鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法
【課題】 アルカリシリカ反応を発症した鉄筋コンクリート構造物について、構造解析に使用する物性値を精度良く求めることが可能な、鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法を提供する。
【解決手段】 鉄筋コンクリート部材に関する既存の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を、鉄筋比に応じて求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【解決手段】 鉄筋コンクリート部材に関する既存の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を、鉄筋比に応じて求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木,建築等における鉄筋コンクリート構造物の、構造解析を行う際の物性値決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート等のコンクリート構造物の構造解析を実施する際には、コンクリート標準示方書により、対象となる構造物のコアサンプルからコンクリート物性値を決定していた。図13は、このようなコアサンプルの概要を模式的に示す図である。同図(a)に示すように、例えば対象となる柱や梁等の鉄筋コンクリート構造物1から、コンクリートのみの部分を円柱状に抜き取るいわゆるコア抜きを行い、抜き取った円柱状の部分をコアサンプル2とする。そして、同図(b)に示すように、円柱状のコアサンプル2の上下面に矢印で示すような1軸の圧縮力を加える試験を行う。
【0003】
図14は、このようなコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。同図において、実線aはアルカリシリカ反応を発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルの物性を示しており、破線bは健全なコンクリートの物性を示している。アルカリシリカ反応(ASR:
Alkali Silica Reaction)は、アルカリイオン,水酸基イオンと骨材中に含まれる準安定なシリカとの間に起こるある種の化学反応であり、アルカリ骨材反応(AAR:
Alkali Aggregate Reaction)の中で最も多く発生しているものである。
【0004】
なお、その他のコンクリート調査法として、コンクリート構造物に与える影響を最小限としながら、コンクリート中に含浸している塩化物含有量を現地にて簡単且つ精度良く測定可能とする、硬化コンクリート調査法が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−255322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、図14に示すように、ASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルにおいて、そのコンクリート物性は健全なコンクリートと比較して大きく低下することが知られている。即ち、矢印Aで示すように圧縮強度FC(単位MPa)が低下し、矢印Bで示すように弾性係数EC(単位MPa)も低下する。なお、εCは圧縮強度FCに対する圧縮歪みである。しかしながら、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材と健全な鉄筋コンクリート部材とを比較すると、その耐荷力は殆ど変わらないということが実験的に分かっている。
【0006】
図15は、このような鉄筋コンクリート部材の耐荷重試験の様子を模式的に示す図である。同図に示すように、例えば梁状の鉄筋コンクリート部材3の一端3aを固定支持、他端3bを移動支持として、矢印で示すように中央付近の2箇所に加重し、4点曲げ試験を行う。図16は、このような鉄筋コンクリート部材の耐荷力に関する特性の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に変位(δ)、縦軸に荷重(P)を取っている。
【0007】
同図において、実線aはASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示しており、破線bは健全な鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示している。また一点鎖線cは、ASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルより得られた物性値に基づき、そのような物性を有するコンクリートを用いたとする鉄筋コンクリート部材を想定して、その耐荷力に関する特性をシミュレーションにより求めたものである。
【0008】
同図に示すように、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、試験より求めた耐荷力は、健全な鉄筋コンクリート部材とほぼ同等となっている。これに対して、ASRを発症したコンクリートのコアサンプルの物性を用いたシミュレーションによる耐荷力は、大きく低下したものとなっている。このように、ASRを発症しても鉄筋コンクリート部材の実際の耐荷力は殆ど変わらないことが分かるが、これは、いわゆるケミカルプレストレスによるものと考えられている。
【0009】
図17は、このようなケミカルプレストレス状態の鉄筋コンクリート部材を模式的に示す図である。同図において、鉄筋コンクリート部材3のコンクリート3cがASRにより膨張すると、これに応じて鉄筋3dには矢印Dで示すような引張応力が生じる。これに対して、コンクリート3cには矢印Cで示すような圧縮応力が生じ、前記引張応力と釣り合うようになる。これが、いわゆるケミカルプレストレス状態である。この場合、コンクリート3cは鉄筋3dにより拘束された状態となっているので、ASRを発症しているにもかかわらず、その物性値はコアサンプルほど低下しない。なお、ケミカルプレストレスの値は、鉄筋量とコンクリートの膨張量に応じて変化すると考えられている。
【0010】
以上のように、ASRを発症した鉄筋コンクリート構造物の構造解析を実施する場合に、従来のようにコアサンプルの物性値を用いて解析すると、実際の耐荷力より低い結果となる。従って、実際の耐荷力を得るためには、コアサンプルからコンクリートの物性値を決定するのではなく、鉄筋コンクリート部材そのものの状態におけるコンクリートの物性値を決定して、構造解析を行う必要がある。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑み、アルカリシリカ反応を発症した鉄筋コンクリート構造物について、構造解析に使用する物性値を精度良く求めることが可能な、鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0013】
或いは、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0014】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0015】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0016】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、更に上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0017】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材を含む前記鉄筋コンクリート構造物全体の物性値を求め、更に上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0018】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの3軸圧縮試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0019】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材に対する静的載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルカリシリカ反応を発症した鉄筋コンクリート構造物について、構造解析に使用する物性値を精度良く求めることが可能な、鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法を提供することができる。
