の表面に押し当てるように固定しても良い。
【0017】
このように犠牲陽極を固定部材を用いて固定する方式を採用することで、従来の犠牲陽極部材のように金属線を鉄筋に巻き付けて固定するために表層コンクリートを鉄筋の背面以深まではつり取って除去する必要もない。したがって、その分、表層コンクリートの除去作業も簡素化され、除去されるコンクリートなどの建設副産物の量も削減されるので、施工コストを一層削除でき、工期短縮もでき、省資源化にも資することができる。
【0018】
請求項3の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1又は2の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記固定部材は、前記コンクリート除去部の底面に露出される前記鉄筋の外周に跨乗状態で外嵌される弾性バネ部材であり、前記線状犠牲陽極材は、その固定部材と前記鉄筋との間に挟持されることで、その固定部材によって当該鉄筋の外周に通電可能に接触した状態で固定されるものである。
【0019】
この請求項3の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、請求項1又は2の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、線状犠牲陽極材は、鉄筋外周に外嵌される弾性バネ部材と鉄筋自体との間に挟持されるので、線状犠牲陽極材と鉄筋とを確実に接触させて、両者間の通電状態を容易に確保できる。しかも、弾性バネ部材は自らの弾性復元力を用いて鉄筋外周に外嵌取着されるものであるので、上記したコンクリート釘、ステープル、又は、コンクリート用タッピングねじをコンクリート除去部のコンクリート面に打ち込む等する固定部材に比べて、迅速かつ容易に線状犠牲陽極材の固定作業を行うことができる。
【0020】
請求項4の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1から3のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、鉄筋コンクリート構造物は、その鉄筋コンクリート構造物の表層側に配筋される表層部鉄筋と、その表層部鉄筋以深に配筋されて当該表層部鉄筋に接触および交差する深層部鉄筋とを備えており、前記コンクリート除去部は、その深さが前記深層部鉄筋の正面部分が露出される位置と略等しい位置まであって、そのコンクリート除去部の底面から前記深層部鉄筋の正面部分が露出されており、前記線状犠牲陽極材は、前記深層部鉄筋に沿って添設され、その深層部鉄筋および表層部鉄筋の交差部分で、その表層部鉄筋の外周に沿って当該表層部鉄筋を乗り越える形態とされており、前記固定部材は、前記線状犠牲陽極材における前記表層部鉄筋を乗り越える形態をした部分を、当該表層部鉄筋に対して取着するものである。
【0021】
この請求項4の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1から3のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、線状犠牲陽極材が深層部鉄筋に沿って添設される場合、かかる線状犠牲陽極材は、表層部鉄筋と深層部鉄筋との交差部分で、かかる表層部鉄筋の外周に沿って、この表層部鉄筋を乗り越える形態とされる。このため、この線状犠牲陽極材における表層部鉄筋を乗り越える形態をした部分を、固定部材によって表層部鉄筋に取着することで、線状犠牲陽極材が、表層部鉄筋と通電可能な状態で接触しつつ、コンクリート除去部内で固定される。
【0022】
ここで、鉄筋コンクリート構造物内には表層部鉄筋と深層部鉄筋とが接触して配筋されるので、線状犠牲陽極材を表層部鉄筋の外周に接触させて固定するだけで、線状犠牲陽極材を表層部鉄筋および深層部鉄筋の双方と通電可能な状態とできる。このため、線状犠牲陽極材から表層部鉄筋および深層部鉄筋の双方へ防食電流が流れるマクロセル電池回路を形成でき、表層部鉄筋および深層部鉄筋の双方に代わって線状犠牲陽極材を腐食させて、鉄筋の腐食を防止できるものとなる。
【0023】
また、線状犠牲陽極材を深層部鉄筋に沿って添設するに際して、コンクリート除去部の深さは深層部鉄筋の正面部分が露出される位置と略等しい位置までなので、かかる深層部鉄筋の背面以深まで表層コンクリートを除去する必要もなく、その分、表層コンクリートの除去作業も簡素化されるとともに、除去されるコンクリートなどの建設副産物の量も削減される。このため、施工コストを一層削除でき、工期短縮もでき、省資源化にも資することとなる。しかも、深層部鉄筋の背面以深までコンクリートをはつり除去する必要がないため、深層部鉄筋の配設箇所を避けて表層コンクリートを除去するような煩雑な施工作業も不要となるので、その分、施工コストを更に低減でき、作業性を一層効率化できる。