【0021】
具体的には、鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じる方法を行うことにより、鉄筋コンクリート部材に関する既存の試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性値を直接求めるため、アルカリ骨材反応発症のコアサンプルから求めた実情と異なる物性値ではなく、ケミカルプレストレスを考慮した部材としてのコンクリートの物性値を求めることができる。
【0022】
或いは、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じる方法を行うことにより、健全な部材を介さずに直接対象となるアルカリ骨材反応を発症した部材を用いるため、精度の良い物性値が求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例では、鉄筋コンクリート部材に関する既存の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を、鉄筋比に応じて求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0025】
図1は、実施例1で適用される鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験の概要を模式的に示す図である。ここでは同図(a)に示すように、鉄筋コンクリートの部材サンプル4上下面に鉄筋が延設される方向に沿って矢印で示すような1軸の圧縮力を加える試験を行う。これは同図(b)に示すように、コンクリート4aと鉄筋4bをバネと見なして並列に接続したものを、床に縦に設置して上から矢印で示すように加重する構成としてモデル化される。このような圧縮試験結果のデータが、健全な鉄筋コンクリート部材及びASRを発症した鉄筋コンクリート部材各々について、以下に示す文献1〜文献3に開示されている。
【0026】
文献1.小柳ら:「低鉄筋比のRC部材におけるASRの膨張拘束に関する研究」,セメントコンクリート論文集,NO.52
文献2.小柳ら:「ASRによって劣化したRCはり及び柱の力学挙動について」,コンクリート工学年次論文集,Vol.18,NO.1,1996
文献3.矢村ら:「ASRによる損傷に及ぼす鉄筋拘束の影響に関する研究」,材料,Vol.43,NO.491,pp970-975,Aug.1994
【0027】
図2は、一例として或る鉄筋コンクリート部材のサンプルにおける荷重Pと変位δの関係を示すグラフである。同図に示すように、上記文献に開示されている試験結果(プロットで示す)にできるだけ一致するようにシミュレーションを行い(実線で示す)、このときのコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。これは、健全な鉄筋コンクリート部材及びASRを発症した鉄筋コンクリート部材各々について行う。なお、鉄筋の物性値は既知とする。
【0028】
そして、求めた上記物性値に基づき、健全なコンクリートに対するASRを発症したコンクリートの物性比を、鉄筋比毎に算定する。ここで鉄筋比とは、上記のような圧縮力を受ける鉄筋コンクリート部材の断面全体に対する鉄筋の断面の面積比である。物性比の一つとして弾性係数比を求める式は以下のようになる。
α=試験EA/試験EN
但し、
α:或る鉄筋比pにおけるコンクリートの弾性係数比
試験EA:この鉄筋比pでのASRを発症した鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
試験EN:この鉄筋比pでの健全な鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
である。
【0029】
図3は、或る鉄筋比pの鉄筋コンクリート部材におけるコンクリートの弾性係数比αを示すグラフであり、上記各文献に開示されているデータに基づき算定された値をそれぞれプロットしている。同図において、三角形印は文献1に基づく値、バツ印は文献2に基づく値、菱形印は文献3に基づく値をそれぞれ示している。このグラフより、破線で示す下限値から上限値までの帯域内の値を選定すれば、或る鉄筋比pにおけるおおよその弾性係数比αの値が得られる。同様にして、圧縮強度比,圧縮歪み比についても求める。
【0030】
次に、以上のようにして求めた物性比を、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物(実機)の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値に乗じて、構造解析に使用するコンクリートの物性値を決定する。物性値の一つとして弾性係数を求める式は以下のようになる。
実機EA=α×実機ENコア
但し、
実機EA:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコンクリートの弾性係数
実機ENコア:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの弾性係数
である。以上と同様にして、圧縮強度,圧縮歪みについても求める。
【0031】
なお、健全部分のコンクリートの物性値は、
(コアサンプルの値)≒(部材の値)≒(真値)
と見なしている。これは、別途物性確認試験により確認しておくこととする。以上のようにして、対象となる鉄筋コンクリート構造物の構造解析に使用するコンクリートの物性値、即ち圧縮強度FC,弾性係数EC,圧縮歪みεCを決定する。
【0032】
このように、本実施例によれば、鉄筋コンクリート部材に関する既存の試験データから、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性値を直接求めるため、ASR発症のコアサンプルから求めた実情と異なる物性値ではなく、ケミカルプレストレスを考慮した部材としてのコンクリートの物性値を求めることができる。
【実施例2】
【0033】
本実施例では、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の模擬試験体に対し、その部材とコアサンプルについて物性確認試験を行い、得られた物性値を対比することによって、コアサンプルに対する部材の物性比を求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0034】
具体的には、上記図1で示した方法と同様にして、模擬試験体としてのASRを発症した鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験を行い、そのデータからコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。一方、上記図13(b)で示した方法と同様にして、模擬試験体としてのASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルに関する圧縮試験を行い、そのデータからコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。
【0035】
そして、求めた上記物性値に基づき、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルに対する、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性比を算定する。物性比の一つとして弾性係数比を求める式は以下のようになる。
β=試験EA部材/試験EAコア
但し、
試験EA部材:ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
試験EAコア:ASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルの圧縮試験結果より導かれる弾性係数
である。
【0036】
次に、以上のようにして求めた物性比を、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物(実機)のASRが発症している部分から取り出したコアサンプルの物性値に乗じて、構造解析に使用するコンクリートの物性値を決定する。物性値の一つとして弾性係数を求める式は以下のようになる。
実機EA部材=β×実機EAコア
但し、
実機EA部材:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコンクリートの弾性係数
実機EAコア:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分から取り出したコアサンプルの弾性係数
である。以上と同様にして、圧縮強度,圧縮歪みについても求める。このようにして、対象となる鉄筋コンクリート構造物の構造解析に使用するコンクリートの物性値、即ち圧縮強度FC,弾性係数EC,圧縮歪みεCを決定する。
【0037】
このように、本実施例によれば、健全な部材を介さずに直接対象となるASRを発症した部材を用いるため、精度の良い物性値が求められる。但し、物性比の精度は圧縮試験を行う模擬試験体の数に応じて変化する。つまり、圧縮試験を多数行うほど物性比の精度は高くなる。また、模擬試験体の鉄筋比やASR時のコンクリートの膨張量をできるだけ実機にあわせる方が、高い精度が得られる。
【実施例3】
【0038】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験を行い、直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0039】
図4は、孔内載荷試験による測定概念図である。同図に示すように、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物である架台コンクリート5にボーリング孔5aを設け、その孔内に孔内載荷試験機6を挿入し、油圧装置7で発生した油圧により加圧し、孔径方向のコンクリートの変位を計測・制御部8で測定する。測定精度を高めるために、これを数回繰り返す。図5は、孔径方向のコンクリートの変位の様子を示す断面図である。
【0040】
コンクリートの弾性係数は、次式により求めることができる。
E=D・(1+ν)・ΔP/ΔD
但し、
D:孔壁の直径
ν:ポアソン比
ΔP:載荷圧力
ΔD:変位
である。
【0041】
このように、本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物を試験して荷重−変位関係を取得し、その結果から直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めるので、対象物そのものの物性値が求められる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度の良い物性値を決定することができる。また、具体的には例えば、図6に示すように、上記図3のグラフに本実施例の測定結果に基づく弾性係数比の値(黒丸印で例示)を加え、実線で示す下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0042】
但し、本実施例の方法は、模擬試験体を使用する場合等と比較して、載荷試験領域が非常に狭いので、局所的な影響を受けやすくなる。
【実施例4】
【0043】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験(衝撃弾性波法,超音波探査等)を行い、直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0044】
図7は、衝撃弾性波法(検層法)による測定概念図である。同図に示すように、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物5にボーリング孔5aを設け、その孔内に加速度センサー9を固定し、孔口表面で例えばハンマー10の打撃により弾性波を発生させ、その伝播速度を測定する。また、部材断面を挟んだ位置に加速度センサーを取り付けて測定する透過法についても、検層法を行う位置近傍で実施し、比較を行う。なお、孔口付近に設けた11はトリガー用加速度センサーであり、また前記各加速度センサーにはチャージアンプ12が接続されている。さらに、チャージアンプ12にはメモリレコーダ13が接続されている。
【0045】
上述のように、コンクリート表面にハンマー等で打撃を与えた場合、弾性波が発生しコンクリート内を伝播する。この速度を計測することで動弾性係数を次式により求めることができる。
Vp=√{(E/ρ)・f(ν)}
f(ν)=(1−ν)/{(1+ν)(1−2ν)}
但し、
Vp:動弾性係数
E:弾性係数
ρ:密度
ν:ポアソン比
である。なお、動弾性係数と弾性係数の関係を、予め健全なコンクリートのコアサンプルより把握しておく。
【0046】
このように、本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物を試験して弾性波伝播速度を取得し、その結果から直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めるので、対象物そのものの物性値が求められる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度の良い物性値を決定することができる。また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに本実施例の測定結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0047】
但し、本実施例の方法は、大断面部材においては弾性波が透過しにくくなるので不適当である。
【実施例5】
【0048】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験を行って、その結果と振動解析とを対比することにより、対象構造物の部材レベルの物性値(弾性係数)を求め、更に実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。なお、具体的な手順については後述する。
【0049】
本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材の振動性状を把握し、振動解析と対比させることによって、対象とする部材レベルの物性値(弾性係数)そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、振動解析を介するため、境界条件のモデル化精度により物性値の精度も変化する。
【実施例6】
【0050】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定を行って、その結果と振動解析とを対比することにより、対象構造物の全体レベルの物性値(弾性係数)を求め、更に実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。なお、具体的な手順については後述する。
【0051】
本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物全体の振動性状を常時微動測定で把握し、振動解析と対比させることによって、対象とする全体レベルの物性値(弾性係数)そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、振動解析を介するため、境界条件のモデル化精度により物性値の精度も変化する。
【0052】
また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに実施例5や実施例6の推定結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0053】
図8は、上記実施例5及び実施例6における、対象構造物の物性値を求める手順を示すフローチャートである。なお、同図において、梁とは対象構造物の部材を例示したものであり、架台とは対象構造物全体をイメージしたものである。
【0054】
まず、ステップS5において、架台コンクリートの弾性係数の設定を行う。これは、設計に用いた値並びに、コアサンプル試験による推定値及び非破壊試験による推定値を用いて設定するものである。次に、シミュレーション解析のために、設定した弾性係数に基づき、ステップS10において、対象構造物についての初期モデルの設定を行う。
【0055】
続いて、実施例5では、ステップS15において、部材レベルに着目した評価としての周波数応答解析を行い、これにより梁の固有振動数及び梁の固有振動モードを求める。一方、振動試験として、ステップS20において、対象構造物の梁に振動を加える起振機試験を行い、これにより梁の固有振動数及び梁の固有振動モードを求める。
【0056】
また、実施例6では、ステップS15において、架台全体に着目した評価としての固有値解析を行い、これにより架台の固有振動数及び架台の固有振動モードを求める。一方、振動試験として、ステップS20において、対象構造物に加速度センサー等を取り付けて常時微動測定を行い、これにより架台の固有振動数及び架台の固有振動モードを求める。
【0057】
そして、ステップS25において、シミュレーション解析により求めた値と振動試験により求めた値が一致しているか否かを判定し、一致していればステップS30へと移行し、実弾性係数の推定値を求める。一致していなければステップS35へと移行し、弾性係数調整のため、対象構造物についての修正モデルの設定を行って、ステップS15に戻る。