【0024】
請求項5の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項4の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記固定部材は、前記コンクリート除去部の底面に露出される前記表層部鉄筋の外周に跨乗状態で外嵌される弾性バネ部材であり、前記線状犠牲陽極材は、その固定部材と前記表層部鉄筋との間に挟持されることで、その固定部材によって当該表層部鉄筋の外周に通電可能に接触した状態で固定されるものである。
【0025】
この請求項5の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項4の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、線状犠牲陽極材は、表層部鉄筋外周に外嵌される弾性バネ部材によって鉄筋自体に固定されるので、線状犠牲陽極材と表層部鉄筋とを確実に接触させることができ、線状犠牲陽極材、表層部鉄筋および深層部鉄筋の相互間に通電状態を容易に確保できる。
【0026】
しかも、弾性バネ部材は、その弾性バネ部材の弾性復元力を介して、線状犠牲陽極材の中でも表層部鉄筋を乗り越えている形態をした部分を、表層部鉄筋ごと抱え込むように表層部鉄筋外周に跨乗外嵌されて、線状犠牲陽極材を鉄筋に対して固定するので、わざわざコンクリート釘、ステープル、又は、コンクリート用タッピングねじをコンクリート面に打ち込んだり又はねじ込んだりする必要もなく、迅速かつ容易に線状犠牲陽極材の固定作業を行うことができる。
【0027】
請求項6の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項2又は5の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記弾性バネ部材は、その弾性バネ部材が跨乗状態で外嵌されている前記鉄筋を軸方向視した場合に、外周の一部に開口部を有する略C字状の形態とされている。
【0028】
この請求項6の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、請求項2又は5の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、弾性バネ部材の外周にある開口部から、その弾性バネ部材の内周部へ鉄筋を押し込み、開口部を拡開させて、弾性バネ部材の内径を拡大させることで、弾性バネ部材を鉄筋外周に跨乗した状態で容易に外嵌させることができる。
【0029】
請求項7の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1から6のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記線状犠牲陽極材は、鉄筋よりイオン化傾向の大きな金属単体であって、亜鉛又は亜鉛合金で形成されている。
【0030】
この請求項7の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、請求項1から6のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、線状犠牲陽極材は亜鉛又は亜鉛合金で形成されている金属単体である。このため、他の金属を線状犠牲陽極材として用いる場合に比べて、線状犠牲陽極材自体の腐食膨張が抑制され、この線状犠牲陽極材の腐食膨張に伴う断面修復部材や鉄筋コンクリート構造物のひび割れの発生が抑制される。
【0031】
請求項8の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項1から7のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記断面修復部材は、鉄筋コンクリート構造物の内部へ浸透拡散する性質のある防錆剤が前記補修材料に混合されているものである。
【0032】