【実施例7】
【0058】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコアサンプルに対して、3軸圧縮試験を実施して、対象構造物の物性値を求め、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。
【0059】
図9は、このようなコアサンプルの概要を模式的に示す図である。同図(a)に示すように、例えば対象となる柱や梁等の鉄筋コンクリート構造物1から、ASRを発症したコンクリートのみの部分を円柱状に抜き取るいわゆるコア抜きを行い、抜き取った円柱状の部分をコアサンプル2とする。そして、同図(b)に示すように、円柱状のコアサンプル2の上下面に矢印Eで示すような1軸の圧縮力を加え、更に側面に矢印Fで示すような圧縮力を均等に加えて、結果として全面に等圧の圧縮力を加える試験を行う。
【0060】
図10は、このようなコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。同図はASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルの物性を示している。これにより、直接にASRを発症したコンクリートの物性値を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0061】
本実施例によれば、対象構造物から抜き取ったコアサンプルを3軸圧縮試験することにより、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、鉄筋による拘束効果を模擬した試験を行うことができるので、得られた荷重−変位関係から対象とする部材の物性値そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、対象構造物の鉄筋による拘束状態をできるだけ模擬した試験を行う必要がある。
【実施例8】
【0062】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部材に対して、静的載荷試験を実施して、対象構造物の物性値を求め、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。
【0063】
図11は、このような鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験の様子を模式的に示す図である。同図に示すように、例えば対象構造物の梁状部分であるASRを発症した鉄筋コンクリート部材3の両端を支持して、矢印で示すように中央付近の2箇所に加重し、4点曲げ試験を行う。図12は、このような鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。
【0064】
同図はASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示している。これにより、直接にASRを発症したコンクリートの物性値を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0065】
本実施例によれば、対象構造物の部材を直接試験することにより、その部材の荷重−変位関係が得られるので、その結果から物性値を求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、対象構造物に損傷を与える恐れがあるので、部材の弾性範囲内(図12の実線部分)で試験を行う必要がある。
【0066】
また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに実施例7や実施例8の試験結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。ここでは弾性係数比のみならず、圧縮強度比及び圧縮歪み比についても同様の処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、鉄筋コンクリート以外のコンクリート構造物にも適用可能であり、またアルカリシリカ反応以外のアルカリ骨材反応を発症したコンクリートにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験の概要を模式的に示す図。
【図2】鉄筋コンクリート部材のサンプルにおける荷重と変位の関係を示すグラフ。
【図3】鉄筋コンクリート部材におけるコンクリートの弾性係数比を示すグラフ。
【図4】孔内載荷試験による測定概念図。
【図5】孔径方向のコンクリートの変位の様子を示す断面図。
【図6】図3に実施例3の測定結果に基づく弾性係数比の値を加えた図。
【図7】衝撃弾性波法(検層法)による測定概念図。
【図8】対象構造物の物性値を求める手順を示すフローチャート。
【図9】実施例におけるコアサンプルの概要を模式的に示す図。
【図10】実施例におけるコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図11】鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験の様子を模式的に示す図。
【図12】鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図13】従来例におけるコアサンプルの概要を模式的に示す図。
【図14】従来例におけるコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図15】鉄筋コンクリート部材の耐荷重試験の様子を模式的に示す図。
【図16】鉄筋コンクリート部材の耐荷力に関する特性の一例を模式的に示すグラフ。
【図17】ケミカルプレストレス状態の鉄筋コンクリート部材を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0069】
1 鉄筋コンクリート構造物
2 コアサンプル
3 鉄筋コンクリート部材
4 部材サンプル
5 架台コンクリート
6 孔内載荷試験機
7 油圧装置
8 計測・制御部
9 加速度センサー
10 ハンマー
11 トリガー用加速度センサー
12 チャージアンプ
13 メモリレコーダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木,建築等における鉄筋コンクリート構造物の、構造解析を行う際の物性値決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート等のコンクリート構造物の構造解析を実施する際には、コンクリート標準示方書により、対象となる構造物のコアサンプルからコンクリート物性値を決定していた。図13は、このようなコアサンプルの概要を模式的に示す図である。同図(a)に示すように、例えば対象となる柱や梁等の鉄筋コンクリート構造物1から、コンクリートのみの部分を円柱状に抜き取るいわゆるコア抜きを行い、抜き取った円柱状の部分をコアサンプル2とする。そして、同図(b)に示すように、円柱状のコアサンプル2の上下面に矢印で示すような1軸の圧縮力を加える試験を行う。
【0003】
図14は、このようなコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。同図において、実線aはアルカリシリカ反応を発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルの物性を示しており、破線bは健全なコンクリートの物性を示している。アルカリシリカ反応(ASR:
Alkali Silica Reaction)は、アルカリイオン,水酸基イオンと骨材中に含まれる準安定なシリカとの間に起こるある種の化学反応であり、アルカリ骨材反応(AAR:
Alkali Aggregate Reaction)の中で最も多く発生しているものである。
【0004】
なお、その他のコンクリート調査法として、コンクリート構造物に与える影響を最小限としながら、コンクリート中に含浸している塩化物含有量を現地にて簡単且つ精度良く測定可能とする、硬化コンクリート調査法が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−255322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、図14に示すように、ASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルにおいて、そのコンクリート物性は健全なコンクリートと比較して大きく低下することが知られている。即ち、矢印Aで示すように圧縮強度FC(単位MPa)が低下し、矢印Bで示すように弾性係数EC(単位MPa)も低下する。なお、εCは圧縮強度FCに対する圧縮歪みである。しかしながら、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材と健全な鉄筋コンクリート部材とを比較すると、その耐荷力は殆ど変わらないということが実験的に分かっている。