この請求項8の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、請求項1から7のいずれかの鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、断面修復部材(補修材料)に混合されている防錆剤は、断面修復部材と鉄筋コンクリート構造物との間における当該防錆剤の濃度差によって、断面修復部材から鉄筋コンクリート構造物の内部へ時間経過とともに徐々に浸透拡散される。
【0033】
そして、線状犠牲陽極材の腐食(異種金属マクロセル腐食)が進行してマクロセル電池回路の防食効果が衰える頃には、防錆剤が鉄筋コンクリート構造物の内部にまで充分に拡散浸透されて、断面修復部材のみならず鉄筋コンクリート構造物の内部も防錆剤による防錆雰囲気が形成される。よって、これ以降は線状犠牲陽極材の防錆作用によらずとも、防錆剤の作用によって鉄筋の腐食が防止される。この結果、断面修復後から長期間にわたって煩雑なメンテナンス作業を伴わずに鉄筋の腐食を防止できることとなる。
【0034】
請求項9の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造は、請求項8の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造において、前記防錆剤は、前記鉄筋の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有しており、更に、前記補修材料に混合された状態でアルカリ性を示すものである。
【0035】
この請求項9の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、請求項8の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造と同様に作用する上、防錆剤に含まれるイオン成分の作用によって鉄筋の表面に不動態被膜を形成して鉄筋の腐食を防止できる。しかも、防錆剤が混合された補修材料で形成される断面修復部材をアルカリ性にできるので、線状犠牲陽極材の表面に不動態被膜が形成されることを阻み、線状犠牲陽極材からの金属イオンの溶出が促進されて、マクロセル電池回路による防食電流の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0036】
本発明の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造によれば、従来の防食工法のように塩害対策専用の犠牲陽極部材の本体から導出される金属線を鉄筋に結着して当該結着部分の背面にモルタル等を充填して固定することが不要なため、鉄筋の背面以深までコンクリートをはつり取って除去する必要もなく、その分、施工コストが低減でき、工期も短縮化でき、その他にも除去されたコンクリートなどの建設副産物も削減でき、施工作業を簡素化できるという効果がある。
【0037】
しかも、補修箇所(損傷箇所)が広範囲に及ぶ場合でも、かかる補修箇所の形状に応じて線状犠牲陽極材を自在に張り巡らせて設置することができ、その施工性が極めて良好であるという効果がある。さらに、線状犠牲陽極材には、犠牲陽極材としての機能を元来備えている汎用の金属線を用いることができ、塩害対策専用の犠牲陽極部材を用いる場合に比べて大幅に施工コストを低減できるという効果がある。
【0038】
また、特に、請求項8又は9の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造にあっては、防錆剤による防錆雰囲気が形成される過渡期には、犠牲陽極部材と鉄筋との間で生じる異種金属マクロセル腐食により形成されるマクロセル電池回路によって鉄筋の防食がなされると共に、そのマクロセル電池回路による犠牲陽極部材の腐食の終息期には、防錆剤による防錆雰囲気が鉄筋コンクリート構造物の内部に形成されて鉄筋の防食がなされるので、従来のように犠牲電極の交換作業などの煩雑なメンテナンス作業を伴わずとも、断面修復後から長期間にわたって鉄筋の腐食を防止できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例である断面修復構造1を示す横断面図であり、図2は、断面修復構造1の縦断面図であり、図3は、断面修復構造1の内部構造を示す正面図であって、断面修復部材5の図示を省略したものである。
【0040】
図1から図3に示されている、断面修復構造1は、既設の鉄筋コンクリート構造物60の欠陥部を修復するのに適した構造であり、主として、コンクリート除去部2と、線状犠牲陽極材3と、弾性バネ固定具4と、断面修復部材5とを備えている。ここで、鉄筋コンクリート構造物60は、その内部に鉄製の配筋材である鉄筋62が埋設されているコンクリート構造物60であり、鉄筋62からコンクリート外表面60aまでが所定厚さの表層コンクリート61によって被覆されている。