【0006】
図15は、このような鉄筋コンクリート部材の耐荷重試験の様子を模式的に示す図である。同図に示すように、例えば梁状の鉄筋コンクリート部材3の一端3aを固定支持、他端3bを移動支持として、矢印で示すように中央付近の2箇所に加重し、4点曲げ試験を行う。図16は、このような鉄筋コンクリート部材の耐荷力に関する特性の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に変位(δ)、縦軸に荷重(P)を取っている。
【0007】
同図において、実線aはASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示しており、破線bは健全な鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示している。また一点鎖線cは、ASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルより得られた物性値に基づき、そのような物性を有するコンクリートを用いたとする鉄筋コンクリート部材を想定して、その耐荷力に関する特性をシミュレーションにより求めたものである。
【0008】
同図に示すように、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、試験より求めた耐荷力は、健全な鉄筋コンクリート部材とほぼ同等となっている。これに対して、ASRを発症したコンクリートのコアサンプルの物性を用いたシミュレーションによる耐荷力は、大きく低下したものとなっている。このように、ASRを発症しても鉄筋コンクリート部材の実際の耐荷力は殆ど変わらないことが分かるが、これは、いわゆるケミカルプレストレスによるものと考えられている。
【0009】
図17は、このようなケミカルプレストレス状態の鉄筋コンクリート部材を模式的に示す図である。同図において、鉄筋コンクリート部材3のコンクリート3cがASRにより膨張すると、これに応じて鉄筋3dには矢印Dで示すような引張応力が生じる。これに対して、コンクリート3cには矢印Cで示すような圧縮応力が生じ、前記引張応力と釣り合うようになる。これが、いわゆるケミカルプレストレス状態である。この場合、コンクリート3cは鉄筋3dにより拘束された状態となっているので、ASRを発症しているにもかかわらず、その物性値はコアサンプルほど低下しない。なお、ケミカルプレストレスの値は、鉄筋量とコンクリートの膨張量に応じて変化すると考えられている。
【0010】
以上のように、ASRを発症した鉄筋コンクリート構造物の構造解析を実施する場合に、従来のようにコアサンプルの物性値を用いて解析すると、実際の耐荷力より低い結果となる。従って、実際の耐荷力を得るためには、コアサンプルからコンクリートの物性値を決定するのではなく、鉄筋コンクリート部材そのものの状態におけるコンクリートの物性値を決定して、構造解析を行う必要がある。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑み、アルカリシリカ反応を発症した鉄筋コンクリート構造物について、構造解析に使用する物性値を精度良く求めることが可能な、鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0013】
或いは、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0014】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0015】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0016】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、更に上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0017】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材を含む前記鉄筋コンクリート構造物全体の物性値を求め、更に上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0018】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの3軸圧縮試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【0019】
また、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材に対する静的載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、上記最初の2つのうちいずれかの方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する方法を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルカリシリカ反応を発症した鉄筋コンクリート構造物について、構造解析に使用する物性値を精度良く求めることが可能な、鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法を提供することができる。
【0021】
具体的には、鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じる方法を行うことにより、鉄筋コンクリート部材に関する既存の試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性値を直接求めるため、アルカリ骨材反応発症のコアサンプルから求めた実情と異なる物性値ではなく、ケミカルプレストレスを考慮した部材としてのコンクリートの物性値を求めることができる。
【0022】
或いは、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じる方法を行うことにより、健全な部材を介さずに直接対象となるアルカリ骨材反応を発症した部材を用いるため、精度の良い物性値が求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例では、鉄筋コンクリート部材に関する既存の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を、鉄筋比に応じて求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0025】
図1は、実施例1で適用される鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験の概要を模式的に示す図である。ここでは同図(a)に示すように、鉄筋コンクリートの部材サンプル4上下面に鉄筋が延設される方向に沿って矢印で示すような1軸の圧縮力を加える試験を行う。これは同図(b)に示すように、コンクリート4aと鉄筋4bをバネと見なして並列に接続したものを、床に縦に設置して上から矢印で示すように加重する構成としてモデル化される。このような圧縮試験結果のデータが、健全な鉄筋コンクリート部材及びASRを発症した鉄筋コンクリート部材各々について、以下に示す文献1〜文献3に開示されている。
【0026】
文献1.小柳ら:「低鉄筋比のRC部材におけるASRの膨張拘束に関する研究」,セメントコンクリート論文集,NO.52
文献2.小柳ら:「ASRによって劣化したRCはり及び柱の力学挙動について」,コンクリート工学年次論文集,Vol.18,NO.1,1996
文献3.矢村ら:「ASRによる損傷に及ぼす鉄筋拘束の影響に関する研究」,材料,Vol.43,NO.491,pp970-975,Aug.1994
【0027】
図2は、一例として或る鉄筋コンクリート部材のサンプルにおける荷重Pと変位δの関係を示すグラフである。同図に示すように、上記文献に開示されている試験結果(プロットで示す)にできるだけ一致するようにシミュレーションを行い(実線で示す)、このときのコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。これは、健全な鉄筋コンクリート部材及びASRを発症した鉄筋コンクリート部材各々について行う。なお、鉄筋の物性値は既知とする。