【0041】
また、鉄筋コンクリート構造物60は、その表層側に図2の上下方向に延びるように配筋される鉄筋(以下「表層部鉄筋」という。)62aと、その表層部鉄筋62a以深の深層側に図1の左右方向に延びるように配筋される鉄筋(以下「深層部鉄筋」という。)62bとを備えている。また、これらの表層部鉄筋62aおよび深層部鉄筋62bは、図1及び図2に示すように相互に前後に接触した状態で、図3に示すように略格子状に交差した状態で組まれている。
【0042】
図1及び図2に示すように、コンクリート除去部2は、鉄筋コンクリート構造物60の欠陥部における表層コンクリート61をはつり取って除去することで、鉄筋コンクリート構造物60のコンクリート外表面60aを部分的に欠損させた部位である。なお、鉄筋コンクリート構造物60の欠陥部とは、例えば、塩化物イオン濃度が高くてコンクリート内部の鉄筋62の腐食が認められる箇所や、鉄筋62の腐食が予測される箇所をいう。
【0043】
このコンクリート除去部2の深さは、表層部鉄筋62aの背面部分までが露出され、なおかつ、深層部鉄筋62bの正面部分(図1中の深層部鉄筋62bの下側部分)の少なくとも一部が露出される程度の大きさとされている。つまり、断面修復部材5の施工前の段階において、コンクリート除去部2の底面2aからは、表層部鉄筋62aがそっくり露出されるとともに、深層部鉄筋62bの正面部分が当該深層部鉄筋62bの軸方向に沿って露出された状態となる。
【0044】
このようにコンクリート除去部2の深さを設定した理由は、鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れが表層部鉄筋62aの周囲で発生することが多いため、そのような不良コンクリートを確実に除去するためである。なお、各鉄筋62a,62bについて、正面とは、各鉄筋62a,62bのコンクリート外表面60a側(図1下側、図2左側、図3の紙面に対する手前側)の外周面をいい、背面とは、各鉄筋62a,62bの反コンクリート外表面60a側(図1上側、図2右側、図3の紙面に対する奥側)の外周面をいう。
【0045】
線状犠牲陽極材3は、防食機能を発揮する犠牲陽極部材の一種であり、鉄筋62(鉄)よりイオン化傾向の大きな金属製の線材(ワイヤー)である。また、線状犠牲陽極材3に用いられる金属製線材の具体例としては、腐食膨張が少なく且つ安価に入手できる亜鉛又は亜鉛合金の線材がより好ましい。さらに、線状犠牲陽極材3は、必ずしも塩害対策の専用製品である必要はなく、上記した犠牲陽極部材の機能を発揮できる金属製のものであれば、汎用の金属線(既製品)を使用もできる。
【0046】
図1及び図3に示すように、線状犠牲陽極材3は、コンクリート除去部2の底面2aから正面部分が露出される深層部鉄筋62bの軸方向(図1及び図3の左右方向)に沿って、その深層部鉄筋62bの正面部分(図1中の深層部鉄筋62bの下側部分)、即ち、深層部鉄筋62bの露出部分の表面に接触するように、当該深層部鉄筋62bに添設される。このようにして、線状犠牲陽極材3は、深層部鉄筋62bの露出した正面部分に沿って添設されることで、深層部鉄筋62bに導通可能に接触させられる。
【0047】
しかも、深層部鉄筋62bは表層部鉄筋62aにも接触されているので、線状犠牲陽極材3から深層部鉄筋62bおよび表層部鉄筋62aの双方へ防食電流が流れるマクロセル電池回路が形成されることとなる。すると、線状犠牲陽極材3が表層部鉄筋62aおよび深層部鉄筋62bに代わって腐食されるため、これらの各鉄筋62a,62bの腐食を防止することができる。
【0048】
また、この線状犠牲陽極材3は、人手によって容易に塑性変形される材質を備えている。このため、深層部鉄筋62bの軸方向に沿って添設されるときに、深層部鉄筋62bに交差する表層部鉄筋62aを乗り越えるように塑性変形させて、この表層部鉄筋62aを避けて深層部鉄筋62bの軸方向(図1及び図3の左右方向)に沿って連続的に配設することができる。このため、線状犠牲陽極材3には、深層部鉄筋62bと表層部鉄筋62aとの交差部分で略U字状に湾曲変形されることで、表層部鉄筋62aの外周に沿って当該表層部鉄筋62aを乗り越える形態となった湾曲形態部3aが設けられている。
【0049】
弾性バネ固定具4は、コンクリート除去部2の底面2aから露出する鉄筋62に対して、線状犠牲陽極材3を直接的に取着するものであり、バネ鋼材などの弾性復元性を有する金属線を曲成したものである。本実施例によれば、弾性バネ固定具4は、図1から図3に示すように表層部鉄筋62aの外周に跨乗状態で外嵌可能に形成されている。この結果、線状犠牲陽極材3の湾曲形態部3aが弾性バネ固定具4と表層部鉄筋62aとの間に挟持されて、表層部鉄筋62aの外周表面に通電可能に直接接触した状態で固定されている。
【0050】
このように、線状犠牲陽極材3を表層部鉄筋62aに通電可能に接触させれば、かかる表層部鉄筋62aは深層部鉄筋62bにも接触されているので、線状犠牲陽極材3を表層部鉄筋62aおよび深層部鉄筋62bの双方と通電可能な状態とできる。さすれば、線状犠牲陽極材3を深層部鉄筋62bに添設するだけでは十分に通電可能に接触させることができない場合であっても、線状犠牲陽極材3を表層部鉄筋62a及び深層部鉄筋62bの双方と通電可能な状態として、線状犠牲陽極材3から表層部鉄筋62aおよび深層部鉄筋62bの双方へ防食電流が流れるマクロセル電池回路を形成できるのである。
【0051】
図4を参照して、線状犠牲陽極材3を固定する弾性バネ固定具4について説明する。図4(a)は、図1の部分的拡大図であり、図4(b)は、図2の部分的拡大図であり、図4(c)は、図3の部分的拡大図である。
【0052】
図4(a)に示すように、弾性バネ固定具4は、表層部鉄筋62aを軸方向視した場合に、外周の一部に開口部4aが設けられた略C字状の形態を有する環状部4bを備えており、この環状部4bが表層部鉄筋62aの周囲に外嵌されている。開口部4aは環状部4b内に表層部鉄筋62aを嵌入するための入口である。この弾性バネ固定具4によれば、表層部鉄筋62aを開口部4a内へ押し込むことで、環状部4bが弾性変形されて開口部4aが拡開され、環状部4bの内径が拡大されて、かかる環状部4bが表層部鉄筋62aの外周に跨乗状態で外嵌されるように構成されている。
【0053】
図4(b)及び図4(c)に示すように、弾性バネ固定具4は、環状部4bにおける開口部4aの両端から表層部鉄筋62aと略軸平行にそれぞれ延出される一対の延出部4c,4cとを備えている。この一対の延出部4c,4cには、線状犠牲陽極材3が係合される係合凹部4d,4dが曲成されており、この係合凹部4d,4dに係合された状態で、線状犠牲陽極材3が弾性バネ固定具4の弾性復元力によって、表層部鉄筋62aの外周表面に圧接されている。
【0054】
図1及び図2に示すように、断面修復部材5は、コンクリート除去部2に充填されて硬化した補修材料で形成されており、コンクリート除去部2内で鉄筋62に取着されている線状犠牲陽極材3を被包しつつコンクリート除去部2だった箇所を埋め戻して復元するものである。ここで、断面修復部材5に使用される補修材料は、例えば、セメント系モルタルを主成分としており、それに添加物として鉄筋コンクリート構造物60の内部へ浸透拡散する性質のある防錆剤が混合されている。
【0055】
断面修復部材5に混合されている防錆剤は、鉄筋62の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有しており、更に、補修材料に混合された状態でアルカリ性を示すものである。このため、防錆剤に含まれるイオン成分の作用によって鉄筋62表面に不動態被膜を形成して鉄筋62の腐食を防止できる。しかも、防錆剤が混合された補修材料で形成される断面修復部材5をアルカリ性にできるので、線状犠牲陽極材3の表面に不動態被膜が形成されることを阻み、線状犠牲陽極材3からの金属イオンの溶出が促進されて、マクロセル電池回路による防食電流の低下が抑制される。
【0056】
ここで、防錆剤としては、補修材料の主成分であるセメント系モルタルに混合されて溶解される水溶性防錆剤が適しており、その中でも、鉄筋62の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有する点、及び、補修材料に添加されることでアルカリ性を高めるアルカリ金属イオン成分を含む点から、亜硝酸塩系の水溶性防錆剤、特に、亜硝酸リチウムを使用することが好適である。なお、防錆剤は、コンクリート除去部2への充填される前の未硬化状態のままの補修材料に予め混合される。
【0057】
また、上記した断面修復部材5を形成するために補修材料をコンクリート除去部2へ充填する工法としては、既存の種々の方法が適用可能であるが、例えば、未硬化状態の補修材料をコンクリート除去部2へ吹き付ける工法(吹き付け工法)や、コンクリート除去部2の外側にコンクリート型枠を設置して、コンクリート除去部2とコンクリート型枠との間に未硬化状態の補修材料を注入して、コンクリート除去部2へ充填して硬化させる工法(注入工法)や、未硬化状態の補修材料をコンクリート除去部2に左官作業によって充填して仕上げる工法(左官工法)を用いることができる。