【0028】
そして、求めた上記物性値に基づき、健全なコンクリートに対するASRを発症したコンクリートの物性比を、鉄筋比毎に算定する。ここで鉄筋比とは、上記のような圧縮力を受ける鉄筋コンクリート部材の断面全体に対する鉄筋の断面の面積比である。物性比の一つとして弾性係数比を求める式は以下のようになる。
α=試験EA/試験EN
但し、
α:或る鉄筋比pにおけるコンクリートの弾性係数比
試験EA:この鉄筋比pでのASRを発症した鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
試験EN:この鉄筋比pでの健全な鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
である。
【0029】
図3は、或る鉄筋比pの鉄筋コンクリート部材におけるコンクリートの弾性係数比αを示すグラフであり、上記各文献に開示されているデータに基づき算定された値をそれぞれプロットしている。同図において、三角形印は文献1に基づく値、バツ印は文献2に基づく値、菱形印は文献3に基づく値をそれぞれ示している。このグラフより、破線で示す下限値から上限値までの帯域内の値を選定すれば、或る鉄筋比pにおけるおおよその弾性係数比αの値が得られる。同様にして、圧縮強度比,圧縮歪み比についても求める。
【0030】
次に、以上のようにして求めた物性比を、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物(実機)の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値に乗じて、構造解析に使用するコンクリートの物性値を決定する。物性値の一つとして弾性係数を求める式は以下のようになる。
実機EA=α×実機ENコア
但し、
実機EA:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコンクリートの弾性係数
実機ENコア:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの弾性係数
である。以上と同様にして、圧縮強度,圧縮歪みについても求める。
【0031】
なお、健全部分のコンクリートの物性値は、
(コアサンプルの値)≒(部材の値)≒(真値)
と見なしている。これは、別途物性確認試験により確認しておくこととする。以上のようにして、対象となる鉄筋コンクリート構造物の構造解析に使用するコンクリートの物性値、即ち圧縮強度FC,弾性係数EC,圧縮歪みεCを決定する。
【0032】
このように、本実施例によれば、鉄筋コンクリート部材に関する既存の試験データから、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性値を直接求めるため、ASR発症のコアサンプルから求めた実情と異なる物性値ではなく、ケミカルプレストレスを考慮した部材としてのコンクリートの物性値を求めることができる。
【実施例2】
【0033】
本実施例では、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の模擬試験体に対し、その部材とコアサンプルについて物性確認試験を行い、得られた物性値を対比することによって、コアサンプルに対する部材の物性比を求める。そして、求めた物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0034】
具体的には、上記図1で示した方法と同様にして、模擬試験体としてのASRを発症した鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験を行い、そのデータからコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。一方、上記図13(b)で示した方法と同様にして、模擬試験体としてのASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルに関する圧縮試験を行い、そのデータからコンクリートの圧縮強度,弾性係数,圧縮歪みを求める。
【0035】
そして、求めた上記物性値に基づき、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルに対する、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材中のコンクリートの物性比を算定する。物性比の一つとして弾性係数比を求める式は以下のようになる。
β=試験EA部材/試験EAコア
但し、
試験EA部材:ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の圧縮試験結果より導かれるコンクリートの弾性係数
試験EAコア:ASRを発症した鉄筋コンクリート部材のコアサンプルの圧縮試験結果より導かれる弾性係数
である。
【0036】
次に、以上のようにして求めた物性比を、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物(実機)のASRが発症している部分から取り出したコアサンプルの物性値に乗じて、構造解析に使用するコンクリートの物性値を決定する。物性値の一つとして弾性係数を求める式は以下のようになる。
実機EA部材=β×実機EAコア
但し、
実機EA部材:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコンクリートの弾性係数
実機EAコア:構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分から取り出したコアサンプルの弾性係数
である。以上と同様にして、圧縮強度,圧縮歪みについても求める。このようにして、対象となる鉄筋コンクリート構造物の構造解析に使用するコンクリートの物性値、即ち圧縮強度FC,弾性係数EC,圧縮歪みεCを決定する。
【0037】
このように、本実施例によれば、健全な部材を介さずに直接対象となるASRを発症した部材を用いるため、精度の良い物性値が求められる。但し、物性比の精度は圧縮試験を行う模擬試験体の数に応じて変化する。つまり、圧縮試験を多数行うほど物性比の精度は高くなる。また、模擬試験体の鉄筋比やASR時のコンクリートの膨張量をできるだけ実機にあわせる方が、高い精度が得られる。
【実施例3】
【0038】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験を行い、直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0039】
図4は、孔内載荷試験による測定概念図である。同図に示すように、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物である架台コンクリート5にボーリング孔5aを設け、その孔内に孔内載荷試験機6を挿入し、油圧装置7で発生した油圧により加圧し、孔径方向のコンクリートの変位を計測・制御部8で測定する。測定精度を高めるために、これを数回繰り返す。図5は、孔径方向のコンクリートの変位の様子を示す断面図である。
【0040】
コンクリートの弾性係数は、次式により求めることができる。
E=D・(1+ν)・ΔP/ΔD
但し、
D:孔壁の直径
ν:ポアソン比
ΔP:載荷圧力
ΔD:変位
である。
【0041】
このように、本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物を試験して荷重−変位関係を取得し、その結果から直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めるので、対象物そのものの物性値が求められる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度の良い物性値を決定することができる。また、具体的には例えば、図6に示すように、上記図3のグラフに本実施例の測定結果に基づく弾性係数比の値(黒丸印で例示)を加え、実線で示す下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0042】
但し、本実施例の方法は、模擬試験体を使用する場合等と比較して、載荷試験領域が非常に狭いので、局所的な影響を受けやすくなる。
【実施例4】
【0043】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験(衝撃弾性波法,超音波探査等)を行い、直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0044】