【0058】
このように、本実施例の断面修復構造1によれば、断面修復部材5に混合されている防錆剤は、断面修復部材5と鉄筋コンクリート構造物60との間における当該防錆剤の濃度差によって、断面修復部材5から鉄筋コンクリート構造物60の内部へ時間経過とともに徐々に浸透拡散される。このため、線状犠牲陽極材3の腐食が進行して防食効果が衰える頃には、防錆剤が鉄筋コンクリート構造物60の内部にまで充分に拡散浸透されて、断面修復部材5のみならず鉄筋コンクリート構造物60の内部も防錆剤による防錆雰囲気が形成されるため、これ以降は線状犠牲陽極材3の防錆作用によらずとも、防錆剤の作用によって鉄筋62の腐食が防止される。
【0059】
次に、図5から図7を参照して、上記実施例の変形例について説明する。図5(a)は、第2実施例の断面修復構造20に、図5(b)は、第3実施例の断面修復構造30に、図6(a)は、第4実施例の断面修復構造40に、図6(b)は、第5実施例の断面修復構造50に関する部分的な拡大縦断面図である。
【0060】
これらの第2実施例から第5実施例までの断面修復構造20,30,40,50は、上記した第1実施例の断面修復構造1で用いた弾性バネ固定具4に対して、線状犠牲陽極材3を固定する固定部材の形態を変更したものである。以下、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0061】
図5(a)に示すように、第2実施例の断面修復構造20によれば、線状犠牲陽極材3は、速乾性及び導電性を有する接着剤21を用いて、表層部鉄筋62aの外周面と深層部鉄筋62bの正面部分の表面とに直接接着されており、かかる接着剤21が固定部材となって、表層部鉄筋62a及び深層部鉄筋62bと通電可能な状態で、コンクリート除去部2内に固定されるのである。
【0062】
図5(b)に示すように、第3実施例の断面修復構造30によれば、コンクリート釘31がコンクリート除去部2の底面2aを成すコンクリート面に打ち込まれ、かかるコンクリート釘31の頭部分が叩き曲げられることで、かかる曲がった部分が固定部材となって、線状犠牲陽極材3が深層部鉄筋62bの正面部分の表面に押し当てられつつ固定されるのである。
【0063】
図6(a)に示すように、第4実施例の断面修復構造40によれば、線状犠牲陽極材3を深層部鉄筋62bの正面部分の表面に接触させた状態で、ステープル41が線状犠牲陽極材3及び深層部鉄筋62bを跨ぐようにしてコンクリート除去部2内の底面2aを成すコンクリート面に打ち込まれることで、かかるステープル41が固定部材となって、線状犠牲陽極材3が深層部鉄筋62bの正面部分の表面に押し当てられつつ固定されるのである。
【0064】
図6(b)に示すように、第5実施例の断面修復構造50によれば、コンクリート用タッピングねじ52がコンクリート除去部2の底面2aを成すコンクリート面にねじ込まれ、このコンクリート用タッピングねじ52で固定されたワイヤーリテイナー51が固定部材となって、線状犠牲陽極材3が深層部鉄筋62bの正面部分の表面に押し当てられつつ固定されるのである。
【0065】
図7は、第6実施例の断面修復構造70の縦断面図である。この第6実施例の断面修復構造70は、上記した第1実施例の断面修復構造1に対して、断面修復部材の構造を変更したものである。以下、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0066】
図7に示すように、第6実施例の断面修復構造70では、第1実施例のように断面修復部材全体に防錆剤を混合するのではなく、断面修復部材71の表面71aからコンクリート除去部2の底面2aまである厚さW0の範囲のうち、その少なくとも一部分について、防錆剤が混合されている補修材料(以下「防錆補修材料」という。)を用いて所定厚さW1分の防錆部71bが形成され、この防錆部71bを除く残余部分について、防錆剤が未混合の補修材料(以下「非防錆補修材料」という。)を用いて厚さW2(=W0−W1)分の非防錆部71cが形成される。
【0067】
また、防錆部71b及び非防錆部71cについての施工例としては、図7に示すように、まず、コンクリート除去部2を形成した後、鉄筋62の露出部分を被包するような格好で、コンクリート除去部2の底面2aに所定厚さW1で防錆補修材を施工して防錆部71bを形成してから、その上に所定厚さW2で非防錆補修材を施工して非防錆部71cを形成した上で、これらの各補修材を硬化させて、所定厚さW0(=W1+W2)の断面修復部材71を形成するものが好適である。
【0068】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、線状犠牲陽極材の形態、補修材料の組成、若しくは、防錆剤の組成、又は、断面修復構造の施工方法などについて種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0069】
例えば、本実施例では、第1実施例から第5実施例で説明した各種の配線用固定具を、線状犠牲陽極材3を固定する固定部材の一例として説明したが、かかる固定部材の形態は必ずしもこれらに限定されるものではなく、他の形態の固定用ジグや、配線用固定具として汎用されているものを線状犠牲陽極材3の固定部材として転用するようにしても良い。
【0070】
また、本実施例の断面修復構造1では、表層コンクリート61が表層部鉄筋62aの背面部分と深層部鉄筋62bの正面部分との略境界位置まで除去されることを前提として説明したが、表層コンクリート61の除去深さ(はつり深さ)、即ち、コンクリート除去部2の深さは必ずしもこれに限定されるものではなく、鉄筋コンクリート構造物60への塩分(塩化物イオン)の浸透量や、深層部鉄筋62bの腐食状況に応じて適宜変更しても良い。さらに、深層部鉄筋62bの腐食が進行しているような場合には、表層コンクリート61の除去深さを深層部鉄筋62bの腐食部分まで拡大して、線状犠牲陽極材3を深層部鉄筋62bに添設して通電可能に接触させても良い。
【0071】
例えば、浸透塩分量が少なく損傷が軽度の場合には、深層部鉄筋62bを露出させるまで表層コンクリート61を除去せずとも、コンクリート除去部2の底面2aから表層部鉄筋62aの正面部分を少なくとも露出させることができれば、かかる表層部鉄筋62aの軸方向に沿って添設させつつ、この表層部鉄筋62aの表面に第2実施例から第5実施例で例示した接着剤21、コンクリート釘31、ステープル41又はワイヤーリテイナー51を用いて通電可能に接触させて固定するようにしても良い。
【0072】
また、本実施例では、図1から図6に示すように、1本の深層部鉄筋62bに添設される線状犠牲陽極材3の本数を1本として説明したが、かかる鉄筋1本当たりに添設される線状犠牲陽極材の本数は必ずしも1本に限定されるものではなく、例えば、犠牲陽極材の防食期間に応じて、鉄筋1本に対して2本以上の線状犠牲陽極材を添設するようにしても良い。
【0073】
なお、2本以上の線状犠牲陽極材の添設形態は、1本の鉄筋に対して2本以上の線状犠牲陽極材が通電可能に接触した状態で添設されていれば、どのような態様でも良く、例えば、2本以上の線状犠牲陽極材を一纏めに束ねて鉄筋に添設する形態であったり、或いは、2本以上の線状犠牲陽極材を鉄筋の外周方向に平行に並べて添設する形態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施例である断面修復構造を示す横断面図である。
【図2】断面修復構造の縦断面図である。
【図3】断面修復構造の内部構造を示す正面図であって、断面修復部材の図示を省略したものである。
【図4】(a)は、図1の部分的拡大図であり、(b)は、図2の部分的拡大図であり、(c)は、図3の部分的拡大図である。
【図5】(a)は、第2実施例の断面修復構造に関する部分的な拡大縦断面図であり、(b)は、第3実施例の断面修復構造に関する部分的な拡大縦断面図である。
【図6】(a)は、第4実施例の断面修復構造に関する部分的な拡大縦断面図であり、(b)は、第5実施例の断面修復構造に関する部分的な拡大縦断面図である。
【図7】第6実施例の断面修復構造の縦断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1,70 断面修復構造(鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造)
20,30,40,50 断面修復構造(鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造)
2 コンクリート除去部
2a コンクリート除去部の底面
3a 湾曲形態部(表層部鉄筋を乗り越える形態をした部分)
3 線状犠牲陽極材
4 弾性バネ固定具(弾性バネ部材、固定部材)
4a 開口部
5 断面修復部材
21 接着剤(固定部材)
31 コンクリート釘(固定部材)
41 ステープル(固定部材)
51 ワイヤーリテイナー(固定部材)
60 鉄筋コンクリート構造物
61 表層コンクリート
62 鉄筋
62a 表層部鉄筋(表層部鉄筋、鉄筋)