図7は、衝撃弾性波法(検層法)による測定概念図である。同図に示すように、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物5にボーリング孔5aを設け、その孔内に加速度センサー9を固定し、孔口表面で例えばハンマー10の打撃により弾性波を発生させ、その伝播速度を測定する。また、部材断面を挟んだ位置に加速度センサーを取り付けて測定する透過法についても、検層法を行う位置近傍で実施し、比較を行う。なお、孔口付近に設けた11はトリガー用加速度センサーであり、また前記各加速度センサーにはチャージアンプ12が接続されている。さらに、チャージアンプ12にはメモリレコーダ13が接続されている。
【0045】
上述のように、コンクリート表面にハンマー等で打撃を与えた場合、弾性波が発生しコンクリート内を伝播する。この速度を計測することで動弾性係数を次式により求めることができる。
Vp=√{(E/ρ)・f(ν)}
f(ν)=(1−ν)/{(1+ν)(1−2ν)}
但し、
Vp:動弾性係数
E:弾性係数
ρ:密度
ν:ポアソン比
である。なお、動弾性係数と弾性係数の関係を、予め健全なコンクリートのコアサンプルより把握しておく。
【0046】
このように、本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物を試験して弾性波伝播速度を取得し、その結果から直接にASRを発症したコンクリートの物性値(弾性係数)を求めるので、対象物そのものの物性値が求められる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度の良い物性値を決定することができる。また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに本実施例の測定結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0047】
但し、本実施例の方法は、大断面部材においては弾性波が透過しにくくなるので不適当である。
【実施例5】
【0048】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験を行って、その結果と振動解析とを対比することにより、対象構造物の部材レベルの物性値(弾性係数)を求め、更に実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。なお、具体的な手順については後述する。
【0049】
本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材の振動性状を把握し、振動解析と対比させることによって、対象とする部材レベルの物性値(弾性係数)そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、振動解析を介するため、境界条件のモデル化精度により物性値の精度も変化する。
【実施例6】
【0050】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定を行って、その結果と振動解析とを対比することにより、対象構造物の全体レベルの物性値(弾性係数)を求め、更に実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。なお、具体的な手順については後述する。
【0051】
本実施例によれば、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物全体の振動性状を常時微動測定で把握し、振動解析と対比させることによって、対象とする全体レベルの物性値(弾性係数)そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、振動解析を介するため、境界条件のモデル化精度により物性値の精度も変化する。
【0052】
また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに実施例5や実施例6の推定結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。
【0053】
図8は、上記実施例5及び実施例6における、対象構造物の物性値を求める手順を示すフローチャートである。なお、同図において、梁とは対象構造物の部材を例示したものであり、架台とは対象構造物全体をイメージしたものである。
【0054】
まず、ステップS5において、架台コンクリートの弾性係数の設定を行う。これは、設計に用いた値並びに、コアサンプル試験による推定値及び非破壊試験による推定値を用いて設定するものである。次に、シミュレーション解析のために、設定した弾性係数に基づき、ステップS10において、対象構造物についての初期モデルの設定を行う。
【0055】
続いて、実施例5では、ステップS15において、部材レベルに着目した評価としての周波数応答解析を行い、これにより梁の固有振動数及び梁の固有振動モードを求める。一方、振動試験として、ステップS20において、対象構造物の梁に振動を加える起振機試験を行い、これにより梁の固有振動数及び梁の固有振動モードを求める。
【0056】
また、実施例6では、ステップS15において、架台全体に着目した評価としての固有値解析を行い、これにより架台の固有振動数及び架台の固有振動モードを求める。一方、振動試験として、ステップS20において、対象構造物に加速度センサー等を取り付けて常時微動測定を行い、これにより架台の固有振動数及び架台の固有振動モードを求める。
【0057】
そして、ステップS25において、シミュレーション解析により求めた値と振動試験により求めた値が一致しているか否かを判定し、一致していればステップS30へと移行し、実弾性係数の推定値を求める。一致していなければステップS35へと移行し、弾性係数調整のため、対象構造物についての修正モデルの設定を行って、ステップS15に戻る。
【実施例7】
【0058】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部分のコアサンプルに対して、3軸圧縮試験を実施して、対象構造物の物性値を求め、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。
【0059】
図9は、このようなコアサンプルの概要を模式的に示す図である。同図(a)に示すように、例えば対象となる柱や梁等の鉄筋コンクリート構造物1から、ASRを発症したコンクリートのみの部分を円柱状に抜き取るいわゆるコア抜きを行い、抜き取った円柱状の部分をコアサンプル2とする。そして、同図(b)に示すように、円柱状のコアサンプル2の上下面に矢印Eで示すような1軸の圧縮力を加え、更に側面に矢印Fで示すような圧縮力を均等に加えて、結果として全面に等圧の圧縮力を加える試験を行う。
【0060】
図10は、このようなコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。同図はASRを発症したコンクリートから抜き取ったコアサンプルの物性を示している。これにより、直接にASRを発症したコンクリートの物性値を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0061】
本実施例によれば、対象構造物から抜き取ったコアサンプルを3軸圧縮試験することにより、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、鉄筋による拘束効果を模擬した試験を行うことができるので、得られた荷重−変位関係から対象とする部材の物性値そのものを求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、対象構造物の鉄筋による拘束状態をできるだけ模擬した試験を行う必要がある。
【実施例8】
【0062】
本実施例では、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のASRを発症した部材に対して、静的載荷試験を実施して、対象構造物の物性値を求め、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、物性値を決定する。
【0063】
図11は、このような鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験の様子を模式的に示す図である。同図に示すように、例えば対象構造物の梁状部分であるASRを発症した鉄筋コンクリート部材3の両端を支持して、矢印で示すように中央付近の2箇所に加重し、4点曲げ試験を行う。図12は、このような鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験結果の一例を模式的に示すグラフである。同図では横軸に歪み(ε)、縦軸に応力(σ)を取っている。