62b 深層部鉄筋(深層部鉄筋、鉄筋)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを除去することで形成されるコンクリート除去部と、
そのコンクリート除去部の底面から正面部分が露出される鉄筋に沿って添設される線材状の形態を有する線状犠牲陽極材と、
その線状犠牲陽極材を前記鉄筋の露出した正面部分に対して通電可能に接触した状態で前記コンクリート除去部内に固定する固定部材と、
その固定部材によって固定される前記線状犠牲陽極材を被包するように前記コンクリート除去部に充填されて硬化した補修材料で形成される断面修復部材とを備えていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項2】
前記コンクリート除去部の底面からは、前記鉄筋の正面部分が当該鉄筋の軸方向に沿って露出されており、
前記線状犠牲陽極材は、そのコンクリート除去部の底面に露出される前記鉄筋の軸方向に沿って、その鉄筋の露出部分に接触するように添設されるものであることを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項3】
前記固定部材は、前記コンクリート除去部の底面に露出される前記鉄筋の外周に跨乗状態で外嵌される弾性バネ部材であり、
前記線状犠牲陽極材は、その固定部材と前記鉄筋との間に挟持されることで、その固定部材によって当該鉄筋の外周に通電可能に接触した状態で固定されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項4】
鉄筋コンクリート構造物は、その鉄筋コンクリート構造物の表層側に配筋される表層部鉄筋と、その表層部鉄筋以深に配筋されて当該表層部鉄筋に接触および交差する深層部鉄筋とを備えており、
前記コンクリート除去部は、その深さが前記深層部鉄筋の正面部分が露出される位置と略等しい位置まであって、そのコンクリート除去部の底面から前記深層部鉄筋の正面部分が露出されており、
前記線状犠牲陽極材は、前記深層部鉄筋に沿って添設され、その深層部鉄筋および表層部鉄筋の交差部分で、その表層部鉄筋の外周に沿って当該表層部鉄筋を乗り越える形態とされており、
前記固定部材は、前記線状犠牲陽極材における前記表層部鉄筋を乗り越える形態をした部分を、当該表層部鉄筋に対して取着するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項5】
前記固定部材は、前記コンクリート除去部の底面に露出される前記表層部鉄筋の外周に跨乗状態で外嵌される弾性バネ部材であり、
前記線状犠牲陽極材は、その固定部材と前記表層部鉄筋との間に挟持されることで、その固定部材によって当該表層部鉄筋の外周に通電可能に接触した状態で固定されるものであることを特徴とする請求項4記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項6】
前記弾性バネ部材は、その弾性バネ部材が跨乗状態で外嵌されている前記鉄筋を軸方向視した場合に、外周の一部に開口部を有する略C字状の形態とされていることを特徴とする請求項2又は5に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項7】
前記線状犠牲陽極材は、鉄筋よりイオン化傾向の大きな金属単体であって、亜鉛又は亜鉛合金で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項8】
前記断面修復部材は、鉄筋コンクリート構造物の内部へ浸透拡散する性質のある防錆剤が前記補修材料に混合されているものであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項9】
前記防錆剤は、前記鉄筋の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有しており、更に、前記補修材料に混合された状態でアルカリ性を示すものであることを特徴とする請求項8記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−291485(P2008−291485A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137320(P2007−137320)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(592082893)株式会社クエストエンジニア (6)
【Fターム(参考)】