【0064】
同図はASRを発症した鉄筋コンクリート部材の、上記試験より求めた特性を示している。これにより、直接にASRを発症したコンクリートの物性値を求めて、実施例1や実施例2で求めた値と対比した上で、ASRを発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定する。
【0065】
本実施例によれば、対象構造物の部材を直接試験することにより、その部材の荷重−変位関係が得られるので、その結果から物性値を求めることができる。そして、実施例1や実施例2と組み合わせて、精度良く物性値を決定することができる。但し、対象構造物に損傷を与える恐れがあるので、部材の弾性範囲内(図12の実線部分)で試験を行う必要がある。
【0066】
また、具体的には例えば、上記図6と同様にして、上記図3のグラフに実施例7や実施例8の試験結果に基づく弾性係数比の値を加え、下限値から上限値までの帯域を狭めれば、精度を向上させることができる。ここでは弾性係数比のみならず、圧縮強度比及び圧縮歪み比についても同様の処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、鉄筋コンクリート以外のコンクリート構造物にも適用可能であり、またアルカリシリカ反応以外のアルカリ骨材反応を発症したコンクリートにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】鉄筋コンクリート部材に関する圧縮試験の概要を模式的に示す図。
【図2】鉄筋コンクリート部材のサンプルにおける荷重と変位の関係を示すグラフ。
【図3】鉄筋コンクリート部材におけるコンクリートの弾性係数比を示すグラフ。
【図4】孔内載荷試験による測定概念図。
【図5】孔径方向のコンクリートの変位の様子を示す断面図。
【図6】図3に実施例3の測定結果に基づく弾性係数比の値を加えた図。
【図7】衝撃弾性波法(検層法)による測定概念図。
【図8】対象構造物の物性値を求める手順を示すフローチャート。
【図9】実施例におけるコアサンプルの概要を模式的に示す図。
【図10】実施例におけるコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図11】鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験の様子を模式的に示す図。
【図12】鉄筋コンクリート部材の静的載荷試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図13】従来例におけるコアサンプルの概要を模式的に示す図。
【図14】従来例におけるコアサンプルの圧縮試験結果の一例を模式的に示すグラフ。
【図15】鉄筋コンクリート部材の耐荷重試験の様子を模式的に示す図。
【図16】鉄筋コンクリート部材の耐荷力に関する特性の一例を模式的に示すグラフ。
【図17】ケミカルプレストレス状態の鉄筋コンクリート部材を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0069】
1 鉄筋コンクリート構造物
2 コアサンプル
3 鉄筋コンクリート部材
4 部材サンプル
5 架台コンクリート
6 孔内載荷試験機
7 油圧装置
8 計測・制御部
9 加速度センサー
10 ハンマー
11 トリガー用加速度センサー
12 チャージアンプ
13 メモリレコーダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項2】
アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項3】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項4】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項5】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、更に請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項6】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材を含む前記鉄筋コンクリート構造物全体の物性値を求め、更に請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項7】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの3軸圧縮試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項8】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材に対する静的載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項1】
鉄筋コンクリート部材の圧縮試験データから、健全な鉄筋コンクリート部材に対するアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の健全部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項2】
アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材及びそのコアサンプルの圧縮試験結果から、前記コアサンプルに対する前記鉄筋コンクリート部材の物性比を求め、求めたその物性比に、構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの物性値を乗じて、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項3】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の孔内載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項4】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験データから、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項5】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の部材加振試験結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、更に請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項6】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物の常時微動測定結果と振動解析とを対比することにより、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材を含む前記鉄筋コンクリート構造物全体の物性値を求め、更に請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項7】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した部分から取り出したコアサンプルの3軸圧縮試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【請求項8】
構造解析の対象となる鉄筋コンクリート構造物のアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材に対する静的載荷試験結果から、アルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を求め、請求項1又は請求項2の方法により求めた物性値と対比した上で、前記鉄筋コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応を発症した鉄筋コンクリート部材の物性値を決定することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の物性値決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−170649(P2006−170649A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359767(P2004−359767)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]